(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】十和田石粉体を蒸留水に懸濁した後の懸濁液中の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図2】篩処理をした後の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図3】篩処理後、1回目の微粒化処理後の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図4】2回目の微粒化処理後の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図5】3回目の微粒化処理後の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図6】4回目の微粒化処理後の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図7】5回目の微粒化処理後の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図8】篩工程、微粒化工程における十和田石粉体の平均粒子径、メジアン径、標準偏差を表す図である。
【
図9】微粒化処理の各工程における懸濁液のpHを表す図である。
【
図10】微粒化処理の各工程における懸濁液の粘度を表す図である(温度27.5℃の条件下で測定)。
【
図11】微粒化処理の各工程における十和田石粉体の種子へのコーティング量を表す図である。
【
図12】(a)オーバーフロー式沈殿槽の第二槽の十和田石粉体懸濁液(26wt%)の微粒化処理の各工程における十和田石粉体の平均粒子径、メジアン径を表す図、(b)オーバーフロー式沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液(20wt%)の微粒化処理の各工程における十和田石粉体の平均粒子径、メジアン径を表す図である。
【
図13】(a)オーバーフロー式沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液の、微粒化処理前の十和田石粉体の粒度分布を表す図、(b)同じく篩工程後の十和田石粉体の粒度分布を表す図、(c)同じく4段階(4pass)の微粒化工程後の十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【
図14】オーバーフロー式沈殿槽の第三槽の十和田石懸濁液(20wt%)の微粒化処理の各工程におけるキュウリ(Cucumis sativus)種子への十和田石粉体のコーティング量を表す図である。
【
図15】十和田石懸濁液を用いたキュウリ(Cucumis sativus)種子へのコーティングの状態を表す写真であって、(a)粉末状の十和田石(DMパウダー)(20wt%)を使用した状態、(b)オーバーフロー式沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液(20wt%、4段階の粉砕処理後)を使用した状態、(c)コントロールとして水を使用した場合の写真である。
【
図16】ゼオライト、ベントナイトそれぞれの粉体懸濁液を用いたキュウリ(Cucumis sativus)種子への無機鉱物粉体のコーティング量を表す図である。
【
図17】
図16図示の無機鉱物粉体懸濁液(20wt%)を用いたキュウリ(Cucumis sativus)種子へのコーティングの状態を表す写真であって、(a)粒径800μm以下のゼオライトを使用した状態、(b)粒径100μm以下のゼオライトを使用した状態、(c)粒径300μm〜500μmのベントナイトを使用した状態、(d)平均粒径70μmのベントナイトを使用した状態、(e)コントロールとして水を使用した状態の写真である。
【
図18】大豆(Glycine max)(枝豆)種子への十和田石粉体のコーティング量を表す図である。
【
図19】十和田石粉体懸濁液を用いた大豆(Glycine max)(枝豆)種子へのコーティング状態を表す写真であって、(a)粉末状の十和田石(DMパウダー)(20wt%)を使用した状態、(b)オーバーフロー式沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液(20wt%、4段階の粉砕処理後)を使用した状態、(c)コントロールとして水を使用した場合の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明は、種子用コーティング材料及びこのコーティング材料でコーティングされてなるコーティング種子である。
【0019】
1.種子用コーティング材料
この発明の種子用コーティング材料は、微粒化処理が施されてなる無機鉱物粉体を含有する種子用コーティング材料である。無機鉱物には、ケイ酸塩二次鉱物を主成分とする天然鉱石やその他の天然鉱石等が含まれる。この実施形態では、秋田県大館市比内町で採掘される緑色凝灰岩(正式名称「石英安山岩質浮石質凝灰岩」)で、「十和田石」という名称で知られている天然鉱石を使用した(以下「十和田石」という)。
【0020】
また、下記の実験例で説明する硬度の異なる無機鉱物も使用した。
【0021】
十和田石は鉱物組成として、石英や曹長石や緑泥石などを含む複合鉱石でありミネラルを多く含む特徴を持つ。また、十和田石は多孔質であることから物質の吸着・放出などの働きを有し、農業肥料としても利用されている。十和田石の主な組成を表1に示す。
【表1】
【0022】
微粒化処理には、機械もしくは手動による篩処理方式、微粒化装置等を用いる湿式もしくは乾式による粉砕処理方式、沈殿槽の上清を使用する自然濾過等の処理方式、媒体(メディア)を利用し、機械的な力で押しつぶす処理方式(ボールミル、ビーズミル等)、媒体(メディア)を利用し、摩砕力を利用する処理方式(石臼式摩砕機等)、機械的に衝撃を加える処理方式(ハンマー式粉砕機等)、高速撹拌のせん断力を利用する処理方式(撹拌機、ミキサー等)、又は高圧に加圧し隙間を抜ける際のせん断力を利用する処理方式(高圧ホモジナイザー等)等を使用することができる。
【0023】
この実施形態では湿式による粉砕処理方式及び篩処理方式を併用して十和田石に微粒化処理を施し、種子用コーティング材料を調製した。微粒化処理の具体的な処理工程は以下の工程を含むものである。
【0024】
(1)懸濁工程
無機鉱物粉体を液体に懸濁させ、無機鉱物粉体の懸濁液(以下「処理前懸濁液」という)を得る工程である。
【0025】
この実施形態では、粉末状の十和田石(製品名:DMパウダー、十和田グリーンタフ・アグロサイエンス株式会社製)を蒸留水に30wt%となるように懸濁させ、十和田石粉体の処理前懸濁液を得た。
【0026】
(2)篩工程
前記処理前懸濁液を篩処理し、篩処理後の懸濁液を得る工程である。前記十和田石粉体の処理前懸濁液を篩処理し、十和田石粉体の篩処理後の懸濁液を得た。
【0027】
(3)微粒化工程
前記篩処理後の懸濁液に微粒化処理を施し、微粒化処理後の懸濁液を得る工程である。
【0028】
この実施形態では、湿式微粒化装置を用いて、高圧条件、好ましくは160MPa以上の条件下で、前記十和田石粉体の篩処理後の懸濁液中の十和田石粉体に微粒化処理を施し、十和田石粉体の微粒化処理後の懸濁液を得た。この微粒化工程は5回行った。
【0029】
上記(1)乃至(3)の各工程における十和田石粉体懸濁液について以下のパラメータを測定した。
【0030】
(粒度分布)
図1乃至
図7は、上記(1)乃至(3)各工程における十和田石粉体の粒度分布を表す図である。
【0031】
前記処理前懸濁液の十和田石粉体の粒度分布においては、分布のピークが3ヵ所確認された(
図1)。
【0032】
上記(2)の篩処理後及び上記(3)の微粒化処理後の懸濁液中の十和田石粉体の粒度分布においては、分布のピークが2ヶ所に減少していることが確認された(
図2〜
図7)。
【0033】
特に、前記微粒化工程における1回目の微粒化処理により、粒度分布において
図1で確認された3ヵ所の分布のピークのうち、100 μm付近の分布のピークが消え、0.39μm付近の分布のピークと11.6 μm付近の分布のピークのみとなった(
図3)。
【0034】
そして上記(3)の微粒化処理回数の増加に伴い、11.6μm付近の分布のピークから0.39μm 付近(0.25μm〜1.10μm)の分布のピークへと粒子の大きさが徐々にシフトすることが確認された(
図4〜
図7)。
【0035】
また、上記(3)の微粒化処理回数の増加に伴い、十和田石粉体の平均粒子径、メジアン径が小さくなると共に、粒子径の標準偏差も小さくなり、前記平均粒子径が3.0μm〜9.0μmの間で均一化される傾向が確認された(
図8)。
【0036】
この実施形態では、前記十和田石粉体の平均粒子径が3.0μm〜9.0μmの間で均一化される傾向となっているが、使用する無機鉱物粉体、微粒化処理方式等によって前記平均粒子径の範囲を調整することができる。
【0037】
(pH)
図9は、上記(1)乃至(3)各工程における十和田石粉体懸濁液のpHを表す図である。
【0038】
前記処理前懸濁液と比べ、前記篩処理後の懸濁液ではpHが約0.2 上昇した。そして前記微粒化処理後の懸濁液のpHは8.4〜8.5 付近の値となった。したがって、農業用途に用いるのに好ましいとされる微生物の好適塩基状態である、弱アルカリ性を有する前記微粒化処理後の十和田石粉体を含む懸濁液は種子用コーティング材料に適していることが示唆された。
【0039】
(粘度)
図10は、上記(1)乃至(3)各工程における十和田石粉体懸濁液の粘度を表す図である。温度27.5℃の条件下で懸濁液の粘度を測定した。
【0040】
前記処理前懸濁液と比較し、前記篩処理後の懸濁液では粘度が約3.9 mPa・S 上昇した。続いて、1回目の微粒化処理で一旦粘度が下がったが、その後は微粒化処理の回数の増加に伴い粘度は緩やかに上昇し、5.0mP・S〜6.5mP・Sの粘度が維持された。
【0041】
したがって、種子コーティングに適した所定の粘度を有する前記微粒化処理後の十和田石粉末を含む懸濁液は種子用コーティング材料に適していることが示唆された。
【0042】
また、十和田石以外の微粒化処理された無機鉱物粉体を含む懸濁液も、種子用コーティング材料に適した粘度を有することが示唆される。
【0043】
2.コーティング種子
この発明のコーティング種子は、微粒化処理が施されてなる無機鉱物粉体を主成分とする種子用コーティング材料で被覆されてなるコーティング種子である。
【0044】
本実施形態では、コーティングする種子としてキュウリ(Cucumis sativus)種子を用いた。前記キュウリ(Cucumis sativus)種子に上記(1)乃至(3)各工程における十和田石粉体懸濁液の適量を滴下した。
【0045】
その後乾燥処理を行い、十和田石粉体に覆われたキュウリ(Cucumis sativus)のコーティング種子を得た。このコーティング種子における十和田石粉体のコーティング量を以下の手順で測定した。
【0046】
前記キュウリ(Cucumis sativus)種子10粒の重量を測定した後(平均重量270.4mg、標準偏差9.9 mg)、当該キュウリ(Cucumis sativus)種子に上記(1)乃至(3)各工程における十和田石粉体懸濁液を200μL/粒ずつ滴下した。
【0047】
その後室温にて約20時間の自然乾燥処理を行った後、十和田石粉体に覆われたキュウリ(Cucumis sativus)種子の重量を測定し、前記キュウリ(Cucumis sativus)種子の重量との差を十和田石粉体のコーティング量とした。その結果を
図11に表す。
【0048】
前記処理前懸濁液と比較し、前記篩処理後の懸濁液では若干コーティング量が増加した。そして微粒化処理回数の増加に伴い、キュウリ(Cucumis sativus)種子へのコーティング量の増加が確認された。特に、5回目(5pass)の微粒化処理後の懸濁液では、前記処理前懸濁液と比較し、コーティング量が4倍程増加したことが確認できた。
【0049】
これらの結果から、十和田石粉体の平均粒子径が3.0μm〜9.0μmの範囲、粒度分布のモード値(最頻値)が0.39μm付近(0.25μm〜1.10μm)に収束するように微粒化処理された十和田石粉体懸濁液が種子用コーティング材料に適していることが確認された。
【0050】
特に、懸濁液中の十和田石粉体を微粒化処理する工程を経るだけで、弱アルカリ性、種子コーティングに適した粘度を有する種子用コーティング材料を調製できることが確認された。
【0051】
また、このような種子用コーティング材料に被覆されてなるコーティング種子の、コーティング材料中の十和田石粉体のコーティング量を15%〜30%程維持できることが確認された。
【0052】
したがって、従来のように展着剤や有機保護剤、あるいは減圧処理等を必要としない簡易な処理工程で、種子用コーティング材料及び適量のコーティングが施され、物理的損傷が少なく、生育が阻害されにくいコーティング種子を提供することができる。
【0053】
なお、この実施形態では、5回目の微粒化処理後の懸濁液でキュウリ(Cucumis sativus)種子をコーティングすると、十和田石のコーティング率が最大の29%となったが、コーティング率はキュウリ(Cucumis sativus)種子に滴下する懸濁液の量に依存すると予想される。参考のため、上記(1)乃至(3)各工程における懸濁液2mL中に含まれる十和田石粉体量を表2に示した。
【表2】
【0054】
この参考例では、処理前懸濁液と比較し、篩処理後の懸濁液では十和田石粉体量が約20% 増加した。続いて、1回目の微粒化処理後の十和田石粉体量は一旦減少したが、その後は微粒化処理の回数の増加に伴い、概ね一定量の十和田石粉体が維持された。
【0055】
このことから、懸濁液中の十和田石粉体量が一定であれば、十和田石粉体の平均粒子径を4.5μm以下で均一化させるように微粒化処理を行った十和田石粉体懸濁液が種子用コーティング材料に適していることが示唆された。
【0056】
(実験例1)
複数槽からなるオーバーフロー式の沈殿槽において、第二槽、第三槽に濾過されている十和田石粉体懸濁液について種子用コーティング材料への適用を検討する実験を行った。
【0057】
(1)沈殿槽の第二槽、第三槽の十和田石粉体懸濁液の濃度測定
沈殿槽の第二槽、第三槽に濾過されている十和田石粉体懸濁液をそれぞれ1mLガラスシャーレに分注し、重量を測定した。
【0058】
重量を測定後、それぞれの懸濁液について自然乾燥処理(14h)、熱処理(120℃、2h)を施して乾燥させた後、再び重量を測定し、懸濁液の濃度を算出した(n=4)。第二槽の十和田石粉体懸濁液の濃度は26wt%、第三槽の十和田石粉体懸濁液濃度は20 wt%であった。
【0059】
(2)沈殿槽の第二槽、第三槽の十和田石粉体懸濁液の粒度分布
沈殿槽の第二槽、第三槽に濾過されている状態の十和田石粉体懸濁液を前記処理前懸濁液とし、当該処理前懸濁液に、上述した篩工程に係る篩処理、微粒化工程に係る微粒化処理を施し、篩処理後の懸濁液、微粒化処理後の懸濁液を得た。これら各処理後の懸濁液の十和田石粉体の粒度分布を測定した。その結果を
図12に示す。
【0060】
沈殿槽の第二槽の十和田石粉体懸濁液については、微粒化処理回数の増加に伴い十和田粉体の平均粒子径、メジアン径が小さくなると共に粒子径の標準偏差も小さくなり、平均粒子径が2.0μm付近で均一化される傾向が確認された(
図12(a))。
【0061】
沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液についても、微粒化処理回数の増加に伴い十和田石粉体の平均粒子径、メジアン径が小さくなると共に粒子径の標準偏差も小さくなり、平均粒子径が1.0μm付近で均一化される傾向が確認された(
図12(b))。
【0062】
また、沈殿槽第三槽の十和田石粉体懸濁液の粒度分布では、ほぼ0.39μm付近(0.25μm〜1.10μm)のピークのみが出現し、微粒化処理を行うことにより、0.39μm付近のピークが顕著となった(
図13)。
【0063】
(3)コーティング種子
この実験例では、コーティングする種子としてキュウリ(Cucumis sativus)種子(製品名:なるなるきゅうり ナント種苗株式会社)を用いた。前記キュウリ(Cucumis sativus)種子に、微粒化処理の各工程における沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液を適量滴下した。その後乾燥処理を行い、十和田石粉体に覆われたキュウリ(Cucumis sativus)のコーティング種子を得た。このコーティング種子における十和田石粉体のコーティング量を以下の手順で測定した。
【0064】
前記キュウリ(Cucumis sativus)種子10粒の重量を測定した後(平均重量259.1mg、標準偏差10.8mg)、当該キュウリ(Cucumis sativus)種子に、微粒化処理の各工程における沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液(20wt%)を200μL/粒ずつ滴下した。
【0065】
その後室温にて約2日間の自然乾燥処理を行った後、十和田石粉体に覆われたキュウリ(Cucumis sativus)種子の重量を測定し、前記キュウリ(Cucumis sativus)種子の重量との差を十和田石粉体のコーティング量とした。試験は各試験区3連で実施した。その結果を
図14に表す。
【0066】
処理前懸濁液、篩処理後の懸濁液、微粒化処理(1〜4pass)後の懸濁液のいずれにおいても高いコーティング量を示した。
【0067】
処理前懸濁液で高いコーティング量を示したのは、オーバーフロー式の沈殿槽において、第三槽に濾過されている状態の十和田石粉体懸濁液中の十和田石粉体が、上述した篩工程に係る篩処理、微粒化工程に係る微粒化処理を行う以前に既に均一化されており(
図12(b))、その粒度分布も0.25μm〜1.10μmの範囲に収束していることに起因している(
図13(a))ことが考えられる。
【0068】
また、上記で説明した前記粉末状の十和田石(DMパウダー)を原料とし、160Mpaの条件下で微粒化処理(5pass)を行った懸濁液を20wt%に再調整した前記十和田石(DMパウダー)粉体懸濁液と比較しても、沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液のコーティング量が明らかに高いことが確認された(
図14)。
【0069】
参考として、前記キュウリ(Cucumis sativus)種子に、上記で説明した微粒化処理を4段階施した前記沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液(20wt%)でコーティングし、得られたキュウリ(Cucumis sativus)のコーティング種子を
図15に示す。
【0070】
前記十和田石(DMパウダー)粉体懸濁液(20wt%)でキュウリ(Cucumis sativus)種子をコーティングしたもの(
図15(a))と比較して、十分にコーティングされていることが確認された(
図15(b))。
【0071】
これらの結果から、十和田石粉体の平均粒子径が0.9μm〜2.6μm付近、粒度分布のモード値(最頻値)が0.39μm付近(0.25μm〜1.10μm)に収束するように微粒化処理された十和田石粉体懸濁液が種子用コーティング材料に適していることが確認された。
【0072】
特に、十和田石粉体を自然濾過させる工程を経るだけでも種子用コーティング材料を調製できることが確認された。
【0073】
したがって、従来のように展着剤や有機保護剤、あるいは減圧処理等を必要としない簡易な処理工程で種子用コーティング材料及び適量のコーティングが施され、物理的損傷が少なく、生育が阻害されにくいコーティング種子を提供することができる。
【0074】
(実験例2)
農業資材として利用されている天然鉱物で、硬度が異なる無機鉱物について種子用コーティング材料への適用を検討する実験を行った。
【0075】
(1)十和田石以外の天然鉱物を用いた種子コーティング試験
ゼオライト(モース硬度5)、ベントナイト(モース硬度1〜2)それぞれについて、上記で説明した微粒化処理を2段階施した無機鉱物粉体を用いて、種子コーティング試験を実施した。
【0076】
なお、十和田石はビッカーズ硬度710であり、モース硬度に換算すると6〜7である。
【0077】
この実験例では、コーティングする種子としてキュウリ(Cucumis sativus)種子(製品名:霜知らず地這 株式会社トーホク)を用いた。前記キュウリ(Cucumis sativus)種子に、上記で説明した微粒化処理を2段階施した無機鉱物粉体懸濁液を適量滴下した。
【0078】
その後乾燥処理を行い、前記無機鉱物粉体に覆われたキュウリ(Cucumis sativus)のコーティング種子を得た。このコーティング種子における前記無機鉱物粉体のコーティング量を以下の手順で測定した。
【0079】
前記キュウリ(Cucumis sativus)種子10粒の重量を測定した後(平均重量260.4mg、標準偏差10.0mg)、当該キュウリ(Cucumis sativus)種子に、上記で説明した微粒化処理を2段階施した下記の無機鉱物粉体懸濁液をそれぞれ200μL/粒ずつ滴下した。
【0080】
・粒径800μm以下のゼオライト粉体懸濁液(20wt%)
・粒径100μm以下のゼオライト粉体懸濁液(20wt%)
・粒径300〜500μmのベントナイト粉体懸濁液(20wt%)
・平均粒径70μmのベントナイト粉体懸濁液(20wt%)
その後、室温にて約19時間の自然乾燥処理を行った後、それぞれの無機鉱物粉体に覆われたキュウリ(Cucumis sativus)種子の重量を測定し、前記キュウリ(Cucumis sativus)種子の重量との差を無機鉱物粉体のコーティング量とした。試験は各試験区4連で実施した。その結果を
図16に表す。
【0081】
図16に示すように、ゼオライト、ベントナイトいずれにおいても、粒子径の小さい方が、種子コーティング量が高くなることが確認された。
【0082】
また、
図17に示すように、ゼオライト、ベントナイトいずれにおいても十分に種子コーティングされていることが確認された。
【0083】
この結果から、平均粒子径70μm〜100μmの無機鉱物粉体懸濁液も種子用コーティング材料に適していることが確認された。
【0084】
(2)大豆(Glycine max)(枝豆)種子を用いた種子コーティング試験
この実験例では、コーティングする種子として大豆(Glycine max)(枝豆)種子(製品名:早生枝豆 株式会社トーホク)を用いた。前記大豆(Glycine max)(枝豆)種子に、微粒化処理の各工程における沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液を適量滴下した。
【0085】
その後乾燥処理を行い、前記十和田石粉体に覆われた大豆(Glycine max)(枝豆)のコーティング種子を得た。このコーティング種子における十和田石粉体のコーティング量を以下の手順で測定した。
【0086】
前記大豆(Glycine max)(枝豆)種子10粒の重量を測定した後(平均重量4129.2mg、標準偏差258.5mg)、当該大豆(Glycine max)(枝豆)種子に、微粒化処理の各工程における前記沈殿槽の第三槽の十和田石粉体懸濁液(20wt%)を、プラスティックシャーレ上で400μL/粒ずつ滴下した。なお、前記微粒化処理の各工程のうち、微粒化工程については4段階(4pass)施した。
【0087】
また、コントロールとして、前記大豆(Glycine max)(枝豆)種子に、前記DMパウダーの懸濁液(20wt%)を、プラスティックシャーレ上で400μL/粒ずつ滴下した。
【0088】
プラスティックシャーレを傾けて大豆種子全体に懸濁液が付着したことを確認した後、室温にて約18時間の自然乾燥処理を行った後、十和田石粉体に覆われた大豆(Glycine max)(枝豆)種子の重量を測定し、前記大豆(Glycine max)(枝豆)種子の重量との差を十和田石粉体のコーティング量とした。試験は各試験区3連で実施した。その結果を
図18に示す。
【0089】
図18に示されるように、十和田石粉体に上記で説明した微粒化処理を施すことにより、前記DMパウダーの懸濁液に比べて、種子へのコーティング量が6.8倍程度増加していることが確認できた。
【0090】
これらの結果から、十和田石以外の無機鉱物でも種子用コーティング材料への適用が可能であることが確認された。特に、モース硬度1〜7を有する無機鉱物粉体であれば、種子用コーティング材料への適用が可能であることが示唆された。
【0091】
また、懸濁液中のこれらの無機鉱物粉体を微粒化処理する工程を経るだけで種子用コーティング材料を調製できることが確認された。
【0092】
さらに、このような種子用コーティング材料に被覆されてなるコーティング種子の、コーティング材料中の無機鉱物のコーティング量が、コーティングに十分な量維持されていることが確認できた。
【0093】
したがって、従来のように展着剤や有機保護剤、あるいは減圧処理等を必要としない簡易な処理工程で種子用コーティング材料及び適量のコーティングが施され、物理的損傷が少なく、生育が阻害されにくいコーティング種子を提供することができる。
【0094】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。