(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355688
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】虚血性疾患の治療におけるスタチンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/366 20060101AFI20180702BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20180702BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20180702BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20180702BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20180702BHJP
A61K 31/4418 20060101ALI20180702BHJP
A61K 31/4015 20060101ALI20180702BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20180702BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20180702BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
A61K31/366ZMD
A61K31/22
A61K31/40
A61K31/404
A61K31/47
A61K31/4418
A61K31/4015
A61K31/505
A61P9/10
A61P3/10
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-170537(P2016-170537)
(22)【出願日】2016年9月1日
(65)【公開番号】特開2018-35100(P2018-35100A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2016年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】515138687
【氏名又は名称】ペキン ユニバーシティ サード ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY THIRD HOSPITAL
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】ソン チュンリ
(72)【発明者】
【氏名】シュウ イーンシェン
(72)【発明者】
【氏名】タン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】グオ チー
(72)【発明者】
【氏名】リウ カン
【審査官】
金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特表2016−500083(JP,A)
【文献】
特開2012−021002(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103169972(CN,A)
【文献】
特表2013−525301(JP,A)
【文献】
国際公開第01/93806(WO,A2)
【文献】
Chin J Ophthalmol,2012年,48(11),1015-1020
【文献】
Am J Med Sci,2012年,344(3),220-226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタチン化合物又はその医薬的に許容される塩を含有する、ヒトを含む哺乳動物の虚血性疾患、微小循環障害、虚血性障害又は虚血状態の治療剤であって、骨内に単回局所投与される治療剤。
【請求項2】
前記スタチン化合物が、シンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、ベルバスタチン、セリバスタチン、クリルバスタチン、ダルバスタチン、メバスタチン及びテニバスタチンからなる群より選択され、好ましくはシンバスタチンである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
前記薬剤が、薬理学的有効量のスタチン化合物又はその医薬的に許容される塩と、医薬的に許容される助剤とを含む、請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項4】
前記医薬的に許容される塩が、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、メシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項6】
前記虚血性疾患が末梢虚血性疾患、好ましくは糖尿病性虚血肢である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項7】
前記虚血性疾患が虚血性脳心血管疾患である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項8】
前記投与の間隔が7日〜600日に1回、好ましくは10〜500日に1回、より好ましくは20〜400日に1回、最も好ましくは30〜300日に1回である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項9】
スタチン化合物の前記単回用量が、0.1mg〜50mg、好ましくは0.5mg〜10mgである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項10】
前記投与が、骨髄腔を有する骨内への投与である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬バイオテクノロジー分野、より具体的には、虚血性疾患の治療におけるHMG−CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳心血管疾患はヒトの健康を大きく損なう疾患であり、その罹患率及び障害発生率は非常に高い。この問題は人口の高齢化及び発症年齢の低下に伴い深刻さを増す一方である。現在行われている脳/心虚血の主な治療には、薬物治療、血管形成術及び動脈バイパス移植術等がある。最新のRCT研究では、有効成分による治療が経皮的血管形成術による治療と同等以上の成果を上げることが示されている(非特許文献1)。この結果から、本発明者らは介入治療を再考し、血行再建術の可能性を模索するに至った。
【0003】
末梢動脈疾患(PAD)は、心臓以外の血管床にアテローム性閉塞が生じることによって起こる。今やPADは全体の罹患率が冠動脈疾患(CAD)にほぼ匹敵する重大な公衆衛生問題であることが知られている。PADの罹患率は加齢と共に増加し、50〜60歳で6%、70歳を超えると10〜20%になる。医療及び血行再建術の進歩にも拘わらず、重症虚血肢の患者が大切断(膝下又は膝上)及び心血管死に至るリスクは依然として高い。重症虚血肢治療の目指すゴールは、血管形成術又はバイパス術により四肢末梢血管への血流を確保することにある。しかし重症虚血肢の患者の多くは血行再建術に適応せず、長期的に見た再閉塞率は高く、また閉塞が広範囲に及ぶ患者の流出路を全て手術することはできない。
【0004】
骨髄由来の血管内皮前駆細胞(EPC)は血管新生及び内皮の恒常性維持に重要な役割を果たす。外因性血管増殖因子及び骨髄由来EPCを用いた「ドラッグ・バイパス」としても知られる治療的血管新生によって、虚血組織の血管新生が促進される(非特許文献2)。しかし、血中循環EPC数が少ない場合や、加齢、糖尿病、高脂血症及び血中循環EPC数を一層低下させる他の疾患がある場合には治療的血管新生に限界がある(非特許文献3、非特許文献4)。内因性EPCの動員を促すことにより末梢血のEPC数を増加させることは重要な治療戦略である(非特許文献5)。
【0005】
従来、骨格は、カルシウム及びリンを貯蔵する役割を果たし内臓器官を保護する不活性な器官であると見なされてきた。最近の研究から、骨は重要な内分泌器官であることが判明しており、これは統合生理学のパラダイムと見なされているが、骨は標的器官として作用するのみならず、体組織の機能を調節する重要な器官としても作用し(非特許文献6、非特許文献7)、また、骨・血管連関により末梢血管を調節することもできる(非特許文献8)。骨は骨芽細胞、破骨細胞及び骨細胞を含むのみならず、内皮細胞、マクロファージ、神経線維及び脂肪組織も豊富に含み、多くの造血幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞を更に豊富に含む。造血幹細胞ニッチには骨芽細胞性ニッチ及び内皮性ニッチの2種類があり、これらは造血幹細胞の増殖、動員及び分化を協調的に制御している(非特許文献9、非特許文献10)。
【0006】
近年、スタチンの多面的作用への関心は高まる一方である。しかし、スタチンを肝臓におけるコレステロール合成の律速酵素として経口投与しても体循環に到達するのは5%未満であり、骨内に至っては更に少ない。本発明者らは、スタチンを骨内に注射することにより、インスリン分泌を促すと共にインスリン感受性を高め、骨量を増加させ、骨密度を改善すると共に骨組織の微細構造を改善し、骨の機械的性質を向上させることができることを見出した(特許文献1、特許文献2)。
【0007】
しかしながら、スタチンを骨内に適用することにより内因性の内皮前駆細胞が動員され、末梢血管新生が促進されることは過去に報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許出願公開第103169972A号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第103127505A号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lampropoulos CE, Papaioannou I, D'Cruz DP, Osteoporosis--a risk factor for cardiovascular disease?, Nature reviews Rheumatology, 2012;8:587-98(ランプロプロース・シーイー、パパイオアンヌー・アイ、ドゥクルーズ・ディーピー、骨粗鬆症は循環器疾患の危険因子か、ネイテャー・レビューズ・リューマトロジー、2012年、第8巻、pp.587−98)
【非特許文献2】Annex BH, Therapeutic angiogenesis for critical limb ischaemia, Nature Reviews Cardiology, 2013; 10:387-396(アネックス・ビーエイチ、重傷虚血肢の治療的血管新生、ネイテャー・レビューズ・カーディオロジー、2013年、第10巻、pp.387−396)
【非特許文献3】Yao L, et al. Bone marrow endothelial progenitors augment atherosclerotic plaque regression in a mouse model of plasma lipid lowering, Stem Cells. 2012;30:2720-2731(ヤオ・エルら、骨髄由来内皮前駆細胞は血漿中脂質を低下させたモデルマウスのアテローム性プラークの退縮を促進する、ステム・セルズ、2012年、第30巻、pp.2720−2731)
【非特許文献4】Adler BJ, et al. Obesity-driven disruption of haematopoiesis and the bone marrow niche, Nature Reviews Endocrinology, 2014;10:737-748(アルダー・ビージェーら、肥満により誘発される造血ニッチ及び骨髄ニッチの破壊、ネイテャー・レビューズ・エンドクリノロジー、2014年、第10巻、pp.737−748)
【非特許文献5】Liu Y, et al. Beneficial effects of statins on endothelial progenitor cells, Am J Med Sci. 2012; 344:220-226(リュー・ワイら、スタチンが内皮前駆細胞に与える有益な影響、ジ・アメリカン・ジャーナル・オブ・ザ・メディカル・サイエンシーズ、2012年、第344巻、pp.220−226)
【非特許文献6】Karsenty G, Ferron M, The contribution of bone to whole-organism physiology, Nature, 2012;481:314-320(カーセンティ・ジー、フェロン・エム、骨の各器官の生理機能への寄与、ネイチャー、2012年、第481巻、pp.314−320)
【非特許文献7】Karsenty G, Oury F, Biology without walls: the novel endocrinology of bone, Annu Rev Physiol. 2012; 74:87-105(カーセンティ・ジー、オーリー・エフ、境界のない生物学:骨の新しい内分泌学、アンニュアル・レビュー・オブ・フィシオロジー、2012年、第74巻、pp.87−105)
【非特許文献8】Thompson B, Towler DA, Arterial calcification and bone physiology: role of the bone-vascular axis, Nature Reviews Endocrinology. 2012;8:529-543(トンプソン・ビー、タウラー・ディーエー、動脈の石灰化及び骨の生理学:骨・血管連関の役割、ネイテャー・レビューズ・エンドクリノロジー、2012年、第8巻、pp.529−543)
【非特許文献9】Bianco P, Bone and the hematopoietic niche: a tale of two stem cells, Blood. 2011;117:5281-5288(ビアンコ・ピー、骨及び造血ニッチ:2種類の幹細胞についての解説、ブラッド、2011年、第117巻、pp.5281−5288)
【非特許文献10】Morrison SJ, Scadden DT, The bone marrow niche for haematopoietic stem cells, Nature, 2014;505:327-334(モリソン・エスジェー、スカデン・ディーティー、造血幹細胞の骨髄ニッチ、ネイチャー、2014年、第505巻、pp.327−334)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
統合生理学が新たな発展を遂げ、「骨が内分泌器官である」ことが新たに発見されたことによって、局所的な骨を介して全身性疾患の治療を行える可能性が広がった。豊富に存在する骨梁空間及び骨髄腔はインターベンション/局所薬物送達に極めて有益な空間となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで本発明者らは、低用量のスタチンを単回で骨内に局所適用することにより、内因性の内皮前駆細胞を連続的に動員して全身の血管新生を有意に促進し、虚血性疾患を治療することが可能であることを見出した。
【0012】
本発明の一目的は、虚血性疾患を治療するために、骨に局所的に、好ましくは骨内に投与される薬剤としての、スタチン化合物の新規な使用を提供することにある。
【0013】
具体的には、本発明は、虚血性疾患を治療するために単回で骨内に投与される薬剤としての、スタチン化合物の新規な使用を提供する。
【0014】
具体的な一実施形態において、本発明は、虚血性疾患を治療するために骨に投与される薬剤としてのスタチン化合物の使用であって、虚血性疾患は、末梢虚血性疾患、好ましくは糖尿病性虚血肢である、使用を提供する。
【0015】
具体的な一実施形態において、本発明は、虚血性疾患を治療するために骨に投与される薬剤としてのスタチン化合物の使用であって、虚血性疾患が虚血性脳心血管疾患である、使用を提供する。
【0016】
具体的な一実施形態において、本発明は、虚血性疾患を治療するために骨に投与される薬剤としてのスタチン化合物の使用であって、骨に投与される薬剤が、薬理学的有効量のスタチン化合物又はその医薬的に許容される塩と、医薬的に許容される助剤とを含む、使用を提供する。
【0017】
本発明の一実施形態において、スタチン化合物としては、シンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、ベルバスタチン、セリバスタチン、クリルバスタチン、ダルバスタチン、メバスタチン又はテニバスタチンであるが、好ましくはシンバスタチンを含むが、これらに限定されない。
【0018】
本発明のスタチン化合物は医薬的に許容される塩であってもよく、スタチン化合物の塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、メシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の好ましい一実施形態において、スタチン化合物は、シンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン又はピタバスタチン及びこれらの医薬的に許容される塩、例えばこれらの塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、メシル酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選択され、好ましくは、シンバスタチン、アトルバスタチンカルシウム、アトルバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、プラバスタチンナトリウム、ロスバスタチンカルシウム及びピタバスタチンカルシウムからなる群より選択される。
【0020】
本発明はまた、虚血性疾患を治療するための骨内注射に適した医薬組成物であって、スタチン化合物又はその医薬的に許容される塩と、医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む、医薬組成物にも関する。
【0021】
本発明の一実施形態において、骨に投与されるスタチン化合物の薬剤(又は組成物)は、好ましくは骨に注射又は埋入することにより投与される。骨に投与されるスタチン化合物の薬剤は注射可能な剤形とすることができる。注射可能な剤形としては、注射可能な溶液、注射可能な懸濁液、注射可能なエマルション、注射可能なゲル、注射可能な固体の各形態、又はこれらの徐放性形態若しくは放出制御形態、又はこれらのインプラント形態が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書における注射可能な固体形態とは、注射用水、注射用生理食塩水、ブドウ糖注射液等の溶媒(使用する場合)と混合し、注射に適した形態にするものをいう。
【0022】
本発明の具体的な一実施形態においては、骨に投与されるスタチン化合物の薬剤(又は組成物)は、スタチン化合物又はその医薬的に許容される塩と、医薬的に許容される助剤とを含む。本発明において、医薬的に許容される助剤は水溶性溶媒、油状溶媒、分散剤、等張剤、防腐剤、可溶化剤及び安定化剤からなる群より選択される少なくとも1種であり、水溶性溶媒は、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液及びリン酸塩緩衝液(PBS)からなる群より選択することができる。油溶性溶媒は、オリーブ油、ヒマシ油、胡麻油、綿実油、トウモロコシ油等の植物油から選択することができる。分散剤は、tween20又はtween80、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース及びアルギン酸ナトリウムからなる群より選択することができる。等張剤は、塩化ナトリウム、グリセロール、ソルビンアルコール及びグルコースからなる群より選択することができる。可溶化剤は、サリチル酸ナトリウム、ポロキサマー及び酢酸ナトリウムからなる群より選択することができる。防腐剤は、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、安息香酸ナトリウム及びフェノールからなる群より選択することができる。安定化剤は、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン等のアルブミンから選択することができる。更に、前記医薬的に許容される助剤は、ポリ乳酸、ポリ−L−ラクチド−グリコリド、ポリアスパラギン酸等の生分解性材料から選択することもできる。当業者であれば、本発明のスタチン局所用薬剤(又は組成物)を公知の調製法により調製することができる。例えば、スタチン化合物又はその医薬的に許容される塩を、分散剤及び/又は等張剤及び/又は防腐剤及び/又は可溶化剤及び/又は安定化剤と共に水溶性溶媒又は油溶性溶媒に溶解、懸濁又は乳化させる(Remington: the science and practice of pharmacy, 21st edition, 2005, Lippincott Williams(レミントン、製薬の科学及び実践、第21版、2005年、リッピンコット・ウィリアムズ))(当該文献を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)。
【0023】
本発明は、医薬組成物の調製方法であって、治療有効量のスタチン化合物又はその医薬的に許容される塩を、医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤と混合する工程、例えば、治療有効量のスタチン化合物又はその医薬的に許容される塩を、前記医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤に溶解させるか又は懸濁させる工程を含む、方法を含む。
【0024】
本発明の実施形態において、スタチン薬剤を哺乳動物に骨内投与する投与間隔は、7日〜600日に1回、好ましくは10〜500日に1回、より好ましくは20〜400日に1回、最も好ましくは30〜300日に1回である。
【0025】
本発明のスタチン薬剤を哺乳動物に骨内投与する場合のスタチン化合物の単回用量は、0.1mg〜50mg、好ましくは0.5mg〜10mgである。臨床家であれば、本発明の指針の下、臨床効果の必要に応じて投与頻度及び投与量を調整又加減することができる。
【0026】
本発明の実施形態において、哺乳動物は好ましくはヒトである。
【発明の効果】
【0027】
実験から、本発明に記載するスタチン組成物の骨内への単回局所投与が、内因性の内皮前駆細胞の動員を有意に促進し、糖尿病ラットの後肢虚血及び皮膚欠損モデルの血管新生に寄与し、アポE欠損(ApoE
−/−)マウスのアテローム性動脈硬化症を低減することが分かる。糖尿病及び高脂血症においてEPCの動員が深刻なほど低下していることを考慮すると、スタチン又はその組成物の骨内への単回局所投与は、血管新生、ひいては虚血治療に高い効果を発揮したと考えることができ、このことは、中大脳動脈閉塞(MCAo)により誘発した脳虚血モデルにおいて確認された。スタチン又はその組成物は、虚血性疾患を治療し、微小循環を改善する治療的血管新生作用を示す。
【0028】
図面を参照しつつ本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】低用量のシンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより1型糖尿病ラットの内因性EPC動員が長期に亘って促進されることを示すものである。
【
図2】低用量のシンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより後肢虚血1型糖尿病ラットの内因性EPC動員が促進されることを示すものである。
【
図3】高用量のシンバスタチンの経口投与が後肢虚血1型糖尿病ラットの内因性EPC動員に与える効果を示すものである。
【
図4】低用量のシンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより1型糖尿病ラットの微小循環が改善されることを示すものである。
【
図5】低用量のシンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより1型糖尿病ラットの膵臓部位周辺の血管新生が改善されることを示すものである。
【
図6】低用量のシンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより1型糖尿病ラットの全身の血管新生が改善されることを示すものである。
【
図7-1】低用量のシンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより後肢虚血1型糖尿病ラットの血管新生が改善されることを示すものである。
【
図7-2】低用量のシンバスタチンを骨内に局所注射することにより1型糖尿病ラットの後肢虚血における血流量の回復が促進されることを示すものである。
【
図8-1】シンバスタチン(20mg/kg/d)を3週間経口投与しても1型糖尿病ラットの後肢虚血における血流量が有意に回復しなかったことを超音波ドップラー血流計により示したものである。
【
図8-2】高用量のシンバスタチンを経口投与しても1型糖尿病ラットの後肢虚血における血流量の回復が促進されなかったことを示すものである。
【
図9】低用量のシンバスタチンを骨内に局所注射することにより血管新生が有意に増加したことを示す血管造影結果である(A)。一方、高用量のシンバスタチンを経口投与した群(B)には血管新生は認められなかった。
【
図10】低用量のシンバスタチンを骨内に局所注射することにより、後肢虚血により誘発された腓腹筋萎縮の回復が促進されることを示すものである。
【
図11】低用量のシンバスタチンを骨内に局所注射することによりSTZ誘発1型糖尿病ラットの皮膚創傷の治癒が促進されることを示すものである(A及びB:皮膚創傷の治癒;C及びD:毛細血管密度)。
【
図12】低用量のシンバスタチンの単回の局所注射がApoE
−/−マウスのアテローム性動脈硬化症に与える治療効果を示すものである(A及びB:正面のプラーク面積;C:大動脈起始部のプラーク面積;J:血中循環EPC数)。
【
図13】低用量シンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより、中大脳動脈閉塞ラットの血管新生が促進されることを示すものである(上:大脳動脈の血管造影図;下:虚血領域を示すTTC染色像)。
【0030】
実施例
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。先行技術及び本発明の実施形態の教示に基づく本発明の技術的特徴を改変又は変更した均等物も当業者には明らかであり、これらも同様に本発明の範囲に包含される。
【0031】
調製例
骨内注射可能なシンバスタチン溶液の調製
シンバスタチン(1000mg)を、ジメチルスルホキシド(DMSO、米国シグマ社(Sigma,USA))(2%)及びウシ血清アルブミン(BSA、米国シグマ社)(0.1%)を含むリン酸緩衝液(PBS)(10mL)に溶解し、均質な溶液を得た。
【0032】
骨内注射可能な温度応答性シンバスタチンヒドロゲルの調製
ポロキサマー(Poloxamer)407(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェン、BASF)(25%w/w)を等張リン酸緩衝液(PBS、pH7.4、4℃)に加えて完全に溶解するまで穏やかに撹拌した。
【0033】
このように調製したポロキサマー407溶液にシンバスタチン(中国北京、中国食品薬品検定研究院(National Institutes for Food and Drug Control, Beijing, China))を添加することにより、薬物含有ゲルを調製した。シンバスタチンの最終濃度を0mg/mL、0.5mg/mL又は1mg/mLとした。
【0034】
実施例1
1型糖尿病ラットに低用量シンバスタチンを単回で骨内に局所注射した後の長期に亘る内因性EPC動員
STZ誘発1型糖尿病ラットモデルの脛骨内にシンバスタチンを単回で局所注射した1ヶ月後及び2ヶ月後の結果から、シンバスタチン群の血中循環EPC数が有意に増加したことが分かった(FACSにより確認)(
図1参照)。
【0035】
実施例2
低用量シンバスタチンの単回骨内注射及び高用量シンバスタチンの経口投与が1型糖尿病ラット後肢虚血モデルの内因性EPC動員に及ぼす効果の比較
STZ誘発1型糖尿病ラットの右大腿動脈を1cmに亘り切除した。左脛骨にシンバスタチン(0mg、0.5mg、1mg)をそれぞれ単回で骨内に局所注射し、FACSにより血中循環EPC数を測定した。その結果から、シンバスタチンを単回で骨内に局所注射することにより血中循環EPC数を有意に増加させることが可能であることが示された(P<0.01)(
図2参照)。一方、FACSの結果から、シンバスタチン(20mg/kg)を連日経口投与した群においては、高用量シンバスタチンを経口投与しても血中循環EPC数は有意に増加しなかったことが示された(
図3の結果参照)。この結果は、投与経路が異なるとシンバスタチンの効果が異なる可能性を示唆している。
【0036】
実施例3
低用量シンバスタチンの骨内局所注射による全身の血管新生の促進
STZ誘発1型糖尿病ラットに低用量のシンバスタチン(1mg、2mg)を単回で骨内に局所注射することにより血管新生が促進され、30日後、耳の側副血行路が有意に発達したことが分かった(
図4参照)。
【0037】
ラットを屠殺し、マイクロフィル(microfil;登録商標)灌流を行い、マイクロCTでスキャンした。血管造影結果から、シンバスタチン骨内投与群は膵血管が局所的に有意に発達し、膵血管新生により膵島細胞が保護されるであろうと示された(
図5参照)。
【0038】
C57マウスの骨内にシンバスタチン(0mg、1mg)を局所注射し、4週間後、蛍光プローブであるオステオセンス(Osteosense;登録商標)及びアンジオセンス(Angiosense;登録商標)を尾静脈に注入した。結果から、シンバスタチンを骨内に局所注射した4週間後も注射部位は依然として骨形成が活発であったことが示された;また、肝臓、脾臓、腎臓及び膵臓には強い血管シグナルが検出された(
図6参照)。
【0039】
実施例4
低用量シンバスタチンをSTZ誘発1型糖尿病ラットの骨内に局所注射することによる虚血肢対側肢の血管新生の促進
STZ誘発1型糖尿病ラットの右大腿動脈を1.0cmに亘って切除した。ラットの左脛骨にシンバスタチン(0mg、0.5mg、1mg)をそれぞれ単回で骨内に局所注射した。超音波ドップラー血流計により、低用量のシンバスタチンを骨内に局所注射することによって血流量の回復が促進され(P<0.01)、最速3日目で血流がある程度回復することが観測された(
図7−1、
図7−2の結果参照)。
【0040】
後肢虚血のSTZ誘発1型糖尿病ラットモデルに3週間に亘ってシンバスタチン(20mg/kg/d)を連日胃管投与した。超音波ドップラー血流計による測定結果から、シンバスタチン(20mg/kg/d)を3週間経口投与しても血流量が有意に増加しないことが示された(
図8−1、
図8−2参照)。
【0041】
ラットを屠殺し、マイクロフィル(登録商標)灌流を行い、マイクロCTでスキャンすることにより局所的な膵血管を観察した。血管造影結果から、低用量のシンバスタチンを骨内に局所注射することにより血管新生が有意に促進され、対照群よりも側副血行路が発達していることが示された。一方、高用量のシンバスタチンを経口投与した群には血管新生は認められなかった(
図9参照)。
【0042】
実施例5
低用量シンバスタチンの骨内局所単回注射による腓腹筋湿重量比の回復促進
STZ誘発1型糖尿病ラットの右大腿動脈を1.0cmに亘り切除した。ラットの左脛骨にシンバスタチン(0mg、0.5mg、1mg)をそれぞれ単回で骨内に局所注射し、4週間後、腓腹筋の測定を行った。筋湿重量測定結果から、虚血腓腹筋が、シンバスタチン0mg群では有意に萎縮しており(P<0.05)、一方、シンバスタチン(0.5mg)を骨内に局所注射した群には明確な萎縮が認められなかったことが示された(
図10参照)。
【0043】
実施例6
低用量シンバスタチンの骨内局所注射がSTZ誘発1型糖尿病ラットの皮膚創傷治癒に及ぼす効果
STZ誘発1型糖尿病ラットの背部に皮膚採取器を用いて皮膚損傷を発生させた(φ=12mm)。ラットの左脛骨骨内にシンバスタチン(0mg、0.5mg)をそれぞれ局所注射した。その結果から、シンバスタチンを骨内に局所注射することにより皮膚損傷の回復速度が有意に加速されることが示された(P<0.01);この効果は高用量シンバスタチン(20mg/kg/d)の経口投与よりも優れている;また、新生血管の免疫蛍光染色により、シンバスタチンが血管新生を有意に増加させることも示された(
図11参照)。
【0044】
実施例7
低用量シンバスタチンの骨内局所注射がApoE
−/−マウスのアテローム性動脈硬化症に及ぼす治療効果
高脂肪食によりアテローム性動脈硬化症を誘発したApoE
−/−マウスの骨内に単回でシンバスタチン(0mg、0.5mg、1mg)を局所注射し、8週間後、マウスを安楽死させた。大動脈の正面及び大動脈起始部の連続切片をオイルレッドO染色液で染色し、画像解析ソフトでプラークサイズを計算し比較した。血中脂質濃度を測定し、ELISAにより血清中NO、オステオポンチン及び高感度C反応性蛋白測定を行い、FACSにより末梢血中のEPC数を測定した。結果から、低用量のシンバスタチンを骨内に局所注射した群においては、プラークが有意に減少し、総コレステロール、トリグリセリド及び低密度リポ蛋白コレステロールが有意に低下し、オステオポンチン濃度及び高感度C反応性蛋白濃度が有意に低下したことが示された。一方、血清中NO濃度は有意に増加した。最も重要なことは、末梢血中のEPC数が有意に増加したことである(
図12参照)。
【0045】
実施例8
中大脳動脈閉塞ラットに低用量シンバスタチンを単回で骨内に局所注射することによる血管新生の促進
中大脳動脈閉塞(MCAo)誘発脳虚血動物モデルを使用し、ラットの骨内にシンバスタチン(0.5mg)を単回で局所注射した。3日後、マイクロフィル(登録商標)を灌流させ、マイクロCTでスキャンしたところ、実験群は対照群よりも側副血行路の発達が有意に高かった。TTC染色から、梗塞領域が対照群と比較して有意に小さいことが分かる(
図13参照)。