(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355703
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】試料ホルダー
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
H01J37/20 F
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-231709(P2016-231709)
(22)【出願日】2016年11月29日
(65)【公開番号】特開2018-88369(P2018-88369A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2017年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】512024336
【氏名又は名称】株式会社メルビル
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 裕也
【審査官】
山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−329562(JP,A)
【文献】
実開平5−92619(JP,U)
【文献】
特開平8−264146(JP,A)
【文献】
特開2014−216180(JP,A)
【文献】
特開平10−12432(JP,A)
【文献】
特開2005−147693(JP,A)
【文献】
特開平6−302428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
G01B 21/00−21/32
G01Q 10/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料及び/又は試料メッシュ設置部と、前記試料を挟むように構成される部分を有する磁路部と、前記設置部の設置位置とは反対側において前記磁路部に隣接して設置された第一の永久磁石とを有する試料ホルダーであって、前記第一の永久磁石は、前記試料ホルダーの長手方向に対して駆動可能であることを特徴とする試料ホルダー。
【請求項2】
前記磁路部において、前記試料を挟むように構成される部分は、磁極を構成することが可能である請求項1記載の試料ホルダー。
【請求項3】
前記試料設置部と、前記第一の永久磁石との間に、第二の永久磁石を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の試料ホルダー。
【請求項4】
前記第二の永久磁石は、前記試料ホルダーの長手方向に対して駆動可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項5】
さらに、前記第一及び第二の永久磁石は、アクチュエーターにより駆動可能である請求項1〜4のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項6】
前記第一の永久磁石と前記第二の永久磁石との間は、空間部、又は非磁性材料で構成される部材からなる非磁性材料部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項7】
さらに、前記第一の永久磁石の外側には、漏れ磁場遮断部を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項8】
前記第一の永久磁石の極性と、前記第二の永久磁石の極性とは、逆になるように、前記永久磁石を配置することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【請求項9】
前記第一の永久磁石及び/又は第二の永久磁石の駆動により、前記試料を挟むように構成された部分の磁場を消磁させ、又は反転させることが可能である請求項1〜8のいずれか1項に記載の試料ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダーに関し、特に、磁場印加可能な試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在普及している磁場印加ホルダーの磁場印加機構は、コイル式の磁石であり、コイルに電流を流して磁場を発生させるコイル式の磁石である。コイル式では、コイルに流す電流量を可変することで印加磁場の強度を制御することができる。発生させた磁場は鉄心などを用いて試料近傍まで伝達させることができる。例えば、磁場の発生にコイルを用いた電子顕微鏡の例として、スピン偏極走査電子顕微鏡において、2次電子収集効率やスピン偏極度を維持しながら、試料に1kOeレベル以上の高磁場を印加しながら測定できる装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-243486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のものも含め、通常の磁場印加ホルダーは、コイル式が用いられる手法には以下の問題点を有する。それは、磁場を作っている最中(電流印加中)にコイルが発熱し(真空中なので放熱しにくく、より発熱しやすい)、その熱で試料の状態(組成や物性)を変えるなどの影響を与えるだけでなく、観察中にホルダー部材に熱膨張が発生し、観察視野の位置がずれる(熱ドリフト)問題がある。また、TEMホルダーの空間(4mm以下)内に実装できるコイルのサイズは限られており、極微小の磁場しか印加できないことも問題であった(出力があげられない。数十ミリテスラ等、90 mTが最大といわれている。)。
【0005】
さらに、コイル式で難しいのは、前途の通り、電流を流すとコイルが発熱するため、自身の抵抗値が変化し、印加磁場を変動させる点である。そのため、電流フィードバックなどの特殊な電源が必要になり、コストが高くなるという問題点も有する。
【0006】
そこで、上記問題点を解決すべく、本発明は、磁場印加可能な構造を有する試料ホルダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者は、磁場印加の場合の種々の問題点について、鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0008】
すなわち、本発明の試料ホルダーは、試料及び/又は試料メッシュ設置部と、前記試料を挟むように構成される部分を有する磁路部と、前記設置部の設置位置とは反対側において前記磁路部に隣接して設置された第一の永久磁石とを有する試料ホルダーであって、前記第一の永久磁石は、前記試料ホルダーの長手方向に対して駆動可能であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記磁路部において、前記試料を挟むように構成される部分は、磁極を構成することが可能であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料設置部と、前記第一の永久磁石との間に、第二の永久磁石を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第二の永久磁石は、前記試料ホルダーの長手方向に対して駆動可能であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、さらに、前記第一及び第二の永久磁石は、アクチュエーターにより駆動可能であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一の永久磁石と前記第二の永久磁石との間は、空間部、又は非磁性材料で構成される部材からなる非磁性材料部を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、さらに、前記第一の永久磁石の外側には、漏れ磁場遮断部を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一の永久磁石の極性と、前記第二の永久磁石の極性とは、逆になるように、前記永久磁石を配置することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一の永久磁石及び/又は第二の永久磁石の駆動により、前記試料を挟むように構成された部分の磁場を消磁させ、又は反転させることが可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の試料ホルダーによれば、コイル式を採用しないことから、コイルが発熱し(真空中なので放熱しにくく、より発熱しやすい)、その熱で試料の状態(組成や物性)を変えるなどの影響を与えないという有利な効果を奏する。また、本発明の試料ホルダーによれば、観察中にホルダー部材に熱膨張の発生も生じず、観察視野の位置がずれる(熱ドリフト)ことがないという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。
図1(a)は、永久磁石を試料の方向へ近づけて、試料近傍へ磁場を発生させている状態を示す。
図1(b)は、永久磁石を試料から遠ざけて、試料近傍の磁場を弱めている状態を示す。
図1(c)は、永久磁石を前後させて、試料近傍の磁場を消磁させている状態を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。
図2Aは、試料近傍へ磁場を発生させない状態を示す。
図2B、C、及びDは、試料近傍へ磁場を発生させている状態を示す。
図2E、F、及びGは、第二の永久磁石も用いた場合の態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の試料ホルダーは、試料及び/又は試料メッシュ設置部と、前記試料を挟むように構成される部分を有する磁路部と、前記設置部の設置位置とは反対側において前記磁路部に隣接して設置された第一の永久磁石とを有する試料ホルダーであって、前記第一の永久磁石は、前記試料ホルダーの長手方向に対して駆動可能であることを特徴とする。前記試料を挟むように構成される部分を有する磁路部は、永久磁石の磁場を伝播させることが可能である。磁路部の材質としては、永久磁石の磁場を伝播させることができれば、特に限定されない。磁路部の材質としては、例えば、透磁材料を挙げることができる。具体的には、例えば、透磁材料としては、パーマロイ、パーメンジュール、鉄コバルト合金、ミューメタルなどを挙げることができ、透磁性の高い材料を用いることが可能である。
【0020】
なお、透磁材料について補足説明すれば、以下の通りである。透磁材料とは、一般的に磁性材料であり、比較的透磁率の高い材料(高透磁材料)ということができる。また、これらは同時に飽和磁化特性や保持磁化特性が一般の材料と異なるものを含むことができる。例えば、パーマロイを例にとれば、パーマロイにはPCパーマロイとPBパーマロイがあり、どちらも一般的な材料に比べて透磁率、飽和磁化特性などが10倍-10000倍優れている。
この二つを比べると、PBの透磁率がかなり大きいが、飽和磁化が劣る。PCはその反対の特性を持っているなどがあり、良し悪しは目的により変わることになる。
【0021】
透磁率について、この値が大きな材料は外部磁場を材料内部に取り込みやすい性質を持っている。また、別の表現をすれば、材料の外部に磁場を出しにくい性質ともいえる。ちょうど光が光ファイバーに入ってファイバーの反対の端面からでてくるようなイメージと考えることができる。つまり、透磁率の差が著しく大きいので磁場が全反射して材料内から出ていけないということになる。(真空がほぼ1に対して、PCパーマロイ180000)このような透磁材料のイメージとしては、磁場を遮断するというよりも磁場を材料内部に取り込みやすいというイメージが正確といえる。磁場を吸い取るというと少し誤解があるが、透磁材料に入った磁場(磁束)は、透磁材料内に閉じ込められることになる。
【0022】
しかし、磁場が材料内で飽和する箇所(たとえば、尖った箇所)や端面などがあると、その点から磁場が漏れ出すことになる。うまく透磁材料を使って磁場を引き回して任意の場所にS極とN極を作っているのが、磁極といわれるものである。反対に、透磁率の低い材料では、外部磁場のほとんどは材料を素通りしてしまうため、磁場を遮蔽できないといった表現となる。
【0023】
また、透磁材料であっても材料内で磁場が飽和すると、尖った箇所などなくても磁場が素通りしてしまう。本発明においては、好ましい態様において、透磁材料としては、これを避けるためには飽和磁化の大きな材料が好ましく、同時に磁場を減衰させずに遠くまで運ぶためには透磁率の高い材料が良いということになる。
【0024】
また、ある点から磁場が発生すると仮定すると、その磁場は距離の自乗に反比例して減衰していく。しかし、高い透磁率を持った棒状の材料があると、その内部を通って、磁場は反対の端面まで運ばれることになる。真空の透磁率が最も低いので、透磁率の高い材料を用いて磁場を導いてあげることで任意の場所に磁場を発生させることができる。本発明はかかる観点から、試料へ磁場を印加することが可能となる。磁石には必ずS極とN極があるので、S極から透磁材料を使って磁場を引き回してきて、N極からも同様に磁場を引き回してくると磁場の回路ができるということになる。したがって、透磁率の高い材料を磁場の回路(磁路)に用いているとするとより効率よく磁場が減衰せずに極まで届くということになる。
【0025】
また、前述のように透磁材料は飽和磁化も大きく、先端部により大きな磁束を保持できるので、試料を挟む磁極間により高出力で磁場を発生させることが可能となる。
【0026】
また、本発明において、前記設置部の設置位置とは反対側において前記磁路部に隣接して設置された第一の永久磁石とを有する。第一の永久磁石は、試料に磁場を印加するためのものである。永久磁石としては、特に限定されないが、より効率的に安定した磁場を印加するという観点から、永久磁石としては、合金磁石、フェライト磁石、希土類磁石等を挙げることができる。永久磁石として、アルニコ磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジウム磁石等を挙げることができ、特に限定されない。磁場強度がつよく市販で手に入る使い勝手の良い磁石という観点から、永久磁石としては、ネオジウム磁石が好ましい。永久磁石の磁場は、前記磁路部を介して伝播し、試料へ磁場を印加することが可能となる。すなわち、本発明においては、永久磁石の磁場は、磁路を介して伝播し、永久磁石とは反対側に設置された試料設置部、すなわち、試料近傍に磁極を与えることができる。
【0027】
また、本発明において、前記第一の永久磁石は、前記試料ホルダーの長手方向に対して駆動可能である。駆動することにより、試料に印加する磁場の強度を調節することができる。上述のように、尖った個所があると、その個所から磁場が漏れ出す性質から、試料に印加する磁路部の形状を、鋭角等にすれば、より効率的に試料へ磁場を印加することが可能となる。
【0028】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記磁路部において、前記試料を挟むように構成される部分は、磁極を構成することが可能であることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記試料設置部と、前記第一の永久磁石との間に、第二の永久磁石を有することを特徴とする。第一の永久磁石をメイン磁石とすれば、第二の永久磁石をサブ磁石とすることができる。メイン磁石とサブ磁石の磁力は、所望により自由に設計することができる。両磁石の試料までの距離についても特に限定されず、所望により自由に設計することができる。
【0030】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第二の永久磁石は、前記試料ホルダーの長手方向に対して駆動可能であることを特徴とする。駆動することにより、試料に印加する磁場の強度を調節することができる。
【0031】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、さらに、前記第一及び第二の永久磁石は、アクチュエーターにより駆動可能であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、簡単な磁路構造によりポラリティーの変換と、消磁を実現するという観点から、前記第一の永久磁石と前記第二の永久磁石との間は、空間部、又は非磁性材料で構成される部材からなる非磁性材料部を有することを特徴とする。空間部又は非磁性材料部は、空間さえあれば良いが、固定するにあたり、磁石同士は引き合うため、空間であると固定が難しい場合が生じる。従って、何らかの部材を置くことが好ましい。この場合、磁化しない非磁性材料からなる非磁性材料部を配することができる。当該非磁性材料部の材料としては、燐青銅、ベリリウム銅、アルミ、チタンなどのほか、ゴム、プラスチックなどを挙げることができる。また、非磁性材料部の材料としては、真空中で用いるので基本的にアウトガスの少ない金属や樹脂(PEEK)などを選ぶことができる。なお、ステンレスは非磁性材料ではあるが、帯磁性があるため好ましくない。
【0033】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、さらに、前記第一の永久磁石の外側には、試料近傍の磁極の消磁、磁極の極性の反転を効率的に行う観点から、漏れ磁場遮断部を有することを特徴とする。漏れ磁場遮断部の材質は、特に限定されないが、上述の透磁材料を挙げることができる。透磁材料については、上述の説明をそのまま用いることができる。すなわち、磁極の極性を反転させるためには、先端に磁場を伝える透磁材料とは別に、メイン磁石の漏れ磁場を遮断するための磁気シールドとして透磁材料(形は不問)を用いることができる。この漏れ磁場を止める透磁材料がない場合、メインの永久磁石を磁路から遠ざけていっても、磁路にメインの永久磁石の磁場が回り込み、極性の反転を妨げる虞がある。また、メインの永久磁石(第一の永久磁石)の漏れ磁場を遮蔽するシールド部材を配すことで、磁路に対してゼロ磁場をつくることが可能となる。また、二つの磁極の向きを持ったアクチュエーターを前後させて極性の切り替えを交互に行うことで、観察している試料の消磁も可能となる。このように、磁石として永久磁石を用いたメリットとして、磁石の数(面積)を増やせば、簡単により強い磁場を印加することが可能となることが挙げられる。数百ミリテスラまで可能である。この永久磁石式の磁場印加手法において、nmレベル(5nm以下)で制御可能なアクチュエーターを用いることができる。
【0034】
また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一の永久磁石の極性と、前記第二の永久磁石の極性とは、逆になるように、前記永久磁石を配置することを特徴とする。また、本発明の試料ホルダーの好ましい実施態様において、前記第一の永久磁石及び/又は第二の永久磁石の駆動により、前記試料を挟むように構成された部分の磁場を消磁させ、又は反転させることが可能であることを特徴とする。もっと複雑な磁路構造やメカニカルな動きであれば、他の配置なども考えられるが、簡易に消磁等を実現する観点から、二個の極性の違う磁石を使うことができる。
【実施例】
【0035】
ここで、本発明の試料ホルダーの一実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0036】
図面を参照して、本発明の試料ホルダーの一実施態様を説明すれば以下の通りである。
【0037】
図1は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。
図1において、1は試料及び/又は試料メッシュ設置部、2は磁極、3は磁路部、4は第二の永久磁石、5は空間部、6は第一の永久磁石、7は試料ホルダー軸、8は試料ホルダーの外筒部、9は漏れ磁場遮断部、10は試料へ永久磁石を近づける方向へ動かす場合、11は試料から永久磁石を遠ざける方向へ動かす場合、12は試料近傍の磁場を消磁する場合を、それぞれ示す。この場合、第二の永久磁石、漏れ磁場遮断部等を用いる態様であるが、無くてもよい。
【0038】
図1(a)は、永久磁石を試料の方向へ近づけて、試料近傍へ磁場を発生させている状態を示す。
図1に示すように、試料ホルダーは、第一及び第二の永久磁石をホルダー内部に配した構造を持っている。第一及び第二の永久磁石は、微動アクチュエーター(ナノ制御アクチュエーター)を用いてホルダー軸長手方向に前後させることも可能である。試料ホルダー軸に、アクチュエーターを設置することが可能である。
【0039】
また、例えば、永久磁石であるネオジム磁石を第一又は第二の永久磁石4,6として用いた場合、当該永久磁石4,6の磁場は磁路部3となる透磁材料を伝播し、一番尖っている箇所に磁場が集中し、そこが磁極2となる。これを利用して、試料1に磁場を印加することができる。配置は、メインとなる第一の永久磁石のほかに、サブとなる第二の永久磁石を配することができる。第二の永久磁石の磁極を逆極性とすることもできる。メインと、サブの永久磁石は磁力が異なり、磁路までの距離も異なることとすることができ、結果として磁路に対して磁力の大きいほうの極性が先端の磁極の極性を支配させることができる。なお、本実施例においては、サブ-メインの磁力の比率は1:3であるが、磁力の比率は所望により適宜修正することができる。
【0040】
図1(b)は、永久磁石を試料から遠ざけて、試料近傍の磁場を弱めている状態を示す。
図1(c)は、永久磁石を前後させて、試料近傍の磁場を消磁させている状態を示す。例えば、永久磁石の駆動は、手動でもよく、微動アクチュエーターで駆動させてもよい。いずれにしても、永久磁石の位置を磁路に近づけたり遠ざけたりすることで、磁路の入り口に対してメインとサブの磁場が差し引きゼロになるポジションをつくることができる。その位置では、試料先端にかかる磁場もゼロにできる。そこから、微動アクチュエーターで永久磁石の位置を調整することで、リニアに印加磁場の強度を調整することが可能となる。
【0041】
図2は、本発明の一実施態様における試料ホルダーの断面図を示す図である。
図2Aは、試料近傍へ磁場を発生させない状態を示す。永久磁石が、試料から遠く離れている場合は、試料近傍は、永久磁石による磁場の影響を受けない。永久磁石の磁場は自己のSとNでループを作り、完結している。
【0042】
図2B、C、及びDは、試料近傍へ磁場を発生させている状態を示す。
図2Bは、試料近傍へ永久磁石を近づけていくと、永久磁石の磁場が磁路部へ流れていき、試料近傍の磁極20に磁場を発生させることができる。
図2Cは、さらに近づけた場合、試料近傍の磁場が強くなることを示す。
図2Dは、磁場が最大の状態を示す。
【0043】
図2E、F、及びGは、第二の永久磁石も用いた場合の態様を示す。
図2Eは、第二の永久磁石によって磁場が弱まっている様子を示す。
図2Fは、磁束がつり合う位置で試料近傍の磁場がゼロになる様子を示す。
図2Gは、試料近傍の極性が反転したことを示す。なお、図では、磁束を直線として描いているが、実際の磁束は、それぞれSとNで閉じている状態である。
【0044】
以上まとめると、本発明の試料ホルダーによれば、コイル式を用いることなしに、試料へ磁場を印加することができ、コイルの発熱に起因する、ホルダー部材の熱膨張の発生も生じず、観察視野の位置がずれる(熱ドリフト)ことがないという有利な効果を奏することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
このような本発明の試料ホルダーは、ドリフト制御が可能であるため、広範な範囲での分野において有益であることが期待できる。
【符号の説明】
【0046】
1 試料及び/又は試料メッシュ設置部
2 磁極
3 磁路部
4 第二の永久磁石
5 空間部
6 第一の永久磁石
7 試料ホルダー軸
8 試料ホルダーの外筒部
9 漏れ磁場遮断部
10 試料へ永久磁石を近づける方向へ動かす場合
11 試料から永久磁石を遠ざける方向へ動かす場合
12 試料近傍の磁場を消磁する場合
20 磁場