特許第6355740号(P6355740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特許6355740内燃機関からの排ガスのための凝縮核カウンターの作業用液体
<>
  • 特許6355740-内燃機関からの排ガスのための凝縮核カウンターの作業用液体 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355740
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】内燃機関からの排ガスのための凝縮核カウンターの作業用液体
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/06 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   G01N15/06 D
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-537296(P2016-537296)
(86)(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公表番号】特表2016-532113(P2016-532113A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】EP2014068267
(87)【国際公開番号】WO2015028553
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2017年8月25日
(31)【優先権主張番号】A50537/2013
(32)【優先日】2013年8月30日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】398055255
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】クラフト・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ベルクマン・アレクサンデル
【審査官】 野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−164566(JP,A)
【文献】 国際公開第01/31312(WO,A2)
【文献】 米国特許第6469781(US,B1)
【文献】 特表2002−538267(JP,A)
【文献】 特開昭62−225926(JP,A)
【文献】 特開平3−99248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般的な化学式C2n+2を有し、10、11又は12の原子数nを有するn−アルカンの、内燃機関(4)からの、カーボンブラックの形態の固体粒子を含有する排ガスのための凝縮核カウンター(1)のための作業用液体(7)としての使用であって、それにより、該排ガス中に含有される個々のカーボンブラック粒子を計数する、上記の使用。
【請求項2】
作業用液体(7)として、10、11又は12の原子数nを有するn−アルカンの、二成分系混合物が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
作業用液体(7)として、10、11又は12の原子数nを有するn−アルカンの、三成分系混合物が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
一般的な化学式C2n+2を有し、10、11又は12の原子数nを有するn−アルカンを、作業用液体(7)として有する凝縮核カウンター。
【請求項5】
作業用液体として10、11又は12の原子数nを有するn−アルカンの、二成分系混合物又は三成分系混合物を有する、請求項4に記載の凝縮核カウンター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関からの排ガスのための凝縮核カウンターの作業用液体、及び本発明の作業用液体を備えた凝縮核カウンターに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関からの排ガスは、nmの範囲の固体粒子を内容物として含んでおり、それら固体粒子は、光学的な方法で直接検出するにはあまりに小さすぎる。だが、そのような固体粒子を測定可能にするために、しばしば、いわゆる凝縮核カウンターが使用されており、その際、該排ガスは、過飽和の雰囲気を介して送られる。その過飽和の雰囲気は、例えば、作業用液体の水蒸気によって排ガスが飽和され、そして引き続いて冷却される場合に生じる。その場合、固体粒子は凝縮核として利用され、その上に過飽和した作業用液体を凝縮させるが、これは、凝縮核を増大させる。そのような凝縮核カウンターは、例えば、米国特許第4,790,650 A号明細書(特許文献1)又は国際公開第12/142297 A1号パンフレット(特許文献2)から知られている。固体粒子の大きさは、過飽和度に依存してその大きさから凝縮プロセスが行われ、そしてケルビン径と呼ばれる。所定の過飽和度についてケルビン径が小さければ小さい程、固体粒子はますます小さい可能性があり、これは、作業用液体を凝縮させる。例えば、法的要件などの規定によれば、排ガスの粒度範囲に関して、20nm超、典型的には23nm、〜2.5μmのものは検出され、そして、排ガスは、サチュレーターの前に<35℃の温度に調整されるべきである。凝縮により、粒子の大きさは(約5μmに)増大し、その後、これは個別に、例えば、散乱光をベースとする光学的粒子計数器を用いて光学的に検出することができる。検出及び計数のために、個々の粒子は、μmの範囲の十分な大きさを有さなくてはならない。
【0003】
内燃機関の排ガス中の固体粒子を測定するための凝縮核カウンターのための、現在の標準的な作業用液体は1−ブタノール(n−ブタノール)であり、例えば、欧州特許第2 208 983 B1号明細書(特許文献)に記載されている。この作業用液体の主要な欠点は、排ガスとの化学的反応性である。アルコールは、酸性の排ガス成分とエステルを形成し、これは、結果として凝縮核カウンターの芯成分中に蓄積し、そして、ガスの飽和度を低下させる。更なる実際上の欠点とは、〜37℃の引火点、つまり、意図される温度の範囲内であることである。
【0004】
国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)においては、凝縮核カウンターのための可能な作業用液体が多く調査されており、その際、化学物質の化学分析のために非常に小さい分子(3nm未満)の検出に焦点が当てられている。可能な限り小さい検出限界を得るためには、システムは可能な限り小さいケルビン径のものである。カーボンブラックのような排ガス粒子は、国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)中で調査された分子よりも明らかに大きいことから、ここでは全く役に立たない。そのため、グリコールはそのような用途に最も適した作業用液体である。というのも、グリコールは、最も小さいケルビン径を可能にするからである。その上、原則的に考え得る、多数の更なる化学物質の他に、アルカン、特に、ヘキサン、ヘプタン、オクタン及びノナンが作業用液体として挙げられるが、いずれもケルビン径において劣っている可能性があり、その故、国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)においては、この用途のための好ましい作業液体として記載されてはいない。
【0005】
国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)は、化学物質(例えば、アルカン)の群から選択される作業液体が、最も適切な作業液体として選択できるような別の方法を開示している。そのために、該作業液体の相対誘電率εを援用し、そして、最大誘電率を有する化学種として分類される作業液体が選択されるべきである。その場合、相対誘電率は、例えば、対応する表又は明細書から知られているように、いくつかの物質に対するパラメーターである。また、この基準によれば、国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)のアルカンは、最も適した作業液体に分類されている。というのも、そのε〜2を有する相対誘電率は、作業液体としてより好ましいグリコール(ε〜41)又はグリセリン(ε〜47)よりも桁違いに小さいからである。大気研究の分野で使用される代替的なものは、作業液体としての水の使用である(国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)参照)。しかしながら、内燃機関の排ガスの場合において具体的に使用する場合、水は適用できない。というのも、水は、排ガス中のカーボンブラック粒子を成長させることについて十分に信頼できないからである。この他に、水蒸気の大気中への高い拡散性に起因して、水は、基本的に別の系構成を必要とし、そのため、従来の排ガスのための凝縮核カウンターでは使用できなかった。それ故、対象となる使用における作業液体としての水は、代替物として有意ではない。
【0006】
米国特許第7,777,867 B2号明細書(特許文献)からは、凝縮核カウンターの作業液体として、例えば、過フッ化化合物、特に、パーフルオロ−N−トリアルキルアミン(例えば、パーフルオロ−N−トリブチルアミン、フッ化FC−43)を使用することが知られている。この作業液体の利点は、化学的に不活性な良好な種でありかつ非燃焼性である点である。ただし、この作業液体の欠点は高い密度であり、それによって、例えば、垂直なウィッキング要素を備えた所定の実施形態の凝縮核カウンター中において成長(及び対応する高いガス飽和)させることができず、このことにより、この化合物は制限された使用可能性でしか利用できない。さらに、過フッ化化合物は高価であり、そして、環境に有害であり、そのため、そのような化合物の取扱は煩雑になる。
【0007】
ロシア国特許第2 237 882 C1号明細書(特許文献)は、ネフェロメーターを使ってガス中の芳香族類の粒子濃度を測定するための方法であって、その場合、該芳香族類は、最初に、オゾンを使って凝縮核に変換され、その凝縮核は、引き続いて、作業液体としてテトラデカン又はヘプタデカンを使用して、凝縮により、粒子に成長させることが記載されている。
【0008】
しかしながら、該文献に記載されているテトラデカン及びヘプタデカンは、内燃機関の排ガス中の粒子を測定するための凝縮核カウンターの作業液体として不適切である。というのも、規定通りの機能に必要な作業液体によって飽和又は過飽和した雰囲気を実現するために、これは、意図する運転温度範囲内において、少なくとも一桁のオーダーの低すぎる蒸気圧を有するからである。十分な飽和度を達成するためのその作業液体の温度を上昇させることは、技術的には確かに可能ではあるが、まず、内燃機関からの排ガス中の粒子を測定するためのそのような機器が法的かつ標準的基準に対応しておらず、そして、さらに、作業温度がそれぞれの物質の引火点の範囲内にあることが要求され、それは高い安全性リスク意味することになる。それ以外にも、これらのアルカンは、凝縮核カウンターの作業温度範囲内において固体であるか、又は十分に低い粘性ではなく、このことは、意図される用途のためのそれらの使用を同様に不可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,790,650 A号明細書
【特許文献2】国際公開第12/142297 A1号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第2 208 983 B1号明細書
【特許文献4】国際公開第01/31312 A1号パンフレット
【特許文献5】米国特許第7,777,867 B2号明細書
【特許文献6】ロシア国特許第2 237 882 C1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故、本発明の課題は、内燃機関からの排ガスのための凝縮核カウンターに適した作業液体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、一般的な化学式C2n+2を有し、10、11又は12の原子数nを有するn−アルカンを使用することによって解決される。
【0012】
国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)において、6の原子数nを有するn−アルカン(ヘキサン)乃至9の原子数nを有するn−アルカン(ノナン)は、他の公知の作業液体に比較して最も劣った特性を有し、そして、それらアルカンの群内において、より多くの原子数は、より少ない原子数のものよりも、例えば、比較的大きなケルビン径のような、より劣った特性を有する。国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)中に提案されている、作業液体を選択する方法は、特にアルカンについては役に立たない。というのも、異なるアルカンは、非常に類似した誘電率を有しており、このことが、上記の基準に基づいた選択を安全に行うことをできなくするからである。にもかかわらず、アルカンの群に対して所与の基準を適用する場合には、好ましい作業液体として、例えば、2.024の相対誘電率を有するシクロヘキサンが、それよりも低い相対誘電率を有するn−アルカンよりも好ましい。
【0013】
しかしながら、驚くことに、10の原子数nを有するn−アルカン(デカン、H1022)、11の原子数nを有するn−アルカン(ウンデカン、C1124)、及び12の原子数nを有するn−アルカン(ドデカン、C1226)は、特に、内燃機関からの排ガスに最良に適しており、これは、国際公開第01/31312 A1号パンフレット(特許文献)の開示からは予測できないことである。その理由とは、10の原子数を有するアルカン(デカン)、11の原子数を有するアルカン(ウンデカン)及び12の原子数を有するアルカン(ドデカン)が、凝縮核カウンターの所望される作業温度、典型的に、−20℃〜50℃において液体であること、そして、排ガス成分、特に、有機酸、水等に対して本質的に非反応性であること、そして、排ガスの構成成分との化学反応、例えば、エステル化等が見られないことが考えられる。さらに、アルカン自体は、一般に、例えば、排ガス中の凝縮物の形態の水と混ざらず、これは、作業液体の汚染を防止するか又は低減する。
【0014】
それ以外に、室温で点火し得るか又は爆発し得るアルカン−空気混合物の形成を回避するために、そのようなアルカンは、室温で十分高い引火点を有しており、これは、費用のかかる安全性保護措置又は爆発保護措置を不要にする。さらに、これらのアルカンは、−20℃〜50℃の意図される作業温度範囲内において、いかなる相移行、例えば、液相から気相への移行も示さない。さらに、そのようなアルカンの毒性は、内燃機関中で使用される駆動物質の毒性よりも低く、それ故、該作業液体の取扱を簡単にすることができる。そして、とりわけ、これらのアルカンは、成長を可能にし、そして、その結果、排ガス固体粒子、特にカーボンブラックについて、信頼できる計数をもたらす十分高い蒸気圧を有する。
【0015】
以下に、本発明を、例示的、概略的かつ非限定的に、内燃機関の排ガスのための凝縮核カウンターを示す図1を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、例示的、概略的かつ非限定的に、内燃機関の排ガスのための凝縮核カウンターを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、例えば、内燃機関4の排気装置から取り出される内燃機関4の排ガスのための導管2を有する凝縮核カウンター1を概略的に示している。その場合、該排ガスは、希釈された排ガスであることもできる。その排ガスは、例えば、透過性の飽和要素5含む、調節された、好ましくは、−20℃〜50℃の作業温度に調節された、飽和装置3中へ送られ、作業液体容器8からの液状の作業液体7が供給される。該排ガスは、飽和要素5を貫流し、そしてその際、該作業液体7によって湿潤する。飽和装置3中における温度を超え、そして、場合によっては、下流の冷却凝縮装置6に対する温度差により、排ガス中の作業液体7の(過)飽和度が、そしてそれ故、増大した粒子の達成可能な大きさが調節できる。適切な冷媒によって冷却される下流の凝縮装置6において、排ガス中の作業液体7は、排ガス中に含有される固体粒子に凝縮される。そのように増大させた、好ましくは、μmの範囲内の粒子を、次いで、粒子カウンター9中で計数することができる。導管10を介して、排ガスは再び導出される。冷却された凝縮装置6からは、フィルター16及びポンプ17を介して、受容保持器18中へ水がフィードバックされる。飽和装置3に再び、滴下する作業液体7を直接戻すことも可能である。
【0018】
この場合、粒子カウンター9は、焦点調節ユニット20を介して作業液体で過飽和された排ガス流の流出箇所に光の焦点を当て、そして、コレクター21を介して検出器22に集められる、レーザーダイオード19を含む。
【0019】
その故、排出箇所におけるそれぞれ個々の粒子を確認して計数でき、そしてそれにより、排ガス中の粒子の全濃度を検出することができる。
【0020】
この場合、作業液体7として、デカン(C1022)、ウンデカン(C1124)又はドデカン(C1226)が使用されるか、又はデカン(C1022)、ウンデカン(C1124)又はドデカン(C1226)からなる適当な二成分系又は三成分系混合物が使用される。
図1