(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、管内面の二次元表面粗さ(Ra)を所望範囲に調整しても、安定してAl酸化物を形成できないことがあり、金属酸化物層(アルミナバリア層)の面積率がばらつくことがあった。
【0009】
そこで、二次元表面粗さ(Ra)が所望範囲にありながら、アルミナバリア層の面積率がばらついた管の内面を観察したところ、表面加工の際に、管内面が研削材にむしりとられて部分的に突起や凹みとなる所謂ムシレが発生していた。そして、ムシレ部分にはAl酸化物が上手く形成されていないことがわかった。Al酸化物は、熱処理によって、管内部のAlが内面側に移動して酸化されることで形成されるが、このムシレ部分ではAlの移動が阻害され、Alが十分に供給されず、拡散できないこと、また、ムシレ部分にAlが供給されたとしても、ムシレ部分は凹凸が大きく、その比表面積が大きいことから消費されるAlが多く、結果として均一なアルミナバリア層が形成され難いことが原因であるとの知見を得た。
【0010】
本発明の目的は、高温雰囲気で使用される管体及び管体の内表面に高い面積率で安定して金属酸化物層を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る管体は、
高温雰囲気で使用される管体であって、
質量%にて、Cr:15%以上、及び、Ni:18%以上を含有する耐熱合金から構成され、
内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である。
【0012】
前記耐熱合金は、質量%にて、Al:2.0%以上を含有することができる。
【0013】
前記内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5とすることができる。
【0014】
前記内表面には、肉盛溶接によって突起が形成されており、
前記突起は、質量%にて、Al:2.0%以上含有し、
前記突起の三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である。
【0015】
前記内表面に金属酸化物を主体とする金属酸化物層が形成されていることが望ましい。
【0016】
前記金属酸化物層は、Al酸化物を主体とするアルミナバリア層であることが望ましい。
【0017】
上記管体は、オレフィン製造用反応管とすることができる。
【0018】
本発明の管体の内表面にAl酸化物を含むアルミナバリア層を形成する方法は、
上記管体の前記内表面に表面加工を施して、前記内表面を、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30とする表面加工工程、
前記表面加工の施された前記管体を熱処理し、前記管体の内表面にAl酸化物を含むアルミナバリア層を形成する熱処理工程と、
を有する。
【0019】
前記表面加工工程の前に、前記管体の内表面に質量%にてAl:2.0%以上含有する肉盛溶接粉末を肉盛溶接して突起を形成する肉盛溶接工程を有することができる。
【0020】
前記表面加工工程は、ブラスト処理とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、管体の内表面のSa、Sskを上記範囲に調整することで、管体の内表面のムシレ発生を抑制できる。これにより、熱処理の際に管体の内部から内表面に向けて金属酸化物を構成する金属元素(たとえばAl)をほぼ均等に移動させることができるから、金属酸化物層を好適に形成できる。
【0022】
また、内表面に突起を肉盛溶接した管体について、突起には表面にディンプルが形成されて滑らかさに劣ることがあるが、その突起も上記範囲のSa、Sskとすることで、同様に突起内部から金属酸化物を構成する金属元素を突起表面に移動させることができ、金属酸化物層を好適に形成できる。
【0023】
本発明の管体によれば、管体の内表面にアルミナバリア層の如き金属酸化物層、及び、突起の表面にアルミナバリア層が形成されることで、たとえば炭化水素ガスの熱分解に使用したときに、コークの付着を抑えることができるから、熱伝達効率の低下や圧力損失を防止でき、デコーキング作業による操業効率の低下も防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、特に明記しない限り、「%」は質量%を意味する。
【0026】
本発明の管体は、たとえば
図1に示すように管状(管本体12)に形成され、エチレン製造用熱分解管やオレフィン系炭化水素ガスやスチレンモノマーなどの熱分解用分解管などとして炭化水素製造用の加熱炉に使用することができる。
【0027】
管体は、Cr:15%以上、及び、Ni:18%以上を含有する耐熱合金から構成される。望ましくは、Al:2.0%〜4.0%を含有する。成分限定理由は以下の通りである。
【0028】
Cr:15%以上
Crは、高温強度及び耐酸化性の向上への寄与の目的のため、15%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなるとクロム酸化物(Cr
2O
3等)が優先して形成され、Alを含有させた際にアルミナバリア層の形成が阻害されるため、上限は40%とすることが望ましい。なお、Crの含有量は20%〜35%がより望ましい。
【0029】
Ni:18%以上
Niは、耐浸炭性、耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niは、アルミナバリア層の再生能を高める働きがあるため、18%以上含有させる。一方で、60%を超えて含有させても、増量による効果は飽和するので、上限は60%とすることが望ましい。なお、Niの含有量は30%〜45%がより望ましい。
【0030】
Al:2.0%〜4.0%
Alは、アルミナバリア層を形成するAl酸化物の材料である。アルミナバリア層の安定形成能や再生能を発揮するために、Alは2.0%以上含有させることが望ましい。一方で、Alの含有量が4.0%を越えると、これら能力は飽和するから、上限は4.0%とする。なお、Alの含有量は3.0%〜4.0%がより望ましい。
【0031】
なお、上記管体の具体的構成元素として、C:0.40%〜0.60%、Si:0%を越えて1.0%以下、Mn:0%を越えて1.0%以下、Cr:15%〜40%、Ni:18%〜60%、W:0.5%〜2.0%、Nb:0%を越えて0.50%以下、Al:2.0%〜4.0%、希土類元素:0.05%〜0.15%、Ti:0.05〜0.20%、残部Fe及び不可避的不純物からなる材料を例示できる。なお、不可避的不純物として、P、Sを例示でき、これらは合計量で0.06%を上限とする。
【0032】
管体の内表面には、Al:2.0%以上含有する肉盛溶接粉末を肉盛溶接することで突起を形成することができる。Alは、アルミナバリア層を形成するAl酸化物の必須材料であり、アルミナバリア層の安定形成能や再生能を発揮するために突起に2.0%以上含有させる。
【0033】
たとえば、管本体12には、
図1に示すように、その内面に撹拌部材として突起14を形成することができる。突起14は、後述する肉盛溶接用粉末を管本体12の内面に肉盛溶接することで形成することができる。突起14は、
図1(a)に示すように、連続した螺旋状の突起列として形成することができる。突起列の数は、1又は複数条とすることができる。また、
図1(b)及び
図1(c)は、突起14と突起14の間にスリット16を設けた形状である。スリット16は、隣り合う突起列どうしで管軸方向に平行に設けることもできるし、隣り合う突起列どうしのスリット16を管本体12の周面方向にずらして形成することもできる。突起14は、螺旋状の突起列に限定されず、管軸に垂直な向きに形成することもできる。
【0034】
管本体12の内面に突起14を形成することで、管本体12の内部を流通する炭化水素ガスは、突起14を乗り越える際に突起14の周縁で旋回するスワール流を生じ、撹拌されることで、管本体12との熱交換を行なうことができ、反応管10の熱分解効率を可及的に高めることができる。
【0035】
突起14は、下記組成の肉盛溶接用粉末を、管本体12の内面にPPW(Plasma Powder Welding)や粉体プラズマ溶接(PTA(Plasma Transferred Arc)溶接)などの肉盛溶接法により、肉盛ビードとして形成することができる。
【0036】
肉盛溶接粉末の望ましい構成元素として、C:0.2%〜0.6%、Si:0%を越えて1.0%、Mn:0%を越えて0.6%以下、Cr:25%〜35%、Ni:35%〜50%、Nb:0.5%〜2.0%、Al:3.0%〜6.0%、Y:0.005%〜0.05%、残部Fe及び不可避的不純物からなる材料を例示できる。そして、この肉盛溶接用粉末を使用することで、突起13は同成分に形成される。なお、不可避的不純物として、P、Sを例示でき、これらは合計量で0.01%を上限とする。
【0037】
上記突起の成分限定理由は、以下の通りである。
【0038】
C:0.2%〜0.6%
Cは、高温クリープ破断強度を高める作用がある。このため、少なくとも0.2%を含有させる。しかし、含有量があまり多くなると、Cr
7C
3の一次炭化物が幅広く形成され易くなり、アルミナバリア層を形成するAlの母材内での移動が抑制されるため、鋳造体の表面部へのAlの供給不足が生じて、アルミナバリア層の局部的な寸断が起こり、アルミナバリア層の連続性が損なわれる。このため、上限は0.6%とする。なお、Cの含有量は0.3%〜0.5%がより望ましい。
【0039】
Si:0%を超えて1.0%以下
Siは、脱酸剤として、また溶接時の材料の流動性を高めるために含有させる。しかしながら、含有量があまり多くなると高温クリープ破断強度の低下や酸化されて緻密性の低い酸化物層の形成を招き、また、溶接性を低下させるので上限は1.0%とする。なお、Siの含有量は0.6%以下がより望ましい。
【0040】
Mn:0%を超えて0.6%以下
Mnは、溶湯合金の脱酸剤として、また溶湯中のSを固定するために含有させるが、含有量があまり多くなるとMnCr
2O
4の酸化物被膜が形成され、また、高温クリープ破断強度の低下を招くので上限は0.6%とする。なお、Mnの含有量は0.3%以下がより望ましい。
【0041】
Cr:25%〜35%
Crは、高温強度及び耐酸化性の向上への寄与の目的のため、25%以上含有させる。しかし、含有量があまり多くなるとクロム酸化物(Cr
2O
3等)が形成され、アルミナバリア層の形成が阻害されるため、上限は35%とする。なお、Crの含有量は27%〜33%がより望ましい。
【0042】
Ni:35%〜50%
Niは、耐浸炭性、耐酸化性及び金属組織の安定性の確保に必要な元素である。また、Niは、アルミナバリア層の再生能を高める働きがある。また、Niの含有量が少ないと、Feの含有量が相対的に多くなる結果、鋳造体の表面にCr−Fe−Mn酸化物が生成され易くなるため、アルミナバリア層の生成が阻害される。このため、少なくとも35%以上含有させるものとする。一方で、50%を超えて含有させても、増量による効果は飽和するので、上限は50%とする。なお、Niの含有量は38%〜47%がより望ましい。
【0043】
Nb:0.5%〜2.0%
Nbは、溶接割れの発生を抑え、さらには、NbCを形成してクリープ強度を高めることができるため、0.5%以上含有させる。一方で、Nbは、アルミナバリア層の耐剥離性を低下させるため上限は2.0%とする。なお、Nbの含有量は1.0%〜1.5%がより望ましい。
【0044】
Al:3.0%〜6.0%
Alは、アルミナバリア層を形成するAl酸化物の必須材料である。突起14のアルミナバリア層の安定形成能や再生能を発揮するために、Alは3.0%以上含有させる。一方で、Alの含有量が6.0%を越えると、これら能力は飽和するから、上限は6.0%とする。なお、Alの含有量は3.0%を越えて5.0%未満がより望ましい。
【0045】
Y:0.005%〜0.05%
Yは、肉盛溶接の際に、溶接ビードの蛇行を抑え、溶接性を高めるために0.005%以上添加する。一方で、Yの含有量が0.05%を越えると、突起14の延靭性の低下を招くので、上限は0.05%とする。なお、Yの含有量は0.01%〜0.03%がより望ましい。
【0046】
なお、Yは、Alの含有量に対して、0.002倍以上含有させることが望ましい。すなわち、Y/Al≧0.002である。これにより、Alの添加によって阻害される溶接性の低下を、Yによって補うことができる。なお、次に示す希土類元素をさらに添加する場合には、(Y+希土類元素)/Al≧0.002とすることが望ましい。
【0047】
その他、肉盛溶接材料には、下記元素を添加することができる。
【0048】
希土類元素:0.01%〜0.20%
希土類元素は、周期律表のLaからLuに至る15種類のランタノイドを意味する。希土類元素は、Laを主体とすることが好適であり、Laが前記希土類元素の80%以上、望ましくは90%以上占めることが望ましい。希土類元素は、アルミナバリア層の安定形成能に寄与するため、0.01%以上含有させる。一方で、希土類元素の含有量が0.20%を越えると、この能力は飽和するから、上限は0.20%とする。なお、希土類元素の含有量は0.01%を越えて0.10%以下がより望ましい。
【0049】
W:0%を越えて2.0%以下、Mo:0%を越えて1.0%以下、Ti及び/又はZrを合計量:0%を越えて0.5%以下、及び、Hf:0%を越えて0.5%以下からなる群より選択される1種以上の元素
これら元素は、耐浸炭性を高める効果を有し、高温強度改善のために添加する。しかしながら、過剰の添加は延靭性の低下等を招くため、含有量は上記規定の通りとする。
【0050】
本発明の管体は、たとえば、以下の要領で製造することができる。
【0051】
管体は、上記成分組成の溶湯を溶製し、遠心力鋳造、静置鋳造等により管状に鋳造される。本発明は、遠心力鋳造により作製される管本体に特に好適である。遠心力鋳造を適用することで、金型による冷却の進行によって径方向に微細な金属組織が配向性をもって成長し、金属酸化物層を形成する金属元素(たとえばAl)が移動し易い合金組織を得ることができるためである。これにより、後述する熱処理において、薄い金属酸化物層(たとえばアルミナバリア層)でありながら、繰り返し加熱の環境下でもすぐれた強度を有する酸化物被膜の形成された管本体12を得ることができる。
【0052】
<機械加工>
得られた管体を所定の寸法に切断し、曲直しによって曲がりを矯正した後、内面に粗加工を施し、端部に溶接のための開先加工を行なう。
【0053】
<突起の肉盛溶接>
管体の内表面にPPWやPTA溶接などによって、上記組成の肉盛溶接用粉末を肉盛溶接する。肉盛溶接用粉末には、上記範囲でYを含有しているため、溶接ビードの蛇行が抑えられ、良好な溶接性を具備する。これにより、管体の内表面に突起が形成される。たとえば管本体12では、
図1に示すように管本体12の内内面に突起14が肉盛溶接されることで反応管10を得ることができる。なお、管体の内表面に突起を形成する必要がない場合には、この工程は不要である。
【0054】
<表面加工工程>
管体の内表面、突起を形成した場合には管体の内表面及び突起の表面(以下、これらを合わせて「管体の表面」と称する)に表面加工を施す。表面加工として、ブラスト処理やホーニング処理を例示できる。なお、ホーニング処理の場合、前処理として、ボーリング処理及びスカイビング処理を施すことが望ましい。突起を形成する場合には、ボーリング処理やスカイビング処理は突起形成前に実施すれば良い。
【0055】
表面加工は、管体の表面が、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30となるように実施する。Saは、2.5≦Sa≦4.0とすることが望ましい。また、Sskは、|Ssk|≦0.20とすることが望ましい。
【0056】
管体の表面を上記のように加工することで、管体の表面に表面加工によるムシレの発生を抑えることができ、また、管体の表面に表面加工による残留応力を付与できる。これにより、続く熱処理において、高温の再結晶時に表面直下の結晶粒径が微細化して、略均等に金属酸化物層を形成する金属元素(たとえばAl)が表面に移動し易くなり、上記金属元素を管体の表面で濃化することができ、金属酸化物を含む金属酸化物層を管体の表面に高い面積率で形成することができる。
【0057】
Sa及びSskについて、Sa>5.0又は|Ssk|>0.30の場合、管体の表面にはムシレが存在することになる。ムシレ部分で金属酸化物を形成する金属元素が表面に濃化せず、金属酸化物が管体の内部に形成され、表面に金属酸化物が上手く形成されず、金属酸化物層の面積率が低下する。また、金属酸化物を形成する金属元素が表面に移動したとしても、ムシレ部分は、比表面積が大きいから、供給された金属元素が分散して、当該金属元素を濃化させることができず、十分な金属酸化物が形成されないと考えられる。
【0058】
一方、Sa<1.5である場合、表面加工によって管体の表面に十分な残留応力を付与することができず、熱処理によっても金属酸化物を形成する金属元素が表面に濃化し難く、金属酸化物を十分に形成することができない。従って、Saは、Sa≧1.5とすることが好適であり、望ましくはSa≧2.5としている。
【0059】
なお、管体の表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)をSku≧2.5とすることが望ましい。Sku≧2.5の状態は、表面の高さ分布がやや尖っている状態であり、Sku≧2.5とすることにより、ムシレの頻度や密集度の大きさを確認することができる。なお、Sku≧3.0とすることが望ましい。
【0060】
<熱処理>
管体の表面に上記表面加工を施した後、管体を酸化性雰囲気下(酸素を20体積%以上含む酸化性ガス、スチームやCO
2が混合された酸化性環境)で熱処理することで、管体の内表面(突起が形成されている場合には突起の表面を含む)に金属酸化物層(たとえばアルミナバリア層)が形成される。なお、この熱処理は、独立した工程として実施することもできるし、加熱炉に管体を設置して使用される際の高温雰囲気においても実施することができる。
【0061】
熱処理を施すことにより、管体の表面が酸素と接触し、基地表面に拡散したAl、Cr、Ni、Si、Feを酸化させて金属酸化物層が形成される。800℃以上の好適な温度範囲において1時間以上の熱処理を行なうことで、管体の内表面(突起が形成されている場合には突起の表面を含む)では、Alを含有する場合、Cr、Ni、Si、Feよりも優先してAlが酸化物(Al
2O
3)を形成し、Al酸化物が主体のアルミナバリア層が形成される。
【0062】
本発明の管体は、内表面、突起が形成されている場合には突起の表面に形成された金属酸化物層によって、高温雰囲気下の使用において、すぐれた耐酸化性、耐浸炭性、耐窒化性、耐食性を長期に亘って維持できる。従って、本発明の管体を管本体12とする反応管10の寿命を大幅に向上でき、操業効率を可及的に高めることができる。本発明の管体は、操業温度が700℃〜800℃程度のオレフィン製造用反応管、操業温度が500℃〜600℃程度のスチレンモノマー製造用反応管として好適である。
【実施例】
【0063】
高周波誘導溶解炉の大気溶解により本発明の組成の合金溶湯を溶製し、遠心力鋳造し、表面に粗加工を施した供試材(発明例1〜発明例7、比較例1〜比較例6)を作成した。得られた供試材の表面に表1及び表2に示す表面加工を施した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1中の表面加工の詳細を表2に示している。表2中の各処理について、供試材に対して実施した表面加工にチェックを入れている。何れの表面加工においても、供試材の表面に切削加工による「ボーリング」処理を施している。その他の処理の詳細は以下の通りである。
【0067】
「鏡面研磨」は、微粉状の研磨材を用いてバフ研磨を施した処理である。「#1000ペーパー」は、1000番のサンドペーパーを用いて表面を研ぐ処理である。「スカイビング」は、切削加工の処理であり、「スカイビング1」と「スカイビング2」は、チップ形状と加工工具回転数の点で異なる。「ホーニング」は、研削加工の処理である。「ブラスト」は、研削材として平均粒径60μmのアルミナを噴射するブラスト処理である。「2カット+ホーニング」は、ボーリング処理及びスカイビング処理を施した後、ホーニング処理を施している。
【0068】
表面加工を施した各供試材について、その表面の20mm×10mm以上の領域に、ワンショット3D測定マイクロスコープVR−3100(株式会社キーエンス製)を用いて表面粗さとプロファイルを測定した。測定条件は、約20mm×約7mmの面積に対し、倍率80倍、スーパーファインモードと深度合成モード、両側照明とし、自動画像連結を利用して実施した。
【0069】
得られた供試材の三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)、表面高さ分布の偏り度(Ssk)、及び、表面高さ分布の尖り度(Sku)を表1に示す。また、比較のために、表面粗さ(Ra)の測定結果を表1に合わせて示す。
【0070】
表1を参照すると、発明例及び比較例は、比較例1乃至比較例3を除いて、何れも1.5≦Sa≦5.0を満たしている。比較例1及び比較例2はSa<1.5であり、比較例3はSa>5.0であった。
【0071】
また、Sskについて、すべての発明例及び比較例1〜3は|Ssk|≦0.30を満足するが、比較例4〜6は|Ssk|>0.30であった。
【0072】
Skuは何れの供試材もSku≧2.5を満たしていた。
【0073】
一方、二次元表面粗さ(Ra)は、スカイビング1を施した比較例3以外は何れも1.0〜2.5μmの範囲にあり、表面加工の違いによる有意差は見られなかった。
【0074】
参考のため、発明例2、発明例5、比較例3、比較例4について、表面画像、3D画像、及び、表面のプロファイルを
図2乃至
図5に示す。
図2は発明例2、
図3は発明例5、
図4は比較例3、
図5は比較例4である。
【0075】
図2、
図3を参照すると、発明例2及び発明例5は何れも表面にムシレは見られず、ほぼ一定の凹凸形状を有していることがわかる。一方、
図4、
図5を参照すると、図中丸印で囲んだ規則的なパターンの中で、点線で区切った領域は大きく凹んでおり、その凹みの中に小さな突起が多数あるムシレの発生が確認できた。ムシレは、ボーリングやスカイビング時に刃先で切断された素材が未切断の素材を部分的にむしり取り、この部分が塑性変形し、引っ張られて延性破断した状態であると考えられる。
【0076】
表面加工を施した各供試材を酸化雰囲気中で熱処理し、表面にAl酸化物を含むアルミナバリア層を形成した。そして、各供試材表面の1.35mm×1mmの領域について、SEM/EDX測定試験器を用いてAl酸化物の分布状況を面分析によって測定した。結果を上記表1に示している。
【0077】
表1を参照すると、発明例は何れもAl酸化物の面積率が90%を越えている。これは、発明例について、Sa、Sskが本発明で規定する範囲に入っているため、供試材表面のムシレ発生を抑制できたことを意味する。そして、これにより、熱処理の際に管体の内部から内表面に向けてAlを略均等に移動させることができ、アルミナバリア層を好適に形成できたものである。
【0078】
一方、比較例は何れもAl酸化物の面積率が90%以下である。比較例1及び比較例2は、鏡面研磨、#1000ペーパー処理によってSaが、Sa<1.5と小さくなりすぎた結果、表面加工によって管体の内表面に十分な残留応力を付与することができず、熱処理によってもAlが表面に濃化し難く、Al酸化物を十分に形成することができなかったものと考えられる。比較例3は、Sa>5.0となっており、Raも基準となる2.5を超えている。これは、加工歪みが過剰に残留した状態となり、Cr酸化物スケールが生成されやすくなると考えられる。また、比較例4乃至比較例6は、|Ssk|>0.30であり、供試材の表面にムシレが存在し、ムシレ部分でAlが表面に濃化せず、酸化アルミニウムが供試材の内部に形成され、表面にAl酸化物が上手く形成されなかったものと考えられる。そして、ムシレ部分は、比表面積が大きいから、供給されたAlが分散して、Alを濃化させることができず、十分にAl酸化物が形成されなかったものと考えられる。
【0079】
とくに、「2カット+ホーニング」の発明例5乃至発明例7と「1カット+ホーニング」の比較例5及び比較例6は、スカイビング処理の有無が異なるのみである。しかしながら、これら発明例は|Ssk|≦0.25であり、これら比較例は|Ssk|>0.25であって、Al酸化物の面積率も比較例は発明例に比べて劣っている。これは、比較例にムシレが発生しているためであり、ボーリングの後ホーニングを行なうだけでは、ボーリングにより生じたムシレがホーニングで十分に除去されていないことが原因であると考えられる。
【0080】
表面に突起を肉盛溶接する場合、切削加工であるボーリングやスカイビングを突起部分に施すことが困難であるから、突起の肉盛溶接前にこれらの加工を行なう必要がある。このため、突起には何らの加工も施されないから、突起表面の表面粗さ(Sa)は大きくなって、Al酸化物を上手く形成することはできない。一方、ブラストやホーニングは形成された突起に対しても実施できるから、突起表面のSa、Sskを調整することができ、突起にも好適にAl酸化物を形成することができる。
【0081】
上記のとおり、Raには発明例と比較例との間で有意差は見られないが、Sa、Sskを調整することで、Al酸化物の面積率を高めることができたことがわかる。
【0082】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【解決手段】本発明に係る高温雰囲気で使用される管体は、質量%にて、Cr:15%以上、及び、Ni:18%以上を含有する耐熱合金から構成され、内表面は、三次元表面粗さの算術平均粗さ(Sa)が1.5≦Sa≦5.0、且つ、表面高さ分布の偏り度(Ssk)が|Ssk|≦0.30である。前記耐熱合金は、質量%にて、Al:2.0%以上を含有することができる。前記内表面は、三次元表面粗さの表面高さ分布の尖り度(Sku)がSku≧2.5とすることができる。