(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1のピッチの周期的形状を有する第1の回折格子領域と、前記第1のピッチと異なる第2のピッチの周期的形状を有する第2の回折格子領域と、前記第1のピッチの周期的形状を有する第3の回折格子領域とが、光の出射側から光の進行方向に沿って順に接して並ぶ回折格子と、
光の出射側の端面に形成される反射抑制膜と、
前記光の出射側の端面とは反対側の端面に形成される反射膜と、
を備える半導体レーザ素子であって、
光の進行方向に沿う長さは、前記第1の回折格子領域が前記第3の回折格子領域より長く、
前記第1の回折格子領域の位相と前記第3の回折格子領域の位相が、0.6π以上0.9π以下の範囲でシフトするとともに、前記第1及び前記第2の回折格子領域の境界において前記第1及び前記第2の回折格子領域の位相が連続するよう、かつ前記第2及び前記第3の回折格子領域の境界において前記第2及び前記第3の回折格子領域の位相が連続するよう、前記第2の回折格子領域は、前記第2のピッチ及び前記第2の回折格子領域の光の進行方向に沿う長さを有し、
前記回折格子の光結合効率と前記回折格子の光の進行方向に沿う長さとの積が2.0以上2.5以下であり、共振器構造が分布帰還型である、
ことを特徴とする、半導体レーザ素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
回折格子を有する半導体レーザ素子の伝送速度を高速化させる手法として、活性層の共振器長Lを短くさせる手法と、回折格子の光結合効率κを上げる手法とが考えられる。前者の手法により活性層の体積を減少させることが出来、後者の手法により素子のしきい利得を低減し微分利得を向上させることが出来る。後者の手法は、特に、歪が導入された量子井戸レーザにおいてしきい利得を下げることにより微分利得が向上することが知られている。微分利得の向上により緩和振動周波数f
rが増大する。緩和振動周波数f
rは駆動電流I
m(=レーザへの注入電流−しきい電流)と共振器長Lとの間に、以下の(数式1)の関係がある。
【0008】
【数1】
【0009】
緩和振動周波数f
rを増大させることにより、伝送速度の高速化を実現させるとともに、マスクマージンなどの特性を向上させることに寄与する。発明者らは、同一ウェハ内で、以下に説明するDFBレーザ素子(以下、参考例に係る半導体レーザ素子)を作製し、その特性について検討を行った。参考例に係る半導体レーザ素子のうち、第1の参考例に係る半導体レーザ素子が、λ/4シフト回折格子構造を有するDFBレーザ素子であり、第2の参考例に係る半導体レーザ素子が、CPM回折格子構造を有するDFBレーザ素子である。
【0010】
第1の参考例に係る半導体レーザ素子は、伝送速度10Gb/sのλ/4シフト回折格子構造を有する従来のリッジ型DFBレーザ素子と同様の構造であって、従来のDFBレーザ素子より回折格子の光結合効率κが大きいDFBレーザ素子である。当該DFBレーザ素子の両端面のうち、信号光を取り出す前端面に反射抑制膜が、後端面に反射膜が、それぞれ形成されている。また、回折格子はλ/4シフトのシフト位置を後端面側に近づけて配置している非対称構造となっている。第1の参考例に係る半導体レーザ素子の構造は、非特許文献3に開示される10Gb/sのλ/4シフト回折格子構造を有するリッジ型DFBレーザ素子と同じである。非特許文献3に開示されるDFBレーザ素子では、κLをおよそ1と、共振器長Lを200μmと、それぞれしており、光結合効率κはおよそ50cm
−1である。これに対して、第1の参考例に係る半導体レーザ素子では、共振器長Lを150μmとしている。さらに、回折格子の光結合効率κを120cm
−1と大きい値にしている。これにより、同じ駆動電流I
mでの緩和振動周波数f
rが増大されることが確認された。
【0011】
しかし、発明者らは、第1の参考例に係る半導体レーザ素子の小信号変調周波数特性の低域側での変調特性劣化が顕著となることを見出した。以下、これについて説明をする。
図8は、参考例に係る半導体レーザ素子の小信号光応答特性を示す図である。図には、第1の参考例に係る半導体レーザ素子の小信号光学応答特性が曲線101で、第2の参考例に係る半導体レーザ素子の小信号光応答特性が曲線102で、それぞれ示されている。図の縦軸は、光応答であり、1目盛は3dBである。図の横軸は、周波数f(GHz)である。なお、図に示す破線は−3dBの光応答を示している。また、半導体レーザ素子の駆動温度を55℃とし、駆動電流I
mを50mAとしている。
【0012】
図8の曲線101が示す通り、第1の参考例に係る半導体レーザ素子の小信号光応答は、周波数の低い領域(0〜数GHz)におけて、急激に低下しており(帯域のロールオフ)、応答特性が劣化している。その結果、周波数帯域を示すf3dBは約4GHzと低くなっている。このような低域側での特性劣化は、一般には、半導体レーザの構造に起因する寄生抵抗や寄生容量が組み合わさってできる寄生回路に起因するものとして解釈されている。しかし、発明者らは、この原因について鋭意に検討した結果、第1の参考例に係る半導体レーザ素子の周波数特性の低域側での特性劣化は寄生回路に起因するのではなく、後述する通り、λ/4シフト構造に起因するとの知見を得た。
【0013】
第2の参考例に係る半導体レーザ素子は、第1の参考例に係る半導体レーザ素子と等しい光結合効率κを有し、λ/4シフトをCPM構造としたDFBレーザ素子である。第2の参考例に係る半導体レーザ素子は、第1の参考例に係る半導体レーザ素子のλ/4シフトのシフト位置を中心に、ピッチが変調される回折格子領域を備えるCPM回折格子構造を有している。すなわち、かかる回折格子領域を後端面側に近づけて配置する非対称構造となっている。
【0014】
図8の曲線102が示す通り、第2の参考例に係る半導体レーザ素子の小信号光応答は、第1の参考例と異なり、低域での特性劣化が抑制されており、f3dBは20GHzと顕著に高くなっている。よって、第1の参考例に係る半導体レーザ素子と比べて非常に高い周波数応答特性を得ることが出来ている。
【0015】
第1及び第2の参考例に係る半導体レーザ素子の周波数特性の違いのように、回折格子構造による周波数特性の違いは今まで公になっておらず、発明者らが初めて明らかにしたことである。また、この回折格子構造による低域での周波数応答特性の違いは、光結合効率κが75cm
−1と小さい場合にはその差異は小さく、光結合効率κが120cm
−1
以上と大きい場合には差異が明確になることを、発明者らは実験より明らかにした。
【0016】
一方、第2の参考例に係る半導体レーザ素子は、第1の参考例に係る半導体レーザ素子と比較して、高い周波数応答特性を得ることが出来たが、単一モードの製造歩留まりが低下してしまうという問題があることを、発明者らは見出した。発明者らが複数作製した第2の参考例に係る半導体レーザ素子には、単一モード波長で発振する素子も含まれるものの、2つの波長で発振する2モード発振の素子や、注入電流を増やすと単一モードから2モード発振へ変わる素子が含まれていた。
【0017】
以上、説明した通り、λ/4シフト回折格子構造において、回折格子の光結合効率κを上げると、周波数特性の低域側での特性が劣化する(第1の参考例)。一方、CPM回折格子構造とすることにより、周波数特性の低域側での特性は向上するが、単一モードの製造歩留まりが低下してしまう(第2の参考例)。本発明は、かかる課題を鑑みてなされてものであり、本発明の目的は、周波数特性の向上と製造歩留まりの向上がともに実現される半導体レーザ素子及び光半導体装置の提供とする。
【0018】
なお、第1及び第2の参考例に係る半導体レーザ素子の周波数特性の違いを、発明者らが鋭意に考察した結果、λ/4シフト回折格子構造とCPM回折格子構造における空間的ホールバーニングの違いで説明されることを、発明者らは見出しており、それを以下に説明する。
【0019】
図9Aは、第1の参考例に係る半導体レーザ素子におけるキャリア密度と光密度の分布を示す図であり、
図9Bは、第2の参考例に係る半導体におけるキャリア密度と光密度の分布を示す図である。考察を簡単にするために、第1の参考例におけるλ/4シフトのシフト位置を、素子の両端面の中心としており対称構造としている。同様に、第2の参考例における位相シフトのための回折格子領域(ピッチ変調領域CPM)の中心を、素子の両端面の中心としている。
図9A及び
図9Bそれぞれにおいて、光出力が大きい場合の光密度を曲線LD1で、光出力が小さい場合の光密度を曲線LD2で、それぞれ示している。さらに、光出力が大きい場合のキャリア密度を曲線CD1で、光出力が小さい場合のキャリア密度を曲線CD2で、それぞれ示している。
【0020】
図9Aに示すλ/4シフト回折格子構造では、λ/4シフトのシフト位置に、光が集中するために誘導放出によりキャリアはシフト位置を中心に局所的に減少する。小信号変調特性を測定する時のように、半導体レーザ素子に注入されている電流がバイアス電流を中心に変調される場合について考える。注入されている電流が多く光出力が大きいとき、シフト位置付近の光密度が局所的に大きくなるので、キャリアの局所的な減少が大きくなる。キャリアが局所的に減少すると、キャリアの空間的な密度勾配(濃度勾配)が生じることになるので、キャリアは密度勾配を補償するように半導体レーザ素子の活性層内を光軸に沿う方向を含む横方向に移動する。注入されている電流が減るとシフト位置の光密度は相対的に減少するので、密度勾配は光出力が強い場合よりも緩くなり、活性層内を該横方向と反対方向に移動する。キャリアである自由電子と正孔のうち、正孔の移動度は低いので上述した活性層内の横方向のキャリア移動の応答速度は正孔の移動度で決まりその応答速度は遅くなる。このキャリアの横方向の移動により低域での特性劣化が起こっていると考えられる。
【0021】
これに対して、
図9Bに示すCPM回折格子構造では、位相シフトが空間的に漸次的に起こっているために、シフト位置及びその近傍における光密度の増大は、
図9Aに示すλ/4シフト回折格子構造より緩やかで分散している。よって、誘導放出によるキャリア減少も緩やかなので、変調による光密度の増大に伴うキャリア密度の減少も空間的に緩やかになり、その結果、キャリアの密度勾配は小さく、横方向のキャリア移動も小さい。よって、CPM回折格子構造では、周波数特性での低域での劣化が抑制され、特性の広帯域化が実現できると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る半導体レーザ素子は、{第1のピッチの周期的形状を有する第1の回折格子領域と、前記第1のピッチと異なる第2のピッチの周期的形状を有する第2の回折格子領域と、前記第1のピッチの周期的形状を有する第3の回折格子領域とが、光の出射側から光の進行方向に沿って順に接して並ぶ回折格子}と、光の出射側の端面に形成される反射抑制膜と、前記光の出射側の端面とは反対側の端面に形成される反射膜と、を備える半導体レーザ素子であって、光の進行方向に沿う長さは、前記第1の回折格子領域が前記第3の回折格子領域より長く、前記第1の回折格子領域の位相と前記第3の回折格子領域の位相が、0.6π以上0.9π以下の範囲でシフトするとともに、前記第1及び前記第2の回折格子領域の境界において前記第1及び前記第2の回折格子領域の位相が連続するよう、かつ前記第2及び前記第3の回折格子領域の境界において前記第2及び前記第3の回折格子領域の位相が連続するよう、前記第2の回折格子領域は、前記第2のピッチ及び前記第2の回折格子領域の光の進行方向に沿う長さを有する、ことを特徴とする。
【0023】
(2)上記(1)に記載の半導体レーザ素子であって、共振器構造が分布帰還型であってもよい。
【0024】
(3)上記(1)又は(2)に記載の半導体レーザ素子であって、リッジ型構造又は埋込型構造のいずれかの構造を有していてもよい。
【0025】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の半導体レーザ素子であって、InGaAlAs多重量子井戸を含む活性層をさらに備えていてもよい。
【0026】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の半導体レーザ素子であって、前記回折格子の光結合効率が120cm
−1以上であってもよい。
【0027】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の半導体レーザ素子であって、前記回折格子の光の進行方向に沿う長さが150μm以下であってもよい。
【0028】
(7)本発明に係る光半導体装置は、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の半導体レーザ素子、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、周波数特性の向上と製造歩留まりの向上がともに実現される半導体レーザ素子及び光半導体装置の提供が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0032】
[第1の実施形態]
本発明に係る第1の実施形態に係る半導体レーザ素子は、CPM回折格子構造を有するDFBレーザ素子であり、1.3μm帯で発振するリッジ型レーザ素子である。すなわち、レーザ素子の共振器構造がDFB型(分布帰還型)であり、レーザ素子の光閉じ込め構造及び電流狭窄構造がリッジ型構造である。当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、光ファイバ通信用送信光源として用いることが出来る。
図1は、当該実施形態に係る半導体レーザ素子主要部の全体斜視図であり、
図2は、当該実施形態に係る半導体レーザ素子の断面図である。
図2には、レーザ素子内部の光の光軸を含み積層方向に広がる断面が示されている。
【0033】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、n型InP基板1に半導体多層が積層された素子である。なお、n型InP基板1の上表面にはn型InPバッファ層が形成されているが、
図1及び
図2には図示されていない。
図1及び
図2に示す通り、n型InP基板1に、n型InGaAlAs−SCH層2、InGaAlAs−MQW層3、p型InGaAlAs−SCH層4、p型InAlAs電子ストップ層5、InGaAsPエッチストップ層6、及びInGaAsP回折格子層7が、順に積層され、半導体多層を形成している。ここで、InGaAlAs−MQW層3は、5層の井戸層を有する多重量子井戸(Multi Quantum Well)層である。また、InGaAsPエッチストップ層6とInGaAsP回折格子層7は、同一の組成でも良いし、異なる組成の混晶結晶でも良い。
【0034】
InGaAsP回折格子層7の上表面のうち、光導波路の上方となる領域に、ローメサ構造のp型InPクラッド層8及びp型InGaAsコンタクト層9が、順に形成されている。すなわち、当該半導体レーザ素子はリッジ構造を有している。InGaAsP回折格子層7の上表面のうちローメサ構造が形成されていない領域、及びローメサ構造の側面を覆うように、SiO
2保護膜10が形成されている。さらに、SiO
2保護膜10を覆うように、ポリイミド層11が形成されている。さらに、Ti/Pt/Auからなるp型電極12がp型InGaAsコンタクト層9と接して形成され、AuGe/Ni/Ti/Pt/Auからなるn型電極13がn型InP基板1の下表面(裏面)に形成される。ここで、”/”は、左側の物質から右側の物質の順に積層されていることを意味している。また、ポリイミド層11は、p型電極12のパッド部に起因する寄生容量を低減させるために形成されている。なお、
図1は、説明を簡単にするために、当該実施形態に係る半導体レーザ素子の主要部が表されており、実際には、半導体多層は図の両側より広がって形成されている。また、後述するInGaAsP導波路層14が形成される部分は図示されていない。
図2には、説明を簡単にするために、p型InGaAsコンタクト層9、p型電極12、及びn型電極13が省略されている。
【0035】
図2に示す半導体レーザ素子の右側端面は信号光が出射する端面(前端面)であり、InGaAsP回折格子層7には、光の出射側から順に、第1の回折格子領域21(長さL
1)と、第2の回折格子領域22(長さL
2)と、第3の回折格子領域23(長さL
3)とが、光の進行方向(光導波路が延伸する方向)に沿って順に接して並んでいる。なお、
図2に示すInGaAsP回折格子層7は、光の進行方向に沿って位相の変化がわかるように正弦関数を用いて示されているが、実際には、InGaAsP回折格子層7は、各回折格子領域において、所定のピッチで周期的な凹凸形状をしている。半導体レーザ素子の右側端面と、InGaAlAs−MQW層3及びInGaAsP回折格子層7を含む半導体多層の右側端面との間には、InGaAsP導波路層14が形成されている。
【0036】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子の光の進行方向に沿って形成される両端面のうち、信号光が出射する端面(前端面)は、第1の回折格子領域21側の端面であり、当該端面に反射抑制膜15が形成されている。ここで、反射抑制膜15は端面における実効反射率が0.1%以下の低反射膜(低反射コーティング層)が望ましく、ここでは実効反射率0.1%以下の低反射膜を用いている。しかし、これに限定されることはなく、実効反射率が1%以下の低反射膜を用いることが出来る。また、前端面とは反対側の端面(後端面)は、第3の回折格子領域23側の端面であり、当該端面に反射膜16が形成されている。ここで、反射膜16は端面における反射率が90%以上の高反射膜(高反射コーティング層)が望ましく、ここでは反射率95%の高反射膜を用いている。しかし、これに限定されることはなく、反射率が70%以上の高反射膜を用いることが出来る。なお、端面に反射抑制膜(低反射膜)を形成することは低反射膜コーティングであり、端面に反射膜(高反射膜)を形成することは高反射コーティングである。
【0037】
光が発生する活性層は、InGaAlAs−MQW層3を含んでおり、InGaAsP回折格子層7は、InGaAlAs−MQW層3の近傍に、光の進行方向に沿って配置されている。なお、回折格子は、活性層又は活性層の近傍となる層に設けられればよい。InGaAlAs−MQW層3及びInGaAsP回折格子層7を含む半導体多層の光の進行方向に沿う長さが、共振器長L
OSであり、ここでは150μmとしている。InGaAsP導波路層14の光の進行方向に沿う長さが導波路層長L
Wであり、ここでは50μmとしている。よって、半導体レーザ素子の両側端面間の距離であるレーザ素子長は200μmとなっており、共振器長L
OSを150μmと短くしているにもかかわらず、量産の製造工程において劈開を容易に行うことが可能となっている。
【0038】
InGaAsP回折格子層7の凸部の高さは53nmであり、回折格子の光結合効率κは、第1の回折格子領域21、第2の回折格子領域22、及び第3の回折格子領域23のいずれにおいても、150cm
−1である。第1の回折格子領域21及び第3の回折格子領域23は、ともに、ピッチ200nm(第1のピッチ:Λ
STD)の周期的形状を有している。これに対して、第2の回折格子領域22(CPM回折格子領域)は、ピッチ200.2996nm(第2のピッチ:Λ
CPM)の周期的形状を有している。第1のピッチと第2のピッチは互いに異なっている。第2の回折格子領域22の光の進行方向に沿う長さL
2をCPM回折格子の長さ(L
CPM)とすると、当該実施形態に係る半導体レーザ素子では、CPM回折格子の長さ(L
CPM)を50.075μmとしている。第2の回折格子領域22における等価的位相シフトが、第1の回折格子領域21と第3の回折格子領域23との間の位相シフトと同一のシフト量となるように、第2のピッチ(Λ
CPM)及びCPM回折格子の長さ(L
CPM)が決定される。第2ピッチ及びCPM回折格子の長さが適切に選択されることにより、InGaAsP回折格子層7における回折格子の位相が、第1乃至第3の回折格子領域に亘って連続して変化することが出来る。すなわち、第1の回折格子領域21及び第2の回折格子領域22の境界において、第1の回折格子領域21の位相と、第2の回折格子領域22の位相とが連続して接続され、第2の回折格子領域22及び第3の回折格子領域23の境界において、第2の回折格子領域22の位相と、第3の回折格子領域23の位相とが連続して接続される。なお、第2の回折格子領域22の中心は、共振器長L
OSとして示される部分(共振器部分)の右側端(前端)から共振器長L
OSの70%となる105μmの位置に配置されている。すなわち、共振器長L
OSの前方と後方の比が7:3となる位置である。当該実施形態では、第2の回折格子領域22の中心を、共振器部分の前端から70%となる位置としたがこれに限定されることはない。第2の回折格子領域22の中心を、共振器部分の後端よりも前端に近づけて配置する(前端より共振器長の50%未満に配置する)と、単一モード波長の歩留まりが著しく低下する。単一モード波長の歩留まりの観点からは、第2の回折格子領域22の中心を、共振器部分の先端よりも後端に近づけて配置するのが望ましく、このとき、第1の回折格子領域の長さL
1は、第3の回折格子領域の長さL
3より長い。さらに、共振器部分の前端から第2の回折格子領域22の中心までの距離が共振器長の55%以上80%以下となっているのが望ましい。ただし、第3の回折格子領域23の長さL
3が存在する範囲とする。
【0039】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、回折格子の光結合効率κが150cm
−1と高い値を有しており、さらに、共振器長L
OSが150μmと小さい値を有しており、リッジ型DFBレーザ素子であるにもかかわらず、しきい電流は、25℃において4.0mAと、55℃において5.8mAとなっており、低いしきい電流を得ることが実現されている。さらに、パルス測定での波長の単一モード歩留まりは90%以上と、歩留まりの向上が実現されている。駆動電流の平方根に対する緩和振動周波数f
rの傾きは、25℃及び55℃において、それぞれ3.4GHz/mA
1/2及び3.1GHz/mA
1/2と優れた特性が実現されている。さらに、光結合効率κが大きいにもかかわらず、小信号周波数特性は、
図8に曲線102で示すように、低域での特性劣化(帯域のロールオフ)が抑制されており、f3dBが約20GHzと高い周波数特性を得ることが出来ている。
【0040】
図3は、当該実施形態に係る半導体レーザ素子のアイパターンを示す図である。
図3において横軸の1目盛は5ps/divである。当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、低いしきい電流と高い周波数特性を有していることにより、OTU4の規格である27.952Gb/sの伝送速度で、バイアス電流が58mA、駆動温度が55℃の条件において、消光比は5.64dBが得られ、さらに、IEEEマスクのマスクマージンは21%と、高い特性が実現出来ている。なお、前述した第1の参考例に係る半導体レーザ素子についても評価を行ったが、駆動電流の平方根に対する緩和振動周波数f
rの傾きは、当該実施形態とほとんど相違はなかった。それにもかかわらず、当該実施形態と同一条件でのマスクマージンは3%と、当該実施形態と比較して非常に小さくなっている。よって、これは、第1の参考例に係る半導体レーザ素子における低域での特性劣化(帯域のロールオフ)が起因している。アイ開口では0レベルで下がりきらないためにマスクマージンが低下すると考えられている。なお、当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、駆動温度55℃における推定寿命時間は、3.2×10
5時間と高い信頼性を得ることが出来ている。
【0041】
以上、当該実施形態に係る半導体レーザ素子について説明した。前述した第2の参考例に係る半導体レーザ素子において、単一モードの歩留まりが低下する原因について鋭意に検討をした結果、素子の両端面に形成される誘電体膜の選択によって、単一モードの歩留まりの観点から最適となるCPM回折格子領域(第2の回折格子領域22)の位相シフト量が異なることを、発明者らが明らかにしたことにより、本発明はなされたものである。半導体レーザ素子の両端面に反射抑制膜が形成される場合には、CPM回折格子領域の位相シフト量がπであることが最適であるとされている。これに対して、当該実施形態に係る半導体レーザ素子においては、光の出射側の端面(前端面)に反射抑制膜が形成され、その反対側の端面(後端面)に反射膜が形成されている。端面における反射率が非対称となっているために、最適とされる位相シフト量はπとは異なる。
【0042】
図4は、単一モード歩留まりと、CPM回折格子領域における位相シフト量との関係の計算結果を示す図である。計算を施した半導体レーザ素子は、第2の参考例や当該実施形態と同様に、前端面に反射抑制膜が、後端面に反射膜が形成されており、CPM回折格子領域の中心は、回折格子(共振器長Lとして示される部分)の前端より共振器長の70%の位置に配置されている。すなわち、CPM回折格子領域の中心は、回折格子の前端より後端側に近づけて配置されている。さらに、前端面に形成される反射抑制膜の反射率は0%と、後端面に形成される反射膜の反射率は90%と、CPM回折格子領域の長さは共振器長の1/3として、計算を行っている。
【0043】
上記条件下において、回折格子の光結合効率κと共振器長Lの積であるκLが、1.0〜4.0の範囲で変化させた場合について、計算を行っている。
図4の横軸の位相シフト量は、CPM回折格子領域の両端における位相のずれを示すものである。例えば、λ/4シフトの場合には、位相シフト量はπであり、このときの位相シフト量は、図のグラフの右端の1.0(×π)として示されている。κLが1.0〜4.0の範囲のいずれにある場合であっても、位相シフト量がπ(右端)から減少するにつれて、歩留まりは向上する。そして、歩留まりが最も高くなった点を過ぎると、その後、歩留まりが低下する。例えば、κLが1.0である場合、位相シフト量がπであるときより歩留まりが向上する位相シフト量の範囲は、0.6π以上π未満である。κLが2.0である場合、歩留まりが向上する位相シフト量の範囲は、0.45π以上π未満であり、κLが2.5である場合、歩留まりが向上する位相シフト量の範囲は、0.4π以上π未満であり、κLが4.0である場合、歩留まりが向上する位相シフト量の範囲は、0.42π以上π未満である。
図6や製造精度などを鑑みて、CPM回折格子領域の位相シフト量の範囲は0.6π以上0.9π以下が望ましい。なお、さらなる歩留まり向上のために、κLが2〜2.5となる範囲において、位相シフト量の範囲は、歩留まりが80%以上となる0.55π以上0.75π以下が望ましい。
【0044】
当該実施形態では、前述の通り、回折格子の光結合効率κは150cm
−1であり、共振器長L
OSは150μmとなっており、κLは2.25である。よって、CPM回折格子領域(第2の回折格子領域22)の位相シフト量を、当該実施形態では0.75πとしている。さらに、第2のピッチ(Λ
CPM)及びCPM回折格子の長さ(L
CPM)が、第1のピッチ(Λ
STD)及び位相シフト量に基づいて、決定されている。詳細を以下の通り、説明する。第2のピッチ(Λ
CPM)は、第1のピッチ(Λ
STD)及びCPM回折格子の長さ(L
CPM)を用いて、以下の(数式2)で表すことが出来る。
【0046】
ここで、nは、位相シフト量の1/π倍の値であり、例えば、n=1のとき位相はπシフトしている。前述の通り、当該実施形態では、位相シフト量を0.75πとしており、n=0.75である。まず、第1の回折格子領域21と第3の回折格子領域23との位相シフトが0.75π(n=0.75)となるように、CPM回折格子の長さ(L
CPM)を、第1のピッチ(Λ
STD)の(n/2+M)倍(Mは自然数)に設定する。当該実施形態では、M=250としており、L
CPM=50.075μmである。次に、(数式2)の関係を満たすように、第2のピッチ(Λ
CPM)を求めると、Λ
CPM=200.2996nmとなる。なお、ここでは、n=0.75としたが、これに限定されることはない。望ましいCPM回折格子領域の位相シフト量の範囲が0.6π以上0.9π以下であるので、nを0.6≦n≦0.9となるように選択すればよい。
【0047】
さらに、位相シフト量がπであることと3π(=π+2kπ)であることは等価である。また、第2のピッチ(Λ
CPM)を第1のピッチ(Λ
STD)より短くしても、所望の位相シフト量を実現することが出来る。よって、(数式2)においてnを±(n+2k)と置換することにより、(数式2)をさらに拡張することが出来る。ここで、kは0以上の整数(k=0,1,2・・・)である。
【0048】
なお、当該実施形態では、製造工程における劈開の容易さの観点から、InGaAsP導波路層14を形成しているが、これに限定されることはなく、導波路層を用いずに活性層(を含む半導体多層)を劈開することにより形成される半導体レーザ素子であっても、同様の効果が得られることは言うまでもない。また、当該実施形態では、InGaAsPエッチストップ層6の上面に、InGaAsP回折格子層7を直接形成しているが、これに限定されることはなく、例えば、回折格子を彫り込む厚さの組成波長を変えて回折格子の光結合効率κを向上させても良い。また、回折格子をInP層の内部に形成するいわゆるフローティング型回折格子を用いても、本発明の効果が得られる。
【0049】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ素子は、本発明をBHレーザ素子に適用した場合であるが、レーザ素子の両端面に形成される誘電膜の構成は第1の実施形態と同じである。回折格子層の構造が第1の実施形態と異なっているが、これについては、後述する。なお、BHレーザ素子とは、BH構造(Buried Hetero-structure)を有する半導体レーザ素子であり、BH構造とは、活性層を含む半導体多層のうち光導波路の両側となる領域が除去されて形成されるメサストライプ構造の両側が半絶縁性半導体層で埋め込まれている構造をいう。すなわち、レーザ素子の光閉じ込め構造及び電流狭窄構造が埋込型である。
図5は、当該実施形態に係る半導体レーザ素子主要部の全体斜視図であり、
図6は、当該実施形態に係る半導体レーザ素子の断面図である。
図6には、レーザ素子内部の光の光軸を含み積層方向に広がる断面が示されている。
図5及び
図6には、説明を簡単にするために、p型電極12、及びn型電極13が省略されているが、実際には、第1の実施形態に係る半導体レーザ素子同様に、p型電極12がp型InGaAsコンタクト層9と接して形成されており、n型電極13がn型InP基板1の下表面(裏面)に形成されている。
【0050】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、n型InP基板1に半導体多層が積層された素子であるが、前述の通り、BH構造を有しており、当該半導体多層はメサストライプ構造となっている。なお、n型InP基板1の上表面にはn型InPバッファ層が形成されているが、
図1及び
図2と同様に、
図5及び
図6には図示されていない。
図5及び
図6に示す通り、n型InP基板1に、n型InGaAlAs−SCH層2、InGaAlAs−MQW層3、p型InGaAlAs−SCH層4、p型InAlAs電子ストップ層5、InP層17、InGaAsP回折格子層7、p型InPクラッド層8、及びp型InGaAsコンタクト層9が、順に積層され、半導体多層を形成している。ここで、InGaAlAs−MQW層3は、9層の井戸層を有する多重量子井戸(Multi Quantum Well)層である。また、InGaAsP回折格子層7は、InP層17及びp型InPクラッド層8の間に形成されており、いわゆるフローティング型回折格子である。当該半導体多層のうち、光導波路の外側に広がる領域が、最上層であるp型InGaAsコンタクト層9から下方へn型InP基板1の一部まで除去されメサストライプ構造となっている。なお、メサストライプ構造のメサ幅は1.3μmである。メサストライプ構造の両側(両脇)が半絶縁性半導体埋込層18で埋め込まれており、当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、前述の通り、BH構造を有するBHレーザ素子である。半絶縁性半導体埋込層18の材料は、例えば、鉄(Fe)又はルテニウム(Ru)をドーピングしたInPである。
図9に示す通り、第1の実施形態と異なり、InGaAsP導波路層14は形成されておらず、半導体レーザ素子の右側端面は、InGaAlAs−MQW層3及びInGaAsP回折格子層7を含む半導体多層の右側端面と一致している。なお、InGaAsP回折格子層7には、第1の実施形態と同様に、光の出射側から順に、第1の回折格子領域21と、第2の回折格子領域22と、第3の回折格子領域23とが、光の進行方向(光導波路が延伸する方向)に沿って順に接して並んでいる。
【0051】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子において、信号光が出射する端面(前端面)には反射抑制膜15が、その反対側の端面(後端面)には反射膜16が、それぞれ形成されている。ここで、反射抑制膜15は端面における実効反射率が0.1%以下の低反射膜(低反射コーティング層)であり、反射膜16は端面における反射率が90%の高反射膜(高反射コーティング層)である。
【0052】
InGaAlAs−MQW層3及びInGaAsP回折格子層7を含む半導体多層の光の進行方向に沿う長さが、共振器長L
OSであり、半導体レーザ素子長は共振器長L
OSである。ここでは150μmとしている。InGaAsP回折格子層7の凸部の高さは52nmであり、回折格子の光結合効率κは、第1の回折格子領域21、第2の回折格子領域22、及び第3の回折格子領域23のいずれにおいても、145cm
−1である。よって、光結合効率κと共振器長Lの積であるκL=2.175である。第1の回折格子領域21及び第3の回折格子領域23は、ともに、ピッチ202nm(第1のピッチ:Λ
STD)の周期的形状を有している。当該実施形態に係る半導体レーザ素子では、第2の回折格子領域22(CPM回折格子)の位相シフト量を0.7πとしており、(数式2)においてn=0.7である。第1の回折格子領域21と第3の回折格子領域23との位相シフトが0.7π(n=0.7)となるように、CPM回折格子の長さ(L
CPM)を、第1のピッチ(Λ
STD)の(n/2+M)倍(Mは自然数)に設定しており、当該実施形態では、M=347、L
CPM=70.1647μmである。第2の回折格子領域22(CPM回折格子領域)の第2のピッチ(Λ
CPM)は(数式2)より求まり、第2の回折格子領域22はピッチ202.2035nm(第2のピッチ:Λ
CPM)の周期的形状を有している。これにより、InGaAsP回折格子層7における回折格子の位相が、第1乃至第3の回折格子領域に亘って連続して変化することが出来る。なお、第2の回折格子領域22の中心は、共振器の前端から第2の回折格子領域22の中心までの距離は、105μm(共振器長L
OSの70%)である。
【0053】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、回折格子の光結合効率κが145cm
−1と高い値を有しており、さらに、共振器長L
OSが150μmと小さい値を有している。それゆえ、しきい電流は、25℃において2.4mAと、55℃において4.5mAとなっており、低いしきい電流を得ることが実現されている。さらに、パルス測定での波長の単一モード歩留まりは98%と、歩留まりの向上が実現されている。駆動電流の平方根に対する緩和振動周波数f
rの傾きは、25℃及び55℃において、それぞれ4.2GHz/mA
1/2及び3.4GHz/mA
1/2と優れた特性が実現されている。さらに、光結合効率κが大きいにもかかわらず、小信号周波数特性は低域での特性劣化(帯域のロールオフ)が抑制されており、f3dBが約23GHzと高い周波数特性を得ることが出来ている。当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、低いしきい電流と高い周波数特性を有していることにより、OTU4の規格である27.952Gb/sの伝送速度で、バイアス電流が55mA、駆動温度が55℃の条件において、消光比は5.7dBが得られ、さらに、IEEEマスクのマスクマージンは23%と、高い特性が実現出来ている。なお、当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、駆動温度55℃における推定寿命時間は、2.4×10
5時間と高い信頼性を得ることが出来ている。
【0054】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、活性層(を含む半導体多層)を劈開することにより形成される半導体レーザであるが、これに限定されることはなく、導波路層を集積することにより共振器長をレーザ素子長より短くした半導体レーザ素子であっても、同様の効果が得られることは言うまでもない。また、当該実施形態に係る半導体レーザ素子では、いわゆるフローティング型回折格子を用いているが、InGaAsP回折格子層7の途中まで回折格子を彫り込み、その直下にp型InAlAs電子ストップ層5を形成する回折格子を用いても、同様の効果を得られることは言うまでもない。
【0055】
[第3の実施形態]
本発明に係る第3の実施形態に係る半導体レーザ素子は、1.3μm帯で発振するリッジ型のDFBレーザ素子であり、InGaAsP導波路層14が形成されていないことに加えて、以下に説明すること以外については、第1の実施形態に係る半導体レーザ素子と同じ構造をしている。
図7は、当該実施形態に係る半導体レーザ素子の断面図であり、
図2と同様に、
図7には、レーザ素子内部の光の光軸を含み積層方向に広がる断面が示されており、
図2に導波路層長L
Wとして示される部分(InGaAsP導波路層14を含む)が示されていない以外は、
図7は
図2と同じである。
【0056】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子では、共振器長L
OSは120μmである。InGaAsP回折格子層7の凸部の高さは58nmであり、回折格子の光結合効率κは、第1の回折格子領域21、第2の回折格子領域22、及び第3の回折格子領域23のいずれにおいても、170cm
−1である。よって、光結合効率κと共振器長Lの積であるκL=2.04である。第1の回折格子領域21及び第3の回折格子領域23は、ともに、ピッチ201nm(第1のピッチ:Λ
STD)の周期的形状を有している。当該実施形態に係る半導体レーザ素子では、第2の回折格子領域22(CPM回折格子)の位相シフト量を0.71πとしており、(数式2)においてn=0.71である。第1の回折格子領域21と第3の回折格子領域23との位相シフトが0.71π(n=0.71)となるように、CPM回折格子の長さ(L
CPM)を、第1のピッチ(Λ
STD)の(n/2+M)倍(Mは自然数)に設定しており。当該実施形態では、M=249、L
CPM=50.1204μmである。第2の回折格子領域22(CPM回折格子領域)の第2のピッチ(Λ
CPM)は(数式2)より求まり、第2の回折格子領域22はピッチ201.286nm(第2のピッチ:Λ
CPM)の周期的形状を有している。これにより、InGaAsP回折格子層7における回折格子の位相が、第1乃至第3の回折格子領域に亘って連続して変化することが出来る。なお、第2の回折格子領域22の中心は、共振器の前端から第2の回折格子領域22の中心までの距離は、90μm(共振器長L
OSの75%)である。
【0057】
当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、回折格子の光結合効率κが170cm
−1と高い値を有しており、さらに、共振器長L
OSが120μmと小さい値を有している。それゆえ、リッジ型レーザ素子であるにもかかわらず、しきい電流は、25℃において2.4mAと、55℃において4.1mAとなっており、低いしきい電流を得ることが実現されている。さらに、パルス測定での波長の単一モード歩留まりは97%と、歩留まりの向上が実現されている。駆動電流の平方根に対する緩和振動周波数f
rの傾きは、25℃及び55℃において、それぞれ4.8GHz/mA
1/2及び3.7GHz/mA
1/2と優れた特性が実現されている。さらに、光結合効率κが大きいにもかかわらず、小信号周波数特性は低域での特性劣化(帯域のロールオフ)が抑制されており、f3dBが約28GHzと高い周波数特性を得ることが出来ている。当該実施形態に係る半導体レーザ素子は、低いしきい電流と高い周波数特性を有していることにより、OTU4の規格である27.952Gb/sの伝送速度で、バイアス電流が58mA、駆動温度が55℃の条件において、消光比は5.73dBが得られ、さらに、IEEEマスクのマスクマージンは32%と、高い特性が実現出来ている。
【0058】
以上、本発明の実施形態に係る半導体レーザ素子について説明した。前述の通り、半導体レーザ素子の伝送速度の高速化を実現するためには、共振器長Lを短くするのが望ましく、共振器長Lは150μm以下が望ましい。同様に、回折格子の光結合効率κをより高くするのが望ましく、光結合効率κは120cm
−1以上が望ましい。さらに、共振器長Lを短くすることと、光結合効率κを高くすることを両立しつつ、高い歩留まりを実現するために、その積であるκLは、2.0以上2.5以下の範囲にあるのが望ましい。本発明により、回折格子構造を有する半導体レーザ素子を用いる直接変調レーザ素子を、伝送速度が10Gb/s以上の高速で動作させた場合に、しきい電流が低く、高速動作時のバイアス電流及び駆動電流が小さいことが実現し、さらに、光動作波形のアイパターンにおける規定マスクのマージンを向上させることが出来る。さらに、単一モード発振歩留まりの高くすることが出来る。本発明に係る光半導体光装置は、本発明に係る半導体レーザ素子を備える光半導体装置であり、例えば、本発明に係る半導体レーザ素子が送信光源として備えられる光送受信モジュールである。本発明により、高速動作が可能であり、かつ、低消費電力である、通信光源を搭載した光半導体装置が実現できる。
【0059】
インターネットはビジネスから家庭生活に至るまで現代社会に欠かすことのできないインフラストラクチャとして定着し、データ通信、ブログから通信販売、動画、電子書籍やSNS(Social Networking Service)などに至るまでその適用範囲を広げている。このような適用範囲の拡大によりインターネットを支える光ネットワークのトラフィック量は増加の一途をたどっている。それに伴い高速ルータ装置間を接続する光通信送受信モジュールの需要が拡大している。高速ルータ間の接続距離は従来の光伝送距離に比べて短距離であり10km以下が多い。
【0060】
伝送速度は従来の10Gb/sから25〜40Gb/s以上に高速化が進んでいる。直接変調レーザ素子が備えられる送受信モジュールが実用化できるかの鍵は25−28Gb/s動作時においてアイパターン波形のマスクマージンの確保ができるかに依存する。信号を“1”と“0”に明確に判別するための基準となるマスクは通常アイパターンの中と外に設けられており、100Gb/sではIEEE (25Gb/s×4ch)やITU−T(28Gb/s×4ch)で規格化されている。さらに、ルータ装置メーカでは、異なる製造メーカの送受信モジュール間の伝送をトラブル無く伝送するためにマスクのさらに外側にマスクマージンを要求することがほとんどである。そのため、直接変調レーザ素子には広いマスクマージンで動作することが求められる。本発明の第1乃至第3の実施形態に係る半導体レーザ素子では、かかる規格のマスクマージンを満たす広いマスクマージンが実現されており、通信光源として用いられる直接変調レーザ素子に最適である。さらに、本発明に係る光半導体装置は、直接変調レーザ素子が備えられる送受信モジュールに最適である。