(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記データ収集手段は、前記同相信号及び前記直交位相信号のうち、ダイレクトデジタルシンセサイザによる生成方式以外の方式によって送信キャリアのクロックが生成される高周波送信信号に対応する前記同相信号及び前記直交位相信号用の各検波キャリアであって前記ダイレクトデジタルシンセサイザによる生成方式でクロックが生成される前記各検波キャリアのクロックの位相誤差を、前記ダイレクトデジタルシンセサイザによる生成方式以外の方式で生成されるクロックに基づいてそれぞれ補正するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、所定の周波数にダウンコンバージョンされた同相信号と直交位相信号とにそれぞれ個別のフィルタを用いて前記フィルタ処理を実行するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、前記フィルタ処理後の同相信号と直交位相信号とをアップコンバージョンせずに合成するように構成される請求項5記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、ベースバンドにダウンコンバージョンされた同相信号と直交位相信号とに共通のフィルタを用いて前記フィルタ処理を実行するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、前記フィルタ処理後の同相信号と直交位相信号とを所定の周波数にアップコンバージョンした後に合成するように構成される請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、水晶振動子を原振として生成されるクロックを分周して得られるクロックを用いてそれぞれ生成される関数を掛けることによって、前記アップコンバージョンを実行するように構成される請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、水晶振動子を原振として生成されるクロックを分周する方式によって前記送信キャリアのクロックが生成される高周波送信信号に対応する前記同相信号及び前記直交位相信号用の前記各検波キャリアであって前記ダイレクトデジタルシンセサイザによる生成方式でクロックが生成される前記各検波キャリアのクロックの位相誤差を、前記水晶振動子を原振として生成されるクロックを分周する方式で生成されるクロックに基づいてそれぞれ補正するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、前記水晶振動子を原振として生成されるクロックの周波数と、前記位相誤差の補正対象となる前記各検波キャリアのクロックの補正後の周波数との公約数に相当する周波数を有するクロックを前記水晶振動子を原振として生成されるクロックの分周によって生成し、前記分周によって生成されたクロックに基づいて前記位相誤差の補正対象となる前記各検波キャリアの前記位相誤差をそれぞれ補正するように構成される請求項12記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、前記位相誤差の補正によって補正後の前記各検波キャリアに生じるスプリアスの影響が無視できるように設定されたビット数で、前記位相誤差の補正対象となる前記各検波キャリアの生成のための前記ダイレクトデジタルシンセサイザにおける位相加算処理を実行するように構成される請求項12記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0011】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内側に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0012】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0013】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0014】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0015】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内側において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0016】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0017】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0018】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0019】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0020】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0021】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0022】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0023】
具体的には、コンピュータ32の演算装置35には、パルスシーケンスを含む撮像条件を設定してシーケンスコントローラ31に出力する機能、シーケンスコントローラ31から出力されたMR信号にフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことによってMR画像データを生成する機能、MR画像データに様々な画像処理を施す機能が備えられる。すなわち、コンピュータ32は、MR信号に基づいてMR画像データを生成する画像生成システムとしての機能を有している。
【0024】
次に、受信器30の詳細構成及び詳細機能について説明する。受信器30は受信用のRFコイル24により受信されたMR信号を周波数変換せずにAD変換するダイレクトサンプリングによってMR信号のサンプリングを行うように構成されている。
【0025】
図2は、
図1に示す送信器29及び受信器30の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【0026】
送信器29は、水晶振動子29A、分周器29B、DDS29C、DAコンバータ(DAC: digital to analog converter)29D、波形エンベロープ作成部29E、ミキサ29F及びアンプ29Gを有する。
【0027】
水晶振動子29Aを原振として生成されるアナログのクロック信号は、分周器29Bにおいて所定の周波数を有するアナログのクロック信号に分周される。一方、分周器29Bにより生成される周波数と異なる周波数、例えばより高い周波数のクロック信号がDDS29Cにおいてデジタル信号として生成される。DDS29Cにおいて生成されたクロック信号は、DAC29Dにおいてアナログのクロック信号に変換され、分周器29Bで生成されるクロック信号とともに送信キャリアとしてミキサ29Fに出力される。
【0028】
一方、波形エンベロープ作成部29において作成された包絡線を有するアナログの波形信号がミキサ29Fに出力される。これにより、波形信号がミキサ29Fで送信キャリアにより周波数変調される。変調された波形信号はRF送信信号としてアンプ29Gで増幅された後、RF送信コイル24Aに出力される。
【0029】
他方、受信器30は、アンプ30A、バンドパスフィルタ(BPF: band pass filter)30B、ADコンバータ(ADC; AD converter)30C、ダウンコンバージョン・IQ分離部30D、デジタルフィルタ30E、アップコンバート部30F、IQ合成部30G、ビットセレクタ30H及び受信検波用キャリア生成部30Iを有する。受信検波用キャリア生成部30Iは、更に第1のDDS30J及び第2のDDS30Kで構成することができる。受信器30を構成するこれらの構成要素のうち、デジタル信号を処理する構成要素は、コンピュータにプログラムを読込ませて構成するか或いは回路によって構成することができる。
【0030】
RF受信コイル24Bにより受信されたMR信号は、アンプ30Aで増幅されてBPF30Bに入力する。BPF30Bにおいて周波数帯域が制限されたアナログのMR信号は周波数変換されることなくADC30Cにおいてデジタル変換される。すなわち、受信器30では、MR信号のダイレクトサンプリングが実行される。
【0031】
AD変換後のMR信号は、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dにおいてベースバンドの周波数を有する信号にダウンコンバージョンされ、かつ同相(I: in-phase)信号と直交位相(Q: quadrature-phase)信号とに分離される。具体的には、受信検波用キャリア生成部30Iにおいて生成されるI信号及びQ信号用の各受信検波用のキャリアがダウンコンバージョン・IQ分離部30Dに出力され、ミキサによりAD変換後のMR信号が復調される。
【0032】
受信検波用キャリア生成部30Iでは、周波数別に、第1のDDS30J及び第2のDDS30Kによりデジタル信号として受信検波用キャリアが生成される。第1のDDS30Jでは、送信器29のDDS29Cにおいて生成される送信キャリアの周波数と同一の周波数を有する受信検波用キャリアが生成される。一方、第2のDDS30Kでは、送信器29の分周器29Bにおいて生成される送信キャリアの周波数と同一の周波数を有する受信検波用キャリアが生成される。
【0033】
送信器29のDDS29Cにおいてデジタル信号として生成される送信キャリアは、水晶振動子29Aを原振としていない。このため、DDS29Cにおいて生成される送信キャリアの周波数及び位相には、分周器29Bにおいてアナログ信号として生成される低周波側の送信キャリアの周波数及び位相に対して誤差が生じる。
【0034】
しかし、第1のDDS30Jにおいて生成される高周波側の受信検波用キャリアは、送信器29のDDS29Cにおける送信キャリアの生成方法と同一の方法で水晶振動子29Aを原振とせずにデジタル信号として生成される。従って、第1のDDS30Jにおいて生成される受信検波用キャリアの誤差と、送信器29のDDS29Cにおいて生成される送信キャリアの誤差とは、互いに同等となる。このため、DDS29Cにおいて生成される送信キャリアの誤差は、第1のDDS30Jにおいて生成される受信検波用キャリアの誤差によって相殺される。その結果、第1のDDS30Jでは、送信キャリアに対応する適切なタイミングで受信検波用キャリアを生成することができる。
【0035】
一方、第2のDDS30Kにおいて生成される低周波側の受信検波用キャリアも、水晶振動子29Aを原振としていない。このため、第2のDDS30Kにおいて生成される受信検波用キャリアの周波数及び位相には、分周器29Bにおいて生成される送信キャリアの周波数及び位相に対して誤差が生じる。
【0036】
そこで、第2のDDS30Kは、分周器29Bからアナログのクロック信号を取得し、取得したクロック信号に基づいて受信検波用キャリアに累積する周波数及び位相の誤差が補正されるように受信検波用キャリアの位相をゼロ等の初期値にリセットするように構成される。これにより、第2のDDS30Kにおいても、送信キャリアに対応する適切なタイミングで受信検波用キャリアを生成することが可能となる。
【0037】
つまり、MRデータ収集系を構成する受信器30では、水晶振動子29Aを原振として生成されるクロックを分周する方式によって送信キャリアのクロックが生成されるRF送信信号に対応するI信号及びQ信号用の各検波キャリアであってDDSによる生成方式でクロックが生成される各検波キャリアのクロックの位相誤差を、水晶振動子29Aを原振として生成されるクロックを分周する方式で生成されるクロックに基づいてそれぞれ補正することができる。
【0038】
そして、受信検波用キャリア生成部30Iは、上述したような位相補正後の受信検波用キャリアをダウンコンバージョン・IQ分離部30Dに出力するように構成されている。このため、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dでは、位相補正後の受信検波用キャリアを用いてI信号及びQ信号の受信検波が実行される。
【0039】
ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dから出力されるI信号及びQ信号は、デジタルフィルタ30Eに出力される。デジタルフィルタ30Eでは、I信号及びQ信号に対して個別にノイズ除去のためのフィルタ処理が施される。このI信号及びQ信号のフィルタ処理には、共通のフィルタが用いられる。具体例として、フィルタ処理には、有限インパルス応答(FIR: finite impulse response)フィルタ等のローパスフィルタ (LPF: low pass filter)を用いることができる。
【0040】
フィルタ処理後のI信号及びQ信号は、アップコンバート部30Fにおいて中間周波数にアップコンバージョンされた後、IQ合成部30Gにおいて互いに合成される。そして、IQ合成部30GからMR信号が、ビットセレクタ30Hを経由してシーケンスコントローラ31等の構成要素に出力される。
【0041】
このようにMR信号のデータ収集系を構成する受信器30は、RF受信コイル24Bで受信されたアナログのMR信号を、ダウンコンバージョンせずにデジタルのMR信号に変換し、かつデジタルのMR信号を、ベースバンドにダウンコンバージョンされたI信号とQ信号とに分離してそれぞれノイズの除去用の共通のフィルタを用いてフィルタ処理を実行するように構成されている。更に、受信器30は、フィルタ処理後のI信号とQ信号とを所定の周波数にアップコンバージョンした後に合成するように構成されている。
【0042】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
【0043】
まず予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0044】
そして、被検体Pのイメージングスキャンが実行される。すなわち、シーケンスコントローラ31や静磁場用磁石21等のスキャンを実行するための磁気共鳴イメージング装置20の構成要素で構成されるデータ収集系は、コンピュータ32において設定されたパルスシーケンスを含む撮像条件に従って被検体PからMR信号を収集する。
【0045】
より具体的には、シーケンスコントローラ31は、撮像条件に従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RF送信コイル24AからRF信号を発生させる。このため、被検体Pの内部における磁気共鳴により生じたMR信号が、RF受信コイル24Bにより受信されて受信器30に与えられる。そして、受信器30では、ダイレクトサンプリング方式によるMR信号の検波処理が実行される。
【0046】
具体的には、RF受信コイル24Bにより受信されたアナログのMR信号は、アンプ30Aで増幅された後、BPF30Bを経由してADC30Cに入力する。BPF30Bでは、アナログのMR信号の周波数帯域が制限される。BPF30Bの周波数帯域Δf
BPFは、BPF30Bに入力させるアナログのMR信号の周波数帯域をΔf
MR、アナログのMR信号の中心周波数をf
0、サンプリング周波数をf
sとするとΔf
BPF<2f
s-4f
0+2Δf
MRをとなるように設定される。
【0047】
図3は、
図2に示すBPF30Bによるフィルタ処理を伴ってサンプリングされるMR信号に重畳するノイズのサンプリング前後における変化を示す図である。
【0048】
図3(A)及び(B)において縦軸は信号の振幅Sを示し、横軸は周波数fを示す。また、
図3(A)はADC30Cにおけるサンプリング前のMR信号を示し、
図3(B)はADC30Cにおけるサンプリング後のMR信号を示す。
【0049】
図3(A)に示すように中心周波数がf
0で周波数帯域がΔf
MRのアナログのMR信号をサンプリング周波数f
sでサンプリングする場合に周波数帯域Δf
BPF<2f
s-4f
0+2Δf
MRのBPF30BでMR信号のフィルタ処理を実行すると、ノイズの周波数帯域が、BPF30Bの周波数帯域Δf
BPFに制限される。
【0050】
このため、
図3(B)に示すように、ノイズがナイキスト周波数f
s/2で折り返って増幅されたとしても、周波数帯域がΔf
MRで中心周波数がf
s-f
0となったMR信号に折り返ったノイズが重畳することを回避することができる。つまり、ADC30Cの前段に設けられるBPF30Bのフィルタ処理によって、ADC30Cにおけるサンプリング周波数に対してアナログのMR信号がナイキストの条件を満たさないアンダーサンプリング時における折返しによるノイズフロアの増加を防ぐことができる。
【0051】
ADC30CにおいてAD変換されたMR信号は、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dにおいてダウンコンバージョンされ、かつI信号とQ信号とに分離される。
【0052】
図4は、
図1に示す受信器30におけるA/D変換後のMR信号の信号処理の流れを示すブロック線図であり、
図5は、
図4に示す各信号処理によって生成されるMR信号の波形を示す模式図である。
【0053】
尚、
図5の各グラフにおいて縦軸は信号の振幅Sを示し、横軸は周波数fを示す。また、
図5中の点線は、MR信号のA/D変換前にBPF処理が実行されないと仮定した場合に生じる信号を示す。
【0054】
図5(A)に示すように±ω
0の受信帯域で受信されたMR信号からBPF30Bで抽出されたMR信号S
MR=cos(ω
0t+kt)がA/D変換の対象となる。但し、kは係数、tは時間である。従って、
図4に示すようにデジタル化されたMR信号S
MR=cos(ω
0t+kt)がダウンコンバージョン・IQ分離部30Dに与えられる。
【0055】
ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dでは、MR信号S
MRにcos(ω
0t)が乗じられる。これにより、
図5(B)に示すように周波数がベースバンドまでダウンコンバートされたI信号S
I=cos(ω
0t+kt)×cos(ω
0t)=cos(2ω
0t+kt)+cos(kt)が生成される。加えて、MR信号S
MRに-sin(ω
0t)が乗じられる。これにより、
図5(C)に示すように周波数がベースバンドまでダウンコンバートされたQ信号S
Q=cos(ω
0t+kt)×-sin(ω
0t)=-sin(2ω
0t+kt)+sin(kt)が生成される。
【0056】
次に、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dにおいて生成されたI信号及びQ信号は、デジタルフィルタ30Eにおいて、それぞれ個別にFIRフィルタ等の共通のLPFでフィルタ処理される。フィルタ処理の結果、それぞれ
図5(D)及び
図5(E)に示すように、周波数がベースバンドに制限されたI信号及びQ信号が得られる。
【0057】
デジタルフィルタ30Eでは、MR信号の周波数帯域をΔf
MRとすると、対象となる周波数帯域をΔf
MR/2以上Δf
MR以下の範囲としてフィルタ処理を実行することが望ましい。その理由は、フィルタ処理によって折り返されるノイズを低減することができるためである。
【0058】
また、デシメーション(decimation)フィルタでI信号及びQ信号のフィルタ処理を実行することにより、デジタルフィルタ30のタップ数を少なくすることができる。尚、デシメーションフィルタは、ナイキスト周波数を遮断周波数とするダウンサンプリング用のLPFである。デシメーションフィルタでフィルタ処理を実行する場合においても、デシメーションフィルタ処理後におけるサンプリング周波数をf
sdとすると、対象となる周波数帯域をΔf
MR/2以上f
sd/2以下の範囲としてフィルタ処理を実行することが望ましい。これにより、デシメーションフィルタによって生じる折り返しノイズを低減することができる。
【0059】
フィルタ処理後のI信号及びQ信号は、アップコンバート部30Fに与えられる。アップコンバート部30Fでは、フィルタ処理後のI信号及びQ信号にそれぞれcos(ω
IFt)及びsin(ω
IFt)が乗じられる。これにより、
図5(F)及び
図5(G)に示すように、それぞれ周波数が中間周波数(IF: Intermediate Frequency)にアップコンバートされたI信号S
I_IF=cos(ω
IFt+kt)+cos(ω
IFt-kt)及びQ信号S
Q_IF=-cos(ω
IFt+kt)+cos(ω
IFt-kt)が生成される。
【0060】
アップコンバート後のI信号S
I_IF及びQ信号S
Q_IFは、IQ合成部30Gにおいて合成される。具体的には、アップコンバート後のI信号S
I_IFからアップコンバート後のQ信号S
Q_IFが減算される。これにより、
図5(H)に示すように、I信号S
I_IFとQ信号S
Q_IFとを成分として合成したアップコンバート後のMR信号S
MR_IF=cos(ω
IFt+kt)+cos(ω
IFt-kt)-{-cos(ω
IFt+kt)+cos(ω
IFt-kt)}=cos(ω
IFt+kt)が生成される。
【0061】
図5(H)に示すように、
図4に示すMR信号の一連の信号処理によって、折り返されたノイズがキャンセルされたアップコンバート後のMR信号を生成できることが確認できる。アップコンバート後のMR信号は、ビットセレクタ30Hを経由してシーケンスコントローラ31等の構成要素に出力される。
【0062】
受信器30からシーケンスコントローラ31に出力されたMR信号は、シーケンスコントローラ31を通じてコンピュータ32に入力する。そして、コンピュータ32における画像再構成処理によってMR信号からMR画像データが再構成される。
【0063】
上述したダウンコンバージョン・IQ分離部30Dにおけるダウンコンバージョン及びIQ分離に使用されるI信号及びQ信号の各受信検波用キャリアは、受信検波用キャリア生成部30Iにおいて生成される。受信検波用キャリア生成部30Iにおける受信検波用キャリアの生成処理には、分周器29Bにおいて分周されたクロックが参照される。
【0064】
図6は、
図2に示す受信検波用キャリア生成部30Iにおける受信検波用キャリアの生成方法を示す図である。
【0065】
図6に示すように、第1のDDS30Jには、高周波側の受信検波用キャリアを生成するための第1の位相設定部Φ1、第2の位相設定部Φ2及び各位相設定部Φ1, Φ2に対応する加算器が備えられる。同様に、第2のDDS30Kには、低周波側の受信検波用キャリアを生成するための第3の位相設定部Φ3、第4の位相設定部Φ4及び各位相設定部Φ3, Φ4に対応する加算器が備えられる。
【0066】
第1の位相設定部Φ1において設定された位相値及び第2の位相設定部Φ2において設定された位相値は、それぞれ加算器で加算される。これにより、互いに周波数が異なる高周波側の位相データが生成される。同様に、第3の位相設定部Φ3において設定された位相値及び第4の位相設定部Φ4において設定された位相値も、それぞれ加算器で加算される。これにより、互いに周波数が異なる低周波側の位相データが生成される。
【0067】
第1のDDS30Jにおいて生成される位相データは、送信器29のDDS29Cにおいて水晶振動子29Aを原振とせずにデジタル信号として生成される送信キャリアに対応する受信検波用キャリアとして使用される。また、第1のDDS30Jにおいて生成される受信検波用キャリアの生成方式は、送信器29のDDS29Cにおいて生成される送信キャリアの生成方式と同一である。
【0068】
従って、第1のDDS30Jでは、送信器29の分周器29Bにおいて生成される送信キャリアの周波数に対応する周波数の受信検波用キャリアが生成される。そのために、第1のDDS30Jでは、送信器29のDDS29Cにおける位相設定値と同一の位相設定値で受信検波用キャリアが生成される。
【0069】
一方、第2のDDS30Kにおいて生成される位相データは、送信器29の分周器29Bにおいて水晶振動子29Aを原振として分周された送信キャリアに対応する受信検波用キャリアとして使用される。従って、第2のDDS30Kにおいても、送信器29の分周器29Bにおいて生成される送信キャリアの周波数に対応する周波数の受信検波用キャリアが生成される。
【0070】
但し、分周器29Bと第2のDDS30Kとではキャリアの生成方法が異なる。このため、分周器29Bで生成された送信キャリアと第2のDDS30Kで生成された受信検波用キャリアとの間における位相誤差が補正される。具体的には、分周器29Bから取得されたクロックが第2のDDS30Kの各加算器で参照される。そして、分周器29Bから取得されたクロックに基づく所定のタイミングにおいて各加算器における位相データがゼロにリセットされる。これにより、第2のDDS30Kの各加算器における位相値の加算処理によって蓄積される位相誤差をゼロにリセットすることができる。そして、送信キャリアの位相及び周波数と受信検波用キャリアの位相及び周波数とを正確に同期させることが可能となる。
【0071】
位相データをリセットする周期及び間隔は、分周器29Bから取得されるクロックの周波数と、第2のDDS30Kの各加算器において生成すべき受信検波用キャリアの周波数との公約数に合わせることができる。具体例として、分周器29Bにおいて原振から分周されたクロックの周波数が100MHzであり、第2のDDS30Kにおいて生成すべき受信検波用キャリアの周波数が2MHzであれば、100MHzと2MHzとの公約数である2MHz、1MHz、0.5MHz、...といった周波数のクロックで位相データのリセットを行うことができる。つまり、位相データは、1周期ごとに限らず、n(nは自然数)周期ごとにリセットすることができる。
【0072】
このように、受信検波用キャリア生成部30Iでは、第2のDDS30Kにおいて生成される位相データをリセットするためのクロックを、水晶振動子29Aを原振として生成されるクロックの分周によって生成することができる。その場合、位相データをリセットするためのクロックは、水晶振動子29Aを原振として生成されるクロックの周波数と、位相誤差の補正対象となる各検波キャリアのクロックの補正後の周波数との公約数に相当する周波数を有するクロックとすることができる。そして、分周によって生成されたクロックに基づいて位相誤差の補正対象となる各検波キャリアの位相誤差をそれぞれ補正することができる。
【0073】
尚、第2のDDS30Kの各加算器において蓄積される位相誤差のリセットによってスプリアス(不要な信号成分)が発生する。この結果、スプリアスフリーダイナミックレンジ(SFDR: spurious-free dynamic range)が小さくなる。そこで、スプリアスの影響を低減させるために、第2のDDS30Kの各加算器における位相加算処理のビット数を十分に確保することが望ましい。
【0074】
つまり、第2のDDS30Kでは、位相誤差の補正によって補正後の各検波キャリアに生じるスプリアスの影響が無視できるように設定されたビット数で、位相誤差の補正対象となる各検波キャリアの生成のための位相加算処理を実行することが好適である。これにより、第2のDDS30Kにおいて生成される受信検波用キャリアの周波数と、分周によって生成される送信キャリアの周波数との間における誤差を低減しつつ、スプリアスの影響も回避することができる。その結果、SNR (signal to noise ratio)を確保することができる。
【0075】
第1のDDS30J及び第2のDDS30Kにおいてそれぞれ位相データとして生成された周波数別の受信検波用キャリアは、互いに加算処理によって合成される。加算された位相データは、位相データと振幅データとを関連付けた参照テーブル(LUT: look-up table)を参照することによって、対応する振幅データcos(ω
0t)に変換される。
【0076】
一方、加算器で加算された位相データは、90°ハイブリッドにより位相が+90°異なる位相データに変換される。そして、位相が+90°シフトされた位相データは、位相データと振幅データとを関連付けたLUTを参照することによって、対応する振幅データ-sin(ω
0t)に変換される。
【0077】
そして、受信検波用キャリア生成部30Iにおいて生成された、互いに位相が+90°シフトした2つの振幅データcos(ω
0t), -sin(ω
0t)は、それぞれI信号及びQ信号の受信検波用のキャリアとしてダウンコンバージョン・IQ分離部30Dに与えられる。このように、受信検波用キャリアの生成方式が送信キャリアの生成方式と異なる場合に、キャリアの生成方式の相違に起因する位相誤差を補正して受信検波用キャリアを生成することにより、より適切なI信号及びQ信号の受信検波を行うことが可能となる。
【0078】
尚、キャリアの生成方式の相違に起因する位相誤差の補正は、I信号及びQ信号の受信検波処理に限らず、検波後のI信号及びQ信号のIFへのアップコンバージョンにおいても実行することが好適である。
【0079】
より具体的には、アップコンバート部30Fにおいて、水晶振動子29Aを原振として生成されるクロックを分周して得られるクロックを用いてそれぞれ生成される関数cos(ω
IFt), sin(ω
IFt)を掛けることによって、フィルタ処理後のI信号及びQ信号の各周波数をIFにアップコンバージョンすることができる。その場合、アップコンバージョンのためにI信号及びQ信号に乗じられる関数cos(ω
IFt), sin(ω
IFt)は、受信検波用のキャリアとして生成される振幅データcos(ω
0t), -sin(ω
0t)と同様に、分周器29Bから取得されるクロック信号を用いて位相誤差をリセットすることにより生成することができる。
【0080】
以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、アナログのMR信号を周波数変換せずに直接A/D変換し、かつMR信号をI信号とQ信号とに分離してそれぞれノイズを除去するためのフィルタ処理を実行するようにしたものである。また、磁気共鳴イメージング装置20は、分周で生成される送信キャリアに対応するMR信号を受信検波するためのキャリアを、分周によって生成されるクロックを用いて同期させるようにしたものである。
【0081】
従来の磁気共鳴イメージング装置では、MR信号のダイレクトサンプリングを行おうとすると、A/D変換、ダウンコンバージョン及びデジタルフィルタ処理等の信号処理によってノイズが折り返るという問題があった。折り返ったノイズを低減させるためには、A/D変換前のMR信号に急峻なBPFを掛けるという方法が考えられる。或いは、A/D変換後におけるMR信号のダウンコンバージョンとデジタルフィルタ処理とを交互又は同時に2〜3回繰り返すという方法も考えられる。
【0082】
しかしながら、BPFの特性を急峻にするためには複数のフィルタを多段階に重ねる必要がある。このため、BPFのサイズが大きくなり、MR信号の受信チャンネルの多チャンネル化の障害となる。しかも、BPFのコストの増加に繋がる。従って、BPFの特性を急峻にすることは実用性に欠ける。
【0083】
一方、MR信号のダウンコンバージョンとデジタルフィルタ処理とを繰返すためには、多くのデジタル処理のための大規模な回路が必要となる。従って、この場合も、回路のサイズ及びコストの増加に繋がることになる。
【0084】
これに対して、磁気共鳴イメージング装置20によれば、MR信号をIQ分離してからデジタルフィルタ処理を実行するという信号処理手法によって簡易な処理及び構成で折り返ったノイズを除去することができる。具体的には、ダウンコンバージョン及びデジタルフィルタ処理を1回実行するのみで、A/D変換、ダウンコンバージョン及びデジタルフィルタ処理等の信号処理によって折り返ったノイズが重ならないようにすることができる。また、A/D変換前におけるMR信号用に急峻なBPFを設ける必要性も回避することができる。加えて、IQ分離してからデジタルフィルタ処理が実行されるため、BPFにより除去することができないノイズを除去することができる。
【0085】
また、MR信号のダイレクトサンプリングを行わない従来の磁気共鳴イメージング装置では、RF信号の送信キャリアとMR信号の受信検波用キャリアとが同一の回路で生成されていた。従って、送信キャリアと受信検波用キャリアとの間における周波数及び位相のずれは、原振の不安定性以外の要因では発生しなかった。
【0086】
しかしながら、送信キャリアと受信検波用キャリアとが異なる方式で生成される場合には、送信キャリアと受信検波用キャリアとの間において周波数及び位相のずれが生じる。すなわち、原振の不安定性のみならず、生成方法の相違を要因として送信キャリアと受信検波用キャリアとの間に周波数及び位相のずれが生じる。
【0087】
特に、近年の磁気共鳴イメージング装置では、MR信号の受信のデジタル化がRF信号の送信のデジタル化に対して進んでいる。この場合、RF信号用の送信キャリアは分周のみ或いはDDSと分周の併用によって生成される一方、MR信号の検波をデジタル信号で処理できるように、受信検波用キャリアがDDSのみで生成されることとなり得る。
【0088】
分周は、周波数fの入力信号から周波数f/nの同期信号を出力する方法であるのに対し、DDSでは位相をクロックごとに加算することによって正弦波が生成される。このため、DDSでは、設定される位相値の分解能(ビット数)に応じた誤差が蓄積する。
【0089】
これに対して、磁気共鳴イメージング装置20によれば、信号の送受信用のキャリアの生成方法が異なる場合であっても、送受信キャリアにおける周波数及び位相を正確に同期させることができる。すなわち、送信キャリアが分周及びDDSの双方或いは分周のみによって生成される一方、受信検波用キャリアがDDSのみで生成される場合であっても、受信検波用キャリアに生じる位相の蓄積誤差をリセットすることができる。これにより、送信キャリアと受信検波用キャリアとの間における同調性を維持することができる。そして、送信キャリアと受信検波用キャリアとの間における周波数及び位相のずれを抑制することによって、MR画像における画質劣化及び位置ずれを防ぐことができる。
【0090】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置に備えられる送信器及び受信器の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【0091】
第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置は、MR信号のデータ収集系を構成する受信器40の詳細構成が第1の実施形態における磁気共鳴イメージング装置20と相違する。第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置の他の構成及び作用については第1の実施形態における磁気共鳴イメージング装置20と実質的に異ならない。このため、送信器29及び受信器40の詳細構成のみ図示し、同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0092】
第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置の受信器40では、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dが、AD変換後のMR信号を、ベースバンドの周波数を有するI信号及びQ信号ではなく、中間周波数のI信号及びQ信号に変換するように構成されている。すなわち、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dは、AD変換後のMR信号を、所望の周波数を有するMR信号にダウンコンバージョンする。
【0093】
一方、受信器40では、デジタルフィルタ30Eからの出力信号がアップコンバート部30Fを経由せずにIQ合成部30Gに入力する。すなわち、ダウンコンバージョン・IQ分離部30DにおいてMR信号の周波数がベースバンドの周波数ではなく、受信器40の後段の信号処理に適切な所望の周波数にダウンコンバージョンされるため、デジタルフィルタ30Eにおけるフィルタ処理後のI信号とQ信号とがアップコンバージョンされずにIQ合成部30Gにて合成される。
【0094】
この場合、デジタルフィルタ30Eでは、所定の周波数にダウンコンバージョンされたI信号とQ信号とにそれぞれ個別のフィルタを用いてフィルタ処理が実行されることとなる。
【0095】
図8は、
図7に示す第2の実施形態における受信器40の詳細構成例を第1の実施形態における受信器30の詳細構成例と比較して示す図である。
【0096】
図8(A)は、第2の実施形態における受信器40の詳細構成例を示す。一方、
図8(B)は、第1の実施形態における受信器30の詳細構成例を示す。
図8(A)に示すように、アンプ30Aで増幅されたアナログのMR信号の周波数帯域が、BPF30Bにおいて制限される。BPF30Bを経由したアナログのMR信号は、周波数変換されることなくADC30Cにおいてデジタル変換される。すなわち、MR信号のダイレクトサンプリングが実行される。
【0097】
図9は、
図8(A)に示す受信器40における信号処理によって生成されるMR信号の周波数帯域を示す模式図である。
【0098】
図9(A), (B)及び(C)において縦軸は信号の振幅Sを示し、横軸は周波数fを示す。
【0099】
図9(A)は、ADC30Cにおけるサンプリング直後のMR信号の周波数帯域を示している。
図9(A)に示すように、中心周波数がf
0で周波数帯域がΔf
MRのMR信号がサンプリング周波数f
sでサンプリングされる。但し、MR信号は、サンプリング前にBPF30Bを経由しているため、BPF30Bの周波数帯域Δf
BPFにノイズ成分が存在する。
【0100】
AD変換後のMR信号は、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dにおいて中間周波数を有する信号にダウンコンバージョンされ、かつI信号とQ信号とに分離される。具体的には、I信号及びQ信号用の各受信検波用のキャリアがミキサによりAD変換後のMR信号に乗じられる。この結果、
図9(B)に示すように、BPF30Bの周波数帯域Δf
BPFにノイズ成分が重畳したMR信号の中心周波数が、中間周波数f
IFとなる。
【0101】
例えば、静磁場の強度が1.5[T]であれば、36[MHz]程度の周波数が0.5[MHz]程度の中間周波数にダウンコンバージョンされる。この場合、サンプリング速度は、100[MSPS]から2[MSPS]程度となる。
【0102】
ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dにおいて生成された中間周波数のI信号及びQ信号は、それぞれデジタルフィルタ30Eに出力される。デジタルフィルタ30Eをデシメーションフィルタとする場合には、
図8(A)に示されるように、デジタルフィルタ30EをLPFとデシメーションフィルタで表現することができる。
【0103】
そして、デジタルフィルタ30Eでは、I信号及びQ信号に、それぞれLPF及びデシメーションフィルタが掛けられる。これにより、I信号及びQ信号からノイズ成分が除去される。すなわち、
図9(C)に示すように、複素フィルタであるLPFによってノイズ成分がLPFの周波数帯域Δf
LPFに制限されたI信号及びQ信号が生成される。
【0104】
デジタルフィルタ30Eから出力されるI信号及びQ信号は、アップコンバージョンされずにIQ合成部30Gにて合成される。そして。IQ合成部30GにおけるI信号及びQ信号の合成によって生成されたMR信号は、ビットセレクタ30Hを経由して受信器40から出力される。
【0105】
一方、第1の実施形態における受信器30では、ダウンコンバージョン・IQ分離部30Dにおいて、最小周波数であるベースバンドまで周波数がダウンコンバージョンされたI信号及びQ信号が生成される。このため、
図8(B)に示すように、デジタルフィルタ30Eの後段に、アップコンバート部30Fが設けられる。そして、ベースバンドまで周波数がダウンコンバージョンされたフィルタ処理後のI信号及びQ信号がアップコンバート部30Fにおいて中間周波数にアップコンバージョンされる。
【0106】
図8(A), (B)に例示されるように、様々な信号処理のバリエーションによって、I信号とQ信号とに分離して、ノイズの除去用のフィルタ処理を実行することができる。その結果、サンプリング後におけるMR信号の中間周波数へのダウンコンバージョンに伴うノイズ同士の重畳を防止することができる。換言すれば、MR信号のダウンコンバージョンに伴ってノイズ同士が重畳しないようにデジタルフィルタ処理を行うことができる。
【0107】
以上のように第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置は、A/D変換後におけるMR信号を、中間周波数のI信号とQ信号とにダウンコンバージョン及び分離し、I信号及びQ信号にそれぞれ個別のフィルタを用いてフィルタ処理を実行するようにしたものである。
【0108】
このため、第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置によれば、第1の実施形態における磁気共鳴イメージング装置20と同等な効果を得ることができる。加えて、第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置によれば、受信器40の構成及び信号処理を簡易にすることができる。
【0109】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0110】
例えば、上述した実施形態では、分周によって生成されるクロックとDDSにより生成されるクロックとの間における位相誤差をリセットする例について述べたが、分周に限らず、DDS以外の方式で生成されるクロックとDDSにより生成されるクロックとの間における位相誤差をDDS以外の当該方式で生成されるクロックに基づいてリセットすることができる。つまり、受信器30には、I信号及びQ信号のうち、DDSによる生成方式以外の方式によって送信キャリアのクロックが生成されるRF送信信号に対応するI信号及びQ信号用の各検波キャリアであってDDSによる生成方式でクロックが生成される各検波キャリアのクロックの位相誤差を、DDSによる生成方式以外の当該方式で生成されるクロックに基づいてそれぞれ補正する機能を設けることができる。
【0111】
更に、フィルタ処理のためにI信号とQ信号とに分離しない場合においても、送受信系におけるクロックの生成方式の相違に起因する検波キャリアの位相誤差を補正することができる。すなわち、受信器30には、ダイレクトサンプリングによって収集されたデジタルのMR信号のうち、DDSによる生成方式以外の方式によって送信キャリアのクロックが生成されるRF送信信号に対応するMR信号用の検波キャリアであってDDSによる生成方式でクロックが生成される検波キャリアのクロックの位相誤差を、DDSによる生成方式以外の当該方式で生成されるクロックに基づいて補正する機能を設けることができる。
【0112】
また、上述した実施形態では、RF受信コイル24Bに受信器30が接続されている構成が例示されているが、受信器30をRF受信コイル24Bと一体化してもよい。特に、RF受信コイル24Bが無線によってMR信号を送信するタイプのコイルである場合には、通常、受信器30がRF受信コイル24Bの構成要素となっている。