特許第6355926号(P6355926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355926
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】安定化次亜ハロゲン酸溶液
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/22 20060101AFI20180702BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20180702BHJP
   A01N 59/08 20060101ALI20180702BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20180702BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20180702BHJP
   A01N 25/16 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 33/20 20060101ALN20180702BHJP
   A61K 9/08 20060101ALN20180702BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20180702BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20180702BHJP
   A61K 9/12 20060101ALN20180702BHJP
   A61P 31/02 20060101ALN20180702BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20180702BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20180702BHJP
   A61P 37/08 20060101ALN20180702BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20180702BHJP
   B08B 3/08 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
   A01N25/22
   A01P3/00
   A01N59/08 A
   A01N25/02
   A01N25/04 103
   A01N25/16
   !A61K33/20
   !A61K9/08
   !A61K47/02
   !A61K9/06
   !A61K9/12
   !A61P31/02
   !A61P31/04
   !A61P17/02
   !A61P37/08
   !A61P17/00
   !B08B3/08 Z
【請求項の数】17
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-558235(P2013-558235)
(86)(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公表番号】特表2014-518844(P2014-518844A)
(43)【公表日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】US2012029650
(87)【国際公開番号】WO2012129161
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2015年3月17日
(31)【優先権主張番号】61/454,383
(32)【優先日】2011年3月18日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/526,149
(32)【優先日】2011年8月22日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513233780
【氏名又は名称】レルム セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】パニチェヴァ,スヴェトラーナ
(72)【発明者】
【氏名】サンプソン,マーク,エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】パニチェフ,ヴァディム
(72)【発明者】
【氏名】ディベッロ,ジェリー
(72)【発明者】
【氏名】ロジャース,マーティン,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ステイプルトン,ローナン
(72)【発明者】
【氏名】ショート,スティーブン,ルイス
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−000238(JP,A)
【文献】 特開昭50−003419(JP,A)
【文献】 特開2002−167301(JP,A)
【文献】 特開2009−161453(JP,A)
【文献】 特開2003−286130(JP,A)
【文献】 特開2008−255310(JP,A)
【文献】 特表平06−503567(JP,A)
【文献】 特表2007−530731(JP,A)
【文献】 特開2005−245964(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3166522(JP,U)
【文献】 特開2004−204328(JP,A)
【文献】 特表平11−501361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/22
A01N 25/02
A01N 25/04
A01N 25/16
A01N 59/08
A01P 3/00
A61K 9/06
A61K 9/08
A61K 9/12
A61K 33/20
A61K 47/02
A61P 17/00
A61P 17/02
A61P 31/02
A61P 31/04
A61P 37/08
B08B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の炎症の処理の使用のために容器内にパッケージされた安定化製剤であって、
塩化ナトリウム溶液を含む電解液に由来する次亜塩素酸と、アルカリまたはアルカリ土類金属の重炭酸塩または炭酸塩の形態の安定量の溶存無機炭素(DIC)とを含み、
前記製剤が、100〜1,000ppmの遊離有効塩素(AFC)含量、4.0〜7.0のpH、2:1〜1:2のAFCに対するDICの比を有し、DICは炭酸塩、重炭酸塩、炭酸、及びCOを含み、
前記容器が、COまたはOを透過しない、安定化製剤。
【請求項2】
前記製剤の前記AFC含量および前記pHが少なくとも1年間安定である、請求項1に記載の安定化製剤。
【請求項3】
前記AFC含量が300ppmより大きい、請求項2に記載の安定化製剤。
【請求項4】
前記AFC含量が100〜500ppmである、請求項2に記載の安定化製剤。
【請求項5】
前記製剤の前記pHが5〜7である、請求項1から4のいずれか一項に記載の安定化製剤。
【請求項6】
前記DICが重炭酸ナトリウムとして添加される、請求項1から5のいずれか一項に記載の安定化製剤。
【請求項7】
重炭酸ナトリウムの量が、前記AFC含量と等モルである、請求項6に記載の安定化製剤。
【請求項8】
0.01〜1.0%の塩分を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の安定化製剤。
【請求項9】
前記製剤が、ゲル剤、クリーム剤、またはフォーム剤として製剤化される、請求項1から8のいずれか一項に記載の安定化製剤。
【請求項10】
前記ゲル剤が、フルオロケイ酸ヒドロゲル剤である、請求項9に記載の安定化製剤。
【請求項11】
前記容器が、瓶、袋、管、または缶である、請求項1から10のいずれか一項に記載の安定化製剤。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の安定化製剤を調製するための方法であって、
前記製剤を少なくとも1年間安定化させるのに十分な量で、前記重炭酸塩または炭酸塩を4.0〜7.5のPHをもつ電気分解用の塩化ナトリウム溶液に組み込むステップであって、前記重炭酸塩または炭酸塩を前記電気分解の前又は後のいずれかに添加し、前記製剤は4.0〜7.0のPHをもつ、ステップと、
を含み、
前記製剤が、100〜1,000ppmの遊離有効塩素(AFC)含量、4.0〜7.0のpH、2:1〜1:2のAFCに対するDICの比を有し、DICは炭酸塩、重炭酸塩、炭酸、及びCOを含む、
方法。
【請求項13】
前記重炭酸塩または炭酸塩が電気分解後に添加される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記製剤が、100〜500ppmのAFC含量、4〜7の範囲のpH、0.02〜1.0%の塩分、および300〜1000mg/Lの重炭酸ナトリウムを有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の安定化製剤。
【請求項15】
前記AFC含量は300ppmより大きく、前記重炭酸塩または炭酸塩は前記AFCに対して少なくとも等モル量で組み込まれる、請求項14に記載の安定化製剤。
【請求項16】
リン酸をさらに含む、請求項1に記載の安定化製剤。
【請求項17】
追加の緩衝剤としてリン酸を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、それぞれ参照することにより本明細書にその全体が組み込まれる、2011年3月18日出願の米国仮特許出願第61/454,383号、および2011年8月22日出願の米国仮特許出願第61/526,149号の利益および優先権を主張する。
【0002】
本発明は、次亜塩素酸(HOCl)等の次亜ハロゲン酸の安定化溶液および製剤、ならびにその生成および使用のための方法に関する。この溶液は、表面、食品、例えば果物、野菜および作物等、または哺乳動物組織(創傷を含む)を清浄化および/または消毒するための使用が見出される。溶液は、さらに、農産物および切り花の保存における使用が見出される。
【背景技術】
【0003】
次亜塩素酸は、感染に抵抗するために人間の体の自然の免疫系により生成される、酸化剤および殺生物剤である。次亜塩素酸は、酸化的バースト経路の最終工程として生成され、大量の次亜塩素酸が食胞内に放出されて、侵入する微生物を破壊する。次亜塩素酸は、表面および原形質膜タンパク質を攻撃し、溶質の輸送および細菌細胞の塩類バランスを損なうことにより、その殺生物作用を発揮する(Pietersonら、Water SA、22(1):43-48(1996))。次亜塩素酸に暴露されたEscherichia coliは、多くの生命系の不活性化により、100ms未満で生存能力を失う(Fairら、40 J. Am. Water Works Assoc. 1051-61(1940))。2.6ppmの次亜塩素酸は、希釈細菌懸濁液中、約5分でE.coliの100%成長阻害をもたらした(Chesneyら、178 J. Bacteriol. 2131-2135(1996))。Chemistry of Water Treatment(第2版)、S.D.FaustおよびO.M.Aly(1998)によれば、5分間で100%死滅させるのに、A.aerogenesに対しては0.08ppm、S.typhosaに対しては0.06ppm、S.dysenteriaeに対しては0.05ppm、およびE.coliに対しては0.03ppmしか必要ない。
【0004】
次亜塩素酸は微生物に対する殺生物剤であるが、人間または動物細胞には著しく毒性ではなく、これは、少なくとも1つには、人間および動物細胞が抗酸化防御系(ADS)として知られる広範囲にわたる極めて効果的な防御メカニズムを有するためである。
【0005】
次亜ハロゲン酸は、例えば創傷のケアおよび管理、医療用もしくは歯科用機器等の硬質表面の消毒、食品の安全性および加工、水処理、ならびに他の工業または農業用途等の、微生物汚染を制御することが重要となる広範な用途を有する。
【0006】
次亜塩素酸の溶液に関連する1つの制限はその安定性であり、これによって、商業的な使用の多くは、比較的即時的な使用のために溶液がオンサイトで作製され得るような状況に制限されている。既存の選択肢には、創傷ケアのためのデーキン液が含まれるが、これは、次亜塩素酸ナトリウム(5.25%)、重炭酸/炭酸ナトリウム(1%)および清浄な水道水を混合することにより調製される希釈次亜塩素酸ナトリウム溶液(0.5%)である。しかしながら、デーキン液は高いpHを有し、したがって、創傷処置において、発疹、掻痒、腫脹、蕁麻疹、および/または水脹れと共に、疼痛および灼熱感をもたらす。さらに、デーキン液は不安定であり、より低いpH(<8.5)における臨床的使用には不適切である。別の選択肢は、Microcyn(商標)溶液である。Microcynは2年の保存期間を有するが、約80ppm(pH7.4)の遊離有効塩素(AFC)の限られたレベル、および殺生物の有効性を制限し得るより低いパーセントの次亜塩素酸が問題である。EcaFlo(商標)は、硬質表面消毒に利用可能である。この溶液は、高い塩化ナトリウム含量に加えて、等モル量の次亜塩素酸塩および次亜塩素酸を含有する。溶液のpHは約7.5であり、溶液は、約460ppmのAFC含量を有する。溶液は、30日という比較的短い保存期間を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高いAFC含量を有し、十分な安定性ならびに/または医療および他の商業的環境において商業的に有用となるために必要な他の特性を有し、また人間に対し刺激性または有害でない次亜ハロゲン酸溶液の必要性が、未だに満たされていない。特許請求の範囲に記載した本発明は、これらのおよび他の目的を達成する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、販売用に簡便にパッケージされ得る、または要求に応じて後の使用のために保管され得る、安定化次亜ハロゲン酸溶液(またはその製剤)を提供する。本発明は、さらに、安定化次亜ハロゲン酸溶液またはその製剤を作製する方法、ならびに、いくつかある使用法の中でも特に、創傷および熱傷を含む哺乳動物組織を消毒する、硬質表面を消毒または清浄化する、食品または切り花を処理(例えば、保存および/または消毒)するための使用方法を提供する。
【0009】
一態様において、本発明は、安定化次亜ハロゲン酸溶液を提供する。溶液は、アルカリまたはアルカリ土類金属の重炭酸塩または炭酸塩の形態であってもよい、安定量の溶解無機炭素(DIC)を組み込む。溶液は、約10〜10,000パーツパーミリオン(ppm)の遊離有効塩素(AFC)含量、および約4.0〜約7.5のpHを有してもよい。例えば、ある特定の実施形態において、溶液は、約5〜約7のpHを有する。ある特定の実施形態において、溶液は、次亜塩素酸を含有し、食塩水の電気分解により調製される。溶液は、そのpHおよび/またはAFCの経時的変化により決定されるように、少なくとも1ヶ月安定化されるが、様々な実施形態において、溶液は、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、またはそれ以上安定化される。
【0010】
ある特定の実施形態において、重炭酸ナトリウムは、AFC含量に対して、約5:1〜約1:5のモル比のレベルで溶液中に組み込まれる。例えば、重炭酸ナトリウムは、AFC含量(例えば次亜ハロゲン酸含量)に対して、約1:1、約1:2、もしくは約1:3、またはそれ以上の(すなわちより希釈された)モル比のレベルで添加されてもよい。ある特定の実施形態において、重炭酸ナトリウムは、AFC含量に対して、約1:1〜約1:2のレベルで溶液中に組み込まれる。溶液は、いくつかの実施形態において、リン酸緩衝液を含有してもよいが、他の実施形態において、溶液は、リン酸緩衝液を含有しない、またはごく限られた量のリン酸緩衝液を含有する。例えば、溶液は、食塩水の電気分解により生成されたHOClを含んでもよく、溶液は、約100〜約500ppmのAFC含量、約5〜約7の範囲のpH、約0.02%〜約1.0%の塩分、および約300mg/L〜約1500mg/Lの範囲の溶解無機炭素量を有してもよい。いくつかの実施形態において、溶液の塩分は、溶液安定化に必要な重炭酸塩の量に影響を与えない。ある特定の実施形態において、HOCl溶液は、ヒドロゲル剤として製剤化される。
【0011】
別の態様において、本発明は、安定化次亜ハロゲン酸溶液を調製するための方法を提供する。方法は、電気化学的処理のための電解質への添加により、(例えば、炭酸塩もしくは重炭酸塩の形態の)DICを組み込むステップ、または、次亜ハロゲン酸(例えば、HOCl)を含む電気分解された溶液に直接添加することにより、(例えば、炭酸塩もしくは重炭酸塩の形態の)DICを組み込むステップを含む。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、創傷、熱傷、もしくは皮膚病等の哺乳動物細胞を消毒、清浄化もしくは処置する方法を提供するか、または、硬質表面を殺菌、消毒もしくは清浄化する方法を提供するか、または、食品もしくは農産物または切り花を処理もしくは保存するための方法を提供する。次亜ハロゲン酸溶液および製剤の安定性に起因して、そのような方法は、殺生物溶液の生成に近接して行う必要はない。さらに、本明細書において示されるように、本発明の安定化次亜ハロゲン酸溶液は、高有機負荷の存在下であっても活性を維持する。さらに他の実施形態において、本発明は、皮膚病、酒さ、皮膚感染症、皮膚アレルギー、乾癬、または座瘡を含む皮膚状態を処置するための方法を提供する。そのような実施形態において、HOClは、ヒドロゲル剤として製剤化されてもよい。
【0013】
本発明の他の態様は、以下の発明を実施するための形態から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】室温で保管された(A)、または20℃未満で保管された(B)HOCl溶液の経時的なpHの変化を示すグラフである。
図2】室温で保管された(A)、または20℃未満で保管された(B)HOCl溶液の経時的なAFCの変化を示すグラフである。
図3】重炭酸塩(「非緩衝」)、または重炭酸塩およびリン酸緩衝液を含有する、瓶詰めされたHOCl溶液における、保管期間にわたるAFC降下を示すグラフである。
図4】リン酸緩衝液を含まない重炭酸塩含有HOCl溶液のpHおよびAFCの変化を示すグラフである。
図5】高有機負荷の存在下でのC.difficile胞子の低減を示すグラフである。試験された溶液は以下の通りである:pH6.7、AFC 250ppm、NaHCO 400mg/L;pH6.7、AFC 480mg/L、NaHCO 0.0;ならびにpH6.3、AFC 480ppmおよびNaHCO 1000mg/L。
図6】ポリエチレンテレフタレート(PET)容器内に瓶詰めされ、室温で保管された、目標pH5.4のNaHCOが豊富なNaCl溶液の電気化学的処理により生成されたHOClの、長期安定性試験の結果を示すグラフである。
図7】乾燥重炭酸ナトリウムを含む容器に加えられたHOClの安定性を示すグラフである。
図7A】pHの安定性を示すグラフである。
図7B】AFC含量の安定性を示すグラフである。
図8】農業用途の目標pHを有する次亜塩素酸溶液中でのpHおよび溶液安定性に対する、重炭酸塩の効果を示すグラフである。
図9】ヒドロゲル剤としての製剤化後のpHのシフトを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、販売用に簡便にパッケージされ得る、または要求に応じて後の使用のために保管され得る、安定化次亜ハロゲン酸溶液またはその製剤を提供する。本発明は、さらに、安定化次亜ハロゲン酸溶液を作製する方法、ならびに、いくつかある使用法の中でも特に、創傷および熱傷を含む哺乳動物組織を消毒する、表面を消毒もしくは清浄化する、または食品もしくは切り花を処理もしくは保存するための使用方法を提供する。
【0016】
一態様において、本発明は、安定化次亜ハロゲン酸溶液またはその製剤を提供する。溶液は、アルカリまたはアルカリ土類金属の重炭酸塩または炭酸塩等の、安定量の溶解無機炭素(DIC)を組み込む。溶液は、約10〜10,000ppmの遊離有効塩素(AFC)含量、および約4.0〜約7.5のpHを有してもよい。ある特定の実施形態において、溶液は、次亜塩素酸を含有し、食塩水の電気分解により調製される。溶液は、そのpHおよび/またはAFCの経時的変化により決定されるように、少なくとも1ヶ月安定であるが、様々な実施形態において、溶液は、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、またはそれ以上安定である。
【0017】
次亜ハロゲン酸溶液は、塩化ナトリウム等のハロゲン化物塩の電気分解により生成されてもよく、また、主に次亜塩素酸および次亜塩素酸ナトリウム等の酸化種の混合物を含んでもよい。次亜塩素酸および次亜塩素酸塩は平衡状態にあり、平衡の位置は、主にpHにより決定される(すなわち、pHが各成分の濃度をもたらす)。pH5.1〜6.0の電気分解された塩化ナトリウム溶液は、約95%以上の次亜塩素酸の純度を有する。したがって、供給される電気分解された溶液は、約4.0〜約7.5のpHを有し得るが、ある特定の実施形態において、約4.4〜約7.0のpH、または約5〜約7のpH、または約5.4〜約6.4のpH、または約5.0〜約6.4のpHを有する。約5.4のpHにおいて、溶液は、次亜塩素酸塩に対してほとんど(100%に近い)次亜塩素酸を含有する。
【0018】
溶液は、活性薬剤として次亜塩素酸を含むか、または本質的に次亜塩素酸からなってもよく、いくつかの実施形態において、溶液は、他の次亜ハロゲン酸(例えば、HOBr、またはその混合物)を含有してもよい。いくつかの実施形態において、溶液は、中でも次亜ハロゲン酸塩(例えば、次亜塩素酸塩)、水酸化物、HおよびO等の他の酸化種またはラジカル生成種を含有する。
【0019】
溶液の殺生物活性は、遊離有効塩素またはAFCに関して表現することができる。本発明は、約10〜約10,000ppm(または〜約5000ppm)のAFC範囲に適用することができるが、ある特定の実施形態において、溶液は、比較的高いAFC含量を有し、哺乳動物組織または農産物との使用に好適である。例えば、溶液は、約100〜1000ppm、または100〜500ppm、または約150〜約250ppmのAFC含量を有してもよい。他のAFCレベルを使用してもよく、また意図される用途に基づいて選択されてもよい。例えば、限定されないが、表面消毒のために、AFCは、約140〜約2000ppm、または約400〜約1000ppmの範囲であってもよい。
【0020】
次亜塩素酸は、いくつかの実施形態に従い化学的に(例えば、次亜塩素酸塩の酸性化により)生成され得るが、次亜ハロゲン酸はまた、電気化学的にも生成され得る。次亜ハロゲン酸の電気化学的生成は、隔膜式電解槽におけるハロゲン化物系電解質の処理によるものである。食塩水の電気化学的処理は、例えば、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第7,303,660号、米国特許第7,828,942号、および米国特許第7,897,023号に記載されている。
【0021】
溶液は、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、またはマグネシウム等のアルカリまたはアルカリ土類金属の重炭酸塩または炭酸塩であってもよい、安定量のDICを使用する。いくつかの実施形態において、重炭酸塩または炭酸塩は、(例えば、電気化学的処理による)次亜ハロゲン酸の形成前に添加され、他の実施形態において、重炭酸塩または炭酸塩は、次亜ハロゲン酸の形成後に溶液に添加される。例えば、重炭酸塩(複数種可)または炭酸塩(複数種可)は、前駆体溶液、電解質、および/または最終溶液に添加されてもよい。
【0022】
DICは、経時的な溶液のpHまたはAFC含量の変化に基づき決定され得る「安定量」で組み込まれる。一般に、溶液は、AFCの量が約6ヶ月の期間にわたり初期値の約75%を下回らない場合に、安定化されているとみなされる。ある特定の実施形態において、AFC含量は、溶液の製造日から少なくとも1年間安定化されている。さらに、溶液の安定性は、pHに基づき決定され得る。一般に、溶液は、pHが約6ヶ月の期間にわたり1単位変動しない場合に安定化されているとみなされる。ある特定の実施形態において、pHは、溶液の製造日から少なくとも1年間安定化されている。溶液は、より高い安定性のために、25℃または20℃以下で保管されるべきである。25℃および20℃は、安定性の決定のための基準温度である。安定性試験のために、溶液は、HDPE瓶にパッケージされ、暗所に保管され、未開封で保持される。
【0023】
DIC(例えば添加される炭酸塩または重炭酸塩として)の安定量は、AFC含量に基づき決定され得る。例えば、ある特定の実施形態において、安定量の炭酸塩または重炭酸塩は、AFCレベルに対して約5:1〜1:5のモル比で溶液中に組み込まれる。いくつかの実施形態において、重炭酸塩または炭酸塩は、AFC含量(例えば、次亜塩素酸含量)に対して少なくとも等モル量で溶液中に組み込まれる。さらに他の実施形態において、DIC(例えば、重炭酸塩または炭酸塩)は、AFC含量に対して約5:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、または約1:5で組み込まれる。様々な実施形態において、リン酸緩衝液等の他の緩衝成分は使用されないか、または最小限で使用される。例えば、約200ppm〜約500ppmのAFC含量を有する溶液の場合、炭酸塩または重炭酸塩は、溶液を安定化するために、約300mg/L〜約1500mg/Lの量で組み込まれてもよい。ある特定の実施形態において、そのような溶液は、約400〜約1000mg/Lの炭酸塩または重炭酸塩を組み込むことにより安定化される。
【0024】
理論に束縛されないが、一般に炭酸塩、重炭酸塩、炭酸および溶解COを含む溶解無機炭素(DIC)は、本明細書に記載の溶液および組成物が目標とするpH範囲において、低い、または最小限の緩衝能力を提供する。それにもかかわらず、これらの溶液は、溶液および組成物が「要求に応じた」生成に依存しないように、効果的に安定化される。安定化効果は、1つには、それによりHOCLの分解を減速するDICのフリーラジカル捕捉能力に起因し得る。さらに、重炭酸塩が豊富な塩化ナトリウム溶液の電気化学的処理により調製された溶液は(等量の炭酸塩/重炭酸塩で安定化された次亜塩素酸ナトリウムの化学的酸性化とは対照的に)、DICに関連した明確に異なる特性を有し、安定化効果が明確に異なり得る。
【0025】
いくつかの実施形態において、図5に示されるように、アルカリまたはアルカリ土類金属の重炭酸塩または炭酸塩の添加は、特に高有機負荷の存在下で、微生物または生物膜の処理のための向上した殺生物の有効性を提供する。
【0026】
次亜ハロゲン酸溶液は、液体の形態であってもよいが、溶液は、当該技術分野において知られている従来の成分の添加により、クリーム、ゲル(例えばケイ素系ゲル)、および/またはフォームの形態をとってもよい。例えば、電気化学的溶液の局所製剤は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれるUS2005/0196462に開示されている。これらの実施形態において、製剤は、液体が流れ落ちるのを制限することにより、適用部位近辺により良好に留められる。さらに、クリーム剤、フォーム剤等用の簡便なアプリケーターが知られており、本発明に従い使用することができる。本発明の溶液は、比較的高いAFC含量を有していても、また「皮膚に優しい」pHレベルであっても低伝導率の可能性をもたらすため、本発明の溶液は、ヒドロゲル製剤に特に好適である。
【0027】
ヒドロゲル製剤を使用する、ある特定の実施形態において、組成物は、約100ppm超、約150ppm超、約200ppm超、約250ppm超、または約300ppm超のAFC含量を有する。さらに、製剤は、約0.5mS/cm〜約12mS/cm、例えばいくつかの実施形態において約1mS/cm〜約10mS/cmの粘度を有してもよい。さらに、ヒドロゲル製剤は、いくつかの実施形態において約5〜約7、または他の実施形態において約5〜約6.5のpHを有する。ヒドロゲルは、フルオロケイ酸ナトリウムマグネシウム(例えば、約0.5%〜5%)等のシリケート系担体から調製されてもよく、pHを目標値に向けるための追加の緩衝剤を使用してもよい。例示的緩衝剤は、リン酸である。
【0028】
安定化溶液は、任意の好適な容器、例えば任意の好適なプラスチックもしくはガラス瓶、または袋(例えば、プラスチック袋)、管、または缶(例えば、スプレーもしくはエアロゾル)を使用して、保管または販売用にパッケージされてもよい。ある特定の実施形態において、パッケージ材料は、COおよびO等の種によるものを含む、最小限のガス透過性を有する。容器は、透明であっても、光が貫通できないように不透明であってもよく、また、任意の単位体積、例えば、約100ml、約125ml、約250ml、約0.5リットル、約1リットル、約5リットル、約10リットルまたはそれ以上の単位体積を有していてもよい。
【0029】
また、本発明の次亜塩素酸溶液は、生理液(血液、血漿、涙液等)に対して高張、低張または等張であってもよい。代替として、溶液は、様々なレベルの塩分、例えば0.01〜約2.0%の塩分を含有してもよい。一般に、溶液は、医薬における使用を意図する場合、NaClを約0.02%〜約0.9%w/v含有する。いくつかの実施形態において、溶液は、生理食塩水(NaCl 約0.9%w/v)であってもよい。いくつかの実施形態において、溶液は、1種または複数種の塩、例えばハロゲン化物塩、例えばNaCl、KCl、または塩もしくはハロゲン化物塩の混合物を約0.01〜2.0%w/v含有してもよい。塩またはハロゲン化物塩は、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩であってもよい。ある特定の実施形態において、電気分解された溶液は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,426,066号に開示されるように、生理学的平衡塩の混合物を使用して生成される。そのような塩は、ハロゲン化カリウム(例えば、KCl)およびハロゲン化マグネシウム(例えば、MgCl)を含み得る。
【0030】
別の態様において、本発明は、安定化次亜ハロゲン酸溶液を調製するための方法を提供する。方法は、炭酸塩または重炭酸塩を、電気化学的処理のための電解質中に、または次亜ハロゲン酸(例えば、HOCl)を含む電気分解された溶液に直接組み込むステップを含む。
【0031】
例えば、電気分解された溶液または他の次亜ハロゲン酸溶液は、水または重炭酸塩もしくは炭酸塩を含む水溶液で希釈されてもよい。他の実施形態において、(例えば、所望のAFC含量を有する)希釈された次亜ハロゲン酸溶液が、乾燥したアルカリまたはアルカリ土類金属の重炭酸塩または炭酸塩を含む容器に加えられる。後者は、特にヒドロゲル製剤のための低イオン強度次亜ハロゲン酸溶液の生成に効果的な方法である。
【0032】
安定化次亜塩素酸溶液(例えば、90%、95%、または97%を超えるHOClの溶液)は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,276,255号に記載のように、食塩水の電気分解により得ることができ、または、任意の好適な方法もしくは装置により、重炭酸塩もしくは炭酸塩を乾燥した電解質もしくは電気分解用の溶液中に組み込むことによって調製することができる。炭酸塩または重炭酸塩は、本明細書において詳細に説明されるように、得られる溶液の所望のAFC含量に従い乾燥電解質に添加され得る。次亜塩素酸溶液は、炭酸塩/重炭酸塩を含有する食塩水を、約6〜9アンペアの電流で、セラミック半透膜により隔てられたコーティングチタン電極上を通過させることにより調製され得る。食塩水の電気化学的処理は、例えば、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許第7,303,660号、米国特許第7,828,942号、および米国特許第7,897,023号に記載されている。
【0033】
本発明のさらに他の態様は、創傷もしくは熱傷等の哺乳動物組織を消毒もしくは清浄化する、または、硬質表面を消毒もしくは清浄化する、または食品もしくは切り花を処理もしくは保存する方法を提供する。次亜ハロゲン酸溶液の安定性に起因して、そのような方法は、殺生物溶液の生成に近接して行う必要はなく、溶液は、使用に十分先立って調製することができる。
【0034】
本発明の溶液および製剤は、人間および動物のケアのための滅菌、消毒および殺生物溶液として使用することができる。溶液は、皮膚に無害、非刺激性、非感作性であり、目に非刺激性であり、飲み込んでも害はなく、変異原作用の証拠を示さない。例えば、本発明の方法は、安定化もしくは保管された次亜ハロゲン酸溶液で、もしくはその中で創傷を濯ぐ、洗浄する、もしくは浸漬することによる、または、溶液を創傷および/もしくは創傷包帯材に適用することによる、創傷の湿潤、潤滑、灌流、清浄化、消臭、消毒、または清拭を提供する。創傷は、感染していてもよく、またはしていなくてもよく、したがって、本発明の方法は、感染した創傷の処置に有用であり、また未感染創傷の感染防止に有用である。
【0035】
一態様において、本発明は、創傷ケアおよび管理のための簡便な手段を提供し、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれるU.S.2010/030132に記載の装置および方法と組み合わせて使用されてもよい。例えば、方法は、含浸、スクラブ、パルス洗浄、ハイドロサージェリー、および超音波の1つまたは複数により安定化溶液を創傷部位に供給して、創傷または組織を効果的に清拭および消毒するステップを含んでもよい。溶液は、適切な創傷治癒生理機能を促進するために、陰圧閉鎖療法の前、間および/または後に送達されてもよい。これらの実施形態において、方法は、次亜塩素酸の注入による創傷清拭を陰圧療法と連係させるために、創傷包帯材を使用することができる。したがって、本発明は、創傷処置装置および/または創傷包帯材と組み合わせて使用することができる。
【0036】
例えば、ある特定の実施形態において、本発明は、創傷または組織を清拭すると共に消毒するための、最初の安定化次亜塩素酸溶液含浸および/またはスクラブ、続いて、創傷バイオバーデンを制御する、過剰の滲出液を除去する、および肉芽組織の形成を促進するための灌流液として安定化次亜塩素酸溶液を使用した、(本明細書に記載のような)創傷または組織への陰圧の印加を可能とする。任意選択で、方法はまた、安定化次亜ハロゲン酸溶液注入(例えば、負圧を使用しない能動的または受動的注入)への途切れのない移行を含む。そのような途切れのない移行は、制御された真空源による安定化次亜塩素酸溶液の制御された注入を可能とする創傷包帯材により達成され得る。これらの実施形態において、負圧療法のエンドポイントが得られたら、継続的な細胞増殖および再生が、創傷床を破壊することなく継続する。
【0037】
本発明のある特定の実施形態において、ケアを必要とする創傷は、第I〜IV期の褥瘡、鬱血性潰瘍、糖尿病性潰瘍、術後創傷、熱傷、切り傷、擦り傷、または皮膚の軽度の刺激である。ある特定の実施形態において、創傷は、少なくとも2週間にわたり定期的に溶液中で濯がれる、洗浄される、または浸漬されるが、処置は、約4週間、約9週間、またはそれ以上にわたり定期的に継続されてもよい。いくつかの実施形態において、創傷は、少なくとも週に1回溶液で濯がれるが、少なくとも週に2回、またはそれより頻繁に溶液で処置されてもよい。
【0038】
次亜ハロゲン酸溶液は、室温で創傷に送達されてもよいが、代替として、溶液は、例えば体温または体温付近まで加熱されてもよい。この実施形態において、溶液は、患者にとって心地よく鎮静作用があり、より効果的である。
【0039】
いくつかの実施形態において、本発明は、感染もしくはコロニー形成した創傷、組織、外科的空洞、または骨を処置するための方法、および創傷バイオバーデンを低減するための方法を提供する。本発明による処置溶液は、すでに説明したように、一般に、S.aureus、P.aeruginosa、E.coli、Enterococcus spp.、C.difficileおよびCandida Spp.を含む広範囲の細菌、真菌、およびウイルス病原体を死滅させる、または不活性化するために効果的である。溶液は耐性種を生成せず、これによりこの方法は従来の抗生物質の送達よりも望ましいものとなる。
【0040】
別の態様において、本発明の溶液は、様々な処置における移植のための、遺伝子操作された細胞ならびに操作された組織および同種移植片および臓器の使用を含む、幹細胞および成長因子療法との併用に特に好適である。細胞または成長因子の添加の前、間または後に組織を消毒するために、本発明の安定化次亜ハロゲン酸溶液を使用することにより、細胞の生存能力および成長因子の完全性が維持される一方で、望ましくない病原菌が死滅する。
【0041】
ある特定の実施形態において、溶液またはその製剤は、皮膚の炎症反応または過剰炎症を含む炎症の制御に適用される。例えば、溶液またはその製剤は、参照することにより本明細書に組み込まれるUS2007/0196357またはUS2010/0285151に記載のような方法における使用に適用されてもよい。ある特定の実施形態において、本発明の溶液または組成物は、中でも皮膚病、アトピー性皮膚炎、皮膚アレルギー、酒さ、乾癬、または座瘡を有する患者の処置に適用される(例えば、罹患領域に)。そのような実施形態において、HOCl溶液は、例えば本明細書の別の箇所に記載のように、ヒドロゲル剤として製剤化されてもよい。
【0042】
ある特定の実施形態において、本発明は、細菌胞子、真菌、および他の耐性を有する微生物に対する迅速な活性のため、表面上の病原菌に対する使用に有利である。その有効性および作用速度により、本発明は、実質的な公衆衛生ニーズ、および現在一般的に使用されている抗菌剤により適正に対応されていないものに適合する。したがって、様々な表面および材料に対する溶液の適用は、創傷のケアおよび管理だけでなく、医療用もしくは歯科用機器等の硬質表面の消毒、食品の保存および汚染除去、水処理、ならびに他の工業および農業用途において、微生物汚染を制御するのに有用である。ある特定の実施形態において、本発明の溶液または組成物は、その保存および/または製品の全体的品質の改善のために、作物(収穫前もしくは収穫後)または切り花に適用される。いくつかの実施形態において、溶液はカリウム系であり、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれるPCT/US2011/43590)に開示される1つまたは複数の実用性(例えば、使用方法)を有する。
【0043】
食品、農産物、および表面の処理を含む様々な実施形態において、溶液は、ミスト、フォグ、スプレーまたは氷として適用され得る。
【0044】
表面上の細菌胞子および真菌の活性集団を死滅させる、不活性化する、または別様に低減することは、特に困難である。細菌胞子は、増殖期細菌よりも、化学的および物理的な物質の抗菌効果に対してより耐性とする胞子層の独特な化学組成を有する。同様に、真菌細胞、特に黴胞子の独特な化学組成は、他の微生物よりも、化学的および物理的物質に対してより耐性とする。この耐性は、胞子または真菌が、食品、食品接触部位、食器、病院および獣医施設、手術器具、ならびに病院および手術用のリネンおよび衣類等の表面上に存在する場合、特に厄介となり得る。
【0045】
黴Chaetomium funicola、およびBacillus種の細菌胞子形成微生物の制御は、とりわけ、食品パッケージングの間、特に食品および飲料製品の低温または高温無菌充填の間、重要となり得る。Bacillus種の微生物は、Bacillus cereus、Bacillus mycoides、Bacillus subtilis、Bacillus anthracis、およびBacillus thuringiensisを含む。これらの後者の微生物は、多くの表現型特性を共有し、高レベルの染色体配列類似性を有し、エンテロトキシン産生微生物として知られる。Bacillus cereusは、環境表面を汚染除去するために使用される殺菌性化学物質に対する増加した耐性を有することが特定されているため、Bacillus cereusは、最も厄介なものの1つである。
【0046】
本明細書において使用される場合、「表面」という用語は、硬質および軟質表面の両方を指し、これらに限定されないが、タイルグラウト、石膏、乾式壁、セラミック、セメント、粘土、レンガ、スタッコ、プラスチック、壁紙、織物、タイル、セメント、およびビニル床材、加熱および/または冷却用フィン、フィルタ、羽根、バッフル、通気口、壁または屋根の隙間、紙および木製品、例えば製材、紙および段ボール、織布製品、例えばブランケット、衣服、カーペット、カーテン等を含む。表面という用語はまた、人間の表面、動物の表面、軍装備品、輸送機器、子供用品、植物の表面、種、屋外の表面、軟質表面、空気、創傷、および医療機器等も含む。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
安定化次亜塩素酸溶液
図1および2は、2つの環境条件、すなわち低温(C)および室温(R)における、時間の関数としての次亜塩素酸創傷処置溶液のAFCおよびpH測定の5サイクルを示す。示されるように、pHおよびAFC含量の両方が、長期にわたり安定化されなかった。例えば、溶液は、約1週間超の間、安定化されなかった。
【0048】
溶液を安定化するために、NaCl 4.2g/LおよびNaHCO 400mg/Lを含む電解質の電気化学的処理により次亜塩素酸を生成した。試料を、pH5.6の重炭酸ナトリウム(NaHCO)、pH6.7のリン酸二ナトリウム(NaHPO)と組み合わせた重炭酸ナトリウム(NaHCO)、またはpH5.6の重炭酸ナトリウム(NaHCO)、リン酸二ナトリウムおよび二リン酸ナトリウム(9NaHPO:1NaHPO)の混合物で緩衝した。AFCを測定する前に、溶液をHDPE瓶内で暗所に1ヶ月保管した。
【0049】
図3は、時間の関数としてのAFC降下を示す。結果は、リン酸緩衝液を含有しない溶液は、NaHPO緩衝(約25%損失)および9NaHPO:1NaHPO緩衝溶液(約20%損失)と比較して大幅により安定であった(約8%損失)。
【0050】
時間の関数としての安定化溶液の安定性を試験した。NaCl 4.2g/LおよびNaHCO 400mg/Lを含む電解質の電気化学的処理により、次亜塩素酸を生成した。溶液は5.3のpH、ゼロ(0)のアルカリ度、および約250ppmのAFCを有していた。この溶液を、HDPE瓶内にパッケージし、暗所に保管した。390日を超える期間にわたり未開封試験瓶におけるpHおよびAFC含量を測定することにより、時間の関数としての溶液の殺生物活性および安定性を試験した。結果を図4に示すが、これは、AFC含量およびpHに関して、1年を超える期間にわたり溶液が安定化されていることを示している。
【0051】
一般に、次亜塩素酸ナトリウム溶液は、最初の6ヶ月でその滴定可能な塩素の約20%、および1年以内に最大60%を失うことが、NaOCl製造者により想定されている。ある研究では、50℃および70℃において行われた安定性試験およびアレニウスの式による計算に基づき、20℃における25mg/mLの次亜塩素酸ナトリウム溶液の溶液が20mg/mLの遊離残留塩素に達するのに166日を要することが特定された(Nicolettiら、「Shelf-Life of a 2.5% Sodium Hypochlorite Solution as Determined by Arrhenius Equation」、Braz Dent J (2009) 20(1): 27-31を参照されたい)。他の研究でも同様の結果が示されている(「Product Characteristics, Sodium Hypochlorite-Stability PCH-1400-0007」 PCH-1400-0007-W-EN (WW)、第1号-2005年5月、Solvay Chemicals International SA出版を参照されたい)。これらの想定とは対照的に、特許請求の範囲に記載した本発明のNaHCO緩衝次亜塩素酸溶液は、1年の期間にわたり1単位未満のpHシフトと共に、滴定可能な塩素の初期レベルの75%超を維持した。
【0052】
(実施例2)
安定化HOCl溶液の殺生物活性
異なる濃度の次亜塩素酸を含む3種の溶液を生成した。NaCl 4.2g/LおよびNaHCO 400mg/Lを含む電解質の電気化学的処理により、250ppmの次亜塩素酸を含有する第1の溶液を生成した。同様に電気化学的処理で生成された第2の溶液は、480ppmの次亜塩素酸を含有したが、NaHCOは含有しなかった。最後の溶液は、480ppmの次亜塩素酸を含有したが、それに加えてNaHCO 1000mg/Lを組み込んでいた。
【0053】
最悪の事態をシミュレートするために、高い抗生物質耐性を有する細菌株であるC.difficileの胞子を、ブタからの均質化皮膚細胞、ムチン、およびウシ血清アルブミンからなる高濃縮有機媒体中に懸濁させた。微生物を有機液中に懸濁させた後、それらをプラスチック担体上に植菌し、乾燥させて、0分、4分、6分、8分、10分または30分間、各溶液に2回暴露した。既存の消毒剤のいずれも、この有機負荷(漂白を含む)に耐えられなかったことから、2つの異なる濃度の次亜塩素酸を試験した。
【0054】
結果(図5)は、重炭酸ナトリウムを含む溶液が、高有機負荷条件下でC.difficile胞子に対するより高い殺生物活性を有することを実証している。
【0055】
(実施例3)
長期安定性試験
図6は、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器内に瓶詰めされ、室温で保管された、目標pH5.4のNaHCOが豊富なNaCl溶液の電気化学的処理により生成されたHOClの、長期安定性試験の結果を示す。NaHCOのモル含量は、この製剤中の1モルのHOCl当たり1モルのNaHCOと等価である。保管期間にわたり、隔月にHOCl安定化溶液の4つの新たな試料を開封し、次いで1ヶ月後に再び開封し、週1回試験した。最初に開封された試料のpHおよびAFCを、最後に開封された、その月の間週1回開封された試料と比較することにより、重炭酸ナトリウムで安定化されたHOClの安定性が確認された。
【0056】
(実施例4)
添加された重炭酸ナトリウムによるHOClの安定性
乾燥重炭酸ナトリウムを含む容器に加えられたHOClの安定性を、図7Aおよび7Bに示す。イオン強度または溶液塩分は、重炭酸ナトリウムの添加により影響されなかった。結果は、安定剤としての重炭酸塩が、pHおよびAFC安定性の両方に影響することを実証している。いかなる理論にも束縛されないが、pHが約5.5であり、重炭酸塩の緩衝能力が最小限である場合、重炭酸塩は、1つには次亜塩素酸の解離により生成されるフリーラジカルを捕捉することにより、安定剤として作用し得る。その結果、pHおよびAFCの経時的な降下は最小限である。
【0057】
(実施例5)
農業用途のHOCl組成物の安定性
電気化学的に生成され、さらに目標pHのためにリン酸二ナトリウムおよび一ナトリウムで緩衝された次亜塩素酸溶液(農業用途における実用性を有する)におけるpHおよび溶液安定性に対するDIC含量の効果を、図8に示す。リン酸塩添加剤を含む次亜塩素酸の組成物を、重炭酸塩あり、およびなしで試験した。結果は、リン酸塩単独よりも、重炭酸塩の存在下で次亜塩素酸がより良好に安定であることを示した。DICおよびリン酸緩衝液の組合せは、全溶解固形分を著しく増加させることなく、より良好な溶液安定性を提供した。
【0058】
(実施例6)
ヒドロゲル製剤
安定化次亜塩素酸溶液を含有する、ヒドロゲル製剤を開発した。本発明による重炭酸塩または溶解無機炭素の使用は、溶液のイオン強度または電気伝導率に対し最小限の影響を有するにすぎない。したがって、約4〜約7.5のpH範囲(例えば約6.0)でHOCl溶液を安定化することに加えて、重炭酸塩または炭酸塩は、目標pHにおいてイオン強度に影響せず、特に低イオン強度が製剤に重要である場合に、ゲル製剤中の分散媒体としての200ppmを超える遊離有効塩素を有する次亜塩素酸の使用を可能にする。
【0059】
低イオン強度次亜塩素酸溶液(伝導率≦1mS/cm(すなわち、センチメートル当たりのミリジーメンス))、AFC=300ppm、pH5.3を、3%のフルオロケイ酸ナトリウムマグネシウムを含有するヒドロゲル製剤に使用した。等しいpHおよびAFC含量を有する8mS/cmのHOClから作製された等しい粘度のヒドロゲルを生成するには、4%を超えるフルオロケイ酸ナトリウムマグネシウムが必要であった。分散媒体としてのより低いイオン強度のHOCl溶液は、物理的外観および生成物安定性に悪影響を及ぼすことのない、最終生成物におけるpH最適化のための他の緩衝剤の添加を可能にする。ゲル化剤は、それ自体乾燥した緩衝剤であることから、最終生成物におけるpH最適化のための他の緩衝剤を添加する能力は有益となり得る。
【0060】
別の例において、次亜塩素酸溶液、AFC350ppm、pH5.3、塩分4g/l(伝導率8mS/cm)を、4%のF12MgNaSi(フルオロケイ酸ナトリウムマグネシウム)を含有するヒドロゲルの生成に使用した。生成されたヒドロゲルは、330センチポアズ(cP)の粘度および8.2のpHを有していた。pHを「皮膚に優しい」範囲とするために、緩衝剤としてリン酸を添加した。図9に見られるように、最終ヒドロゲルは、pH6から6.8への経時的なpHシフトを有していた。追加的な緩衝剤は、粘度が10mS/cmへの伝導率の増加と共に220cPにシフトするため、ゲル粘度により制限される。
【0061】
実質的に米国特許第7,897,023号(参照することにより本明細書にその全体が組み込まれる)に記載のように、低イオン強度の次亜塩素酸、AFC=370ppmを、塩化ナトリウムの電気化学的処理により生成し、溶解無機炭素(DIC)の初期形態として500ppmのNaHCOに等しい乾燥重炭酸ナトリウムを有する容器内に採取した。このプロセスにより生成された、pH5.2および伝導率0.8mS/cmのHOClは、ゲル調製のための分散媒体であり、また分散媒として使用された。3%のフルオロケイ酸ナトリウムマグネシウムは、ゲル化剤として使用された。ヒドロゲルは、8.4の初期pHおよび約1mS/cmの伝導率で、約10,000cPの粘度で25分未満に形成した。ヒドロゲルのpHを皮膚に優しい範囲(約pH5.5〜5.8)に低下させるために、リン酸を0.25%未満の量で添加した。2,000cPを超える粘度を有するヒドロゲルが形成された。
【0062】
本明細書において引用される全ての参考文献は、参照することによりその全体が組み込まれる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9