特許第6355940号(P6355940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6355940
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】車両用変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 37/02 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   F16H37/02 R
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-39804(P2014-39804)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-163811(P2015-163811A)
(43)【公開日】2015年9月10日
【審査請求日】2017年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】今井 勝政
(72)【発明者】
【氏名】瓦田 遥
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−021027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機構と、変速比が固定の有段変速機構と、エンジン出力が前記両変速機構を利用して車軸側へ伝達する経路を切り替えるためのクラッチと、を備えており、
前記クラッチのオン・オフ切り替えにより設定される車両の走行モードとして、前記両変速機構のうち、前記無段変速機構のみを利用した第1の走行モードと、前記無段変速機構が併用され、または併用されることなく前記有段変速機構を利用した第2の走行モードとが選択可能とされ、
前記第1および第2の走行モードのうち、いずれか一方は、他方よりも車速の高速域側に設定される高速側モードとされ、かつ他方は低速側モードとされ、前記第1および第2の走行モードの切り替えは、前記無段変速機構の変速比が所定のモード切替え変速比と一致または略一致する時点で行なわれるように構成されている、車両用変速装置であって、
前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更動作中のみにおいて、前記クラッチの差回転が、所定以上に大きくなった際には、前記第2の走行モードへの変更動作を中止し、前記第1の走行モードに戻す制御が実行されるように構成されていることを特徴とする、車両用変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式などの無段変速機構と、変速比が固定された歯車式などの有段変速機構との双方を備えたタイプの車両用変速装置に関する。
本明細書における有段変速機構とは、多段変速機構と同義ではなく、変速段が単段のものを含む概念である。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用変速装置の一例として、特許文献1に記載されたものがある。
同文献に記載された車両用変速装置は、ベルト式無段変速機構、変速比が固定の歯車式変速機構、遊星歯車機構、および走行モード切替え用のクラッチを備えている。車両走行モードとしては、第1および第2の走行モードがある。第1の走行モードは、前記2種類の変速機構のうち、ベルト式無段変速機構のみを利用してエンジン出力が車軸側に伝達されるモードである。第2の走行モードは、トルクスプリットモードであり、このモードにおいては、エンジン出力がベルト式無段変速機構および歯車式変速機構の双方を利用して変速された上で、遊星歯車機構を利用してそれらの駆動力が合成され、この合成駆動力が車軸側に出力される。この第2の走行モードにおいては、第1の走行モード時よりも駆動力伝達効率を高めることが可能である。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、前記したような車両用変速装置においては、たとえば、第1の走行モードが低速側モードとされ、かつ第2の走行モードが高速側モードとされて、ベルト式無段変速機構の変速比が所定のモード切替え変速比と一致する時点で、前記両走行モードを切り替えるように設定される。このような設定状態においては、たとえば第1の走行モードで車両を発進させて加速していく際に、ベルト式無段変速機構の変速比が所定のモード切替え変速比になると、その時点で第2の走行モードに変更されることとなる。
ところが、車両の実際の走行運転に際しては、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更動作中において、たとえばアクセル操作が行なわれて目標エンジン回転数が上昇し、ベルト式無段変速機構の変速比がロー側に振れるといった場合があり得る。このような状況下において、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更動作が続行されたのでは、走行モード切替え用のクラッチの差回転が大きくなり、走行モード変更時のショックが大きくなる。これでは、車両の乗り心地が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4552376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、走行モードの変更時に大きなショックが生じることを適切に防止し、車両の乗り心地を良好にすることが可能な車両用変速装置を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供される車両用変速装置は、無段変速機構と、変速比が固定の有段変速
機構と、エンジン出力が前記両変速機構を利用して車軸側へ伝達する経路を切り替えるためのクラッチと、を備えており、前記クラッチのオン・オフ切り替えにより設定される車両の走行モードとして、前記両変速機構のうち、前記無段変速機構のみを利用した第1の走行モードと、前記無段変速機構が併用され、または併用されることなく前記有段変速機構を利用した第2の走行モードとが選択可能とされ、前記第1および第2の走行モードのうち、いずれか一方は、他方よりも車速の高速域側に設定される高速側モードとされ、かつ他方は低速側モードとされ、前記第1および第2の走行モードの切り替えは、前記無段変速機構の変速比が所定のモード切替え変速比と一致または略一致する時点で行なわれるように構成されている、車両用変速装置であって、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへの変更動作中のみにおいて、前記クラッチの差回転が、所定以上に大きくなった際には、前記第2の走行モードへの変更動作を中止し、前記第1の走行モードに戻す制御が実行されるように構成されていることを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、第1の走行モードから第2の走行モードへの切り替え動作中に、アクセル操作がなされるようなことに起因してクラッチの差回転が所定以上に大きくなる状況を生じた場合には、第2の走行モードへの変更動作が中止される。したがって、クラッチの差回転が大きい状態で走行モードの切り替えが実行されることは適切に回避され、車両の乗り心地をよくすることができる。
さらに、本発明によれば、クラッチの差回転が大きくなった場合に中止される走行モードの変更動作は、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更動作であるために、第1の走行モードの設定期間を長くすることが可能である。第1の走行モードは、ベルト式などの無段変速機構のみを利用するモードであるため、変速比固定の歯車式変速機構などの有段変速機構を利用する第2の走行モードと比較すると、変速幅が大きく、第1の走行モードのみによって比較的広い車速領域をカバーすることが可能である。したがって、走行モードの変更動作が頻繁に実行されることが防止され、走行モード変更時のショックに起因して車両の乗り心地が悪化することを、より効果的に回避することができる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る車両用変速装置の概略説明図である。
図2図1に示す車両用変速装置における走行モード切替え用の速度線図である。
図3図1に示す車両用変速装置の変速比、動力伝達効率、およびベルト式無段変速機構のベルト掛け状態の関係の一例を示す説明図である。
図4図1に示す車両用変速装置において実行される動作制御の一例の概略を示すフローチャートである。
図5図1に示す車両用変速装置における作用の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1に示す車両用変速装置Aは、エンジン10の出力軸10aにトルクコンバータ11を介して連結されており、エンジン出力を、差動歯車装置2に連結された一対の車軸9a,9b側に伝えるためのものである。具体的には、この車両用変速装置Aは、ベルト式無段変速機構4、歯車式変速機構5、遊星歯車機構6、スプリットクラッチC1、ドライブクラッチC2、および前後進切り替え用のブレーキB1を備えている。油圧制御装置30や制御部3も付属して設けられている。
ベルト式無段変速機構4は、本発明でいう「無段変速機構」の一例に相当する。歯車式変速機構5は、本発明でいう「有段変速機構」の一例に相当する。
【0014】
ベルト式無段変速機構4は、ベルト掛かり径を可変制御可能な一対のプーリ40a,40bにベルト41を掛け回した構造であり、ベルト掛かり径を変更することにより変速比γBを無段階で変更可能である。プーリ40aは、トルクコンバータ11からの出力を受けるプライマリ軸70に装着されている。ベルト式無段変速機構4の出力軸としてのセカンダリ軸80は、遊星歯車機構6のサンギヤ60との連結が図られているとともに、リングギヤ62に対してはドライブクラッチC2を介して連結可能とされている。
【0015】
歯車式変速機構5は、プライマリ軸70にスプリットクラッチC1を介して連結された第1ないし第3の歯車51〜53を有する歯車列であり、第3の歯車53は、遊星歯車機構6のキャリヤ63に連結されている。このため、スプリットクラッチC1をオン(接続)状態とした際には、プライマリ軸70の回転駆動力を所定の変速比γGで変速した上で、キャリヤ63に伝達させることが可能である。
【0016】
遊星歯車機構6のリングギヤ62は、歯車式変速機構5およびベルト式無段変速機構4から遊星歯車機構6に入力された駆動力の出力部とされている。遊星歯車機構6からの出力は、リングギヤ62に連結された出力軸81、ならびにギヤ82を介して、差動歯車装置2のリングギヤ20に伝達される。
【0017】
この車両用変速装置Aにおいては、車両前進用の走行モードとして、次に述べる第1の走行モードと第2の走行モードとを切替え設定可能である。
第1の走行モードは、歯車式変速機構5およびベルト式無段変速機構4のうち、ベルト式無段変速機構4のみを利用したモードである。この第1の走行モードは、スプリットクラッチC1をオフ、ドライブクラッチC2をオンにすることにより設定される。前後進切り替え用のブレーキB1は、車両後進時にオンとされるものであり、車両前進時にはオフのままとされる。この第1の走行モード時においては、たとえば車速、スロットル開度、および目標エンジン回転数などをパラメータとする3次元マップに基づいて変速比γBが決定され、かつこの決定された変速比γBとなるようにベルト式無段変速機構4が制御される。
第2の走行モードは、歯車式変速機構5およびベルト式無段変速機構4の双方を利用したトルクスプリットモードである。この第2の走行モードは、スプリットクラッチC1をオン、ドライブクラッチC2をオフに切り替えることにより設定可能である。歯車式変速機構5の変速比γGは一定(固定)であるが、この第2の走行モードにおいては、ベルト式無段変速機構4がサンギヤ60およびピニヨンギヤ61を回転させる結果、両変速機構4,5のトータルの変速比は、ベルト式無段変速機構4の変速比γBを変更することによって制御可能である。
【0018】
2つのクラッチC1,C2は、たとえば湿式摩擦板タイプの油圧クラッチであり、交互に配されたクラッチディスクとクラッチプレートとを、油圧ピストンにより押圧して係合可能とするものである。これらクラッチC1,C2以外のブレーキB1や、ベルト式無段変速機構4のプーリ40a,40bのベルト掛かり径変更機構なども油圧式であり、これらは油圧制御装置30を利用して制御される。油圧制御装置30は、ECUなどの制御部3からの指令に基づいて油圧制御を実行する。制御部3には、エンジン回転数センサSa、車速センサSb、スロットル開度センサSc、およびシフトセレクタSdなどから信号が送信され、それらのデータに基づいて車両走行モードの切り替えや、変速比γBの変更動作などが行なわれる。その詳細については、後述する。
【0019】
車両用変速装置Aにおいては、図2に示すような走行モード切替え用の速度線図に基づ
き、第1および第2の走行モードの切替えがなされる。同図の走行モード切替えラインLは、第1の走行モードと第2の走行モードとの切り替えが行なわれる位置を示すラインであって、車速との関係において、ベルト式無段変速機構4の変速比γBが所定のモード切替え変速比γSとなる目標エンジン回転数を示すラインである。モード切替え変速比γSは、たとえば歯車式変速機構5の変速比γGと同一の値とされている(図3も参照)。本実施形態においては、第1の走行モードは低速側モードとされ、かつ第2の走行モードは高速側モードとされている。
【0020】
次に、前記した車両用変速装置Aの作用について説明する。併せて、制御部3による動作制御手順の一例について、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0021】
まず、車両が低速側の第1の走行モードで走行している際において、ベルト式無段変速機構4の変速比γBが、モード切替え変速比γSになり,第2の走行モードへの切り替え動作が開始される場合には、スプリットクラッチC1の差回転の検出が行なわれる(S1:YES,S2)。この差回転が所定以上に増大する現象を生じると、第2の走行モードへの変更動作は中止され、元の第1の走行モードが維持されることとなる(S3:YES,S4)。ここで、「差回転が所定以上に増大」とは、たとえば差回転が増大したことが認識できる程度に比較的僅かに増大した場合であってもよい他、差回転の値または増大幅が所定値を超える程度までやや大きめに増大した場合などであってもよく、差回転がどの程度増大した際に第2の走行モードへの変更動作を中止させるかは、任意に選択し得る事項である。
前記とは異なり、スプリットクラッチC1の差回転が所定以上に増大する現象が生じない場合には、走行モードの切り替え動作が継続され、第2の走行モードが設定されることとなる(S3:NO,S5)。第2の走行モードへの変更動作が完了するまでは、前記した差回転の検出処理などは継続して実行される(S6:NO,S2)。
【0022】
前記した動作制御によれば、図5に示すような作用が得られる。すなわち、同図(a),(b)に示すように、時刻t1においては、目標エンジン回転数が所定の回転数NL(NLは、図2の走行モード切替えラインLに相当する回転数)に達し、変速比γBがモード切替え変速比γSに一致していることにより、同図(d)に示すように、クラッチ油圧制御が開始される。ただし、その後の時刻t2以降においては、たとえばアクセル開度の増大に起因して、目標エンジン回転数が高くなり、かつ変速比γBが大きくなり始めている。その結果、同図(c)に示すように、時刻t3におけるクラッチの差回転ΔNは所定値以上となっている。すると、時刻t3においては、クラッチ油圧制御が中止され、元のクラッチ油圧状態に復帰する動作が開始される。
このようなことから、本実施形態によれば、クラッチの差回転が大きい状態で走行モードの切り替えが実行されることは適切に回避され、車両の乗り心地をよくすることができる。
【0023】
車両用変速装置Aにおいては、上述したように、クラッチの差回転が増大した際に中止される走行モードの変更動作は、第1の走行モードから第2の走行モードへの変更動作とされている。このため、第1の走行モードの設定期間を長くする効果が得られる。好ましくは、第2の走行モードから第1の走行モードへの変更が行なわれる場合には、前記したような規制(差回転の増大による変更動作の中止)がなされない構成とされる。このことにより、第1の走行モードの設定期間をより長くすることが可能である。
第1の走行モードは、変速機構として、ベルト式無段変速機構4のみを利用したモードであるため、変速比固定の歯車式変速機構5を利用した第2の走行モードと比較して、変速幅を大きくし、第1の走行モードのみによって比較的広い車速領域をカバーすることが可能である。したがって、第1の走行モードの設定期間を長くすることによって、走行モードの変更動作が頻繁に繰り返されることを抑制することが可能となる。これは、走行モ
ードの変更動作に伴うショックの回数を少なくし、車両の乗り心地を一層よくする効果をもたらせる。
【0024】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両用変速装置の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0025】
本発明においては、上述した実施形態とは反対に、第1の走行モードを高速側モードとし、かつ第2の走行モードを低速側モードとすることもできる。この場合であっても、本発明が意図する効果が得られる。
第1および第2の走行モードを切り替えるためのモード切替え変速比γSは、歯車式変速機構5の変速比γGと同一の値に限定されず、変速比γGよりもロー側あるいはハイ側に振れた値とすることが可能である。
【0026】
本発明でいう無段変速機構は、ベルト式無段変速機構に代えて、トロイダル方式などの無段変速機構とすることもできる。本発明でいう有段変速機は、歯車式変速機構に代えて、チェーン方式の変速機構とすることもできる。
【0027】
本発明でいう第2の走行モードは、無段変速機構と有段変速機構とを併用したトルクスプリットモードに限らない。たとえば、ベルト式無段変速機構などの無段変速機構を利用せず、歯車式変速機構などの有段変速機構のみを利用したモードとすることもできる。
【符号の説明】
【0028】
A 車両用変速装置
C1 スプリットクラッチ
C2 ドライブクラッチ
2 差動歯車装置
4 ベルト式無段変速機構(無段変速機構)
5 歯車式変速機構(有段変速機構)
6 遊星歯車機構
9a,9b 車軸
図1
図2
図3
図4
図5