(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記表面コーティング剤は、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリルアミド、及びエチレンビスステアリルアミドからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の成形品。
前記メタクリル系樹脂組成物が、JIS K7210:1999に基づいて荷重3.80kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値a(単位:g/10min.)と、荷重10.18kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値b(単位:g/10min.)との間に、下記式(i)及び(ii)で表される関係を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の成形品。
5.0<b/a …(i)
0.3<a<15 …(ii)
前記成形品の形状が長方形又は略長方形の意匠面を有する短冊状であり、かつ、前記長方形又は略長方形の一方の短辺側に、前記意匠面から前記成形品の厚み方向に一段下がった面を有し、
前記成形品を得る際に前記1点ゲートの金型におけるゲートが、前記一段下がった面に接触し、
前記一段下がった面上に別部材が存在する場合に、前記成形品を成形により得る際に前記ゲートに接触する前記成形品の部分が前記別部材により覆われる、請求項8又は9に記載の成形品。
前記成形品が、テールランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、及びナンバープレートガーニッシュのいずれかである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の成形品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には直接の記載はないものの、その実施例に記載されているカーボンブラックの製造メーカーの資料には、「カーボンブラックを950℃で7分間加熱した際の揮発(減量)分。一般に表面官能基が多いほど、揮発する成分は多くなる。」との記述がある。このことから、特許文献1に記載された技術の本質は、表面官能基の多いカーボンブラックを用いることで、その周囲の樹脂との親和性を高めて漆黒性を発現させようとしていることにあると推定される。また、特許文献2に記載の方法は、マスターバッチの作製までに2回、及び最終樹脂組成物の調製の際に1回、の合計3回コンパウドを実施している。すなわち、特許文献2に記載された技術の本質は、分散剤の力を借りながら、基本的にはコンパウンドを繰り返して徹底的にせん断をかけることによって、カーボンブラックの分散性を向上させ、漆黒性を発現させようとしていることにあると推定される。
【0008】
ところで、染料をメタクリル系樹脂にコンパウンドして漆黒性を発現させようとすると、特に肉厚の薄い成形品を作製する場合に遮蔽性が問題となる。すなわち、他部材の上に成形品を取り付けた場合、取り付けられた側の部材の表面が成形品を通して透けて見えてしまったり、また、その取り付けが両面テープによるものの場合では、そのテープが透けて見えてしまったりして、外見上、好ましくない。
【0009】
この遮蔽性の問題は、染料の配合量を増量すれば解決できるが、その一方で、多量の染料の配合は、機械的・熱的物性の低下と原料コストの上昇とを招いてしまう。更に染料は一般的に耐候性に劣るため、自動車の外装部材のように屋外で使用される場合は、退色性も問題となる。
【0010】
これら遮蔽性及び退色性の改善のため、染料と共に微量のカーボンブラックを併用する方法がある。カーボンブラックは光透過性の低い無機物なので、微量添加でも遮蔽性を発現でき、かつ微量添加であれば機械的・熱的物性の低下を抑制できる。しかしながら、カーボンブラックによる黒着色は、業界で「白ボケ」と呼ばれる、白味を帯びた黒着色となってしまうため、特に高い漆黒性が求めらる用途では好適ではない。なお、この「白ボケ」のメカニズムはまだよく分かっていない。ただ、本発明者らは、カーボンブラック表面とマトリックスである樹脂表面との間に空隙が存在し、ここで入射光が光散乱を生じていることが「白ボケ」の原因であると考えている。
【0011】
上記特許文献1及び特許文献2に記載の方法は、通常のカーボンブラックによる方法と比較すれば、確かに漆黒性の向上は認められる。しかしながら、どちらの方法も、塗装品や染料のみを用いた成形品の漆黒性と比較してしまうと、まだその域に及んでおらず不十分である。本発明者らは、特許文献1に記載されたカーボンブラック表面に特殊官能基を持たせることで周囲の樹脂とカーボンブラックとの密着性を高める手法、及び、特許文献2に記載された徹底的にせん断をかけて密着性を高めようとする手法では、周囲に存在する樹脂が溶融状態でもやはり高粘度であるため、上記空隙に入り込んで埋めるには難しいのではないかと考えている。
【0012】
以上のような状況の中、本発明においては上述の従来技術の問題点に鑑み、耐候性及び遮蔽性を高く維持しつつ、塗装品並みの漆黒性を発現するメタクリル系樹脂組成物成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、メタクリル系樹脂組成物において、特定配合量のカーボンブラックを含み、更に特定の面粗度を有する面での反射率が特定範囲内にあるようにすることで、上述の従来技術における課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕メタクリル系樹脂と、0.01質量%以上0.10質量%以下のカーボンブラックと、
表面コーティング剤と、を含むメタクリル系樹脂組成物からなるメタクリル系樹脂組成物製成形品であって、JIS B0601:2013に基づく算術平均粗さRaの値が0.1μm以下である平滑面を有し、分光変角色差計を用いた前記平滑面に対する45°反射測定において、−20°〜20°の測定範囲での反射光のL*平均値が0.15以下であ
り、前記メタクリル系樹脂組成物が、赤系、黄系、緑系、青系及び紫系の染料からなる群より選ばれる3種以上の染料を含み、前記カーボンブラックは、その表面を表面コーティング剤によりコーティングされている、成形品。
〔2〕
前記L*平均値が0.08以下である、〔1〕に記載の成形品
。
〔3〕前記3種以上の染料の総質量xと前記カーボンブラックの総質量yとの比率x/yが、下記式(1)で表される条件を満足する、
〔1〕又は〔2〕に記載の成形品。
4<x/y<50 …(1)
〔4〕前記比率x/yが、下記式(1a)で表される条件を満足する、請求項3に記載の成型品。
8.3<x/y<15 …(1a)
〔5〕前記染料は、アントラキノン系染料、複素環式化合物系染料及びペリノン系染料からなる群より選ばれるものである、〔
1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の成形品
。
〔6〕前記表面コーティング剤は、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリルアミド、及びエチレンビスステアリルアミドからなる群より選ばれる1種以上である、
〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載の成形品。
〔
7〕前記メタクリル系樹脂組成物が、JIS K7210:1999に基づいて荷重3.80kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値a(単位:g/10min.)と、荷重10.18kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値b(単位:g/10min.)との間に、下記式(i)及び(ii)で表される関係を有する、〔1〕〜〔
6〕のいずれか1つに記載の成形品。
5.0<b/a …(i)
0.3<a<15 …(ii)
〔
8〕前記成形品の厚さt(単位:mm)と流動長L(単位:mm)との間に下記式(2)で表される関係を有し、1点ゲートの金型を用いて成形されている、〔
7〕に記載の成形品。
L/t<150 …(2)
〔
9〕前記厚さtが、1.5mm以上3.0mm以下である、〔
8〕に記載の成形品。
〔
10〕前記成形品の形状が長方形又は略長方形の意匠面を有する短冊状であり、かつ、前記長方形又は略長方形の一方の短辺側に、前記意匠面から前記成形品の厚み方向に一段下がった面を有し、前記成形品を得る際に前記1点ゲートの金型におけるゲートが、前記一段下がった面に接触し、前記一段下がった面上に別部材が存在する場合に、前記成形品を成形により得る際に前記ゲートに接触する前記成形品の部分が前記別部材により覆われる、〔
8〕又は〔
9〕に記載の成形品。
〔
11〕前記成形品が、自動車用の意匠材である、〔1〕〜〔
10〕のいずれか1つに記載の成形品。
〔
12〕前記成形品が、テールランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、及びナンバープレートガーニッシュのいずれかである、〔1〕〜〔
11〕のいずれか1つに記載の成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐候性及び遮蔽性を高く維持しつつ、塗装品並みの漆黒性を発現させるメタクリル系樹脂組成物製成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。なお、本明細書において、重合前のモノマー成分のことを「〜単量体」といい、「単量体」を省略することもある。また、重合体を構成する構成単位のことを「〜単量体単位」といい、単に「〜単位」と表記することもある。さらに、本明細書における「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味する。
【0018】
本実施形態の成形品は、メタクリル系樹脂と、0.01質量%以上0.10質量%以下のカーボンブラックと、を含むメタクリル系樹脂組成物からなるメタクリル系樹脂組成物製成形品であって、JIS B0601:2013に基づく算術平均粗さRaの値が0.1μm以下である平滑面を有し、分光変角色差計を用いた前記平滑面に対する45°反射測定において、−20°〜20°の測定範囲での反射光のL*平均値が0.15以下であるものである。
【0019】
〔メタクリル系樹脂〕
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物に含まれるメタクリル系樹脂は、特に限定されないが、本発明の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、メタクリル酸エステル単量体単位と、メタクリル酸エステルに共重合可能な少なくとも1種のその他のビニル単量体単位とを有すると好ましい。また、メタクリル系樹脂におけるメタクリル酸エステル単量体単位の含有割合は80.0〜99.9質量%であると好ましく、上記その他のビニル単量体単位の含有割合は0.1〜20.0質量%であると好ましい。
【0020】
また、メタクリル系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は、60000〜250000であると好ましい。この重量平均分子量が60000以上であることにより、成形品として機能するために必要な機械的物性を維持しやすくなり、250000以下であることにより、成形品を射出成形により得る場合に、溶融樹脂により十分な流動性を発現しやすくなり、成形不良を更に有効に抑制することができる。
【0021】
<メタクリル酸エステル単量体>
メタクリル酸エステル単量体としては、下記に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2−エチルヘキシル)、メタクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル及びメタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)が挙げられる。これらの中で代表的なものはメタクリル酸メチルである。上記メタクリル酸エステル単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
<メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なその他のビニル単量体>
上述したメタクリル酸エステル単量体に共重合可能なその他のビニル単量体としては、アクリル酸エステル単量体が挙げられる。アクリル酸エステル単量体としては、下記に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。これらの中では、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル及びアクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸メチルがより好ましい。
【0023】
メタクリル系樹脂におけるメタクリル酸エステル単量体の含有割合は、耐熱性、耐熱分解性及び流動性を、成形品の製造上及び使用上などの実用上で、バランスよく一層優れたものとする観点から、メタクリル系樹脂の全量を基準として、80.0〜99.9質量%が好ましく、85.0〜99.8質量%がより好ましく、90.0〜99.7質量%がより好ましい。その含有割合が80.0質量%以上であることにより耐熱性が向上し、99.9質量%以下であることにより、耐熱分解性及び流動性が向上する。
【0024】
また、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、アクリル酸エステル単量体以外のその他のビニル単量体としては、以下の例に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及び桂皮酸等の不飽和基含有二価カルボン酸並びにそれらのアルキルエステル;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、о−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン及びイソプロペニルベンセン(α−メチルスチレン)等のスチレン系単量体;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、1,1−ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン及びイソプロペニルオクチルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;マレイミド;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド及びN−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド;アクリルアミド及びメタクリルアミド等のアミド類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の、エチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート及びジ(メタ)アクリレート等の、エチレングリコール以外の2価のアルコールの2個の水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールの2個以上の水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;並びに、ジビニルベンゼン等の多官能モノマーが挙げられる。
【0025】
なお、メタクリル系樹脂においては、耐熱性、加工性等の特性を向上させる目的で、上記例示したビニル単量体以外のビニル系単量体を適宜添加して共重合させてもよい。
【0026】
上記メタクリル酸エステル単量体に共重合可能なアクリル酸エステル単量体や、アクリル酸エステル単量体以外のビニル系単量体は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
メタクリル系樹脂を構成する、上述したメタクリル酸エステル単量体に共重合可能なその他のビニル単量体単位の含有割合は、メタクリル系樹脂の全量を基準として、0.1〜20.0質量%であると好ましい。この含有割合を0.1質量%以上とすることにより、本実施形態のメタクリル系樹脂において流動性及び耐熱性の向上を図ることができ、20.0質量%以下とすることにより、更に優れた耐熱性が得られる。この含有割合は、好ましくは0.2〜15.0質量%であり、より好ましくは0.3〜10.0質量%である。
【0028】
<重合開始剤>
本実施形態のメタクリル系樹脂を製造する際には、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、ラジカル重合を行う場合は、下記に限定されるものではないが、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及び1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル及び2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を挙げることができる。
【0029】
これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。
【0031】
これらの重合開始剤は、全単量体の総量100質量部に対して、0〜1質量部の範囲で用いるのが一般的であり、重合を行う温度と開始剤の半減期とを考慮して適宜選択することができる。
【0032】
メタクリル系樹脂は、多段重合によって得ることもできる。多段重合を行う方法として、塊状重合法、キャスト重合法又は懸濁重合法を選択する場合、メタクリル系樹脂の着色を防止し得ること等の観点から、過酸化系重合開始剤を好適に用いることができる。過酸化系重合開始剤としては、下記に限定されるものではないが、例えば、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートが挙げられ、これらの中ではラウロイルパーオキサイドがより好ましい。
【0033】
また、メタクリル系樹脂を得る際に、90℃以上の高温下で溶液重合法を行う場合、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物又はアゾビス開始剤を用いることが好ましい。過酸化物及びアゾビス開始剤としては、下記に限定されるものではないが、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)及び2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリルが挙げられる。
【0034】
<分子量の制御>
本実施形態のメタクリル系樹脂を製造する際には、本発明の目的を損わない範囲で、メタクリル系樹脂の分子量の制御を行うことができる。
【0035】
分子量の制御は、下記に限定されるものではないが、例えば、メタクリル系樹脂を重合により得る際に、アルキルメルカプタン類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びトリエチルアミン等の連鎖移動剤、ジチオカルバメート類、トリフェニルメチルアゾベンゼン及びテトラフェニルエタン誘導体等のイニファータ等の添加剤を用いることによって行うことができる。これらの連載移動剤又はイニファータの添加量を調整することにより、分子量をより精密に調整することが可能である。
【0036】
連鎖移動剤としては、取扱性や安定性の観点から、アルキルメルカプタン類が好適に用いられる。アルキルメルカプタン類としては、下記に限定されるものではないが、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)及びペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)が挙げられる。
【0037】
分子量の制御に用いられる添加剤は、目的とするメタクリル系樹脂の分子量に応じて適宜添加することができるが、一般的には、使用する全単量体の総量100質量部に対して0.001質量部〜3質量部の範囲で用いられる。
【0038】
また、その他の分子量制御方法としては、重合方法を変更する方法、重合開始剤の量を調整する方法、及び重合温度を変更する方法が挙げられる。
【0039】
これらの分子量制御方法は、1種の方法のみを用いてもよく、2種以上の方法を併用してもよい。
【0040】
<メタクリル系樹脂の流動性>
次に、本実施形態のメタクリル系樹脂の流動性について説明する。優れた漆黒性を発現させるためには、メタクリル系樹脂組成物の溶融時の流動性が非常に重要である。これは、その実現には金型表面の平滑性も重要ながら、更にそれを十分転写できるだけの溶融流動性をメタクリル系樹脂組成物が有することも必要であるからである。金型表面の平滑性の転写が十分であれば、成形品表面での凹凸は少なく光散乱を抑制できる。光散乱は白っぽさの原因、すなわち漆黒性発現の阻害要因と考えられるので、溶融時の流動性を高めることで優れた漆黒性をより有効かつ確実に発現することができる。
【0041】
メタクリル系樹脂の流動性を高めるには、分子量をより低分子量側へシフトさせる方法、あるいは、メチルアクリレートなどのガラス転移点を下げる効果のあるコモノマー成分の重合比率を高める方法が通常採用される。しかしながら、これら2つの方法は、特に本実施形態の成形品を自動車の外装・内装用意匠材として用いる際、下記の理由により、好適な方法とはいえない。
【0042】
まず、分子量をより低分子量側にシフトさせると耐薬品性(耐有機溶剤性)も低下しやすくなる。ところが、自動車用外装意匠材として成形品は、ワックスリムーバやガソリンといった有機溶剤と接触する可能性が想定されており、また、自動車用内装意匠材としての成形品は、芳香剤や香水などの有機溶剤と接触する可能性が想定されている。このため、メタクリル系樹脂の分子量を低分子量側にシフトすることは、流動性を高める方法としては必ずしも好適ではない。
【0043】
一方、ガラス転移点を下げる効果のあるコモノマー成分の重合比率を高めると、耐熱性が低下する傾向にある。ところが、自動車は夏場や赤道直下の国々など、灼熱環境下での使用時も十分想定される工業製品であるため、そのようなコモノマー成分の重合比率を高めることは、流動性を高める方法としては必ずしも好適ではない。
【0044】
本実施形態において、耐薬品性及び耐熱性を高く維持しつつ、流動性にも優れたものとする観点から、メタクリル系樹脂が、意図的に分子量分布を広げたタイプのメタクリル系樹脂であると好ましい。具体的には、意図的に流動性を担う低分子量のメタクリル系樹脂及び耐溶剤性を発現する高分子量のメタクリル系樹脂のそれぞれについて、必要な流動性と耐溶剤性とに応じて分子量及び構成比を制御すると好ましい。そのようなメタクリル系樹脂の製造法としては、下記に限定されないが、例えば、低分子量のメタクリル系樹脂及び高分子量のメタクリル系樹脂をそれぞれ別個に重合し、コンパウンドで混ぜ合わせて得る方法、並びに、コンパウンドを経ずに重合して低分子量のメタクリル系樹脂と高分子量のメタクリル系樹脂とを得る方法が挙げられる。
【0045】
後者のコンパウンドを経ずに重合して低分子量のメタクリル系樹脂と高分子量のメタクリル系樹脂とを得る方法としては、例えば国際公開第2007/60891号で開示されているように、極端に分子量の異なる2種のメタクリル系樹脂を1つの重合反応槽内で連続してそれぞれ懸濁重合により得る方法が挙げられる。
【0046】
また、コンパウンドを経ずに重合して低分子量のメタクリル系樹脂と高分子量のメタクリル系樹脂とを得る別の方法としては、連続塊状重合又は連続溶液重合法にて、並列に並べた2つ以上の重合反応槽でそれぞれ分子量の異なるメタクリル系樹脂を重合し、それぞれの重合物が溶解している重合液を合流させて混ぜ合わせた後、溶剤や未反応モノマーを除いてメタクリル系樹脂を得る方法もある。なお、並列に2つ以上の重合反応槽を並べる重合装置の例としては、例えば、特開2012−153805号公報及び特開2012−153807号公報に記載の装置が挙げられる。また、更には、連続塊状重合又は連続溶液重合法にて、直列に並べた2つ以上の重合反応槽でそれぞれ分子量の異なるメタクリル系樹脂を連続して重合させる方法もある。なお、直列に2つ以上の重合反応槽を並べる重合装置の例としては、例えば、特開2012−102190号公報に記載の装置が挙げられる。
【0047】
[メタクリル系樹脂組成物]
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、上記メタクリル系樹脂とカーボンブラックとを含むものである。
【0048】
本発明者らは鋭意研究した結果、上記意図的に分子量分布を広げたメタクリル系樹脂を含むメタクリル系樹脂組成物が、ある特定範囲のものであると、自動車の外装・内装用意匠材として用いる上で特に好適であることを突き止めた。具体的には、メタクリル系樹脂組成物が、JIS K7210:1999に基づいて荷重3.80kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値a(単位:g/10min.)と、荷重10.18kgf、試験温度230℃で測定したメルトマスフローレイトの値b(g/10min.)との間に、下記式(i)及び(ii)で表される関係(以下、「特定のMR相関」と表記する。)を有すると好ましい。
5.0<b/a …(i)
0.3<a<15 …(ii)
【0049】
上記特定のMR相関が好適なのは、以下の理由に基づくものである。つまり、本実施形態の成形品を自動車の外装・内装用意匠材、特に自動車外装用意匠材として用いる場合、薄肉かつ長手の部品であり、かつ意匠性が重要視されるため、そのほとんどが1点ゲートを有する金型を用いて形成され、高流動性が求められる。このため、値aが0.3を超え、または、b/aの値が5.0を超えることにより、メタクリル系樹脂組成物がより高い流動性を有し、金型の全体により充填されやすくなる。また、メタクリル系樹脂組成物を金型内に充填した際に、金型キャビティー内の圧力損失をより小さくでき、成形歪を発生しがたくするため、成形後の反りや成形歪が原因のソルベントクラックを誘発するリスクをより低減することができる。一方、値aが15未満であることにより、より十分な流動性と共に、より良好な耐薬品性(耐有機溶剤性)を有することが可能となる。
【0050】
<カーボンブラック>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、その組成物の全量に対して、カーボンブラックを0.01質量%以上0.10質量%以下の範囲で含む。カーボンブラックの含有割合が0.01質量%以上であることにより、特に肉厚の薄い成形品であっても遮蔽性を高く維持することができる。また、この含有割合が0.10質量%以下であることにより、十分に深みのある漆黒性を発現することができる。
【0051】
カーボンブラックは、その表面を表面コーティング剤によりコーティングされたものであると、より深みのある漆黒性を発現できるので好ましい。その表面コーティング剤として好適に使用できるものとしては、具体的には、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリルアミド及びエチレンビスステアリルアミド(EBS)が挙げられ、これらが好ましい。これらの中でも、より深みのある漆黒性を実現できる観点から、ステアリン酸亜鉛及びEBSがより好ましい。表面コーティング剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0052】
なお、これらの化合物は、カーボンブラック等の染顔料の分散剤としても通常用いられるものでもある。ただし、分散剤としてこれらの化合物を用いる場合、カーボンブラックとただ粉体同士を混ぜ合わせるだけであるため、カーボンブラックの表面をコーティングする表面コーティング剤としては機能していない状態にある。この状態のカーボンブラックは、上記化合物を表面コーティング剤として用いた場合と比較して、メタクリル系樹脂にコンパウンドした場合の漆黒性が低くなる傾向にある。本発明者らは、上記化合物をその融点以上に加熱した後でカーボンブラックと混ぜ合わせてせん断をかけ、十分撹拌することで、上記化合物のカーボンブラックとの配合比を分散剤として用いる場合と全く同じ組成にしても、上記化合物が表面コーティング剤として機能し、漆黒性を著しく向上できることを見出した。このメカニズムとして本発明者らは下記を推定している。すなわち、上記のとおり本発明者らは、カーボンブラック表面とマトリックスである樹脂表面との間に空隙が存在し、ここで入射光が光散乱を生じていることが、漆黒性を十分に発現できない状態である「白ボケ」の原因であると考えている。上記化合物をその融点以上に加熱した後でカーボンブラックと混ぜ合わせて撹拌することにより、そのカーボンブラック表面に存在する微細な凹凸、又は複数のカーボンブラック粒子間に存在する空隙をより容易に埋めることができると推定される。また、溶融樹脂とのコンパウンドの前に、表面コーティング剤でカーボンブラック表面の凹凸又はカーボンブラック粒子間の空隙を埋めておくことにより、コンパウンド時のマトリックスである溶融樹脂がそれらの凹凸や空隙を埋めることができるか否かにかかわらず、「白ボケ」をより十分に抑制するという観点から極めて有効な手段であると考える。
【0053】
なお、上述の推定メカニズムに基づけば、表面コーティング剤は特に上記で例示した化合物に限定されず、メタクリル系樹脂と相溶性があり、かつその物性に影響を与え難い物質であれば好適に使用できることは容易に類推される。
【0054】
カーボンブラックが表面コーティング剤によりその表面をコーティングされている場合、カーボンブラックの質量Wcと表面コーティング剤の質量Wsとの比率(Wc/Ws)は、20/80〜60/40であると好ましく、30/70〜50/50であるとより好ましい。Wc/Wsがこの範囲にあることで、より深みのある漆黒性を実現することができる。
【0055】
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物に含まれるカーボンブラックの種類としては、特に限定されず、樹脂の着色用として市販されているものであってもよい。より具体的には、顕微鏡観察による算術平均粒径が10〜40nm、JIS K6217:2001で規定される窒素吸着比表面積が50〜300m
2/g、及び950℃で7分間加熱した際の揮発分が0.5〜3質量%であることのうち1種以上の条件を満たすカーボンブラックを好適に使用できる。
【0056】
<染料>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物は、カーボンブラックに加えて、染料を含むことが、より漆黒性の深みを増す上で好ましい。更に深みのある漆黒性を発現させる観点から、メタクリル系樹脂組成物が、3種以上の染料を含むことが好ましく、それらの染料は、互いに色相の異なる3種以上の染料であるとより好ましく、赤系、黄系、緑系、青系及び紫系の染料からなる群より選ばれる3種以上の染料であることが更に好ましい。単純に青系染料と黄系染料との組合せのみ、又は緑系染料と赤系染料との組合せのみという狭い範囲での組合せよりも、所謂光の3原色をまんべんなく含んだ組合せによって漆黒性を発現させる方が、より深みを増した漆黒性を発現させる観点で好ましいからである。そのような組合せとしては、例えば、紫系染料、緑系染料、黄系染料及び青系染料の組合せ、紫系染料、黄系染料、緑系染料及び赤系染料の組合せ、赤系染料、緑系染料及び青系染料の組合せ、といった、複数の系統の染料の適量ずつの組合せが挙げられ、これらの中では、既に多くの市販製品があり、後述する耐光性染料の種類も多いのでより所望の漆黒性を実現しやすいという観点から、赤系染料、緑系染料、黄系染料及び青系染料の組合せが好ましい。
【0057】
赤系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent red 52、同111、同135、同145、同146、同149、同150、同151、同155、同179、同180、同181、同196、同197、同207、Disperse Red 22、同60、及び同191等が挙げられる。青系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Blue 35、同45、同78、同83、94、同97、同104、及び同105等が挙げられる。黄系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Disperse Yellow 160、Disperse Yellow 54、同160、及びSolvent yellow 33が挙げられる。緑系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Green 3、同20、及び同28等が挙げられる。紫系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Violet 28、同13、同31、同35、及び同36等が挙げられる。これらの染料は各色毎に、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0058】
なお、染料の種類は特に限定されないが、耐候性の観点から、アントラキノン系染料、複素環式化合物系染料及びペリノン系染料からなる群より選ばれるものが好ましい。アントラキノン系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Violet 36、Solvent Green 3、同28、Solvent Blue 94、同97、及びDisperse Red 22等が挙げられる。複素環式化合物系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Disperse Yellow 160等が挙げられる。ペリノン系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent red 179等が挙げられる。これらはそれぞれ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
また、メタクリル系樹脂組成物における染料の配合量について、配合される染料の総質量xと、カーボンブラックの総質量y(xとyは同単位である。)との比率x/yが、下記式(1)で表される条件を満足することが好ましい。
4<x/y<50 …(1)
【0060】
一般的に、染料はカーボンブラックよりも高価なため、x/yを50未満とすることにより、染料の割合を低くして、コスト的なメリットを向上させることができる。一方、x/yが4を超えると、カーボンブラックに対する染料の割合が適度に高くなり、染料を添加することによる漆黒性の深みを増す効果が更に向上する。同様の観点から、比率x/yは、下記式(1a)で表される条件を満足することがより好ましく、下記式(1b)で表される条件を満足することが更に好ましい。
9<x/y<15 …(1a)
10<x/y<12 …(1b)
【0061】
<メタクリル系樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物は、例えば、メタクリル系樹脂、カーボンブラック、及び必要に応じて配合される染料などのその他の原料を撹拌によって十分混合させた後で、溶融混練(コンパウンド)することによって得ることができる。あるいは、それらカーボンブラック及び/又は染料を用い、メタクリル系樹脂をベースとした高濃度のマスターバッチを溶融混練して調製し、そのマスターバッチを他のメタクリル系樹脂を用いて薄めて溶融混練しても、本実施形態に係るメタクリル系樹脂組成物を得ることができる。なお、コンパウンド時の樹脂組成物の温度は、300℃以下であると好ましく、290℃以下であるとより好ましく、280℃以下であると更に好ましい。その樹脂組成物の温度が300℃以下であることにより、メタクリル系樹脂の熱分解による残存モノマーの発生をより抑制でき、残存モノマーの可塑化効果による耐熱性等の物性低下及び射出成型時のシルバーをより有効かつ確実に防止することができる。
【0062】
[メタクリル系樹脂組成物製成形品]
<平滑部>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品(以下、単に「成形品」ともいう。)は、上述のメタクリル系樹脂組成物からなる成形品であり、深みのある漆黒性が求められる平滑面を意匠面として有している。その意匠面は、面粗度の数値が極めて低い状態であることが必要である。具体的には、JIS B0601:2013で規定される算術平均粗さ(中心線表面粗さ)Raの値が0.1μm以下であり、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.05μm以下である。この算術平均粗さRaが、0.1μm以上であることにより、意匠面が人間の目に白っぽく見えるのを防止することができる。これは、算術平均粗さRaが0.1μm以上であることにより、その意匠面での凹凸により光散乱が大きくなるのを抑制できるためと本発明者らは推定している。なお、上記算術平均粗さRaの下限は特に限定されず、算術平均粗さRaを測定する装置の検出下限以下であってもよい。例えば、算術平均粗さRaを測定する装置が下記の(株)東京精密製の表面粗さ計である場合、算術平均粗さRaの下限は、その検出下限である0.01μmであってもよい。
【0063】
本実施形態の成形品の面粗度測定は、市販の表面粗さ計にて測定が可能である。市販の表面粗さ計としては、例えば、(株)東京精密製の表面粗さ計(商品名「サーフコム558A」)が挙げられる。
【0064】
上述の範囲にある算術平均粗さRaを有する平滑面を実現させるためには、その平滑面に対応する金型のキャビティ表面も同等以上の算術平均粗さRaを有することが好ましい。具体的には、磨き番手5000番以上で磨かれたキャビティ表面が好ましく、より好ましくは8000番以上、更に好ましくは10000番以上の磨き番手で磨かれたキャビティ表面である。
【0065】
意匠面である平滑面の形状は、平面であっても曲面であってもよい。平滑面が曲面である場合、算術平均粗さRaは、JIS B 0601に規定の方法に準拠して上記曲率を補正して計測すればよい。
【0066】
また、本実施形態に係る平滑面に対する分光変角色度計を用いた45°反射測定において、−20°〜20°の測定範囲での反射光のL*平均値は0.15以下であり、0.13以下であると好ましく、0.10以下であるとより好ましい。その反射光のL*平均値が0.15以下であることにより、より優れた漆黒性を発現することができる。その反射光のL*平均値の下限は特に限定されず、測定装置の検出下限以下であってもよい。例えば、反射光のL*平均値を測定する装置が後述の日本電色工業(株)製の分光変角色度計である場合、反射光のL*平均値の下限は、その検出下限である0.01であってもよい。
【0067】
平滑面に対する分光変角色度計を用いた45°反射測定において、−20°〜20°の測定範囲での反射光のL*平均値は、下記実施例に記載の方法に準拠して測定される。
【0068】
上述の範囲にある反射光のL*平均値を示す平滑面を実現させるためには、優れた漆黒性を有するようにするための上述の各手段を採用することが好ましい。特に反射光のL*平均値を示す平滑面をより有効かつ確実に実現するためには、成形品内部の内部散乱と、成形品表面での外部散乱とを、共に抑制することが重要であると推定される。前者は例えばカーボンブラック表面をコーティングすること、後者は例えば成形品表面の表面粗さ、すなわちその部分に対応する金型表面を磨くことが重要であり、それぞれ前出の方法を採用することが好ましい。
【0069】
また、本実施形態に係る平滑面の面積は、その成形品の大きさにも依存するが、人間が目視で漆黒性を現認しやすい観点から、1cm
2以上であると好ましく、より好ましくは4cm
2以上であり、更に好ましくは9cm
2以上である。
【0070】
<厚さと流動長との関係>
本実施形態の成形品は、厚さt(単位:mm)と流動長L(単位:mm)との間に下記式(2)で表される関係を有することが好ましい。
L/t<150…(2)
成形品が上記式(2)で表される関係を有することで、射出成形時に金型キャビティ内の流動末端部まで樹脂組成物を良好に充填することができる。また、上記式(2)で表される関係を有することで成形歪を抑制することができるので、反りやソルベントクラック尾を防止することも可能となる。同様の観点から、L/tは145未満であるとより好ましく、140未満であると更に好ましい。一方、L/tの下限は特に限定されないが、成形品に軽量化・薄肉化の要求を一層満足させる観点から、L/tが100以上であると好適である。なお、流動長Lは、成形品を得る際にメタクリル系樹脂組成物が流動した長さを示し、その大きさに合せて適宜、ノギス、マイクロメータ、物差し及び三次元測定機等、市販の各種計測道具によって測定される。
【0071】
また、成形品の厚さtは、1.5mm以上3.0mm以下であると好ましく、1.8mm以上2.8mm以下であるとより好ましく、2.0mm以上2.6mm以下であると更に好ましい。成形品の厚さtが1.5mm以上であると、成形歪を低減できるという効果を奏する。一方、厚さtが3mm以下であると、成形品をより軽量化することができる。例えば、成形品を自動車外装・内装用意匠材などの意匠面を有する用途に用いると、成形品は意匠面を有していればよく、その厚さを薄くするほど軽量化できるので好ましい。
【0072】
本実施形態の成形品は、意匠性を重要視する場合に、ウエルドライン等の発生を抑える観点から、1点ゲートの金型を用いて成形されることが好適である。
図2は、本実施形態の成形品の一例を模式的に示す斜視図である。成形品100は、長方形の意匠面Dを有する短冊の形状を有する。また、成形品100において、その成形品100を得る際に1点ゲートの金型におけるゲートが接触する部分は、
図2において符号Gで示すように、成形品100の一方の短辺側であると好ましい。このように成形品の形状が長方形又は略長方形の意匠面を有する短冊状である場合に、ゲートが接触した部分を一方の短辺側にすると、樹脂流動の乱れのため他の部分に比べると外観が荒れやすくなるゲート付近のその乱れを目立ち難くすることが可能となる。
図2に戻って詳細に見ると、成形品100は、長方形の一方の短辺側に、意匠面Dから一段下がった面Sを有し、その面Sに上記ゲートが接触した部分がある。このように意匠面から一段下がった面に、ゲートが接触した部分があると、その一段下がった面上に別部材(図示せず。)が存在する場合(例えば成形品と別部材が接合する場合)に、ゲートが接触した部分がその別部材に覆われて目視によって確認し難くなるので、好適である。さらに、一段下がった面上に別部材を存在させると、成形品の意匠面と別部材の表面とを面一にすることも可能となる。ただし、短冊状の成形品が、上記のような意匠面から一段下がった面を有しなくてもよく、その場合であってもゲートが接触した部分が別部材に覆われると目視によって確認し難くなるので好ましい。
【0073】
<成形品の製造方法>
本実施形態の成形品は、例えば、下記のようにして製造することができる。まず、必要に応じてペレットの形態で得られた上記メタクリル系樹脂組成物を射出成形機の金型キャビティ内に投入する。この際、金型としては成形品の形状に対応する形状の金型キャビティを有し、かつ、1点ゲートである金型を用いることが好ましい。また、その金型におけるゲートの位置は、最終的に得られる成形品において別部材によって覆われることで目視にて確認できなくなるような部分と接触する位置であると好ましい。次いで、その射出成形機により所定の条件にてメタクリル系樹脂組成物を射出成形する。こうして本実施形態の成形品を得ることができる。
【0074】
また、射出成形時の金型温度は、金型表面を研磨した場合に研磨された金型表面の転写性をより高める観点、及び、メタクリル系樹脂のガラス転移温度を考慮して過度な冷却を抑制する観点から、60℃以上100℃以下であると好ましく、70℃以上90℃以下であるとより好ましく、75℃以上85℃以下であると更に好ましい。
【0075】
<成形品の用途>
本実施形態のメタクリル系樹脂組成物製成形品は、遮蔽性、機械的・熱的物性、及び塗装品並みの漆黒性が求められる用途に用いられることが好ましく、特に自動車用の意匠材として用いられることが好ましい。自動車用の意匠材としては、例えば自動車外装用意匠材及び自動車内装用意匠材が挙げられるが、本発明による作用効果をより有利に活用する観点から、自動車外装用意匠材が好ましい。本実施形態の自動車外装用意匠材としては、例えば、テールランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル及びナンバープレートガーニッシュが挙げられ、これらが好適である。これらの用途は総じて、薄肉の長手部品であり、意匠性が重要視されるものである。
【実施例】
【0076】
以下、本発明について具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
〔メタクリル系樹脂組成物〕
(原料)
メタクリル系樹脂、カーボンブラック、及び染料としてそれぞれ、表1〜3に記載の市販品を用い、それらをコンパウンド原料とした。なお、メタクリル系樹脂の形態は、表1の銘柄に「デルパウダ」と記載しているものがビーズ状、「デルペット」と記載しているものがペレット状のものである。
【0078】
(カーボンブラックの表面コーティング法)
CB−A1、CB−A2及びCB−B1については、表3に記載のカーボンブラックに対して、表3にそれぞれ記載の表面コーティング剤を用いてコーティング処理を施した。
具体的には、まず、カーボンブラックの1.5倍の質量の表面コーティング剤を量り取り、それを融点以上に加熱して溶融させた後、所定量のカーボンブラックをその融液の中へ投入し撹拌した。なお、ステアリン酸亜鉛の融点は約140℃、エチレンビスステアリルアミド(EBS)の融点は約140〜145℃である。十分撹拌して分散させた後、冷却して、表面がコーティングされたカーボンブラックを得た。
【0079】
(コンパウンド)
表4に記載の配合割合になるよう、メタクリル系樹脂、カーボンブラック及び染料をそれぞれ計量した後、ヘンシェルミキサーへ投入し、それらを撹拌によって混合し分散させた。十分撹拌によって混合させた後、二軸押し出し機にその混合原料を投入し、溶融混練(コンパウンド)してストランドを生成し、ウォーターバスでそのストランドを冷却した後、ペレタイザーで切断してペレットを得た。なお、コンパウンドの際、押し出し機のベント部に真空ラインを接続し、水分やモノマー成分等の揮発成分を除去した。こうして、メタクリル系樹脂組成物を得た。なお、コンパウンド時の樹脂組成物の温度は、270℃であった。
【0080】
〔平板状評価用試料〕
(射出成形)
得られたメタクリル系樹脂組成物のペレットを射出成形機に投入し、短冊(平板)状(100mm×100mm×3mm)に成形し、評価用試料とした。なお、金型は、評価用試料の後述の45°反射測定及び目視評価に用いられる側の金型表面(金型キャビティ内面)が8000番の磨き番手で研磨されているものを用いた。そして、その8000番の磨き番手で研磨されている側の金型表面が転写されている成形品表面を、この評価用試料の平滑面とした。すなわち、この評価用試料での平滑面の面積は100cm
2であった。
なお、この評価用試料の成形条件は、下記のように設定した。
樹脂温度: 250℃(実施例6を除く実施例全て
、参考例全て及び比較例1〜3)
樹脂温度: 260℃(実施例6)
金型温度: 80℃(全ての実施例
、参考例及び比較例)
また、射出成型時の金型温度は、8000番の磨き番手で研磨された金型表面の転写性を高めるため、より高温に保つことが重要である。しかしメタクリル系樹脂のガラス転移温度が100℃前後である事から、高過ぎても冷却時間が長すぎる事となり、実用的ではなくなる。それらを良質させる温度範囲は、60℃以上100℃以下であり、より好ましくは70℃以上90℃以下、更に好ましくは75℃以上85℃以下であり、今回はその中の80℃を選択した。
【0081】
(算術平均粗さRa)
評価用試料の平滑面の算術平均粗さRaは、JIS B0601:2013に従い測定した。具体的には、(株)東京精密製の表面粗さ計(商品名「サーフコム558A」)を用い、任意の位置で3mmの距離を掃引して算術平均粗さRaを測定した。その結果を表5に示す。
【0082】
(メルトマスフローレート)
上記のようにして作製した評価用試料をニッパーにて粉砕し、その粉砕物を80℃で24時間乾燥させた。その後、まず、JIS K7210:1999に基づいて、荷重3.80kgf、試験温度230℃にて、メルトマスフローレートの値a(単位:g/10min.)を測定した。その後、荷重を10.18kgfに変更し、同じく230℃の温度条件で同様にメルトマスフローレートの値b(単位:g/10min.)を測定した。メルトマスフローレイトの値a及びb、並びにb/aの値を表5に示す。
【0083】
(分光変角色差計での45°反射測定)
日本電色工業(株)製の分光変角色差計(製品名「GC5000」)を用いて、上記評価用試料の45°反射測定を行った。この測定では、平板状の評価用試料に45°の角度で測定光を照射し、その反射光のL*を測定角度−80°から+80°まで5°間隔で測定した。例として、
図1に実施例1及び比較例2の成形品(評価用試料)での測定チャートを示す。
図1では、測定角度+45°の位置が実施例1及び比較例2共に上側に突き抜けているが、これは正反射光成分である。この正反射光成分のL*は、どの実施例
、参考例及び比較例においてもほぼ一定であり、91±1の間に収まっていた。そして、正反射光成分の影響が無視できる測定角度−20°〜+20°の範囲にて、5°間隔で計測された数値、すなわち、測定角度−20°、−15°、−10°、−5°、0°、5°、10°、15°及び20°での反射光のL*の算術平均を各実施例
、参考例及び比較例において算出した。その結果を表5に記す。
【0084】
〔評価〕
(目視評価:漆黒性)
平板状の評価用試料の意匠面における漆黒性を、晴天の太陽光の下、5人の判定員の目視によって評価した。塗装品並みの漆黒レベルであると5人中4人以上が判定したものは「〇」、3人が判定したものは「△」、2人以下が判定したものは「×」と評価した。その結果を表5に示す。本発明に係る成形品(評価用試料)は、いずれも優れた漆黒性を示すことがわかった。
【0085】
(耐候性評価)
まず、JIS K7350−4の手法を用いて上記平板状の評価用試料の曝露試験を行った。曝露条件は、ブラックパネルの温度設定が63±3℃、水の噴霧時間設定は(18±0.5)分間、噴霧停止時間設定は(102±0.5)分間とし、総曝露時間は2040時間とした。この条件下で上記平板状の評価用試料の意匠面を曝露した。曝露後、意匠面は水洗し、下記の耐候性の評価に備えた。
耐候性は、上記曝露試験前後の色差にて評価した。色差としては、ΔE
*ab(デルタイ
ースターエービー)の値を用いた。その測定はJIS Z8730に従い、色差計を用いて、上記平板状の評価用試料の意匠面と、曝露後の同試料の意匠面の色差を計測し算出した。
耐候性は2040時間曝露でΔE
*abが3以下であれば、合格とした。
【0086】
(遮蔽性)
上記平板状の評価用試料をプレス成形機を用いて圧縮し、厚さ1mmの試験片を調製し、それを遮蔽性評価用の試料として用いた。遮蔽性は、JIS K7361−1に基づく全光線透過率の測定にて評価した。その全光線透過率の値が1%以下であれば合格とした。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
〔比較例4〕
実施例1と同様にして得られたメタクリル系樹脂組成物のペレットを射出成形機に投入し、短冊(平板)状(100mm×100mm×3mm)に成形し、評価用試料とした。なお、金型は、評価用試料の目視評価に用いられる側の金型表面(金型キャビティ内面)が2000番の磨き番手で研磨されているものを用いた。そして、その2000番の磨き番手で研磨されている側の金型表面が転写されている成形品表面を、この評価用試料の平滑面とした。すなわち、この評価用試料での平滑面の面積は100cm
2であった。
なお、この評価用試料の成形条件は、実施例1と合わせ、下記のように設定した。
樹脂温度: 250℃
金型温度: 80℃
この試料の平滑面について、実施例1と同様に漆黒性目視評価を行った結果、判定は×であった。