特許第6356034号(P6356034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6356034-金合金および造形体の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356034
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】金合金および造形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/02 20060101AFI20180702BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20180702BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20180702BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C22C5/02
   C22C5/06 Z
   C22C5/06 D
   C22C5/04
   B22F1/00 K
   B22F3/16
   B22F3/105
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-204980(P2014-204980)
(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-74937(P2016-74937A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】今井 庸介
(72)【発明者】
【氏名】土井 義規
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0033805(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0037002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
B22F 1/00
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー焼結を利用した造形体の製造方法で用いる粉末状の金合金であって、
Auを10〜88mass%、
Agを50mass%以下、
Ptを10mass%以下、
Pdを56mass%以下、
Ir,Ruの一方又は双方を合計で0〜0.3mass%、及び
Zn,In,Sn,Ga,Si,Ge,Co,Pから選ばれた一又は複数を合計で15mass%以下、
から構成される金合金。
【請求項2】
粉末状の金合金を曳く工程と、
曳いた前記粉末状の金合金の所定部分に対してレーザービームを照射する工程と、
を含む複数工程を繰り返すレーザー焼結を利用した造形体の製造方法であって、
前記粉末状の金合金が、
Auを12〜76mass%、
Agを9〜50mass%、
Ptを0〜1mass%、
Pdを0〜20mass%、
Cuを14〜20mass%、
Ir,Ruの一方又は双方を合計で0〜0.1mass%、及び
Zn,In,Sn,Ga,Si,Ge,Co,Pから選ばれた一又は複数を合計で2mass%以下、
から構成される造形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー焼結(レーザーシンタリング,レーザー溶融,金属光造形)によって立体造形物を製造する際に用いる粉末状の金合金と、粉末状金合金を用いた造形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、義歯、装飾品や機械部品などの金属製立体造形物の製造に際しては、主として、金属を溶かして鋳型に流し込む「精密鋳造法」が利用されてきた。しかしながら、鋳造により立体造形物を製造する際には、凝固収縮巣、ブローホール、ホットスポット、鋳肌荒れ、湯まわり不良といった鋳造欠陥を招く虞がある。そこで、このような欠陥を招くことなく、造形体を設計どおりに簡単に製造できる方法が検討されている。
【0003】
一方、CADデータから直接、立体造形物を製作する方法として、レーザー焼結(Selective Laser Sintering)と称される方法が提案されている。このレーザー焼結では、粉末状金属を一層ごとに平面状にならして、レーザーで目的部分のみを焼結させて設計形状に仕上げてゆく。このような方法によれば、金属を溶かして鋳型に流し込む工程が一切不要となり、前述したような鋳造欠陥を招くことなく、様々な立体造形物を作製することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−270130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1には、レーザー焼結を利用して金属製の立体造形物を作成する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、造形体の原料として銀または銀合金を利用することを技術的前提としている。銀や銀合金は、光の吸収率が極めて低く、また熱伝導率が高いため、極めて高いエネルギー密度のレーザー光を照射する必要があり、設備費等が高くなるといったコスト面における問題が生じる。
【0007】
また、銀や銀合金からなる粉末原料に対して、高いエネルギー密度のレーザー光を利用してレーザー焼結を施した場合には、粉末原料の所定部位(レーザー光の照射部位)が均等に溶融せず、造形体の表面に激しい凸凹形成や多孔質になるなど、造形体の品質面において問題が生じる。
【0008】
また特許文献1では、銀や銀合金の光吸収率の低さを補うべく、銀粉末や銀合金粉末に対して硫化処理を施し、その粉末表面に黒みを付けることが提案されている。しかし、この方法では、硫化処理のための工程とコストが余分にかかるといった問題が生じることになる。
【0009】
そこで上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、設備費等のコストを増加することなく、高品質の造形体を設計どおりに簡単に製造することができる、レーザー焼結による造形に適した粉末状金合金と、これを用いた造形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、レーザー焼結(レーザーシンタリング,レーザー溶融,金属光造形)を利用した立体造形物の製造に適した金属材料について研究を重ねた結果、所定の組成範囲で構成される粉末状の金属材料が、レーザー焼結を利用した立体造形物の製造に適していることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の金合金は、レーザー焼結を利用した造形体の製造方法で用いる粉末状の金合金であって、Auを10〜88mass%、Agを50mass%以下、Ptを10mass%以下、Pdを56mass%以下、Cuを20mass%以下、Ir及び/又はRuを0〜0.3mass%、Zn,In,Sn,Ga,Si,Ge,Co,Pの一群から選ばれた一種又は二種以上を合計で15mass%以下、の成分から構成されることを特徴とする金合金である。
なお、この金合金において、Ir及び/又はRuは任意成分であり、必ずしも含有している必要はない。
また、前記粉末状金合金は、ほぼ球状であって、平均粒径が20〜100μmであることが好ましい。これにより、粉末状金合金を造形装置のステージ上に均等で平坦に曳くことができ、より良い品質の造形体を製造することが可能になる。
【0012】
また、本発明の造形体の製造方法は、粉末状の金合金を曳く工程と、曳いた前記粉末状の金合金の所定部分に対してレーザービームを照射する工程と、を含む複数工程を繰り返すレーザー焼結を利用した造形体の製造方法であって、前記粉末状の金合金が、Auを12〜76mass%、Agを9〜50mass%、Ptを0〜1mass%、Pdを0〜20mass%、Cuを14〜20mass%、Ir及び/又はRuを0〜0.1mass%、Zn,In,Sn,Ga,Si,Ge,Co,Pから選ばれた一種又は二種以上を合計で2mass%以下、の成分から構成されることを特徴とする造形体の製造方法である。
なお、この造形体製造方法において、Pt及びPdは任意成分であり、またIr及び/又はRuは任意の成分であり、これらは必ずしも含有している必要はない。
【0013】
本発明を利用して製造される造形体の具体例としては、貴金属製の義歯、装飾品、機械部品、やそれらの試作品などが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
鋳造欠陥を招くことがなく、品質が良くて、設計どおりの立体造形物を簡単に製造することができる。しかも、本発明で用いる粉末金属は銀を主成分としていないので、高エネルギー密度のレーザー光を使用する必要がなく、設備費等が高額になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザー焼結装置の仕組みを示す概略図
図2】実施例3で作成した義歯(造形体)
【発明を実施するための形態】
【0016】
はじめに、レーザー焼結装置の仕組みを、図1に基づいて説明する。
図1は、本発明で利用可能なレーザー焼結装置の概略構成を示す図である。
【0017】
図1右側の粉末供給室2に、立体造形物の原料となる金属粉末4をセットする。利用可能な粉末状金属の組成範囲は前述したとおりである。なお、本発明を利用して製造できる立体造形物の種類は特に限定されず、例えば、後述する義歯のほか、機械部品、装飾品、各種試作品などを製造することが可能である。
【0018】
粉末供給室2にセットされた金属粉末4は、昇降テーブル6により上方に押し上げられ、更に、スキージングブレード8によって造形エリア10の昇降式造形ステージ12の上方へ水平に曳いて、該金属粉末を平面状にならし、所定の厚さの金属粉末層を形成する。この粉末層の厚さは、調整可能であり、例えば20〜50μmとすることができる(図1の粉末層h)。
【0019】
続いて、レーザー光源14より照射されたレーザー光を、レーザー光走査装置16によって、造形エリア10の所定位置に導き、造形ステージ12の上方に曳かれた金属粉末層の特定部分に照射する。これにより、造形ステージ上の特定部位の金属粉末18が焼結又は溶融する。
【0020】
レーザー照射が終わると、造形エリア10の昇降式造形ステージ12が粉末層hの高さ分だけ降下する。
【0021】
再び、粉末供給室2の昇降テーブル6により、粉末供給室2の金属粉末4が、粒子層hの高さだけ押し上げられ、スキージングブレード8によって造形エリア10の方へ水平に曳かれる。
【0022】
すなわちレーザー焼結を利用した造形方法では、
(1)造形エリアに所定厚さの金属粉末を平らに曳く工程と、
(2)曳いた金属粉末層の所定部位に対してレーザービームを照射する工程と、
を繰り返して、設計形状の立体物を造形するのである。
【0023】
これらの工程を繰り返すことで、造形ステージ12の上方に曳いた金属粉末層の特定部分を焼結または溶融させ、その焼結または溶融させた層を積層していくことにより、立体的な造形物を形成していく。なお、一層ごとに、レーザー照射する走査パターンは、事前に装置に入力した3次元CADデータによって与えられる。
【0024】
なお、上述した実施形態では省略しているが、上記(1)(2)の工程に加えて、造形物に切削加工を施す工程を含んでいてもよい。この切削加工は、たとえば、エンドミルによって造形物(造形途中の焼結体)の輪郭を高速・精密に切削、仕上げることによって行われる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。なお、以下の実施例は例示であり、特許請求の範囲に記載の本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
表1に示す組成の各合金粉末を用意し、前述したレーザー焼結を利用して立体造形物を作製した。表1の実施例および参考例に記載の合金粉末は、ガスアトマイズ装置によって球状粉末を作製した。篩にて分球後、粒径20〜50μmの粉末を得た。比較例の銀粉末は、粒径7.8μmの粉末を用いた。実施例3で作製した立体造形物(義歯)を図2に示す。
【0027】
なお、比較例の銀粉末は、光の吸収率が極めて低く、また熱伝導率が高かったため、レーザー焼結により造形することはできなかった。
【0028】
続いて、作成した実施例、参考例および比較例の義歯について、外観を観察して、欠陥の有無や品質等について評価した。結果を表2に示す。
【0029】
表2に示すとおり、実施例および参考例で造形した義歯は、設計どおりの形状・寸法を具備し、外観に欠陥は全く認められず、義歯としての使用に十分耐えうることが確認できた。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【符号の説明】
【0032】
2 粉末供給室
4 金属粉末
6 昇降テーブル
8 スキージングブレード
10 造形エリア
12 造形ステージ
14 レーザー光源
16 レーザー光走査装置
18 金属粉末
図1
図2