(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載されている従来構成のノンスリップ塗料を塗布した階段用踏板においては、踏板の表面側踏面にコルク質の化粧材を介してノンスリップ塗料が塗布されてノンスリップ塗膜が形成されている。このノンスリップ塗膜は、ノンスリップ塗料を常法に従って化粧材表面に1回塗布した場合には、ノンスリップ塗膜の膜厚が十分ではなく、満足できるノンスリップ性を発揮することはできない。そのため、ノンスリップ塗料の塗布量を増大してノンスリップ塗膜の膜厚を厚くしようとすると、化粧材に対するノンスリップ塗膜の密着性が低下したり、ノンスリップ塗膜自体の強度が低下したりするという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、木質基材に対する密着性を保持しつつ、良好なノンスリップ性を発揮することができるノンスリップ塗膜を有する木質製品
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のノンスリップ塗膜を有する木質製品
の製造方法は、木質基材の最表面に、
主剤と硬化剤との2液を混合して常温で硬化されるポリウレタン塗料であるノンスリップ塗料を複数回重ね塗りして形成されたノンスリップ塗膜を有し、該ノンスリップ塗膜はノンスリップ塗料を
表面が粘着性を帯びている未乾燥状態で重ね塗りし、常温で硬化され
、乾燥膜厚は30〜60μmであるノンスリップ塗膜が形成されていることを特徴とする。
【0008】
前記ノンスリップ塗料の重ね塗り回数は3〜5回であることが好ましい。
前記ノンスリップ塗料の重ね塗り1回当たりの乾燥膜厚は8〜15μmであることがこのましい。
【0009】
前記木質基材は長尺状をなし、ノンスリップ塗膜は木質基材の少なくとも一部に長さ方向に沿って延びるように形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のノンスリップ塗膜を有する木質製品
の製造方法によれば、木質基材に対するノンスリップ塗膜の密着性を保持しつつ、良好なノンスリップ性を発揮することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を
図1〜
図4に基づいて詳細に説明する。
図3に示すように、本実施形態の木質製品としての手摺10は、円柱状の木質基材11が平面コの字状をなすように形成され、図示しない壁面等に取付けられる。木質基材11としては特に制限されないが、例えばメイプル、ホワイト・アッシュ等の広葉樹が用いられる。また、木質製品としては、手摺10以外に階段の踏板、扉板、ベンチの座板、テーブルの天板、壁板、床板、トレー板等が挙げられる。
【0014】
図1(a)及び
図2に示すように、長尺状をなす手摺10の上半部の塗布面12にはノンスリップ塗料によるノンスリップ塗膜13が、手摺10の長さ方向に沿って延びるように形成されている。手摺10の下半部の非塗布面14にはノンスリップ塗膜13は形成されていない。前記ノンスリップ塗膜13により、手摺10を手で把持したときにノンスリップ機能を発現することができる。なお、
図1(a)、(b)及び
図2におけるノンスリップ塗膜13の膜厚は、実際よりも誇張して厚く描かれている。
【0015】
ノンスリップ塗膜13の乾燥膜厚は30〜60μmであることが好ましい。ノンスリップ塗膜13の乾燥膜厚が30μmより薄い場合には、ノンスリップ塗膜13によるノンスリップ機能の発現が不足して好ましくない。一方、その乾燥膜厚が60μmより厚い場合には、ノンスリップ塗膜13によるノンスリップ機能の向上は見込めず、かえってノンスリップ塗料が無駄になる。
【0016】
図1(b)に示すように、前記ノンスリップ塗膜13は、ノンスリップ塗料を手摺10の最表面に複数回重ね塗りして形成された第1塗膜13a、第2塗膜13b及び第3塗膜13cにより構成される。このノンスリップ塗膜13と木質基材11との間には、下塗り塗料、中塗り塗料等による下地塗膜が形成されていても差し支えない。
【0017】
前記ノンスリップ塗料を重ね塗りする場合には、ノンスリップ塗料を未乾燥状態に維持して重ね塗りを行う。この未乾燥状態では、未乾燥塗膜の表面は粘着性を帯びている。このように、未乾燥状態でノンスリップ塗料の重ね塗りを行うことにより、複数の第1塗膜13a、第2塗膜13b及び第3塗膜13c間の密着性を高めることができる。その後、未乾燥塗膜が常温で硬化されることにより、ノンスリップ塗膜13が形成される。
【0018】
ノンスリップ塗料としては常温で硬化する塗料が使用され、例えば主剤と硬化剤との2液を混合して常温で硬化されるポリウレタン塗料が用いられる。常温で硬化できることにより、加熱や紫外線照射を行うことなく、ノンスリップ塗膜13を簡便な操作により形成することができる。ノンスリップ塗料として、ポリウレタン塗料以外にアクリル樹脂塗料、ポリエステル塗料、シリコーン塗料等を使用してもよい。
【0019】
前記ポリウレタン塗料の主剤としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アルキッド変性ポリエステルポリオール等が挙げられる。硬化剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添メチレンジイソシアネート、イソシアヌレート体、アダクト体等が挙げられる。
【0020】
ポリウレタン塗料には、主剤及び硬化剤のほか、有機溶剤、有機金属化合物、ポリシロキサン、レベリング剤、増粘剤、顔料等が常法に従って配合される。有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。有機金属化合物としては、マンガン、鉄、銅等を含む有機金属化合物が挙げられる。ポリシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルシロキサン等が挙げられる。
【0021】
手摺10の塗布面12の最表面にノンスリップ塗膜13を形成する場合には、前記塗布面12に必要により下塗り塗料等を塗布して下地塗膜を形成し、その上にノンスリップ塗料を複数回塗布することにより行われる。ノンスリップ塗料の塗布回数は3〜5回が好ましい。塗布回数が3回を下回る場合には、ノンスリップ塗膜13が薄く、ノンスリップ性が十分に発現されず好ましくない。その一方、塗布回数が5回を上回る場合には、ノンスリップ塗膜13のノンスリップ性の更なる向上を図ることができず好ましくない。
【0022】
前記ノンスリップ塗料の塗布1回当たりの乾燥膜厚は8〜15μmが好ましい。この乾燥膜厚が8μmより薄い場合、得られるノンスリップ塗膜13に満足できるノンスリップ性を付与することが難しくなる。一方、乾燥膜厚が15μmより厚い場合、第1塗膜13a、第2塗膜13b及び第3塗膜13c間の密着性が低下して好ましくない。
【0023】
次に、本実施形態のノンスリップ塗膜13を有する手摺10について作用を説明する。
さて、
図1(a)に示すように、手摺10の上半部における塗布面12の最表面には、ノンスリップ塗料によるノンスリップ塗膜13が形成される。
図1(b)に示すように、このノンスリップ塗膜13は、ノンスリップ塗料が未乾燥状態で複数回重ね塗りされて形成された第1塗膜13a、第2塗膜13b及び第3塗膜13cにより構成されている。このため、第1塗膜13a、第2塗膜13b及び第3塗膜13cの各表面が粘着性を帯びた状態で重ね合されることから、塗膜13a、13b、13c間の密着性が高められるとともに、ノンスリップ塗料は全体的に均一に硬化し、ノンスリップ塗膜13は緻密で強固なものとなる。加えて、ノンスリップ塗料がポリウレタン塗料の場合には、ノンスリップ塗膜13は適度な弾力性が発現される。
【0024】
このように、手摺10の塗布面12の最表面には、ノンスリップ塗料の3回の重ね塗りによってノンスリップ塗膜13が形成されている。そのため、ノンスリップ塗料によるノンスリップ機能と、ノンスリップ塗膜13の十分な厚さの乾燥膜厚とにより、ノンスリップ塗膜13表面には良好なノンスリップ性が発現される。
【0025】
この点に関して、次のような確認試験を行った。
すなわち、木質基材として縦、横30cmの平板上に下記に示す下塗り塗料及び中塗り塗料を塗布して下地塗膜を形成した後、2種類のノンスリップ塗料を1回〜4回重ね塗りしてノンスリップ塗膜13を形成し、それぞれについて下記に示す滑り止め角度試験を行った。
【0026】
下塗り塗料:ポリウレタン下塗り塗料〔和信化学工業(株)製、ポリウレックスエコNo.250〕、1回塗り、乾燥膜厚5μm。
中塗り塗料:ポリウレタン中塗り塗料〔和信化学工業(株)製、ポリウレックスエコV-HK〕、1回塗り、乾燥膜厚6μm。
【0027】
ノンスリップ塗料:実施例1では、ポリウレタン上塗り塗料〔和信化学工業(株)製、ポリウレックスエコNS-48ノンスリップNS〕を使用した。このポリウレタン塗料は、主剤としてポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等の混合物、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等(特にアダクト体)、有機溶剤として酢酸エステル等を含有する。
【0028】
実施例2では、ポリウレタン上塗り塗料〔和信化学工業(株)製、ポリウレックスエコNS-48ノンスリップKS〕を使用した。このポリウレタン塗料は、主剤としてポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等の混合物、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等(特にイソシアヌレート体)、有機溶剤として酢酸エステル等を含有する。
【0029】
ノンスリップ塗膜13の乾燥膜厚は、次式に基づいて算出し、その結果を表1に示した。
y=x〔(1/dt)−(100−NV)/(100×ds)〕
ここで、yは乾燥膜厚(μm)、xは塗布量(g/m
2)、dtは塗料の比重、NVは塗料の不揮発分(質量%)、dsは揮発分の比重を表す。
【0030】
滑り止め試験:滑り止め角度計測器〔新潟精機(株)製、ダイヤルスラントルール〕を使用し、ノンスリップ塗膜13が形成された平板上に500円硬貨(7g)を置いて、平板を徐々に傾斜角度が大きくなるように傾け、500円硬貨の滑り始め角度を測定した。その結果を表1及び
図4に示した。また、
図4には、実施例1及び2のノンスリップ塗膜13の乾燥膜厚並びにその理論乾燥膜厚を示した。なお、理論乾燥膜厚は、ノンスリップ塗料の塗布量と不揮発分から計算により算出した。
【0031】
【表1】
表1及び
図4に示した結果より、実施例1及び2におけるノンスリップ塗料の塗布回数が3回及び4回の場合には、滑り始め角度が70°を超え、良好なノンスリップ性が発揮された。なお、乾燥膜厚は、塗布回数に比例して厚くなるが、理論膜厚より若干厚くなる傾向を示した。
【0032】
以上の実施形態によって発揮される効果を以下にまとめて記載する。
(1)本実施形態の木質製品としての手摺10は、木質基材11の最表面に、ノンスリップ塗料を複数回重ね塗りして形成されたノンスリップ塗膜13を有している。このノンスリップ塗膜13はノンスリップ塗料を未乾燥状態で重ね塗りし、常温で硬化されて形成されている。このため、ノンスリップ塗膜13を容易かつ速やかに形成できるとともに、ノンスリップ塗膜13を構成する塗膜13a、13b、13c間の接着性を高めることができる。そして、ノンスリップ塗膜13は十分な膜厚を有し、その表面にノンスリップ塗料に基づくノンスリップ性を高度に発現することができる。
【0033】
従って、本実施形態の手摺10によれば、木質基材11に対するノンスリップ塗膜13の密着性を保持しつつ、良好なノンスリップ性を発揮することができる。
(2)前記ノンスリップ塗料の未乾燥状態では、表面が粘着性を帯びている。そのため、塗膜13a、13b、13c間の接着力を高めることができるとともに、ノンスリップ塗膜13のノンスリップ性の向上を図ることができる。
【0034】
(3)前記ノンスリップ塗料の重ね塗り回数は3〜5回である。従って、ノンスリップ塗膜13の膜厚を厚くすることができ、ノンスリップ塗膜13のノンスリップ性を向上させることができる。
【0035】
(4)前記ノンスリップ塗料の重ね塗り1回当たりの乾燥膜厚は8〜15μmである。このため、ノンスリップ塗料の塗布性を損なうことなく、1回当たりの塗布により十分な乾燥膜厚を得ることができる。
【0036】
(5)前記ノンスリップ塗膜13の乾燥膜厚は30〜60μmである。そのため、十分に厚い乾燥膜厚を有するノンスリップ塗膜13により、優れたノンスリップ性を発揮することができる。
【0037】
(6)前記木質基材11は長尺状をなし、ノンスリップ塗膜13は木質基材11の上半部の塗布面12に長さ方向に沿って延びるように形成されている。従って、木質製品としての手摺10の長さ方向のいずれの部分を把持しても、滑りを抑制することができる。
【0038】
(7)前記ノンスリップ塗料は、主剤と硬化剤との2液を混合して常温で硬化されるポリウレタン塗料である。このため、ノンスリップ塗料を木質基材11の表面に塗布して常温で容易に硬化させることができるとともに、ポリウレタンの弾力性等の物性に基づいてノンスリップ性を一層向上させることができる。
【0039】
なお、前記各実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・
図5に示すように、前記手摺10を構成する木質基材11を四角柱状に形成し、
図5の二点鎖線で示すように、木質基材11の外表面の下半部にノンスリップ塗膜13を形成してもよい。
【0040】
・
図6に示すように、木質製品としての階段の踏板15を長四角板状に形成し、
図6の二点鎖線に示すように、その上面の一側部に一定幅で長さ方向に延びるようにノンスリップ塗膜13を形成してもよい。
【0041】
・前記実施形態の確認試験において、下塗り塗料及び中塗り塗料による下地塗膜を省略してもよい。
・前記ノンスリップ塗膜13を、木質基材11の外表面全体に形成したり、木質基材11の外表面に間欠的に形成したり、木質基材11の外表面に局部的に形成したりしてもよい。
【0042】
・前記ノンスリップ塗料を木質基材11の表面に複数回重ね塗りする場合、各層の塗膜13a、13b、13cを次第に薄くなるように形成する等、塗膜13a、13b、13cの膜厚を不均一に形成してもよい。