【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係るラジアルピストン式油圧機械は、
ラジアルピストン式の油圧機械であって、
前記油圧機械の半径方向に沿って配置された複数のピストンと、
前記複数のピストンをそれぞれ案内する複数のシリンダと、
前記複数のピストンのそれぞれに回転自在に設けられた複数のローラと、
前記複数のローラに当接するように構成され、前記油圧機械の中心軸周りに回転可能に構成されたカムと、
前記カムを含んで該カムとともに前記中心軸周りに回転する前記油圧機械の回転部に取り付けられ、前記カム側から前記ピストン側に前記半径方向に沿って延びる側板と、を備え、
前記ローラ又は前記側板の一方は、前記ローラの端面又は該端面に対向する前記側板の表面の何れか一方の面を形成する樹脂部を含み、
前記ローラ又は前記側板の他方は、前記ローラの前記端面又は前記側板の前記表面の他方の面を形成する金属部を含み、
前記金属部は、
該金属部によって形成される前記他方の面と前記樹脂部によって形成される前記一方の面との間の前記ローラの軸方向に沿った距離が最小となる第1領域と、
該第1領域に比べて前記距離が大きく、且つ、前記第1領域の縁部を形成する第2領域と、
を含み、
前記金属部の前記縁部を形成する前記第2領域は0.8μmRa以下の表面粗さを有する。
なお、本明細書において「表面粗さ」とは、算術表面粗さ(JIS B 0601)であってもよい。
【0011】
上記(1)のラジアルピストン式油圧機械によれば、ローラ又は側板の一方は、ローラの端面(以下、適宜「ローラ端面」と称する)又は該端面に対向する側板の表面(以下、適宜「側板表面」と称する)の何れか一方の面を形成する樹脂部を含む。また、ローラ又は側板の他方は、ローラ端面又は側板表面の他方の面を形成する金属部を含む。このため、ラジアルピストン式油圧機械の運転時、ローラと側板との接触が、金属部と樹脂部との接触となるので、これらの接触面の境界に発生する最大面圧が金属同士の接触に比べて低減し、摩耗を抑制することができる。
また、上記(1)の構成において、金属部は、該金属部によって形成される前記他方の面と樹脂部によって形成される前記一方の面との間のローラの軸方向に沿った距離が最小となる第1領域と、該第1領域に比べて前記距離が大きく、且つ、第1領域の縁部を形成する第2領域と、を含む。この構成により、ラジアルピストン式油圧機械の停止時には、第1領域において金属部と樹脂部が接触した状態であっても、上記スラスト力がないので第2領域においては金属部と樹脂部が非接触となる。
しかしながら、本願発明者らによる鋭意検討の結果、上記したようにローラがピストンとともにシリンダの軸回りに回動(スキュー)することによりローラ端面又は側板表面の何れか一方の面が樹脂部で形成されている場合、ラジアルピストン式油圧機械の運転時に金属部との接触によって樹脂部が変形することが明らかとなった。上記スラスト力により、ラジアルピストン式油圧機械の停止時には接触しない第2領域においても金属部と樹脂部が接触する部分の増加を招き、また、第2領域で接触する部分での面圧も大きくなり接触面に摩耗が発生し得る。
そこで、上記(1)の構成では、金属部の前記縁部を形成する第2領域は0.8μmRa以下の表面粗さを有するようにしている。
これにより、ラジアルピストン式油圧機械の運転時に上記スラスト力を受けた場合であっても、前記縁部における金属部と樹脂部との接触面の摩耗を抑制することができる。
このように、ラジアルピストン式油圧機械の運転時における上記スラスト力も考慮した摩耗抑制対策を講じることによって、ローラと側板との接触による摩耗に起因したラジアルピストン式油圧機械の寿命低下を確実に抑制することができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記第2領域の表面粗さが、0.4μmRa以下である。
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記第2領域の表面粗さが、0.2μmRa以下である。
【0013】
上記(2)又は(3)の構成によれば、ラジアルピストン式油圧機械の運転時における上記スラスト力によって第2領域において金属部と樹脂部とが接触した場合であってもこれらの接触面の摩耗をより効果的に抑制できる。
【0014】
(4)一実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、
前記側板は、該側板の前記表面を形成する前記樹脂部を有し、
前記ローラは、前記ローラの前記端面を形成する前記金属部を有し、
前記金属部は、前記ローラの前記軸方向に直交する前記第1領域としての円形平坦面と、該円形平坦面の外周縁を形成する前記第2領域としての断面湾曲面と、を含み、
前記断面湾曲面が0.8μmRa以下の表面粗さを有する。
【0015】
上記(4)の構成によれば、側板表面が樹脂部で形成され、ローラ端面が金属部で形成されているので、樹脂部の取付けが容易となる。すなわち、例えば多数のローラ(ピストン)が設けられている場合であっても、樹脂部は多数のローラと係合するカムを含む回転部に設けられた側板に対して設置すればよいから、樹脂部の取付け作業を簡素化できる。
また、金属部は、ローラの軸方向に直交する第1領域としての円形平坦面と、該円形平坦面の外周縁を形成する第2領域としての断面湾曲面と、を含む。このように、ローラ端面の外周縁が断面湾曲面で形成されているので、シリンダの軸回りに回動(スキュー)する場合も滑らかな接触とすることができ、さらに、ローラ端面の外周縁の断面湾曲面が0.8μmRa以下の表面粗さを有することから、シリンダの軸回りの回動(スキュー)に起因したスラストによりローラの第2領域に対応した樹脂部の変形や面圧増加が生じて、ローラ端面の外周縁の断面湾曲面(金属部)と樹脂部(側板)とが接触した場合であっても、樹脂部と金属部の接触面の摩耗を確実に抑制できる。
【0016】
(5)他の実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、
前記ローラは、前記ローラの前記端面を形成する前記樹脂部を有し、
前記側板は、該側板の前記表面を形成する前記金属部を有し、
前記金属部は、前記カムの軸方向に直交する前記第1領域としての平坦面と、該平坦面の前記縁部を形成する前記第2領域としての断面湾曲面と、を含み、
前記断面湾曲面が0.8μmRa以下の表面粗さを有する。
【0017】
上記(5)の構成では、側板表面が金属部で形成され、ローラ端面が樹脂部で形成されている。この構成によれば、金属部との接触により樹脂部が摩耗したとき、複数のローラのうち摩耗したローラ端面を有するローラの樹脂部のみを交換することもでき、メンテナンスが容易となる。
また、金属部は、例えば、カムの軸方向に直交する第1領域としての側板の平坦面と、セクションに分割されたカム間の分割部分に対応した側板の該平坦面の間に存在する前記縁部を形成する第2領域として、また、カムから前記ピストン側に前記半径方向に突出する側板先端部に形成する第2領域として、などの断面湾曲面と、を含む。これにより、ラジアルピストン式油圧機械の運転時、金属部の縁部によって樹脂部が摩耗することを抑制できる。さらに、側板表面の縁部の断面湾曲面が0.8μmRa以下の表面粗さを有することから、金属部(断面湾曲面)と樹脂部との接触面の摩耗を確実に抑制できる。
【0018】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの構成において、
前記樹脂部は、PEEK、PPS、PA、POM、PTFEの少なくとも一つを含む耐摩耗性樹脂により形成される。
【0019】
上記(6)の構成によれば、耐摩耗性に優れた上記樹脂材料を用いることによって、樹脂部の摩耗をより効果的に抑制することができる。
【0020】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの構成において、
前記ピストンの各々は、該ピストンと前記シリンダとで形成される油圧室の圧力の高圧と低圧との間の周期的な変化に対応して往復動するように構成され、
前記カムは、前記油圧室の前記圧力が前記高圧になるときに前記ローラが接するワーキング面と、前記油圧室の前記圧力が前記低圧になるときに前記ローラが接するブリージング面と、を有し、
前記側板は、少なくとも前記ワーキング面に対応する前記油圧機械の周方向範囲において、前記カムの表面と、該カムの表面から前記ローラの半径だけ離れた曲線とで囲まれる領域内においてのみ、前記ローラの端面と当接するように構成される。
【0021】
一般的に、ラジアルピストン式油圧機械では、ローラのスキューによりローラにスラスト方向の荷重(以下、スラスト力という)が発生することがある。このスラスト力は、通常、カムのブリージング面よりもワーキング面において大きくなる。そこで、上記(7)の構成では、少なくともワーキング面に対応する油圧機械の周方向範囲において、側板が、カムの表面と、該カムの表面からローラの半径だけ離れた曲線とで囲まれる領域内においてのみ、ローラの端面と当接するように構成している。これにより、カム面と前記曲線とで囲まれる領域よりもピストン側でローラ端面と側板表面とが接触する場合に比べて、側板取付け部を中心として側板に作用するモーメントを小さくすることができる。よって、ローラのスラスト力に起因した側板の損傷の抑制及び側板の耐久性の向上が図れる。
【0022】
(8)一実施形態では、上記(7)の構成において、
前記側板は、
前記カムの端面に締結される基端部、および、前記カムから前記ピストン側に前記半径方向に突出する先端部を有する側板本体と、
前記側板本体の前記先端部に設けられた当接部と、
を含み、
前記当接部が、前記ローラの前記端面のうち前記ローラの回転中心よりも前記カム側の前記領域内で前記ローラの前記端面に当接するように構成される。
【0023】
上記(8)の構成によれば、ローラに当接するカムの端面に側板本体の基端部を取り付けることで、ローラ端面からのスラスト力を受ける側板の部位に側板取付け部を近づけることができ、側板に作用する側板取付け部を中心としたモーメントをより一層小さくすることができる。
また、側板が基端部によってカムの端面に締結されていることにより、側板の締結構造を簡素化できる。また、カムと側板とをアセンブリ化することも可能であるため、カム及び側板の組立性の向上が図れる。
【0024】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの構成において、
前記側板は、前記ローラが転動する前記カムのカム面からの前記半径方向の距離が、前記ローラの直径の30%以内となる位置で前記ローラの前記端面と当接するように構成される。
【0025】
上記(9)の構成によれば、側板に作用するモーメントを抑制することができ、側板の耐久性を向上できる。
【0026】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかの構成において、
前記側板は、前記カムの端面に対してボルト結合されている。
【0027】
上記(10)の構成によれば、側板をカムに対して容易に取り付けることが可能となる。また、側板を交換可能な構成とすることもできる。
【0028】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れかの構成において、
前記カム及び前記側板は、それぞれ、前記中心軸の周方向において複数のセクションに分割されており、前記側板のセクション数は、前記カムのセクション数以下である。
【0029】
上記(11)の構成によれば、カム及び側板を分割構造とすることによって、カム及び側板の製造性を向上できる。また、カムは、製造上の取り扱い性の観点から分割するセクション数が決定されることが多いが、側板はセクション数に対する要求は低く、分割構造の設計自由度は高い。そのため、側板のセクション数をカムのセクション数以下とすることで、油圧機械の組み立て時、一つのカム、又は複数のカムを互いに組み付けたカムアセンブリに対して側板を取付ければよく、カム及び側板の組立性の向上が図れる。
【0030】
(12)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(11)の何れかの構成において、
前記カムは、前記中心軸の方向に少なくとも2列設けられており、
前記ピストン及び前記ローラが、前記カムの列に対応して配列されている。
【0031】
上記(12)の構成によれば、ピストン数が同一である場合、カム並びにこれに対応するピストン及びローラの列が多いほど一列あたりのピストン数が少なくなるので、カムの直径を小さくできる。よって、油圧機械をその半径方向にコンパクト化することができる。また、カムの複数の列において周方向のカムの位相を互いに異ならせれば、駆動時の油圧機械の振動を低減できる。
【0032】
(13)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(12)の何れかの構成において、
前記複数のピストンをそれぞれ案内するための複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、
前記油圧機械の両端部において、前記シリンダブロックを含む前記油圧機械の静止部と前記油圧機械の前記回転部との間に設けられ、前記静止部に前記回転部を回転自在に支持する一対のテーパ軸受と、
前記一対のテーパ軸受の少なくとも一方のテーパ軸受に対して、前記油圧機械の中央に向かう方向にプリロードを付与するための予圧部と、をさらに備える。
【0033】
上記(13)の構成を有する一対のテーパ軸受は、主に、静止部に対して回転部を回転自在に支持する機能を有する。その際、一対のテーパ軸受の少なくとも一方のテーパ軸受に対してプリロードを付与することによって、回転部と静止部との相対位置を適正に維持できる。
【0034】
(14)一実施形態では、上記(13)の構成において、
前記プリロードは、前記ローラから前記側板に加わる前記ローラの軸方向のスラスト力以上の大きさである。
【0035】
上記(14)の構成によれば、回転部と静止部との間のガタつきを防止できるとともに、ローラのスキューに起因したローラのスラスト力によって、回転部と静止部との相対位置がずれることを防止できる。
【0036】
(15)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る風力発電装置は、
少なくとも一本のブレードを含む風車ロータと、
前記風車ロータに連結される回転シャフトと、
前記回転シャフトによって駆動されて圧油を生成するように構成された油圧ポンプと、
前記圧油によって駆動されるように構成された油圧モータと、
前記油圧モータによって駆動されるように構成された発電機と、を備え、
前記油圧ポンプ又は前記油圧モータの少なくとも一方は、上記(1)乃至(14)の何れかに記載のラジアルピストン式油圧機械である。
【0037】
上記(15)の風力発電装置によれば、油圧ポンプ又は油圧モータの少なくとも一方を上記ラジアルピストン式油圧機械で構成しているので、部品の摩耗を抑制することができ、油圧ポンプ又は油圧モータの少なくとも一方を円滑に作動できる。また、油圧ポンプ又は油圧モータの少なくとも一方の耐久性向上に寄与し、風力発電装置の円滑な運転が可能となる。