(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356178
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】円盤型錘を用いた建造物の制振装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20180702BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
E04H9/02 341A
F16F15/02 C
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-118086(P2016-118086)
(22)【出願日】2016年6月14日
(65)【公開番号】特開2017-223014(P2017-223014A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2017年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】391060524
【氏名又は名称】有限会社手島通商
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(72)【発明者】
【氏名】手島 浩光
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−121774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の設置面に垂直な中心軸を有する円盤型錘を回転させることにより前記建造物の振動を緩和する制振装置であって、
前記円盤型錘は前記中心軸を中心として同心に形成された複数の環状膨出部と、前記複数の環状膨出部を連結する平板部とからなることを特徴とする円盤型錘を用いた建造物の制振装置。
【請求項2】
前記円盤型錘より下方で前記中心軸を回動可能に軸支する下部軸受と、前記円盤型錘より上方で前記中心軸を回動可能に軸支する上部軸受とからなる軸受部材を有するとともに、前記建造物に前記各軸受が固定されていることを特徴とする請求項1記載の円盤型錘を用いた建造物の制振装置。
【請求項3】
前記中心軸を回転させるためのモータおよびエンジンからなる駆動手段が前記円盤型錘の上方または下方の少なくとも一方において前記中心軸に接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の円盤型錘を用いた建造物の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震などの長周期震動によって発生する高層建造物などの横揺れを円盤型錘を回転させることにより緩和する建造物の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建造物への地震対策として耐震、制振、免震の3つの対策が良く知られているが、近年においては、限られた用地を最有効に活用するため高層、超高層の建造物が常識となり、より高層化が進む現在、地震などの長周期震動による建造物の振動が地域地盤の条件によって想像以上に達することが懸念されており、芯柱制振をはじめ揺れを直接伝えまいとする技術も一層進歩している。
【0003】
地震などの長周期震動により発生する振動に対してはその振動による建造物内の家具設備および人の転倒被害を軽減するために建造物自体を分離別体構造の方法で、長周期震動を極力伝えまいとする免震技法が多く採用されているが、長周期震動により発生する建造物の振動を直接的に緩和する制振に関する技術は耐震、免震技術に比べ大きく遅れているのが現実である。
【0004】
免震技法は建造物の下方で地盤と建造物との間を免震ゴムなどにより支承させる必要があるため既設の建造物に適用する場合はジャッキアップを伴う大掛かりな工事が必要であって実現性が低く、原則として新設の構造物を適用対象としたものである。
【0005】
これに対し、制振技法は既設建造物にも容易に後付けで設置することができる利点があり、特に円盤型錘(回転体)を自転回転させることによって、前記円盤型錘の中心軸の方向がジャイロ効果により鉛直方向(設置面に対して垂直方向)に保持されることを利用した制振装置は、円盤型錘(回転体)を水平方向に回転させることによって長周期震動による建造物の振動を緩和するものであり、建造物の振動がいずれの方向であっても制振効果が期待できる。
【0006】
特に、円盤型錘(回転体)を回転させる機構によりあらゆる方向や大きさの建造物の振動を制振することができる制振装置は、バラスト水タンクによる制振装置などのように建造物の揺れの周期や振幅、方向などを検知して複雑な可動質量の駆動制御を必要とせず、制御も容易である。
【0007】
そして、従来、このようなジャイロ効果を利用した制振装置として、例えば特開平2−210173号公報(特許文献1)に記載された制振装置が知られている。
【0008】
この特許文献1に記載の発明は
図8に示すように円柱状の回転体1aを有するこま3aを回転駆動装置8aにより回動させるものであり、大きなジャイロ効果を発揮させる必要性から回転体1aの全体を厚く形成して重量を増加させている。そのため、始動性が低く、常時こま3aを低速で回転させておいて、急な地震に備えるものであり、平常時はエネルギーの浪費となるほか、装置自体が無用な振動や騒音を発生してしまう恐れもある。
【0009】
また、前記
図8に示した従来のジャイロ効果を利用した制振装置は、上床6aを貫通する中心軸2aが下床4aに埋設されたスラスト軸受5aにより支持されるとともに中心軸2aの中間部を上床6aに配置したラジアル軸受7aにより支持されただけであり、重量のある回転体1aを取り付けた中心軸2aの先端部が建造物などに支持されておらず宙に浮いている。
【0010】
そのため、重量のある回転体1aの回転速度や重量を増加させた場合は、中心軸2aにブレが発生して中心軸2aまたは軸受5a,7aに負荷が生じる恐れがある。
【0011】
更に、回転駆動装置8aが単独で設置されているため、万一地震などの長周期震動により回転駆動装置8aが破損した場合は制振装置を作動させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−210173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、地震などの長周期震動によって発生する建造物の振動を如何なる方向でも自動的に緩和する仕組みで、円盤型錘を回転させることによるジャイロ効果を用いた簡易な構成であり複雑な調整を必要とせず容易に設置が可能で、新設のみならず既設建造物にも配備可能な建造物の制振装置の改良に係るものであり、殊に、従来のように始動に備えて常時回転させておく必要が生じるような全体が厚く重量のある円盤型錘を用いることなしに、地震の発生と同時に即座に回転が可能で且つ高速回転にも対応して制振効果も大きく、更に、駆動装置の破損にも対応可能な円盤型錘を用いた建造物の制振装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決する為になされた本発明である円盤型錘を用いた建造物の制振装置は、建造物の設置面に垂直な中心軸を有する円盤型錘を回転させることにより前記建造物の振動を緩和する制振装置であって、前記円盤型錘は前記中心軸を中心として同心に形成された複数の環状膨出部と、前記複数の環状膨出部を連結する平板部とからなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明において、前記円盤型錘より下方で前記中心軸を回動可能に軸支する下部軸受と、前記円盤型錘より上方で前記中心軸を回動可能に軸支する上部軸受とからなる軸受部材を有するとともに、前記建造物に前記各軸受が固定されている場合、円盤型錘が回転することによって中心軸に生じるジャイロ効果が円盤型錘を挟んで設けられた各軸受を介して建造物に影響するため、ブレが生じることがない。
【0016】
更に、本発明において、前記中心軸を回転させるためのモータおよびエンジンからなる駆動手段が前記円盤型錘の上方または下方の少なくとも一方において前記中心軸に接続されている場合、たとえ大規模な地震などにより停電が発生したとしても、駆動手段としてエンジンを備えていることで問題なく制振装置を作動させることができる。
【0017】
なお、本発明における制振装置の作動は、感震器などの感知手段により地震などの長周期震動発生時に自動的に作動させること、手動により作動させることのどちらでも適宜選択可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、円盤型錘を回転させることにより前記建造物の振動を緩和する制振装置における円盤型錘の形状を複数の環状膨出部とそれらを連結する板状部とから構成したことで、円盤型錘の重量を増加させることなしに所望の制振効果を発揮させるだけの求心力を発生させるとともに、始動性を高めたうえ高速回転時にも空気抵抗を受けづらく、新設のみならず既設建造物にも配備可能な円盤型錘を用いた建造物の制振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好ましい実施の形態を示す一部断面側面図。
【
図2】
図1に示した実施の形態における各部材の配置を示す側面図。
【
図3】
図1に示した実施の形態における一部断面平面図。
【
図5】
図1に示した実施の形態における駆動手段と中心軸の連結箇所を示す概略図。
【
図6】本発明の好ましい実施の形態において円盤型錘の回転時に中心に向かって求心力が働き建造物の振動に対して留保する反力が生じることを示す概略図。
【
図7】
図1に示した実施の形態における制振装置の配置例を示す図であり、(a)は低層建造物、(b)は中層建造物、(c)は高層建造物、(d)は超高層建造物の配置例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1乃至
図7は本発明の好ましい実施の形態を示す図であり、制振装置1は建造物Bの上層階における中央、即ち建造物の振動の際の中心にその中央を一致させるように設置され、建造物Bの設置面(床面)Sに垂直な中心軸2を有し建造物Bの設置面Sと平行に回転する円盤型錘3と、円盤型錘3より上方で中心軸を回動可能に軸支するラジアル軸受である上部軸受41および円盤型錘3より下方で中心軸を回動可能に軸支するスラスト軸受である下部軸受42とからなる軸受部材4と、中心軸2を回転させるためのモータ51,52およびエンジン53,54からなる駆動手段5とからなる。
【0022】
中心軸2は上部に歯車状の部材である上側伝達部材21、下部に歯車状の部材である下側伝達部材22、中間部に外周にスプライン溝23を有する補強部材24が固着されている。
【0023】
中心軸2はその上部における上側伝達部材21より中心方向に移動した箇所で上部軸受41を介して建造物Bに支持されているとともに、下端は下部軸受42を介して建造物Bに支持されており、中心軸2は円盤型錘3を挟んだ2点で建造物Bに支持されていることによって円盤型錘3の高速回転時でも安定して回動可能であってブレの発生を防止している。
【0024】
中心軸2の上側伝達部材21とモータ51およびエンジン53、下側伝達部材22とモータ52およびエンジン54がそれぞれ接続されており、少なくとも1つのモータまたはエンジンを駆動させることでその回転力を上側伝達部材21または下側伝達部材22を介して中心軸2に、同時に中心軸2に結合している円盤型錘3へと伝達させて円盤型錘3を回転させることができる。
【0025】
更に詳細に説明すると、各モータ51,52およびエンジン53,54はそれぞれの回転軸の先端にすぐ歯傘歯車61,62,63,64を固着しており、すぐ歯傘歯車61,62と中心軸2の上部伝達部材21、すぐ歯傘歯車63,64と中心軸2の下部伝達部材22がそれぞれ連結されており、各モータ51,52およびエンジン53,54の回転が中心軸2へと伝達する仕組みである。
【0026】
モータ51,52およびエンジン53,54は円盤型錘3を挟んでそれぞれ一対に設けたことで、これら駆動手段5のうち少なくとも1つを作動させることによって円盤型錘3を駆動させることができ、例えば停電によりモータが作動できない事態にあってもどちらかのエンジンが作動すれば問題なく本装置を使用可能である。
【0027】
円盤型錘3は外側環状膨出部31と、内側環状膨出部32とを有し、各膨出部31,32の中心を通るように連結する板状部33,34によって一体に形成されており、回転時の空気抵抗が少ない形状となっている。
【0028】
外側環状膨出部31は断面略円形で円盤型錘3の中心と同心環状の形状であり、環状内側環状膨出部32よりも大径であって、円盤型錘3の重量配分を外周に偏らせることで、慣性力を高める効果がある。
【0029】
内側環状膨出部32は断面略円形で円盤型錘3の中心と同心環状の形状であり、板状部33,34の厚みよりも大径であって、円盤型錘3の強度を確保する効果がある。
【0030】
円盤型錘3の中心と一致する板状部34の中心部35には、軸方向に伸びるスプライン孔36が形成されており、中心軸2の補強部24に設けたスプライン溝23と円盤型錘3のスプライン孔36をスプライン結合するものである。
【0031】
スプライン結合を用いることで中心軸2の回転が確実に円盤型錘3に伝達するとともに、円盤型錘3と中心軸2を一体形成する必要が無いため製造および分解組立が容易となる利点がある。
【0032】
本発明において、平常時に円盤型錘3は静止しており、駆動手段5を作動させることによって中心軸2を介して回転力が伝達されて円盤型錘3が回転するものであり、円盤型錘3は同じ高さの円柱形錘と比較すると重量が少ないために始動性が良く、従来発明のように予め低速回転させずとも問題なく使用可能であるが、予め低速回転させておくことで地震などの長周期震動発生から制振効果の発揮までの時間を短くすることもできる。
【0033】
制振装置1は、駆動手段5を作動させることにより使用するものであるが、その作動は、感震器などの感知手段(図示せず)により地震などの長周期震動発生時に自動的に作動させること、手動により作動させることのどちらでも適宜選択可能である。
【0034】
なお、本実施の形態において、中心軸2と円盤型錘3は別体で形成されてスプライン結合により一体に連結されるものであるが、中心軸2と円盤型錘3を一体に形成してもよい。
【0035】
また、本実施の形態において、駆動手段5から中心軸2へと回転力を伝達するためすぐ歯傘歯車交差軸を用いているが、例えばベルト、クラッチ、チェーンなどその他の伝達手段を用いてもよい。
【0036】
なお、
図1中の符号Gは重力を、符号Cfは求心力を、符号Qは振動方向を示す。
【0037】
図6は本発明の好ましい実施の形態において円盤型錘3の回転時に中心に向かって求心力Cfが働き建造物Bの振動に対して留保する反力が生じることを示す概略図であり、円盤型錘3の回転によって建造物Bがいずれの方向に揺れても、留保しようとする反力が働きその振動を緩和することが可能である。
【0038】
本発明は、
図7に示すように、建造物の規模、形状、用途、構造に応じて例えば建造物の上層階における中央および中央から対称に複数設置でき、かつ設置面と平行に回転する円盤型錘のジャイロ効果を利用した制振装置であり設置方向を問わないので容易かつ最適に設置でき、制振装置を設置した建造物が地震などの長周期振動により発生した振動(振動方向Qへの揺れ)が如何なる方向であってもその揺れ方向に対応して求心力Cfが働くことで自動的に緩和でき、新設建造物は勿論のこと既設建造物にも本発明を設置可能なスペースさえあれば配備が可能である。
【0039】
本発明によれば、地震などの長周期震動によって発生する建造物の振動を緩和する制振装置において、従来発明のように円柱形の錘ではなく複数の膨出部を有する円盤型錘を用いたことで、錘全体の重量を抑えつつ強度を確保するとともに、外周に重量配分を行ったことによって求心力を増大させて所望の制振効果を発揮させることができるのみならず、駆動手段を上下一対のモータおよびエンジンとから構成したことで作動の確実性を高めた画期的な発明である。
【符号の説明】
【0040】
1 制振装置、2 中心軸、3 円盤型錘、4 軸受部材、5 駆動手段、21 上側伝達部材、22 下側伝達部材、23 スプライン溝、31 外側環状膨出部、32 内側環状膨出部、33 板状部、34 板状部、35 中心部、36 スプライン孔、41 上部軸受、42 下部軸受、51 モータ、52 モータ、53 エンジン、54 エンジン、61 すぐ歯傘歯車、62 すぐ歯傘歯車、63 すぐ歯傘歯車、64 すぐ歯傘歯車、B 建造物、Cf 求心力、G 重力、Q 振動方向、S 設置面