(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態による、数多くの歯科矯正装具を含有する組立トレイの平面図である。
【
図2】
図1から取リ出された歯科矯正装具の、その近位、咬合側、及び顔面側を示す斜視図である。
【
図3】ブラケットの断面の構成要素を示す、
図2に示される装具をセクション3−3で切り取った断面図である。
【
図4】
図2〜
図3の歯科矯正装具の、その顔面側を見た際の正面図である。
【0011】
定義
本明細書において使用するところの、
「近位」は、患者の湾曲した歯列弓に沿って中央に向かう方向を意味する。
「遠位」は、患者の湾曲した歯列弓に沿って中央から離れる方向を意味する。
「咬合側」とは、患者の歯の外側先端部に向かう方向を意味する。
「歯肉側」とは、患者の歯茎又は歯肉に向かう方向を意味する。
「顔面側」は、患者の唇又は頬に向かう方向を意味する。
「舌側」は、患者の舌に向かう方向を意味する。
【0012】
[実施形態の詳細な説明]
例示的な一実施形態による歯科矯正キットが、
図1に示されており、番号100が付記されている。キット100は、歯科矯正診療所で一般的に使用される種類の患者組立トレイ102を備える。このトレイ102は、患者の口腔内のそれぞれの歯に対応するパターンで配設される数多くの受容部106を伴う基材104を有する。所望により、及び示されるように、所望のブラケットが選択され、患者に提供される際に、歯科矯正ブラケットを適所に取り離し可能に保持するように、接着剤がコーティングされたフィルム108が、基材104の底部に沿って延在し、受容部106の真下の領域に露出されてもよい。
【0013】
歯科矯正ブラケットは、トレイ102の受容部106に配列される。それぞれのブラケットは、そのアーチワイヤスロット、垂直スロット、及びその歯肉側縛結ウイングの一方又は両方に配置される、明るい色かつ可溶性のコーティングを有する。例示的な実施形態では、アーチワイヤスロット及び垂直スロットに配置されるコーティングは、色が均一であり、一方、縛結ウイング上のコーティングは、ブラケットの種類に基づいて異なる色及び構成を有する(以下により詳細に記載されるように)。基材104に形成される隆起した十字形状のしるし110は、患者の上方及び下方歯列弓の中点を表す、組立トレイ内の基準点を提供する。
【0014】
再び
図1を参照すると、しるし110の中央の右手側上方の7個の受容部106の横列は、患者の上方弓の左手側の歯の列に対応する。しるし110の中央の左手側上方の受容部106の列は、患者の上方歯列弓の右手側の歯の列に対応する。同様に、しるし110の中央の右手側下方及びしるし110の中央の左手側下方に位置する2列の受容部106は、それぞれ、患者の下方弓の左手側及び右手側の歯に対応する。
【0015】
10a〜10eが付記されたブラケットのそれぞれは、患者の上方弓の左手側の対応する歯での使用のために適合される。ブラケット10aは上方左中切歯、10bは上方左側切歯、10cは上方左犬歯、10dは上方左第一小臼歯、及び10eは上方左第二小臼歯で使用するためのものである。ブラケット10f〜10jは、患者の上方右四半歯列弓の歯で使用することが意図される。ブラケット10fは上方右中切歯、10gは上方右第一側歯、10kは上方右犬歯、10iは上方右第一小臼歯、及び10jは上方右第二小臼歯での使用のために適合される。
【0016】
ブラケット10k、10v、10m、10n、及び10pは、患者の下方左四半歯列弓のそれぞれの歯で使用するために構成される。ブラケット10kは下方左中切歯、10vは下方左側切歯、10mは下方左犬歯、10nは下方左第一小臼歯、及び10pは下方左第二小臼歯で使用することが意図される。ブラケット10q〜10uは、患者の下方右四半歯列弓の対応する歯での使用のために適合される。ブラケット10qは下方右中切歯、10rは下方右側切歯、10sは下方右犬歯、10tは下方右第一小臼歯、及び10uは下方右第二小臼歯のためのものである。
【0017】
好ましい一実施形態では、ブラケット10a及び10fは青色のコーティング、ブラケット10b及び10gは赤色のコーティング、ブラケット10c及び10hは緑色のコーティング、ブラケット10d、10e、10i、及び10jは黄色のコーティング、ブラケット10k、10v、10q、及び10rはピンク色のコーティング、ブラケット10m及び10sは紫色のコーティング、ブラケット10n及び10tは水色のコーティング、並びにブラケット10p及び10uは薄灰色のコーティングを有する。幾つかの実施形態では、20個のブラケット、即ち四半弓のそれぞれに5個のブラケットが採用される場合に、8色の異なる色のコーティングが使用される。それぞれのグループ内のブラケットは、本質的に同一であるため、上方小臼歯用ブラケット(即ち、ブラケット10d、10e、10i、及び10j)は、同一の色のコーティングを有してもよく、下方前部ブラケット(即ち、下方中切歯及び側切歯用ブラケット10k、10v、10q、並びに10r)は、同一の色のコーティングを有してもよい(又はコーティングなしで提供されてもよい)。
【0018】
あるいは、ブラケットは、色以外の手段によって識別することができる。例えば、それらは、適用されるしるしによって識別することができる。しるしは、数字、英字、英数字、幾何学的図形、記号、又は任意の他の特徴的マーキングであることができる。例えば、歯を4つの四半部に分割し、それぞれの弓内の8本の歯を表すように、前側から開始して1〜8の番号を付けることが可能である。それぞれの四半部は、番号と、その後に歯番号とを有してもよい。加えて、番号の周囲に「L字」形状の角度を描き、四半部の方向の「L字」の「アーム」を指すことが好ましい場合がある。例えば、番号「3」と書き込まれた「L字」は、上方左犬歯であってもよい)。これらのしるしは、任意の好適な色であることができ、スタンプ又はインクジェット法等の任意の好適な手段によって適用することができる。
【0019】
図2〜
図4は、キット100内の例示的な歯科矯正ブラケット10の斜視図、断面図、及び顔面図をそれぞれ示す。示されるように、ブラケット10は、基部12と、概して顔面方向に基部12から外向きに延在する本体14とを含む。好ましくは、基部12は、対応する歯の表面の凸状輪郭に概して一致する複合曲率を伴う、舌側を向く表面を有する。細長いアーチワイヤスロット16は、治療過程中に好適なアーチワイヤを収容するために、本体14の顔面側表面にわたって概して近位−遠位方向に延在する。示されるように、アーチワイヤスロット16は、底壁18と、対向する側壁20とを有する。
【0020】
アーチワイヤを本体14に結紮するための固定点を提供するために、一対の近位縛結ウイング22及び一対の遠位縛結ウイング24が、本体14の近位及び遠位それぞれから延在する。縛結ウイング22、24のそれぞれの対は、咬合側及び歯肉側方向に突出する。縛結ウイング22と縛結ウイング24との間にある垂直スロット26は、本体14にわたって概して咬合側−歯肉側方向に延在し、ブラケット10を近位半部及び遠位半部に大まかに分割する。
【0021】
ブラケット10は、種々の異なる材料のいずれかから作製することができる。これらの材料には、例えば、単結晶又は多結晶アルミナ等のセラミック材料、ステンレス鋼等の金属材料、及びガラス充填ポリカーボネート等のポリマー材料が挙げられる。好ましくは、ブラケット10は、ブラケットが下にある歯の表面の色を有するように見えるように、半透明の材料から作製される。
【0022】
図2〜
図4の幾つかの図に更に示されるように、コーティング30は、ブラケット10のアーチワイヤスロット16及び垂直スロット26に選択的に配置される。好ましくは、一実施形態では、コーティング30は、ブラケット10の色とは対照的な鮮やかな色を有する。有利に、コーティング30は、施術者が、そうでなければ半透明のブラケット10の、歯に対する位置及び配向を容易に視認できるようにするのに十分なコントラストを提供する。
【0023】
所望により、並びに
図2及び
図4に示されるように、コーティング30はまた、遠位−歯肉側縛結ウイング24の顔面側表面上に別個のしるし31(ここでは、識別「ドット」)として存在してもよい。
図1のブラケットに関して記載されるように、しるし31は、施術者が、どの歯が所与のブラケットに対応するのかを一見しただけで判定するのを助長する。しるし31の位置もまた、対向する四半部のブラケットが組立トレイ102内で誤って逆にされるのを防止するのを助長することができる。
【0024】
コーティング30は、着色剤と、水溶性ポリマー結合剤とを含む。幾つかの実施形態では、コーティング30は、溶媒鋳造プロセスを使用して調製される。このプロセスでは、最初に、着色剤と、水溶性ポリマー結合剤と、好適な揮発性溶媒とを含有する組成物が調製される。好適な分散を形成するように、着色剤と、結合剤と、溶媒とを配合した後、歯科矯正装具の1つ以上の表面上に分散を配置することができる。次いで、揮発性溶媒を蒸発させてコーティング30を形成するように、熱の下又は周囲条件下のいずれかで分散を乾燥させることができる。
【0025】
着色剤は、染料又は顔料であることができる。本明細書において使用するところの染料は、脱イオン水に可溶性の着色剤であり、顔料は、脱イオン水に本質的に不溶性である。脱イオン水に0.1%で添加される際、染料は、全体にわたって概して均一な色を形成し、その一方で顔料は、分離相を形成し、水を無色透明のままにする、又は染料と比較して非常にわずかな着色を伴う水にする(例えば、染料のレーキイオン錯体は、染料よりはるかに不溶性であるが、微量の非錯体化染料を有してもよい)。
【0026】
好ましくは、着色剤は、非水溶性顔料である。顔料は、ブラケット基材の染色及び/又は患者の組織(例えば、歯茎、歯、舌、及び頬組織)の染色に関連する潜在的な問題を回避する。顔料は、好ましくは、薬学的に許容可能な顔料であり、二酸化チタン及び酸化鉄類等の無機であってもよく、又はアルミニウムレーキ等のFD&C若しくはD&C染料のレーキ及びそれらの組み合わせ等の有機であってもよい。
【0027】
特定の実施形態では、染料が好ましい場合がある。例えば、提供される染料は、水溶性であるため、相分離がなく、沈殿を回避することができる。これらの両方の態様は、製造を容易にすることができる。好ましい染料は、米国食品医薬品局(FDA)が経口使用に薬学的に許容可能なFD&C染料又はD&C染料である。カチオン性、アニオン性、又は非イオン性染料が使用されてもよい。ブラケット基材を不利に染色しない染料を選択することができる。例えば、多くのアニオン性表面帯電セラミックでは、アニオン染料が好ましい場合がある。
【0028】
水溶性ポリマー結合剤は、好ましくは、食品等級の薬学的に許容可能なポリマーである。好ましいポリマーは、米国FDAウェブサイト上で入手可能な「Inactive Ingredient List for Approved Drug Products」に見ることができる。好ましい一実施形態では、ポリマー結合剤は、アミド基を含む水溶性ビニルポリマー(ポリアミド)を含有する。ポリアミドは、結合剤の実質的な構成要素であってもよく、ポリアミドは、結合剤のいずれの他の構成要素も超える重量組成を有する。しかしながら、幾つかの実施形態では、結合剤は、本質的にポリアミドで構成される。
【0029】
ポリアミドは、非イオン性、カチオン性、アニオン性、又は双性イオン性であってもよい。ポリアミドは、好ましくは、ポリラクタムである。ポリラクタムは、好ましくは、n−ビニルピロリドン(NVP)又はn−ビニルカプロラクタムに基づく。また、ジメチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキルアクリルアミド類等、アミド結合中にN−Hを有さない二級アミン類から形成される他のポリアミド類も好適であり得る。これらのポリアミド類は、以下の官能基、
(R1)(R2)−N−C(O)−R3
式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ、R1、R2、又は両方がR3とピロリドン環等の環を形成し得るという理解の下で、独立して、所望によりN、O、及びSのうちの1つ以上で置換された脂肪族又は芳香族炭化水素部分である官能基を有するモノマーを含む。R1、R2、及びR3のうちの少なくとも1つは、エチレン性不飽和基等の重合可能な基を含む。
【0030】
幾つかの実施形態では、ポリラクタムは、ビニルアセテート、GANEXブランドの樹脂(ニュージャージー州ウェーンのInternational Specialty Products(ISP))等のアルケン類、GAFQUATブランドの樹脂(ISP)中のジメチルアミノエチルメタクリレート等のカチオン性モノマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルアクリレート類、スチレン、メトキシポリエチレングリコール(MPEG)アクリレート類、アクリル酸、メタクリル酸、及びヒドロキシエチルメタクリレート等の1つ以上の他のモノマーを含有する、n−ビニルピロリドンコポリマーである。少なくとも1つのビニルピロリドンモノマー及び/又は少なくとも1つのビニルカプロラクタムモノマーを含有するコポリマー(又はターポリマー)は、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム/ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)(ISPからADVANTAGEブランドのS、ADVANTAGEブランドのHC−37、及びADVANTAGEブランドのLC−Eとして入手可能)、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム/ジメチルアミノプロピルメチルアクリルアミド(DMAPMA)アクリレート(ISPからのAQUAFLEXブランドのSF−40)、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム/ジメチルアミノプロピルメチルアクリルアミドアクリレート/メタクリロイルアミノプロピルラウリルジメチルアンモニウムクロライド(ISPからのAQUASTYLEブランドの300)、及びビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム(独国ルートヴィヒスハーフェンのBASF SEからのLUVITECブランドの55K、65W)からなる群から選択することができる。
【0031】
また、幾つかの実施形態では、一級アミン類からのアミド類に基づくポリマーも好適である。これらのアミド類は、水素結合及び特定の基材への接着を改善し得るN−H基を依然として保有する。これらのポリアミド類は、上記に示される基であって、R2が水素(H)である、
(R1)H−N−C(O)−R3
式中、R1及びR3はそれぞれ、R1がR3とピロリドン環等の環を形成し得るという理解の下で、独立して、所望によりN、O、及びSのうちの1つ以上で置換された脂肪族又は芳香族炭化水素部分である、基を有するモノマーを含む。この場合も同様に、R1及びR3のうちの少なくとも1つは、エチレン性不飽和基等の重合可能な基を含む。
【0032】
例には、メタクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、オクチルアクリルアミド、オクタデシルアクリルアミド等のC1〜C18直鎖又は分枝鎖アルキルアクリルアミド類に基づくポリマーが挙げられる。上記の代替として、ポリアミドは、R1が水素基で置き換えられるアクリルアミド化学式、
H
2N−C(O)−R3を有することができる。
【0033】
一般的に、好適なポリアミドは、非イオン性、カチオン性、又はアニオン性であってもよく、アクリルアミド、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(APTAC)、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(MAPTAC)、及びメチル四級化ビニルイミダゾール、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーに基づいてもよい。
【0034】
幾つかの実施形態では、ポリラクタムは、少なくとも15,000ダルトン(即ち、グラム/モル)、少なくとも30,000ダルトン、又は少なくとも45,000ダルトンの重量平均分子量を有する。幾つかの実施形態では、ポリラクタムは、最大で約1,000,000ダルトン、最大で約500,000ダルトン、最大で約250,000ダルトン、最大で約120,000ダルトン、最大で約90,000ダルトン、又は最大で約70,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0035】
あるいは、又は組み合わせて、結合剤は、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体を含むことができる。あるいは、又は組み合わせて、結合剤はまた、ポリ(エチレンオキシド)、並びに少なくとも50モルパーセントのエチレンオキシドを有するポロキサマー等のエチレンオキシド及びプロピレンオキシドの水溶性コポリマーも含むことができる。あるいは、又は組み合わせて、結合剤は、2−エチルオキサゾリンのホモポリマー及びコポリマー、並びに/又はアクリルアミド及びジメチル若しくはジエチルアクリルアミドのホモポリマー及びコポリマーを含むことができる。
【0036】
所望により、例えば、ポリマーを柔軟に、かつブラケット表面に接着するように保つために、コーティング組成物に可塑剤が含まれてもよい。可塑剤は、好ましくは、ポリマー及び可塑剤の乾燥溶液が、好適に均質の単相フィルムを形成するように、ポリマーと相溶性である。本明細書において使用するところの「可塑剤」は、結合剤に好適に均一にブレンドされる際に、結合剤の可撓性を高め、典型的に、ガラス転移温度を低下させる、化合物である。好ましい可塑剤には、プロピレングリコール、グリセロール、ブタンジオール、少なくとも200ダルトン、及び好ましくは少なくとも400ダルトン、かつ好ましくは8000ダルトン未満、及びより好ましくは2000ダルトン未満の分子量を有するポリ(エチレングリコール)、グリセレス−7、ソルビトール、マンニトール、並びにキシリトール等の多価アルコールが挙げられる。
【0037】
好ましい一実施形態では、コーティングは、溶媒ベースのインク製剤から調製される。好ましくは、溶媒は、ポリマー結合剤を完全に溶出することができる。好適な溶媒は、迅速な蒸発のために低蒸発熱を有する数多くの溶媒のいずれかから選択することができる。好ましい溶媒には、エチルアルコール及びイソプロピルアルコールが挙げられる。
【0038】
好ましくは、インク製剤は、制御可能かつ均一なコーティングを促進する。インク組成物は、好ましくは、合理的な保管可能期間の間、望ましくない固化又は粒子沈殿なく、物理的かつ化学的に安定なままである。最も好ましい組成物は、混合から取り出して60分後に、巨視的な相分離を示さない。顔料を使用する多くの実施形態では、最小分散/溶液粘度である。好ましくは、インクの粘度は、流動してブラケットのスロットをコーティングするのに十分に薄く、一方でまた、ブラケットの側面に越流するのを回避するのに十分に濃い。
【0039】
コーティングの厚さは、下にある基材上に鮮やかな色及びコントラストを提供することができ、裸眼で容易に区別することを可能にするほどに十分に厚いべきである。しかしながら、コーティングの厚さはまた、素早く水に溶出することができるほどに十分に薄いべきでもある。更に、組成物はまた、基材の表面の上方に過度に突出しないように、比較的薄いべきでもあり、基材の表面の上方への過度な突出は、コーティングの耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。幾つかの実施形態では、正規化コーティング重量の範囲は、1平方センチメートル当たり約2〜10ミリグラムである、又は厚さが約20〜100マイクロメートルである。溶出パーセントは、コーティング重量によって正規化されるため、この範囲内で、溶出パーセントは、コーティングの厚さによって著しい影響を受けない。大幅により厚い厚さでは、溶出パーセントは、影響を受ける可能性がある。1平方センチメートル当たり約1ミリグラム未満では、色は明るく現れ、セラミックブラケットとの顕著なコントラストを提供しないことが発見された。
【0040】
また、熱可塑性コーティング組成物も可能である。例えば、特定のポリアミドは、可塑化される際、ホットメルト接着剤と同様に熱処理されてもよい。結合剤としてポリアミドが使用される場合、ポリアミドは、可塑化変性セルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース)、ポリエチレンオキシド等の熱可塑性水溶性ポリマーと混合されてもよい。これらの熱可塑性組成物は、基材に接着し、後に水との接触によって素早く剥がれるように選択される。
【0041】
コーティング30がブラケット本体14上に正式に配置され、担体溶媒が除去された後、ブラケット10は、使用可能になる。この段階で、
図1の1ケースキットによって示されるブラケット一式の一部として、ブラケット10をパッケージすることができる。あるいは、ここには示されていないが、例えば、米国特許第4,978,007号(Jacobsら)、同第5,348,154号(Jacobsら)、同第5,762,192号(Jacobsら)、同第5,350,059号(Chesterら)、及び同第5,429,229号(Chesterら)に記載されるように、整理及び取り出しを容易にするために、ブラケットを光硬化性歯科矯正接着剤でコーティングし、容器に保管することができる。
【0042】
患者のそれぞれの歯へのブラケット10の取り付けは、当該技術分野において既知の数多くの直接又は間接固着方法のいずれかを使用して行うことができる。全てのブラケットが固着された後、アーチワイヤの定置の前に、施術者は、コーティング30を除去するために、患者に口腔を水で激しくゆすがせることができる。
【0043】
ポリアミド、セルロース誘導体、又はポリ(エチレンオキシド)のホモポリマー/コポリマーから選択される結合剤に基づくコーティング組成物は、従来のコーティング組成物に勝る有意な利点及び予期せぬ利点を有する。例えば、これらのコーティングは、速溶性/分散性、耐湿性であり、基材への優れた耐久性のある接着を有することができる。本明細書において使用するところの「溶出する」という用語は、一般的に、例えば、脱イオン化水等の好適な溶媒で洗い流すことによる、着色剤(染料及び顔料の両方を含む)の除去を指す。これらのコーティングが、歯へのブラケットの固着とブラケットのワイヤスロット内へのアーチワイヤの定置との間の通常の時間内に溶出することが好ましい。幾つかの実施形態では、この時間枠は、少なくとも5分間、少なくとも7分間、又は少なくとも10分間に及ぶ。
【0044】
これまで、上記の特徴が同一の組成物で達成されていなかった。一方で、容易に溶出するコーティングもまた、高湿度環境にさらされる際、流れる、染み出す、又は「滲む」傾向がある。この「滲み」挙動は、許容不可能である。その一方で、湿度が高い環境に耐えるコーティングは、多くの場合、水にゆっくりと溶出する。場合によっては、これらのコーティングの除去を容易にするために歯磨きが必要となる。インクコーティングは、装具の審美性を損なうため、これもまた望ましくなく、容易かつ都合よく除去されるべきである。驚くべきことに、発明的コーティングは、約2分間の水洗によって実質的に除去され、それにも関わらず、75%の相対湿度環境に保管した後でさえ、本質的に滲まない。更に、本明細書に記載される好ましいコーティングは、基材に非常によく接着し、加振試験を行った際にさえ剥げない。歯科矯正装具の移送又は保管中にコーティングが剥げ落ちることは望ましくないため、これは重要である。
【0045】
好ましい実施形態では、装具に溶出試験(以下の実施例セクションに記載される)が行われる際、少なくとも60重量パーセント、少なくとも75重量パーセント、又は少なくとも85重量パーセントのコーティングが溶出し、コーティングは、摂氏40度で75パーセントの相対湿度に4週間さらした後に、不利なたるみ、滲み、又は基材からの剥離を示さない。
【0046】
上記の段落の特徴はまた、他の有意な利点も生み出す。例えば、コーティングの速溶性質は、それらをアーチワイヤスロット及び垂直スロット等のブラケットの陥凹領域に配置することを可能にする。いずれの不溶出コーティングも、装具のスロット寸法並びに摺動機構の妨げになる可能性があるため、これらの囲まれた領域内へのコーティングの適用は、特に困難である可能性がある。歯ブラシのアクセスは限られており、アーチワイヤの定置が、いずれの不溶出コーティングの除去も妨げる可能性があるため、従来の装具では、これらの領域は、多くの場合、コーティングされないままであった。しかしながら、本明細書に記載される様々な実施形態では、溶出は、アーチワイヤが定置される前にコーティングを完全に除去することができる程に十分に迅速である。最後に、コーティングの速溶性質のため、コーティングを除去するために歯磨きは不要である。しかしながら、一部の施術者は、アーチワイヤスロット内のいかなるコーティング及び他のコーティングくずも確実に除去されるように、アーチワイヤの挿入の前に磨くことを推奨する場合がある。
【0047】
[実施例]
開示される実施形態の目的及び利点の一部が、以下の実施例によって更に説明される。これらの実施例に記載される特定の材料及びその量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不要に限定するものとして解釈されるべきではない。指示がない限り、全ての部及びパーセントは重量基準であり、全ての分子量は重量平均分子量である。
【0048】
本明細書において使用するところの、
「青色」は、FD&C青色1号レーキを指し、
「緑色」は、FD&Cエメラルドグリーンレーキ、FD&C青色1号レーキ及びFD&C黄色5号レーキの混合物を指し、
「赤色」は、FD&C赤色40号レーキを指し、
「青色染料」は、FD&C青色1号を指し、
実施例中の分子量が指定されていない「PVP」は、International Specialty Products,Inc.からPlasdone K−29/32として提供される、58,000ダルトンの重量平均分子量を有するポリビニルピロリドンを指し、
「PVP(MW 34,000)」は、International Specialty Products,Inc.からPlasdone K−25として提供される、34,000ダルトンの重量平均分子量を有すると記載されるポリビニルピロリドンを指し、
「PVP(MW 10,000)」は、International Specialty Products,Inc.からPlasdone K−17として提供される、10,000ダルトンの重量平均分子量を有すると記載されるポリビニルピロリドンを指し、
「PVP(MW 360,000)」は、Alfa Aesar(Ward Hill,MA)によって提供される、360,000ダルトンの重量平均分子量を有すると記載されるPVPを指し、
「PVP/VA」は、International Specialty Products,Inc.からPlasdone S630として提供される、ビニルピロリドン及びビニルアセテートのコポリマーを指し、
「HPMC」は、Dow Chemical(Midland,MI)からMethocel E3 Premium LVとして提供される、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを指し、
「PEO」は、Dow ChemicalからPolyox WSR N10として提供される、ポリ(エチレンオキシド)を指し、
「PEG 400」は、400ダルトンの数平均分子量を有すると記載され、Sigma Aldrich(St.Louis,MO)から提供される、ポリ(エチレングリコール)を指し、
「PEG 600」は、600ダルトンの数平均分子量を有すると記載され、Sigma Aldrichから提供される、ポリ(エチレングリコール)を指し、
「PAA水」は、10,000ダルトンの重量平均分子量を有すると記載され、Sigma Aldrichから提供される、水中に50%のポリアクリルアミドを指し、
「PAADDA水」は、Sigma Aldrichから提供される、水中に10%のポリアクリルアミド−co−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、55%のアクリルアミドを指し、
「VCL/VP/DMAEMA」は、International Specialty Products,Inc.によってAdvantage Sとして提供される、ビニルカプロラクタム/ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリレートターポリマーを指す。
【0049】
コーティング性試験
アルミナブラケットのスロットを、分注システム、Glenmark Industries Inc.からのPortion−Aire Bench Top Dispenser PV−2000を使用してコーティングした。関心対象のインク製剤を、シリンジに定置し、加圧した。作動させると、インク製剤は、ブラケットのスロットをコーティングするように、事前設定期間針先から流出した。圧力を、7〜15psi(48.3〜103.4kPa)に設定した。識別(ID)ドットとしてのスロット上の均一なコーティングを得るように、圧力及び時間の両方を調節することができる。次いで、コーティングされたブラケットを、特に断りのない限り、摂氏50度で10分間乾燥した。新しいインク製剤を、CLARITYブランドのセラミックブラケット(カリフォルニア州モンロビアの3M Unitek)のIDドットに現在使用されているもの(対照)に基づくインクと比較する。最後に、インク製剤の適用の比較的な容易性又は困難性を記録した。
【0050】
溶出試験
装具のコーティングが水に溶出する速度を測定するために、以下の工程を実施した。
1)コーティングされたブラケットの重量を得るために、10〜11個のブラケットの重量を測定する。
2)ブラケットを固着準備トレイ(3M Unitek、REF 709−029)の粘着性表面上に定置し、150ミリリットルのビーカーの内部にぴったりと適合するようにトレイを切断する。
3)37℃の水を含有し、円運動が150rpmの振盪浴にビーカーを定置する。
4)t=0で、ビーカーに20ミリリットルの蒸留水を添加して、トレイ上のブラケットを被覆して、溶出を開始させる。
5)120秒後に、トレイ上のブラケットを水から取り出し、100℃に加熱したオーブンでブラケットを乾燥させ、ブラケットの重量を測定する。
6)ブラケットを水洗することによって、いかなる残留コーティングも完全に溶出させ続ける。水で洗い流すことが困難なコーティングについては、コーティングを完全に除去するために、更に、ブラケットを、水中、5%の水酸化アンモニウム水溶液中、又はAlconox Powdered Precision Cleaner(水中に1:100)中で超音波分解する。ブラケットを乾燥させる。コーティングされていないブラケットの重量を測定する。
7)総コーティング重量(即ち、コーティングを伴うブラケットの重量−コーティングを伴わないブラケットの重量)の百分率として、120秒で除去されたコーティングの重量としての120秒で溶出した基準マークの百分率(即ち、コーティングを伴うブラケットの重量−120秒後の残留コーティングを伴うブラケットの重量)を計算する。
8)それぞれの測定値は、少なくとも10個のブラケット試料の平均コーティング損失を反映する。
【0051】
湿度試験
湿度の上昇レベルに対する装具のコーティングの耐性を測定するために、以下の工程に従った。
1)ブラケットを、プラスチックボックス(CLARITYブランドのブラケットの現在のパッケージ)の内部のそれらのそれぞれの個々の区画に、顔面側を上に向けて定置する。
2)ボックスを40℃/75%の相対湿度のチャンバに格納する。ボックスのカバーを開いた状態で、ブラケットを露出させる。
3)色付きコーティングが鮮明なままであり、水分を吸収して滲まないか否かを検査する。
【0052】
振盪試験
装具へのコーティングの接着を測定するために、以下の工程を実施した。
1)16個又は32個の試験ブラケットを、1000個の「ダミー」ブラケットと共に、150ミリリットルのカップに定置する。カップに蓋をする。
2)振盪ミキサー、TURBULAブランドのタイプT2 C(ニュージャージー州クリフトンのGlen Mills,Inc.)にカップを定置する。速度を60rpmに設定し、200サイクルが完了するまで、振盪試験を200秒間実施する。
3)全てのブラケットをカップから取り出す。ダミーブラケットから試験ブラケットを分ける。試験ブラケットが、色付きの識別ドットコーティング及びスロットコーティングを保持するか否かを検査する。
【0053】
(実施例1〜5)
実施例1〜3では、赤色を使用する異なる製剤を検査した。このシリーズでは、使用される赤色の量を1.5%に一定に保ち、PVPの量を50%から30%に変化させた。溶媒、エチルアルコールの量を、48.5%〜68.5%の範囲で、PVPの量の減少に比例して増加させた。実施例4〜5では、青色を使用する製剤を検査した。このシリーズでは、使用される青色の量を3.0%に一定に保った。この場合も同様に、PVPの量を50%から40%に変化させ、一方、エチルアルコールの量を47%から57%に比例して増加させた。コーティング性に関する観測結果を以下の表1に提供する。
【0054】
【表1】
【0055】
(実施例6〜11)
実施例6〜11では、緑色を使用する製剤を検査した。このシリーズでは、使用される緑色の量を2.0%に一定に保った。実施例6では、PVPの量は40%であり、エチルアルコールの量は58%であった。実施例7〜9では、PVP(MW 360,000)の量を30%から15%に変化させ、一方、エチルアルコールの量を68%から83%に比例して増加させた。実施例10では、結合剤材料としてのPVP/VAを検査した。実施例11では、結合剤としてのPVP/VAとPVPとの50:50のブレンドを検査した。
【0056】
【表2】
【0057】
(実施例12〜35)
実施例12〜35では、青色を使用するインク製剤を検査した。0.5%の青色染料を使用した実施例23を除き、使用される青色の量を3.0%に一定に保った。実施例12では、結合剤材料としてのPVP/VAを検査した。実施例13〜14では、結合剤材料としてPVPを使用し、溶媒としてイソプロピルアルコール又はエチルアルコール/水を用いた。実施例15は、室温で乾燥させた。実施例16は、結合剤材料としてPVP(MW 34,000)を使用した。実施例17〜20は、結合剤として40〜60%の範囲の分量のPVP(MW 10,000)を使用し、57%〜37%の範囲の溶媒レベルを使用した。実施例21は、結合剤としてPVP/VAを使用し、溶媒としてイソプロピルアルコールを使用した。実施例22は、PVP(MW 10,000)とPVP/VAとの非相称ブレンドを使用し、溶媒としてエチルアルコールを使用した。実施例23は、着色剤として0.5%の青色染料を使用した。実施例24〜28は、結合剤として40%のPVPを使用したが、様々な量の、プロピレングリコール、グリセロール、及びPEGを含む異なる可塑剤を使用した。実施例29及び30は、結合剤材料としてHPMC及びPEOをそれぞれ使用した。実施例31は、結合剤材料としてPAAを使用し、溶媒として水を使用した。実施例32は、結合剤材料としてPAADDAを使用し、溶媒として水/エチルアルコールを用いた。実施例33は、結合剤材料としてPAADDAを使用し、溶媒として水を使用した。実施例34及び35は、結合剤材料としてVCL/VP/DMAEMAを使用し、溶媒としてエチルアルコール及び水をそれぞれ用いた。
【0058】
それぞれの実施例又は比較例について、コーティング性試験(上記参照)を使用してインク製剤を検査し、目視観測結果を記録した。結果を以下の表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
(実施例36〜45、並びに比較例CE−1、CE−2、及びCE−3)
このシリーズでは、様々なブラケットコーティングの溶出試験(上記参照)を行った。比較例CE−1は、市販の青色識別ドットを有するCLARITYブランドのブラケットに使用される青色インクでコーティングされたアルミナブラケットによって提供された。比較例CE−2及びCE−3はそれぞれ、RADIANCEブランドのブラケット(ウィスコンシン州シェボイガンのAmerican Orthodontics)、及びICEブランドのブラケット(カリフォルニア州オレンジのOrmco Corporation)によって提供された。RADIANCEブランドのブラケットのポリマー結合剤は、ポリ(ビニルアルコール−ビニルアセテート)、又はポリビニルアセテート及びポリグリコールに基づくと考えられる。ICEブランドのブラケットのポリマー結合剤は、ポリグリコール及び/又はポリビニルアルコールに基づくと考えられる。これらの比較例で使用される結合剤のいずれも、ポリアミド、セルロース誘導体、又はポリ(エチレンオキシド)のホモポリマー/コポリマーを含有しないと考えられる。実施例5、12、23、29、30、31、32、33、34、及び35のインク製剤を使用して、実施例36〜45をそれぞれ調製した。溶出試験の結果を以下の表4に示す。表4の色付きコーティングは、溶出試験の後、CE−1及びCE−2を除き、完全に除去されたか、又はわずかに視認可能であるように大部分が除去された。
【0061】
【表4】
* ドットコーティングは、2分間の溶出の後、依然として視認できる。
** スロットコーティングは、2分間の溶出の後、依然として視認できる。
【0062】
(実施例46〜54、並びに比較例CE−4、CE−5、及びCE−6)
このシリーズは、コーティングされたブラケットにおける高湿度の影響を検査する。実施例46〜54はそれぞれ、実施例5、12、23、29、30、31、32、33、及び34のインク製剤に基づくコーティングを使用し、一方、比較例CE−4、CE−5、及びCE−6はそれぞれ、ICEブランドのブラケット、RADIANCEブランドのブラケット、及びCLARITYブランドのブラケットを使用した。湿度チャンバ内で試験した際、CE−4は、染み出し、流動し始めた。この「滲み」挙動は、許容不可能である。湿度試験の結果を以下の表5に提供する。
【0063】
【表5】
【0064】
(実施例55〜60、並びに比較例CE−7及びCE−8)
このシリーズは、コーティングされたブラケットにおける振盪の影響を検査する。実施例55〜56はそれぞれ、実施例5及び12のインク製剤に基づくコーティングを伴うアルミナブラケットを使用した。実施例57〜58はそれぞれ、実施例6及び10のインク製剤に基づくコーティングを伴うアルミナブラケットを使用した。実施例59〜60はそれぞれ、実施例6及び10のインク製剤に基づくコーティングを伴うステンレス鋼ブラケットを使用した。比較例CE−7及びCE−8はそれぞれ、CLARITYブランドのブラケット及びICEブランドのブラケットを使用した。振盪試験の結果を以下の表6に提供する。
【0065】
【表6】
【0066】
上記で触れた特許及び特許出願の全てを本明細書に明確に援用するものである。上記に述べた実施形態は本発明を例示するものであり、他の構造もまた可能である。したがって、本発明は、上記に詳細に説明し、添付図面に示した実施形態に限定されるものと見なされるべきではなく、以下の特許請求の範囲の正当な範囲及びその均等物によってのみ限定されるものである。