特許第6356329号(P6356329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356329
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】デオキシコール酸およびその塩類の製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20180702BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   A61K31/575
   A61K9/08
   A61K47/10
   A61K47/02
   A61P3/06
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-186044(P2017-186044)
(22)【出願日】2017年9月27日
(62)【分割の表示】特願2016-55666(P2016-55666)の分割
【原出願日】2011年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-39815(P2018-39815A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2017年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】514023324
【氏名又は名称】キテラ バイオファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ホッジ,ロバート エミル
(72)【発明者】
【氏名】ウェブスター,ジェフリー ダグラス
(72)【発明者】
【氏名】モリアーティ,ロバート エム.
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第6417179(US,B1)
【文献】 特表2007−538104(JP,A)
【文献】 特開2010−222283(JP,A)
【文献】 特表2007−515439(JP,A)
【文献】 特表2008−530005(JP,A)
【文献】 ADAM M. ROTUNDA,DERMATOLOGIC SURGERY,米国,WILEY-BLACKWELL PUBLISHING INC.,2009年 5月 1日,V35 N5,P792-803
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 3/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における脂肪沈着物の除去のための医薬の製造における、沈殿に安定な水性組成物の使用であって、前記組成物が0.4w/v%〜2w/v%未満のデオキシコール酸の塩と薬剤的に許容される賦形剤とを含み、前記組成物が8.1〜8.5のpHに維持される、使用。
【請求項2】
前記デオキシコール酸の塩が、0.5w/v%〜1w/v%の量で存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記デオキシコール酸の塩が、0.5w/v%の量で存在する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記デオキシコール酸の塩が、1w/v%の量で存在する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
前記賦形剤が、溶媒、緩衝液、保存料、凍結乾燥補助剤、またはそれらの任意の組合せである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記賦形剤が、滅菌水である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記賦形剤が、保存料である、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記保存料が、ベンジルアルコールである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記保存料が、0.9%ベンジルアルコールである、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記組成物が、8.3のpHを有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記塩がアルカリ金属塩である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記アルカリ金属塩がナトリウムである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記組成物が、皮下注射によって投与される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
皮下注射を介した患者における脂肪沈着物の除去のための医薬の製造における、沈殿に安定な水性組成物の使用であって、
前記組成物が
8.3のpHに緩衝された無菌の水溶液と、
0.5w/v%のデオキシコール酸ナトリウムと、
0.9w/v%のベンジルアルコールと、
1w/v%の塩化ナトリウムと、
を含む、使用。
【請求項15】
皮下注射を介した患者における脂肪沈着物の除去のための医薬の製造における、沈殿に安定な水性組成物の使用であって、
前記組成物が
8.3のpHに緩衝された水溶液と、
1w/v%のデオキシコール酸ナトリウムと、
0.9w/v%のベンジルアルコールと、
1w/v%の塩化ナトリウムと、
を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて低い濃度のデオキシコール酸(「DCA」)の塩を含有する水性医薬製剤に関し、この医薬製剤は、DCAの沈殿が実質的に阻害されるようなpHに維持される。好適な実施形態において、この医薬組成物は、該組成物が注射に適するような生理的に許容されるpHを維持するように緩衝される。
【背景技術】
【0002】
最近発表された文献では、DCAの水溶液は、in vivoで脂肪性沈着物に注射されると脂肪を除去する特性があることが報告されている(国際公開第2005/117900号および国際公開第2005/112942号、米国特許第2005/0261258号;米国特許第2005/0267080号;米国特許第2006/127468号;および米国特許第2006/0154906号を参照されたい)。脂肪組織に注射されたDCAは、細胞溶解機序を介して脂肪細胞を分解して、所望の美的効果をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
DCAの水性製剤のこの利点にもかかわらず、任意選択でベンジルアルコールを含有する水溶液中の低濃度(例えば、2w/v%未満または約2w/v%)のDCAで一定期間にわたる貯蔵の後に沈殿物が形成されることが判明している。驚くべきことに、該水溶液のpHが大きく変化していないにもかかわらず、DCA濃度が低下すると、沈殿の速度が上がることが判明している。沈殿物は、DCAの皮下注射に適していないことを示すので、極めて低い濃度でのこの沈殿は、商業化する場合に問題となる。
【0004】
各治療計画において、DCAの水性製剤についての現在の臨床試験は、治療されるべき脂肪沈着物を示している異なる部位に少量の水性製剤を複数回注射することを用いている。
【0005】
明らかなように、そのような治療で用いられるDCAの水性製剤は、DCAの沈殿に起因する問題に重なる。すなわち、初めは透明なDCAの水溶液は、ある期間貯蔵される場合、この溶液のpHがデオキシコール酸のpKaを実質的に上回る約7.50〜約8.0あるという事実にもかかわらず、DCAの市販の関連する濃度で沈殿物を形成することになる。
【0006】
したがって、デオキシコール酸またはその塩の低濃度水溶液を、少なくとも2ヵ月の貯蔵有効期間中、沈殿に対して安定化する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、約0.4w/v%〜約2w/v%未満の濃度でのデオキシコール酸の塩の水溶液は、そのpHを、約8を超える、好ましくは約8.1〜約8.5の生理的に許容されるpHに調整することによって安定化させることができることが判明している。pHは、緩衝液を用いてこの範囲内に維持されることが好ましい。
【0008】
したがって、当該組成物の諸態様の一つにおいて、本発明は、実質的に、約0.4w/v%〜約2w/v%未満の濃度でのデオキシコール酸の塩と、任意選択で防腐効果のある有効量のベンジルアルコールとからなる水性製剤に関し、その製剤は、最初に形成された透明な溶液のpHを約8.1〜約8.5のpHに調整することによって沈澱に対して安定化される。別の実施形態において、本発明は、実質的に、約0.5w/v%〜約1w/v%の濃度でのデオキシコール酸の塩と、任意選択で防腐効果のある有効量のベンジルアルコールとからなる水性製剤に関し、その製剤は、最初に形成された透明な溶液のpHを約8.1〜約8.5のpHに調整することによって沈殿に対して安定化される。
【0009】
別の実施形態において、本発明は、実質的に、
約8.3のpHに緩衝された無菌の水溶液と、
約0.5w/v%または約1w/v%のデオキシコール酸の塩と、
任意選択で、防腐効果のある有効量のベンジルアルコールと、
約1w/v%の塩化ナトリウムとからなり、
当該組成物は沈殿に対して安定である、水性製剤に関する。
【0010】
貯蔵中のデオキシコール酸の塩の水性組成物を沈殿に対して安定化させる方法も本明細書に開示し、デオキシコール酸塩の量が約0.4w/v%〜2w/v%未満にわたるという条件で、デオキシコール酸塩の濃度は、脂肪細胞を溶解するのに有効な量であり、該方法は、
そのpKaを超える初期pHで、デオキシコール酸塩の水溶液を作製することと、
その水溶液のpHを約8.1〜約8.5のpHに調整することと、
任意選択で、pHを約8.1〜約8.5に維持するのに十分な量の緩衝液を含めることとを含む。
【0011】
本発明によって組成物を脂肪細胞に投与すること含む、脂肪細胞を溶解するための方法も本明細書に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】デオキシコール酸ナトリウムを含まず、水と0.9w/v%のベンジルアルコールの水性組成物が、微量な沈殿だけを含んでいることを示す画像である(67倍に拡大)。沈殿物はバイオプレンチューブの粒子であると推定される。
図2】水、0.5w/v%のデオキシコール酸ナトリウム、および0.9w/v%のベンジルアルコールの水性組成物が、かなりの量の沈殿物を含んでいることを示す画像である(67倍に拡大)。沈殿物はデオキシコール酸の結晶であると推定される。
図3】水、1w/v%のデオキシコール酸ナトリウム、および0.9w/v%のベンジルアルコールの水性組成物は、かなりの量の沈殿物を含んでいるが、0.5w/v%のデオキシコール酸ナトリウムのそれよりも少ないことを示す画像である(67倍に拡大)。前述のように、この沈殿物はデオキシコール酸の結晶であると推定される。
図4】水、2w/v%のデオキシコール酸ナトリウム、および0.9w/v%のベンジルアルコールの水性組成物は、かなりの量の沈殿物を含んでいるが、図2および図3で観察されたものよりも実質的に少ないことを示す画像である(67倍に拡大)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で用いる場合、特定の用語は、以下の定義された意味を有する。
【0014】
すべての数字表示、例えば、範囲を含むpH、温度、時間、濃度および分子量は、0.1単位で(+)または(−)に変化する近似値である。かならずしも明確に述べられているとは限らないが、すべての数字表示は、その前に用語「約」が付くと理解されるべきである。用語「約」とは、「X+0.1」または「X−0.1」などの「X」の小幅な増減に加えて、その厳密値「X」も含む。かならずしも明確に述べられているとは限らないが、本明細書に記述する諸試薬は例示にすぎず、かつ当技術分野で周知のものの同等物であると理解されるべきである。
【0015】
本明細書で用いる場合、用語「含んでいる」とは、その組成物および方法は記載された要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味するように意図される。
【0016】
組成物および方法を定義するために用いられる場合、「実質的に、からなる」とは、何らかの有効成分を除外することを意味するものとする。「有効成分」は、疾患の診断、治癒、緩和、治療または予防において、薬理活性または他の直接の効果を与えるよう、またはヒトの体の構造もしくはいかなる機能に作用するよう意図された物質である。したがって、例えば、実質的に、本明細書で定義したような要素からなる組成物は、単離および精製方法に由来する微量の混入物と、リン酸緩衝生理食塩水、保存料などの薬剤的に許容される担体とを除外しないが、ホスファターゼなどの酵素類およびタンパク質類は除外する。そのようなタンパク質の非限定例は、ヘパリン、アルブミンなどである
【0017】
「からなる」とは、微量を超える他の成分の要素と、本発明の組成物を投与するための実質的な方法ステップとを除外することを意味するものとする。これらの移行用語の各々によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0018】
本明細書で用いる場合、用語「デオキシコール酸の塩」または「その塩」とは、陽イオンとしてアルカリ金属またはアンモニウムイオンを有する(4R)−4−((3R,5R,10S,12S,13R,17R)−3,12−ジヒドロキシ−10,13−ジメチルヘキサデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−17−イル)ペンタノエートの薬剤的に許容される塩を指す。アルカリ金属塩類が好ましく、ナトリウム塩類がより好ましい。
【化1】
【0019】
2010年12月17日出願の国際出願第PCT/US2010/061150号、表題「Methods for the Purification of Deoxycholic Acid」に開示される方法によって、デオキシコール酸ナトリウムまたはナトリウム(4R)−4−((3R,5R,10S,12S,13R,17R)−3,12−ジヒドロキシ−10,13−ジメチルヘキサデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−17−イル)ペンタノエートを調製することができる。
【0020】
本明細書で用いる場合、用語「水性医薬製剤」とは、好ましくはシリンジから皮下注射を介して、患者への投与に適している水中のデオキシコール酸またはその塩の組成物を指す。
【0021】
本明細書で用いる場合、用語「緩衝液」とは、弱酸とその共役塩基との混合物または弱塩基とその共役酸との混合物を含む水溶液を指す。緩衝液は、少量の酸または塩基をそれに加えると、溶液のpHがほとんど変化しない特性を有する。緩衝液は、多種多様な化学的応用において、ほぼ一定値でpHを保つ手段として使用される。適した緩衝液の例としては、リン酸緩衝液および文献で知られているもの(例えば、Troy, D.B.編(2005) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st編, Lippincott Williams & Wilkinsを参照されたい)が挙げられる。
【0022】
本明細書で用いる場合、用語「塩基」とは、溶液中で7を超えるpHを有する種々の、通常は水溶性化合物、分子またはイオンを指す。そのような化合物、分子またはイオンは、酸から陽子を取り上げることができる、または電子の非共有対を酸に差し出すことができる。適した塩基の例としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸水素ナトリウムなどの金属炭酸塩および炭酸水素塩と;例えば、文献(例えば、Troy, D.B.編(2005) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st 編, Lippincott Williams & Wilkinsを参照されたい)で知られているような水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物とが挙げられる。
【0023】
本明細書で用いる場合、用語「金属炭酸塩」とは、CO2−の金属塩を指す。例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛などが挙げられる。
【0024】
本明細書で用いる場合、用語「金属炭酸水素塩」とは、HCOの金属塩を指す。例としては、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0025】
本明細書で用いる場合、用語「金属水酸化物」とは、OHの金属塩を指す。例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0026】
本明細書で用いる場合、用語「滅菌水」または「注射用水」とは、静菌薬、抗菌剤または追加の緩衝液を含まない注射用水の滅菌された非発熱性の製剤を指す。通常は、添加物のモル浸透圧濃度は、合計で少なくとも112mOsm/リットル(−280mOsm/リットル細胞外液の正常なモル浸透厚濃度の5分の2)になる。
【0027】
本明細書で用いる場合、用語「ベンジルアルコール」とは、以下の化合物を指す。
【化2】
【0028】
本明細書で用いる場合、用語「沈殿」とは、溶液中の固体の形成を指し、ゲル形成と容易に区別される。
【0029】
本明細書で用いる場合、用語「溶液」とは、溶媒に溶解された2種類以上の物質を含む、実質的に均一な混合物を指す。
【0030】
本明細書で用いる場合、用語「実質的に沈殿を阻害する」とは、少なくとも1ヵ月から少なくとも1年にわたる期間中、均一性を維持するために大部分またはすべての目に見える沈殿物を阻害することを意味する。
【0031】
本明細書で用いる場合、用語「均一性のための相対標準偏差」または「H」とは、均一性の標準偏差を平均の絶対値で割ることによって得られる値を指す。10未満のHは、均一性が非常に良好であることを示す。
【0032】
製剤
送達のための所望の媒体中の薬物組成物の化学的および物理的な安定性についての知識は、貴重である。より長い期間中、組成物の安定性は、市販品の貯蔵有効期間に影響する。患者に投与される際、医薬組成物の有効成分が所要の濃度であることが好ましい。
【0033】
以下の考察において、デオキシコール酸ナトリウムは例示目的だけのために記載されており、デオキシコール酸の他の薬剤的に許容される塩類はナトリウム塩と互換的に使用されることができると理解される。
【0034】
脂肪を溶解するよう患者にデオキシコール酸ナトリウムを投与するための現在の臨床手法は、デオキシコール酸の塩の低濃度(例えば、<2w/v%)の水溶液を皮下注射で投与することを含み、この量のデオキシコール酸の塩は、脂肪細胞を溶解するのに十分である(約0.4w/v%以上)。そのような濃度で、この低濃度は体内で脂肪沈着物を効果的かつ安全に除去するために有効であることが示されている。だが、水性媒体中のそのように比較的低い濃度のデオキシコール酸ナトリウムが沈殿物を形成することが観察されている。この沈殿物のために、低温度(3〜5℃)であっても、デオキシコール酸ナトリウムの水溶液の貯蔵有効期間を制限することになる。一実施形態において、デオキシコール酸ナトリウム塩は、別のアルカリ金属塩と置換されることができる。
【0035】
デオキシコール酸ナトリウムの水溶液のこの不安定性は、デオキシコール酸ナトリウムの水溶液を約5w/v%〜約16w/v%の濃度で調製して、使用直前に医師がこのデオキシコール酸ナトリウム水溶液の医薬組成物を希釈することによって回避することができる。この希釈方法は、貯蔵安定性と効果的な患者投薬の両方を可能にするのに効果的であるのだが、特に、わずか約2mLの無菌の注射剤が必要な場合、常用方法として理想的ではない。さらに、現在の臨床計画は、1治療セッションにつき最大50回の注射を含む。
【0036】
約0.4w/v%〜約2w/v%未満の範囲の濃度のデオキシコール酸ナトリウムの水性製剤は、この溶液のpHを調整することによって安定化させることができることが判明している。本発明は、実質的に、約0.4w/v%〜約2w/v%未満の範囲の濃度でのデオキシコール酸の塩と、任意選択で、防腐効果のある有効量のベンジルアルコールおよび/またはpH調整緩衝液などの薬剤的に許容される賦形剤とを含み、前述の製剤が約8.1〜約8.5のpHに維持される、水性製剤に関する。
【0037】
別の実施形態において、水性製剤を凍結乾燥させて、適切な量の水を加えることで容易に元に戻せる安定な組成物を提供する。この実施形態において、本発明は、任意選択で、凍結乾燥補助剤をさらに含有する上述の凍結乾燥組成物を含む。
【0038】
一実施形態において、水性製剤は、約0.5w/v%のデオキシコール酸の塩を含有する。別の実施形態において、水性製剤は、約1w/v%のデオキシコール酸の塩を含有する。
【0039】
さらなる実施形態において、水性製剤で使用される水は、滅菌水である。なおさらなる実施形態において、防腐効果のある有効量のベンジルアルコールは、約0.9w/v%のベンジルアルコールであり、この製剤のpHは、約8.3である。一実施形態において、前述の塩は、アルカリ金属塩である。別の実施形態において、前述の塩は、ナトリウム塩である。
【0040】
一実施形態において、本明細書に開示する医薬製剤は、ヒトへの注射に適している。注射の方法は、皮下注射などの任意の注射の種類、ならびに他の注射の形態であり得る。
【0041】
本発明の好ましい一態様において、水性製剤でのデオキシコール酸の塩の沈殿は、少なくとも約6ヵ月の期間中、阻害される。別の態様において、沈殿は、少なくとも約1年の期間中、阻害される。さらに別の態様において、沈殿は、少なくとも約2年の期間中、阻害される。
【0042】
種々の温度、例えば、環境温度または低温で貯蔵される場合、製剤は、貯蔵有効期間を延ばすことができると考えられる。特定の実施形態において、組成物は約17℃〜約27℃の温度で貯蔵される。一部の実施形態において、製剤の温度は、約25℃〜約37℃の温度に上昇される。他の実施形態において、製剤は、約2℃〜約8℃の温度で貯蔵される。
【0043】
特定の実施形態において、製剤のpHは、約8.1〜約8.5の範囲にある。一実施形態において、組成物のpHは、約8.1、またはその代わりに約8.2、またはその代わりに約8.3、またはその代わりに約8.4、またはその代わりに約8.5である。好適な実施形態において、製剤のpHは、約8.3である。
【0044】
一実施形態において、pHを、塩基を用いることで確定する。その塩基がデオキシコール酸ナトリウムと反応せず、かつ患者に害を及ぼすことがないという条件で、任意の塩基を用いて、組成物のpHを上げることができると考えられる。一部の実施形態において、塩基は、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属水酸化物またはその混合物からなる群から選択される。塩基の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムまたはそれらの混合物からなる群から選択される塩基が挙げられるが、これらに限定するものではない。一実施形態において、塩基は水酸化ナトリウムである。
【0045】
場合によって、組成物のpHは、緩衝液を用いての貯蔵中、所望のpHで維持することができる。種々の緩衝液が当技術分野で周知であり、所望のpHで緩衝能力を有する任意の緩衝液を、本明細書に開示する製剤で用いることができると考えられる。一実施形態において、緩衝液は、リン酸緩衝液である。組成物中のリン酸塩の量は、所望のpHおよび塩濃度を与えるように決定されることができる。一実施形態において、組成物は約10mMのリン酸緩衝液を含む。好適な実施形態において、組成物は約10mMのリン酸水素ナトリウム緩衝液を含む。
【0046】
一部の実施形態において、組成物は、溶解性、保存性を高めるなどの所望の特性を有する組成物を達成するために役立つよう、または等張液を与えるよう少なくとも1種類の賦形剤を含む。そのような賦形剤は、当技術分野で周知である。一実施形態において、組成物は、約1w/v%の塩化ナトリウムを含む。別の実施形態において、組成物は、約0.9w/v%のベンジルアルコールを含む。一部の実施形態において、組成物は、約0.9w/v%のベンジルアルコールと、約1w/v%塩化ナトリウムとを含む。
【0047】
一部の実施形態において、組成物のpHは、塩基を用いることで確定され、および任意選択で、緩衝液を用いること維持される。
【0048】
好適な実施形態において、本発明は、
約8.3のpHのリン酸緩衝液と、
約0.5w/v%または約1w/v%のデオキシコール酸ナトリウムと、
防腐効果のある有効量のベンジルアルコールと、
約1w/v%の塩化ナトリウムとを含む安定化した組成物を提供し、
この組成物は沈殿に対して安定化されている。
【0049】
さらなる実施形態において、リン酸緩衝液は、10mMのリン酸水素ナトリウム緩衝液である。
【0050】
一実施形態において、防腐効果のある有効量のベンジルアルコールは、約0.9w/v%である。
【0051】
本明細書に開示される製剤は、実質的にデオキシコール酸の塩の沈殿を阻害するように十分なpHに維持されている、約0.4w/v%〜約2w/v%未満のデオキシコール酸の塩を水中に含む。沈殿物の量または組成物の均一性は、種々の方法を用いて測定することができる。例えば、分光光度計で組成物に光を当てることによる光散乱を用いて、沈殿物の量または組成物の均一性を定量的に測定することができる。または、その代わりに、均一性は、目視により溶液の透明度を観察することで定性的に測定することができる。一部の実施形態において、組成物は、均一性に対する相対標準偏差が約5%%未満である。あるいは、組成物は、均一性に対する相対標準偏差が約4%未満、あるいは約3%、あるいは約2%、あるいは約1%である。
【0052】
別の実施形態において、本発明は、実質的に、
約8.3のpHに緩衝された無菌の水溶液と、
約0.5w/v%または約1w/v%のデオキシコール酸ナトリウムと、
約0.9w/v%のベンジルアルコールと、
約1w/v%の塩化ナトリウムとからなる組成物に関し、
この組成物は、沈殿に対して安定である。
【0053】
別の実施形態において、本発明は、
約8.3のpHに緩衝された水溶液と、
約0.5w/v%または約1w/v%のデオキシコール酸ナトリウムと、
約0.9w/v%のベンジルアルコールと、
約1w/v%の塩化ナトリウムとからなる組成物に関し、
この組成物は、沈殿に対して安定である。
【0054】
一部の実施形態において、本明細書での溶液は、脂質、リン脂質またはホスファチジルコリンを含まない。一部の実施形態において、本明細書での溶液は、最大5w/w%、5w/v%、または5v/v%の脂質、具体的にはリン脂質、より具体的にはホスファチジルコリンを含まない。好ましくは、使用される脂質の量は、デオキシコール酸ナトリウムまたはデオキシコール酸の別の塩の量より少ない。
【0055】
一部の実施形態において、本発明の水性医薬組成物は、抗菌剤、血管収縮剤、抗血栓剤、抗凝固剤、泡抑制剤、抗炎症剤、鎮痛剤、分散剤、抗分散剤、浸透促進剤、ステロイド、精神安定剤、筋弛緩剤および止瀉剤からなる群から選択される第2の治療薬をさらに含むことができる。一部の実施形態において、溶液は、最大500mLの溶液を収容する容器に入っている。そのような容器は、シリンジまたはシリンジをロードできる容器であり得る。
【0056】
一部の実施形態において、製剤は、オルソゴナル機序によって脂肪の消滅を引き起こすことが知られている分子をさらに含む。そのような分子は、ニューロペプチドY(NPY)アンタゴニストを含み、NPYアンタゴニストは、BIBP−3226(Amgen)、BIBO−3304(Boehringer Ingleheim)、BMS−192548およびAR−H040922(Bristol−Myers Squibb)、LY−357897(Eli Lilly)、1229U91とGW438014S(GlaxoSmithKline)、JNJ−5207787(Johnson&Johnson)、Lu−AA−44608(Lundbeck)、MK−0557(Merck NPY)、NGD−95−1(Neurgogen)、NLX−E201(Neurologix)、CGP−71683(Novartis)、PD−160170(Pfizer)、SR−120819A、BIIE0246およびS.A.0204(Sanofi Aventis)、S−2367(Shiongli)などのNPY受容体アンタゴニスト;NPY受容体アンタゴニストであるジヒドロピリジンとジヒドロピリジン誘導体;NPY受容体アンタゴニスト、カルバゾールNPY受容体アンタゴニストである二環式化合物;およびNPY受容体アンタゴニストである三環式化合物が挙げられるがこれらに限定するものではない(例えば、国際公開第2006/133160号および米国特許第6,313,128号を参照されたい)。白色脂肪脈管構造に存在するCKGGRAKDCペプチドなどの脂肪選択的なプロアポトーシスペプチドも考えられる(Kolonin M.G.ら, Nat. Med., 2004, 10(6): 625-32を参照されたい)。
【0057】
本発明の別の態様は、デオキシコール酸(DCA)などの脂肪を融除できる胆汁酸と、脂肪細胞を消滅させる薬剤とを混合することに関する。一態様において、本発明は、オルソゴナル機序によって脂肪の消滅を引き起こす分子をデオキシコール酸注入液に混合させることによってデオキシコール酸注射の美的効果を高める手段を考察する。そのような候補分子の例としては、ニューロペプチドY(NPY)アンタゴニストおよび脂肪選択的なプロアポトーシスペプチドが挙げられるがこれらに限定するものではない。脂肪細胞の死滅は、所望の効果を仲介するために必要とされることがあり得るので、脂肪死滅能力を有する薬剤の効果は、強力な脂肪細胞の死滅効果を有する分子を追加することで向上させることができる。さらに、死滅させるために脈管構造に接近することが必要な分子(例えば毛細管の管腔側で発現するタンパク質に結合する特定のプロアポトーシスペプチドなど)は、デオキシコール酸が血管漏出を引き起こすこともあり得るので、これらのタンパク質に到達することができる。したがって、そのような薬剤は、デオキシコール酸と相乗的であり、少ない治療セッションで体形矯正を仲介するより有力な手段を作成する可能性がある。
【0058】
NPYアンタゴニストの例としては、BIBP−3226(Amgen)、BIBO−3304(Boehringer Ingleheim)、BMS−192548とAR−H040922(Bristol−Myers Squibb)、LY−357897(Eli Lilly)、1229U91とGW438014S(GlaxoSmithKline)、JNJ−5207787(Johnson&Johnson)、Lu−AA−44608(Lundbeck)、MK−0557(Merck NPY)、NGD−95−1(Neurgogen)、NLX−E201(Neurologix)、CGP−71683(Novartis)、PD−160170(Pfizer)、SR−120819A、BIIE0246およびS.A.0204(Sanofi Aventis)、S−2367(Shiongli)などのNPY受容体アンタゴニスト;NPY受容体アンタゴニストであるジヒドロピリジンとジヒドロピリジン誘導体;NPY受容体アンタゴニスト、カルバゾールNPY受容体アンタゴニストである二環式化合物;およびNPY受容体アンタゴニストである三環式化合物が挙げられるがこれらに限定するものではない。例えば、国際公開第2006/133160号および米国特許第6,313,128号を参照されたい。
【0059】
脂肪選択的なプロアポトーシスペプチドの代表的なものは、白色脂肪脈管構造に存在するCKGGRAKDCが挙げられるが、これに限定するものではない。Kolonin M.G.ら, Nat. Med. June 10(6): 625-32 (2004)を参照されたい。
【0060】
2010年12月17日出願の国際出願PCT/US2010/061150号、表題「Methods for the Purification of Deoxycholic Acid」に開示される方法によって、デオキシコール酸ナトリウムまたはナトリウム(4R)−4−((3R,5R,10S,12S,13R,17R)−3,12−ジヒドロキシ−10,13−ジメチルヘキサデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−17−イル)ペンタノエートを調製することができる。デオキシコール酸の他の塩類は、当業者によって同様に調製することができる。
【0061】
方法
デオキシコール酸塩の水性製剤を貯蔵中に沈殿に対し安定化させるための方法を本明細書に開示する。その塩の濃度は、約0.4w/v%〜約2w/v%未満におよぶ塩の量であることを条件として、脂肪細胞を溶解するのに十分な量であり、その方法は、
そのpKaを超える初期pHで、デオキシコール酸の塩の水溶液を作製することと;
その水溶液のpHを約8.1〜約8.5のpHに調整することと;
任意選択で、pHを約8.1〜約8.5に維持するのに十分な量の緩衝液を含めることとを含む。
【0062】
本発明の一態様において、本明細書に開示する方法は、好ましくは少なくとも約6ヵ月間の期間中、沈殿に対してデオキシコール酸塩の製剤を実質的に安定化させる。別の態様において、該方法は、少なくとも約1年の期間中、沈殿に対してデオキシコール酸塩の製剤を安定化させる。さらに別の態様において、該方法は、少なくとも約2年の期間中、沈殿に対してデオキシコール酸塩の製剤を安定化させる。
【0063】
溶液のpHは、水中で約0.4w/v%〜約2w/v%未満の濃度でのデオキシコール酸またはその塩の沈殿を阻害することができ、デオキシコール酸またはその塩が溶液中に維持されることを可能にすることが判明している。一実施形態において、pHを、塩基を用いることで確定する。その塩基がデオキシコール酸またはその塩と反応しないという条件で、任意の塩基を用いて、組成物のpHを上げることができると考えられる。一部の実施形態において、塩基は金属炭酸塩、金属炭酸水素塩および金属水酸化物またはそれらの混合物からなる群から選択される。塩基の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムまたはそれらの混合物からなる群から選択される塩基が挙げられるが、これらに限定するものではない。一実施形態において、塩基は水酸化ナトリウムである。
【0064】
特定の実施形態において、pHは、約8.1〜約8.5の範囲にある。一実施形態において、組成物のpHは、約8.1、あるいは約8.2、あるいは約8.3、あるいは約8.4、あるいは約8.5である。好適な実施形態において、水溶液のpHは、約8.3である。
【0065】
場合によって、組成物のpHは、緩衝液を用いて維持する必要があり得る。種々の緩衝液が当技術分野で周知であり、所望のpHで緩衝能力を有する任意の緩衝液を、本明細書に開示する製剤で用いることができると考えられる。一実施形態において、緩衝液はリン酸緩衝液である。所望のpHおよび塩濃度を与えるために必要とされるリン酸塩の量は、当技術分野で周知の方法を用いて算出することができる。一実施形態において、組成物は約10mMのリン酸緩衝液を含む。別の実施形態において、リン酸緩衝液は、10mMのリン酸水素ナトリウム緩衝液である。
【0066】
場合によって、pHは、塩基を用いることで確定され、かつ任意選択で、緩衝液を用いることで維持される。
【0067】
一実施形態において、本明細書で開示する方法によって、ヒトへの注射に適している製剤を提供する。注射の方法は、皮下注射など任意の注射の種類、ならびに他の注射の形態であり得る。したがって、一部の実施形態において、水溶液は、滅菌水または注射用水(WFI)を含む。
【0068】
一態様において、1または複数の賦形剤を用いて、溶解性を維持し、または製剤中に存在するデオキシコール酸塩の保存性を高めてもよい。一実施形態において、方法は、約1w/v%のベンジルアルコールを加えることを含む。一部の実施形態において、製剤はまた、等張液を達成するのに役立つよう少なくとも1種類の賦形剤を含む。そのような賦形剤は、当技術分野で周知である。一実施形態において、方法は約1w/v%の塩化ナトリウムを加えることを含む。一部の実施形態において、方法は1w/v%のベンジルアルコールおよび1w/v%の塩化ナトリウムの両方を加えることを含む。一部の実施形態において、方法は0.9w/v%のベンジルアルコールおよび0.9w/v%の塩化ナトリウムの両方を加えることを含む。本明細書に開示する方法を用いて、約2w/v%未満のデオキシコール酸塩を含む水溶液は、実質的にデオキシコール酸塩の沈殿を阻害するのに十分なpHに維持される。沈殿物の量または組成物の均一性は、種々の方法を用いて測定することができる。例えば、分光光度計による照明を介して光散乱を測定することによって、沈殿物の量または組成物の均一性を定量的に測定することができる。または、その代わりとして、均一性は、目視による溶液の透明度を単純に観察することで測定することができる。一部の実施形態において、方法は、均一性に対する相対標準偏差が約5%未満である医薬組成物を提供する。あるいは、均一性に対する相対標準偏差は約4%未満、あるいは約3%未満、あるいは約2%未満、あるいは約1%未満である。
【0069】
貯蔵温度は、製剤中のデオキシコール酸塩の溶解性を維持するのを補助することができる。特定の実施形態において、貯蔵温度は約17℃〜約27℃である。一部の実施形態において、貯蔵温度は約25℃〜約37℃である。他の実施形態において、貯蔵温度は約2℃〜約8℃である。
【0070】
製剤中のデオキシコール酸の塩の濃度は、約0.5w/v%、あるいは約0.7w/v%、あるいは約1w/v%、あるいは約1.2w/v%、あるいは約1.4w/v%、あるいは約2w/v%未満である。好適な実施形態において、デオキシコール酸の塩は、デオキシコール酸ナトリウムである。別の好適な実施形態において、組成物は、0.5w/v%のデオキシコール酸ナトリウムを含む。別の好適な実施形態において、組成物は、1w/v%のデオキシコール酸ナトリウムを含む。
【0071】
一実施形態において、水性製剤は、脂肪細胞に別々に投与される複数の個別の溶液に分割される。例えば、水性製剤は、5、10、15、20、25または30の別々の溶液に分割され。場合によっては、最大50の別々の溶液に分割される。
【0072】
好適な実施形態において、デオキシコール酸の塩は、デオキシコール酸ナトリウムである。本発明の方法は皮下注射を含むので、チャンバー、プランジャーおよび注射針を備えるシリンジも提供する。チャンバーには本発明の製剤が含まれる。好ましくは、チャンバーは、少なくとも2mL、好ましくはわずか4mLの製剤を保持するのに十分である。
【0073】
別の実施形態では、本発明は、以下のスキームに示す、保護された市販の9−α,17−β−ジヒドロキシ−5−α−アンドロスタン−3−オンからDCAの合成を提供する。
【0074】
スキーム1:DCAの合成
【化3】
【0075】
市販の9−α,17−β−ジヒドロキシ−5−α−アンドロスタン−3−オンの9−α−,17ヒドロキシ基は、ヒドロキシ保護基で区別的に保護される。ヒドロキシ保護基は、そのうちの一つが脱保護(regenerated)されるが、一方、他のヒドロキシ基は保護された状態を維持するという条件下で、除去されることができる。そのような区別的な保護は、オルソゴナル保護と呼ばれ、周知の試薬および反応の条件を用いる。一例において、1つのヒドロキシ基はアセチル基として保護されるが、他のヒドロキシ基はベンジル基として保護される。各基は、他のヒドロキシ保護基が元の状態を維持するという反応条件で、選択的に除去されることができる。
【0076】
9−α−ヒドロキシ基脱離の前に考えられる反応は、立体障害のためにこの位置でおそらく阻害されるので、相対的に立体保護された9−α−ヒドロキシ基は、おそらく保護される必要がないと考えられる。それにもかかわらず、このヒドロキシ基を保護することで、脱水を介してのこのヒドロキシ基の脱離が望まれるまで、この基を元の状態で維持することを十分に確実なものにする。
【0077】
オルソゴナル保護された9−α,17−β−ジヒドロキシ−5−α−アンドロスタン−3−オンの3−オン基(化合物1)は、3−α−ヒドロキシ誘導体を得るよう、水素化ホウ素ナトリウムなどの従来使用されている還元剤で還元させる。次いでこれをさらに別のオルソゴナル保護基で保護して化合物2を得る。
【0078】
化合物2の17位のヒドロキシ保護基は、次いで、選択的に除去され、そのように脱保護されたヒドロキシ基は、次いで、17−ケト誘導体(化合物3)を得るよう、CrOなどの適切な酸化試薬で酸化される。化合物3中の17−ケト基は、化合物4(例示目的だけのために1,2−ジヒドロキシエタンでケタール形成を図示する)を得るよう、1,2−ジヒドロキシエタンまたは1,3−ジヒドロキシプロパンとの反応などの標準的なケタール化条件のもとケタールとして保護される。
【0079】
必要に応じて、9−α−ヒドロキシルの脱保護は、酸触媒脱離などの条件下でそのヒドロキシ基の脱水が続き、9,10−不飽和誘導体(化合物5)を得る。12−ケト基の生成は、化合物6を得るよう、クロム酸またはTBHP(tert−ブチルヒドロペルオキシド)およびNaOClなどの酸化試薬で化合物5をアリル酸化することで達成される。例えば、米国特許出願第61/348,686号を参照されたい。あるいは、アリル酸化は、触媒として約2〜5当量のTBHPおよび約0.3〜0.5当量のCulを用いることで達成される。この反応は、アセトニトリルなどの溶媒中、40℃で約40〜55時間で行われる。TBHPをゆっくりと少しずつ加えることで、より効率的に酸化させる。形成された生成物は、化合物6と対応するアリルアルコールとの混合物を含有する。次いで、化合物6を得るよう、この生成混合物をPCCで酸化させる。
【0080】
10%のPd/CおよびHなどの標準条件下で、化合物6を水素化して化合物7を得る。化合物7中の12−ケト基を、LiAl(OBuHなどの試薬で還元することで、12−ヒドロキシ誘導体(化合物8)を得る。カリウムtert−ブトキシドなどの塩基の存在下で、エチルトリフェニルホスホニウムブロミドを用いることなどの標準的なウィッティヒ条件下で化合物8をオレフィン化することで、化合物9を得る。ルイス酸の存在下でアクリル酸メチルなどのアルキルアクリル酸を添加することで、化合物10を得る。式中Rは、メチルなどのアルキル基である。この場合もやはり化合物10中の二重結合の還元を、Pd/CおよびHなどの標準水素化条件下で進めて、化合物11を得る。LiOHなどの塩基での加水分解に続いて、3−ORを脱保護することでDCA(化合物12)を得る。
【0081】
化合物12(粗DCA)を、メタノール洗浄でさらに精製して、エタノールから再結晶させた。それをCHCl(25vol)中2mol%のMeOHで希釈して、35〜37℃に1時間加熱した。そのスラリーを28〜30℃に冷却して、濾過した。濾過ケークをCHCl(5vol)で洗浄し、40℃、減圧下で乾燥させてDCAを得た。
【0082】
DCAを10%のDI水/EtOH(12vol)に溶解させ、セライト上で仕上げ濾過し、次いで10%のDI水/EtOH(3vol)で洗浄した。得られた15volの濾液をDI水(30vol)に加えて、薄い白色スラリーを得た。このスラリーを24時間保持してから、DI水(20vol)で洗浄して、40℃、減圧下で乾燥させて、DCAを得た。
【0083】
DCAの、デオキシコール酸ナトリウムなどの薬剤的に許容される塩への転換は、従来の条件を介して進める。あるいは、デオキシコール酸ナトリウムなどの薬剤的に許容されるDCAの塩のDCAへの転換も従来の条件を介して進める。
【0084】
別の実施形態において、本発明は、
約8.1〜約8.5のpHを有し、約0.5%のオキシコール酸ナトリウムと、約0.9%のベンジルアルコールとをさらに含む緩衝した水溶液を含む安定化した製剤を提供し、
該製剤は沈殿に対して安定化され、オキシコール酸ナトリウムはスキーム1によって調製される。
【0085】
別の実施形態において、本発明は、
約8.1〜約8.5のpHを有し、約1%のオキシコール酸ナトリウムと、約0.9%のベンジルアルコールとをさらに含む緩衝した水溶液を含む安定化した製剤を提供し、
該製剤は沈殿に対して安定化し、およびオキシコール酸ナトリウムはスキーム1によって調製する。
【実施例】
【0086】
本実施例において、および本明細書の他の部分において、略語は以下の意味を持つ:
【表1】
【0087】
本発明は、以下の実施例を参照することでさらに理解され、これらの実施例は、本発明をただ例示することを目的とする。
【0088】
実施例1 デオキシコール酸ナトリウムの溶液からの濃度依存性沈殿
異なる濃度のデオキシコール酸ナトリウムの溶液を、1週間貯蔵した後、沈殿形成について評価した。結果は図1〜4に示しており、水と0.9w/v%のベンジルアルコールだけを含む水溶液中のデオキシコール酸ナトリウムは、約0.5%と約1%(w/v)の濃度で、かなりの量の沈殿物を形成し、したがって皮下注射用の組成物として、この溶液の使用が阻止されことになることを明示している。図1〜4の目視検査によって、沈殿物の量は、下に作表するように、評価することができる。
【0089】
【表2】
【0090】
沈殿物の評点は、「0」は透明な溶液を表し、「10」は肉眼には容易に見えるかなりの沈殿物を示す混合物を表すと評価する。
【0091】
そのような観察は、試験した濃度の範囲内で、沈殿現象がデオキシコール酸の濃度によってかなり影響されることを示している。沈殿に対するpHの効果を確認するために、表2に示すように、各溶液のpHを測定した。表2は、各溶液のpH、特に1%と2%の溶液のpHが実質的に同じであったことを示している。より多くの希釈液(0.5%または1%)が、より濃縮した溶液(2%)よりも多い沈殿物を提供する場合、デオキシコール酸ナトリウムの逆の水溶解度は、驚くべき観察であり、かつ沈殿現象がpHに直接的に関連しないことを証明している。なぜならば、各溶液のpHは、ここでも実質的に同じ、特に1%と2%の溶液の場合、同じであった。
【0092】
【表3】
【0093】
したがって、本発明が提供することは、0.4%〜2%(w/v)未満の希釈デオキシコール酸の塩が、溶液のpHを上げることによって皮下注射に有用になる程度まで、驚くべき沈殿を抑制することである。
【0094】
実施例2 ベンジルアルコールを含む場合と、含まない場合のデオキシコール酸ナトリウム(API)製剤
1.リン酸ナトリウム(10mM)、塩化ナトリウム(75〜90mM)、ベンジルアルコール(0.9%)、デオキシコール酸、pH8.3を含むデオキシコール酸ナトリウム(0.5%と1%)の組成物を調製した。
2.ベンジルアルコールを含まないデオキシコール酸ナトリウムの等張組成物を、以下の通り、遊離酸の形、すなわちデオキシコール酸を用いて調製した。
【0095】
a.10mg/mLで等張のバッチ100mLの調製
水70mL、二塩基性リン酸ナトリウム無水物142mg、および10M NaOH 267μLを用いて塩基溶液を作製した後のみ、デオキシコール酸(DCA)1.0gを加えた。APIが溶液に溶けるのに約20分かかった。溶液のpHは、11.1であった。HClを素早く加えると、若干の沈殿物が生じることが知られているので、1M HCl 225μLをゆっくりと加えて、溶液をpH8.3にした。溶液を、さらに15分間混合させた。水で量を100mLにすると、重量モル浸透圧濃度が51mOsmであった。NaClを859mg加えると、重量モル浸透圧濃度は、305mOsmに上がった。
【0096】
そのようにして調製した溶液を、随意に凍結乾燥させ、適切な量の滅菌水を加えることによって元に戻すことができる凍結乾燥製剤を提供することができる。したがって、本発明は、本明細書に開示する溶液の凍結乾燥製剤も提供する。
【0097】
b.10mg/mLで等張のバッチ1000mLの調製
セクションa(上記)の結果は、10倍に増やすと、完全にはスケールアップしなかった。水900mLに対して、二塩基性リン酸ナトリウム無水物1.4g、NaCl 8.6g、および10M NaOH 2.7mLを加えた。次いで、DCA10.0gを加えて、30分間、透明になるまで混合した。この溶液のpHは、10.4であった。1M HCl 1.5mLをゆっくりと加えて、5分間混合した。最終pHは、8.1であった。そのpHを8.3にするには、10M NaOHをさらに20μL加えなければならなかった。水で量を1000mLにすると、重量モル浸透圧濃度は314mOsmであった。
【0098】
1M HClの添加中のpH変化の観察に基づいて、10mg/mLでのAPI1000mLのバッチに対して、1M HClを1.0mLだけ直ちに加え、次いでゆっくりと少量の酸で滴定する必要があることを決定した。10mg/mLでのAPI1000mLの場合の提案する添加順序を、表3に概要を述べる。
【0099】
c.5mg/mLで等張のバッチ100mLの調製
水70mL、二塩基性リン酸ナトリウム無水物142mg、および10M NaOH 134μLを用いて塩基溶液を作製した後のみ、デオキシコール酸(DCA)0.50gを加えた。APIが溶液に溶けるのに約20分かかった。pHは、10.7であった。HClを素早く加えると、若干の沈殿物が生じることが知られているので、1M HCl 115μLをゆっくりと加えて、溶液をpH8.3にした。溶液をさらに15分間混合した。水で量を100mLにすると、重量モル浸透圧濃度が39mOsmであった。NaClを859mg加えると、重量モル浸透圧濃度は、294mOsmに上がった。
【0100】
d.5mg/mLで等張のバッチ1000mLの調製
セクションc(上記)の結果は、10倍に増やすと、完全にはスケールアップしなかった。水900mLに対して、二塩基性リン酸ナトリウム無水物1.4g、NaCl 8.6g、および10M NaOH 1.3mLを加えた。次いで、DCA5.0gを加えて、30分間、透明になるまで混合した。pHは、8.6であった。1M HClを350μLだけ加えると、pHは8.0に下がった。pHを8.4にするには10M NaOHをさらに25μL加えなければならなかった。水で量を1000mLにすると、重量モル浸透圧濃度が305mOsmであった。1M HClの添加中のpH変化の観察に基づいて、5mg/mLでのAPI1000mLのバッチに対して、少量の1M HClでゆっくりと滴定する必要があることを決定した。5mg/mLでの1000mLの場合の提案する添加順序を、表3に概要を述べる。
【0101】
【表4】
図1
図2
図3
図4