特許第6356384号(P6356384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6356384-焼却灰の無害化処理方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356384
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】焼却灰の無害化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20180702BHJP
   A62D 3/30 20070101ALI20180702BHJP
   F01N 5/02 20060101ALI20180702BHJP
   F02G 5/02 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B09B3/00 304G
   A62D3/30ZAB
   F01N5/02 J
   F02G5/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-52323(P2013-52323)
(22)【出願日】2013年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-176807(P2014-176807A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年12月15日
【審判番号】不服2017-9862(P2017-9862/J1)
【審判請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】石倉 健志
(72)【発明者】
【氏名】前田 洋
【合議体】
【審判長】 豊永 茂弘
【審判官】 中澤 登
【審判官】 大橋 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−170907(JP,A)
【文献】 特開2003−340397(JP,A)
【文献】 特開2004−74100(JP,A)
【文献】 特開2003−126807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00- 5/00,B09C 1/00- 1/10
A62D 1/00- 9/00
F02G 1/00- 5/04
F01N 1/00- 1/24, 5/00- 5/04,13/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物焼却炉からの鉛と六価クロムとを含む焼却灰の無害化処理方法であって、
前記焼却灰の含水率を10〜20%にし、当該焼却灰に対して、メタンを主成分とする炭化水素混合ガスを燃料とするガスエンジンからの二酸化炭素を含む排ガスを340〜500℃で接触させてエージングするエージング処理工程を実行し、前記鉛の溶出量を0.01mg/L以下とし、前記六価クロムの溶出量を0.05mg/L以下とし、
前記焼却灰の含水率を10〜20%にするにあたり、前記焼却灰を含水率の程度に応じて分類し、
前記焼却灰の含水率が20%を超える湿潤焼却灰の場合、当該湿潤焼却灰を乾燥させて含水率を10〜20%に調整する乾燥工程を実行したのち、前記エージング処理工程を実行し、
前記焼却灰の含水率が10〜20%の場合、当該焼却灰に対してそのまま前記エージング処理工程を実行し、
前記焼却灰の含水率が10%未満の乾燥焼却灰の場合、当該乾燥焼却灰にシャワリングをして含水率を10〜20%に調整する湿潤工程を実行したのち、前記エージング処理工程を実行する焼却灰の無害化処理方法。
【請求項2】
前記エージング処理工程をロータリーキルン装置により実行し、当該ロータリーキルン装置内において上流側から下流側へ向けて移動する前記焼却灰に対し、逆に下流側から上流側へ通流する排ガスを対向接触させてエージングする請求項に記載の焼却灰の無害化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却炉からの焼却灰の無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミなどの廃棄物を焼却する廃棄物焼却炉から排出される焼却灰に対して、メタンを主成分とする炭化水素混合ガスを燃料とするガスエンジンからの排ガスを340〜500℃で接触させてエージングするエージング処理工程を実行して、焼却灰に含まれる鉛や六価クロムを無害化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、廃棄物焼却炉からの焼却灰に対して、水または水蒸気を混合してエージング処理する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−170907号公報
【特許文献2】特開2006−223987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の処理方法は、ガスエンジンから排出される排ガスが、その排ガスの温度および二酸化炭素と酸素の含有量などにおいて、廃棄物焼却炉から排出される排ガスに比べて非常に安定している点に着目し、ガスエンジンからの排ガスにより焼却灰をエージングすることで、焼却灰に含まれる鉛や六価クロムを安定的に処理するために提案されたものである。
しかしながら、当該処理方法では、廃棄物焼却炉から排出される焼却灰の含水率にまでは言及していない。つまり、焼却灰の含水率がエージング処理効果に及ぼす影響については何の記載も示唆もない。
この点に関しては上記特許文献2の処理方法も同様で、焼却灰に水または水蒸気を混合してエージング処理する旨の記載はあるが、焼却灰の含水率がエージング処理効果に及ぼす影響にまで言及したものではない。
【0005】
本発明は、焼却灰の含水率がエージング処理効果に及ぼす影響に着目し、種々の試験や実験を行った結果に基づくもので、その目的は、焼却灰に含まれる鉛と六価クロムを確実に無害化することのできる焼却灰の無害化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明による焼却灰の無害化処理方法は、廃棄物焼却炉からの鉛と六価クロムとを含む焼却灰の無害化処理方法であって、
その特徴構成は、 廃棄物焼却炉からの鉛と六価クロムとを含む焼却灰の無害化処理方法であって、
前記焼却灰の含水率を10〜20%にし、当該焼却灰に対して、メタンを主成分とする炭化水素混合ガスを燃料とするガスエンジンからの二酸化炭素を含む排ガスを340〜500℃で接触させてエージングするエージング処理工程を実行し、前記鉛の溶出量を0.01mg/L以下とし、前記六価クロムの溶出量を0.05mg/L以下とし、
前記焼却灰の含水率を10〜20%にするにあたり、前記焼却灰を含水率の程度に応じて分類し、
前記焼却灰の含水率が20%を超える湿潤焼却灰の場合、当該湿潤焼却灰を乾燥させて含水率を10〜20%に調整する乾燥工程を実行したのち、前記エージング処理工程を実行し、
前記焼却灰の含水率が10〜20%の場合、当該焼却灰に対してそのまま前記エージング処理工程を実行し、
前記焼却灰の含水率が10%未満の乾燥焼却灰の場合、当該乾燥焼却灰にシャワリングをして含水率を10〜20%に調整する湿潤工程を実行したのち、前記エージング処理工程を実行する点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、焼却灰の含水率を10〜20%にし、その焼却灰に対してガスエンジンからの排ガスを340〜500℃で接触させてエージング処理するので、後述する試験結果などから明らかなように、鉛と六価クロムの溶出量が抑制され、環境庁告示46号に定められた基準値、つまり、鉛=0.01mg/L以下、六価クロム=0.05mg/L以下の基準値以下にまで無害化することが可能となる。
また、上記特徴構成によれば、焼却灰の含水率が10〜20%の場合は勿論のこと、含水率が20%を超える湿潤焼却灰の場合には、湿潤焼却灰を乾燥させて含水率を10〜20%に調整したのちにエージング処理工程を実行するので、いずれの場合にも、鉛と六価クロムの溶出量を環境庁告示46号に定められた基準値以下にまで抑制することができる。
また、上記特徴構成によれば、含水率が10%未満の乾燥焼却灰の場合には、乾燥焼却灰にシャワリングをして含水率を10〜20%に調整したのちにエージング処理工程を実行するので、たとえ含水率が10%未満の乾燥焼却灰であっても、鉛と六価クロムの溶出量を環境庁告示46号に定められた基準値以下にまで抑制することができる。
【0014】
本発明による焼却灰の無害化処理方法の更なる特徴構成は、前記エージング処理工程をロータリーキルン装置により実行し、当該ロータリーキルン装置内において上流側から下流側へ向けて移動する前記焼却灰に対し、逆に下流側から上流側へ通流する排ガスを対向接触させてエージングする点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、ロータリーキルン装置内において上流側から下流側へ向けて移動する焼却灰に対し、逆に下流側から上流側へ通流する排ガスを対向接触させてエージングするので、エージング処理を促進してエージング処理に要する時間の短縮を図るとともに、エージング効果の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】焼却灰の処理装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による焼却灰の無害化処理方法の実施形態を図面に基づいて説明する。
この焼却灰の無害化処理方法(以下、無害化処理方法を単に「処理方法」と称する)は、例えば、都市ゴミなどの廃棄物を焼却する廃棄物焼却炉から排出される焼却灰を対象とし、当該焼却灰に含まれる鉛と六価クロムを環境庁告示46号(溶出量試験:鉛=0.01mg/L以下、六価クロム=0.05mg/L以下)に定められた基準値以下にまで無害化するためのものである。
当該処理方法の実施に使用する焼却灰の処理装置は、例えば、図1に示すように、第1〜第3までの3基の保管用ホッパー2、3、4を備え、これら保管用ホッパー2、3、4には、廃棄物焼却炉1から排出された焼却灰から分級装置(図示せず)などにより比較的大きな異物(乾電池など)が取り除かれた状態で、その焼却灰が一時的に保管される。
【0018】
各保管用ホッパー2、3、4からの焼却灰をエージング処理するのがロータリーキルン装置5で、当該ロータリーキルン装置5は、上流側(図面の左側)が高く、下流側(図面の右側)が低くなるように傾斜がつけられ、その内部には回転する多数の撹拌羽を備えていて、保管用ホッパー2、3、4からの焼却灰が、図中実線で示すように、上流側から下流側へ向けて移動搬送される。当該ロータリーキルン装置5に対して、例えば、第1保管用ホッパー2からの搬送路には焼却灰を乾燥させる乾燥機6が設けられ、第3保管用ホッパー4からの搬送路には焼却灰に水や水蒸気などをシャワリングするシャワリング装置7が設けられる。
焼却灰のエージングに使用されるのはガスエンジン8からの排ガスで、当該ガスエンジン8は、メタンを主成分とする炭化水素混合ガスを燃料とし、例えば、別途需要のある熱と電力を供給することのできるコジェネレーション設備の一角を担うものである。当該コジェネレーション設備からの電力によって、上述したロータリーキルン装置5、乾燥機6、シャワリング装置7なども駆動される。
【0019】
コジェネレーション設備で使用されるガスエンジン8は、理論空気比よりも薄い混合気(例えば、空気比1.6〜2.1程度)で運転することにより、リーンバーン状態となって燃費効率の良い状態で運転され、また、実質的に理論空燃比(例えば、空気比0.95〜1.05程度)で運転することにより、ストイキ状態で運転される。
なお、実際に稼働しているガスエンジン8について調べたところ、リーンバーン状態での運転時には、排ガス中に二酸化炭素を5.2〜6.7体積%、酸素を8〜11体積%程度含有し、ストイキ状態での運転時には、二酸化炭素を9〜11体積%程度含有し、酸素については含有していないことが判明した。
【0020】
このガスエンジン8から排出される排ガスの温度を温度調整機構9によって340〜500℃に調整して、ロータリーキルン装置5の下流側に供給し、図中破線で示すように、下流側から上流側へ向けて通流する。
つまり、ロータリーキルン装置5内において、上流側から下流側へ移動搬送される焼却灰に対し、ガスエンジン8からの排ガスを340〜500℃に調温した状態で、逆に下流側から上流側へ向けて通流させて接触させ、それによって焼却灰をエージングし、焼却灰に含まれる鉛と六価クロムを無害化する。
そして、無害化したのちの焼却灰は、処理済みホッパー10に保管され、エージングに供されたのちの排ガスは、冷却塔11により冷却され、集塵器12により集塵されて装置外へ排気される。
なお、温度調整機構9として、ガスエンジン8からの排ガスを積極的に冷却または加熱する温度調整装置を使用し得るのは勿論のこと、排ガスを冷却する場合、ガスエンジン8からの排ガスをロータリーキルン装置5へ搬送するための排ガス用配管を温度調整機構9として使用することもできる。
【0021】
つぎに、上述した焼却灰の処理装置を使用して、焼却灰に含まれる鉛と六価クロムを無害化する焼却灰の処理方法について説明する。
廃棄物焼却炉1から排出された焼却灰は、焼却灰の含水率に応じて、第1〜第3保管用ホッパー2、3、4のいずれかに保管される。例えば、焼却灰の含水率が20%を超える湿潤状態の焼却灰であれば、第1保管用ホッパー2に保管され、その湿潤焼却灰を乾燥機6により乾燥させて含水率を10〜20%に調整する乾燥工程を実行したのち、ロータリーキルン装置5へ搬送する。
焼却灰の含水率が10〜20%であれば、第2保管用ホッパー3に保管され、そのままロータリーキルン装置5へ搬送する。また、焼却灰の含水率が10%未満の乾燥状態の焼却灰であれば、第3保管用ホッパー4に保管され、その乾燥焼却灰をシャワリング装置7により湿潤させて含水率を10〜20%に調整する湿潤工程を実行したのち、ロータリーキルン装置5へ搬送する。
【0022】
いずれの場合においても、廃棄物焼却炉1から排出された焼却灰は、その含水率が10〜20%に調整されてロータリーキルン装置5へ搬送される。
そして、当該ロータリーキルン装置5内において、上流側から下流側へ移動搬送される含水率が10〜20%の焼却灰に対し、逆に下流側から上流側へ通流する排ガスを接触させて、つまり、メタンを主成分とする炭化水素混合ガスを燃料とするガスエンジン8からの排ガスを340〜500℃で接触させてエージングするエージング処理工程が実行され、その結果、焼却灰に含まれる鉛と六価クロムが無害化される。
【0023】
本発明による焼却灰の処理方法の効果確認、つまり、鉛と六価クロムの無害化に関する効果確認のため、本発明者らは種々の実験や試験を行ったので、その結果の一部について説明する。
下記の表1は、環境庁告示46号(溶出量試験:鉛=0.01mg/L以下、六価クロム=0.05mg/L以下)による鉛の溶出量試験に関し、焼却灰の含水率に起因する鉛の溶出量の差異を試験したときの結果である。
試験に使用した焼却灰は、未処理の状態で鉛の溶出量が0.52mg/Lの焼却灰で、使用した排ガスは、二酸化炭素(CO2)が5体積%、酸素(O2)が10体積%、その他が窒素(N2)バランスの400℃の排ガスである。そして、焼却灰条件(焼却灰の含水率)を変えながら、ロータリーキルン装置を使用してそれぞれエージング処理工程を60分実行したのちの鉛の溶出量を分析した結果であり、試験は各条件につき2回(N=1とN=2)ずつ行った。
【0024】
【表1】
【0025】
この表1の試験結果から、焼却灰の含水率が10〜20%であれば、鉛の溶出量は0.005mg/L以下となり、環境庁告示46号の0.01mg/L以下の基準値を満たすことが確認できる。特に、含水率0体積%の乾燥焼却灰の場合、そのままエージング処理工程を実行しても、鉛の溶出量が0.013mg/L(N=2参照)であったものが、含水率を10〜20%に調整することで0.005mg/L以下となり、この点からも、エージング処理効果に対する含水率の影響の大きさがうかがえる。
ただし、含水率が30%を超えると、ロータリーキルン装置内の温度が低下して、十分なエージング処理効果を得られないことも判明した。
また、焼却灰の含水率が10〜20%であれば、六価クロムの溶出量はいずれも0.04mg/L以下で、環境庁告示46号の0.05mg/L以下の基準値も満たしていた。
また、他の実験から、焼却灰の含水率を10〜20%に調整してエージングする場合、排ガスの温度は340〜500℃が適切で、340℃未満であると、鉛の溶出量が環境庁告示46号の基準値を上回ることがあり、500℃を超えると、六価クロムの溶出量が環境庁告示46号の基準値を上回る可能性があることも判明した。
以上の結果から、焼却灰の含水率を10〜20%にし、当該焼却灰に対して、メタンを主成分とする炭化水素混合ガスを燃料とするガスエンジンからの排ガスを340〜500℃で接触させてエージング処理工程を実行することによって、焼却灰に含まれる鉛と六価クロムの溶出量を環境庁告示46号に定められた基準値以下に無害化できることが明らかとなった。
【0026】
なお、先の実施形態では、発明の内容を容易にするため、第1から第3までの3基の保管用ホッパー2、3、4を設け、各保管用ホッパー2、3、4にそれぞれ含水率の異なる焼却灰が保管されている例を示した。
しかし、実施に際しては、例えば、保管用ホッパーを1基だけ設け、当該保管用ホッパーからロータリーキルン装置5へ至るまでの焼却灰用の搬送路に乾燥機6とシャワリング装置7を設け、焼却灰の含水率が20%を超える場合、乾燥機6を作動しシャワリング装置7を作動停止して乾燥させ、含水率が10%未満の場合、乾燥機6を作動停止しシャワリング装置7を作動して湿潤させ、また、含水率が10〜20%の場合、そのままロータリーキルン装置5へ搬送するように構成するなど、実際の実施に即した種々の構成を採用することができる。
また、エージング処理工程は、ロータリーキルン装置5以外の各種の装置を使用して実行することも可能であり、その場合、焼却灰と排ガスは必ずしも対向接触させるとは限らない。
【符号の説明】
【0027】
1 廃棄物焼却炉
5 ロータリーキルン装置
6 乾燥機
7 シャワリング装置
8 ガスエンジン
9 温度調整機構
図1