特許第6356403号(P6356403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356403
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】電極体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20180702BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20180702BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20180702BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   H01M4/139
   H01M4/04 Z
   H01M4/66 A
   H01M4/80 C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-217443(P2013-217443)
(22)【出願日】2013年10月18日
(65)【公開番号】特開2015-79706(P2015-79706A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2015年12月14日
【審判番号】不服2017-3686(P2017-3686/J1)
【審判請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】坂口 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 千葉 輝久
【審判官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−63452(JP,A)
【文献】 特開2012−186160(JP,A)
【文献】 特開平10−208733(JP,A)
【文献】 特開2011−96444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質金属の細孔表面に電極活物質層が設けられた電極体の製造方法であって、
電極活物質原料及びフラックスを含む混合物を、多孔質金属の細孔内部に充填し、電極中間体を作製する中間体作製工程と、
前記電極中間体を加熱することによって、前記フラックスを融解させ、且つ、前記電極活物質原料から電極活物質を生成させる加熱工程と、
前記加熱工程で生成した前記電極活物質を前記多孔質金属の細孔表面に析出させる析出工程と、
を備え、
前記電極活物質が、前記多孔質金属の細孔を塞ぐことなく、前記細孔表面に生成され、
前記多孔質金属の平均細孔径が50〜600μmであることを特徴とする電極体の製造方法。
【請求項2】
前記析出工程が、前記電極中間体を冷却する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記析出工程後、前記フラックスを除去する除去工程をさらに備える、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質金属が、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、及び金から選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記フラックスが、LiNO、LiOH・HO、LiCO、LiF、LiCl、LiBr、及びKOHから選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記電極活物質原料が、金属Co、Co(NO・6HO、Co、CoO、Co、LiNO、LiOH・HO、LiCO、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiO、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム二水和物、クエン酸リチウム四水和物、LiBO、及びLiSiOから選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程において前記電極中間体を、200〜950℃で加熱する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界においても、電気自動車やハイブリッド自動車用の高出力且つ高容量の電池の開発が進められている。各種電池の中でも、エネルギー密度と出力が高いことから、リチウム電池が注目されている。そして、電池の性能向上のための電極体に関する研究が進められている(例えば、特許文献1〜6)。
例えば、特許文献1には、活物質自体が多孔質構造を有する電極体が開示されている。具体的には、気孔率が10〜98%であり、孔径が0.05〜100μmであることを特徴とするリチウムと合金化する金属製の多孔質負極を用いたリチウム二次電池が開示されている。特許文献1において、多孔質負極は、電気泳動によりポリスチレン粒子を堆積させたCu基板を、スズ−ニッケル合金鍍金した後、ポリスチレン粒子を溶出することで作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−260886号公報
【特許文献2】特開2005−078991号公報
【特許文献3】特開2007−087758号公報
【特許文献4】特開2012−251210号公報
【特許文献5】特開2011−096444号公報
【特許文献6】特開2010−232171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されているような従来の製造方法で得られた電極体は、内部抵抗が大きいという問題がある。
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、内部抵抗の低い電極体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電極体の製造方法は、多孔質金属の細孔表面に電極活物質層が設けられた電極体の製造方法であって、
電極活物質原料及びフラックスを含む混合物を、多孔質金属の細孔内部に充填し、電極中間体を作製する中間体作製工程と、
前記電極中間体を加熱することによって、前記フラックスを融解させ、且つ、前記電極活物質原料から電極活物質を生成させる加熱工程と、
前記加熱工程で生成した前記電極活物質を前記多孔質金属の細孔表面に析出させる析出工程と、
を備え、
前記電極活物質が、前記多孔質金属の細孔を塞ぐことなく、前記細孔表面に生成され、
前記多孔質金属の平均細孔径が50〜600μmであることを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、電極活物質と多孔質金属の接触面積を増やすことができるため、電極体の内部抵抗を低くすることができる。
【0006】
本発明の電極体の製造方法において、前記析出工程としては、前記電極中間体を冷却する工程が挙げられる。
【0007】
本発明の電極体の製造方法は、前記析出工程後、前記フラックスを除去する除去工程をさらに備えていてもよい。
【0008】
本発明の電極体の製造方法は、前記多孔質金属が、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、及び金から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明の電極体の製造方法は、前記フラックスが、LiNO、LiOH・HO、LiCO、LiF、LiCl、LiBr、及びKOHから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
本発明の電極体の製造方法は、前記電極活物質原料が、金属Co、Co(NO・6HO、Co、CoO、Co、LiNO、LiOH・HO、LiCO、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiO、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム二水和物、クエン酸リチウム四水和物、LiBO、及びLiSiOから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明の電極体の製造方法は、前記加熱工程において前記電極中間体を、200〜950℃で加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極活物質を多孔質金属の細孔表面に被覆することができ、電極活物質と電極集電体として機能する多孔質金属との接触面積を増やすことができるため、電極体の内部抵抗を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の電極体の製造方法の一例を示す模式図である。
図2】実施例1の電極体のXRDスペクトルである。
図3】アルミニウム発泡体(A)と実施例1の電極体(B、C)のSEM画像である。
図4】従来の電極体における内部抵抗増加のメカニズムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電極体の製造方法は、多孔質金属の表面に電極活物質層が設けられた電極体の製造方法であって、
電極活物質原料及びフラックスを含む混合物を、多孔質金属の細孔内部に充填し、電極中間体を作製する中間体作製工程と、
前記電極中間体を加熱することによって、前記フラックスを融解させ、且つ、前記電極活物質原料から電極活物質を生成させる加熱工程と、
前記加熱工程で生成した前記電極活物質を前記多孔質金属の細孔表面に析出させる析出工程と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
上述したように、多孔質構造を有する電極活物質(負極活物質又は正極活物質)を含む、電極活物質層を有する電極体は、内部抵抗が高いという問題を有している。これは、図4に示すように、多孔質構造を有する電極活物質9を用いることで電極活物質9と電極集電体11との接触面積が小さくなり、電極集電体11から電極活物質9への電子供給量が低下するためであると考えられる。また、図4に矢印で示すように、電極集電体11から距離が遠い電極活物質9は電子12の到達時間が長く、到達時間が電気化学反応(例えば、リチウム電池の場合は、Li+e→Li)の律速要因となり、反応抵抗が増加すると考えられる。
【0016】
そこで、本発明者らは鋭意検討したところ、電極活物質原料とフラックスとを含む混合物を多孔質金属の細孔内部に充填し、加熱することによって、該電極活物質原料から電極活物質をその場生成させ、多孔質金属の細孔表面上に電極活物質を析出(結晶析出)させることに成功した。本発明の製造方法において、生成した電極活物質が多孔質金属の細孔表面で析出するのは、溶液中の結晶析出においては、均一核形成よりも不均一核形成の方が発生しやすく、フラックス溶液中と比較して多孔質金属の細孔表面において核形成がより発生しやすいためである。
このようにして得られた電極体は、多孔質構造を有する電極活物質を用いる電極体と比較して、電極集電体として機能する多孔質金属と電極活物質との接触面積が増大するため、電極体における内部抵抗を低下させることが可能である。すなわち、電極集電体と電極活物質との接触面積の増大により、電極集電体から電極活物質への電子供給量が増加し、さらには、電極活物質と電極集電体との距離が短くなるため、電子の到達時間も短縮できる。その結果、電気化学反応がスムーズに行われるからである。
さらに、本発明により提供される電極体は、内部抵抗が低いため、導電材を用いなくても、導電性が確保される。そのため、電極体の電極活物質含有率を高めることができ、電池のエネルギー密度を向上させることも可能である。
【0017】
本発明において、電極体とは、少なくとも、多孔質金属、及び、該多孔質金属の表面に設けられた電極活物質層を含むものであり、電極活物質層は電極活物質を含むものである。また、本発明の電極体は、リチウム電池等の種々の電池において使用可能である。
【0018】
ここで、図1を用いて、本発明の電極体の製造方法について説明する。図1は、本発明の電極体の製造方法の一例を示すものである。
まず、電極活物質原料1、2及び電極活物質原料兼フラックス3を準備する。ここで、電極活物質原料兼フラックスとは、電極活物質の原料であり且つフラックスとして作用するものである。次に、電極活物質原料1、2及び電極活物質原料兼フラックス3を混粉し、混合物を調製する。その後、多孔質金属4の細孔5の内部に混合物を充填し、電極中間体7を得る(中間体作製工程)。
そして、電極中間体7を加熱、保持することで、電極活物質原料1、2及び電極活物質原料兼フラックス3を、融解した電極活物質原料兼フラックス3中で反応させることで電極活物質6を生成させる(加熱工程)。
その後、電極中間体7を冷却することで、多孔質金属4の細孔5表面上に電極活物質6を析出させ、電極体8を得る(析出工程)。得られた電極体8は、温水に浸漬することで、余剰の電極活物質原料兼フラックス3を温水に溶解させ、除去することができる(除去工程)。
なお、図1において電極体8は、多孔質金属4の細孔5の表面を覆うように電極活物質6の層が形成され、多孔質金属4の1つの細孔5の内部に1つの孔が形成されているが、本発明の製造方法により得られる電極体は、図1に示す形態に限定されない。例えば、多孔質金属の細孔の内部に形成される電極活物質の層が多孔質構造を有し、1つの細孔5内に複数の孔が形成された形態も含む。
以下、本発明の電極体の製造方法の各工程について詳しく説明する。
【0019】
(中間体作製工程)
中間体作製工程は、電極活物質原料及びフラックスを含む混合物を、多孔質金属の細孔内部に充填し、電極中間体を作製する工程である。
【0020】
多孔質金属は、電極活物質層の集電を行う電極集電体としての機能を有するものであり、目的とする電池の種類や用途、電極に応じて適宜選択することができる。
多孔質金属としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、金、ニッケル、鉄、チタン、マンガン、コバルト、及び、タングステン等が挙げられる。電子伝導性に加え、フラックス法によるコーティング基材として要求される特性(例えば、耐熱性)の観点から、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、及び金から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
多孔質金属の形状としては、一方の表面から他方の表面へと貫通する貫通孔を有していればよく、複数の細孔の一部が表面に開口するように配置されていることが好ましく、例えば、メッシュ状、発泡体等を挙げることができる。
【0021】
多孔質金属の空隙率は、特に限定されないが、10〜90%が好ましい。10%を下回ると充分な量の電極活物質を担持できない恐れがある。一方、90%を超えると機械的強度が確保できないおそれがある。電気抵抗の観点からは、空隙率は75%以下、特に50%以下であることが好ましい。ここで、空隙率とは、材料の密度から算出される理論体積と実際の体積との比から求められる値である。空隙率は、液浸法、排除気体容積法、圧力比較法等により測定することができる。
多孔質金属の比表面積は、特に限定されないが、0.01〜0.3m/g以下であることが好ましい。
多孔質金属の平均細孔径は、1μm以上であることが好ましく、特に50〜600μmであることが好ましい。1μmを下回ると、混合物が多孔質金属の細孔内部奥深くにまで十分に行き渡らないことで電極活物質被膜の形成が不十分になる恐れがある。ここで、細孔径とは、多孔質金属が有する多孔質構造の金属骨格間に存在する空孔の径のことをいう。細孔径は、水銀圧入法により測定することができる。
【0022】
電極活物質原料は、電極活物質に含まれる構成元素の供給源となるものであり、該構成元素を含む単体又は化合物である。電極活物質原料は、生成させる電極活物質によって適宜選択でき、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。また、電極活物質原料は、電極活物質を1種のみ生成する原料であってもよいし、電極活物質を2種以上生成する原料であってもよい。さらに、電極活物質原料は、後述するフラックスとして作用するものであってもよい。
【0023】
電極活物質は、目的とする電池の種類や用途に応じて、適宜選択することができ、また、正極活物質であっても負極活物質であってもよい。
電極活物質としては、金属イオンを吸蔵、放出することができるものであれば特に限定されない。例えば、典型金属元素と1種又は2種以上の遷移金属元素とを構成元素とする酸化物(以下「典型金属−遷移金属複合酸化物」と称する。)が挙げられる。
典型金属としては、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等が挙げられ、中でもリチウム電池用電極活物質として有効であることからリチウムが好ましい。
遷移金属としては、特に限定されないが、マンガン、コバルト、ニッケル、チタン、鉄、バナジウム、クロム、銅、ニオブ、及び、これらの組み合わせからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
電極活物質の具体例としては、例えば、LiCoO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNiPO、LiMnPO、LiFePO、LiCoPO、LiVOPO、LiVPOF、LiCoPOF、LiNiO、LiMn、LiTi12、LiCoMnO、及びLiNiMn、Li1.1Al0.1Mn1.8、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.8Co0.19Cu0.01、TiO、Nb、MoO等を挙げることができ、中でもLiCoOが好ましい。
目的とする電極活物質が、上記典型金属−遷移金属複合酸化物である場合、電極活物質原料としては、例えば、1種又は2種以上の典型金属原料と1種又は2種以上の遷移金属原料とを組み合わせて用いることができる。また、典型金属原料及び/又は遷移金属原料と、典型金属及び遷移金属を含む原料とを用いることもできる。
典型金属原料としては、従来公知の原料を用いることができ、例えば、典型金属がリチウムの場合、LiNO、LiOH・HO、LiCO、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiO、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム二水和物、クエン酸リチウム四水和物、LiBO、及びLiSiOからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらは、フラックスとしても用いることが可能である。
遷移金属原料としては、従来公知の原料を用いることができ、例えば、金属Co、Co(NO・6HO、CoO、Co、Co、TiO、MnCO、NiCO、FeC・2HO−NHPO、VO、V、Nbからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
これらのうち、電極活物質原料としては、金属Co、Co(NO・6HO、Co、CoO、Co、LiNO、LiOH・HO、LiCO、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiO、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム二水和物、クエン酸リチウム四水和物、LiBO、及びLiSiOから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
電極活物質原料の各成分の配合量は、その場生成させる電極活物質の組成等に応じて適宜調整すればよい。
【0024】
フラックスは、加熱工程において、融剤として作用するものであり、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上用いる場合は、共晶組成となるように調整したものであることが好ましい。また、フラックスは、上述した電極活物質原料として作用するものであってもよい。
フラックスとしては、例えば、LiOH・HO(融点:477℃)、LiNO(融点:255℃)、LiCO(融点:720℃)、NaCO(融点:851℃)、LiCl(融点:610℃)、NaCl(融点:800℃)、KCl(融点:770℃)、LiF(融点:848℃)、LiCO−LiOH(17.8mol%:82.2mol% 融点:418℃)、LiCO−LiNO(0.3mol%:99.7mol% 融点:254.6℃)、LiNO−LiOH(60.8mol%:39.2mol% 融点:186℃)、LiNO−LiSO(98.5mol%:1.5mol% 融点:253.3℃)、LiCl−LiNO(12.3mol%:87.7mol% 融点:244℃)、LiNO−LiF(95mol%:5mol% 融点:251℃)、LiOH−KOH(31.3mol%:68.7mol% 融点:226℃)、LiOH−LiF(80mol%:20mol% 融点:431℃)、LiOH−LiCl(65mol%:35mol% 融点:277℃)、LiOH−LiBr(40mol%:60mol% 融点:243℃)、LiOH−LiSO(73mol%:27mol% 融点:395℃)、LiOH−NaOH(29.5mol%:70.5mol% 融点:215℃)、Na(融点:741℃)、LiSiO−LiBO(30mol%:70mol% 融点:550℃)、LiBO(融点:849℃)、LiBO(融点:715℃)、Li(融点:650℃)、LiSO(融点:860℃)、及び、Li(融点:754℃)等が挙げられる。
また、上記したように、LiO、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム二水和物、クエン酸リチウム四水和物、LiSiOもフラックスとして使用することが可能である。
なお、フラックスとして水和物を用いる場合、後述する加熱工程における加熱によって、水分子が脱離する場合がある。例えば、LiOH・HOは、共晶温度においてHOが脱離する。
【0025】
本発明において混合物とは、電極活物質原料及びフラックスを含むものであり、必要に応じ、上記成分以外にも、電極体を構成する成分が含有されていてもよい。ただし、上記したように、本発明の製造方法により得られる電極体は、電極集電体と電極活物質との接触面積が大きく、電子伝導性に優れるため、導電材(電子伝導助剤)を用いなくても、電極体の電子伝導性を充分に確保することが可能である。
混合物は、多孔質金属の細孔内部に充填させることができれば、粉体、ペースト、溶液のいずれの形態であってもよい。また、電極活物質原料の反応性等の観点から、混合物中における各成分は高分散状態であることが好ましい。
【0026】
混合物中におけるフラックスの濃度は、後述する加熱工程において融解したフラックスが、電極活物質原料の反応溶媒として充分に機能すればよい。尚、電極活物質原料としても作用するフラックスを用いる場合には、目的とする電極活物質の化学量論比を考慮して、フラックス濃度を決定する必要がある。なお、フラックスの濃度の算出の際には、フラックスとして作用する電極活物質原料もフラックスとして取り扱う。
【0027】
混合物の調製方法は特に限定されず、例えば、各成分を任意の方法で混合することができる。例えば、粉末状の電極活物質原料と粉末状のフラックスとを混粉する形態が挙げられる。混粉した粉体は、そのまま混合物として用いることもできるし、或いは、分散媒に分散させてペーストや溶液にして用いることもできる。
混粉方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乳鉢の材質は、特に限定されないが、例えば、磁器製、メノウ製等が挙げられ、不純物の混入を抑制し、高品質の結晶を得る観点からは、メノウ製であることが好ましい。
分散媒は、特に限定されないが、電極活物質原料及びフラックスと反応しないものが好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0028】
混合物における電極活物質原料及びフラックスの組み合わせとしては、例えば、電極活物質がLiCoO(融点:1,100℃)の場合には、(1)電極活物質原料としてCo(NO・6HO(融点:55℃)、フラックスとしてLiNO−LiOH(60.8mol%:39.2mol% 融点:186℃)を用いる組み合わせ、(2)電極活物質原料としてCo(融点:895℃)及びLiOH・HO(融点:477℃)、フラックスとしてLiSiO−LiBO(30mol%:70mol% 融点:550℃)を用いる組み合わせ、(3)電極活物質原料としてCo(融点:895℃)及びLiCO(融点:720℃)、フラックスとしてLi(融点:650℃)を用いる組み合わせ等を採用することができる。中でも、加熱工程における加熱温度を低くすることができることから、上記(1)の組み合わせが好ましい。
なお、上記(1)の組み合わせにおいて、フラックスであるLiNO−LiOH・HOは電極活物質原料(Li源)としても作用するため、混合物中におけるLiNO−LiOHの濃度は、50.0〜99.9mol%であることが好ましく、70.0〜99.9mol%であることが特に好ましい。50.0mol%以下の場合、LiCoOが高純度で生成しない。
また、電極活物質がLiMn(融点:1,100℃)の場合には、(4)電極活物質原料としてMnCO(融点:350℃)及びLiCO(融点:720℃)、フラックスとしてLiBO(融点:715℃)を用いる組み合わせ等を採用できる。
また、電極活物質がLiTi12(融点:1,500℃)の場合には、(5)電極活物質原料としてTiO(融点:1,870℃)及びLiCO(融点:720℃)、フラックスとしてLiBO(融点:715℃)を用いる組み合わせ等を採用できる。
【0029】
混合物の充填方法としては、混合物を多孔質金属の細孔内部に充填することができれば、特に限定されない。例えば、混合物が粉体の場合、静電塗布法、静電吹きつけ法、静電浸漬法、煙霧法、流動浸漬法、スプレー法、プラズマ溶射法等の粉体塗布法、その他一般的な粉体充填機を用いる方法等が挙げられる。一方、混合物がペースト、溶液の場合、多孔質金属の細孔内部にペースト、溶液を含浸させることができる方法であれば特に限定されず、スピーンコート法、バーコーティング法、ドクターブレード法、ダイコーティング法等が挙げられる。必要に応じ、真空引き等により細孔内部へのペーストや溶液の浸透を促進してもよい。
【0030】
(加熱工程)
加熱工程は、中間体作製工程で作製した電極中間体を加熱することによって、フラックスを融解させ、且つ、電極活物質原料から電極活物質を生成させる工程である。加熱工程において、電極活物質原料は、加熱温度下で、融解させたフラックス中に溶解していても、溶解していなくてもよいが、少なくとも一部がフラックス中に溶解していることが好ましく、全量がフラックスに溶解していることが特に好ましい。
加熱工程において、生成した電極活物質は、加熱温度下で、結晶として一部析出してもよいが、後述する析出工程で高品質の結晶を得る観点から、電極活物質の全量が、融解させたフラックス中に溶解することが好ましい。
また、生成した電極活物質が加熱温度下で、結晶として一部析出した場合、融解させたフラックス中に該結晶を溶解させ、後述する析出工程で再結晶化させてもよい。
【0031】
加熱方法は、特に限定されず、抵抗加熱(直接抵抗、間接抵抗)、誘導加熱、アーク加熱、ヒートガン、ホットプレート、プラズマ照射等が挙げられる。
加熱速度は、特に限定されないが、均熱性と再現性の確保の観点から、0.08〜16.6℃/分が好ましい。
加熱温度は、フラックスが融解し、且つ、融解したフラックス中で電極活物質が生成する温度であれば、特に限定されず、通常、多孔質金属の融点未満、且つ、フラックスの融点以上で設定する。高品質の結晶を得る観点から、多孔質金属の融点未満、フラックスの融点以上、且つ、生成した電極活物質がフラックス中にて液体状態で存在する温度であることが特に好ましい。また、加熱温度は、生成した電極活物質が安定に存在できる温度であることが好ましい。上記したような多孔質金属、電極活物質原料及びフラックスを用いる場合、加熱温度は、一般的には、200℃以上、特に500℃以上であることが好ましく、950℃以下、特に多孔質金属がアルミニウムの場合は600℃以下であることが好ましい。例えば、電極活物質がLiCoO等のリチウム含有電極活物質の場合、950℃以上の温度では、電極活物質中のリチウムが揮発してしまう。
電極活物質によっては、加熱温度により、生成する電極活物質の結晶形状を制御することが可能である。
【0032】
加熱温度は、具体的には、例えば、電極活物質原料としてCo(融点:895℃)、フラックスとしてLiNO−LiOH・HO(融点:186℃)を含む混合物を用いて、電極活物質としてLiCoOを生成させる場合であって、多孔質金属としてアルミニウム(発泡アルミニウム等)(融点:660℃)を用いる場合、300℃以上、660℃未満であることが好ましく、特に600℃以下が好ましい。300℃以上では、Coがフラックスに溶解し、析出工程でLiCoOが析出して、板状結晶が育成される。さらに、500℃以上では六角板状のLiCoO結晶が育成される。
また、例えば、電極活物質原料としてCo(NO・6HO(融点:55℃)、フラックスとしてLiNO−LiOH・HO(融点:186℃)を含む混合物を用いて、電極活物質としてLiCoOを生成させる場合であって、多孔質金属としてアルミニウム(発泡アルミニウム等)(融点:660℃)を用いる場合、加熱温度は、200℃以上、600℃以下であることが好ましい。
保持時間は、電極活物質が十分に生成する時間であれば特に限定されず、例えば0〜10時間とすることができる。
【0033】
(析出工程)
析出工程は、加熱工程で生成した電極活物質を多孔質金属の細孔表面に析出させる工程である。
電極活物質を析出させる方法としては、電極中間体を冷却する方法、フラックスを蒸発させる方法等が挙げられる。高品質の結晶を得る観点から、電極中間体の冷却が好ましい。なお、上記したように、加熱工程において、電極活物質の一部が既に析出している場合は、加熱工程において、融解させたフラックス中に電極活物質を溶解させた後、析出工程において、電極中間体を冷却するかフラックスを蒸発させ、電極活物質を再結晶化させてもよい。
電極中間体の冷却は、融解したフラックス中に溶解した電極活物質が、冷却の過程で過飽和状態となり、この過飽和状態を駆動力として、電極活物質を析出、結晶成長させることができる。
冷却方法としては、例えば、放冷、炉内冷却、電気冷却等が挙げられる。
冷却速度は、結晶のサイズの調整等を目的として適宜設定することができ、例えば、1℃/分〜急冷(おおよそ200℃/h以上)とすることが好ましい。
一方、フラックス蒸発法は、電極中間体をフラックスの沸点温度に保持し、フラックスをゆっくり蒸発させることで、フラックス中に溶解した電極活物質を過飽和状態とすることで、電極活物質を析出、結晶成長させることができる。
【0034】
(その他)
本発明の製造方法は、上記工程の他、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。例えば、析出工程で得られた電極体から、多孔質金属細孔表面上の余剰のフラックスを除去する工程が挙げられる。
除去工程において、フラックスを除去する方法としては、フラックス溶解性のある溶媒、例えば水、酸、アルカリ等を用いて電極体を洗浄する方法等が挙げられる。洗浄温度は、フラックスの種類によって、適宜設定することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
[電極体の製造]
(実施例1)
電極活物質原料として、Co(NO・6HO(融点:55℃)、フラックスとして、LiNO−LiOH・HO(融点:186℃)を用いた。なお、フラックス(LiNO−LiOH・HO)は、電極活物質原料としても作用する。また、多孔質金属として、発泡アルミニウム(融点:660℃、空隙率75%、細孔径150μm)を用いた。
まず、LiNOとLiOH・HOを、共晶組成となるように、LiNO:LiOH=60.8mol%:39.2mol%となるように秤量した。また、電極活物質原料(Co(NO・6HO)とフラックス(LiNO−LiOH・HO)を、Co(NO:LiNO−LiOH=5mol%:95mol%となるように秤量し、これら3成分を磁器製乳鉢にて充分に混合した。そして、得られた混合物を、発泡アルミニウム細孔内部に粉体塗布法にて充填し、電極中間体を作製した(中間体作製工程)。
その後、当該電極中間体を、加熱装置(ヤマト科学株式会社製マッフル炉 F0100)を用いて、25℃から500℃まで、大気雰囲気下、15℃/分の加熱速度で加熱し、500℃で3時間保持した(加熱工程)。
そして、3℃/分の冷却速度で25℃まで冷却した(析出工程)。
析出工程後、得られた電極体を、約100℃の温水に浸漬させ、余剰のフラックスを溶解、除去した(除去工程)。
【0037】
[電極体のXRD測定]
実施例1の電極体を粉砕し、粉末X線回折(XRD)測定を行った。測定は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、UltimaIV)により行った。図2の(a)に、結果を示す。また、図2の(b)には、実施例1の電極体作製に用いた発泡アルミニウムを粉砕し、測定したXRDスペクトルを示す。
【0038】
図2において、丸印で示すピークは、電極活物質であるLiCoOに帰属されるピークである。また、図2において、星印で示すピークは、多孔質金属のアルミニウムに帰属されるピークであり、逆三角印で示すピークは、CaCOに帰属されるピークである。なお、CaCOは、磁器製乳鉢を使用した際に磁器製乳鉢に含まれる酸化カルシウムがアルカリ性雰囲気下で溶出し混合物中に混入したために、生成したと推測される。メノウ製の乳鉢を使用することによって、CaCOの混入は回避することが可能である。
図2の(a)及び(b)から分かるように、実施例1の電極体のXRDスペクトルにおいては、多孔質金属のアルミニウムに帰属されるピークと共に、2θ=18°、37°、39°、45°、49°、56°、59°、及び66°にLiCoOに帰属されるピークが観察され、電極活物質であるLiCoOの生成が確認された。また、図2の(a)では、電極活物質原料及びフラックス(Co(NO・6HO、及びLiNO−LiOH・HO)に帰属されるピークは観察されなかった。したがって、実施例1の電極体においては、電極活物質原料が電極活物質(LiCoO)に変換され、フラックスが除去されたことが分かる。
【0039】
[電極体のSEM観察]
実施例1の電極体について、SEM(Scanning Electron Microscopy)観察を行った。
SEM観察条件は以下の通りである。すなわち、走査型電子顕微鏡(ZEISS製、ULTRA55)を用いてSEM観察を行った。結果を図3の(B)、(C)に示す。なお、図3には、電極活物質を生成させる前の発泡アルミニウムのSEM観察の結果も示す(A)。
【0040】
なお、図3の(A)は、電極活物質生成前の発泡アルミニウムを倍率50倍で観察したSEM画像、(B)、(C)は、それぞれ、実施例1の電極体を倍率50倍、10,000倍で観察したSEM画像である。図3の(B)中において、薄い灰色で観察されるのがLiCoOであり、黒い円形として観察されるのが発泡アルミニウムの細孔内の空隙である。
図3の(A)と(B)との対比から、実施例1の電極体においては、発泡アルミニウムの細孔を塞ぐことなく、細孔表面に電極活物質(LiCoO)が生成していることがわかる。また、図3の(C)から、実施例1の電極体においては、生成したLiCoOは自形が発達していることがわかる。これらの結果は、析出工程において、電極活物質の結晶が十分成長したことを示唆する。
【符号の説明】
【0041】
1 電極活物質原料
2 電極活物質原料
3 電極活物質原料兼フラックス
4 多孔質金属
5 細孔
6 電極活物質
7 電極中間体
8 電極体
9 多孔質構造を有する電極活物質
10 細孔
11 電極集電体
12 電子
図1
図2
図3
図4