特許第6356430号(P6356430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356430
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】脂質含有率測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20180702BHJP
【FI】
   G01N23/04
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-30584(P2014-30584)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-155830(P2015-155830A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000147833
【氏名又は名称】株式会社イシダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岩川 健
(72)【発明者】
【氏名】栖原 一浩
(72)【発明者】
【氏名】岩井 厚司
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−198348(JP,A)
【文献】 特開2012−141176(JP,A)
【文献】 再公表特許第2008/096787(JP,A1)
【文献】 特表2004−515747(JP,A)
【文献】 米国特許第02992332(US,A)
【文献】 特開2012−073056(JP,A)
【文献】 特開昭54−101396(JP,A)
【文献】 特開平04−323537(JP,A)
【文献】 特表2002−520593(JP,A)
【文献】 特開平06−066739(JP,A)
【文献】 特開2015−125030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線照射部から検査物にX線を照射し、前記検査物を透過したX線の透過量をX線検出センサで検出し、前記X線検出センサの検出結果に基づいて前記検査物の脂質の含有率を測定する脂質含有率測定装置であって、
前記X線検出センサの検出結果に基づいて測定用X線画像を生成する測定用画像生成部と、
脂質の含有率が既知で、脂質の含有率が各々異なる複数のサンプルにて、脂質の含有率とX線画像の輝度との関係を取得し、その関係に基づき、前記検査物の脂質の含有率の換算情報を生成する換算情報生成部と、
前記測定用X線画像及び前記換算情報を用いて、前記検査物の脂質の含有率の判定を行う判定部と、
を備え、
前記X線検出センサは、2つの異なるエネルギー帯のX線の透過量を検出し、
当該脂質含有率測定装置は、前記X線検出センサが検出する2つの異なるエネルギー帯のX線の透過量の、一方の検出結果に基づいて第1個別X線画像を生成する第1個別画像生成部、および、他方の検出結果に基づいて第2個別X線画像を生成する第2個別画像生成部を更に備え、
前記測定用画像生成部は、前記第1個別X線画像と前記第2個別X線画像とに基づき、前記測定用X線画像を生成する、
脂質含有率測定装置。
【請求項2】
前記換算情報生成部は、前記測定用X線画像の輝度を、前記検査物の脂質の含有率に換算するための関係式を生成する、
請求項1に記載の脂質含有率測定装置。
【請求項3】
前記換算情報生成部は、前記サンプルの脂質の含有率と、前記サンプルの前記測定用X線画像の、前記サンプルの領域の輝度の平均である平均輝度と、に基づき、前記換算情報を生成し、
前記判定部は、前記換算情報を用いて、前記検査物の前記測定用X線画像の、前記検査物の領域の輝度の平均である平均輝度に基づき、前記検査物の脂質の含有率の判定を行う、
請求項1又は2のいずれか1項に記載の脂質含有率測定装置。
【請求項4】
前記測定用画像生成部は、所定の輝度調整処理が行われた前記第1個別X線画像と、前記第2個別X線画像と、の各画素の輝度の差異に基づき、前記測定用X線画像を生成する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の脂質含有率測定装置。
【請求項5】
質の含有率が同一かつ一様で、厚みが異なる厚み補正用サンプルに対して生成された、前記第1個別X線画像および前記第2個別X線画像において、前記第1個別X線画像の各画素の輝度が、前記第2個別X線画像の対応する画素の輝度と一致又は近似するように、前記第1個別X線画像の輝度を調整する輝度調整部を更に備え、
前記測定用画像生成部は、前記輝度調整部で輝度調整した前記第1個別X線画像と、前記第2個別X線画像と、の各画素の輝度の差異に基づき、前記測定用X線画像を生成する、
請求項4に記載の脂質含有率測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査物にX線を照射し、検査物を透過したX線の透過量を検出した結果に基づいて、検査物の脂質の含有率を測定する脂質含有率測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野において、食肉や魚肉等の食品の品質を把握するための指標の一つとして、食品の脂質の含有率を把握することが求められている。
【0003】
従来、食肉や魚肉等の食品の脂質の含有率は、生産者や流通業者等の経験を基に判断される場合が多い。しかし、作業者の経験によらず、定量的に脂質の含有率を把握するために、X線を利用して脂質の含有率が測定される場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2012−141176号公報)では、鉄分を含むタンパク質を主な構成とする成分(例えば、牛肉であれば赤身の部分)と、脂肪を主な構成とする成分(例えば、牛肉であれば脂身の部分)と、からなる肉の脂質の含有率を測定するために、2つの異なるエネルギー帯のX線の透過量を測定するX線検出手段を有する装置が用いられる。特許文献1の装置では、脂質の含有率が既知で、その値が異なる2つのサンプルに対して、各エネルギー帯のX線の透過量が初めに測定され、測定結果を基に、各成分について、その成分による各エネルギー帯のX線の吸収量を、その成分の質量に換算するための係数が算出される。その上で、検査物の各エネルギー帯のX線の透過量が測定され、測定結果を基に各成分の質量が算出され、更に算出された各成分の質量を基に測定の脂質の含有率が算出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1(特開2012−141176号公報)の装置では、サンプルの質量を算出する必要があるため、設定に手間がかかる。
【0006】
本発明の目的は、検査物にX線を照射し、検査物を透過したX線の透過量の検出結果に基づいて、検査物の脂質の含有率を測定する脂質含有率測定装置であって、サンプルの質量を算出することなく、検査物の脂質の含有率を測定可能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る脂質含有率測定装置は、X線照射部から検査物にX線を照射し、検査物を透過したX線の透過量をX線検出センサで検出し、X線検出センサの検出結果に基づいて検査物の脂質の含有率を測定する。脂質含有率測定装置は、測定用画像生成部と、換算情報生成部と、判定部と、第1個別画像生成部と、第2個別画像生成部と、を備える。測定用画像生成部は、X線検出センサの検出結果に基づいて測定用X線画像を生成する。換算情報生成部は、脂質の含有率が既知で、脂質の含有率が各々異なる複数のサンプルにて、脂質の含有率とX線画像の輝度との関係を取得し、その関係に基づき、検査物の脂質の含有率の換算情報を生成する。判定部は、測定用X線画像及び換算情報を用いて、検査物の脂質の含有率の判定を行う。X線検出センサは、2つの異なるエネルギー帯のX線の透過量を検出する。第1個別X線画像生成部は、X線検出センサが検出する2つの異なるエネルギー帯のX線の透過量の一方の検出結果に基づいて第1個別X線画像を生成し、第2個別X線画像生成部は、他方の検出結果に基づいて、第2個別X線画像を生成する。測定用画像生成部は、第1個別X線画像と第2個別X線画像とに基づき、測定用X線画像を生成する。
【0008】
ここでは、脂質の含有率とX線画像の輝度との関係に基づき生成される、検査物の脂質の含有率の換算情報を用いて脂質の含有率が測定され、サンプルの質量情報は不要である。そのため、脂質含有率測定装置の設定を容易に行うことができる。
【0009】
また、ここでは、X線検出センサを、2つの異なるエネルギー帯のX線を検出するものとすることで、検査物の脂質の含有率を、より多くの情報に基づき、より精度よく測定できる。
【0010】
また、本発明に係る脂質含有率測定装置では、換算情報生成部は、測定用X線画像の輝度を検査物の脂質の含有率に換算するための関係式を生成することが好ましい。
【0011】
ここでは、測定用X線画像の輝度と脂質の含有率との関係が数式で表されるため、測定用X線画像の輝度から、脂質の含有率を短時間で判定可能である。
【0012】
また、本発明に係る脂質含有率測定装置では、換算情報生成部は、サンプルの脂質の含有率と、サンプルの測定用X線画像の、サンプルの領域の輝度の平均である平均輝度と、に基づき、換算情報を生成することが好ましい。判定部は、換算情報を用いて、検査物の測定用X線画像の、検査物の領域の輝度の平均である平均輝度に基づき、検査物の脂質の含有率の判定を行うことが好ましい。
【0013】
ここでは、測定用X線画像の輝度の代表値として平均輝度が用いられるため、検査物の一部だけについて脂質の含有率を測定するのではなく、検査物全体としての脂質の含有率を測定できる。そのため、脂質部が分散しているミンチ肉や霜降り肉、脂質部が一部分に集中しているロース肉等、様々な検査物を検査対象とすることができる。
【0014】
また、本発明に係る脂質含有率測定装置では、測定用画像生成部は、所定の輝度調整処理が行われた第1個別X線画像と、第2個別X線画像と、の各画素の輝度の差異に基づき、測定用X線画像を生成することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る脂質含有率測定装置は、輝度調整部を更に備えることが好ましい。輝度調整部は、脂質の含有率が同一かつ一様で、厚みが異なる厚み補正用サンプルに対して生成された、第1個別X線画像および第2個別X線画像において、第1個別X線画像の各画素の輝度が、第2個別X線画像の対応する画素の輝度と一致又は近似するように、第1個別X線画像の輝度を調整することが好ましい。測定用画像生成部は、輝度調整部で輝度調整した第1個別X線画像と、第2個別X線画像と、の各画素の輝度の差異に基づき、測定用X線画像を生成することが好ましい。
【0016】
ここでは、輝度調整された第1個別X線画像と、第2個別X線画像と、を用いて測定用X線画像を生成することで、検査物の厚みの違いがX線の透過量に与える影響を取り除くことができる。そのため、検査物の厚みが一様でない場合でも、各検査物の脂質の含有率を正確に把握することが容易である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る脂質含有率測定装置では、脂質の含有率とX線画像の輝度との関係にもとづき生成される、検査物の脂質の含有率の換算情報を用いて脂質の含有率が測定され、サンプルの質量情報は不要である。そのため、脂質含有率測定装置の設定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る脂質含有率測定装置の外観斜視図である。
図2図1の脂質含有率測定装置を含む脂質含有率測定システムの概略図である。
図3図1の脂質含有率測定装置のシールドボックス内部の簡易構成図である。
図4図1の脂質含有率測定装置が備える2つのラインセンサによって検出される透過X線量を示すグラフの一例である。
図5図1の脂質含有率測定装置のブロック図である。
図6図1の脂質含有率測定装置の輝度調整式の生成処理のフローチャートである。
図7】輝度調整式の生成処理に使用される、低エネルギーX線画像および高エネルギーX線画像の輝度の相対累積度数分布の一例である。
図8図1の脂質含有率測定装置の輝度調整部が使用する輝度調整式のグラフの一例である。
図9図1の脂質含有率測定装置の、換算情報の生成処理のフローチャートである。
図10図1の脂質含有率測定装置の換算情報生成部により生成される換算情報としての関係式のグラフの一例である。
図11図1の脂質含有率測定装置の、脂質の含有率の判定処理のフローチャートである。
図12】変形例Aに係る、低エネルギーX線画像を測定用X線画像として用いる場合の、換算情報の生成処理のフローチャートである。
図13】変形例Aに係る、低エネルギーX線画像を測定用X線画像として用いる場合の、脂質の含有率の判定処理のフローチャートである。
図14】変形例Fに係る、輝度調整式の生成処理に用いられる厚み補正用サンプルの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る脂質含有率測定装置10について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の実施形態の具体例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0020】
(1)全体概要
図1は、本発明の一実施形態に係る脂質含有率測定装置10の外観斜視図である。図2は、脂質含有率測定装置10が組み込まれる脂質含有率測定システムの一実施例としての脂質含有率測定システム100の概略図である。
【0021】
脂質含有率測定システム100では、検査物としての物品Pの脂質の含有率の測定と、測定された脂質の含有率に基づく物品Pの選別と、が行われる。脂質含有率測定装置10は、連続的に搬送されてくる物品Pに対してX線を照射し、物品Pを透過したX線の透過量を検出し、その検出結果に基づいて物品Pの脂質の含有率を測定する。
【0022】
脂質含有率測定装置10の検査物の物品Pは、例えば、牛肉のミンチ肉である。なお、物品Pの脂質の含有率とは、鉄分を含むタンパク質を主成分とする部分(例えば、物品Pが牛肉のミンチ肉であれば赤身の部分)と、脂肪を主成分とする部分(例えば、物品Pが牛肉のミンチ肉であれば脂身の部分)と、からなる物品Pの、全重量に対する脂肪を主成分とする部分の重量の割合を、百分率で表したものである。なお、脂質含有率測定装置10の検査物は、牛肉に限定されるものではなく、豚肉、鶏肉、魚肉等であってもよい。また、脂質含有率測定装置10の検査物の状態は、ミンチ状に限られるものではなく、スライス状、フレーク状、塊状等、様々な状態の物品Pに適用可能である。
【0023】
脂質含有率測定システム100において、物品Pは、前段コンベア60によって脂質含有率測定装置10まで運ばれてくる。脂質含有率測定装置10では、物品Pの脂質の含有率が測定される。脂質含有率測定装置10で得られた物品Pの脂質の含有率の測定結果は、振分機構70へと送信される。また、脂質の含有率が測定された物品Pは、脂質含有率測定装置10の下流側に配置されている振分機構70へと受け渡される。振分機構70は、脂質含有率測定装置10から受信した物品Pの脂質の含有率が、所定範囲内である場合には物品Pを良品としてラインコンベアユニット80へと送り、所定範囲外である場合には物品Pを規格外品として排出方向90,91へと振り分ける。なお、図2では、振分機構70として、アームを駆動することにより物品Pを振り分けるアーム式の振分機構を描画しているが、これに限定されるものではない。振分機構70には、各種の振り分け方式が適用可能である。
【0024】
(2)詳細説明
脂質含有率測定装置10は、主として、シールドボックス11(図1参照)と、コンベアユニット12(図3参照)と、X線照射器13(図3参照)と、第1および第2ラインセンサ14,15(図3参照)と、タッチパネル式ディスプレイ30(図1参照)と、コントローラ20(図5参照)とを備える。
【0025】
(2−1)シールドボックス
シールドボックス11(図1参照)は、脂質含有率測定装置10のケーシングである。シールドボックス11の中には、コンベアユニット12、X線照射器13、第1および第2ラインセンサ14,15、およびコントローラ20が収容される。また、シールドボックス11の正面上部には、タッチパネル式ディスプレイ30や、キーの差し込み口や電源スイッチ等が配置されている。
【0026】
シールドボックス11の側面には、コンベアユニット12の搬送方向に沿って、物品Pを搬出入するための開口11aが2箇所に形成されている(図1参照)。開口11aは、シールドボックス11の内部に物品Pや後述するサンプル(第1および第2サンプル、厚み補正用サンプル)を搬入するため、又は、シールドボックス11の外部に物品Pやサンプルを搬出するために用いられる。開口11aは、シールドボックス11の外部へのX線の漏洩を抑制する遮蔽ノレン19により塞がれている。遮蔽ノレン19は、タングステンを含有するゴム製である。遮蔽ノレン19は、物品Pやサンプルがシールドボックス11の内部に搬入される時、又は、物品Pやサンプルがシールドボックス11の外部に搬出される時に、コンベアユニット12により搬送される物品Pやサンプルによって押しのけられる。
【0027】
(2−2)コンベアユニット
コンベアユニット12は、物品Pを搬送する。コンベアユニット12は、図1に示すように、シールドボックス11の両側面に形成された開口11aを貫通するように配置されている。
【0028】
コンベアユニット12は、主として、インバータ式のコンベアモータ12a(図5参照)と、エンコーダ12b(図5参照)と、コンベアローラ12c(図3参照)と、無端状のベルト12d(図3参照)と、を有する。エンコーダ12bは、コンベアモータ12aに装着されている。コンベアローラ12cは、コンベアモータ12aによって駆動される。コンベアローラ12cが駆動されることで、ベルト12dが回転し、ベルト12d上の物品Pが下流に(振分機構70側に向かって)搬送される。コンベアユニット12による物品Pの搬送速度は、後述するタッチパネル式ディスプレイ30に入力された設定速度に応じて変動する。コントローラ20は、設定速度に基づいてコンベアモータ12aをインバータ制御し、物品Pの搬送速度を細かく制御する。エンコーダ12bは、コンベアユニット12による搬送速度を検出し、検出結果をコントローラ20に送信する。
【0029】
(2−3)X線照射器
X線照射器13は、X線照射部の一例である。X線照射器13は、図3に示すように、コンベアユニット12の上方に配置されている。X線照射器13は、コンベアユニット12の下方に位置する第1および第2ラインセンサ14,15に向けて、線源から扇状に広がるように、X線(放射光)を照射する。X線照射器13の照射範囲Yは、図3に示すように、コンベアユニット12の搬送面に対して垂直に延びる。また、照射範囲Yは、コンベアユニット12の搬送方向に対して交差する方向に広がる。すなわち、X線照射器13から照射されるX線は、ベルト12dの幅方向に広がる。
【0030】
(2−4)第1および第2ラインセンサ
第1および第2ラインセンサ14,15は、X線照射器13から照射され、物品Pやコンベアユニット12を透過したX線を検出するX線検出センサの一例である。第1および第2ラインセンサ14,15は、それぞれ異なるエネルギー帯(波長)のX線を検出するセンサである。第1ラインセンサ14は、低エネルギー帯の(波長の比較的長い)X線を検知するセンサである。第2ラインセンサ15は、高エネルギー帯の(波長の比較的短い)X線を検知するセンサである。
【0031】
第1および第2ラインセンサ14,15は、図3のように、上下に並ぶように配置されている。X線照射器13から照射されるX線のうち、低エネルギー帯のX線は第1ラインセンサ14で検知される。第1ラインセンサ14を突き抜けたX線のうち、中エネルギー帯(上述した高エネルギー帯と低エネルギー帯との中間のエネルギー帯のX線)は、第1ラインセンサ14と第2ラインセンサ15との間に配置された図示されないフィルタにより除去される。フィルタを通過した高エネルギー帯のX線は、第2ラインセンサ15で検知される。
【0032】
第1および第2ラインセンサ14,15は、主として、多数のX線検出素子14a,15aからそれぞれ構成されている(図3参照)。X線検出素子14a,15aは、コンベアユニット12の搬送方向に直交する向きに、水平に、直線上に配置されている。
【0033】
第1および第2ラインセンサ14,15は、それぞれが対象とするエネルギー帯のX線について、物品Pやコンベアユニット12のベルト12dを透過したX線量(透過X線量)を検出し、透過X線量に基づくX線透過信号を出力する。言い換えれば、第1および第2ラインセンサ14,15は、透過したX線の強度に応じたX線透過信号を出力する。透過したX線の強度は、透過X線量の大小に依存する。後述するコントローラ20の低エネルギー画像生成部22aおよび高エネルギー画像生成部22bが生成する画像の明るさ(輝度)は、第1および第2ラインセンサ14,15の出力するX線透過信号に基づいて決定される。
【0034】
図4は、第1および第2ラインセンサ14,15のX線検出素子14a,15aによって検出される透過X線量(検出量)の例を示すグラフである。検出するX線のエネルギー帯の異なる2台のラインセンサ14,15があることで、第1ラインセンサ14の検出結果のグラフ(実線L参照)と、第2ラインセンサ15の検出結果のグラフ(破線H参照)とが得られる(図4参照)。なお、図4のグラフの横軸は、各X線検出素子14a,15aの位置に対応する。つまり、グラフの横軸は、コンベアユニット12の搬送方向に直交する方向の距離に対応する。グラフの縦軸は、X線検出素子14a,15aで検出された透過X線量(検出量)を示す。
【0035】
低エネルギー画像生成部22aおよび高エネルギー画像生成部22bにより生成される透過画像(低エネルギーX線画像および高エネルギーX線画像)では、透過X線量の多いところが明るく表示され、透過X線量が少ないところが暗く表示される。すなわち、低エネルギー画像生成部22aおよび高エネルギー画像生成部22bにより生成される透過画像の明暗(輝度)は、透過X線量に対応する。
【0036】
なお、第1ラインセンサ14は、物品PがX線の照射範囲Y(図3参照)を通過するタイミングを検知するためのセンサとしても機能する。具体的には、コンベアユニット12のベルト12d上で搬送される物品Pが第1ラインセンサ14の上方位置(照射範囲Y)に来たとき、第1ラインセンサ14のX線検出素子14aのいずれかが所定の閾値以下の電圧を示すX線透過信号(第1信号)を出力する。また、物品Pが照射範囲Yを通過し終えると、第1ラインセンサ14の全てのX線検出素子14aは、所定の閾値を上回る電圧を示すX線透過信号(第2信号)を出力する。第1信号および第2信号が後述のコントローラ20に入力されることにより、照射範囲Yにおける物品Pの有無が検出される。
【0037】
(2−5)タッチパネル式ディスプレイ
タッチパネル式ディスプレイ30は、タッチパネル機能を有する液晶ディスプレイである。タッチパネル式ディスプレイ30は、コントローラ20と電気的に接続されており、コントローラ20と信号の授受を行う。
【0038】
タッチパネル式ディスプレイ30は、表示部および入力部として機能する。タッチパネル式ディスプレイ30には、例えば、脂質含有率測定装置10により測定された物品Pの脂質の含有率が表示される。また、タッチパネル式ディスプレイ30には、初期設定時等に、各種設定や各種情報の入力を促す画面が表示される。また、タッチパネル式ディスプレイ30は、オペレータによる各種設定や各種情報の入力を受け付ける。
【0039】
タッチパネル式ディスプレイ30に入力される設定には、コンベアユニット12の搬送速度および搬送方向等の情報を含む。また、タッチパネル式ディスプレイ30に入力される情報には、後述する、換算情報生成部22gによる換算情報の生成時に用いられる、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値を含む。第1および第2サンプルについては,後ほど詳述する。
【0040】
(2−6)コントローラ
コントローラ20は、主として、CPU、ROM、RAM、HDD(ハードディスク)等によって構成されている。
【0041】
コントローラ20は、図5に示すように、記憶部21および制御部22を有する。また、コントローラ20は、図示しない表示制御回路、キー入力回路、通信ポート等を有する。表示制御回路は、タッチパネル式ディスプレイ30のデータ表示を制御する回路である。キー入力回路は、タッチパネル式ディスプレイ30のタッチパネルを介してオペレータにより入力されたキー入力データを取り込む回路である。通信ポートは、プリンタや、振分機構70等の外部機器やLAN等のネットワークとの接続を可能にする。
【0042】
コントローラ20は、図5に示すように、コンベアモータ12a、エンコーダ12b、X線照射器13、第1ラインセンサ14、第2ラインセンサ15、およびタッチパネル式ディスプレイ30に電気的に接続されている。コントローラ20は、エンコーダ12bからコンベアモータ12aの回転数に関するデータを取得し、当該データに基づき、物品Pの移動距離を把握する。また、コントローラ20は、上述したように、第1ラインセンサ14から出力された信号に基づいて、コンベアユニット12のベルト12d上の物品Pが照射範囲Yに来たタイミングを検出する。
【0043】
コントローラ20は、脂質含有率測定装置10の各部の動作を制御する。また、コントローラ20は、第1および第2ラインセンサ14,15のX線透過量の検出結果に基づき、物品Pの脂質の含有率を測定する。
【0044】
(2−6−1)記憶部
記憶部21は、制御部22により実行される各種プログラムや、脂質含有率測定装置10の各部を制御するための各種設定や各種情報を記憶する。記憶部21は、図5のように、輝度調整式記憶領域21aと、換算情報記憶領域21bと、を有する。
【0045】
(2−6−1−1)輝度調整式記憶領域
輝度調整式記憶領域21aには、後述する輝度調整式生成部22cにより生成された輝度調整式が記憶される。輝度調整式は、後述する輝度調整部22dが、高エネルギーX線画像の各画素の輝度を調整するために用いる情報である。輝度調整式については、後ほど詳述する。
【0046】
(2−6−1−2)換算情報記憶領域
換算情報記憶領域21bには、後述する換算情報生成部22gにより生成された換算情報が記憶される。換算情報は、具体的には、差異画像生成部22eが検査物である物品Pに対して生成する差異X線画像の、物品Pの領域の平均輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための関係式である。換算情報については、後ほど詳述する。
【0047】
(2−6−2)制御部
制御部22は、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより、脂質含有率測定装置10の各部の動作を制御する。また、制御部22は、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより、第1および第2ラインセンサ14,15のX線透過量の検出結果に基づき、検査物の脂質の含有率を測定する。
【0048】
制御部22は、脂質の含有率の測定に関連する機能部として、低エネルギー画像生成部22a、高エネルギー画像生成部22b、輝度調整式生成部22c、輝度調整部22d、差異画像生成部22e、平均輝度算出部22f、換算情報生成部22g、および判定部22hを主に有する(図5参照)。
【0049】
(2−6−2−1)低エネルギー画像生成部
低エネルギー画像生成部22aは、第2個別画像生成部の一例である。低エネルギー画像生成部22aは、第1ラインセンサ14によって検出された低エネルギー帯のX線の透過X線量に基づいて、透過画像として低エネルギーX線画像を生成する。低エネルギーX線画像は、第2個別X線画像の一例である。
【0050】
低エネルギー画像生成部22aは、第1ラインセンサ14の各X線検出素子14aから出力される、透過したX線の強度に応じたX線透過信号を細かい時間間隔で取得し、取得したX線透過信号に基づいて低エネルギーX線画像を生成する。特に、低エネルギー画像生成部22aは、X線の照射範囲Y(図3参照)を物品Pが通過する際に各X線検出素子14aから出力されるX線透過信号に基づいて低エネルギーX線画像を生成する。低エネルギー画像生成部22aは、各X線検出素子14aから得られるX線の強度に関する細かい時間間隔毎のデータをマトリクス状に時系列につなぎ合わせて低エネルギーX線画像を生成する。なお、X線の照射範囲Yに物品Pが存在するか否かは、前述のように第1ラインセンサ14が出力する信号により判断される。
【0051】
低エネルギー画像生成部22aにより生成される低エネルギーX線画像では、X線検出素子14aが検出した透過X線量の多いところが明るく(淡く、輝度が大きく)表示され、透過X線量が少ないところが暗く(濃く、輝度が小さく)表示される。低エネルギーX線画像は、例えば256階調の画像である。
【0052】
(2−6−2−2)高エネルギー画像生成部
高エネルギー画像生成部22bは、第1個別画像生成部の一例である。高エネルギー画像生成部22bは、第2ラインセンサ15によって検出された高エネルギー帯のX線の透過X線量に基づいて、透過画像として高エネルギーX線画像を生成する。高エネルギーX線画像は、第1個別X線画像の一例である。
【0053】
高エネルギー画像生成部22bは、第2ラインセンサ15の各X線検出素子15aから出力される、透過したX線の強度に応じたX線透過信号を細かい時間間隔で取得し、取得したX線透過信号に基づいて高エネルギーX線画像を生成する。特に、高エネルギー画像生成部22bは、X線の照射範囲Y(図3参照)を物品Pが通過する際に各X線検出素子15aから出力されるX線透過信号に基づいて高エネルギーX線画像を生成する。高エネルギー画像生成部22bは、各X線検出素子15aから得られるX線の強度に関する細かい時間間隔毎のデータをマトリクス状に時系列につなぎ合わせて高エネルギーX線画像を生成する。なお、X線の照射範囲Yに物品Pが存在するか否かは、前述のように第1ラインセンサ14が出力する信号により判断される。
【0054】
高エネルギー画像生成部22bにより生成される高エネルギーX線画像では、X線検出素子15aが検出した透過X線量の多いところが明るく(淡く、輝度が大きく)表示され、透過X線量が少ないところが暗く(淡く、輝度が大きく)表示される。高エネルギーX線画像は、低エネルギー画像と同じ階調の(ここでは256階調の)画像である。
【0055】
(2−6−2−3)輝度調整式生成部
輝度調整式生成部22cは、後述する輝度調整部22dが、高エネルギー画像生成部22bにより生成された高エネルギーX線画像の輝度、より具体的には高エネルギーX線画像の各画素の輝度を調整するための輝度調整式を生成する。輝度調整式生成部22cにより生成された輝度調整式は、輝度調整式記憶領域21aに記憶される。輝度調整式生成部22cが実行する、輝度調整式の生成処理については後述する。
【0056】
(2−6−2−4)輝度調整部
輝度調整部22dは、輝度調整式生成部22cが生成した輝度調整式を輝度調整式記憶領域21aから呼び出し、高エネルギー画像生成部22bにより生成された高エネルギーX線画像の輝度を調整する。輝度調整部22dが実行する処理については後述する。
【0057】
(2−6−2−5)差異画像生成部
差異画像生成部22eは、測定用画像生成部の一例である。差異画像生成部22eは、第1および第2ラインセンサ14,15の検出結果に基づいて、測定用X線画像としての差異X線画像を生成する。より具体的には、差異画像生成部22eは、低エネルギーX線画像と、輝度調整部22dにより輝度調整された高エネルギーX線画像と、の各画素の輝度の差異に基づき、差異X線画像を生成する。差異X線画像の生成処理については後述する。
【0058】
(2−6−2−6)平均輝度算出部
平均輝度算出部22fは、差異画像生成部22eにより生成された物品Pの差異X線画像の、物品Pの領域(物品Pの周囲の背景領域を除いた領域)の輝度の平均である、平均輝度を算出する。なお、以下で、物品Pの差異画像の平均輝度と記載する場合、物品Pの差異画像の、物品Pの領域の画素の輝度の平均を意味する。また、平均輝度算出部22fは、差異画像生成部22eにより生成された後述する第1又は第2サンプルの差異X線画像の、(第1又は第2)サンプルの領域(サンプルの周囲の背景領域を除いた領域)の輝度の平均を、(第1又は第2)サンプルの平均輝度として算出する。なお、以下で、(第1又は第2)サンプルの差異画像の平均輝度と記載する場合、(第1又は第2)サンプルの差異画像の、(第1又は第2)サンプルの領域の画素の輝度の平均を意味する。平均輝度は、差異X線画像の、対象となる領域の画素の輝度の値の合計を、対象となる領域の画素の数で除すことで算出される。
【0059】
(2−6−2−7)換算情報生成部
換算情報生成部22gは、後述する第1および第2サンプルの脂質の含有率と、第1および第2サンプルについて差異画像生成部22eが生成する差異X線画像の輝度との関係を取得し、取得した関係に基づき、物品Pの脂質の含有率の換算情報を生成する。特に、換算情報生成部22gは、第1および第2サンプルの脂質の含有率と、平均輝度算出部22fにより算出される、第1および第2サンプルの差異X線画像の平均輝度との関係を取得し、取得した関係に基づき、物品Pの脂質の含有率の換算情報を生成する。物品Pの脂質の含有率の換算情報は、物品Pの差異X線画像の輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための情報である。より具体的には、換算情報は、物品Pの差異X線画像の平均輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための関係式である。換算情報生成部22gにより生成された換算情報(関係式)は、換算情報記憶領域21bに記憶される。換算情報の生成処理については後述する。
【0060】
(2−6−2−8)判定部
判定部22hは、換算情報記憶領域21bに記憶された換算情報を用いて、物品Pの脂質の含有率の判定を行う。具体的には、判定部22hは、換算情報記憶領域21bに記憶された換算情報と、物品Pの差異X線画像の輝度と、に基づき、物品Pの脂質の含有率の判定を行う。より具体的には、判定部22hは、物品Pの差異X線画像の平均輝度の値を、換算情報記憶領域21bに記憶された関係式に代入することで、物品Pの脂質の含有率を判定する。脂質の含有率の判定処理については後述する。
【0061】
(3)コントローラが実行する処理
(3−1)輝度調整式の生成処理
コントローラ20による輝度調整式の生成処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0062】
輝度調整式は、コンベアユニット12で搬送される厚み補正用サンプルに対して照射されたX線を、第1および第2ラインセンサ14,15で検出した結果を用いて作成された低エネルギーX線画像および高エネルギーX線画像に基づいて生成される。なお、厚み補正用サンプルは、物品Pと同じ種類の物品のサンプルである。例えば、物品Pが牛肉のミンチ肉であれば、厚み補正用サンプルも物品Pと同じ種類の牛肉のミンチ肉である。厚み補正用サンプルは、複数準備される。複数の厚み補正用サンプルの脂質の含有率は同一である。また、各厚み補正用サンプルの脂質の含有率は、部位によらず一様である。例えば、厚み補正用サンプルの脂質の含有率は50%である。各厚み補正用サンプルは、X線の透過方向の厚みが、他の厚み補正用サンプルと異なる。厚み補正用サンプルとして、例えば、厚みが全て異なる10個のサンプルが準備される。なお、厚み補正用サンプルは、実際の物品Pの取りうる厚みの範囲をカバーするように決定される。特に、厚み補正用サンプルは、実際の物品Pの取りうる厚みの範囲を、偏りなくカバーするように決定されることが好ましい。例えば、物品Pの取りうる厚みの範囲が、Tmm〜(T+9ΔT)mmの範囲であるとすれば、Tmm,(T+ΔT)mm,(T+2ΔT)mm,・・・,(T+9ΔT)mmの10個の厚み補正用サンプルが準備されることが好ましい。
【0063】
オペレータにより、タッチパネル式ディスプレイ30に輝度調整式の生成処理の実行指令が入力されると、以下のようにして輝度調整式の生成処理が行われる。
【0064】
まず、ステップS11では、10個の厚み補正用サンプルが脂質含有率測定装置10に投入される。つまり、10個の厚み補正用サンプルがコンベアユニット12で搬送され、搬送される厚み補正用サンプルにX線照射器13からX線が照射され、第1および第2ラインセンサ14,15でX線が検出される。そして、第1および第2ラインセンサ14,15の検出結果に基づいて、低エネルギー画像生成部22aおよび高エネルギー画像生成部22bにより、10個の厚み補正用サンプルについて、それぞれ、低エネルギーX線画像および高エネルギーX線画像が生成される。
【0065】
次に、ステップS12では、輝度調整式生成部22cが、10個の厚み補正用サンプルについて生成された低エネルギーX線画像の各画素の輝度を用いて、低エネルギーX線画像の輝度分布を示すヒストグラムを生成する。更に、輝度調整式生成部22cは、生成されたヒストグラムに基づいて、低エネルギーX線画像の、輝度の相対累積度数分布を生成する。
【0066】
次に、ステップS13では、輝度調整式生成部22cが、10個の厚み補正用サンプルについて生成された高エネルギーX線画像の各画素の輝度を用いて、高エネルギーX線画像の輝度分布を示すヒストグラムを生成する。更に、輝度調整式生成部22cは、生成されたヒストグラムに基づいて、高エネルギーX線画像の、輝度の相対累積度数分布を生成する。
【0067】
ステップS12およびステップS13で生成された、低エネルギーX線画像の輝度の相対累積度数分布(実線)と、高エネルギーX線画像の輝度の相対累積度数分布(点線)と、を一緒に描画したのが、図7のグラフである。
【0068】
ステップS14では、輝度調整式生成部22cが、低エネルギーX線画像の輝度の相対累積度数分布と、高エネルギーX線画像の輝度の相対累積度数分布と、を比較し、高エネルギーX線画像の各画素の輝度を、低エネルギーX線画像の対応する画素の輝度と一致または近似させる乗数を、高エネルギーX線画像の画素の輝度別に算出する。具体的には、輝度調整式生成部22cは、ある相対累積度数の値Jに対応する高エネルギーX線画像の輝度の値I1(図7参照)を、同一の相対累積度数の値Jに対応する低エネルギーX線画像の輝度の値I2(図7参照)に一致させる乗数(I2/I1)を、高エネルギーX線画像の画素の輝度別に算出する。
【0069】
ステップS15では、輝度調整式生成部22cが、高エネルギーX線画像の輝度別に算出された乗数の値のデータに対し、各種数値解析手法(例えば、最小二乗法)を用いて、高エネルギーX線画像の輝度を変数とする輝度の換算式(乗数の算出式)を、輝度調整式として生成する。例えば、輝度調整式生成部22cは、高エネルギーX線画像の輝度の2次式で表される輝度調整式を生成する。図8は、輝度調整式生成部22cにより生成される輝度調整式のグラフの一例である。輝度調整式生成部22cにより生成された輝度調整式は、輝度調整式記憶領域21aに記憶される。
【0070】
なお、ステップS11で、ある厚み補正用サンプルについて得られた高エネルギーX線画像の各画素の輝度を、ステップS15で得られた輝度調整式を用いて調整すると、同一の厚み補正用サンプルについて得られた低エネルギーX線画像の対応する画素の輝度と一致又は近似する。つまり、輝度調整部22dが、上記のようにして生成された輝度調整式により、ある厚み補正用サンプルの高エネルギーX線画像の各画素の輝度を調整したとすれば、同一の厚み補正用サンプルの低エネルギーX線画像の対応する画素の輝度と一致又は近似する。なお、厚み補正用サンプルについて得られた高エネルギーX線画像の画素と、同一の厚み補正用サンプルについて得られた低エネルギーX線画像の画素と、が対応するとは、その厚み補正用サンプルの同一箇所を透過したX線を第1および第2ラインセンサ14,15のX線検出素子14a,15aが検出した結果に基づいて、両画素の輝度が決定されていることを意味する。
【0071】
(3−2)換算情報の生成処理
コントローラ20による換算情報の生成処理について、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0072】
換算情報は、コンベアユニット12で搬送される第1および第2サンプルに対して照射されたX線を、第1および第2ラインセンサ14,15で検出した結果を用いて作成された差異X線画像と、第1および第2サンプルの既知の脂質の含有率と、に基づいて生成される。第1および第2サンプルは、物品Pと同じ種類の物品のサンプルである。例えば物品Pが牛肉のミンチ肉であれば、第1および第2サンプルも物品Pと同じ種類の牛肉のミンチ肉である。第1および第2サンプルの脂質の含有率は既知である。第1サンプルの脂質の含有率と、第2サンプルの脂質の含有率とは、相違する。なお、第1サンプルの脂質の含有率と、第2サンプルの脂質の含有率とは、その差が比較的大きい方が望ましい。例えば、第1サンプルの脂質の含有率は30%で、第2サンプルの脂質の含有率は70%である。第1サンプルおよび第2サンプルの厚みは同一である必要はない。
【0073】
オペレータにより、タッチパネル式ディスプレイ30に換算情報の生成処理の実行指令が入力されると、以下のようにして換算情報の生成処理が行われる。
【0074】
まず、ステップS21では、第1サンプルが脂質含有率測定装置10に投入される。つまり、第1サンプルがコンベアユニット12で搬送され、搬送される第1サンプルにX線照射器13からX線が照射され、第1および第2ラインセンサ14,15でX線が検出される。そして、第1および第2ラインセンサ14,15の検出結果に基づいて、低エネルギー画像生成部22aおよび高エネルギー画像生成部22bにより、第1サンプルについて、低エネルギーX線画像および高エネルギーX線画像が生成される。
【0075】
次に、ステップS22では、輝度調整部22dが、第1サンプルについて生成された高エネルギーX線画像の各画素の輝度を、輝度調整式記憶領域21aに記憶された輝度調整式を用いて調整する。つまり、輝度調整部22dは、高エネルギーX線画像の各画素の輝度を輝度調整式記憶領域21aに記憶された輝度調整式に代入し、輝度調整式から得られた乗数を、その画素の輝度に乗じる。輝度調整部22dは、高エネルギーX線画像の全ての画素についてこの処理を行うことで、輝度調整された高エネルギーX線画像を生成する。
【0076】
次に、ステップS23では、差異画像生成部22eが、輝度調整部22dにより輝度調整された、第1サンプルの高エネルギーX線画像と、第1サンプルの低エネルギーX線画像の、各画素の輝度の差異に基づき差異X線画像を生成する。差異画像生成部22eは、具体的には、輝度調整部22dにより輝度調整された、第1サンプルの高エネルギーX線画像の各画素の輝度を、第1サンプルの低エネルギーX線画像の対応する画素の輝度で除する処理を行う。なお、第1サンプルの高エネルギーX線画像の画素と、第1サンプルの低エネルギーX線画像の画素と、が対応するとは、第1サンプルの同一箇所を透過したX線を第1および第2ラインセンサ14,15のX線検出素子14a,15aが検出した結果に基づいて、両画素の輝度が決定されていることを意味する。例えば、差異画像生成部22eは、輝度調整された高エネルギーX線画像のある画素の輝度を、低エネルギーX線画像の対応する画素の輝度で除した値が、1より大きいほど、差異X線画像の対応する画素の輝度の値が大きくなるように差異X線画像を生成する。また、差異画像生成部22eは、輝度調整された高エネルギーX線画像のある画素の輝度を対応する低エネルギーX線画像の画素の輝度で除した値が、1より小さいほど、差異X線画像の対応する画素の輝度の値が小さくなるように差異X線画像を生成する。差異X線画像は、例えば256階調の画像である。
【0077】
次に、ステップS24では、平均輝度算出部22fが、低エネルギーX線画像又は高エネルギーX線画像に二値化処理を行うことで、低エネルギーX線画像又は高エネルギーX線画像の中の第1サンプルの領域(第1サンプルを透過したX線の検出結果に基づいて、低エネルギーX線画像又は高エネルギーX線画像が生成された領域)を決定する。そして、平均輝度算出部22fは、差異X線画像から、第1サンプルの領域以外(背景領域)を除去し、第1サンプルの領域の輝度の平均を平均輝度として算出する。
【0078】
具体的には、平均輝度算出部22fは、例えば低エネルギーX線画像に対して、所定の閾値より輝度が低い領域を第1サンプルの領域と決定し、所定の閾値より輝度が高い領域を背景領域と決定する。そして、平均輝度算出部22fは、差異X線画像に対し、決定された背景領域に対応する領域をマスクする処理を行う。さらに、平均輝度算出部22fは、マスクされていない領域(第1サンプルの領域)に含まれる画素の輝度の平均を、第1サンプルの差異X線画像の平均輝度として算出する。
【0079】
なお、ステップS24では、平均輝度算出部22fは、第1サンプルの領域および背景領域を決定する際に、二値化処理に加えて、ノイズ除去処理を実行してもよい。
【0080】
次にステップS25では、コントローラ20が、タッチパネル式ディスプレイ30を介して入力される第1サンプルの脂質の含有率を受け付け、第1サンプルの脂質の含有率として取得する。
【0081】
ステップS26からステップS30については、第2サンプルについて、ステップS21からステップS25と同様の処理が行われる。説明は省略する。
【0082】
ステップS31では、換算情報生成部22gが、物品Pの脂質の含有率の換算情報として、物品Pの差異X線画像の輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための関係式を生成する。より具体的には、換算情報生成部22gは、物品Pの脂質の含有率の換算情報として、物品Pの差異X線画像の平均輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための1次式を定める。
【0083】
ステップS31では、ステップS24で算出された第1サンプルの差異X線画像の平均輝度、ステップS29で算出された第2サンプルの差異X線画像の平均輝度、およびステップS25,S30で取得された第1サンプルおよび第2サンプルの脂質の含有率が用いられる。換算情報生成部22gは、第1および第2サンプルの差異X線画像の平均輝度と、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値との関係に基づき、物品Pの差異X線画像の平均輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための1次式を定める。図10は、物品Pの差異X線画像の平均輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための1次式のグラフ化の例である。生成された換算情報(関連式)は、換算情報記憶領域21bに記憶される。
【0084】
なお、図9の換算情報の生成処理のフローチャートでは、ステップS25およびステップS30で、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値が入力されるが、これに限定されるものではない。例えば、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値は、換算情報の生成処理の開始時に入力されてもよい。また、例えば、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値は、第1および第2サンプルの差異X線画像の平均輝度の算出後に、まとめて入力されてもよい。
【0085】
(3−3)脂質の含有率の判定処理
コントローラ20による物品Pの脂質の含有率の判定処理について、図11のフローチャートを参照して説明する。
【0086】
まず、ステップS41では、物品Pが脂質含有率測定装置10に投入される。つまり、物品Pがコンベアユニット12で搬送され、搬送される物品PにX線照射器13からX線が照射され、第1および第2ラインセンサ14,15でX線が検出される。そして、第1および第2ラインセンサ14,15の検出結果に基づいて、低エネルギー画像生成部22aおよび高エネルギー画像生成部22bにより、物品Pについて、低エネルギーX線画像および高エネルギーX線画像が生成される。
【0087】
次に、ステップS42では、輝度調整部22dが、物品Pについて生成された高エネルギーX線画像の各画素の輝度を、輝度調整式記憶領域21aに記憶された輝度調整式を用いて調整する。つまり、輝度調整部22dは、高エネルギーX線画像の各画素の輝度を輝度調整式記憶領域21aに記憶された輝度調整式に代入し、輝度調整式から得られた乗数を、その画素の輝度に乗じる。輝度調整部22dは、高エネルギーX線画像の全ての画素についてこの処理を行うことで、輝度調整された高エネルギーX線画像を生成する。
【0088】
次に、ステップS43では、差異画像生成部22eが、輝度調整部22dにより輝度調整された、物品Pの高エネルギーX線画像の各画素の輝度と、物品Pの低エネルギーX線画像の、各画素の輝度の差異に基づき差異X線画像を生成する。差異画像生成部22eは、具体的には、輝度調整部22dにより輝度調整された、物品Pの高エネルギーX線画像の各画素の輝度を、物品Pの低エネルギーX線画像の対応する画素の輝度で除する処理を行い、差異X線画像を生成する。物品Pの差異X線画像の生成処理については、上記のサンプル1の差異X線画像の生成処理と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0089】
次に、ステップS44では、平均輝度算出部22fが、例えば低エネルギーX線画像に対して、所定の閾値より輝度が低い領域を物品Pの領域と決定し、所定の閾値より輝度が高い領域を背景領域と決定する。そして、平均輝度算出部22fは、差異X線画像に対し、決定された背景領域に対応する領域をマスクする処理を行う。さらに、平均輝度算出部22fは、マスクされていない領域(物品Pの領域)に含まれる画素の輝度の平均を、物品Pの差異X線画像の平均輝度として算出する。
【0090】
なお、ステップS44でも、換算情報の生成処理のステップS24と同様に、平均輝度算出部22fは、第1サンプルの領域および背景領域を決定する際に、二値化処理に加えて、ノイズ除去処理を実行してもよい。
【0091】
次にステップS45では、判定部22hは、換算情報記憶領域21bに記憶された換算情報を用いて、物品Pの脂質の含有率の判定を行う。具体的には、判定部22hは、ステップS44で算出された物品Pの差異X線画像の平均輝度の値を、換算情報記憶領域21bに換算情報として記憶された1次式に代入することで、物品Pの脂質の含有率を推定する。
【0092】
(4)特徴
(4−1)
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10は、X線照射部の一例としてのX線照射器13から検査物としての物品PにX線を照射し、物品Pを透過したX線の透過量を第1および第2ラインセンサ14,15で検出し、第1および第2ラインセンサ14,15の検出結果に基づいて物品Pの脂質の含有率を測定する。脂質含有率測定装置10は、測定用画像生成部の一例としての差異画像生成部22eと、換算情報生成部22gと、判定部22hと、を備える。差異画像生成部22eは、第1および第2ラインセンサ14,15の検出結果に基づいて、測定用X線画像として差異X線画像を生成する。換算情報生成部22gは、脂質の含有率が既知で、脂質の含有率が各々異なる2つの第1および第2サンプルについて、脂質の含有率とX線画像(差異X線画像)の輝度との関係を取得し、その関係に基づき、物品Pの脂質の含有率の換算情報を生成する。判定部22hは、換算情報を用いて、物品Pの脂質の含有率の判定を行う。判定部22hは、より具体的には、物品Pの差異X線画像の輝度に基づき、換算情報を用いて、物品Pの脂質の含有率の判定を行う。
【0093】
ここでは、脂質の含有率と差異X線画像の輝度との関係にもとづき生成される、物品Pの脂質の含有率の換算情報を用いて脂質の含有率が測定され、第1および第2サンプルの質量情報は不要である。そのため、脂質含有率測定装置10の設定を容易に行うことができる。
【0094】
(4−2)
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、換算情報生成部22gは、換算情報として、差異X線画像の輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための関係式を生成する。
【0095】
ここでは、差異X線画像の輝度と脂質の含有率との関係が数式(特にここでは1次式)で表されるため、差異X線画像の輝度から、脂質の含有率を短時間で判定可能である。また、差異X線画像の輝度と脂質の含有率とを関連付けたテーブルを用いる場合と異なり、差異X線画像の輝度と、脂質の含有率との関係を連続的に得ることができる。
【0096】
ただし、これに限定されるものではなく、換算情報は、差異X線画像の輝度と脂質の含有率とを関連付けたテーブルであってもよい。ただし、上述のように、脂質の含有率の判定時間の短縮化や、差異X線画像の輝度と脂質の含有率との関係を連続的に得ることができるという観点からは、換算情報は関係式であることが好ましい。
【0097】
(4−3)
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、換算情報生成部22gは、(第1および第2)サンプルの脂質の含有率と、(第1および第2)サンプルの差異X線画像の、(第1および第2)サンプルの領域の輝度の平均である平均輝度と、に基づき、換算情報を生成する。判定部22hは、換算情報を用いて、物品Pの差異X線画像の、物品Pの領域の輝度の平均である平均輝度に基づき、物品Pの脂質の含有率の判定を行う。
【0098】
ここでは、差異X線画像の輝度の代表値として平均輝度が用いられるため、物品Pの一部だけについて脂質の含有率を測定するのではなく、物品P全体としての脂質の含有率を測定できる。そのため、脂質部が分散しているミンチ肉や霜降り肉、脂質部が一部分に集中しているロース肉等、様々な検査物を検査対象とすることができる。
【0099】
(4−4)
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、第1および第2ラインセンサ14,15は、2つの異なるエネルギー帯のX線の透過量を検出する。
【0100】
X線検出センサとして、2つの異なるエネルギー帯のX線を検出する第1および第2ラインセンサ14,15を用いることで、物品Pの脂質の含有率を、より多くの情報に基づき、より精度よく測定できる。
【0101】
(4−5)
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10は、第1個別画像生成部の一例としての高エネルギー画像生成部22bと、第2個別画像生成部の一例としての低エネルギー画像生成部22aと、輝度調整部22dと、を備える。第1および第2ラインセンサ14,15が検出する2つの異なるエネルギー帯のX線の透過量の、一方の検出結果(第2ラインセンサ15の検出結果)に基づいて、高エネルギー画像生成部22bは第1個別X線画像として高エネルギーX線画像を生成し、他方の検出結果(第1ラインセンサ14の検出結果)に基づいて、低エネルギー画像生成部22aは第2個別X線画像としての低エネルギーX線画像を生成する。輝度調整部22dは、脂質の含有率が同一かつ一様で、厚みが異なる複数の厚み補正用サンプルに対して生成された、高エネルギーX線画像および低エネルギーX線画像において、高エネルギーX線画像の各画素の輝度が、低エネルギーX線画像の対応する画素の輝度と一致又は近似するように、高エネルギーX線画像の輝度を調整する。差異画像生成部22eは、輝度調整部22dで輝度調整した高エネルギーX線画像と、低エネルギーX線画像と、の各画素の輝度の差異に基づき、差異X線画像を生成する。
【0102】
ここでは、輝度調整された高エネルギーX線画像と、低エネルギーX線画像と、を用いて差異X線画像を生成することで、物品Pの厚みの違いがX線の透過量に与える影響を取り除くことができる。そのため、物品Pの厚みが一様でない場合でも、各物品Pの脂質の含有率を正確に把握することが容易である。
【0103】
(5)変形例
以下に、上記実施形態の変形例を示す。以下の変形例は、互いに矛盾しない範囲で、他の変形例と組み合わされてもよい。
【0104】
(5−1)変形例A
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、差異画像生成部22eにより生成された差異X線画像が測定用X線画像として用いられるが、これに限定されるものではない。例えば、低エネルギー画像生成部22a、又は、高エネルギー画像生成部22bが生成した、低エネルギーX線画像又は高エネルギーX線画像が、測定用X線画像として使用されもよい。特に、物品Pの厚みが一定、又は、物品Pの厚みの差が小さい場合には、低エネルギーX線画像又は高エネルギーX線画像を測定用X線画像として使用して、物品Pの脂質の含有率を精度よく測定することが比較的容易である。
【0105】
低エネルギーX線画像又は高エネルギーX線画像を測定用X線画像として使用する場合に、脂質含有率測定装置10で実行される処理について説明する。ここでは、低エネルギーX線画像を測定用X線画像として使用する場合を例に説明する。高エネルギーX線画像を測定用X線画像として使用する場合も同様である。
【0106】
低エネルギーX線画像を測定用X線画像に用いる場合には、高エネルギー画像生成部22b、輝度調整式生成部22c、輝度調整部22d、および差異画像生成部22eの機能は不要である。また、平均輝度算出部22fは、物品Pの差異X線画像の、物品Pの領域の輝度の平均を算出する代わりに、物品Pの低エネルギーX線画像の、物品Pの領域の輝度の平均を平均輝度として算出する。また、平均輝度算出部22fは、第1又は第2サンプルの差異X線画像の、(第1又は第2)サンプルの領域の輝度を算出する代わりに、第1又は第2サンプルの低エネルギーX線画像の、(第1又は第2)サンプルの領域の輝度の平均を平均輝度として算出する。平均輝度算出部22fの処理は、平均輝度の算出対象の画像が異なる以外は同様である。
【0107】
低エネルギーX線画像を測定用X線画像に用いる場合の、換算情報の生成処理について、図12のフローチャートを用いて説明する。
【0108】
まず、ステップS121では、第1サンプルが脂質含有率測定装置10に投入される。つまり、第1サンプルがコンベアユニット12で搬送され、搬送される第1サンプルにX線照射器13からX線が照射され、第1ラインセンサ14でX線が検出される。そして、第1ラインセンサ14の検出結果に基づいて、低エネルギー画像生成部22aにより、第1サンプルについて、低エネルギーX線画像が生成される。
【0109】
次に、ステップS122では、平均輝度算出部22fが、低エネルギーX線画像に対して、所定の閾値より輝度が低い領域を第1サンプルの領域として決定し、所定の閾値より輝度が高い領域を背景領域として決定する。そして、平均輝度算出部22fは、低エネルギーX線画像の背景領域をマスクする処理を行う。さらに、平均輝度算出部22fは、マスクされていない領域(第1サンプルの領域)に含まれる画素の輝度の平均を、第1サンプルの低エネルギーX線画像の平均輝度として算出する。
【0110】
なお、ステップS122では、平均輝度算出部22fは、第1サンプルの領域および背景領域を決定する際に、二値化処理に加えて、ノイズ除去処理を実行してもよい。
【0111】
次にステップS123では、コントローラ20が、タッチパネル式ディスプレイ30を介して入力される第1サンプルの脂質の含有率を受け付け、第1サンプルの脂質の含有率として取得する。
【0112】
ステップS124からステップS126では、第2サンプルについて、ステップS121からステップS123と同様の処理が行われる。説明は省略する。
【0113】
ステップS127では、換算情報生成部22gは、物品Pの脂質の含有率の換算情報として、物品Pの低エネルギーX線画像の輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための関係式を生成する。より具体的には、換算情報生成部22gは、物品Pの脂質の含有率の換算情報として、物品Pの低エネルギーX線画像の平均輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算するための関係式を定める。
【0114】
ステップS127では、ステップS122で算出された第1サンプルの低エネルギーX線画像の平均輝度(第1サンプルの低エネルギーX線画像の、第1サンプルの領域の画素の輝度の平均)、ステップS125で算出された第2サンプルの低エネルギーX線画像の平均輝度(第2サンプルの低エネルギーX線画像の、第2サンプルの領域の画素の輝度の平均)、およびステップS123,S126で取得された第1サンプルおよび第2サンプルの脂質の含有率が用いられる。換算情報生成部22gは、第1および第2サンプルの低エネルギーX線画像の平均輝度と、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値との関係に基づき、物品Pの低エネルギーX線画像の物品Pの領域の画像の輝度の平均(物品Pの低エネルギーX線画像の平均輝度)を、物品Pの脂質の含有率に換算するための関係式を定める。生成された換算情報は、換算情報記憶領域21bに記憶される。
【0115】
なお、図12の換算情報の生成処理のフローチャートでは、ステップS123およびステップS126で、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値が入力されるが、これに限定されるものではない。例えば、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値は、換算情報の生成処理の開始時に入力されてもよい。また、例えば、第1および第2サンプルの脂質の含有率の値は、第1および第2サンプルの低エネルギーX線画像の平均輝度の算出後に、まとめて入力されてもよい。
【0116】
次に、低エネルギーX線画像を測定用X線画像に用いる場合の、物品Pの脂質の含有率の判定処理について、図13のフローチャートを用いて説明する。
【0117】
まず、ステップS141では、物品Pが脂質含有率測定装置10に投入される。つまり、物品Pがコンベアユニット12で搬送され、搬送される物品PにX線照射器13からX線が照射され、第1ラインセンサ14でX線が検出される。そして、第1ラインセンサ14の検出結果に基づいて、低エネルギー画像生成部22aにより、物品Pについて低エネルギーX線画像が生成される。
【0118】
次に、ステップS142では、平均輝度算出部22fは、低エネルギーX線画像に対して、所定の閾値より輝度が低い領域を物品Pの領域として決定し、所定の閾値より輝度が高い領域を背景領域として決定する。そして、平均輝度算出部22fは、低エネルギーX線画像の背景領域をマスクする処理を行う。さらに、平均輝度算出部22fは、マスクされていない領域(物品Pの領域)に含まれる画素の輝度の平均を、物品Pの低エネルギーX線画像の平均輝度として算出する。
【0119】
なお、ステップS142では、換算情報の生成処理のステップS122と同様に、平均輝度算出部22fは、第1サンプルの領域および背景領域を決定する際に、二値化処理に加えて、ノイズ除去処理を実行してもよい。
【0120】
次にステップS143では、判定部22hは、換算情報記憶領域21bに記憶された換算情報を用いて、物品Pの脂質の含有率の判定を行う。具体的には、判定部22hは、ステップS142で算出された物品Pの低エネルギーX線画像の平均輝度の値を、換算情報記憶領域21bに換算情報として記憶された関係式に代入することで、物品Pの脂質の含有率を推定する。
【0121】
なお、脂質含有率測定装置10は、測定用X線画像として使用する画像を、低エネルギーX線画像、高エネルギーX線画像、差異X線画像の中から選択可能に構成されてもよい。また、脂質含有率測定装置10は、第1ラインセンサ14又は第2ラインセンサ15の一方だけを備え、低エネルギーX線画像又は高エネルギーX線画像のみを測定用X線画像として使用可能に構成されてもよい。
【0122】
(5−2)変形例B
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、輝度調整部22dは、輝度調整式生成部22cが生成した輝度調整式を用いて高エネルギーX線画像の輝度を調整するが、これに限定されるものではない。例えば、脂質含有率測定装置10は、輝度調整式生成部22cに代えて、高エネルギーX線画像の輝度別に、高エネルギーX線画像の輝度を調整するための乗数を導出するマップを生成する輝度調整マップ生成部を備え、輝度調整部22dは、生成された輝度調整マップを用いて高エネルギーX線画像の輝度を調整してもよい。ただし、輝度調整処理の時間の短縮等の観点からは、輝度調整マップよりも、輝度調整式が生成されることが好ましい。
【0123】
(5−3)変形例C
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、輝度調整式生成部22cにより生成された輝度調整式を用いて輝度調整された高エネルギーX線画像と、低エネルギーX線画像とに基づいて差異画像生成部22eが差異X線画像を生成するが、これに限定されるものではない。例えば、輝度調整式生成部22cは、ある厚み補正用サンプルの低エネルギーX線画像の各画素の輝度を、同一の厚み補正用サンプルの高エネルギーX線画像の対応する画素の輝度と一致又は近似する輝度調整式を生成してもよい。そして、差異画像生成部22eは、輝度調整された低エネルギーX線画像と、高エネルギーX線画像とに基づいて、差異X線画像を生成してもよい。
【0124】
(5−4)変形例D
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、換算情報生成部22gは、換算情報として、物品Pの差異X線画像の平均輝度を、物品Pの脂質の含有率に換算する1次式を定める。これは、実験の行われた範囲で、牛肉のミンチ肉等の検査物の差異X線画像の平均輝度と、検査物の脂質の含有率と、が1次式の直線上に並ぶことが分かっているためである。しかし、仮に差異X線画像の平均輝度と脂質の含有率との関係が、1次式以外の関係式で表される検査物が存在する場合には、換算情報として生成される関係式は、1次式に限定されるものではない。
【0125】
(5−5)変形例E
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、換算情報の生成処理に2つのサンプル(第1サンプルおよび第2サンプル)が使用されるが、サンプル数はこれに限定されるものではなく、3つ以上のサンプルを用いて換算情報が生成されてもよい。サンプル数を増やして換算情報を生成することで、換算情報の1次式の精度を高めることが可能である。
【0126】
(5−6)変形例F
上記実施形態に係る脂質含有率測定装置10では、輝度調整式を生成するために、複数の厚み補正用サンプルが用いられるが、これに限定されるものではない。例えば、脂質の含有率が均一(同一かつ一様)で、厚みが部分的に異なる、側面視において図14のような形状を呈する1つの厚み補正用サンプルAにより輝度調整式が生成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の脂質含有率測定装置は、サンプルの質量を算出することなく、検査物を透過したX線の透過量の検出結果に基づいて、検査物の脂質の含有率を測定可能な装置として有用である。
【符号の説明】
【0128】
10 脂質含有率測定装置
13 X線照射器(X線照射部)
14 第1ラインセンサ(X線検出センサ)
15 第2ラインセンサ(X線検出センサ)
22a 低エネルギー画像生成部(測定用画像生成部、第2個別画像生成部)
22b 高エネルギー画像生成部(測定用画像生成部、第1個別画像生成部)
22d 輝度調整部
22e 差異画像生成部(測定用画像生成部)
22g 換算情報生成部
22h 判定部
P 物品(検査物)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0129】
【特許文献1】特開2012−141176号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14