特許第6356442号(P6356442)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝電子管デバイス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000002
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000003
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000004
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000005
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000006
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000007
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000008
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000009
  • 特許6356442-放射線検出器及びその製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356442
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】放射線検出器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   G01T1/20 L
   G01T1/20 E
   G01T1/20 G
   G01T1/20 D
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-48957(P2014-48957)
(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2015-172547(P2015-172547A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(72)【発明者】
【氏名】本間 克久
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001-330676(JP,A)
【文献】 特開2003-262676(JP,A)
【文献】 特開2007-240306(JP,A)
【文献】 特開2012-47487(JP,A)
【文献】 特開2012-52965(JP,A)
【文献】 特開2013-246063(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0001100(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の一方の面側に設けられた光電変換素子と、を有するアレイ基板と、
前記光電変換素子の上に設けられ、柱状結晶の集合体を有し、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層の周縁近傍に設けられ、封止材を含む前記柱状結晶の集合体を有する蛍光防湿層と、
少なくとも前記シンチレータ層の前記放射線が入射する側を覆い、無機材料からなる膜と樹脂からなる膜とが積層された構造を有するもの、アルミニウム、およびアルミニウム合金の少なくともいずれかを含む防湿体と、
前記防湿体の周縁部分と、前記蛍光防湿層との間に設けられ、前記防湿体の周縁部分と、前記蛍光防湿層とを接着封止する封止層と、
を備えた放射線検出器。
【請求項2】
前記封止材は、無機材料からなるフィラー材を含む請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記無機材料は、タルク(MgSi10(OH))を含む請求項2記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記蛍光防湿層の実効幅寸法をW、前記蛍光防湿層の実効厚み寸法をHとした場合に、W/Hが3以上となる請求項1〜3のいずれか1つに記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記防湿体は、前記シンチレータ層の前記放射線が入射する側を覆う表面部と、前記シンチレータ層の前記放射線が入射する側と交差する方向の側を覆う周面部と、を有する請求項1〜のいずれか1つに記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記防湿体と、前記シンチレータ層と、の間に設けられた反射層をさらに備えた請求項1〜のいずれか1つに記載の放射線検出器。
【請求項7】
光電変換素子を有するアレイ基板上に、柱状結晶の集合体を有し、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を形成する工程と、
前記シンチレータ層の周縁領域に封止材を含浸させて蛍光防湿層を形成する工程と、
少なくとも前記シンチレータ層の前記放射線が入射する側に防湿体を接合する工程と、
を備え
前記防湿体は、無機材料からなる膜と樹脂からなる膜とが積層された構造を有するもの、アルミニウム、およびアルミニウム合金の少なくともいずれかを含み、
前記防湿体を接合する工程において、前記防湿体の周縁部分と、前記蛍光防湿層とを接着封止する放射線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器の一例にX線検出器がある。X線検出器においては、X線をシンチレータ層により可視光すなわち蛍光に変換し、この蛍光をアモルファスシリコン(a−Si)フォトダイオード、あるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子を用いて信号電荷に変換することでX線画像を取得している。
また、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために、シンチレータ層の上に反射層をさらに設ける場合もある。
ここで、シンチレータ層と反射層は、水蒸気などに起因する特性の劣化を抑制するために外部雰囲気から隔離する必要がある。特に、シンチレータ層が、CsI(ヨウ化セシウム):Tl(タリウム)やCsI:Na(ナトリウム)などからなる場合には、湿度などによる特性劣化が大きくなるおそれがある。
そのため、ポリパラキシリレンからなる膜でシンチレータ層と反射層を覆ったり、シンチレータ層の周囲を囲う包囲部材と包囲部材上に設けられたカバーとを用いてシンチレータ層を封止する技術が提案されている。
また、さらに高い防湿性能を得られる構造として、シンチレータ層と反射層をハット形状の防湿体で覆い、防湿体のつば(鍔)部を基板と接着する構造が提案されている。
シンチレータ層と反射層をハット形状の防湿体で覆い、防湿体のつば部を基板と接着すれば、前述した他の防湿構造に比べて高い防湿性能を得ることができる。
ここで、ハット形状の防湿体のつば部と基板との封止性を確保し、且つ高い信頼性を得るためには、防湿体のつば部の幅寸法を長くすることが好ましい。
ところが、防湿体のつば部の幅寸法を長くすると、防湿体の周囲に余分なスペースが必要となる。
また、防湿体のつば部から外側にはみ出す接着剤の量を制御することは困難である。この場合、フレキシブルプリント基板などと電気的に接続される配線パッドは、はみ出した接着剤の領域のさらに外側に設ける必要がある。
そのため、防湿体のつば部の幅寸法を長くし、接着剤がはみ出す領域を確保しようとすると、有効画素エリアの周辺に設けることが必要となる領域の寸法が増加し、ひいては放射線検出器の寸法の増加や重量の増加を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6262422号明細書
【特許文献2】特開平05−242847号公報
【特許文献3】特開2009−128023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、省スペース化と防湿性能の向上とを図ることができる放射線検出器及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る放射線検出器は、基板と、前記基板の一方の面側に設けられた光電変換素子と、を有するアレイ基板と、前記光電変換素子の上に設けられ、柱状結晶の集合体を有し、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、前記シンチレータ層の周縁近傍に設けられ、封止材を含む前記柱状結晶の集合体を有する蛍光防湿層と、少なくとも前記シンチレータ層の前記放射線が入射する側を覆い、無機材料からなる膜と樹脂からなる膜とが積層された構造を有するもの、アルミニウム、およびアルミニウム合金の少なくともいずれかを含む防湿体と、前記防湿体の周縁部分と、前記蛍光防湿層との間に設けられ、前記防湿体の周縁部分と、前記蛍光防湿層とを接着封止する封止層と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態に係るX線検出器1を例示するための模式斜視図である。
図2】X線検出器1の模式断面図である。
図3】比較例に係るX線検出器101の模式断面図である。
図4】(a)は感度特性(輝度特性)を例示するためのグラフ図である。(b)は、解像度特性を例示するためのグラフ図である。
図5】高温高湿環境下(60℃−90%RH)における解像度特性の変化を例示するためのグラフ図である。
図6】高温高湿環境下(60℃−90%RH)における解像度特性の変化を例示するためのグラフ図である。
図7】他の実施形態に係るX線検出器1aの模式断面図である。
図8】他の実施形態に係るX線検出器1bの模式断面図である。
図9】他の実施形態に係るX線検出器1cの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
また、本発明の実施形態に係る放射線検出器は、X線のほかにもγ線などの各種放射線に適用させることができる。ここでは、一例として、放射線の中の代表的なものとしてX線に係る場合を例にとり説明をする。したがって、以下の実施形態の「X線」を「他の放射線」に置き換えることにより、他の放射線にも適用させることができる。
【0008】
[第1の実施形態]
まず、第1の実施形態に係るX線検出器1について例示をする。
図1は、第1の実施形態に係るX線検出器1を例示するための模式斜視図である。
なお、煩雑となるのを避けるために、図1においては、反射層6や防湿体7などを省いて描いている。
図2は、X線検出器1の模式断面図である。
なお、煩雑となるのを避けるために、図2においては、制御ライン2c1、データライン2c2、信号処理部3、画像伝送部4などを省いて描いている。
放射線検出器であるX線検出器1は、放射線画像であるX線画像を検出するX線平面センサである。X線検出器1は、例えば、一般医療用途などに用いることができる。
【0009】
図1および図2に示すように、X線検出器1には、アレイ基板2、信号処理部3、画像伝送部4、シンチレータ層5、反射層6、防湿体7、封止層9、および蛍光防湿層8が設けられている。
アレイ基板2は、基板2a、光電変換部2b、制御ライン(又はゲートライン)2c1、データライン(又はシグナルライン)2c2、および保護層2fを有する。
【0010】
基板2aは、板状を呈し、無アルカリガラスなどの透光性材料から形成されている。
光電変換部2bは、基板2aの一方の表面に複数設けられている。
光電変換部2bは、矩形状を呈し、制御ライン2c1とデータライン2c2とで画された領域に設けられている。複数の光電変換部2bは、マトリクス状に並べられている。
なお、1つの光電変換部2bは、1つの画素(pixel)に対応する。
【0011】
複数の光電変換部2bのそれぞれには、光電変換素子2b1と、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)2b2が設けられている。
また、光電変換素子2b1において変換した信号電荷を蓄積する図示しない蓄積キャパシタを設けることができる。図示しない蓄積キャパシタは、例えば、矩形平板状を呈し、各薄膜トランジスタ2b2の下に設けることができる。ただし、光電変換素子2b1の容量によっては、光電変換素子2b1が図示しない蓄積キャパシタを兼ねることができる。
【0012】
光電変換素子2b1は、例えば、フォトダイオードなどとすることができる。
薄膜トランジスタ2b2は、蛍光が光電変換素子2b1に入射することで生じた電荷の蓄積および放出のスイッチングを行う。薄膜トランジスタ2b2は、アモルファスシリコン(a−Si)やポリシリコン(P−Si)などの半導体材料を含むものとすることができる。薄膜トランジスタ2b2は、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を有している。薄膜トランジスタ2b2のゲート電極は、対応する制御ライン2c1と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のソース電極は、対応するデータライン2c2と電気的に接続される。薄膜トランジスタ2b2のドレイン電極は、対応する光電変換素子2b1と図示しない蓄積キャパシタとに電気的に接続される。
【0013】
制御ライン2c1は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。制御ライン2c1は、第1の方向(例えば、行方向)に延びている。
複数の制御ライン2c1は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d1とそれぞれ電気的に接続されている。複数の配線パッド2d1には、フレキシブルプリント基板2e1に設けられた複数の配線の一端がそれぞれ電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2e1に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた図示しない制御回路とそれぞれ電気的に接続されている。
【0014】
データライン2c2は、所定の間隔を開けて互いに平行に複数設けられている。データライン2c2は、第1の方向に直交する第2の方向(例えば、列方向)に延びている。
複数のデータライン2c2は、基板2aの周縁近傍に設けられた複数の配線パッド2d2とそれぞれ電気的に接続されている。複数の配線パッド2d2には、フレキシブルプリント基板2e2に設けられた複数の配線の一端がそれぞれ電気的に接続されている。フレキシブルプリント基板2e2に設けられた複数の配線の他端は、信号処理部3に設けられた図示しない増幅・変換回路とそれぞれ電気的に接続されている。
保護層2fは、光電変換部2b、制御ライン2c1、およびデータライン2c2を覆うように設けられている。
保護層2fは、窒化ケイ素(SiN)やアクリル系樹脂などの絶縁性材料から形成することができる。
【0015】
信号処理部3は、基板2aの光電変換部2bが設けられる側とは反対側に設けられている。
信号処理部3には、図示しない制御回路と、図示しない増幅・変換回路とが設けられている。
図示しない制御回路は、各薄膜トランジスタ2b2の動作、すなわちオン状態およびオフ状態を制御する。例えば、図示しない制御回路は、フレキシブルプリント基板2e1と配線パッド2d1と制御ライン2c1とを介して、制御信号S1を各制御ライン2c1毎に順次印加する。制御ライン2c1に印加された制御信号S1により薄膜トランジスタ2b2がオン状態となり、光電変換部2bからの画像データ信号S2が受信できるようになる。
【0016】
図示しない増幅・変換回路は、例えば、複数の電荷増幅器、並列/直列変換器、およびアナログ−デジタル変換器を有している。
複数の電荷増幅器は、各データライン2c2にそれぞれ電気的に接続されている。
複数の並列/直列変換器は、複数の電荷増幅器にそれぞれ電気的に接続されている。
複数のアナログ−デジタル変換器は、複数の並列/直列変換器にそれぞれ電気的に接続されている。
図示しない複数の電荷増幅器は、データライン2c2と配線パッド2d2とフレキシブルプリント基板2e2とを介して、各光電変換部2bからの画像データ信号S2を順次受信する。
そして、図示しない複数の電荷増幅器は、受信した画像データ信号S2を順次増幅する。
図示しない複数の並列/直列変換器は、増幅された画像データ信号S2を順次直列信号に変換する。
図示しない複数のアナログ−デジタル変換器は、直列信号に変換された画像データ信号S2をデジタル信号に順次変換する。
【0017】
画像伝送部4は、配線4aを介して、信号処理部3の図示しない増幅・変換回路と電気的に接続されている。なお、画像伝送部4は、信号処理部3と一体化されていてもよい。 画像伝送部4は、図示しない複数のアナログ−デジタル変換器によりデジタル信号に変換された画像データ信号S2に基づいて、X線画像を構成する。構成されたX線画像のデータは、画像伝送部4から外部の機器に向けて出力される。
【0018】
シンチレータ層5は、光電変換素子2b1が設けられる領域の上に設けられ、入射するX線を可視光すなわち蛍光に変換する。
シンチレータ層5は、例えば、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などを用いて形成することができる。
シンチレータ層5は、柱状結晶の集合体となっている。
柱状結晶の集合体からなるシンチレータ層5は、例えば、真空蒸着法などを用いて形成することができる。
シンチレータ層5の厚み寸法は、600μm程度とすることができる。柱状結晶の柱(ピラー)の太さ寸法は、最表面で8μm〜12μm程度とすることができる。
【0019】
反射層6は、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために設けられている。すなわち、反射層6は、シンチレータ層5において生じた蛍光のうち、光電変換部2bが設けられた側とは反対側に向かう光を反射させて、光電変換部2bに向かうようにする。
反射層6は、シンチレータ層5のX線の入射面上に設けられている。
反射層6は、例えば、酸化チタン(TiO)などの光散乱性粒子を含む樹脂をシンチレータ層5上に塗布することで形成することができる。また、反射層6は、例えば、銀合金やアルミニウムなどの光反射率の高い金属からなる層をシンチレータ層5上に成膜することで形成することもできる。
また、反射層6は、例えば、表面が銀合金やアルミニウムなどの光反射率の高い金属からなる板を用いて形成することもできる。
【0020】
なお、図2に例示をした反射層6は、酸化チタンからなるサブミクロン粉体と、バインダ樹脂と、溶媒を混合して作成した材料をシンチレータ層5のX線の入射面に塗布し、これを乾燥させることで形成したものである。
この場合、反射層6の厚み寸法は、120μm程度とすることができる。
なお、反射層6は、必ずしも必要ではなく、必要に応じて設けるようにすればよい。
【0021】
防湿体7は、空気中に含まれる水蒸気により、反射層6の特性やシンチレータ層5の特性が劣化するのを抑制するために設けられている。
防湿体7は、反射層6を覆うように設けられている。なお、反射層6が設けられていない場合には、防湿体7は、シンチレータ層5のX線の入射面を覆うように設けられている。
防湿体7は、膜状または箔状または薄板状を呈している。
防湿体7は、透湿係数の小さい材料から形成することができる。防湿体7はアルミニウム、又はアルミニウム合金の資材や薄板などで形成することができる。
【0022】
ここで、防湿体7と蛍光防湿層8は、封止層9により接着されている。
基板2aの材料となる無アルカリガラスの熱膨張係数は、室温付近で約4ppm/deg程度である。
防湿体7の材料となるアルミニウムの熱膨張係数は、室温付近で約24ppm/deg程度である。
そのため、熱膨張差により熱応力が発生し、発生した熱応力が、主に、封止層9と蛍光防湿層8に加わる。
この場合、熱応力の大きさFは、温度差(ΔT)と、熱膨張係数の差(Δα)と、封止層9の対辺又は対角間の距離(L)と、防湿体7の対辺又は対角間の実効断面積(S)と、防湿体7のヤング率などの剛性係数(E)を用いて以下の近似式で表すことができる。
【0023】
F≒E・S・(L・Δα・ΔT/L)=E・S・Δα・ΔT
上記の近似式から分かるように、環境温度の変化に対する信頼性を高めるためには、熱膨張係数の差(Δα)を小さくしたり、防湿体7のヤング率などの剛性係数(E)を小さくしたりすればよい。
【0024】
防湿体7の材料として例示をしたアルミニウムの箔材は、水蒸気バリア性能が高く、X線透過への影響も小さい。
この場合、熱膨張係数の差による熱応力の影響を小さくすることを考慮すると、防湿体7の材料は、水蒸気バリア性能が高く、且つ、ヤング率などの剛性係数(E)の小さいものとすることもできる。
例えば、防湿体7は、水蒸気バリアフィルムなどから形成することもできる。
水蒸気バリアフィルムは、例えば、無機材料からなる膜と、樹脂からなる膜とが積層された構造を有するものとすることができる。
無機材料からなる膜は、例えば、酸化アルミニウム(Al)膜、酸化シリコン(SiO)膜、アルミニウム蒸着膜などとすることができる。
【0025】
水蒸気バリアフィルムから形成された防湿体7とする場合には、封止層9が設けられる領域にプライマ処理や表面改質処理などを施すことができる。
また、温度差と、熱膨張係数の差に起因する熱応力を低減させるために、防湿体7にエンボス加工などを施すこともできる。防湿体7にエンボス加工が施されていれば、熱応力を低減させることができる。
【0026】
以上に説明したように、防湿体7は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、あるいは、樹脂膜と、無機材料(アルミニウムなどの軽金属、SiO、SiON、Alなどのセラミック系材料)からなる膜とが積層された低透湿防湿材料(水蒸気バリアフィルム)などから形成することができる。
この場合、実効的な透湿係数がほとんどゼロであるアルミニウムやアルミニウム合金などを用いて防湿体7を形成すれば、防湿体7を透過する水蒸気をほぼ完全になくすことができる。
【0027】
また、防湿体7の厚み寸法は、X線の吸収や剛性などを考慮して決定することができる。この場合、防湿体7の厚み寸法を大きくしすぎるとX線の吸収が大きくなりすぎる。防湿体7の厚み寸法を小さくしすぎると剛性が低下して破損しやすくなる。
防湿体7は、例えば、厚み寸法が0.1mmのアルミニウム箔を用いて形成することができる。
【0028】
封止層9は、防湿体7の周縁部分と、蛍光防湿層8との間に設けられている。
封止層9は、防湿体7の周縁部分と、蛍光防湿層8とを接着封止することで、防湿体7の周縁部分と、蛍光防湿層8との間から水蒸気などが侵入するのを抑制する。
封止層9は、例えば、無機材料からなるフィラー材を含むエポキシ系接着剤を硬化させることで形成することができる。
この場合、フィラー材は、例えば、タルク(滑石:MgSi10(OH))などから形成されたものとすることができる。
タルクなどからなるフィラー材の添加量は、50重量%以上とすることができる。
なお、封止層9に含まれるフィラー材は、後述する蛍光防湿層8に含まれるフィラー材と同じとすることができる。
【0029】
3は、比較例に係るX線検出器101の模式断面図である。
図3に示すように、X線検出器101には、ハット形状を有した防湿体107が設けられている。
防湿体107は、表面部107a、周面部107b、および、つば部107cを有する。
表面部107aおよび周面部107bにより形成された空間の内部には、シンチレータ層5と反射層6が設けられる。
【0030】
つば部107cは、周面部107bの表面部107a側とは反対側の端部を囲むように設けられている。つば部107cは、環状を呈し、基板2aの光電変換部2bが設けられる側の面と概ね平行となるように設けられている。
つば部107cは、接着層109を介して、基板2aの光電変換部2bが設けられる側の面と接着されている。
【0031】
ハット形状を有する防湿体107とすれば、高い防湿性能を得ることができる。
しかしながら、ハット形状を有する防湿体107とすれば、つば部107cを接着するためのスペースが必要となる。
また、接着層109の厚み寸法を小さくすれば、接着層109を介した水蒸気の侵入を抑制することができる。
ところが、接着層109の厚み寸法を小さくするために、つば部107cを基板2aに接着する際の加圧力を大きくすれば、つば部107cから外側にはみ出す接着剤109aの量が多くなる。
そのため、有効画素エリアの周辺に設けることが必要となる領域がさらに広くなるおそれがある。
【0032】
例えば、適正な接着層109の幅寸法を確保し、且つ、つば部107cから外側にはみ出す接着剤109aの量を考慮すると、有効画素の端部から配線パッド2d1(2d2)の内側の端部(または、有効画素の端部からアレイ基板2の切断位置)までの距離は、12mm程度となる。
【0033】
そこで、本実施の形態に係るX線検出器1においては、蛍光防湿層8を設けることで、省スペース化と防湿性能の向上を図るようにしている。
蛍光防湿層8は、入射するX線を蛍光に変換する機能と、外部から水蒸気などが侵入するのを抑制する機能を有する。
蛍光防湿層8は、保護層2fの上に設けられ、シンチレータ層5の周囲を囲んでいる。
蛍光防湿層8は、シンチレータ層5と同じ柱状結晶の集合体を有している。
そして、柱状結晶の集合体の隙間部分には、封止材が含浸されている。
【0034】
この場合、柱状結晶の集合体が入射するX線を蛍光に変換する機能を有する。また、柱状結晶の集合体の隙間部分に含浸させた封止材が外部から水蒸気などが侵入するのを抑制する機能を有する。
柱状結晶の集合体の材料、蛍光防湿層8の厚み寸法、柱状結晶の柱の太さ寸法などは、シンチレータ層5と同様とすることができる。
後述するように、蛍光防湿層8は、シンチレータ層5の周縁領域に封止材を含浸させることで形成することができる。
【0035】
柱状結晶の集合体の隙間部分に含浸させる封止材は、例えば、無機材料からなるフィラー材を含むエポキシ系樹脂などとすることができる。
この場合、樹脂に添加する無機材料は、樹脂との親和性や安定性を考慮して選定することができる。
また、無機材料は、柱状結晶の集合体との親和性や、柱状結晶の集合体の材料と反応を生じない(柱状結晶の集合体の変質が生じない)ことなどを考慮して選定することができる。
無機材料は、例えば、タルク(滑石:MgSi10(OH))などとすることができる。
【0036】
一般的に、樹脂は、水蒸気を比較的透過させやすい。これは高分子材料の本質であり、分子鎖間の隙間の大きさが水分子(HO)の大きさに対して大きいからである。
これに対して、樹脂中に、例えば、タルクなどの無機材料からなるフィラー材を所定の量添加すれば、透湿係数を顕著に小さくすることが可能となる。一般的に、タルクなどの無機材料は、原子間の隙間が水分子の大きさに対して小さいからである。
【0037】
例えば、タルクなどからなるフィラー材を含むエポキシ系樹脂の高温高湿環境下(60℃−90%RH)における透湿係数は、1.5〜2.0g・mm/(m・day)となる。すなわち、タルクなどからなるフィラー材を含むエポキシ系樹脂の透湿係数は、タルクなどからなるフィラー材を含まないエポキシ系樹脂の透湿係数に比べて、1〜2桁程度低くなる。
この場合、タルクなどからなるフィラー材の添加量は、50重量%以上とすることが好ましい。
【0038】
図4(a)は、感度特性(輝度特性)を例示するためのグラフ図である。
図4(a)中のA部に示すように、封止材を含む蛍光防湿層8を設けることで、アレイ基板2の周縁部分における感度が若干低下する。
この場合、アレイ基板2の周縁部分における感度の低下は、例えば、画像伝送部4などにより補正することができる。
図4(b)は、解像度特性を例示するためのグラフ図である。
図4(b)中のB部に示すように、封止材を含む蛍光防湿層8を設けることで、アレイ基板2の周縁部分における解像度が若干低下する。
この場合、一般的には、アレイ基板2の周縁部分においては、精細な画像を得ることは必要とされない。
そのため、アレイ基板2の周縁部分における解像度が若干低下しても実用上問題になることはない。
以上に説明したように、封止材を含む蛍光防湿層8を設けるようにしてもX線検出器1の機能が著しく低下することはない。
【0039】
図5は、高温高湿環境下(60℃−90%RH)における解像度特性の変化を例示するためのグラフ図である。
図5中のC1は、蛍光防湿層8が設けられていない場合(シンチレータ層5と防湿体7のみが設けられている場合)である。
C2は、エポキシ系樹脂を含浸した蛍光防湿層8を設けた場合である。
C3は、タルクからなるフィラー材を含むエポキシ系樹脂を含浸した蛍光防湿層8を設けた場合である。この場合、タルクからなるフィラー材の添加量は、85重量%とした。
そして、シンチレータ層5と反射層6とによって得られる解像度特性が、高温高湿環境下(60℃−90%RH)における保管時間の経過とともにどのように劣化するかで防湿性能を評価した。
なお、輝度よりも、湿度に対してより敏感な解像度特性により防湿性能を評価することにした。
解像度特性は、解像度チャートを各サンプルの表面側に配し、RQA−5相当のX線を照射して、裏面側から2Lp/mmのCTF(Contrast transfer function)を測定する方法で求めた。
【0040】
図5から分かるように、蛍光防湿層8を設けるようにすれば、解像度特性の劣化を格段に小さくすることができる。
また、タルクからなるフィラー材を含むエポキシ系樹脂を含浸した蛍光防湿層8を設けるようにすれば、解像度特性の劣化をさらに小さくすることができる。
なお、解像度特性の劣化の抑制は、前述した無機材料特有の水蒸気バリア効果によるものである。
すなわち、タルク以外の無機材料を用いるようにしても解像度特性の劣化を抑制することができる。
【0041】
ここで、全体の透湿率Q(Total)は、以下の(1)式で表すことができる。
Q(Total)=Q7+Q8+Q9 ・・・(1)
Q7は、防湿体7の透湿率である。
Q8は、蛍光防湿層8の透湿率である。
Q9は、封止層9の透湿率である。
前述したように、防湿体7はアルミニウムなどから形成されるため、Q7はゼロと見なすことができる。
【0042】
また、Q8は、以下の(2)式で表すことができる。
Q8=P8・S8/W8=P8・L8・H8/W8 ・・・(2)
P8は、蛍光防湿層8の透湿係数である。
S8は、蛍光防湿層8の透湿断面積である。
W8は、蛍光防湿層8の実効幅寸法である。
L8は、蛍光防湿層8の周長である。
H8は、蛍光防湿層8の実効厚み寸法である。
ここで、蛍光防湿層8には、はみ出し部分や部分的な空域が生じる場合がある。はみ出し部分や部分的な空域は、防湿に対する効果が期待できないので、蛍光防湿層8のディメンジョンには含めない様にしている。そのため、はみ出し部分や部分的な空域を含まない蛍光防湿層8の幅寸法と厚み寸法を実効幅寸法と実効厚み寸法としている。
【0043】
また、Q9は、以下の(3)式で表すことができる。
Q9=P9・S9/W9=P9・L9・T9/W9 ・・・(3)
P9は、封止層9の透湿係数である。
S9は、封止層9の透湿断面積である。
W9は、封止層9の実効幅寸法である。
L9は、封止層9の周長である。
T9は、封止層9の実効厚み寸法である。
ここで、封止層9には、はみ出し部分や部分的な空域が生じる場合がある。はみ出し部分や部分的な空域は、防湿に対する効果が期待できないので、封止層9のディメンジョンには含めない様にしている。そのため、はみ出し部分や部分的な空域を含まない封止層9の幅寸法と厚み寸法を実効幅寸法と実効厚み寸法としている。
【0044】
蛍光防湿層8に含まれる封止材の透湿係数と、封止層9の透湿係数は同程度である。
そのため、P8とP9は、同程度の値となる。
そのため、(2)式から分かるように、Q8の大小は「L8・H8/W8」により決まる。
また、(3)式から分かるように、Q9の大小は「L9・T9/W9」により決まる。
この場合、T9は0.1mm程度、W9は2mm〜3mm程度であるので、T9/W9は0.05〜0.033となる。
一方、H8は0.6mm程度、W8は3mm程度であるので、H8/W8は0.2となる。
そのため、Q8はQ9よりも格段に大きくなる。
すなわち、Q(Total)はQ8によりほぼ律速される。
【0045】
また、前述したようにQ8の値は、「L8・H8/W8」により支配されるので、L8・H8/W8が小さいほど(W8/H8が大きいほど)水蒸気による特性劣化が生じにくくなる。
【0046】
図6も、高温高湿環境下(60℃−90%RH)における解像度特性の変化を例示するためのグラフ図である。
図6中のD1は、W8/H8が0.81の場合である。
D2は、W8/H8が1.59の場合である。
D3は、W8/H8が3の場合である。
D4は、W8/H8が5の場合である。
D5は、W8/H8が8.2の場合である。
なお、図2に示すように、W8は蛍光防湿層8の実効幅寸法、H8は蛍光防湿層8の実効厚み寸法である。この場合、H8は600μm程度とした。
蛍光防湿層8は、タルクからなるフィラー材を含むエポキシ系樹脂を含浸したものとした。この場合、タルクからなるフィラー材の添加量は、85重量%とした。
図6から分かるように、W8/H8が3以上となれば、解像度特性の劣化を格段に小さくすることができる。
【0047】
以上に説明したように、蛍光防湿層8を設けるようにすれば、防湿性能の向上を図ることができる。
また、図3に示したようなハット形状を有する防湿体107を設ける必要がないので、省スペース化を図ることができる。
例えば、図3に例示をしたものに比べて、有効画素エリアの周辺に設けることが必要となる領域の寸法を1/3程度に低減できる。
【0048】
図7は、他の実施形態に係るX線検出器1aの模式断面図である。
図7に示すように、X線検出器1aにも、蛍光防湿層8が設けられている。
図2に例示をしたX線検出器1の場合には、蛍光防湿層8は、シンチレータ層5の周囲を囲むように設けられている。すなわち、蛍光防湿層8は、シンチレータ層5の周縁より外側に設けられている。
これに対して、図7に例示をしたX線検出器1aの場合には、蛍光防湿層8は、シンチレータ層5の周縁より内側に設けられている。
すなわち、蛍光防湿層8は、シンチレータ層5の周縁近傍に設けられていればよい。
蛍光防湿層8は、シンチレータ層5の周縁領域に封止材を含浸させることで形成することができる。
そのため、シンチレータ層5の周縁より内側に蛍光防湿層8を設けるようにすれば、蛍光防湿層8を形成する際に、封止材が有効画素エリアの周辺にはみ出すことを抑制することができる。
【0049】
図8は、他の実施形態に係るX線検出器1bの模式断面図である。
図9は、他の実施形態に係るX線検出器1cの模式断面図である。
図8および図9に示すように、X線検出器1b、1cには、防湿体17が設けられている。
図8に示すように、X線検出器1bには反射層6が設けられていない。
図9に示すように、X線検出器1cには反射層6が設けられている。
防湿体17は、キャップ形状を呈し、表面部17aと周面部17bを有する。
表面部17aは、シンチレータ層5のX線が入射する側を覆う。
周面部17bは、シンチレータ層5のX線が入射する側と交差する方向の側(側面側)を覆う。
防湿体17は、表面部17aと周面部17bが一体成形されたものとすることができる。
防湿体17は、透湿係数の小さい材料から形成することができる。
この場合、実効的な透湿係数がほとんどゼロであるアルミニウムやアルミニウム合金などを用いて防湿体17を形成すれば、防湿体17を透過する水蒸気をほぼ完全になくすことができる。
防湿体17は、例えば、厚み寸法が0.1mmのアルミニウム箔をプレス成形して形成することができる。
【0050】
表面部17aおよび周面部17bにより形成された空間の内部には、シンチレータ層5および蛍光防湿層8が設けられる。
なお、図9に示すように、反射層6が設けられている場合には、表面部17aおよび周面部17bにより形成された空間の内部に、シンチレータ層5、反射層6、および蛍光防湿層8が設けられる。
表面部7aと、内部に設けられる要素(シンチレータ層5、反射層6、蛍光防湿層8)との間には、隙間があってもよいが、密着している方が好ましい。
周面部7bと蛍光防湿層8との間には、封止層9が設けられている。周面部7bと蛍光防湿層8は、封止層9により接着されているようにすることができる。
【0051】
前述したように、防湿体17の実効的な透湿係数は、ほぼゼロとすることができる。
そのため、キャップ形状を呈する防湿体17により、シンチレータ層5を覆うようにすれば、防湿性能のさらなる向上を図ることができる。
ここで、キャップ形状を呈する防湿体17の場合には、周面部17bの端面と基板2aとの間から水蒸気が侵入する。
しかしながら、周面部17bの内壁には、封止層9が設けられ、封止層9の内側には蛍光防湿層8がさらに設けられている。
そのため、周面部17bの端面と基板2aとの間から水蒸気が侵入したとしても、水蒸気がシンチレータ層5に到達するのを抑制することができる。
【0052】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係るX線検出器の製造方法について例示をする。
X線検出器1、1a〜1cは、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、基板2a上に光電変換部2b、制御ライン2c1、データライン2c2、配線パッド2d1、配線パッド2d2、および保護層2fなどを順次形成してアレイ基板2を作成する。アレイ基板2は、例えば、半導体製造プロセスを用いて作成することができる。
【0053】
次に、アレイ基板2上の複数の光電変換部2bが形成された領域を覆うようにシンチレータ層5を形成する。シンチレータ層5は、例えば、真空蒸着法などを用いて、ヨウ化セシウム:タリウムからなる膜を成膜することで形成することができる。この場合、シンチレータ層5は、柱状結晶の集合体となる。シンチレータ層5の厚み寸法は、600μm程度とすることができる。柱状結晶の柱の太さ寸法は、最表面で8〜12μm程度とすることができる。
柱状結晶の集合体の隙間は、空気や酸化防止用の不活性ガス(例えば、窒素ガスなど)が充填されたり、真空状態とされたりすることができる。
【0054】
次に、シンチレータ層5のX線の入射面側の周縁領域を残して反射層6を形成する。反射層6は、例えば、酸化チタンからなるサブミクロン粉体と、バインダ樹脂と、溶媒を混合して作成した材料をシンチレータ層5上に塗布し、これを乾燥させることで形成することができる。乾燥後の厚み寸法(反射層6の厚み寸法)は、例えば、120μm程度である。
なお、反射層6は、必要に応じて形成することができる。
【0055】
次に、蛍光防湿層8を形成する。
例えば、シンチレータ層5の周縁における所定の領域に、封止材を塗布し、封止材を柱状結晶の集合体の隙間部分に含浸させ、紫外線を照射して含浸させた封止材を硬化させることで蛍光防湿層8を形成する。
図2図8図9に例示をしたX線検出器1、1b、1cの場合には、例えば、シンチレータ層5の最外周領域に形成されたテーパ部とその内側の数mmの領域に、封止材を含浸させることができる。
図7に例示をしたX線検出器1aの場合には、例えば、シンチレータ層5の最外周領域に形成されたテーパ部の内側の数mmの領域に、封止材を含浸させることができる。
【0056】
封止材の塗布は、例えば、ディスペンサー装置を用いて行うことができる。
封止材は、例えば、エポキシ系紫外線硬化性樹脂に85重量%程度のタルクが含有されたものとすることができる。
タルクは、低硬度の無機材質であり、滑り性が高い。そのため、エポキシ系樹脂中に高濃度でタルクを含有させても形状変形の容易性が損なわれることがない。また、粒径が、数μmから数十μmのサイズのタルクを含有させることで、充填密度の向上を図ることもできる。
封止材は、例えば、ナガセケムテック社製のXNR5516Zなどとすることができる。
なお、防湿性能がそれほど要求されない場合には、フィラー材を含まない樹脂主体の封止材を用いることもできる。
ただし、無機材料からなるフィラー材を含む封止材を用いることがより好ましい。
【0057】
封止材の粘度は、シンチレータ層5の厚み寸法、柱状結晶の柱の太さ寸法、柱状結晶の集合体における隙間の割合などを考慮して決定することができる。
この場合、封止材の粘度は、柱状結晶の集合体の内部に比較的短時間で染み込み、且つ、所望の領域から大きく染み出さないものとすることが好ましい。
例えば、シンチレータ層5の厚み寸法が600μm、柱状結晶の柱の先端径が約10μm程度、柱状結晶の集合体における空孔率が約20%の場合には、室温における封止材の粘度は、例えば、数十Pa・sec〜百数十Pa・sec程度とすることができる。
【0058】
紫外線の照射は、アレイ基板2の裏面側(シンチレータ層5が設けられる側とは反対側)から行うことができる。
照射された紫外線は、光電変換部2b、制御ライン2c1、データライン2c2などの隙間を透過して、封止材が含浸された領域に到達する。
なお、紫外線硬化性樹脂を含む封止材を例示したが、熱硬化性樹脂や2液混合型樹脂などを含む封止材とすることもできる。熱硬化性樹脂や2液混合型樹脂などを含む封止材の場合も、無機材料からなるフィラー材を含むものとすることが好ましい。
【0059】
次に、防湿体7、17の所定の領域に封止層9となる封止材を塗布する。
封止層9となる封止材は、タルクなどの無機材料からなるフィラー材を含むエポキシ系紫外線硬化性樹脂などとすることができる。封止層9となる封止材の粘度は、シンチレータ層5に含浸させる封止材の粘度よりも高くすることができる。封止層9となる封止材の粘度は、例えば、300Pa・sec程度とすることができる。
次に、治具などを用いて、シンチレータ層5に防湿体7、17を接合する。
封止層9となる封止材の硬化は、例えば、紫外線を照射することで行うことができる。
封止層9となる封止材に紫外線を照射するのが難しい場合には、熱硬化性樹脂を含む封止材を用いることもできる。
熱硬化性樹脂を含む封止材は、例えば、ナガセケムテック社製のT832/R101などとすることができる。
また、シンチレータ層5に含浸させた封止材と、封止層9となる封止材とを同時に硬化させることもできる。
【0060】
また、減圧雰囲気下において、シンチレータ層5に防湿体7、17を接合することもできる。この様にすれば、シンチレータ層5に防湿体7、17を密着させることができる。
シンチレータ層5に防湿体7、17が密着していれば、X線検出器1、1a〜1cが減圧環境に置かれた場合(例えば、航空機輸送などの場合)であっても、防湿体7、17のンチレータ層5側の圧力が外側の圧力よりも高くなることで生じる膨らみを抑制することができる。防湿体7、17のンチレータ層5側の圧力が外側の圧力よりも高くなることで生じる引き剥がし力による剥離なども抑制することができる。
【0061】
次に、フレキシブルプリント基板2e1、2e2を介して、アレイ基板2と信号処理部3を電気的に接続する。
また、配線4aを介して、信号処理部3と画像伝送部4を電気的に接続する。
その他、回路部品などを適宜実装する。
【0062】
次に、図示しない筐体の内部にアレイ基板2、信号処理部3、画像伝送部4などを格納する。
そして、必要に応じて、光電変換素子2b1の異常や電気的な接続の異常の有無を確認する電気試験、X線画像試験、高温高湿試験、冷熱サイクル試験などを行う。
以上のようにして、X線検出器1、1a〜1cを製造することができる。
【0063】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 X線検出器、1a〜1c X線検出器、2 アレイ基板、2a 基板、2b1 光電変換素子、3 信号処理部、4 画像伝送部、5 シンチレータ層、6 反射層、7 防湿体、8 蛍光防湿層、9 封止層、17 防湿体、17a 表面部、17b 周面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9