【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、 独立行政法人科学技術振興機構、「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラムフィージビリティスタディステージ探索タイプ」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第1実施形態
(1)抵抗変化型メモリの構成
まず、本実施形態に係る抵抗変化型メモリ100の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、抵抗変化型メモリの構成を示す図である。
抵抗変化型メモリ100は、強誘電体層1と、第1電極層3と、第2電極層5と、基材7と、を備える。強誘電体層1は、第1主面P
1と第2主面P
2とを有する強誘電体の薄膜である。本実施形態において、強誘電体層1は、BiFeO
3のBiの一部が希土類金属を用いて元素置換された強誘電体により形成されている。また、本実施形態においては、Biの一部を元素置換する希土類金属は、Nd(ネオジム)又はEr(エルビウム)のいずれかである。
【0025】
上記のように、強誘電体層1を、BiFeO
3のBiの一部がNd又はErなどの希土類金属により元素置換された強誘電体により形成することにより、Bi欠陥が存在するBiFeO3と比較して、化学的により安定した強誘電体層1を形成できる。その結果、後述するように、抵抗変化型メモリ100の動作をより安定にできる。
【0026】
また、Nd及びErのイオン半径は、Biのイオン半径が近い(Biのイオン半径:0.96Å(オングストローム)、Ndのイオン半径:1.00Å、Erのイオン半径:0.88Å)。そのため、BiFeO
3においてNd又はErがBiを置換しても、結晶構造のひずみなど、強誘電体層1中の強誘電体を化学的に不安定にする要因が生じにくくなる。従って、BiFeO
3のBiの一部をNd又はErにより置換することにより、強誘電体層1を化学的により安定化できる。その結果、抵抗変化型メモリ100の動作をより安定化できる。
【0027】
さらに、Nd及びErは、Biと同じ価数(3価)を有している。このため、価数の異なる他の元素によりBiを置換する場合と比較して、強誘電体を化学的により安定化できる。なぜなら、Biと異なる価数の元素にてBiを置換した場合、Bi置換された箇所には共有電子の過不足が生じ、共有電子に過不足が生じたBi置換された箇所は化学的に不安定であるからである。
【0028】
また、後述するように、本実施形態において、上記の強誘電体層1の導電キャリアは電子である。一般的に、物質中の電子の移動度は正孔の移動度よりも高い。従って、移動度の速い電子を導電キャリアとすることにより、抵抗変化型メモリ100の動作をより高速化できる。
【0029】
さらに、後述するように、強誘電体層1は、ミラー指数により表現される結晶方位[00k](k:整数)が第1主面及び第2主面に対して垂直になるように配向したペロブスカイト結晶構造を有している。これにより、強誘電体層1において分極が発生したときに、分極の向きをそろえることができる。すなわち、抵抗変化型メモリ100における分極の効果をより大きくできる。
【0030】
第1電極層3は、基材7(後述)の第3主面P
3上に形成されている。また、第1電極層3の上記の第3主面P
3とは反対側の主面上に、上記の強誘電体層1が、当該第3主面P
3とは反対側の主面が強誘電体層1の第1主面P
1と接触するように形成されている。すなわち、強誘電体層1を基準とした場合、第1電極層3は、強誘電体層1の第1主面P
1上に形成されている。
【0031】
また、強誘電体層1の第1主面P
1上に第1電極層3が形成(接触)されることにより、第1電極層3と強誘電体層1との界面において、第1エネルギー障壁(強誘電体層1に分極が生じていない場合のエネルギー障壁は、E
1)が形成される。
第1エネルギー障壁は、第1電極層3のフェルミ準位と強誘電体層1の伝導帯のエネルギー準位との差に対応する大きさのエネルギー障壁であり、導電キャリア(電子)が第1電極層3から強誘電体層1に注入される確率を決定する。
【0032】
具体的には、導電キャリアは、熱的エネルギーを得てエネルギー障壁を越える。このとき、上記のエネルギー障壁が低いと、導電キャリアが上記のエネルギー障壁を乗り越える確率が高くなる。その結果、エネルギー障壁が低いと、キャリアが注入されやすくなる(電流が流れやすくなる)。
また、強誘電体層1に印加される電界(電圧)が大きくなると、エネルギー障壁の厚さが小さくなる場合があり、導電キャリアは、エネルギー障壁を乗り越えるだけのエネルギーよりも低いエネルギーを持っている場合でも、障壁の厚さが小さくなったエネルギー障壁を「通り抜ける」ことができる(「トンネリング」と呼ばれることもある)。この場合であっても、エネルギー障壁が低くなると、エネルギー障壁を通り抜ける確率が高くなる。
【0033】
また、上記の第1エネルギー障壁は、後述するように、強誘電体層1において発生する分極によってもエネルギー障壁の大きさが変化する。これにより、後述するように、強誘電体層1における分極の向きにより、同じ印加電圧に対して、第1電極層3から強誘電体層1に注入される導電キャリア(例えば、電子)量が変化する。
【0034】
上記の第1電極層3としては、例えば、導電キャリアが多い導電性の材料が選択される。従って、第1電極層3としては、例えば、金属材料又は酸化物半導体などを用いることができる。金属材料としては、例えば、白金(Pt)、金(Au)、アルミニウミ(Al)の薄膜などを第1電極層3として用いることができる。また、Ptは、シリコン(Si)基板上に結晶を配向させて形成してもよい。この場合、強誘電体層1を第1電極層3上に形成する際に、Ptの結晶の配向を用いて強誘電体層1の結晶を配向できる。
【0035】
一方、酸化物半導体としては、例えば、インジウム・スズ酸化物(Indium Tin Oxide、ITO)、ストロンチウム・ルテニウム酸化物(SrRuO
3)、ランタン・ストロンチウム・銅酸化物(La
2−xSr
xCuO
4、LSCO)などを第1電極層3として用いることができる。
【0036】
本実施形態においては、ストロンチウム・ルテニウム酸化物を第1電極層3の材料として用いる。ストロンチウム・ルテニウム酸化物は、強誘電体層1の材料として用いられているNd又はErによりBiの一部を元素置換したBiFeO
3と同じペロブスカイト結晶構造を有しており、格子定数も上記の強誘電体層1の材料の格子定数に比較的近い(後述)。そのため、特に第1電極層3と強誘電体層1との界面において発生する結晶のひずみが少なくなる。その結果、抵抗変化型メモリ100の化学的な安定性、従って、電気的な安定性を向上できる。
【0037】
また、後述するように、本実施形態の第1電極層3のストロンチウム・ルテニウム酸化物は、ミラー指数にて[00k]と表現される結晶方位が前記第1主面P
1に対して垂直になるように配向している。これにより、第1電極層3上に強誘電体層1を形成する際に、ミラー指数にて[00k]と表現される結晶方位が第1主面P
1及び第2主面P
2に対して垂直になるように配向した強誘電体層1を形成しやすくなる。
【0038】
第2電極層5は、強誘電体層1の第2主面P
2上に形成されている。また、強誘電体層1の第2主面P
2上に第2電極層5が形成(接触)されることにより、第2電極層5と強誘電体層1との界面において、第2エネルギー障壁が形成される。
【0039】
上記の第1エネルギー障壁と同様に、強誘電体層1において発生する分極によって、第2エネルギー障壁のエネルギー障壁高さも変化する。これにより、後述するように、強誘電体層1における分極の向きにより、同じ電圧に対して、第2電極層5から強誘電体層1に注入される導電キャリア(電子)量が変化する。
【0040】
後述するように、第1電極層3と強誘電体層1との界面に第1エネルギー障壁が形成され、第2電極層5と強誘電体層1との界面に第2エネルギー障壁が形成され、これらのエネルギー障壁が強誘電体層1の分極の向きにより変化することにより、抵抗変化型メモリ100における整流作用のスイッチングが起こる。また、後述するように、抵抗変化型メモリ100においては、印加電圧が正方向(後述)であっても負方向(後述)であっても、電流ヒステリシスが見られる。この整流作用のスイッチングと、印加電圧の印加方向に関わらず電流ヒステリシスが見られることにより、抵抗変化型メモリにおいて2つのメモリ動作モードを有することが可能となる。
【0041】
上記の第2電極層5としては、第1電極層3と同様、例えば、白金(Pt)、金(Au)、アルミニウミ(Al)などの金属材料や、インジウム・スズ酸化物(Indium Tin Oxide、ITO)、ストロンチウム・ルテニウム酸化物(SrRuO
3)、ランタン・ストロンチウム・銅酸化物(La
2−xSr
xCuO
4、LSCO)などの酸化物半導体などを用いることができる。特に、第2電極層5として透明電極(例えば、インジウム・スズ酸化物)を用いると、強誘電体層1に対して光を照射し、強誘電体層1において分極を発生できる。本実施形態においては、第2電極層5の材料として、Au薄膜を用いる。
【0042】
基材7は、主に、本実施形態の抵抗変化型メモリ100を形成するための基材として用いられる。基材7などの基板上に抵抗変化型メモリ100を形成する場合、例えば基材7の温度や基材7の抵抗変化型メモリ100を形成する主面(第3主面)の状態(結晶構造など)を制御することにより、抵抗変化型メモリ100の各層を形成する際の条件を制御しつつ抵抗変化型メモリ100を製造できる。その結果、第1電極層3、強誘電体層1、及び第2電極層5の各層の品質を高めて、抵抗変化型メモリ100の電気特性をより向上できる。
【0043】
本実施形態において、基材7は、Nb(ニオブ)を添加したストロンチウム・チタン酸化物(SrTiO
3)の平面基板である。また、本実施形態において、基材7の結晶構造は、ストロンチウム・チタン酸化物のペロブスカイト結晶構造を有する。さらに、第1電極層3を形成する第3主面P
3は、ペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k](k:整数)が垂直に配向するように切り出されている。これにより、基材7の第3主面P
3上に第1電極層3を形成する際に、エピタキシャル成長により、ペロブスカイト結晶構造を有するストロンチウム・ルテニウム酸化物の結晶方位[00k]が、強誘電体層1の第1主面P
1(基材7の第3主面P
3)に対して垂直に配向した第1電極層3を形成しやすくなる。その結果、第1電極層3上に、結晶方位[00k]が第1主面P
1及び第2主面P
2に対して垂直になるように配向したペロブスカイト結晶構造を有する強誘電体層1を形成しやすくなる。
【0044】
(2)抵抗変化型メモリの製造方法
次に、本実施形態の抵抗変化型メモリ100の製造方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、抵抗変化型メモリの製造方法を模式的に示す図である。
抵抗変化型メモリ100の製造においては、まず、抵抗変化型メモリ100を形成するための基材7を準備する(
図2の(1))。具体的には、例えば、基材7として使用するNbを添加(添加量は、例えば、0.05重量%(wt%))したSrTiO
3(100)基板表面を、強酸などを用いて洗浄して基材7とする。上記のNb添加SrTiO
3基板を洗浄するための強酸としては、例えば、バッファードフッ酸溶液(BHF溶液)を用いることができる。BHF溶液は、フッ酸(HF)とフッ化アンモニウムの混合溶液である。なお、BHF溶液による洗浄後、SrTiO
3である基材7は、高温処理(例えば、1000°Cにて60分間アニール処理)されてもよい。
【0045】
また、本実施形態において、基材7は、SrTiO
3のペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k](ミラー指数表現)が垂直に配向する(結晶)面が第3主面P
3となるように切り出されている。
【0046】
基材7を準備後、第1電極層3が基材7の第3主面P
3上に形成される(
図2の(2))。本実施形態のように、第1電極層3の材料としてSrRuO
3を用いる場合、第1電極層3は、例えば、PLD(Pulsed Laser Deposition)法を用いて薄膜として形成される。PLD法は、パルス状に発生したレーザ光を原料となるターゲットなどに照射して原料を昇華させ、昇華した原料を基板上などに堆積して薄膜を形成する薄膜形成方法である。
【0047】
具体的には、第1電極層3は、(i)SrRuO
3の原料となるターゲットT1にパルスレーザLを照射して、当該ターゲットT1から原料を昇華させ、(ii)ターゲットT1から昇華した原料を基材7に堆積して薄膜を形成する、ことにより基材7上に形成される。
【0048】
本実施形態において、第1電極層3の原料となるターゲットT1として、SrRuO
3の焼結体を用いる。焼結体は、例えば、原料となる粉末などを焼き固める(焼結する)ことにより製造できる。また、第1電極層3の原料を昇華させるためにターゲットに照射するパルスレーザLの光源として、KrFエキシマレーザ(波長:248nm)を用いる。第1電極層3を作製するための条件の一例については、以下の表1に示す。
【0050】
上記の表1において、レーザエネルギーは照射するレーザ光の光量である。レーザ周波数は、1秒間にターゲットに照射する光パルスの数である。上記の表1に示す例においては、1秒間に2(回)の光パルスをターゲットに照射したことを意味する。基板温度は、第1電極層3を形成する際の基材7の温度である。堆積時間は、昇華した原料を基材7上に堆積する時間である。酸素圧力(形成時)は、第1電極層3を形成する際の酸素圧力である。酸素圧力(冷却時)は、第1電極層3を形成後に基材7及び第1電極層3を、例えば室温近辺まで冷却するときの酸素圧力である。
【0051】
上記の表1に示す条件にて第1電極層3を形成することによって、膜厚が約100nmの薄膜状のSrRuO
3が第1電極層3として形成される。
【0052】
上記のように、基材7の第3主面P
3上に形成される第1電極層3は、エピタキシャル成長により、SrRuO
3のペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k]が垂直に配向している面が主面(強誘電体層1の第1主面P
1と接触する面)となるように形成される。
【0053】
第1電極層3を基材7上に形成後、強誘電体層1が形成される(
図2の(3))。本実施形態においては、強誘電体層1は、上記のPLD法により薄膜として形成される。具体的には、強誘電体層1は、(i)Biと、Feと、Nd又はErと、Oとを少なくとも含む原料ターゲットT2にパルスレーザLを照射して、原料ターゲットT2から原料を昇華させ、(ii)原料ターゲットT2から昇華した原料を基材7に堆積して薄膜を形成する、ことにより、第3主面P
3とは反対側の第1電極層3の主面上に形成される。
【0054】
本実施形態においては、強誘電体層1を形成するために用いる原料ターゲットT2は、BiFeO
3とNd酸化物(Nd
2O
3)との焼結体(NdによりBiの一部が元素置換されたBiFeO
3を強誘電体層1の材料とする場合)であるか、又は、BiFeO
3とEr酸化物(Er
2O
3)との焼結体(NdによりBiの一部が元素置換されたBiFeO
3を強誘電体層1の材料とする場合)である。
これにより、原料ターゲットT2を、複雑な合金形成工程などを用いることなくより簡単に形成(作製)できる。
【0055】
また、本実施形態において、原料ターゲットT2中のBiFeO
3と上記の希土類金属の酸化物の組成比は、Biと希土類金属を原子数比にて1:0.03にて含むように調整されている。これにより、化学的に安定で安定な電気的特性を有する強誘電体層1を形成できる。
【0056】
一般的に、PLD法により薄膜を形成した場合、PLD法に用いるターゲットの組成比と薄膜中の材料の組成比とのずれは少ない。従って、強誘電体層1をPLD法により形成することにより、原料ターゲットT2における元素組成比と、強誘電体層1における元素組成比とのずれが小さい強誘電体層を形成できる。すなわち、原料ターゲットT2の元素組成比を制御することにより、強誘電体層1における元素組成比を制御できる。
【0057】
ただし、PLD法にて形成後の強誘電体層1中のBiと上記の希土類金属の組成比を元素分析したところ、Biと希土類金属の元素比は、原料ターゲットにおける元素比に比べて、Biの比率が低くなっていることが確認された。
【0058】
これは、Biが比較的蒸気圧の高い(すなわち、低温でも蒸発しやすい)元素であり、PLD法により強誘電体層1の薄膜を形成中にBiの一部が強誘電体層1の形成に使用されないためである。従って、PLD法により強誘電体層1を形成する際は、原料ターゲットT2中のBiの元素比を、強誘電体層1中のBi元素比よりも高くしておく。
【0059】
以下の表2に、強誘電体層1を形成する際に用いた形成条件を示す。なお、比較例として、BiFeO
3(「BFO」と呼ぶことにする)を強誘電体層1の材料とした場合の形成条件と、BiFeO
3のFeの一部をMn(マンガン)にて元素置換した強誘電体材料(「BFM」と呼ぶこととする)を強誘電体層1の材料とした場合の形成条件も表2に示しておく。また、以下に示す表2において、Biの一部がNdにより元素置換された強誘電体をBNF、Biの一部がErにより元素置換された強誘電体を「Er:BFO」と名付けている。また、以後においても上記の略称を用いる。
【0061】
上記の表2に示した条件により強誘電体層1を形成することにより、例えば、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合には、膜厚が約170nmの薄膜である強誘電体層1が第1電極層3上に形成される。
【0062】
また、上記に示したように、基材7のペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k]が第3主面P
3に対して垂直に配向することにより、第1電極層3のペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k]も第1電極層3の主面に対して垂直に配向している。そのため、後述するように、ペロブスカイト結晶構造を有する上記の強誘電体により構成されている強誘電体層1も、エピタキシャル成長により、ペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k]が強誘電体層1の主面(第1主面P
1及び第2主面P
2)に対して垂直に配向するように形成される。
【0063】
上記のように、第1電極層3及び/又は基材7の所定の結晶方位を所定の方向に配向させることにより、強誘電体層1のエピタキシャル成長により、強誘電体層1の所定の結晶方位を所定の方向に配向させやすくなる。
【0064】
強誘電体層1を第1電極層3上に形成後、第2電極層5を強誘電体層1の第1主面とは反対側の第2主面P
2上に形成する(
図2の(4))。第2電極層5を金属材料とする場合には、例えば、真空蒸着法などにより第2電極層5を第2主面P
2上に形成できる。
【0065】
真空蒸着法により第2電極層5を形成する場合、
図2の(4)に示すように、強誘電体層1の第2主面P
2を、第2電極層5の原料の発生源(例えば、原料となる金属を加熱するなどの方法により昇華させた場合には、当該金属昇華させている箇所)に向けて、上記原料の発生源から発生した原料を堆積して第2電極層5を形成する。
【0066】
なお、第2電極層5を真空蒸着法などにより形成する場合、必要に応じて、第2主面P
2と上記の発生源との間に第2電極層5の形状に対応するように穴を開けたシャドーマスク(図示せず)を設けてもよい。また、第2電極層5を形成するときのみに限られず、第1電極層3や強誘電体層1を形成する際にも、これらの層の平面形状に対応したシャドーマスクを設けてもよい。これにより、所定の形状を有した抵抗変化型メモリ100を製造できる。
【0067】
上記の抵抗変化型メモリ100の製造方法においては、基材7上に抵抗変化型メモリ100が形成されるため、抵抗変化型メモリ100の各層の形成条件を精度よくコントロールしつつ、高品質の強誘電体層1、第1電極層3、及び第2電極層5を製造できる。その結果、抵抗変化型メモリ100の電気特性をより向上できる。
【0068】
(3)抵抗変化型メモリの特性評価
次に、上記において説明した製造方法により製造した抵抗変化型メモリ100の特性評価を行った結果について説明する。本実施形態においては、抵抗変化型メモリ100の各層の材料特性と、抵抗変化型メモリ100の電気的特性とを評価した。
抵抗変化型メモリ100の材料特性としては、X線回折(X−ray Diffraction、XRD)測定により、抵抗変化型メモリ100の各層の結晶構造解析を行った。また、電気的特性としては、抵抗変化型メモリ100の分極−電界特性(P−E特性)、電流−電圧特性(I−V特性)、及び、光起電力特性を測定した。さらに、抵抗変化型メモリ100の抵抗変化型メモリとしての特性を調べた。また、得られた抵抗変化型メモリ100の電気的特性に基づいて、抵抗変化型メモリ100における導電メカニズムについて考察した。
【0069】
I.抵抗変化型メモリの材料特性
まず、抵抗変化型メモリ100の各層の結晶構造解析を行った結果について、
図3を用いて説明する。
図3は、抵抗変化型メモリのXRD測定結果を示す図である。
図3に示すXRD測定結果は、X線源としてCuKα
1+CuKα
2を用い、θ−2θ法にて測定した結果である。
図3に示すように、2θ=20°〜30°、40°〜50°、70°〜80°、及び90°〜110°近辺に回折ピークが見られている。これらの2θ角度における回折ピークは、それぞれ、ペロブスカイト結晶構造の結晶方位[001]、[002]、[003]、及び[004]からの回折に対応するピークである。
【0070】
また、
図3に示すXRD測定結果において、ペロブスカイト結晶構造の他の結晶方位に対応するピークが見られていない(又は、見られていてもきわめて小さい)。このことから、ペロブスカイト結晶構造は抵抗変化型メモリ100の主面(第1主面P
1、第2主面P
2、及び第3主面P
3)に対して垂直に配向していることが分かる。すなわち、基材7(Nb添加したSrTiO
3、
図3においては「▲」にて示したピークに対応)、第1電極層3(SrRuO
3、
図3においては「■」にて示したピークに対応)、及び強誘電体層1(BNF、
図3においては「BFO」にて示したピークに対応)のペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k](k:整数)は、抵抗変化型メモリ100の主面(第1主面P
1、第2主面P
2、及び第3主面P
3)に対して垂直に配向している。
【0071】
また、強誘電体層1、第1電極層3、及び基材7の結晶方位が同じであるX線回折のピークは、比較的近い2θ角度に集中している。このことは、強誘電体層1、第1電極層3、及び基材7の結晶構造の格子定数が近い値であることを示している。よって、本実施形態の抵抗変化型メモリ100においては、強誘電体層1、第1電極層3、及び基材7のそれぞれの界面において、格子定数の違いに起因するひずみの発生が少ないといえる。その結果、格子定数の違いに起因して抵抗変化型メモリ100が化学的に不安定になり、抵抗変化型メモリ100の各層の剥離などが発生することを抑制できる。
【0072】
II.抵抗変化型メモリの電気特性
(i)分極−電界特性
次に、本実施形態の抵抗変化型メモリ100の電気特性の測定結果について説明する。まず、分極−電界(P−E)特性を測定した測定結果について、
図4A〜
図4Cを用いて説明する。
図4Aは、BNFを強誘電体層の材料として用いた場合の分極−電界特性を示す図である。
図4Bは、BFMを強誘電体層の材料として用いた場合の分極−電界特性を示す図である。
図4Cは、BFOを強誘電体層の材料として用いた場合の分極−電界特性を示す図である。
【0073】
図4A〜
図4Cに示す分極−電界特性は、第1電極層3と第2電極層5との間に時間的に変化(本実施形態においては20kHz)する電圧(例えば、三角波電圧)を印加し、当該時間的に変化する電圧の印加時の各電圧値において抵抗変化型メモリ100に蓄積される電荷(強誘電体層1の表面電荷)を測定することにより得られる。なお、電界(電圧)の向きは、第1電極層3の電位が第2電極層5の電位よりも高くなった場合を「正方向」とする。
【0074】
図4Aに示すように、Biの一部をNdにて元素置換したBiFeO
3(BNF)を用いた強誘電体層1においては、電界の正負(電圧の正負)に対して対称的なヒステリシス特性が見られている。すなわち、BNFを強誘電体層1に用いた場合には、印加する電界(電圧)を0としても分極が残り(残留分極)、印加する電界(電圧)の向きにより分極の方向が変化(分極反転)する強誘電体特性を有することが分かる。
図4Bに示すように、比較例として、Feの一部をMnにて元素置換したBiFeO
3(BFM)を強誘電体層1の材料として用いた場合においても、上記の電界の正負に対して対称的なヒステリシス特性が見られている。
【0075】
一方、比較例として、元素置換していないBiFeO
3(BFO)を強誘電体層1の材料として用いた場合には、
図4Cに示すように、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合のヒステリシス、及び、BFMを強誘電体層1の材料として用いた場合のヒステリシスと形状は異なるものの、上記と同様の特性が見られている。
【0076】
図4A〜
図4Cに示す分極−電界特性においては、一般的に、強誘電体層1を流れる電流成分(リーク電流と呼ばれる)が含まれているため、強誘電体層1の分極量を正確に測定できない。従って、PUND(Positive Up Negative Down)法というリーク電流と分極とを分離して測定可能な方法により、分極量(スイッチング電荷量)を測定した。
【0077】
PUND法は、(i)強誘電体層1の分極の方向を反転するパルス電圧を抵抗変化型メモリ100に印加し、その後、(ii)(i)と同じ方向のパルス電圧を抵抗変化型メモリ100に印加し、上記(i)のときの電荷の変化量と、上記(ii)ときの電荷の変化量との差分(スイッチング電荷量)を測定する方法である。スイッチング電荷量は、強誘電体の残留分極量に対応する測定量である。
【0078】
図5Aに示すように、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合、スイッチング電荷量(残留分極)は、パルス電圧の電圧値の絶対値が4V以上となった時に、スイッチング電荷量が急激に増加する。すなわち、第1電極層3と第2電極層5との間に、絶対値が4V以上の電圧を印加することにより、多くの分極を反転(保持)できる。このように、抵抗変化型メモリ100においては、電圧印加というより簡単な方法により強誘電体層1中に分極を保持できる。
図5Aは、BNFを強誘電体層の材料として用いた場合の、スイッチング電荷量と印加電圧との関係を示す図である。
【0079】
また、
図5Aに示すように、第1電極層3と第2電極層5との間に正方向に電圧を印加したときのスイッチング電荷量の絶対値(
図5Aにおいては、「+Q
SW」にて示したグラフ)と、第1電極層3と第2電極層5との間に負方向に電圧を印加したときのスイッチング電荷量の絶対値((
図5Aにおいては、「−Q
SW」にて示したグラフ)とは、ほぼ一致している。このことは、例えば、データを書き込む電圧を負電圧としても正電圧としても、抵抗変化型メモリ100は、ほとんど同じように動作できることを示している。すなわち、抵抗変化型メモリ100は、2つの動作モードを有する抵抗変化型メモリとして用いることができる。
【0080】
一方、BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合、
図5Bに示すように、印加電圧を正電圧とした場合のスイッチング電荷量と、負電圧とした場合のスイッチング電荷量とは異なっている。従って、BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合、抵抗変化型メモリの動作モードとしては、正又は負の方向により動作が非対称となり使用しにくい。
図5Bは、BFOを強誘電体層の材料として用いた場合の、スイッチング電荷量と印加電圧との関係を示す図である。
【0081】
また、BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合、特に、負方向の印加電圧において、スイッチング電荷量が減少する現象が見られている。
【0082】
(ii)電流−電圧特性
次に、上記の抵抗変化型メモリ100の電流−電圧(I−V)特性を測定した測定結果について、
図6A〜
図6Cを用いて説明する。
図6Aは、BNFを強誘電体層の材料として用いた場合の電流−電圧特性を示す図である。
図6Bは、BFMを強誘電体層の材料として用いた場合の電流−電圧特性を示す図である。
図6Cは、BFOを強誘電体層の材料として用いた場合の電流−電圧特性を示す図である。
【0083】
図6A〜
図6Cに示す電流−電圧特性は、抵抗変化型メモリ100の第1電極層3と第2電極層5との間に、所定の電圧範囲(
図6Aの場合は−7V〜+7V、
図6B及び
図6Cの場合は−6V〜+6V)の間で電圧を繰り返し増減しながら印加し、各電圧値における電流を測定することにより得られる。また、
図6A〜
図6Cに示す電流−電圧特性は、電流のための縦軸を対数とした片対数グラフとなっている。
【0084】
図6Aに示すように、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合、印加電圧を繰り返し増減しても、電流値は同一の電圧値に対して常に一定となっている。すなわち、BNFを強誘電体層1の材料として用いた抵抗変化型メモリ100は、電圧の繰り返しの変化に対して耐久性を有する抵抗変化型メモリである。
【0085】
一方、
図6B及び
図6Cに示すように、BFM又はBFOを強誘電体層1の材料として用いた場合、印加電圧の増減の繰り返しにより、同一電圧値に対する電流値が変動している。すなわち、BFM又はBFOを強誘電体層1の材料として用いた抵抗変化型メモリは、上記のBNFを用いた場合と比較して、電圧の繰り返しの変化に対する耐久性が低い。
【0086】
上記の結果は、BiFeO
3を強誘電体材料として用いる抵抗変化型メモリ100においては、BiFeO
3のBiを主にNdやErといった希土類金属により元素置換することにより、強誘電体材料の化学的な安定性が増加することに起因している。
【0087】
Biを元素置換しないBFO及びBFMにおいては、強誘電体層1に電圧を印加して電流が強誘電体層1中を流れる際に、導電キャリアがBi欠陥部分にトラップされて強誘電体層1中を移動できなくなったり、又は、Bi欠陥部分から導電キャリアが解放されて移動できたりすることがランダムに発生する(又は、欠陥により生じる導電キャリア数がランダムに増減する)ために、抵抗変化型メモリ100中に流れる電流が不安定になる。また、強誘電体層1中に欠陥が存在すると、強誘電体層1に電圧(電界)を繰り返し印加することにより、強誘電体層1の結晶構造の状態が変化しやすくなり、その結果、抵抗変化型メモリ100の電気的特性が変化しやすくなる。
【0088】
一方、強誘電体層1中のBiを希土類金属により元素置換することにより、導電キャリアのトラップとなり得る欠陥が減少し、また、電圧を繰り返し印加することによる強誘電体層1の結晶構造の変化が抑制される。その結果、BiFeO
3のBiを元素置換した強誘電体材料を強誘電体層1に用いることより、抵抗変化型メモリ100の電気特性(動作)の安定性を向上できる。
【0089】
また、特に、BiFeO
3のBiを元素置換する元素として、Biと同じ価数であり、かつ、Biのイオン半径に近いイオン半径を有する元素であるNd又はErを用いることにより、他の元素により置換する場合と比較して、強誘電体層1の化学的な安定性(すなわち、抵抗変化型メモリ100の動作の安定性)をさらに向上できる。
【0090】
また、
図6Aに示す、BNFを強誘電体材料として用いた抵抗変化型メモリ100においては、抵抗変化型メモリ100に印加する電圧が正方向の場合(1V〜3Vの範囲)と、負方向の場合(−0.5V〜−3Vの範囲)の両方の電圧範囲(
図6Aにおいて、色付けした電圧範囲)において、電流値のヒステリシスが見られている。
【0091】
上記の電流値のヒステリシスは、同一の電圧値において、強誘電体層1中の(残留)分極の方向が異なることにより生じるものであり、抵抗変化型メモリ100を抵抗変化型メモリとして応用可能であることを示す特性である。すなわち、抵抗変化型メモリ100においては、強誘電体層1における分極の方向を制御することにより、同じ電圧値における抵抗変化型メモリ100の抵抗値(電流値)を制御できる。
【0092】
また、
図6Aに示すように、BNFを強誘電体材料として用いた抵抗変化型メモリ100においては、印加する電圧の向きが正方向であっても負方向であっても、電流値のヒステリシスが見られていることから、BNFを強誘電体材料として用いた抵抗変化型メモリ100は、負方向の印加電圧をデータの読出信号(後述)とする動作モードと、正方向の印加電圧をデータの読出信号とする動作モードの2つのメモリ動作モードを有する抵抗変化型メモリとして動作できる。
上記のように2つの動作モードをメモリ動作モードとして含むことにより、抵抗変化型メモリの設計の自由度をより高くできる。
【0093】
(iii)抵抗変化型メモリの光起電力特性
次に、本実施形態の抵抗変化型メモリ100の光起電力特性について、
図7を用いて説明する。
図7は、強誘電体層の材料を異ならせた抵抗変化型メモリの光起電力特性を示す図である。
図7に示す光起電力特性は、まず、抵抗変化型メモリ100に分極反転(分極を保持)可能な正電圧(+10V、又は+16V)を印加して分極反転(保持)後、光(Arイオンレーザ(波長:488nm))を照射しつつ電圧を(正電圧から負電圧へ)減少しながら各電圧値における電流値を測定することにより得られる。
【0094】
図7に示すように、BNF及びEr:BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合、他の強誘電体材料(BFO、BFM)を用いた場合と比較して、より大きな光起電力特性を示している。特に、印加電圧が0Vのときの電流(短絡電流)値が、他の強誘電体材料を用いた場合と比較して大きくなっている。
本実施形態の抵抗変化型メモリ100においては、光照射により強誘電体層1中に生じた導電キャリア(電子)が、強誘電体層1の分極により生じた内部電界により移動することにより光起電力が発生する(分極誘起光起電力効果)。従って、
図7に示す光起電力特性より、特に、BNFとEr:BFOを強誘電体層1の材料として用いたにおいては、安定して分極が生じていることが分かる。
【0095】
また、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合と、Er:BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合にて、光起電力特性において同じような傾向(安定した分極)が得られていることから、Er:BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合の電流−電圧特性は、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合の電流−電圧特性と同様に、印加電圧の繰り返しの増減に対する耐久性を有する。従って、Er:BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合でも、抵抗変化型メモリ100の動作の安定性を向上できる。
【0096】
(iv)抵抗変化型メモリの導電メカニズム
次に、上記にて説明した抵抗変化型メモリ100の電気特性に基づいて、抵抗変化型メモリ100における導電メカニズムについて説明する。まず、抵抗変化型メモリ100に電圧印加することにより強誘電体層1中において生じる(残留)分極が抵抗変化型メモリ100に及ぼす影響について、
図8を用いて説明する。
図8は、強誘電体層中の分極による影響を模式的に示す図である。なお、以下に説明においては、第2電極層5と第1電極層3との間に正方向の電圧(第1電極層3の電位が第2電極層5の電位より高くなる電圧)を印加する場合について説明する。また、第2電極層5と第1電極層3との間に負方向の電圧を印加する場合についても以下と同様に説明できる。
【0097】
強誘電体層1中に分極が生じておらず、かつ、抵抗変化型メモリ100に電圧が印加されていない場合、
図8の(1)に示すように、強誘電体層1と第1電極層3との界面において、第1電極層3のフェルミ準位E
F(図中において、一点鎖線にて示されたエネルギー準位)と強誘電体層1の伝導帯(C.B.)との間に、第1エネルギー障壁E
1が形成されている。一方、強誘電体層1と第2電極層5との界面において、第2電極層5のフェルミ準位E
Fと強誘電体層1の伝導帯(C.B.)との間に、第2エネルギー障壁E
2が形成されている。
【0098】
なお、
図8の(1)においては、説明を分かりやすくするため、第1エネルギー障壁E
1と第2エネルギー障壁E
2とが同じであるとしているが、これに限られない。第1電極層3の材料と第2電極層5の材料との組み合わせを異ならせて、第1エネルギー障壁E
1と第2エネルギー障壁E
2とを異ならせてもよい。上記2つのエネルギー障壁E
1、E
2が異なっていても、以下の説明は成立する。
【0099】
図8の(1)に示すような場合において、第1電極層3と第2電極層5との間に、分極反転(保持)が可能な所定の値(例えば、4V)以上の正方向の第1電圧V
1を印加した場合、強誘電体層1中においては、第2電極層5の側が正(+)、第1電極層3の側が負(−)の向きとなる分極が生じる(
図8の(2))。
【0100】
分極反転が可能な電圧値以上の第1電圧V
1を印加後、印加電圧を0に戻しても、強誘電体層1中の分極は残留する(例えば、
図4A参照)。その結果、強誘電体層1中に、内部電界が発生する。
図8の(3)において、強誘電体層1の伝導帯(C.B.)及び価電子帯(V.B.)が抵抗変化型メモリ100への印加電圧が0であってもエネルギー傾斜を有していることが、強誘電体層1中に内部電界が生じていることを示している。残留分極により内部電界が発生していることは、分極誘起光起電力特性(
図7を参照)が見られていることからも分かる。
【0101】
強誘電体層1において分極が残留している場合、強誘電体層1中における内部電界により、第1電極層3と強誘電体層1との界面において形成される第1エネルギー障壁は、分極していないときのエネルギー障壁E
1よりも大きなエネルギー障壁E
1’となる。
一方、第2電極層5と強誘電体層1との界面に形成される第2エネルギー障壁は、分極していないときのエネルギー障壁E
2よりも小さなエネルギー障壁E
2’となる。(
図8の(3))。
【0102】
上記のように、抵抗変化型メモリ100に第1電圧V
1を印加して強誘電体層1の分極反転(保持)することにより、第1電極層3と強誘電体層1との界面における第1エネルギー障壁、及び、第2電極層5と強誘電体層1との界面における第2エネルギー障壁の障壁高さを変化できる。
なお、第1電極層3と第2電極層5との間に負方向の第1電圧V
1を印加した場合は、第2エネルギー障壁の障壁高さがE
2よりも高くなり、第1エネルギー障壁の障壁高さがE
1よりも低くなる。
【0103】
次に、抵抗変化型メモリ100の導電メカニズムを、
図9を用いて説明する。
図9は、抵抗変化型メモリの導電メカニズムを模式的に示す図である。
図9を用いた導電メカニズムの説明においては、
図6Aに示した抵抗変化型メモリ100の電流−電圧特性を例として用いる。
【0104】
今、抵抗変化型メモリ100に正方向の第1電圧V
1を印加して分極を反転(保持)させた時点(
図9の(1))から、印加する電圧値を下げて負方向の第1電圧V
1(−V
1)を印加し、再び印加する電圧値を増加させる過程における導電メカニズムについて説明する。
【0105】
まず、印加電圧を第1電圧V
1(例えば、+7V)から、分極反転(保持)が発生しない程度の第2電圧V
2(例えば、+2V)まで減少したときの導電キャリアである電子の移動を考える。正方向の第2電圧V
2が抵抗変化型メモリ100に印加されているとき、電子は、第2電極層5から強誘電体層1を通り、第1電極層3へと移動する(
図9の(2))。
このとき、第2エネルギー障壁E
2’をエネルギー的に超える電子が、第1電極層3から強誘電体層1へと移動できる。上記の分極により生じた内部電界により、第2エネルギー障壁E
2’は、内部電極がない場合の第2エネルギー障壁E
2と比較して小さくなっている。従って、強誘電体層1中に分極(内部電界)が存在していない場合と比較して、第2電極層5から強誘電体層1へと電子が移動できる(注入される)確率は大きくなっている。すなわち、分極が存在していない場合と比較して、第2電極層5から強誘電体層1へは電子が移動しやすくなっている(第1電極層3から第2電極層5へは電流が流れやすくなっている)。
【0106】
次に、印加電圧をさらに減少して、負方向に分極反転が発生しない程度の第2電圧V
2(例えば、−2V)が印加された場合を考える(
図9の(3))。このとき、電子は第1電極層3から強誘電体層1を通り、第2電極層5へと移動する(電流は、第2電極層5から第1電極層3へ流れる)。
このとき、第1エネルギー障壁E
1’をエネルギー的に超える電子が、第1電極層3から強誘電体層1へと移動できる。上記の分極により生じた内部電界により、第1エネルギー障壁E
1’は、内部電極がない場合の第1エネルギー障壁E
1と比較して大きくなっている。従って、強誘電体層1中に分極(内部電界)が存在していない場合と比較して、第1電極層3から強誘電体層1へと電子が移動できる(注入される)確率は小さくなっている。すなわち、分極が存在していない場合と比較して、第1電極層3から強誘電体層1へは電子が移動しにくくなっている(第2電極層5から第1電極層3へは電流が流れにくくなっている)。
【0107】
上記のように、抵抗変化型メモリ100に分極反転(保持)が可能な正方向の第1電圧+V
1を印加後、正方向の第2電圧+V
2から負方向の第2電圧−V
2まで電圧を減少したとき、正方向の第2電圧+V
2が印加されたときには電流が流れやすく、負方向の第2電圧−V
2が印加されたときには電流が流れにくくなっている。すなわち、抵抗変化型メモリ100において整流作用(ダイオード特性)が発生している。
【0108】
次に、さらに負方向へ印加電圧を減少していき、負方向に分極反転(保持)可能な第1電圧V
1(例えば、−7V)が印加された場合を考える(
図9の(4))。このとき、強誘電体層1中の分極の向きが、上記の(1)〜(3)の場合とは反転する。その結果、分極が反転した後の第1エネルギー障壁E
1’’は、分極が発生していない場合のエネルギー障壁E
1よりも小さくなり、分極が反転した後の第2エネルギー障壁E
2’’は、分極が発生していない場合のエネルギー障壁E
2よりも大きくなる。
【0109】
分極を反転(保持)後、抵抗変化型メモリ100の印加電圧を増加して、負方向に第2電圧V
2(例えば、−2V)が印加された場合を考える(
図9の(5))。
このとき、第1エネルギー障壁E
1’’は、エネルギー障壁E
1と比較して小さくなっている。従って、強誘電体層1中に分極(内部電界)が存在していない場合と比較して、第1電極層3から強誘電体層1へと電子が移動できる(注入される)確率は大きくなっている。すなわち、分極が存在していない場合と比較して、第1電極層3から強誘電体層1へは電子が移動しやすくなっている(第2電極層5から第1電極層3へは電流が流れやすくなっている)。
【0110】
上記のように、同じ負方向に第2電圧V
2(−2V)を印加した場合に、強誘電体層1中の分極を反転する前の電流は強誘電体層1に分極が保持されていない場合よりも流れにくくなる一方(
図9の(3))、分極を反転した後には分極が保持されていない場合と比較して電流が流れやすくなっている。このように、強誘電体層1中の分極の向きにより、同じ電圧値に対して電流の流れやすさが変化している。すなわち、分極の向きにより第1電極層3と強誘電体層1との界面におけるエネルギー障壁が変化し、同じ電圧値における抵抗値が変化する。この特性により、抵抗変化型メモリ100を、抵抗変化型メモリとして用いることができる。
【0111】
印加電圧をさらに増加して、正方向に第2電圧V
2(+2V)が印加された場合を考える(
図9の(6))。
このとき、第2エネルギー障壁E
2’’は、内部電界がない場合の第2エネルギー障壁E
2と比較して大きくなっている。従って、強誘電体層1中に分極(内部電界)が存在していない場合と比較して、第2電極層5から強誘電体層1へと電子が移動できる(注入される)確率は小さくなっている。すなわち、分極が存在していない場合と比較して、第2電極層5から強誘電体層1へは電子が移動しにくくなっている(第1電極層3から第2電極層5へは電流が流れにくくなっている)。
【0112】
上記のように、同じ正方向に第2電圧V
2(+2V)を印加した場合に、強誘電体層1中の分極を反転する前の電流は強誘電体層1に分極が保持されていない場合よりも流れやすくなる一方(
図9の(2))、分極を反転した後には分極が保持されていない場合と比較して電流が流れにくくなっている。このように、強誘電体層1中の分極の向きにより、正方向の同じ電圧値に対しても、電流の流れやすさが変化している。
【0113】
上記のように、抵抗変化型メモリ100に負方向の第1電圧V
1(−7V)を印加後、負方向の第2電圧V
2(−2V)から正方向の第2電圧V
2(+2V)まで電圧を増加したとき、負方向の第2電圧V
2が印加されたときには電流が流れやすく、正方向の第2電圧V
2が印加されたときには電流が流れにくくなっている。すなわち、整流作用(ダイオード特性)が発生している。ただし、整流作用の向きは、正方向に第1電圧V
1(+7V)を印加した場合とは逆になっている。このことは、分極の向きにより、整流作用の向きが変化すること(スイッチング可能なダイオード特性)を示している。
【0114】
このように、上記にて説明した導電メカニズムにより、
図6Aに示した抵抗変化型メモリ100の電流−電圧特性が説明できていることから、本実施形態の抵抗変化型メモリ100において、第1電極層3と強誘電体層1との界面に分極により変化する第1エネルギー障壁(E
1、E
1’、E
1’’)が、第2電極層5と強誘電体層1との界面に分極により変化する第2エネルギー障壁(E
2、E
2’、E
2’’)が形成されているといえる。また、本実施形態の抵抗変化型メモリ100においては、導電キャリアが電子(本実施形態の強誘電体層1はn型)であるといえる。
【0115】
上記の導電メカニズムに基づくと、強誘電体層1と電極(第1電極層3、第2電極層5)との界面にエネルギー障壁を形成するような材料を、抵抗変化型メモリ100の電極材料として選択することにより、電極と強誘電体層1との界面に界面層を配置する(例えば、電極と強誘電体との界面に欠陥の多い領域を形成したり、他の層を設けたりする)ことなく、より簡単な構造により強誘電体層1の強誘電体性に起因した電気特性を抵抗変化型メモリ100において発現できる。
【0116】
III.抵抗変化型メモリとしての特性
(i)メモリ制御装置の構成
次に、本実施形態の抵抗変化型メモリ100の抵抗変化型メモリとしての特性について説明する。抵抗変化型メモリ100は、抵抗変化型メモリ100と、
図10に示すようなメモリ制御装置9とを接続することにより、抵抗変化型メモリとして機能する。
図10は、抵抗変化型メモリの駆動回路例を示す図である。
上記のメモリ制御装置9は、書込信号出力部91と、読出信号出力部93と、データ電流計測部95と、切替部97と、を有する。
【0117】
書込信号出力部91は、抵抗変化型メモリ100の強誘電体層1において分極反転(保持)を発生させる信号を出力する。そのため、書込信号出力部91は、電圧値が第1電圧V
1である書込信号を出力する。また、書込信号出力部91は、書込信号として第1電圧V1を有するパルス電圧を出力する。これにより、抵抗変化型メモリ100において、強誘電体層1に流れるリーク電流などによる消費電力の増大を抑制できる。
【0118】
読出信号出力部93は、データ読出電流(後述)を発生させるための信号(読出信号)を出力する。データ読出電流は、抵抗変化型メモリ100の強誘電体層1中の分極の向きを検知するための電流である。本実施形態のメモリ制御装置9においては、抵抗変化型メモリ100の第1電極層3と第2電極層5との間に分極反転しない電圧を印加した場合に、同じ電圧値における電流が、強誘電体層1中に保持された分極の向きによって異なることを利用して、抵抗変化型メモリ100の強誘電体層1中の分極の向きを検知する。
【0119】
そのため、本実施形態において、読出信号は、第2電圧V
2を電圧値として有するパルス電圧である。読出信号をパルス電圧とすることにより、データ読出電流が流れる時間を短縮できる。その結果、抵抗変化型メモリ100における消費電力の増大を抑制できる。
【0120】
上記の書込信号出力部91と読出信号出力部93としては、例えば、パルス電圧信号発生器などを用いることができる。データ電流計測部95は、上記のデータ読出電流の電流値を測定する。そのため、データ電流計測部95としては、例えば電流計を用いることができる。
【0121】
切替部97は、3つの端子a、b、及びcを有している。端子aは抵抗変化型メモリ100の第2電極層5と接続され、端子bは書込信号出力部91と接続され、端子cはデータ電流計測部95を介して読出信号出力部93と接続されている。
切替部97においては、抵抗変化型メモリ100に分極反転を発生させたい場合には、端子aと端子bとが接続されて、第1電圧V
1を有するパルス電圧が、端子aから抵抗変化型メモリ100に出力される。一方、抵抗変化型メモリ100の強誘電体層1中の分極の向きを検出したい場合には、端子aと端子cとが接続されて、第2電圧V
2を有するパルス電圧(とデータ読出電流)が端子aから抵抗変化型メモリ100に出力される。
【0122】
抵抗変化型メモリ100に上記のメモリ制御装置9を接続して動作させることにより、書込信号出力部91が第1電圧V
1を有するパルス信号を書込信号として印加して、強誘電体層1に分極を発生させてデータを書き込み、読出信号出力部93が強誘電体層1において分極反転を発生させない第2電圧V
2を有するパルス信号を読出信号として印加して、データ電流計測部95が、読出信号を印加したときの電流をデータ読出電流として計測することが可能となる。その結果、抵抗変化型メモリ100を抵抗変化型メモリとして動作できる。
なお、特に抵抗変化型メモリ100が集積回路として形成された場合には、上記の書き込み信号出力部91、読出信号出力部93、データ電流計測部95、及び切替部97は、上記集積回路において、同様の機能を有する電子回路として形成されていてもよい。これにより、集積化された抵抗変化型メモリを形成できる。
【0123】
また、
図6Aに示したように、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合、第1電極層3と第2電極層5との間に印加する電圧が負方向(第1電極層3の電位が第2電極層5の電位よりも低くなる方向)の場合であっても、正方向の場合であっても電流にヒステリシスが見られていた。従って、本実施形態の抵抗変化型メモリ100を用いて抵抗変化型メモリは、2つの動作モード(第1動作モードと第2動作モード)をメモリ動作モードとして有することが可能である。
【0124】
第1動作モードにおいては、
図11Aに示すように、第1電極層3の電位が第2電極層5の電位よりも高い正方向に分極反転可能な第1電圧V
1(例えば、+7V)を印加してONデータを書き込み、第1電極層3の電位が第2電極層の電位よりも低い負方向に分極反転可能な第1電圧V
1(例えば、−7V)を印加してOFFデータを書き込み、正方向に分極反転しない第2電圧V
2(例えば、+1.8V)を印加してデータを読み出す。
図11Aは、抵抗変化型メモリの第1動作モードを示す図である。
【0125】
一方、第2動作モードにおいては、
図11Bに示すように、第1電極層3の電位が第2電極層5の電位よりも低い負方向に第1電圧V
1(例えば、−7V)を印加してONデータを書き込み、正方向に第1電圧V
1(例えば、+7V)を印加してOFFデータを書き込み、負方向に第2電圧V
2(例えば、−1.8V)を印加してデータを読み出す。
図11Bは、抵抗変化型メモリの第2動作モードを示す図である。
【0126】
上記の第1動作モード及び第2動作モードを、データを読み出す電圧(読出信号)を基準として書き直すと、読出信号と同一方向の第1電圧V
1を書込信号とした場合にはOnデータが書き込まれ、読出信号と逆方向の第1電圧V
1を書込信号とした場合にはOffデータが書き込まれる。上記の場合、第1動作モードは、読出信号が正方向の第2電圧V
2を有するモードであり、第2動作モードは、読出信号が負方向の第2電圧V
2を有するモードである。よって、
図6Aに示すように、Onデータを読み出した場合のデータ読出電流は、Offデータを読み出した場合のデータ読出電流よりも大きくなる。
【0127】
上記のように2つの動作モードをメモリ動作モードとして含むことにより、抵抗変化型メモリ100は、例えば、負電圧信号により動作する電子回路などにおいても、正電圧信号により動作する電子回路などにおいても、電圧変換回路などを必要とすることなく抵抗変化型メモリとして動作できる。すなわち、抵抗変化型メモリとしての汎用性を高くできる。
【0128】
(ii)On/Off比
次に、抵抗変化型メモリ100のOn/Off比について説明する。On/Off比は、抵抗変化型メモリにOnデータ(後述)を書き込んだときのデータ読出電流と、Offデータ(後述)を書き込んだときのデータ読出電流との比である。
【0129】
以下の表3に、本実施形態の抵抗変化型メモリ100のOn/Off比を、Onデータ(後述)を書き込んだときのデータ読出電流と、Offデータ(後述)を書き込んだときのデータ読出電流とともに示す。また、比較例として、BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合のOn/Off値、BFMを強誘電体層1の材料として用いた場合のOn/Off値も示す。以下の例においては、
図6A〜
図6Cに示した電流−電圧特性において、負方向の第1電圧V
1(−7V)から印加電圧を正方向に変化して負方向の第2電圧V
2(−1.8V)となったときに抵抗変化型メモリ100に流れる電流値をOnデータ読み出し時のデータ読出電流としている。一方、Offデータ読み出し時のデータ読出電流は、正方向の第1電圧V
1(+7V)から印加電圧を負方向に変化して負方向の第2電圧V
2(−1.8V)となったときに抵抗変化型メモリ100に流れる電流値である。
【0131】
上記の表3に示すように、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合、On/Off比は大きく、データ読出電流の大きさを測定することにより、抵抗変化型メモリ100の強誘電体層1中の分極の向きをOnデータ又はOffデータとして区別して読み出すことができる。
【0132】
一方、BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合、On/Off比は大きいが、リーク電流が大きいためにデータ読出電流が大きくなっている。ただし、上記のように、特に正方向の印加電圧に対する電気特性が不安定である。そのため、BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合には、正又は負の方向により動作が非対称となることもあり、上記2つの動作モードの両方にて安定に動作させにくい。
【0133】
また、BFMを強誘電体層1の材料として用いた場合、On/Off値は小さく、
図6Bに示すように電流ヒステリシスは不安定である。そのため、BFMを強誘電体層1の材料として用いた抵抗変化型メモリ100は、他の強誘電体材料を用いた場合と比較して、抵抗変化型メモリとしては低い性能を有しているといえる。
【0134】
(iii)疲労特性
次に、本実施形態の抵抗変化型メモリ100において、何回データの書き込みと読み込みが可能であるかを調べた(疲労特性)。
本実施形態の抵抗変化型メモリ100の疲労特性は、以下のようにして測定した。本実施形態においては、メモリ動作モードの第2動作モードを用いて疲労特性を測定した。
図12に示すように、まず、切替部97において端子aと端子bが接続されて、書込信号出力部91が、抵抗変化型メモリ100に負方向に第1電圧V
1(−7V)を有するパルス電圧(パルス幅:100μs.)を印加する。この結果、強誘電体層1において分極反転が発生し、抵抗変化型メモリ100にはOnデータが書き込まれる。次に、切替部97において端子aと端子cが接続されて、読出信号出力部93が、抵抗変化型メモリ100に負方向に第2電圧V
2(−1.8V)を有するパルス電圧(パルス幅:300ms.)を印加する。このとき、データ電流計測部95がデータ読出電流を計測する(Onデータ読み出し)。
【0135】
さらに、切替部97において再び端子aと端子bが接続されて、書込信号出力部91が正方向に第1電圧V
1(+7V)を有するパルス電圧を印加する。この結果、強誘電体層1において分極反転が発生し、抵抗変化型メモリ100にOffデータが書き込まれる。その後、切替部97において再び端子aと端子cが接続されて、読出信号出力部93が、負方向に第2電圧(−1.8V)を有するパルス電圧を印加する。このとき、データ電流計測部95が、データ読出電流を計測する(Offデータ読み出し)。
図12は、疲労特性を測定する際に抵抗変化型メモリに印加するパルス電圧の1サイクル分の波形を示す図である。
【0136】
上記の(i)Onデータ書き込み、(ii)Onデータ読み出し、(iii)Offデータ書き込み、(iv)Offデータ読み出し、という1サイクルを繰り返し実行し、各サイクルにおけるOnデータ読み出し時及びOffデータ読み出し時のデータ読出電流を測定し、各サイクルにおけるOn/Off比の変化により疲労特性を評価した。
【0137】
BNFを強誘電体層1の材料として用いた抵抗変化型メモリ100の疲労特性において、
図13に示すように、10万回(10
5回)程度上記のサイクルを繰り返しても、On/Off比がほとんど変化しない。この結果は、BNFを強誘電体層1の材料として用いた抵抗変化型メモリ100は、抵抗変化型メモリとして安定して動作可能であることを示している。
図13は、BNFを強誘電体層の材料として用いた抵抗変化型メモリの疲労特性を示す図である。
【0138】
また、以下の表4に、BNFを強誘電体層1の材料として用いた抵抗変化型メモリ100の疲労特性と、BFOを強誘電体層1の材料として用いた抵抗変化型メモリ100の疲労特性との比較結果を示す。
【0140】
上記の表4に示すように、BNFを強誘電体層1の材料として用いた場合、上記のサイクルを1万回(10
4回)以上繰り返してもOn/Off比が変化しない一方、BFOを強誘電体層1の材料として用いた場合、上記のサイクルを1000回(10
3回)程度繰り返すと、On/Off比が急激に減少していることが分かる。このように、BNFを強誘電体層1の材料として用いる(すなわち、BiFeO
3のBiの一部をNdなどの希土類金属により置換する)ことにより、強誘電体層1の化学的な安定性を向上して、抵抗変化型メモリ100の電気特性の安定性を向上できる。
【0141】
(4)第1実施形態の効果
第1実施形態の効果は、以下のように記載できる。
第1実施形態の抵抗変化型メモリ100(抵抗変化型メモリの一例)は、強誘電体層1(強誘電体層の一例)と、第1電極層3(第1電極層の一例)と、第2電極層5(第2電極層の一例)と、を備える。強誘電体層1は、BiFeO
3のBiの一部がNd又はErにより元素置換された強誘電体により形成される。第1電極層3は、強誘電体層1の第1主面P
1(第1主面の一例)上に形成される。また、第1電極層3は、第1エネルギー障壁E
1、E
1’、E
1’’(第1エネルギー障壁の一例)を有するように形成される。第2電極層5は、強誘電体層1の第2主面P
2(第2種面の一例)上に形成される。第2主面P
2は、強誘電体層1の主面のうち、第1主面P
1とは反対側の主面である。また、第2電極層5は、第2エネルギー障壁E
2、E
2’、E
2’’(第2エネルギー障壁の一例)を有するように形成されている。さらに、第1エネルギー障壁E
1、E
1’、E
1’’、及び、第2エネルギー障壁E
2、E
2’、E
2’’は、強誘電体層1の分極により変化する。
【0142】
抵抗変化型メモリ100においては、強誘電体層1に用いられているBiFeO
3のBiの一部がNd又はErにより元素置換されている。これにより、抵抗変化型メモリ100においては、化学的により安定な強誘電体層1を用いて、抵抗変化型メモリ100の動作をより安定にできる。
【0143】
また、抵抗変化型メモリ100においては、第1電極層3は、強誘電体層1の第1主面P
1上に、強誘電体層1の分極により変化する第1エネルギー障壁E
1、E
1’、E
1’’を有するよう形成される。一方、第2電極層5は、強誘電体層1の第2主面P
2上に、強誘電体層1の分極により変化する第2エネルギー障壁E
2、E
2’、E
2’’を有するように形成される。これにより、抵抗変化型メモリ100においては、界面層を形成することなくより簡単な構造により強誘電体層1の強誘電性に起因した電気特性を抵抗変化型メモリ100において発現できる。
【0144】
抵抗変化型メモリ100において、強誘電体層1は、結晶方位[00k]が第1主面P
1及び第2主面P
2に対して垂直に配向したペロブスカイト結晶構造を有している。これにより、強誘電体層1において分極が発生したときに、分極の向きをそろえることができる。すなわち、抵抗変化型メモリ100における分極の効果をより大きくできる。
【0145】
抵抗変化型メモリ100において、第1動作モードと第2動作モードとをメモリ動作モードとして含んでいてもよい。
第1動作モードは、第1電極層3の電位が第2電極層5の電位よりも高い正方向に第1電圧V
1(第1電圧の一例)を印加してONデータを書き込み、第1電極層3の電位が第2電極層5の電位よりも低い負方向に第1電圧V
1を印加してOFFデータを書き込み、正方向に第2電圧V
2(第2電圧の一例)を印加してデータを読み出す、メモリ動作モードである。第1電圧V
1は、強誘電体層1中において分極反転可能な電圧である。第2電圧は、強誘電体中において分極反転しない電圧である。
【0146】
第2動作モードは、負方向に第1電圧V
1を印加してONデータを書き込み、正方向に第1電圧V
1を印加してOFFデータを書き込み、負方向に第2電圧V
2を印加してデータを読み出すメモリ動作モードである。
【0147】
上記のように2つの動作モードをメモリ動作モードとして含むことにより、抵抗変化型メモリとしての汎用性を高くできる。
【0148】
抵抗変化型メモリ100の製造方法は、以下のステップを含む。
◎基材7(基材の一例)を準備するステップ。
◎基材7の第3主面P
3(第3主面の一例)上に第1電極層3を形成するステップ。
◎第1電極層3の第3主面P
3に面する主面とは反対側の主面と第1主面P
1とが接触して第1エネルギー障壁E
1を有するように、強誘電体であるBiFeO
3のBiの一部がNd又はErによって元素置換された強誘電体層1を形成するステップ。
◎第2主面P
2上に接触して第2エネルギー障壁E
2を有するように第2電極層5を形成するステップ。
【0149】
上記の抵抗変化型メモリ100の製造方法においては、基材7上に第1電極層3と、強誘電体層1と、第2電極層5とを形成して抵抗変化型メモリ100が形成される。これにより、上記の3つの層の形成条件をコントロールしつつ抵抗変化型メモリ100を製造できる。その結果、上記の各層の品質を高めて抵抗変化型メモリ100の電気特性をより向上できる。
【0150】
本実施形態において、強誘電体層1を形成するステップは、以下のステップを含んでいる。
◎Biと、Feと、Nd又はErと、Oとを少なくとも含む原料ターゲットT2(原料ターゲットの一例)にパルスレーザL(パルスレーザの一例)を照射して原料ターゲットT2から原料を昇華させるステップ。
◎昇華した原料を基材7に堆積して薄膜を形成するステップ。
【0151】
これにより、原料ターゲットT2における元素組成比と、強誘電体層1における元素組成比とのずれが小さい強誘電体層1を形成できる。すなわち、原料ターゲットの元素組成比を制御することにより、強誘電体層1における元素組成比を制御できる。
【0152】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【0153】
(A)強誘電体層の他の実施形態
上記の第1実施形態においては、強誘電体層1に用いられるBiFeO
3のBiの一部を希土類金属により元素置換した強誘電体材料において、当該強誘電体材料のペロブスカイト結晶構造の結晶方位[00k]が、強誘電体層1の第1主面P
1及び第2主面P
2に対して垂直に配向していた。しかし、これに限られず、十分な強誘電体特性を得られれば、上記の強誘電体材料の結晶方位は、強誘電体層1中においてランダムであってもよい。 強誘電体層1中の結晶方位をランダムとすることにより、抵抗変化型メモリ100をより安価に簡単な方法により大量生産できる。
【0154】
(B)抵抗変化型メモリの応用についての他の実施形態
第1実施形態においては、抵抗変化型メモリ100を抵抗変化型メモリとして用いた場合について主に説明した。しかし、これに限られない。
図7に示すように、本実施形態の抵抗変化型メモリ100は、光起電力特性についてもよい特性が得られていることから、抵抗変化型メモリ100を太陽電池や光センサとして用いることもできる。
また、上記のように、抵抗変化型メモリ100においては、強誘電体層1中の分極の向きにより、整流作用を制御できる(特に、整流作用の向きを制御できる)。従って、抵抗変化型メモリ100は、整流の向きをスイッチング可能な整流素子として用いることができる。
【0155】
(C)抵抗変化型メモリの製造方法についての他の実施形態
第1実施形態において説明した抵抗変化型メモリ100の製造方法において、第1実施形態に示した各条件は、製造装置の特性などに応じて適宜変更できる。