特許第6356508号(P6356508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356508
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】超音波探傷装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/265 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   G01N29/265
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-141208(P2014-141208)
(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公開番号】特開2016-17871(P2016-17871A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145816
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿股 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】渡部 和美
(72)【発明者】
【氏名】千星 淳
(72)【発明者】
【氏名】星 岳志
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−155360(JP,U)
【文献】 特開平06−238448(JP,A)
【文献】 特開2006−337063(JP,A)
【文献】 実開昭54−145184(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0204645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
G01N 27/72−27/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に溶接を有する円筒状構造物の前記溶接を外表面側から探傷検査する超音波探傷装置において、
前記円筒状構造物の外表面上を前記溶接に沿って移動し、所定間隔離間して配した複数の走行ユニットと、
前記各走行ユニットの走行部にそれぞれ設けられた走行ローラと、
隣接する前記各走行ユニット間を連結する連結バンドと、
前記走行ユニットとして、前記溶接部の欠陥を探傷する超音波探触子を有した探触子搭載ユニットと走行用の駆動源を有した駆動ユニットと、を少なくとも備え、
前記走行ユニットのなかで少なくとも前記探触子搭載ユニットに、サイドローラが搭載され、
前記走行ローラのなかで少なくとも前記探触子搭載ユニットにおける走行ローラとして、前記溶接部の溶接線に対して傾いた操舵角を持った斜行ローラが用いられ、
前記斜行ローラの走行と、前記溶接線と略平行に前記円筒状構造物の表面に設けられた突起物の案内面に摺接した前記サイドローラとによって、前記斜行ローラと前記サイドローラを搭載した前記走行ユニットが、前記溶接線に沿って案内される超音波探傷装置。
【請求項2】
前記斜行ローラを有する前記走行ユニットは、前記円筒状構造物の周方向において少なくとも2つの走行ローラを有し、そのうち少なくとも1つが前記斜行ローラである請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記斜行ローラを有する前記走行ユニットが、前記斜行ローラと操舵角の異なる第2の斜行ローラを有する請求項2に記載の超音波探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、円筒状構造物の端部同士を当接させて溶接した溶接部の探傷走査を行う超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントの蒸気タービンロータは、従来から、同一材質を用いた一体成形によって大型鍛造品として製造するのが通常であった。この蒸気タービンロータは、高温部には高温強度が要求されると共に、低温部には靭性が要求されるという条件を同時に満たす必要があり、製造するための材料としては特殊材料が用いられている。しかし、特殊材料を用いて製造を行うため、タービンロータの出力容量を一定以上大きくすることができず、コスト的にも不利なものがあった。また、大型鍛造品であるが故に、製造には長期の期間が必要であった。
【0003】
ところで近年は、蒸気タービンに対して出力の大容量化、低コスト化、納期の短縮化等のニーズが高まってきており、このニーズに応えるため、タービンロータの高温部に適した材料で製造した高温部材と低温部に適した材料で製造した低温部材との異種材同士を溶接して、一体的に形成した溶接ロータが次第に用いられつつある。
【0004】
しかし、溶接ロータの溶接部は、溶接作業の際に生じた不具合等に起因して欠陥が発生することがあり、この欠陥の存在により強度不足などの問題が発生する可能性がある。そのため、溶接部に対して超音波探傷などを用いた非破壊検査によって、溶接部の品質検査を行い、欠陥が発生していないことを確認することが重要になる。
異種材間を溶接した場合に、溶接箇所に生じる主な欠陥の種類としては、ブローホールや融合不良などがある。
【0005】
超音波探傷を用いた非破壊検査では、溶接ロータの製造時や据え付け現場での定期的なメンテナンスの際に、超音波探触子を手動または自走装置によって溶接線に沿って移動させながら溶接部の検査を行う。
【0006】
しかしながら、検査対象である溶接ロータは、直径が400mm程度のものから1000mmを超えるタイプのものまであり、溶接ロータの外表面における溶接長さとしては、約1m〜約3m超となる。
【0007】
このため、超音波探傷装置としては、直径が異なる各タイプの溶接ロータに対しても対応が可能であり、かつ、数mの距離を走査しても溶接線から逸脱することがなく移動できる走査機能を備えたものが求められている。
【0008】
走査機構を持つ従来の超音波探傷装置としては、例えば、自走機構を持った駆動ユニットと、超音波探触子を内蔵した探傷ユニットとを、長さ寸法が調整可能なベルトによって連結し、検査対象の表面にタイミングベルトを取り付け、このタイミングベルトに沿って駆動ユニットが自走可能に構成されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−170685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述のようなタイミングベルトを用いた装置の場合、様々な対象サイズの円筒状構造物に適用できるが、溶接線に沿った走査を成立させるには、歯付きのタイミングベルトを円筒状構造物に巻装し、これに噛合するタイミングプーリを走行装置に搭載する必要があり、探傷装置が大型化することになる。また、検査対象表面にタイミングベルトを設置するスペースが必要となる。
【0011】
これらのことから、本発明に係る実施形態では、様々なサイズの円筒状構造物である検査対象に対して適用することができ、簡素な構造で検査対象の周方向に沿った走査を可能とする超音波探傷装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る超音波探傷装置は、周方向に溶接を有する円筒状構造物の前記溶接を外表面側から探傷検査する超音波探傷装置において、前記円筒状構造物の外表面上を前記溶接に沿って移動し、所定間隔離間して配した複数の走行ユニットと、前記各走行ユニットの走行部にそれぞれ設けられた走行ローラと、隣接する前記各走行ユニット間を連結する連結バンドと、前記走行ユニットとして、前記溶接部の欠陥を探傷する超音波探触子を有した探触子搭載ユニットと走行用の駆動源を有した駆動ユニットと、を少なくとも備え、前記走行ユニットのなかで少なくとも前記探触子搭載ユニットに、サイドローラが搭載され、前記走行ローラのなかで少なくとも前記探触子搭載ユニットにおける走行ローラとして、前記溶接部の溶接線に対して傾いた操舵角を持った斜行ローラが用いられ、前記斜行ローラの走行と、前記溶接線と略平行に前記円筒状構造物の表面に設けられた突起物の案内面に摺接した前記サイドローラとによって、前記斜行ローラと前記サイドローラを搭載した前記走行ユニットが、前記溶接線に沿って案内されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態に係る超音波探傷装置は、各種サイズの円筒状構造物に対して適用することができ、かつ溶接部の溶接線に沿った探傷走査を簡素な構成で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】複数の走行ユニットを溶接ロータの周方向断面で示した断面図である。
図2】探触子搭載ユニットの走行ローラと走行方向を示した展開平面図である。
図3】探触子搭載ユニットの走行ローラとサイドローラの位置関係を示した溶接ロータの軸方向における要部断面図である。
図4】探触子搭載ユニットの進行方向を示した展開平面図である。
図5】斜行ローラの操舵機構を示した平面図である。
図6】連結バンドに関して、長さを調整する構成(a)、ロック状態を示す構成(b)を示した要部側面図である。
図7】探触子搭載ユニットの走行ローラの前輪と後輪の角度を示した展開平面図である。
図8】複数の走行ユニットにおける他の配置構成を溶接ロータの周方向断面で示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る超音波探傷装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下では、円筒状構造物の端部同士を溶接したものとして、ロータの構成を例に挙げて説明を行い、端部同士を溶接したものを溶接ロータとして呼ぶことにする。
【0016】
(実施形態1)
(全体構成及び作用)
図1図6を用いて実施形態1を説明する。図1は、超音波探傷装置1の構成を溶接ロータ10の軸方向断面図で示したものである。図3に示すように、溶接ロータ10は、第1ロータ10aと第2ロータ10bの端面同士を溶接して構成されている。第1ロータ10aと第2ロータ10bの溶接部12の欠陥を探傷するため、図1に示すように、超音波探傷装置1が、溶接ロータ10の外周面に配設されている。
【0017】
超音波探傷装置1は、溶接部12の欠陥を探傷する超音波探触子9を搭載した探触子搭載ユニット2と、図示せぬ駆動源を備えた駆動ユニット3と、走行補助ユニット4と、これらの各走行ユニット間を連結し、各走行ユニットを溶接ロータ10の外周面に沿って環状に配設する連結バンド5と、から構成されている。そして、各走行ユニットには、走行部として走行ローラ6がそれぞれ複数設けられている。このように、各走行ユニットと各走行ユニット間を連結する連結バンド5とによって、溶接ロータ10の周囲には複数の走行ユニットが環状に配置されている。
【0018】
駆動ユニット3の駆動源を駆動することによって、駆動ユニット3に設けた走行ローラ6が駆動されて、駆動ユニット3は走行することができる。駆動ユニット3が走行すると、駆動ユニット3以外の他の走行ユニットが連結バンド5を介して牽引され、溶接ロータ10の周囲を一体的に走行することができる。
【0019】
このように構成することによって、溶接ロータ10に接する部位は、超音波探触子9以外は走行ローラ6のみにすることができ、連結バンド5が溶接ロータ10側に撓んで接触することがない。そのため、複数の走行ユニットの走行時には滑り抵抗を低下させることができ、小さな動力源で走行する駆動ユニット3を構成することが可能になる。
【0020】
図1では、溶接ロータ10を間に挟んで、探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3とが対極した位置に配置構成されており、一対の走行補助ユニット4は、探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3との中間部で、互いに対極した位置に配置構成されている。
【0021】
即ち、探触子搭載ユニット2を0度の位置に配したとき、駆動ユニット3が180度の位置に配されることになる。そして、一対の走行補助ユニット4は、それぞれ90度と270度の位置に配されることになる。これにより、各走行ユニット2,3,4を等間隔に配置することができる。
【0022】
しかし、実施形態1における複数の走行ユニットの配置構成としては、図1に示した構成に限定されるものではない。
例えば、溶接ロータ10の外周径が大きな場合には、探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3との間にそれぞれ複数台の走行補助ユニット4を配した配置構成にしておくことができる。また、溶接ロータ10の外周径が小さな場合には、走行補助ユニット4を設けない配置構成にしておくことも、あるいは走行補助ユニット4を1台だけ用いて、探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3と1台の走行補助ユニット4を、等間隔に配した配置構成にしておくこともできる。
【0023】
連結バンド5は、伸長し難く、捩れ難く、また各走行ユニット間を連結した際には撓んで溶接ロータ10の外周面に接触せずに、各走行ユニットを溶接ロータ10の周囲に配置することができる構成のものであればよく、例えばタイミングベルトを用いた場合、タイミングベルトの板厚と横幅寸法の調整により、所望の剛性(伸び難さ、捩れ難さ、撓み難さ)が得られる。
【0024】
各走行ユニットにおける走行ローラ6の溶接ロータ10に対する接地圧(溶接ロータ10に対する押し付け圧)は、連結バンド5の引張り力を調整することによって調整することができる。また、溶接ロータ10が磁性体で構成されている場合には、各走行ユニット又は走行ローラ6に内蔵させた永久磁石や電磁石等の磁性部材における磁気吸引力を調整することによって、適宜の接地圧を得ることができる。
【0025】
また、図6に示す、連結バンド5の一端部を調整可能に固定する固定機構により、連結バンド5の引張り力を調整することができる。図6では、固定機構を走行ユニットに設けたものとして説明するが、固定機構は、駆動ユニット3や走行補助ユニット4の側端面に設けてもよい。
【0026】
固定機構としては、従来から周知の各種固定機構を用いることができる。図6では、連結バンド5を巻き付けて反転させる反転ローラ30と、反転ローラ30に対峙して配設した押圧ローラ31との組み合わせによって構成されている。反転ローラ30は、探触子搭載ユニット2から突設した支持部32に支持された回転軸30aを中心に回転自在に構成されている。また、押圧ローラ31は、探触子搭載ユニット2から突設した支持部33に支持された回転軸31aを中心に回転自在に構成されている。
【0027】
押圧ローラ31は、回転軸31aを中心とした円弧面と、円弧面における半径よりも大径の曲面と、を有するカム形状に形成されている。円弧面と大径の曲面とは、滑らかな面によって接続している。また、円弧面が反転ローラ30側に面したときには、円弧面と反転ローラ30の外周面との間に、連結バンド5が挿入できる隙間が形成でき、大径の曲面が反転ローラ30の外周面側に面したときには、大径の曲面と反転ローラ30の外周面との間で、連結バンド5を挟持して固定することができる。
【0028】
図6(a)は、円弧面が反転ローラ30側に面した状態を示しており、図6(b)は、大径の曲面が反転ローラ30側に面して、連結バンド5を挟持している状態を示している。図6(a)に示す状態で、連結バンド5の端部を矢印の方向に引っ張ることにより、連結バンド5に対して所望の引張り張力を付与することができる。そして、図6(a)の状態から押圧ローラ31を時計回り方向に回転させることで、連結バンド5の端部を固定機構で固定することができる。
【0029】
そして、図6(b)に示すように連結バンド5に対して引張り力が作用しても、連結バンド5の端部は固定機構から外れることがなく、連結バンド5に付与した引張り張力を維持することができる。
【0030】
大径の曲面に波状の突起を形成しておくこともできる。波状の突起を大径の曲面に形成しておくことにより、大径の曲面を反転ローラ30の外周面側に対向させた際には、波状の突起が、連結バンド5に噛み込むことになり、連結バンド5の固定状態をより強固に維持することができる。
【0031】
(探触子搭載ユニット2の構成及び作用)
図2は、溶接ロータ10を周方向に展開したときの展開平面図を示している。なお、図2において、連結バンド5や駆動ユニット3、走行補助ユニット4の図示は省略している。探触子搭載ユニット2は、一対の前輪ローラ6aと一対の後輪ローラ6bとを備えて構成されており、一対の前輪ローラ6a及び後輪ローラ6bは、それぞれ溶接部12を跨いだ状態に配設されている。
【0032】
そして、前輪ローラ6aの走行方向27は、探触子搭載ユニット2の前進方向に対して、即ち、溶接部12の溶接部中心軸である溶接線12a方向に対して、操舵角Tθだけ傾けて斜行するように構成されている。後輪ローラ6bの走行方向は、溶接線12aと平行に構成されている。
【0033】
斜行ローラとして構成された前輪ローラ6aの操舵角Tθは、図2に示すように前輪ローラ6aを軸支している車軸15を傾けた構成にすることによって設定することができる。また、例えば、図5に示すようなリンク機構を採用することによって設定することができる。図5に示したリンク機構では、前輪ローラ6a用の車軸15の先端部に回動軸21を介してL型リンク17の屈折部を回動自在に支持している。L型リンク17の一端部には、前輪ローラ6aが回転自在に支持され、他端部には、連結リング20を介してリンク杆18b、18cの一端部がそれぞれ回動自在に支持されている。
【0034】
各リンク杆18b、18cの他端部は、回転軸19回りに回転するリンク杆18aの両端部に、それぞれ連結リング20を介して回動自在に連結されている。回転軸19は、探触子搭載ユニット2に設置されている。
【0035】
リンク杆18aを回転軸19回りに回転させることにより、一対の前輪ローラ6aにおける操舵角Tθが所望の操舵角となるように設定することができる。一対の前輪ローラ6aの操舵角Tθを設定した後に、リンク杆18a〜18cのいずれかを動かないように固定しておくことにより、一対の前輪ローラ6aにおける操舵角Tθを固定することができる。
【0036】
なお、一対の前輪ローラ6aの操舵角Tθを設定する設定機構としては、図5に示したリンク機構のように、前輪ロータ6aを回転自在に支持している回転軸、即ち、L型リンク17の一端部のみを傾ける構成の代わりに、図2に示すように、車軸15を傾ける構成を採用することができる。そのため、操舵角Tθを与える構成としては、図5に示したリンク機構以外にも、従来から公知の設定機構を採用することができる。
【0037】
また、前輪ローラ6aの操舵角Tθは、溶接ロータ10の外表面における表面粗さ等の条件や、溶接ロータ10の外周径の大きさ等の条件に応じて、その条件に合った最適の操舵角Tθを設定することができる。そして、最適の操舵角Tθを設定することによって、タイプの異なる各種の溶接ロータ10に対しても、本発明に係る実施形態を適用することができる。
【0038】
(サイドローラの構成及び作用)
探触子搭載ユニット2の前輪ローラ6aに操舵角Tθを持たせておくと、駆動ユニット3からの牽引力により、図2に示すように、探触子搭載ユニット2は溶接線12aから離れて走行方向27方向に移動してしまうことになる。そこで、本実施形態では、図3に示すように溶接ロータ10の外周面に設けた突起物22の側端面を利用して、探触子搭載ユニット2の走行方向27が溶接線12aと平行になるように構成している。
【0039】
突起物22としては、溶接ロータ10の外表面に設けられている、例えば、タービン翼の植込部などである。植込み部が外表面にない位置が溶接されるタイプでは、突起物22として強化ベルトを溶接ロータ10の外表面に巻装させて固定した構成にすることもできる。強化ベルトとしては、連結バンド5に用いたタイミングベルト等を使用することができる。
【0040】
探触子搭載ユニット2には、突起物22側に突出する支持部8が設けられており、支持部8の先端部には、突起物22の側端面に摺接するサイドローラ7が回転自在に設けられている。サイドローラ7は、例えば截頭錐体の形状に構成されており、サイドローラ7の先端部は小径に形成され、基端側は大径に形成されている。
【0041】
そして、サイドローラ7の側面7aが、突起物22の側端面に摺接することができる。サイドローラ7の突起物22の側端面への摺接は、探触子搭載ユニット2の前輪ローラ6aに操舵角Tθを持たせたことによって行わせることができる。
【0042】
また、サイドローラ7の側面7aが突起物22の側端面に摺接することにより、サイドローラ7と突起物22のとの間では、水平方向の反力と上下方向の反力とが作用することになる。そして、サイドローラ7が突起物22の側端面との間では、二方向から反力が働くことになるので、サイドローラ7が突起物22の側端面から離間するのを防止できる。即ち、サイドローラ7の突起物22の側端面への摺接状態が、探触子搭載ユニット2の前輪ローラ6aに操舵角Tθを持たせた構成と、サイドローラ7とによって維持されることになる。
【0043】
このように、サイドローラ7を探触子搭載ユニット2に設け、サイドローラ7を溶接ロータ10に設けた突起物22の側端面に摺接させることにより、探触子搭載ユニット2の前輪ローラ6aに持たせた操舵角Tθによって、探触子搭載ユニット2が突起物22側に移動しようとしても、突起物22側への移動は、サイドローラ7と突起物22の側端面とによって規制されることになる。
【0044】
そして、図4に示すように、探触子搭載ユニット2の走行方向27は、溶接線12aと平行な方向になる。そして、前輪ローラ6aは、横滑りを行いながら走査方向26に進行することができる。これによって、探触子搭載ユニット2の走査方向26は、溶接線12aに沿った方向になることができる。
なお、図4においても図2と同様に、連結バンド5や駆動ユニット4、走行補助ユニット4の図示は省略している。
【0045】
サイドローラ7の配設個数としては、図4に示すように1個の配置構成にすることも、図5に示すように2個の配置構成にすることもできるが、探触子搭載ユニット2の走査方向26における長さ寸法に応じて、サイドローラ7を走査方向26に沿って適宜数配設しておくことができる。
【0046】
また、支持部8の先端部に、二股部材又は三股部材等の複数股に分岐した部材を設け、その分岐起点側を回動自在に軸支しておき、複数股に分岐した部材の先端部にそれぞれサイドローラ7を回動自在に支持した構成にしておくこともできる。更には、サイドローラ7に対して突起物22の側端面側に向かって付勢する付勢力を付与した構成にしておくこともできる。
【0047】
溶接部12の中心軸と突起物22との間隔は、溶接ロータのタイプによって異なるが、探触子搭載ユニット2とサイドローラ7との間にスペーサを設けた構成にしておくことによって、この間隔差を調整することができる。
【0048】
以上の説明では、サイドローラ7を探触子搭載ユニット2に設けた構成、及び探触子搭載ユニット2における一対の前輪ローラ6aに操舵角Tθを持たせた構成について説明を行ったが、駆動ユニット3や走行補助ユニット4に対してサイドローラ7を配設した構成にしておくことも、また、駆動ユニット3や走行補助ユニット4における一対の前輪ローラ6aに対して操舵角Tθを持たせた構成にしておくこともできる。
【0049】
このような走行ローラ6における前輪ローラ6aに操舵角Tθを持たせることによって、溶接ロータ10の周方向への移動に加えて軸方向への移動成分を発生させることができる。前輪ローラ6aに操舵角Tθを持たせただけの構成だと、探触子搭載ユニット2の移動方向は、図2に示す走行方向27となるが、溶接ロータ10の軸方向への移動力は、サイドローラ7が突起物22を起点として支えるため、探触子搭載ユニット2は突起物22を押圧しながらピッチ走行することができる。即ち、例えば、1mmピッチでの走行を行うことができ、各ピッチを移動させた毎に、溶接部12の走査を行うことができる。
【0050】
そして、溶接部12の中心軸に沿って探触子搭載ユニット2は移動することができる。図示例では、探触子の構成についての説明を省略しているが、探触子搭載ユニット2がピッチ走行する毎に、溶接ロータ10の軸方向に探触子をスライドさせることができる構成にしておくこともできる。探触子搭載ユニット2に搭載した探触子の構成としては、従来から公知の適宜の構成を採用することができる。
【0051】
(効果)
このように、走行ローラ6の前輪ローラ6aに操舵角を持たせた配置構成と、前輪ローラ6aの斜行方向にサイドローラ7を設けて、前輪ローラ6aの斜行方向に設けた突起物22に摺接させるという簡単な構成によって、円筒状構造物専用の移動機構を設けることなく、溶接部12の溶接線12aに沿った探傷走査を超音波探傷装置1によって行うことが可能になる。
また、斜行させた前輪ローラ6aとサイドローラ7を有することにより、探傷装置の移動中に、移動方向が溶接線12aに対して斜めになってしまうことがない。
【0052】
上記説明では、探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3とを別体として構成した場合について説明を行った。探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3とを別体に構成しておくことにより、探触子搭載ユニット2自体及び駆動ユニット3自体の重量をそれぞれ軽減させることはできるが、必要に応じて探触子搭載ユニット2に走行ローラ6を駆動する駆動機構を備えた構成にしておくこともできる。
【0053】
探触子搭載ユニット2に走行ローラ6を駆動する駆動機構を備えた構成にした場合には、少なくとも1つ以上の走行補助ユニット4を用いて、溶接ロータ10の外周面を連結バンド5によって環状に取り囲むように配設しておくことができる。
【0054】
(実施形態2)
次に図7を用いて、本発明の実施形態に係る超音波探傷装置の実施形態2を説明する。実施形態2では、操舵角を持たせた構成として、前輪ローラ6a以外に後輪ローラ6bにも操舵角を持たせた斜行ローラの構成になっている。他の構成は、実施形態1と同様の構成になっているので、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
なお、実施形態2の説明に関しても、探触子搭載ユニット2の構成を用いて説明を行うが、探触子搭載ユニット2に設けた構成を駆動ユニット3、走行補助ユニット4に対して設けておくこともできる。
【0056】
(構成)
図7は、溶接ロータ10を周方向に展開したときの平面図を示している。なお、図7においても図2と同様に、連結バンド5や駆動ユニット4、走行補助ユニット4の図示は省略している。
【0057】
探触子搭載ユニット2の前輪ローラ6aに対して、探触子搭載ユニット2の前進方向への操舵角Tθを持たせた構成にすると共に、後輪ローラ6bに対しても、探触子搭載ユニット2の後進方向に対して操舵角Tθ’を持たせた構成にしている。
【0058】
後輪ローラ6bに操舵角Tθ’を持たせた構成にすることにより、探触子搭載ユニット2が後退動する際には、後輪ローラ6bに持たせた操舵角Tθ’によって、探触子搭載ユニット2を突起物22側に向く付勢力を与えられる。他の構成は、実施形態1における構成と同様の構成になっている。
【0059】
後輪ローラ6bの操舵角Tθ’は、図7に示すように後輪ローラ6bを軸支している車軸15を傾けた構成によって設定することができる。また、例えば、図5に示すようなリンク機構を後輪ローラ6bに対しても設けることによって、設定することができる。
【0060】
図7では、探触子搭載ユニット2に設けたサイドローラ7の数を1つにした構成例を示しているが、サイドローラ7の設置数としては1つに限定されるものではなく、図5に示したように2個設置することも、探触子搭載ユニット2の走査方向26に沿って複数個並列に設置することもできる。
【0061】
(作用、効果)
前輪ローラ6aに操舵角Tθを持たせておくことにより、実施形態1で説明したように、探触子搭載ユニット2の前進時には、探触子搭載ユニット2を確実に突起物22の側端面における案内面にガイドされながら、溶接部12の溶接線(図2参照)に沿って移動させることができる。
【0062】
即ち、探触子搭載ユニット2の前進時には、前輪ローラ6aは突起物22側に寄る斜め方向に走行しながら、横滑りを行いながら走査方向26の方向に移動する。この時、後輪ローラ6bは、突起物22から離れる方向に移動することになるが、図1で示した連結バンド5によって、後輪ローラ6bの移動成分の内、突起物22から離れる方向への成分は抑制されることになる。
【0063】
しかも、走行ユニット同士は連結バンド5によって互いに引っ張られた配置構成になっているので、複数の走行ユニットは、全て溶接線12aに沿った状態での走行が可能となる。
【0064】
同様に、後輪ローラ6bに操舵角Tθ’を持たせておくことにより、探触子搭載ユニット2の後進時には、探触子搭載ユニット2は、確実に突起物22の側端面に案内されながら、溶接部12の溶接線(図2参照)に沿って移動することができる。
【0065】
このように、前輪ローラ6aと後輪ローラ6bとにそれぞれ操舵角Tθ、Tθ’を持たせた配置構成によって、複数の走行ユニットの進行方向を逆にしても、例えば1mmピッチでの移動時には、サイドローラ7は突起物22を押しながら摺接して、探触子搭載ユニット2は走査方向26に沿って移動することができる。そのため、超音波探傷装置1としては、溶接部12に対して正転方向に沿った探傷走査を行うことも、逆転方向に沿った探傷走査を行うこともできる。
【0066】
また、前輪ローラ6aの操舵角Tθ及び後輪ローラ6bの操舵角Tθ’は、溶接ロータ10の外表面における表面粗さ等の条件や、溶接ロータ10の外周径の大きさ等の条件に応じて、その条件に合った最適の操舵角Tθ、Tθ’を設定することができる。そして、最適の操舵角Tθ、Tθ’を設定することによって、タイプの異なる各種の溶接ロータ10に対しても、本発明に係る実施形態を適用することができる。
【0067】
(実施形態3)
次に図8を用いて、本発明の実施形態に係る超音波探傷装置の実施形態3を説明する。実施形態3では、駆動ユニット3の配置構成として、探触子搭載ユニット2の近傍に配した配置構成になっている。他の構成は、実施形態1、2と同様の構成になっているので、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0068】
(構成)
図1に示した実施形態1では、溶接ロータ10を間に挟んで、探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3とを対極に配置した位置関係になっているが、実施形態3では、駆動ユニット3を探触子搭載ユニット2に近接させた位置関係に配置している。走行補助ユニット4は、探触子搭載ユニット2を0度の位置に配したときには、図示例では、90度、180度、270度の位置に配している。
【0069】
そして、複数の走行ユニットは、溶接ロータ10の周囲に環状に配されている。
なお、走行補助ユニット4の配置位置を変えずに、探触子搭載ユニット2と駆動ユニット3との中間位置が0度の位置となるように配した配置関係に構成しておくこともできる。
【0070】
(作用、効果)
駆動源となる駆動ユニット3を探触子搭載ユニット2の近傍に配することによって、駆動ユニット3からの牽引力や押圧力をダイレクトに探触子搭載ユニット2に対して伝達させることができる。これによって、探触子搭載ユニット2の移動をスムーズに行わせることができる。
【0071】
このように構成することによって、溶接ロータ10に接する部位は、超音波探触子9以外は走行ローラ6のみにすることができ、連結バンド5が溶接ロータ10側に撓んで接触することがないので、複数の走行ユニットの走行時には滑り抵抗が低下して、小さな動力源で走行する駆動ユニット3を構成することができる。
【0072】
以上では、溶接ロータ10の構成を用いて説明を行ったが、本発明に係る実施形態としては、溶接ロータ10に限定されるものではなく、円筒状構造物の端部同士を溶接した溶接部の探傷装置として適用することができる。
【0073】
また、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、組み合わせ、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0074】
例えば、探触子搭載ユニット2、駆動ユニット3は別個の構成要素として説明したが、双方の機能を有する走行ユニットとして構成してもよい。この際、例えば兼用としたユニットを2つ用いて対極に配置すると、全体の重量バランスをとりつつ探傷を実施する速度を高めることができる。あるいは、駆動ユニット3よりも小出力の駆動機構を探触子搭載ユニット2に搭載すると、全体重量や重量バランスを大きく変化させることなく、装置の駆動力を高めることができる。これらの構成は、装置を適用する対象がより大型の場合に特に有効である。
【符号の説明】
【0075】
1…超音波探傷装置、2…探触子搭載ユニット、3…駆動ユニット、4…走行補助ユニット、5…連結バンド、6…走行ローラ、6a…前輪ローラ、6b…後輪ローラ、7…サイドローラ、9…超音波探触子、10…溶接ロータ、12…溶接部、12a…溶接線、22…突起物、26…走査方向、27…走行方向、Tθ、Tθ’…操舵角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8