(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合物に機械的エネルギーを加えてメカノケミカル反応により、前記活物質粒子の表面の少なくとも一部に前記酸化物系固体電解質粒子を結合させる方法が、混合容器と前記混合容器内に配置された押圧治具とを含む粒子複合化装置を用いて、前記混合容器の内壁と前記押圧治具との間で、前記混合物に圧縮及びせん断の力を作用させることを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従来、酸化物系全固体電池において、リチウムイオンを伝導させるためには、酸化物系固体電解質の粒子間を強固に結合させることが必要であり、酸化物系固体電解質を焼成して焼結させることが行われている。一方で、全固体電池の電極において、活物質単体ではリチウムイオン伝導度が不足しやすい。そこで、リチウムイオン伝導度を補うため、活物質と固体電解質を混合することが行われている。
【0012】
例えば、(Li
1+x+z(Al,Ga)
x(Ti,Ge)
2-xSi
ZP
3-ZO
12(0≦x≦1、0≦z≦1)(LATP)はリチウムイオン伝導度が10
-3S/cmと高く、酸化物系固体電解質として有望な材料であるが、加圧して600℃以上または常圧で900℃以上という高温で焼成して焼結させる必要があり、このような高温になると、活物質材料と酸化物系固体電解質材料とが反応して、反応相(異相)が生成するため、酸化物系固体電解質を含む全固体電池において、高い電池容量を得ることが難しかった。
【0013】
本開示の一実施形態は、活物質粒子及び酸化物系固体電解質粒子を準備する工程、活物質粒子及び酸化物系固体電解質粒子を混合し、得られた混合物に機械的エネルギーを加えてメカノケミカル反応により活物質粒子の表面の少なくとも一部に酸化物系固体電解質粒子を結合させて、酸化物系固体電解質粒子で表面の少なくとも一部が被覆された被覆活物質粒子を作製する被覆工程、並びにエアロゾルデポジション法を用いて、被覆活物質粒子を基板上に噴射して電極を成膜する成膜工程、を含む、全固体電池用電極の製造方法を対象とする。
【0014】
本開示の一実施形態によれば、焼成を行わずに活物質及び酸化物系固体電解質を含む電極膜を作製することができるので、活物質と酸化物系固体電解質との反応を防止することができ、従来よりも高容量の全固体電池を得るための電極を得ることができる。本開示の一実施形態によればまた、メカノケミカル反応により活物質粒子の表面の少なくとも一部に酸化物系固体電解質粒子を結合させて酸化物系固体電解質粒子で表面の少なくとも一部が被覆された被覆活物質粒子を用いて、エアロゾルデポジション法(以下、AD法ともいう)を用いて電極膜を成膜するため、活物質及び酸化物系固体電解質の分散性に優れた電極膜を得ることができる。
【0015】
準備工程で準備する活物質粒子は、正極活物質または負極活物質であることができ、全固体電池の電極活物質として利用可能な材料であることができる。活物質粒子の材料として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、Li
1+xMn
2-x-yM
yO
4(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li−Mnスピネル、チタン酸リチウム(Li
xTiO
y)、リン酸金属リチウム(LiMPO
4、MはFe、Mn、Co、またはNi)、酸化バナジウム(V
2O
5)及び酸化モリブデン(MoO
3)等の遷移金属酸化物、硫化チタン(TiS
2)、リチウムコバルト窒化物(LiCoN)、リチウムシリコン酸化物(Li
xSi
yO
z)、リチウム金属(Li)、リチウム合金(LiM、Mは、Sn、Si、Al、Ge、Sb、またはP)、リチウム貯蔵性金属間化合物(Mg
xMまたはNySb、MはSn、Ge、またはSb、NはIn、Cu、またはMn)等、並びにこれらの誘導体が挙げられる。
【0016】
正極活物質と負極活物質には明確な区別はなく、2種類の充放電電位を比較して、充放電電位が貴な電位を示すものを正極活物質層に、卑な電位を示すものを負極活物質層に用いて、任意の電圧の電池を構成することができる。
【0017】
準備工程で準備する活物質粒子は、好ましくは0.5μm〜100μm、より好ましくは1μm〜50μm、さらに好ましくは5μm〜20μmの平均粒子径(メジアン径D50)(以下、単に粒径ともいう)を有する。このような粒径を有する活物質粒子を用いることによって、AD法を用いて電極を成膜する際の成膜レートをより向上することができる。
【0018】
準備工程で準備する酸化物系固体電解質としては、Li
2O−B
2O
3−P
2O
5、Li
2O−SiO
2、Li
2O−B
2O
3、若しくはLi
2O−B
2O
3−ZnO等の酸化物系非晶質固体電解質、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3、(Li
1+x+z(Al,Ga)
x(Ti,Ge)
2-xSi
ZP
3-ZO
12(0≦x≦1、0≦z≦1)(LATP)、[(B
1/2Li
1/2)
1-zC
z]TiO
3(Bは、La、Pr、Nd、またはSm、CはSrまたはBa、0≦z≦0.5)、Li
5La
3Ta
2O
12、Li
7La
3Zr
2O
12、Li
6BaLa
2Ta
2O
12、若しくはLi
3.6Si
0.6P
0.4O
4等の結晶質酸化物等が挙げられる。
【0019】
準備工程で準備する酸化物系固体電解質粒子は、好ましくは50nm〜5μmの粒径、より好ましくは200nm〜1μmの粒径を有する。活物質粒子:酸化物系固体電解質粒子の粒径比は、好ましくは1000:1〜1:1、より好ましくは100:1〜10:1の範囲内である。このような粒径を有する酸化物系固体電解質粒子を用いることによって、被覆工程において、活物質粒子の表面への酸化物系固体電解質粒子の被覆割合をより大きくすることができ、成膜工程でより均一な分散性を有する電極膜を得ることができる。
【0020】
活物質粒子及び酸化物系固体電解質粒子の平均粒子径(D50)は、レーザー回折散乱式粒度分布計または走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真を用いて求めることができる。酸化物系固体電解質粒子を被覆した活物質粒子の全体の平均粒径及び表面の酸化物系固体電解質粒子の平均粒径は、SEM観察写真から測定することができる。
【0021】
被覆工程においては、活物質粒子及び酸化物系固体電解質粒子を混合して混合物を得て、混合物に機械的エネルギーを加えてメカノケミカル反応により活物質粒子の表面の少なくとも一部に酸化物系固体電解質粒子を結合させて、酸化物系固体電解質粒子で表面の少なくとも一部が被覆された被覆活物質粒子を作製する。
【0022】
被覆工程においては、活物質粒子の表面の面積の好ましくは25%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは50%以上、さらにより好ましくは60%以上、さらにより好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、さらにより好ましくは実質的に100%を酸化物系固体電解質粒子で被覆して、被覆活物質粒子を作製する。酸化物系固体電解質粒子で活物質粒子の表面を被覆する面積割合が大きいほど、成膜工程において活物質及び酸化物系固体電解質がより均一に分散した電極膜を得ることができる。
【0023】
活物質粒子と酸化物系固体電解質粒子を単に混合したものを、AD法を用いて基板上に成膜する場合、活物質粒子と酸化物系固体電解質粒子の基板への付着しやすさの違い等による成膜レートの違いにより、均一な組成を有する電極膜を得ることが難しい。概して活物質粒子に比べて酸化物系固体電解質粒子の方が基板に付着しやすい。これに対して、被覆工程において、メカノケミカル反応により活物質粒子の表面の少なくとも一部に酸化物系固体電解質粒子を結合させて、活物質と酸化物系固体電解質とを組み合わせた複合粒子を、AD法を用いて基板上に成膜すると、従来よりも均一な組成を有する電極膜を得ることできる。
【0024】
活物質粒子の表面への酸化物系固体電解質粒子の被覆厚みの下限は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上である。このような被覆厚みにすることによって、成膜工程において、より良好な成膜レートで電極膜を成膜することができる。酸化物系固体電解質粒子の被覆厚みの上限は、得られる電極膜において酸化物系固体電解質が多すぎないようにする組成の観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下、さらにより好ましくは1μm以下である。
【0025】
被覆工程においては、混合物に機械的エネルギーを加えてメカノケミカル反応を生じさせ、活物質粒子の表面の少なくとも一部に酸化物系固体電解質粒子を結合させる。活物質粒子及び酸化物系固体電解質粒子を適当な配合比で混合し、混合物に対して、衝撃、圧縮、せん断等の機械的エネルギーを付与し混合物を攪拌する方法が用いられる。
【0026】
被覆工程においては、焼成による焼結プロセスを要しないので、活物質粒子と酸化物系固体電解質粒子とが反応して反応相(異相)が生成されない。機械的エネルギーを付与する際に摩擦熱等により温度が上がるような場合は、反応相(異相)が生成しないように、活物質粒子及び酸化物系固体電解質粒子に機械的エネルギーを加える容器内の温度を、水冷等により、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは200℃以下、さらにより好ましくは100℃以下、さらにより好ましくは常温に保持する。
【0027】
混合物に付与される衝撃、圧縮、せん断等の機械的エネルギーの程度は、攪拌中の混合物にメカノケミカル反応を生じさせ、活物質粒子の表面の少なくとも一部に酸化物系固体電解質粒子を結合させて、酸化物系固体電解質粒子が活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆するように固定され、AD法で所定の分散性を有して成膜可能な複合粒子が得られる範囲であればよく、それ以外では特に限定されるものではない。
【0028】
メカノケミカル反応とは、対象物質に機械的エネルギーを与えることで物質の物理化学的性質の変化、及び周囲の物質との反応を生じさせる現象を利用した反応である。例えば、衝撃、圧縮、せん断等の力が生じ得る機械的エネルギーを固体に加えると、固体の表面の結晶構造が変化し、あるいは固体の表面が活性化され物理化学的性質が変化して周囲との界面で化学反応を起こし得る。
【0029】
被覆工程で用いられ得る装置としては、混合物に衝撃、圧縮、せん断等の機械的エネルギーを付与してメカノケミカル反応を生じさせ得る装置であればよく、特に限定されないが、好ましくは、ボールミル、「メカノフュージョンシステム」(ホソカワミクロン株式会社製)、「ノビルタ」(ホソカワミクロン株式会社製)、「ハイブリダイゼーションシステム」(株式会社奈良機械製作所製)等の圧縮せん断式加工装置(粒子複合化装置)が挙げられる。この中でもメカノケミカル効果を効果的に付与することができるメカノフュージョンシステム」、「ノビルタ」、及び「ハイブリダイゼーション」がより好ましく、「メカノフュージョンシステム」、「ノビルタ」がさらに好ましく、「ノビルタ」がさらにより好ましい。
【0030】
「ハイブリダイゼーションシステム」は、高速気流中衝撃法と呼ばれる高速気流中で粒子にメカノケミカル効果を発現させる複合化技術を用いた粒子複合化装置である。ハイブリダイゼーションシステムにおいては、高速回転するローター、ステーター、及び循環回路を含む装置内に原料粒子を投入し、原料粒子を装置内に分散させながら衝撃、圧縮、せん断等の機械的エネルギーを付与しつつ、短時間で攪拌することができる。装置内に投入された原料粒子は高速回転ローターによって衝撃を受けて気流とともに外周部へと運ばれる。外周部には循環経路が設けられており,原料粒子は気流と共に再びローター中心部へ移送され同様な衝撃作用を受ける。この繰り返し作用によりメカノケミカル効果が原料粒子に付与される。ローターの回転速度、処理時間、仕込量、循環ガス等の条件を適宜調節することができる。
【0031】
「メカノフュージョンシステム」は、複数の異なる素材粒子にメカニカルエネルギーを加えて、メカノケミカル的な反応を起こさせる乾式機械的複合化技術を用いた粒子複合化装置である。メカノフュージョンシステムにおいては、回転容器に投入された粉体原料は、遠心力によって容器内壁に固定され、プレスヘッドによって繰返し強力な圧縮・せん断力を与えられることにより、メカノケミカル効果が原料粒子に付与される。循環型では、回転ローター壁面のスリットを通ってローターの外側に送られた粉体原料がローターに取り付けられた循環用ブレードによって上部に搬送され、回転ローター内に戻されることにより、再びプレスヘッドから強力な力を受ける。「メカノフュージョンシステム」が好ましい理由として、回転容器の内壁とプレスヘッドとの間で原料粒子に大きな圧縮・せん断力が加えられ、AD法で成膜するにあたり十分な被覆率及び付着強度を備えた被覆活物質粒子をもたらすメカノケミカル効果が得られる点にある。このように、原料粒子の循環と圧縮・せん断処理が高速で繰り返されることで粒子複合化が進行する。すなわち、機械的作用を与えられ活性化した核粒子表面に異種微粒子が付着する段階、ある程度異種微粒子が核粒子の表面に付着した後に、さらに微粒子が積層されるとともに微粒子層自体が圧密されて複合微粒子層が形成される段階を経ることにより、接合界面が強固な複合粒子が作製できる。ローターの回転速度、プレスヘッドのプレス圧力、処理時間、仕込量等の条件を適宜調節することができる。
【0032】
「ノビルタ」は、「メカノフュージョンシステム」をベースにして粒子複合化技術を発展させたメカノケミカルボンディング(登録商標)と呼ばれる乾式機械的複合化技術を用いた粒子複合化装置である。メカノケミカルボンディング(登録商標)とは、複数の原料粉末に、衝撃、圧縮、及びせん断の機械的エネルギーを付与して、メカノケミカル的に分子レベルで結合させ、その界面で強固なナノ結合を創成し、複合微粒子を製造する技術である。
【0033】
「ノビルタ」においては、水平円筒状の混合容器内で、混合容器の内壁との間に所定の間隙を有するように配置されたローターが高速回転し、原料粒子に対して、間隙を強制的に通過させる処理を複数回繰返すことにより、混合物に衝撃、圧縮、せん断の力を作用させて、メカノケミカル効果が原料粒子に付与され、活物質粒子と酸化物系固体電解質粒子とをメカノケミカル的な作用により結合することができる。「ノビルタ」が好ましい理由として、混合容器の内壁と回転ローターとの間隙を、原料粒子が強制的に通過させられる処理により、原料粒子に大きな圧縮・せん断力が加えられ、AD法で成膜するにあたり十分な被覆率及び付着強度を備えた被覆活物質粒子をもたらすメカノケミカル効果が得られ、特にナノオーダーの原料粒子をより複合化しやすい点にある。ローターの回転速度、処理時間、仕込量等の条件を適宜調節することができる。本体ケーシングは、水冷ジャケット構造になっており、弱熱性原料に高いエネルギーを加えても原料の温度上昇を抑制することができる。「メカノフュージョンシステム」及び「ノビルタ」の共通構成として、混合容器の内壁とプレスヘッドまたはローターという押圧治具との間で、活物質粒子及び酸化物系固体電解質粒子の混合物(原料粒子)に、大きな圧縮及びせん断の力を加えることが含まれる。
【0034】
ボールミルでは、複数の原料粒子をジルコニアボール等の所定の重量及び径を有する玉石と共に、所定の径を有するポッド(ミルポッド)に、乾式の状態で投入する。ボールミル装置を用いて所定の回転数でポッドを回転させ、原料粒子を所定時間混合する。その際には、粒子の温度が上昇して粒子径が大きくなるのを防ぐために、ポットを水冷しつつ回転させることが望ましい。これにより、活物質粒子の表面に酸化物系固体電解質粒子が埋め込まれ、被覆活物質粒子を得ることができる。
【0035】
ボールミルの場合、ある程度のメカノケミカル作用は得られるものの、「メカノフュージョンシステム」、「ノビルタ」、及び「ハイブリダイゼーション」に比べて、メカノケミカル作用が弱く、一方で、原料粒子の粉砕が進みやすいため、粉砕により活物質粒子の大きさが小さくなりすぎないようにし、且つ活物質粒子の表面を酸化物系固体電解質粒子で被覆する面積割合を大きくするために、「メカノフュージョンシステム」、「ノビルタ」、及び「ハイブリダイゼーション」に比べて長時間の処理を要する。したがって、ボールミルは、比較的延性に富む原料粒子を複合化するときに好ましく用いられる。
【0036】
上記方法に代えて、単に乳鉢混合しただけでは、AD法による成膜が可能な程度のメカノケミカル作用が得られず、活物質の表面に所定量の酸化物系固体電解質を被覆することが難しく、成膜工程においてAD法で基板に電極膜を成膜すると、基板上に未付着部分が部分的に発生し得る。基板上に未付着部分が部分的に発生するのは、活物質が比較的硬い材料であるため、活物質粒子の表面の少なくとも一部が酸化物系固体電解質で被覆されていないと、基板によっては、活物質粒子が基板に衝突すると、はじかれてしまうためと考えられる。
【0037】
被覆工程において、活物質粒子に対する酸化物系固体電解質の仕込み割合は、活物質粒子100に対して、質量比で、下限が、好ましくは2以上、より好ましくは5以上であり、上限が、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。この範囲の仕込み割合にすることによって、被覆工程で所望の被覆率を有する活物質粒子を、より容易に得ることができ、成膜工程で、エアロゾルデポジション法による成膜レートをより速くすることができ、また、成膜した電極膜中の活物質と酸化物系固体電解質との組成割合をより制御しやすくなる。
【0038】
活物質粒子の表面に酸化物系固体電解質を形成するだけなら、メカノケミカル反応を利用した本方法以外に、水熱合成及び転動流動が挙げられるが、以下の理由から好ましくない。
【0039】
水熱合成の場合、活物質と酸化物系固体電解質との複合粒子を合成することができるが、メカノケミカル作用は得られず、合成後に、活物質及び酸化物系固体電解質の結晶化度を高めるために、概して900℃以上の高温で熱処理する後処理が必要となり、活物質の結晶性が低下し得る。
【0040】
転動流動の場合、メカノケミカル作用は得られず、酸化物系固体電解質の活物質粒子の表面への付着強度が小さく、エアロゾルデポジション法で成膜する際に、酸化物系固体電解質の脱落が起きやすい。
【0041】
成膜工程においては、エアロゾルデポジション法(AD法)を用いて、被覆活物質粒子を基板上に成膜する。
【0042】
AD法とは、原料粒子に機械的な衝撃力を与えるだけで、加熱することなく常温で高密度に固化する「常温衝撃固化現象」を用いて、緻密で密着性の高い膜を得ることができる。膜の材質にもよるが、成膜速度は従来の薄膜形成技術の数十倍以上であるという利点もある。
【0043】
AD法では、原料となる粒子を、例えば、ガスの供給、振動、超音波振動等によって気中に巻き上げて、搬送ガス中に分散(混合)させエアロゾル化して、その粒子を加速させ、基板に衝突させて成膜することができる。AD法では、原料粒子が基板に衝突する際に、例えば3GPa以上の非常に高い圧力がかかる。そのため、常温プロセスで形成するにもかかわらず、非常に緻密で結晶性の高い膜を形成できる。また、基板のごく限られた領域にだけ高圧がかかるため、基板へのダメージが小さく、熱による相互拡散も生じないという利点がある。
【0044】
一方で、従来、AD法を用いて2種類以上の材料を同時に成膜すると、それぞれの材料の硬さ、質量等の兼ね合いにより、それぞれの材料の成膜レートが異なり、均一な組成を有する複合化膜を作製することが難しい。
【0045】
本方法の一実施態様によれば、メカノケミカル反応により活物質粒子の表面の少なくとも一部に酸化物系固体電解質粒子を結合させて、酸化物系固体電解質粒子が活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆するように固定させた複合粒子が得られ、この複合粒子を用いてAD法を用いて成膜するため、活物質と酸化物系固体電解質とが所定の分散性を有した電極膜を得ることができる。
【0046】
図1は、AD法を説明する模式図である。
図1において、チャンバー11の内部には、台座12が設置され、その台座12上には基板13が配置されている。本開示の一実施形態においては、基板13として集電体を用いることができる。また、チャンバー11の内部の圧力は、ロータリーポンプ14により任意の減圧状態に制御可能である。一方、被覆活物質粒子16は、エアロゾル発生器17の内部で、ガスボンベ15から供給される搬入ガスによってエアロゾル化される。さらに、エアロゾル化した被覆活物質粒子は、チャンバー11の内部に配置されたノズル18から基板13に向かって噴射される。基板13の表面上では、被覆活物質粒子の破壊変形とともに堆積が生じ、電極膜が成膜される。
【0047】
AD法による成膜時の圧力は、所望の密度を有する電極膜を得ることができる圧力であれば特に限定されるものではないが、例えば成膜室中心部の圧力が100Paより高いことが好ましく、120Pa以上であることがより好ましく、1000〜8000Paであることがさらに好ましい。
【0048】
AD法における搬送ガスの種類としては、特に限定されるものではないが、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)等の不活性ガス、及びドライエア等を挙げることができる。また、搬送ガスのガス流量は、所望のエアロゾルを維持できる流量であれば特に限定されるものではないが、例えば3L/分〜20L/分の範囲内であることが好ましい。
【0049】
AD法の他に、一般的な成膜手法として、パルスレーザーデポジション(PLD)、スパッタリング、スピンコート、静電噴霧、プラズマ焼結、スクリーン印刷、及びグリーンシートプロセスの方法挙げられるが、以下の理由から好ましくない。
【0050】
PLD及びスパッタリングは、2種以上の材料を含む複合膜の形成が困難であり、結晶化には焼成が必要である。スピンコートは、溶媒を用いるため、電極膜を形成した後に溶媒分の体積が空孔となり緻密化できず、緻密化には焼成が必要である。静電噴霧は、常温では粒子間を結合する作用が得られないため、緻密化には焼成が必要である。プラズマ焼結、スクリーン印刷、及びグリーンシートプロセスは、焼成プロセスが必要となる。
【0051】
基板は、電子伝導性を有して集電体として用いることができる材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、金属材料及びカーボン材料を挙げることができる。上記金属材料としては、Cu、Ni、V、Au、Pt、Al、Mg、Fe、Ti、Co、Zn、Ge、In、Li、および、上記の各元素を主体として含有する合金等を挙げることができ、中でも、Al、Al合金、Cu、Cu合金、ステンレス鋼(SUS)が好ましい。また、基板は、ベース材に上記金属材料または上記カーボン材料を蒸着したものであっても良い。上記ベース材としては、ポリアミド、ポリイミド、PET、PPS、ポリプロピレン等の樹脂フィルム、ガラス板、シリコン板等を挙げることができる。
【0052】
集電体の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば0.05μm〜1mmの範囲内であることが好ましく、1μm〜500μmの範囲内であることがより好ましい。
【0053】
本開示の一実施形態はまた、活物質及び酸化物系固体電解質を含む全固体電池用電極であって、全固体電池用電極の断面における活物質及び酸化物系固体電解質のそれぞれの相関係数(R値)が好ましくは0.990〜1.000であり、活物質と酸化物系固体電解質との反応相を含まない、全固体電池用電極を対象とする。
【0054】
全固体電池用電極中の活物質と酸化物系固体電解質の分散性は、電極膜の断面について活物質及び酸化物系固体電解質の分布を測定し、SEM写真において、x軸方向(横軸)及びy軸方向(縦軸)をとり、各軸についての、活物質及び酸化物系固体電解質のそれぞれの理想的な分散が得られたときの分布曲線と実際の分布曲線の相関係数(R値)として表すことができる。活物質または酸化物系固体電解質のいずれかのみの分散を評価してもよい。
【0055】
理想的な分散とは、電極膜の厚みに対して十分に小さい長さ(例えば電極膜の厚みの1/10〜1/100)で電極膜の断面のSEM写真を格子状に区分けしたとき、各単位領域における酸化物系固体電解質の存在割合が各単位領域間で等しい分散状態を意味する。
【0056】
電極膜中の活物質及び酸化物系固体電解質の分布の測定は、電極膜の断面のSEM写真について二値化を行い、概して、比較的黒い部分を活物質である活物質、比較的白い部分を酸化物系固体電解質として行うことができる。別法では、電極膜の断面について活物質及び酸化物系固体電解質の成分についてエネルギー分散型X線分析(EDX)または波長分散型X線分析(WDX)を用いてマッピング分析を行うことにより、電極膜中の活物質と酸化物系固体電解質の分布の測定を行うことができる。
【0057】
活物質及び酸化物系固体電解質のそれぞれの理想的な分布曲線と実際の分布曲線の相関係数(R値)の測定は、次のようにして行うことができる。以下、酸化物系固体電解質の分散性を評価する場合の方法を示すが、活物質の分散性を評価する場合も同様に行うことができる。
【0058】
電極膜断面のSEM写真において、x軸方向(横軸(水平方向))とy軸方向(縦軸(厚み方向))をとり、各軸に垂直方向の所定の幅(x軸ならδx、y軸ならδy)でSEM写真を格子状に区分けしたとき、酸化物系固体電解質が存在する領域の重心がδxまたはδyの幅に存在する場合には、酸化物系固体電解質がその重心を含む領域で存在する、と見なす。そして、各δxにおける存在領域数を合計し、x軸(横軸)に対して積算してプロットする。同様に、各δyにおける存在領域数を合計し、y軸(縦軸)に対して積算してプロットする。理想的な分散性が得られる場合は、x軸(横軸)及びy軸(縦軸)のそれぞれに対して比例的に存在領域数が増える線形曲線となり、分散性が悪いと存在領域数が理想的な分布曲線からずれる。このずれを評価して相関係数(R値)を算出することができる。本明細書では、x軸(横軸)及びy軸(縦軸)についてのそれぞれのR値の平均値を相関係数(R値)とする。
【0059】
相関係数(R値)は、1.0に近いほど(大きいほど)分散性が良いといえる。活物質及び酸化物系固体電解質の相関係数(R値)はそれぞれ、好ましくは0.990〜1.000であり、より好ましくは0.993〜1.000であり、さらに好ましくは実質的に1.00である。
【0060】
別法では、全固体電池用電極中の活物質と酸化物系固体電解質の分散性の指標として、電極膜の表面または断面について、エネルギー分散型X線分析(EDX)または波長分散型X線分析(WDX)装置等を用いて主成分元素についてマッピング分析を行い、活物質及び酸化物系固体電解質のそれぞれの偏差比として表すことができる。活物質または酸化物系固体電解質のいずれかのみの分散を評価してもよい。偏差比は以下の関係式で表される。
【数1】
【0061】
マッピング分析領域は任意の面積で行うことができ、例えば一辺が81.92μmの正方形を分析し、この領域を65536(256×256)に分割し、各点における特性X線強度を測定することができる。
【0062】
測定領域内において分析元素が完全に均一に分布していたとしても各測定点におけるX線強度は等しくならず、理論的にその標準偏差は平均X線強度の平方根となる。測定結果から求めた実際の標準偏差(測定標準偏差)は理論標準偏差より小さくなることはあり得ず、分析元素の偏析の度合いが大きいほど大きくなる。測定結果から求めた実際の標準偏差が理論標準偏差に近いほど分散性が良いといえる。ここで偏差比を理論標準偏差/測定標準偏差で定義し、この値が1.0に近いほど(大きいほど)分散性が良いといえる。
【0063】
活物質と酸化物系固体電解質の偏差比はそれぞれ、好ましくは0.7〜1.0であり、より好ましくは0.8〜1.0であり、さらに好ましくは0.9〜1.0であり、さらにより好ましくは実質的に1.0である。
【0064】
全固体電池用電極は、活物質と酸化物系固体電解質との反応相を含まない。全固体電池用電極が、活物質と酸化物系固体電解質との反応相を含まないことは、粉末X線回折(XRD)により確認することができる。反応相のメインピークの位置(2θ)は、従来法で活物質と酸化物系固体電解質とを含む膜を焼成したものをXRDで分析することにより確認することができる。XRDにより、電極の表面を測定し、測定プロファイルに、活物質と酸化物系固体電解質との反応相のピークが実質的にみられるか否かで判断することができる。より具体的には、活物質と酸化物系固体電解質との反応相を含まないことは、活物質のメインピーク高さに対する反応相のメインピーク高さの比(反応相のメインピーク高さ/活物質のメインピーク高さ)から判断することができ、前記比が実質的に0であるときに、活物質と酸化物系固体電解質との反応相を含まないと判断することができる。実質的に0とは、反応相の明確なピークがみられないことを意味し、バックグラウンドのピークを除くと、ピークがみられない状態をいう。従来の焼成プロセスを経る場合、活物質のメインピーク高さに対する反応相のメインピーク高さの比は、概して0.40以上となる。本方法においても、メカノケミカル反応を利用して活物質と酸化物系固体電解質とを結合させるが、焼成プロセスを経る場合に発生し得る反応相のピークはみられない。
【0065】
酸化物系固体電解質は、好ましくは1×10
-4(S/cm)以上、より好ましくは7×10
-4(S/cm)以上、さらに好ましくは1×10
-3(S/cm)以上のリチウムイオン伝導度を有する。
【0066】
このようなリチウムイオン伝導度が高い酸化物系固体電解質は、従来方法においては、概して加圧して600℃以上または常圧で900℃以上という高温で焼成して焼結させる必要があり、活物質と酸化物系固体電解質との反応相を生成させないような低温焼成が難しい。例えば、株式会社オハラ製のガラスセラミックス(LICGC(登録商標)(LATP結晶組成))は、1×10
-4(S/cm)のリチウムイオン伝導度を有するが、850℃以上の焼成温度が必要であり、LATPは7×10
-4(S/cm)のリチウムイオン伝導度を有するが、900℃以上の焼成温度が必要であり、8×10
-4(S/cm)のリチウムイオン伝導度を有するLi
7La
3Zr
2O
12は、1000℃以上の焼成温度が必要であり、1×10
-3(S/cm)のリチウムイオン伝導度を有するLi
3xLa
0.67-xTiO
3は、1050℃以上の焼成温度が必要である。本方法によれば、焼成が不要であるため、上記のようなリチウムイオン伝導度の高い酸化物系固体電解質と活物質とを含むが、酸化物系固体電解質と活物質との反応相を含まない電極膜を得ることができる。
【0067】
焼成プロセスを経ずにAD法で緻密に成膜されるため、全固体電池用電極中の活物質は、酸化物系固体電解質と反応せず、原料粉末と同様の良好な結晶性を有することができる。粉末X線回折分析をしたとき、活物質の原料粉末のメインピークの半値幅に対する全固体電池用電極中の活物質のメインピークの半値幅の比(全固体電池用電極中の活物質のメインピークの半値幅/活物質の原料粉末のメインピークの半値幅)は、好ましくは1.15以内、より好ましくは1.10以内、さらに好ましくは1.05以内である。上記範囲内の比率を示す電極膜を用いることにより、より高い電池容量を有する全固体電池を作製することができる。
【0068】
全固体電池用電極の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5〜100μmである。
【0069】
本開示の一実施形態に係る全固体電池用電極を用いて、正極層、負極層、及び正極層と負極層の間に配置される固体電解質層を含む全固体電池を作製することができる。全固体電池用電極は、正極層、負極層、または正極層及び負極層の両方に用いることができる。固体電解質層は酸化物系固体電解質であることができ、例えば、電極層に含まれる酸化物系固体電解質と同じ電解質を含むことができる。
【0070】
全固体電池は、従来行われている製造方法で作製することができ、本開示の一実施形態に係る全固体電池用電極を含むこと以外は、従来の全固体電池と同じ構成を有することができる。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
(準備工程)
活物質粒子として、粒径10μmの正極活物質であるLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(日本化学工業社製)(以下、NMCともいう)を準備し、酸化物系固体電解質粒子として粒径0.5μmのLi
1.5Al
0.3Ti
1.7Si
0.2P
2.8O
12(株式会社オハラ製)(以下、LATPともいう)を準備した。粒径は、メジアン径D50であり、レーザー回折散乱式粒度分布計(日機装製、マイクロトラックMT3300EXII)で測定した。
【0072】
(被覆工程)
ホソカワミクロン社製粒子複合化装置(ノビルタ、NOB−MINI)の容器内に、100gのNMC及び2gのLATPを入れ、回転数2200rpm、作動時間10分、電力値200Wで、NMC及びLATPを複合化処理して、複合材(被覆活物質粒子)を作製した。
【0073】
(成膜工程)
作製した被覆活物質粒子20gを用いて、エアロゾルデポジション法(AD法)を用いて成膜を行った。基板として100μm厚で1cm×1cmのSUS板を用い、常温、チャンバー内の圧力を4000Pa、巻き上げガスをAr、ガス流量を10L/分、スキャン速度を1mm/秒として成膜を行い、電極膜を作製した。
【0074】
(実施例2)
LATPの混合量を5gとしたことを除き、実施例1と同じ手順で複合材及び電極膜を作製した。
【0075】
(実施例3)
LATPの混合量を10gとしたことを除き、実施例1と同じ手順で複合材及び電極膜を作製した。
【0076】
(電池の作製)
SUS板上に作製した電極膜を正極(正極集電体及び正極活物質層)として用い、電極膜の上に、高周波マグネトロンスパッタ装置(大阪真空製、OVS−220)を用いて、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質Li
3.3PO
3.7N
0.3から構成され、厚みが2.5μmの固体電解質層を形成した。成膜条件は、常温、チャンバー内の圧力を4Pa、出力を50W、ターゲットサイズを5.08cm(2インチ)とした。
【0077】
得られた固体電解質層上に、グローブボックス内で真空蒸着装置(サンユー電子製、SVC−700TM)を用いて、リチウムから構成され、厚みが2μmの負極活物質層を形成した。
【0078】
得られた負極活物質上に、Li金属箔(厚み0.5mm、面積0.636cm
2)をのせてバネで押し付けて全固体電池を作製した。正極面積及び負極面積がそれぞれ0.636cm
2である全固体二次電池を作製した。
【0079】
(実施例4)
LATPの混合量を20gとしたことを除き、実施例1と同じ手順で複合材及び電極膜を作製した。
【0080】
(比較例1)
実施例1で用いた粒子複合化装置の代わりに、乳鉢混合を用いて正極活物質粒子と酸化物系固体電解質粒子を混合したことを除き、実施例1と同様の手法を用いて複合材及び電極膜を作製した。
【0081】
(比較例2)
NMCとLATPを体積比1:1で乳鉢混合し、ペレットに成型し、大気中、900℃で2時間焼成した後、再度乳鉢で粉砕し、複合材を作製し、実施例1と同様の手法を用いて電極膜を作製した。
【0082】
(比較例3)
NMCとLATPを体積比1:1で乳鉢混合し、ペレットに成型し、大気中、700℃で2時間焼成した後、再度乳鉢で粉砕し、複合材を作製し、実施例1と同様の手法を用いて電極膜を作製した。
【0083】
(複合材の観察)
図2に、実施例3で作製した被覆活物質粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ、FE−SEM SU8020)写真を示す。正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を固体電解質が被覆していることが確認できる。
【0084】
実施例3で作製した被覆活物質粒子の断面について、エネルギー分散型X線(EDX)分析装置(堀場製作所製、EMAX Evolution)を用いて、NMC及びLATPの領域をそれぞれマンガン(Mn)及びリン(P)についてマッピング分析を行うことにより識別した。画像処理ソフトウェア(Image−J)を用いて、NMCの輪郭の内、LATPが共有している線分の割合を測定し、被覆率として算出した。粒径10μmの正極活物質粒子の表面全体の面積の68.2%を、1μm以下の粒径(SEM観察平均径)の酸化物系固体電解質が被覆していることを確認した。また、被覆活物質粒子の断面についてのSEM観察及びマッピング分析から、酸化物系固体電解質の被覆厚みを測定した。ここで、被覆厚みとは、酸化物系固体電解質が付着している箇所の平均厚みである。同様にして、実施例1、2、及び4、並びに比較例1で作製した被覆活物質粒子の酸化物系固体電解質による被覆率及び被覆厚みを測定した。
【0085】
表1に、実施例1〜4及び比較例1で作製した被覆活物質粒子の酸化物系固体電解質による被覆率及び被覆厚みを示す。被覆率は、活物質粒子の表面を被覆する酸化物系固体電解質の、活物質粒子の表面全体の面積を100%としたときの表面被覆率である。
【0086】
【表1】
【0087】
(電極膜の観察)
図3〜7に、実施例1〜4で作製した電極膜の断面のSEM写真を示す。
図6は、
図5の四角で囲った部分を拡大して観察したSEM写真である。実施例1〜4で作製した電極膜のSEM観察から、それぞれ、基板上に、複合膜が形成されていることが確認された。
【0088】
(電極膜の外観観察)
図8及び9に、実施例3及び比較例1で作製した電極膜の外観写真を示す。
図8の実施例3で作製した電極膜は、均一な外観を有していた。
図9の比較例1で乳鉢を用いてNMCとLATPを混合して作製した電極膜については、AD法で成膜した際に均一な成膜ができず、一部に下地が見える。乳鉢混合ではメカノケミカル効果は得られず、活物質粒子の表面に酸化物系固体電解質粒子を結合させることができず、活物質粒子の表面が露出することで、AD法で基板上に粒子を噴射したときに、粒子が基板に付着しにくく、電極膜の厚みにばらつきが発生したと推察される。
【0089】
(電極膜の組成)
実施例1〜4により得られた電極膜の断面についてSEM観察を行い、SEM画像を、画像ソフト(ImageJ)を用いて二値化して、比較的黒い部分を活物質であるNMC、比較的白い部分を酸化物系固体電解質であるLATPとして、電極膜中のNMCとLATPの分布及び比率を測定した。表2に、電極膜の厚み及び電極膜中のNMCの割合を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例1〜4ではそれぞれ、6μm、10μm、9μm、及び50μmの厚みを有する電極膜が得られた。酸化物系固体電解質の仕込み質量比を大きくするほど、電極膜の厚みは大きくなる傾向がみられた。また、実施例1〜4で作製したそれぞれの電極膜中の活物質の体積割合は74%、59%、49%、及び26%であり、それぞれの電極膜中の活物質の質量割合は82%、69%、60%、及び35%であった。
【0092】
(電極膜中の活物質及び酸化物系固体電荷質の分散性)
実施例1〜4及び比較例3で作製した電極膜で作製した電極膜の断面についてSEM観察を行い、上記と同様にSEM写真について二値化して、比較的黒い部分を活物質であるNMC、比較的白い部分を酸化物系固体電解質であるLATPとして、電極膜中のNMCとLATPの分布を測定した。
【0093】
次いで、SEM写真において、x軸方向(横方向(水平方向))及びy軸方向(縦方向(厚み方向))をとり、各軸に垂直方向の所定の幅(δx=0.5μm、δy=0.5μm)において、NMC及びLATPがそれぞれ存在する領域の重心がδxまたはδyの幅に存在する場合には、NMC及びLATPがそれぞれその重心を含む領域で存在する、と見なしてNMC及びLATPの存在領域数を積算した。
【0094】
そして、x軸及びy軸について、理想的な分散性が得られる場合における理想的な分布曲線からのずれとして、NMC及びLATPのそれぞれの相関係数(R値)を算出し、x軸及びy軸について算出した値の平均値を、相関係数(R値)として算出した。表3に、実施例1〜4及び比較例3で作製した電極膜中のNMC及びLATPのそれぞれの相関係数(R値)を示す。
【0095】
【表3】
【0096】
(電極膜及び複合材の粉末X線回折分析)
実施例1〜4で作製した電極膜、並びに原料として用いたNMCの粉末及びLATPの粉末について、粉末X線回折分析(XRD、Rigaku製、UltimaIV)を行った。
図10にX線回折測定結果のプロファイルを示す。
【0097】
それぞれ、2θ=19°に、NMCの層状岩塩型構造由来のメインピークがみられ、2θ=25°に、LATPのメインピークがみられる。
図10のX線回折測定結果から、2θ=19°付近のNMCの層状岩塩型構造由来のメインピークが成膜後も維持されていることが確認できる。
【0098】
表4に、実施例1〜4で作製した電極膜中のNMC及び原料粉末としてのNMCのメインピークの半値幅を示す。
【0099】
【表4】
【0100】
NMC原料粒子のメインピークの半値幅は0.44°(2θ)であり、実施例1〜4で作製した電極膜中の活物質のメインピークの半値幅はそれぞれ、0.48、0.50、0.46、0.46°(2θ)であり、活物質の原料粉末のメインピークの半値幅に対する全固体電池用電極膜中の活物質のメインピークの半値幅の比(電極膜中の活物質のメインピークの半値幅/活物質の原料粉末のメインピークの半値幅)はそれぞれ、1.09、1.14、1.05、1.05であった。
【0101】
実施例1〜4で作製した電極膜において、活物質のメインピーク高さに対する反応相のメインピーク高さの比(反応相のメインピーク高さ/活物質のメインピーク高さ)はそれぞれ0であった。
【0102】
このように、実施例1〜4で作製した電極膜においては、反応相(異相)は生成されておらず、また、正極活物質が、原料粉末の結晶構造をほぼ維持した状態で存在することが確認された。
【0103】
図11に、比較例2及び3で作製した複合材、及び比較例2または3で作製した乳鉢混合した焼成前の混合粉について分析したX線回折測定結果を示す。従来、LATPを焼結させるためには、900℃以上の温度が必要であるが、700℃以上の焼結を行うと、正極活物質由来の2θ=19°付近のピークが焼結後に減衰しており、2θ=31°に原料として用いた正極活物質と酸化物系固体電解質との反応相のメインピークがみられる。
【0104】
比較例3で作製した電極膜の活物質のメインピークの半値幅は0.44°(2θ)であり、活物質の原料粉末のメインピークの半値幅に対する全固体電池用電極膜中の活物質のメインピークの半値幅の比(電極膜中の活物質のメインピークの半値幅/活物質の原料粉末のメインピークの半値幅)は1.16であった。
【0105】
比較例3で作製した電極膜において、2θ=19°にみられる活物質のメインピーク高さに対する2θ=31°にみられる反応相のメインピーク高さの比(反応相のメインピーク高さ/活物質のメインピーク高さ)は0.42であった。
【0106】
表5に、活物質の原料粉末のメインピークの半値幅に対する実施例2〜4及び比較例3で作製した電極膜中の活物質のメインピークの半値幅(電極膜中の活物質のメインピークの半値幅/活物質の原料粉末のメインピークの半値幅)をまとめて示す。
【0107】
【表5】
【0108】
(全固体二次電池の容量−電圧特性)
実施例3で作製した全固体二次電池について、充放電測定装置(BioLogic製、VMP3)を用いて、60℃、10μA/cm
2で、容量−電圧特性を測定した。
図12に、4.2Vまで10μAで定電流充電し、3.0Vのカットオフ電圧まで10μAの電流で放電したときの、正極の単位質量当たりの容量−電圧特性を示す。通常、およそ50mAhg
-1以上の容量であれば、電子伝導パス及びイオン伝導パスが適切に形成されていると判断するところ、156mAhg
-1の放電容量が得られたことから、電池の正極層に必要な電子伝導パス及びイオン伝導パスが十分に形成された電極膜が得られていることが確認できた。