(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に銀からなる光反射膜を介して蛍光部材が設けられ、この蛍光部材上に、励起光受光面を形成する、当該蛍光部材の屈折率の値以上の屈折率を有する金属酸化物からなる周期構造体層が設けられてなり、
前記周期構造体層は、蛍光部材の表面を覆う平板状の薄膜部と、この薄膜部上に設けられた複数の凸部とにより構成されたものであり、
前記薄膜部の厚みは、0.4μm以下であり、
前記蛍光部材が単結晶または多結晶よりなる蛍光体によるものであり、
前記蛍光部材の熱が前記光反射膜、および、前記基板を介して排熱されることを特徴とする蛍光発光部材。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の蛍光光源装置の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の蛍光光源装置の一例における構成の概略を示す説明図であり、
図2は、
図1の蛍光光源装置における波長変換部材の構成を示す説明用断面図である。
この蛍光光源装置は、青色領域の光を出射するレーザダイオード10と、このレーザダイオード10に対向して配置された、当該レーザダイオード10から出射されるレーザ光である励起光Lによって励起されて緑色領域の蛍光L1を出射する波長変換部材21を有する蛍光発光部材20とを備えてなる。
レーザダイオード10と蛍光発光部材20との間における当該レーザダイオード10に接近した位置には、レーザダイオード10から入射された励起光Lを平行光線として出射するコリメータレンズ15が配置されている。また、コリメータレンズ15と蛍光発光部材20との間には、レーザダイオード10からの励起光Lを透過すると共に波長変換部材21からの蛍光L1を反射するダイクロイックミラー16が、コリメータレンズ15の光軸に対して例えば45°の角度で傾斜した姿勢で配置されている。
【0017】
蛍光発光部材20は、
図2に示すように、矩形板状の基板31の表面(
図2における上面)上に、略矩形板状の波長変換部材21が設けられたものである。
この蛍光発光部材20は、波長変換部材21の表面(
図2における上面)がレーザダイオード10に対向するように配置されており、当該表面が励起光受光面とされていると共に、蛍光出射面とされている。
また、波長変換部材21の裏面(
図2における下面)には、光反射膜33が設けられており、また側面には、環状の光拡散層34が、当該側面に密着した状態で設けられている。このように、波長変換部材21の裏面および側面に光反射膜33および光拡散層34が設けられることにより、波長変換部材21は、裏面および側面に反射機能を有するものとされている。波長変換部材21の裏面に設けられた光反射膜33と基板31との間には、接合材よりなる接合層(図示省略)が介在されており、当該接合材によって波長変換部材21が基板31上に接合されている。接合材としては、排熱性の観点から、半田、銀焼結材などの熱伝導率が40W/mK以上のものが用いられる。また、基板31の裏面には、例えば放熱用フィン(図示省略)が配置されている。
この図の例において、接合材としては、波長変換部材21の裏面の縦横寸法より大きな縦横寸法を有するリボン半田がプリフォームとして用いられている。また、光拡散層34は、波長変換部材21の側面と接合層の側面とに当接して形成されている。この光拡散層34による波長550nmの光の反射率は95.7%であり、そのため、蛍光光源装置においては、光拡散層34が設けられていない場合に比して、蛍光出射面における光の取り出し効率が1.28倍となる。
【0018】
光反射膜33としては、例えば銀反射膜が用いられる。
そして、この光反射膜33が配設される波長変換部材21の裏面は、研磨されており、当該裏面における、レーザ干渉計によって測定される表面粗さRaが100nm以下であることが好ましい。
波長変換部材21の裏面の表面粗さRaが上記の範囲とされることにより、当該裏面に銀反射膜よりなる光反射膜33を設けることによって、当該裏面において、励起光Lおよび蛍光L1を鏡面反射することができる。そのため、波長変換部材21の裏面における反射率を97%以上とすることができる。
一方、波長変換部材21の裏面の表面粗さRaが100nmを超える場合には、当該裏面において十分な反射機能を得ることができない。具体的に説明すると、波長変換部材21の裏面に到達した励起光Lおよび蛍光L1が、波長変換部材21の裏面と銀反射膜よりなる光反射膜33との間において繰り返し反射し、その繰り返し反射の過程において吸収されてしまう。そして、繰り返し反射の回数が多くなるに従って吸収される光量が大きくなることから、波長変換部材21の裏面において、十分な反射率が得られなくなる。
【0019】
光拡散層34は、無機拡散材、具体的には、無機化合物からなる光拡散微小粒子よりなるものである。この光拡散層34は、アルカリ性水溶液中に光拡散微小粒子が均一に分散されてなる混濁液を、基板31上に接合された波長変換部材21の周囲に塗布し、その塗布層を、例えば温度150℃の条件で例えば30分間かけて乾燥することによって得られたものであることが好ましい。
光拡散層34が前記混濁液を乾燥したものとされることにより、混濁液を波長変換部材21の周囲に塗布した際に光拡散微小粒子が凝集しやすく、また当該混濁液が、波長変換部材21の表面に浸みることがない。そのため、光拡散層34の製造過程において、波長変換部材21の表面の形状(周期構造24の形状)に変化が生じることがない。ここに、光拡散層34の製造過程において、アルカリ性水溶液に代えて、シリコーンなどの有機溶剤を用いた場合には、光散乱微小粒子は当該有機溶剤に溶解した状態とされ、その光散乱微小粒子が溶解した有機溶剤が波長変換部材の表面に浸みてしまう。そのため、光拡散層の製造過程において、波長変換部材の表面の形状(周期構造の形状)に変化が生じ、その波長変換部材の表面が所期の形状を有するものでなくなる。すなわち、波長変換部材の表面が、空気との屈折率差が急激に変化する表面となる。そのため、波長変換部材の表面における、励起光の反射抑制効果、および回折による蛍光の取り出し効率向上効果が得られなくなる。
【0020】
光拡散微小粒子においては、平均一次粒子径が0.1μm以下であって2nm以上であることが好ましい。
光拡散微小粒子の粒径が上記の範囲とされることにより、光拡散層34によって蛍光を容易に全方方向に拡散させることができる。そのため、光拡散層34において、一部の蛍光の進行方向を、蛍光出射面、すなわち波長変換部材21の表面に向かう方向に確実に変更することができる。そのため、波長変換部材21が外部に高い効率で蛍光を出射できるものとなる。
【0021】
光拡散微小粒子を構成する無機化合物としては、例えばシリカ(SiO
2 )、酸化チタン(TiO
2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al
2 O
3 )、酸化マグネシウム(MgO)等の金属酸化物、および硫酸バリウム等の金属硫酸塩などが挙げられる。
ここに、光拡散層34において、光散乱微小粒子は、1種類の材質のものであってもよく、2種類以上の異なる材質の微小粒子を組み合わせたものであってもよい。
【0022】
波長変換部材21は、矩形板状の蛍光部材22と、この蛍光部材22の表面(
図2における上面)上に形成された、表面(
図2において上面)に周期構造24が形成された周期構造体層23を有している。
この波長変換部材21において、周期構造体層23は、蛍光部材22の縦横寸法以下の縦横寸法を有するものであり、蛍光部材22の表面の少なくとも一部を覆うように配設される。
この図の例において、周期構造体層23は、蛍光部材22と同等の縦横寸法を有するものであり、蛍光部材22の表面全面を覆うように配設されている。
【0023】
蛍光部材22は、単結晶または多結晶の蛍光体によって構成されている。また、蛍光部材22の厚みは、励起光Lを蛍光L1に変換する変換効率(外部量子効率)および排熱性の観点から、例えば0.05〜2.0mmである。
蛍光部材22が単結晶または多結晶の蛍光体によって構成されることにより、蛍光部材22は熱伝導率が11W/mK以上の高い熱伝導性を有するものとなる。
蛍光部材22の熱伝導率が11W/mK以上であることにより、蛍光部材22において励起光Lの照射によって発生した熱を効率よく排熱することができるため、蛍光部材22が高温となることが抑制される。その結果、蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減を抑制することができる。
【0024】
蛍光部材22を構成する単結晶の蛍光体は、例えば、チョクラルスキー法によって得ることができる。具体的には、坩堝内において種子結晶を溶融された原料に接触させ、この状態で、種子結晶を回転させながら鉛直方向に引き上げて当該種子結晶に単結晶を成長させることにより、単結晶の蛍光体が得られる。
また、蛍光部材22を構成する多結晶の蛍光体は、例えば以下のようにして得ることができる。先ず、母材、賦活材および焼成助剤などの原材料をボールミルなどによって粉砕処理することによって、サブミクロン以下の原材料微粒子を得る。次いで、この原材料微粒子を例えばスリップキャスト法によって成形して焼結する。その後、得られた焼結体に対して熱間等方圧加圧加工を施すことによって、気孔率が例えば0.5%以下の多結晶の蛍光体が得られる。
【0025】
蛍光部材22を構成する蛍光体の具体例としては、YAG:Ce、YAG:Pr、YAG:Sm、LuAG:Ceなどが挙げられる。このような蛍光体において、希土類元素(賦活材)のドープ量は、0.5mol%程度である。
【0026】
周期構造体層23は、波長変換部材21の励起光受光面とされる表面に、周期構造24が形成されたものである。また、周期構造体層23の厚み(最大厚み)は、例えば1.0μm以下である。
この図の例において、周期構造体層23の厚みは、薄膜部26の厚みと凸部25の高さhとの合計である。
【0027】
そして、周期構造体層23は、
図2に示されているように、蛍光部材22の表面を覆う、平板状の薄膜部26と、この薄膜部26上に設けられた複数の凸部25とにより構成されていることが好ましい。
周期構造体層23が薄膜部26を有するものとされることにより、当該周期構造体層23が、蛍光部材22の保護機能を有するものとなり、また波長変換部材21が高い取扱い性を有するものとなる。
具体的に説明すると、周期構造体層23が薄膜部26を有するものであることにより、耐湿性の低い蛍光部材21を湿気から保護することができるため、蛍光部材21が湿気によって変質することを抑制または防止することができる。また、周期構造体層23が薄膜部26を有するものであることによれば、波長変換部材21を基板31上に接合する製造過程などにおいて凸部25に外力が加えられた場合に、その凸部25が脱落することを防止することができる。そのため、波長変換部材21が高い取扱い性を有するものとなる。ここに、周期構造体層23が薄膜部26を有するものでなく、蛍光部材22の表面に複数の凸部25が個別に直接的に配設されたものである場合には、各凸部25と蛍光部材22との間において、接触面積が小さいことに起因して十分な接着性が得られないため、小さな外力によっても凸部25が脱落してしまうおそれがある。また、周期構造体層23の最小厚み、具体的には互いに隣接する凸部25の間の部分の厚みが極めて小さくなるため、蛍光部材21を湿気から十分に保護することができなくなるおそれがある。
【0028】
薄膜部26においては、蛍光L1の有効利用性の観点から、その厚みが小さいことが好ましい。具体的には、薄膜部26の厚みは、0.4μm以下であることが好ましい。
薄膜部26の厚みが過大である場合には、当該薄膜部26の側面から蛍光部材22の内部において生じた蛍光のうちの当該側面に向かう蛍光が出射されてしまうことに起因して、波長変換部材21の外部に十分に高い効率で蛍光L1を出射することができなくなるおそれがある。
【0029】
周期構造24を構成する複数の凸部25は、
図2に示されているように、
裏面から
表面に向かう方向に従って小径となる略錐形状とされており、薄膜部26上において周期的に配列されている。
具体的に、凸部25に係る略錐形状は、
図2に示されているような錘状(
図2においては円錐状)、または
図3に示すような錐台状である。
ここに、凸部25の形状が錐台状である場合には、上底部25aの寸法(最大寸法)aは、励起光Lの波長未満とされる。例えば凸部25の形状が円錐台状であり、励起光Lの波長が445nmである場合には、円錐台状の凸部25の上底部25aの寸法(外径)は100nmである。
この図の例において、周期構造24は、円錐状の凸部25が密集した状態で二次元周期的に配列されてなるものである。
【0030】
凸部25の形状が錘状または錐台状とされることにより、蛍光部材22の表面において励起光Lが反射することを防止または抑制することができる。このような作用が生じるのは、以下の理由による。
図4は、励起光Lが波長変換部材21の表面に垂直な方向に入射した場合において、当該励起光Lが伝播する媒体の屈折率の変化をマクロ的に示した図であり、(a)は波長変換部材21の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、(b)は波長変換部材21の表面に対して垂直な方向における位置と屈折率とのマクロ的な関係を示すグラフである。この
図4に示すように、励起光Lが、空気(屈折率が1)中から波長変換部材21、具体的には周期構造体層23(屈折率がN
1 )の表面に照射されたときには、周期構造24を構成する凸部25のテーパ面に対して傾斜した方向から入射される。このため、マクロ的に見ると、励起光Lが伝播する媒体の屈折率は、波長変換部材21の表面に垂直な方向に向かって1からN
1 に緩やかに変化することとなる。従って、波長変換部材21の表面に、屈折率が急激に変化する界面が実質的にないため、波長変換部材21の表面において励起光Lが反射することを防止または抑制することができる。
【0031】
また、凸部25において、テーパ面(側面)の傾斜角度(側面と底面とのなす角度)は、11°以上であることが好ましい。
テーパ面の傾斜角度が11°未満である場合には、テーパ面を屈折率の異なる2つの媒体の境界面とみなすようになるため、その屈折率差に従った反射光が生じてしまうおそれがある。
【0032】
また、周期構造24において、周期dに対する凸部25の高さhの比(h/d)であるアスペクト比は、0.5〜0.9の範囲とされる。
周期構造24のアスペクト比が0.5〜0.9の範囲とされることにより、後述の実験から明らかなように、周期構造24の形成が容易となると共に、周期構造体層23の表面に励起光Lが照射されたときに、当該励起光Lの反射が抑制され、その結果、励起光Lを波長変換部材21の内部に十分に取り込むことができる。また、波長変換部材21に高い光効率が得られる。更に、
図2に示されているように、周期構造体層23の表面が蛍光出射面とされる場合には、周期構造24によって蛍光L1の回折が生じることから、周期構造体層23の表面において高い光の取り出し効率が得られる。
【0033】
ここに、波長変換部材に得られる光効率とは、波長変換部材の蛍光変換能、具体的には、波長変換部材が励起光を蛍光に変換する性能を示し、励起光受光面における励起光の透過率と蛍光出射面における光の取り出し効率との積、すなわち、励起光の反射率と蛍光出射面における光の取り出し効率とに基づいて、下記数式(1)によって算出される値である。この励起光の透過率と光の取り出し効率との積は、蛍光部材の蛍光効率に比例するものであるため、当該積を、波長変換部材が励起光を蛍光に変換する割合とみなすことができる。この光効率が高い波長変換部材ほど高い蛍光変換能を有するものである。
【0034】
数式(1):
波長変換部材の光効率=(1−励起光受光面における励起光の反射率)×(蛍光出射面における光の取り出し効率)
【0035】
一方、アスペクト比(h/d)が上記の範囲外である場合には、波長変換部材21の表面が平面に近くなるため、励起光Lの反射抑制効果および回折による蛍光L1の取り出し効果が十分に得られなくなり、また高い光効率が得られなくなる。また、所期の形状、すなわち略錐形状を有する凸部25を形成することができなくなる。このような問題は、アスペクト比(h/d)が0.9を超える場合に顕著となる。
具体的に説明すると、アスペクト比(h/d)が0.9を超える場合には、凸部に高さが必要となるため、周期構造を形成するための処理時間が長くなり加工効率が著しく低下する。しかも、後述の蛍光光源装置の製造方法(波長変換部材形成工程)において説明するようにエッチングプロセスによって周期構造を形成する場合には、得られる凸部の形状が、ピラー形状、すなわち垂立した柱形状となってしまう。その理由は、エッチングプロセスにおいては、エッチングガスのラジカルによる等方性エッチングとイオンによる異方性エッチングとによって周期構造を形成することになるため、凸部を高くするための処理時間を考慮すると、等方性エッチングが主体となるためである。しかも、形成される周期構造においては、各ピラー形状の凸部の下底部の間に平面部(蛍光部材または薄膜部が露出された状態部分)が形成される。そのため、励起光の反射率が大きくなる共に、回折による蛍光の取り出し効果が十分に得られなくなってしまう。
【0036】
また、周期構造24において、周期dは、蛍光部材22を構成する蛍光体から放射される蛍光L1の回折が発生する範囲(ブラッグの条件)の大きさであることが好ましい。
具体的には、周期構造24の周期dは、蛍光体から放射される蛍光L1のピーク波長を、周期構造24を構成する材料(周期構造体層23を構成する高屈折率材料)の屈折率で割った値(以下、「光学長さ」という。)または光学長さの数倍程度の値である。
ここに、本発明において、周期構造の周期とは、周期構造において互いに隣接する凸部間の距離(中心間距離)(nm)を意味する。
【0037】
周期構造24の周期dが波長変換部材21内で生じる蛍光L1の回折が発生する範囲の大きさとされることにより、波長変換部材21の表面から蛍光L1を高い効率で外部に出射することができる。
具体的に説明すると、
図5に示すように、波長変換部材21内、具体的には、蛍光部材22内で生じた蛍光L1は、波長変換部材21の表面(波長変換部材21と空気との界面)に対する入射角θIが臨界角未満である場合には、波長変換部材21の表面を透過する透過光L2として無反射で波長変換部材21の表面から外部に取り出される。また、蛍光L1の波長変換部材21の表面に対する入射角θIが臨界角以上である場合には、例えば波長変換部材21の表面が平坦面であるときには、蛍光L1は、波長変換部材21の表面において全反射して反射光L3として波長変換部材21の内部に向かうため、波長変換部材21の表面から外部に取り出されることがない。しかしながら、波長変換部材21の表面に上記の条件を満足する周期dを有する周期構造24が形成されることにより、蛍光L1は、波長変換部材21の表面において周期構造24によって回折が生じることとなる。その結果、−1次回折光L4として波長変換部材21の表面から出射角θm(θm<θI)で出射されて外部に取り出される。
【0038】
周期構造体層23を構成する材料としては、屈折率が蛍光部材22の屈折率の値以上の高屈折率材料が用いられる。
周期構造体層23が高屈折率材料よりなるものとされることにより、蛍光部材22と周期構造体層23と界面に入射した蛍光L1は、当該界面を透過することによって屈折が生じる。そのため、蛍光L1の進行方向が蛍光部材22と周期構造体層23との界面において変更されることから、蛍光L1が波長変換部材21の内部に閉じ込められることが抑制され、その結果、蛍光L1を周期構造体層23の表面から外部に高い効率で出射することができる。
また、高屈折率材料として蛍光部材22より高い屈折率のものを用いることによれば、周期dが小さい周期構造24を形成することが可能となる。従って、周期構造24を構成する凸部25としてアスペクト比(h/d)が大きくても高さが小さいものを設計することができるので、周期構造24の形成が容易となる。例えば、ナノプリント法を利用する場合には、モールドの作製やインプリント作業を容易に行うことができる。このとき、当該周期構造24が形成されている波長変換部材21における蛍光体を励起するエネルギーは、約5W/mm
2 以上の励起密度を持つため、周期構造体層23を構成する高屈折率材料は無機化合物(以下、「高屈折率無機化合物」ともいう。)よりなるものであることが望ましい。
【0039】
そして、周期構造体層23は、高屈折率無機化合物よりなり、蛍光部材22から遠ざかる方向(
図2における上方)に伸びる複数の柱状単位(無機化合物柱状単位)を有する柱状組織により構成されてなるものであることが好ましい。すなわち、周期構造体層23は、蛍光部材22から遠ざかる方向に伸びる柱状構造を有するものであることが好ましい。
この柱状構造は、具体的には、複数の柱状単位(無機化合物柱状単位)よりなり、これらの複数の柱状単位の各々が蛍光部材22から遠ざかる方向に伸び、また互いに隣接する柱状単位間に微小空間が形成された多孔性のものである。
【0040】
周期構造体層23が柱状組織により構成されてなるものとされることにより、当該周期構造体層23を形成するための材料が、優れた加工性(加工容易性)を有するものとなるため、周期構造24を、所期の形状を有するものとすることができる。
【0041】
また、周期構造体層23においては、周期構造24を構成する複数の凸部25の各々が柱状単位により構成されていることが好ましい。
凸部25を柱状単位により構成することにより、後述の蛍光光源装置の製造方法(波長変換部材形成工程)によって当該凸部25を確実に所期の形状を有するものとすることができる。
【0042】
周期構造体層23を構成する高屈折率材料の具体例としては、アルミナ(Al
2 O
3 )、酸化ハフニウム(HfO
2 )、酸化マグネシウム(MgO)、酸化スズ(SnO
2 )、酸化タングステン(WO
3 )、酸化イットリウム(Y
2 O
3 )、酸化インジウムスズ(ITO)、ジルコニア(ZrO
2 )、酸化タンタル(Ta
2 O
5 )、酸化チタン(TiO
2 )、酸化ニオブ(Nb
2 O
5 )などの金属酸化物、およびジルコニア(ZrO
2 )と酸化チタン(TiO
2 )との混合物などが挙げられる。これらのうちでは、蛍光体(LuAG、YAG)の熱膨張係数(6×10
-6〜8×10
-6/K)に近似した熱膨張係数を有するものであることから、ジルコニア(熱膨張係数10.5×10
-6/K)、酸化インジウムスズ(熱膨張係数6.8×10
-6/K)および酸化チタン(熱膨張係数7.9×10
-6/K)が好ましい。また、高い耐湿性を有するものであることからは、ジルコニアおよび酸化ハフニウムが好ましい。特に、ジルコニアは、吸収係数が小さい(具体的には、13cm
-1(波長550nmの光に関する吸収係数))ことから更に好ましい。
【0043】
基板31を構成する材料としては、樹脂に金属微粉末を混入させた放熱接着剤を介したアルミ基板などを用いることができる。また、基板31の厚みは、例えば0.5〜1.0mmである。また、このアルミ基板は、放熱フィンの機能を兼ね備えたものであってもよい。
【0044】
以上のような構成の蛍光光源装置10は、例えば、波長変換部材21を、以下に説明する特定の工程を経ることによって得ることにより、製造することができる。
具体的に、波長変換部材21は、蛍光部材22上に、高屈折率材料よりなる高屈折率材料層を形成し、この高屈折率材料層の表面をエッチング処理する工程(以下、「波長変換部材形成工程」ともいう。)を経ることによって得られる。
【0045】
波長変換部材形成工程を、具体的な一例によって説明する。この具体的な一例において、得られる波長変換部材21の周期構造体層23は、高屈折率無機化合物よりなり、蛍光部材22から遠ざかる方向に伸びる複数の柱状単位(無機化合物柱状単位)を有する柱状組織により構成されてなるものである。
【0046】
先ず、蛍光部材22の表面全面に、周期構造体層23を形成するための高屈折率材料層(以下、「周期構造体層形成用層」ともいう。)を形成する。この周期構造体層形成用層は、高屈折率無機化合物よりなり、蛍光部材22から遠ざかる方向に伸びる柱状構造を有するものであり、表面が略平坦なものである。
周期構造体層形成用層の形成方法としては、スパッタ法が好適に用いられる。
スパッタ法によれば、スパッタ条件を調整することにより、得られるスパッタ膜の形態を制御することができるため、所期の柱状構造を有する周期構造体層形成用層を容易に得ることができる。
ここに、本発明において、スパッタ法とは、反応性スパッタ法を含む概念である。反応性スパッタ法によってスパッタ膜を形成する場合においては、反応性スパッタ装置が用いられる。
【0047】
そして、得られる周期構造体層形成用層においては、当該周期構造体層形成用層を形成する柱状単位が、横幅に対する縦幅の比(以下、「柱状単位アスペクト比」ともいう。)が、1.3以上であることが好ましい。
周期構造体層形成用層における柱状単位アスペクト比が上記の範囲とされることにより、当該周期構造体層形成用層がエッチング法による加工性がより一層優れたものとなるため、周期構造体層23を所期の形状を有するものとすることができる。
【0048】
スパッタ法によって周期構造体層形成用層を形成するためには、スパッタ条件を制御することが必要とされる。
具体的には、蛍光部材22とターゲット物質との間に印加される高周波電力を低くすると共に、不活性ガスの流量を小さくすることが好ましい。
印加する高周波電力を小さくすることによれば、スパッタ膜の形成時における蛍光部材22の温度を低くすることができる。そのため、蛍光部材22上に形成されるスパッタ膜における再結晶化を抑制し、よって得られるスパッタ膜を、所期の柱状構造を有するものとすることができる。
不活性ガスの流量を比較的小さくすることによれば、蛍光部材22上に形成されるスパッタ膜を緻密なもの、具体的には柱状単位アスペクト比が大きくて、柱状単位間に微細空間が形成された多孔性のものとすることができると共に、高屈折率のものとすることができる。
また、スパッタ膜を高屈折率のものとするためには、不活性ガスと共に酸素ガスを導入することが好ましい。
具体的に、スパッタ装置を用い、周期構造体層形成用層としてジルコニアのスパッタ膜を形成する場合においては、蛍光部材22とターゲット物質(ジルコニア)との間に印加される高周波電力は、450W以下であることが好ましく、更に好ましくは250W以下である。
また、例えばアルゴンガスなどの不活性ガスの流量は、1〜20sccmであることが好ましい。また、必要に応じて不活性ガスと共に導入される酸素ガスの流量は、0.1〜3sccmであることが好ましい。
この例において、周期構造体層形成用層は、ジルコニアのスパッタ膜よりなり、厚みが600nm程度(具体的には550nm)のものである。また、この周期構造体層形成用層は、スパッタ装置を用い、ジルコニアをターゲット物質とし、高周波電力が250W、不活性ガスとしてのアルゴンガスの流量が20sccm、酸素ガスの流量が0.5sccmの形成条件により、4時間かけて形成されたものである。このスパッタ膜の成膜中において、蛍光部材22の温度(表面温度)は100℃以下である。
【0049】
その後、蛍光部材22上に形成された周期構造体層形成用層の表面に、例えばスピンコート法によってレジスト膜を得、このレジスト膜をナノインプリント法によりパターニングする。
【0050】
そして、表面にレジストパターン膜が形成された周期構造体層形成用層に対して、ドライエッチング処理を施すことにより、表面に凸部25が周期的に形成されてなる周期構造24を有する周期構造体層23を得る。
ドライエッチング処理の手法の具体例としては、ICP(Inductive Coupling Plasma:誘電結合方式)エッチング法が挙げられる。
このICPエッチング法によって周期構造24を形成するための形成条件としては、当該周期構造24の形状(具体的には、例えば凸部25の形状および周期構造24のアスペクト比(h/d)等)などに応じ、また必要に応じて周期構造体層形成用層の材質および柱状単位アスペクト比などを考慮して適宜に定められる。
具体的には、エッチングガスとしては、例えばシランガス(SiH
4 )、四フッ化ケイ素ガス(SiF
4 )、ジボランガス(B
2 H
6 )および三塩化ホウ素ガス(BCl
3 )などが用いられる。また、高周波電力は、100〜700Wとされ、バイアス電力は、1〜30Wとされる。
この例において、周期構造体層23の周期構造24は、ICPエッチング法により、エッチングガスとして三塩化ホウ素ガス(BCl
3 )を用い、高周波電力が225W、バイアス電力が6Wの形成条件によって、処理時間1016secで形成されたものである。
【0051】
その後、形成された周期構造体層23上に残されたレジストパターン膜の残膜を、有機溶剤にて除去することにより、
図2に示されているような構成の波長変換部材21を得る。
以上のような波長変換部材形成工程を経ることによって得られた波長変換部材21について、その一例におけるSEM写真を
図6に示す。この波長変換部材21の柱状単位アスペクト比は、3.0である。
【0052】
そして、このようにして得られた波長変換部材21を、必要に応じて光反射膜33を設けた状態で基板31上に接合し、必要に応じて光拡散層34を設けることによって蛍光発光部材20を得、この蛍光発光部材20、レーザダイオード11およびその他の構成部材を適宜の位置に配設することによって蛍光光源装置が製造される。
【0053】
上記の蛍光光源装置において、レーザダイオードから出射された青色領域のレーザ光である励起光Lは、コリメータレンズ15によって平行光線とされる。その後、この励起光Lは、ダイクロイックミラー16を透過して蛍光発光部材20における波長変換部材21の励起光受光面すなわち周期構造体層23の表面に対して略垂直に照射され、当該周期構造体層23を介して蛍光部材22に入射される。そして、蛍光部材22においては、当該蛍光部材22を構成する蛍光体が励起される。これにより、蛍光部材22において蛍光が放射される。この蛍光は、蛍光出射面すなわち周期構造体層23の表面から出射され、ダイクロイックミラーによって垂直方向に反射された後、蛍光光源装置の外部に出射される。
【0054】
この蛍光光源装置においては、蛍光部材22の表面に周期構造体層23が設けられており、この周期構造体層23の表面によって励起光受光面および蛍光出射面が構成されている。そして、周期構造体層23の表面には、略錐形状の凸部25が周期的に配列され、アスペクト比(h/d)が0.2〜0.9の範囲である周期構造24が形成されている。そのため、波長変換部材21の励起光受光面である周期構造体層23の表面に励起光Lが照射されたときには、当該励起光Lの反射が抑制され、その結果、励起光Lを波長変換部材21における蛍光部材22内に十分に取り込むことができる。また、周期構造24においては、蛍光部材22を構成する蛍光体から放射される蛍光L1の回折が発生するため、蛍光L1を高い効率によって波長変換部材21の蛍光出射面である周期構造体層23の表面から外部に取り出すことができる。その上、波長変換部材21に高い光効率が得られる。
また、蛍光部材22が、単結晶または多結晶の蛍光体によって構成されている。そのため、波長変換部材21における蛍光部材22で発生した熱を、基板31および放熱用フィンに効率よく伝導することができ、よって波長変換部材21の裏面方向に向かって排熱することができる。その結果、波長変換部材21における蛍光部材22の温度上昇が抑制されるため、蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減を抑制することができる。
また、周期構造体層23を構成する材料として、屈折率が蛍光部材22の屈折率の値以上の高屈折率材料が用いられている。そのため、蛍光部材22と周期構造体層23との界面において、蛍光L1が反射することが回避されるので、蛍光部材22からの蛍光L1の発光効率を維持することができる。しかも、蛍光部材22と周期構造体層23との界面においては、蛍光L1の進行方向が変更されるため、蛍光L1が波長変換部材21の内部に閉じ込められることが抑制され、よって蛍光L1を周期構造体層23の表面から外部に高い効率で出射することができる。
また、周期構造体層23が蛍光部材22の表面に配設されたものであることから、当該周期構造体層23の縦横寸法が必然的に当該蛍光部材22の縦横寸法以下の大きさとなるため、蛍光部材22の縦横寸法との関係において、蛍光L1の光源サイズが過度に大きくなることがない。そのため、波長変換部材21から出射される蛍光L1を、光学部材を用いて導光する場合であっても、エタンデュが大きく制限されることがない。その結果、波長変換部材21から出射される蛍光L1を有効に利用することができる。
従って、この蛍光光源装置によれば、波長変換部材21に励起光Lが照射されたときに、当該波長変換部材21の温度上昇が抑制され、また当該励起光Lの反射が抑制されると共に、波長変換部材21に高い光効率が得られ、その上、その波長変換部材21の内部において生じた蛍光L1を有効に利用して高い効率で外部に出射することができるため、高い発光効率が得られる。
【0055】
この蛍光光源装置においては、波長変換部材21が、蛍光部材22と周期構造体層23とを備えたものであることから、蛍光部材22を周期構造が形成されたものとする必要がないため、周期構造24の形成が容易となる。しかも、周期構造体層23は、この周期構造体層23を構成する材料が、周期構造24をエッチング処理によって形成することのできる優れた加工性(加工容易性)を有するものである。そのため、波長変換部材形成工程を経ることにより、所期の形状を有する周期構造24を容易に形成することができる。
【0056】
また、この蛍光光源装置においては、波長変換部材21が、裏面および側面に反射機能を有するものとされることにより、波長変換部材21における励起光受光面と蛍光出射面とが同一面、具体的には、周期構造体層23の表面によって構成されている。そのため、周期構造体層23の表面以外から蛍光が外部に出射されることが抑制されており、よって波長変換部材21における励起光Lを受光する面の面積と蛍光L1を出射する面の面積とが略同一となることから、蛍光出射面における輝度を最大にすることができる。また、波長変換部材21の裏面全面が基板31を介して放熱用フィンと接触した状態とされていることから、高い排熱性を得ることができるため、蛍光体において温度消光が生じることに起因する蛍光光量の低減をより一層抑制することができる。その結果、一層高い発光効率が得られる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、波長変換部材は、内部において生じた蛍光が側面から出射されることを防止することができるため、
図2に示すように、側面が光反射機能を有するものであることが好ましいが、裏面および側面の一方が光反射機能を有するものであってもよい。具体的には、例えば波長変換部材の側面のみに光反射膜が形成されており、波長変換部材の表面および裏面が蛍光出射面とされていてもよい。
【0058】
また、蛍光光源装置全体の構造は、
図1に示すものに限定されず、種々の構成を採用することができる。例えば、
図1に係る蛍光光源装置では、1つの励起用レーザ光光源(例えば、レーザダイオード)の光を用いているが、励起用レーザ光光源が複数あり、波長変換部材の前に集光レンズを配置して、集光光を波長変換部材に照射する形態であってもよい。また、励起光はレーザダイオードによる光に限るものではなく、波長変換部材における蛍光体を励起することができるものであれば、LEDによる光を集光したものでもよく、更には、水銀、キセノン等が封入されたランプからの光であってもよい。尚、ランプやLEDのように放射波長に幅を持つ光源を利用した場合には、励起光の波長は主たる放射波長の領域である。ただし、本発明においては、これに限定されるものではない。
【0059】
以下、本発明の実験例について説明する。
【0060】
(実験例1)
図2に示す構成に基づいて、蛍光部材よりなり、当該蛍光部材の表面に、凸部が周期的に配列されてなる周期構造が形成された、波長変換部材を備えた蛍光発光部材を複数作製した。
ここに、この実験例1においては、周期構造自体による効果(具体的には、励起光の反射抑制効果および回折による蛍光の取り出し効率向上効果)を確認するため、波長変換部材として、蛍光部材の表面に周期構造が形成されたものを用い、また当該周期部材の裏面には銀反射膜よりなる光反射膜を設け、側面には無機拡散材よりなる光拡散層を設けた。すなわち、作製した波長変換部材は、波長変換部材が蛍光部材よりなり、当該蛍光部材の表面に周期構造が形成されていること以外は、
図2に係る波長変換部材と基本的に同様の構成を有するものである。
作製した複数の蛍光発光部材は、波長変換部材の周期構造におけるアスペクト比が異なるものである。それらの複数の波長変換部材は、凸部の高さを100〜1100nmの範囲で変更することによってアスペクト比が調節されており、各々、円錐状の凸部を有し、周期が600nmであり、下記の仕様を有するものである。
ここに、また、周期構造の周期は、蛍光部材を構成する蛍光体から放射される蛍光の回折が発生する範囲の大きさである。
【0061】
[基板]
材質:アルミ基板,寸法:25mm(縦)×25mm(横)×1mm(厚み)
[蛍光部材]
材質:LuAG:Ceの単結晶(組成=Lu
3 Al
5 O
12:Ce(Ceのドープ量0.5mol%),屈折率=1.83,励起波長=455nm,蛍光波長=535nm),寸法:1.7mm(縦)×3.0mm(横)×130μm(厚み)
[光反射膜]
材質:銀,厚み:110nm
[光拡散層]
材質:無機拡散材(アルカリ性水溶液とシリカおよび酸化チタンの微小粒子との混濁液を乾燥したもの),厚み:130μm
【0062】
また、周期構造を形成しなかったこと以外は、上記の表面に周期構造を有する波長変換部材と同様の構成および仕様の波長変換部材を作製した。
【0063】
作製した複数の波長変換部材の表面(蛍光部材の表面)の各々に、ピーク波長が445nmの励起光を照射し、当表面における光の反射率(LD反射率)および光の取出し効率を測定した。結果を
図7に示す。この
図7において、光の反射率(LD反射率)の測定結果を破線で示し、光の取出し効率の測定結果を実線で示す。
その結果、波長変換部材として、略錐形状の凸部が配列されてなる周期構造が形成された表面を有するものを用い、当該周期構造のアスペクト比を0.5〜0.9の範囲とすることにより、励起光の波長変換部材の表面における反射が抑制されると共に、波長変換部材の内部において生成された蛍光を高い効率で外部に出射することができることが確認された。
【0064】
(実験例2)
実験例1において、波長変換部材における蛍光部材として屈折率が2のものを用いて複数の波長変換部材を作製し、また作製した複数の波長変換部材に対して励起光としてピーク波長が465nmの光を照射したこと以外は、当該実験例1と同様の手法により、波長変換部材の表面における光の反射率(LD反射率)および光の取出し効率を測定した。結果を
図8に示す。この
図8において、光の反射率(LD反射率)の測定結果を破線で示し、光の取出し効率の測定結果を実線で示す。
その結果、波長変換部材として、略錐形状の凸部が配列されてなる周期構造が形成された表面を有するものを用い、当該周期構造のアスペクト比を0.5〜0.9の範囲とすることにより、励起光を波長変換部材の表面における反射が抑制されると共に、波長変換部材の内部において生成された蛍光を高い効率で外部に出射することができることが確認された。
【0065】
(実験例3)
実験例1において、波長変換部材における蛍光部材として屈折率が2.15のものを用いて複数の波長変換部材を作製したこと以外は、当該実験例1と同様の手法により、波長変換部材の表面における光の反射率(LD反射率)および光の取出し効率を測定した。結果を
図9に示す。この
図9において、光の反射率(LD反射率)の測定結果を破線で示し、光の取出し効率の測定結果を実線で示す。
その結果、波長変換部材として、略錐形状の凸部が配列されてなる周期構造が形成された表面を有するものを用い、当該周期構造のアスペクト比を0.5〜0.9の範囲とすることにより、励起光を波長変換部材の表面における反射が抑制されると共に、波長変換部材の内部において生成された蛍光を高い効率で外部に出射することができることが確認された。
【0066】
また、実験例1〜実験例3の結果に基づいて、前記数式(1)によって算出される波長変換部材の光効率と周期構造におけるアスペクト比との関係を確認した。結果を
図10に示す。この
図10においては、実験例1に係る蛍光部材として屈折率が1.83のものを用いた場合の値を四角プロット(□)、実験例2に係る蛍光部材として屈折率が2のものを用いた場合の値を菱形プロット(◇)および実験例3に係る蛍光部材として屈折率が2.15のものを用いた場合の値を三角プロット(△)示す。また、同図においては、異なる屈折率を有する蛍光部材を用いた実験例1〜実験例3の各々に係る波長変換部材の光効率を、その最大値(アスペクト比が0.83である場合)を基準として規格化して示しており、またグラフ上の破線の直線は、光効率が0.98の基準線である。
この結果から、波長変換部材の光効率は、蛍光部材の屈折率によらず、周期構造におけるアスペクト比が0.83である場合に最も高くなっており、また0.5〜0.9の範囲において安定して0.98以上と高くなることが明らかである。従って、周期構造のアスペクト比を0.5〜0.9の範囲とすることにより、波長変換部材に高い光効率が得られることが確認された。
【0067】
(実験例4)
図2に示す構成に基づいて、下記表1に示すように、周期構造(24)におけるアスペクト比(h/d)が異なる複数の波長変換部材(21)を作製した。これらの複数の波長変換部材(21)は、各々、蛍光部材(22)上に、スパッタ法によって高屈折材料層を形成し、この高屈折率材料層の表面をICPエッチング法によってドライエッチング処理することによって周期構造(24)を形成したものである。そして、周期構造の形成過程において、周期構造(24)の加工容易性を、エッチング処理に要する時間、および各凸部(25)の下底部の間における平面部(薄膜部が露出された状態部分)の有無に基づいて評価した。結果を表1に示す。
作製した複数の波長変換部材(21)は、凸部の高さ(h)を変更することによってアスペクト比が調節されており、各々、円錐状の凸部(25)を有し、周期(d)が600nmであり、下記の仕様を有するものである。
ここに、周期構造体層(23)は、蛍光部材(22)から遠ざかる方向に伸びる複数の柱状単位を有する柱状組織により構成されているものであり、柱状単位アスペクト比が3.0のものである。
【0068】
[蛍光部材(22)]
材質:LuAG:Ceの単結晶(組成=Lu
3 Al
5 O
12:Ce,励起波長=455nm,蛍光波長=535nm),屈折率=1.83,寸法:1.7mm(縦)×3.0mm(横)×130μm(厚み)
[周期構造体層(23)]
材質:ジルコニア,屈折率=2.1,薄膜部(26)の厚み300nm
【0070】
その結果、波長変換部材においては、蛍光部材の表面に高屈折率材料よりなる周期構造体層を形成し、その周期構造体層の表面において、周期構造のアスペクト比を0.5〜0.9の範囲とすることにより、当該周期構造において、周期に対して高さが相対的に低くなる。そのため、ICPエッチング法によるドライエッチング処理に要する時間が短くなると共に、凸部の下底部の幅が大きくなることから、錐状または錐台状の凸部が配列されてなる所期の周期構造を容易に得ることができることが確認された。
【0071】
以上の実験例1〜実験例4に係る
図7〜
図10および表1から、周期構造のアスペクト比を0.5〜0.9の範囲とすることにより、錐状または錐台状の凸部が配列されてなる所期の周期構造をエッチング処理によって容易に得ることができ、しかも波長変換部材に所期の光学特性を得ることができることが確認された。