特許第6356543号(P6356543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6356543-燃料噴射弁 図000002
  • 特許6356543-燃料噴射弁 図000003
  • 特許6356543-燃料噴射弁 図000004
  • 特許6356543-燃料噴射弁 図000005
  • 特許6356543-燃料噴射弁 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356543
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/10 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
   F02M61/10 A
   F02M61/10 P
   F02M61/10 X
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-177960(P2014-177960)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-50557(P2016-50557A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】重永 真宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 邦夫
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−232375(JP,A)
【文献】 実開昭61−1660(JP,U)
【文献】 特開2009−185609(JP,A)
【文献】 特開2007−100643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸(CA0)方向の一方の端部(25)に形成され燃料を噴射する第一噴孔(26)、前記第一噴孔の内側開口(281)の周囲に形成される第一弁座(274)、前記第一噴孔の径方向外側に形成され燃料を噴射する第二噴孔(27)、及び、前記第二噴孔の内側開口(291)の周囲に形成される第二弁座(270)を有するハウジング(20)と、
前記ハウジング内に往復移動可能に設けられ、一方の端部(411)が前記第一弁座に当接可能なインナ軸部(41、42)、及び、前記インナ軸部の他方の端部に形成され前記中心軸に垂直な方向の大きさが前記インナ軸部の前記中心軸に垂直な方向の大きさより大きいインナ鍔部(43)を有するインナニードル(40)と、
前記インナ鍔部の前記第一弁座側に前記インナニードルと一体に往復移動可能に設けられ、前記インナ鍔部の前記第一弁座側の端面(432)に当接可能なインナコア(45)と、
前記ハウジング内に往復移動可能に設けられ、前記インナ軸部が挿通される挿通孔(510)を有し一方の端部(511)が前記第二弁座に当接可能なアウタ軸部(51、52)、及び、前記アウタ軸部の他方の端部に形成され前記中心軸に垂直な方向の大きさが前記アウタ軸部の前記中心軸に垂直な方向の大きさより大きいアウタ鍔部(53)を有するアウタニードル(50)と、
前記アウタ鍔部の前記第二弁座側に前記アウタニードルと一体に往復移動可能に設けられ、前記アウタ鍔部の前記第二弁座側の端面(532)に当接可能なアウタコア(55)と、
前記ハウジング内に固定され、前記第一噴孔の内側開口の縁部(282)と前記第二噴孔の内側開口の縁部(292)との間の前記ハウジングの内壁であるシール面(270)に当接する当接面(612)を有し、前記ハウジング内を前記インナニードル及び前記インナコアを往復移動可能に収容し前記第一噴孔に連通可能な第一区画室(601)及び前記アウタニードル及び前記アウタコアを往復移動可能に収容し前記第二噴孔に連通可能な第二区画室(602)に区画する区画部材(60)と、
前記インナニードルの前記第一弁座とは反対側に設けられる固定コア(30)と、
電力が供給されると、前記固定コア、前記アウタコア、前記区画部材及び前記インナコアを通る磁界を形成するコイル(35)と、
前記インナニードルの一方の端部が前記第一弁座に当接するよう前記インナニードルを付勢する第一付勢部材(31)と、
前記アウタニードルの一方の端部が前記第二弁座に当接するよう前記アウタニードルを付勢する第二付勢部材(32)と、
を備えることを特徴とする燃料噴射弁(1)。
【請求項2】
前記第一付勢部材の付勢力は、前記第二付勢部材の付勢力に比べ小さいことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記区画部材は、前記第一区画室と前記第二区画室とを連通する連通路(603)を有することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下、「エンジン」という)に燃料を噴射供給する燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングが有する複数の噴孔の開閉を複数のニードルの往復移動によって個別に制御しハウジング内の燃料を噴射する燃料噴射弁が知られている。当該燃料噴射弁は、エンジンの運転状態に応じて複数の噴孔を使い分け、燃料噴射量を広範囲に変更可能なよう構成されている。例えば、特許文献1には、ハウジングの中心軸方向の一方の端部に形成される中心噴孔を開閉するインナニードルと、インナニードルの径方向外側に設けられ中心噴孔の径方向外側に形成される外側噴孔を開閉するアウタニードルとを備える燃料噴射弁が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−220129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の燃料噴射弁では、ハウジングは、中心噴孔を開閉するときインナニードルが離間または当接する中心噴孔弁座、及び、外側噴孔を開閉するときアウタニードルが離間または当接する外側噴孔弁座を有する。中心噴孔弁座は、燃料噴射弁の中心軸に対して環状に形成される。一方、外側噴孔弁座は、外側噴孔が中心噴孔の径方向外側に形成されているため、例えば、外側噴孔が燃料噴射弁の中心軸上の点を中心とする円周上に複数形成される場合、燃料噴射弁の中心軸からみて外側噴孔の内側開口の径方向内側と外側噴孔の内側開口の径方向外側との二箇所に形成される。また、例えば、外側噴孔が燃料噴射弁の中心軸上の点を中心とする円周に含まれる円弧上に複数形成される場合には、燃料噴射弁の中心軸に対してずれた位置に外側噴孔を囲むよう形成される。
【0005】
特許文献1に記載の燃料噴射弁において、中心噴孔のみを開いて比較的少量の燃料を噴射するとき中心噴孔に向かって流れる燃料が外側噴孔から噴射されないように、アウタニードルは、外側噴孔の内側開口と中心噴孔の内側開口との間の外側噴孔弁座の径方向内側部分と、外側噴孔弁座の径方向外側部分と、のそれぞれに同じ程度の面圧で当接するよう付勢されている。しかしながら、経時変化によって外側噴孔弁座の径方向内側部分に対する面圧と外側噴孔弁座の径方向外側部分に対する面圧とが異なると、中心噴孔と外側噴孔との液密を維持することができなくなるおそれがある。このため、特許文献1に記載の燃料噴射弁では、中心噴孔及び外側噴孔から噴射される燃料の量を高精度に制御することができない。
【0006】
本発明の目的は、複数の噴孔から噴射される燃料の量を高精度に制御する燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、燃料噴射弁であって、ハウジング、インナニードル、インナコア、アウタニードル、アウタコア、区画部材、固定コア、コイル、第一付勢部材、及び、第二付勢部材を備える。
ハウジングは、中心軸方向の一方の端部に形成され燃料を噴射する第一噴孔、第一噴孔の内側開口の周囲に形成される第一弁座、第一噴孔の径方向外側に形成され燃料を噴射する第二噴孔、及び、第二噴孔の内側開口の周囲に形成される第二弁座を有する。
インナニードルは、一方の端部が第一弁座に当接可能なインナ軸部、及び、インナ軸部の他方の端部に形成され中心軸に垂直な方向の大きさがインナ軸部の中心軸に垂直な方向の大きさより大きいインナ鍔部を有する。
インナコアは、インナ鍔部の第一弁座側にインナニードルと一体に往復移動可能に設けられ、インナ鍔部の第一弁座側の端面に当接可能に形成されている。
アウタニードルは、インナ軸部が挿通される挿通孔を有し一方の端部が第二弁座に当接可能なアウタ軸部、及び、アウタ軸部の他方の端部に形成され中心軸に垂直な方向の大きさがアウタ軸部の中心軸に垂直な方向の大きさより大きいアウタ鍔部を有する。
アウタコアは、アウタ鍔部の第二弁座側にアウタニードルと一体に往復移動可能に設けられ、アウタ鍔部の第二弁座側の端面に当接可能に形成されている。
区画部材は、ハウジング内に固定され、ハウジング内をインナニードル及びインナコアを往復移動可能に収容し第一噴孔に連通可能な第一区画室及びアウタニードル及びアウタコアを往復移動可能に収容し第二噴孔に連通可能な第二区画室に区画する。
固定コアは、インナニードルの第一弁座とは反対側に設けられる。
コイルは、電力が供給されると、固定コア、アウタコア、区画部材及びインナコアを通る磁界を形成する。
第一付勢部材は、インナニードルの一方の端部が第一弁座に当接するようインナニードルを付勢する。
第二付勢部材は、アウタニードルの一方の端部が第二弁座に当接するようアウタニードルを付勢する。
本発明の燃料噴射弁は、区画部材が第一噴孔の内側開口の縁部と第二噴孔の内側開口の縁部との間のハウジングの内壁であるシール面に当接する当接面を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の燃料噴射弁では、中心軸方向の一方の端部に形成される第一噴孔及び第一噴孔の径方向外側に形成される第二噴孔の二種類の噴孔を有している。第一噴孔の内側開口の周囲に形成される第一弁座には、インナニードルが当接可能に設けられている。第二噴孔の内側開口の周囲に形成される第二弁座には、アウタニードルが当接可能に設けられている。コイルが磁界を形成すると、インナニードルまたはアウタニードルのいずれか一方が開弁方向に移動し、インナニードルが移動したときは第一噴孔が開き、アウタニードルが移動したときは第二噴孔が開く。コイルが形成する磁界が強くなると、インナニードルまたはアウタニードルのいずれか他方が開弁方向に移動し、まだ開いていなかった第一噴孔または第二噴孔が開く。
【0009】
本発明の燃料噴射弁では、ハウジング内を第一区画室及び第二区画室に区画する区画部材は、ハウジングに固定されている。また、区画部材は、第一噴孔の内側開口の縁部と第二噴孔の内側開口の縁部との間のハウジングの内壁であるシール面に当接する当接面を有する。これにより、第一噴孔または第二噴孔のいずれか一方のみが開いているとき、第一噴孔または第二噴孔のいずれか一方を流れる燃料が第一噴孔または第二噴孔のいずれか他方から噴射されることを防止することができる。したがって、複数の噴孔の開閉を個別に制御しつつ、燃料の噴射量を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態による燃料噴射弁の断面図である。
図2図1のII部拡大図である。
図3図2のIII部拡大図である。
図4】本発明の一実施形態による燃料噴射弁の作用を説明する断面図であって、図3とは異なる作用を説明する断面図である。
図5】本発明の一実施形態による燃料噴射弁の作用を説明する断面図であって、図3、4とは異なる作用を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0012】
(一実施形態)
本発明の一実施形態による燃料噴射弁1を図1〜5に示す。なお、図1〜5には、インナニードル40及びアウタニードル50が噴射ノズル27から離間する方向である開弁方向、及び、インナニードル40及びアウタニードル50が噴射ノズル27に当接する方向である閉弁方向を図示する。
【0013】
燃料噴射弁1は、例えば図示しない直噴式ガソリンエンジンの燃料噴射装置に用いられ、燃料としてのガソリンを高圧でエンジンに噴射供給する。燃料噴射弁1は、ハウジング20、区画部材60、インナニードル40、インナコア45、アウタニードル50、アウタコア55、固定コア30、コイル35、「第一付勢部材」としての第一スプリング31、「第二付勢部材」としての第二スプリング32などを備える。
【0014】
ハウジング20は、図1に示すように、第一筒部材21、第二筒部材22、第三筒部材23、第四筒部材24、第五筒部材25、及び、「中心軸方向の一方の端部」としての噴射ノズル27などから構成されている。
【0015】
第一筒部材21、第二筒部材22、第三筒部材23、第四筒部材24及び第五筒部材25は、噴射ノズル27側からこの順番に同じ中心軸を有するよう筒状に形成されている部材である。第一筒部材21、第二筒部材22、第三筒部材23、第四筒部材24及び第五筒部材25は、後述するインナニードル40、インナコア45、アウタニードル50、アウタコア55、固定コア30などを内側に収容する。
【0016】
第一筒部材21、第三筒部材23及び第五筒部材25は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により形成され、磁気安定化処理が施されている。一方、第二筒部材22及び第四筒部材24は、例えばオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料により形成されている。
【0017】
噴射ノズル27は、第一筒部材21の第二筒部材22とは反対側の端部に設けられている。噴射ノズル27は、例えばマルテンサイト系ステンレス等の金属により有底筒状に形成されており、第一筒部材21に溶接されている。噴射ノズル27は、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。噴射ノズル27は、噴射部271及び筒部272から形成されている。
【0018】
噴射部271は、燃料噴射弁1の中心軸と同軸のハウジング20の中心軸CA0を対称軸として線対称に形成されている。噴射部271の外壁273の一部は、噴射ノズル27の内側から中心軸CA0の方向に突出するよう形成されている。噴射部271には、ハウジング20の内部と外部とを連通する噴孔が複数形成されている。
【0019】
一実施形態による燃料噴射弁1では、図2に示すように、複数の噴孔のうち一つの噴孔が中心軸CA0上に形成されている。中心軸CA0上に形成されている噴孔を「第一噴孔」としての中心噴孔28とする。また、中心噴孔28の径方向外側であって、中心軸CA0上の点を中心とする円周上に形成される複数の噴孔を「第二噴孔」としての外側噴孔29とする。なお、一実施形態では、外側噴孔29は、当該円周上に形成されているが、外側噴孔が形成される位置は、円周上でなくてもよく、中心噴孔28に対して径方向外側に形成されていればよい。
【0020】
筒部272は、噴射部271の径方向外側を囲み、噴射部271の外壁273が突出する方向とは反対の方向に延びるように設けられている。筒部272は、一方の端部が噴射部271に接続し、他方の端部が第一筒部材21に接続している。
【0021】
区画部材60は、ハウジング20の内側に設けられている。区画部材60は、区画部材筒部61及び区画部材鍔部62などから形成されている。
【0022】
区画部材筒部61は、図1に示すように、ハウジング20の内側において噴射ノズル27の内側から第三筒部材23の径方向内側まで延びるよう形成されている。区画部材筒部61の一方の端部611が有する「当接面」としての外壁612は、噴射ノズル27が有するシール面270に当接している。ここで、シール面270とは、中心噴孔28の内側開口281を形成する縁部282と外側噴孔29の内側開口291を形成する縁部292との間に形成されている噴射ノズル27の内壁である。一実施形態では、図2に示すように、シール面270とは、中心軸CA0からみて縁部282の径方向外側であって、かつ、中心噴孔28の「第一弁座」としての内壁274より径方向外側に位置し、縁部292の径方向内側に位置している環状の内壁である。区画部材筒部61は、インナニードル40を往復移動可能に収容する流路610を有している。
【0023】
区画部材鍔部62は、区画部材筒部61の噴射ノズル27の内壁に当接する端部とは反対側の端部に設けられている。区画部材鍔部62は、径方向外側の外壁621が第二筒部材22の第三筒部材23側の端部が有する内壁221及び第三筒部材23の第二筒部材22側の端部が有する内壁231に固定されている。これにより、区画部材60は、ハウジング20の内側を区画部材筒部61の内側及び区画部材鍔部62の固定コア30側から構成される第一区画室601と、区画部材筒部61の外側及び区画部材鍔部62の噴射ノズル27側から構成される第二区画室602に区画する。第一区画室601は、中心噴孔28と連通可能である。第二区画室602は、外側噴孔29と連通可能である。第一区画室601と第二区画室602とは、区画部材鍔部62が有する連通路603によって連通している。
【0024】
インナニードル40は、例えばマルテンサイト系ステンレス等の金属により形成されている。インナニードル40は、噴射ノズル27の硬度とほぼ同等の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。
【0025】
インナニードル40は、第一区画室601に往復移動可能に収容されている。インナニードル40は、インナ小径部41、インナ中径部42、「インナ鍔部」としてのインナ大径部43などから形成されている。一実施形態では、インナ小径部41、インナ中径部42及びインナ大径部43は、一体に形成されている。インナ小径部41及びインナ中径部42は、特許請求の範囲に記載の「インナ軸部」に相当する。
【0026】
インナ小径部41は、区画部材筒部61の流路610に挿入されている棒状の部位である。インナ小径部41の噴射ノズル27側の「インナニードルの一方の端部」としての端部411は、噴射ノズル27の内壁に当接可能に形成されている。具体的には、図2に示すように、インナ小径部41の外壁412は、シール面270の径方向内側に位置する内壁274に当接可能に形成されている。これにより、端部411と噴射ノズル27との間には、中心噴孔28に連通するインナサック280が形成される。
端部411の径方向外側には、インナ摺動部413が形成されている。インナ摺動部413は、区画部材筒部61の内壁に摺動する。インナニードル40が第一区画室601を往復移動するとき、区画部材筒部61はインナ小径部41の往復移動を案内する。
【0027】
インナ中径部42は、インナ小径部41の固定コア30側に設けられている。インナ中径部42の外径は、インナ小径部41の外径より大きい。インナ中径部42は、有底筒状に形成され、中心軸CA0方向に噴射ノズル27に向かう燃料が流れる流路420を有する。流路420は、流路420の噴射ノズル27側において径方向に貫通するよう形成される孔421と連通している。すなわち、孔421は、流路420とインナ中径部42の外部とを連通する。
【0028】
インナ大径部43は、インナ中径部42の固定コア30側に設けられている。インナ大径部43の外径は、インナ中径部42の外径より大きい。インナ大径部43は、流路420と連通する流路430を有する。流路430の内径は、流路420の内径より大きい。
インナ大径部43の径方向外側の外壁431は、第三筒部材23の第四筒部材24側の端部が有する内壁232及び第四筒部材24の第三筒部材23側の端部が有する内壁241に摺動可能に形成されている。
【0029】
インナコア45は、インナ中径部42の径方向外側に設けられている。インナコア45の固定コア30側の端面451は、インナ大径部43の噴射ノズル27側の「インナ鍔部の第一弁座側の端面」としての端面432に当接可能である。これにより、インナコア45が開弁方向に移動するとき、インナニードル40は、インナコア45と一体となって開弁方向に移動可能である。
インナコア45の径方向外側の外壁452は、第三筒部材23の内壁に摺動可能に形成されている。これにより、インナコア45の往復移動が案内される。
【0030】
アウタニードル50は、例えばマルテンサイト系ステンレス等の金属により形成されている。アウタニードル50は、噴射ノズル27の硬度とほぼ同等の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。
【0031】
アウタニードル50は、区画部材筒部61の径方向外側に設けられている往復移動な筒状の部材である。アウタニードル50は、アウタ小径部51、アウタ中径部52、「アウタ鍔部」としてのアウタ大径部53などから形成されている。一実施形態では、アウタ小径部51、アウタ中径部52及びアウタ大径部53は、一体に形成されている。アウタ小径部51及びアウタ中径部52は、特許請求の範囲に記載の「アウタ軸部」に相当する。
【0032】
アウタ小径部51は、区画部材筒部61の径方向外側に設けられる筒状の部位である。アウタ小径部51は、中心軸CA0方向に挿通孔510が形成されている。挿通孔510には、区画部材筒部61とともにインナ小径部41が挿通されている。アウタ小径部51の噴射ノズル27側の「アウタニードルの一方の端部」としての端部511は、噴射ノズル27の内壁に当接可能に形成されている。具体的には、図2に示すように、アウタ小径部51の外壁512は、内側開口291の径方向外側を囲むよう形成されている「第二弁座」としての内壁275に当接可能に形成されている。これにより、端部511と噴射ノズル27との間には、外側噴孔29に連通するアウタサック290が形成される。
端部511の径方向外側には、噴射ノズル27の内壁に摺動するアウタ摺動部513が形成されている。また、アウタ小径部51の固定コア30側の端部は、第一筒部材21が有する摺動部材212に摺動する。アウタニードル50が第二区画室602を往復移動するとき、第一筒部材21及び噴射ノズル27は、アウタ小径部51の往復移動を案内する。
【0033】
アウタ中径部52は、アウタ小径部51の固定コア30側に設けられている。アウタ中径部52の外径は、アウタ小径部51の外径より大きい。アウタ中径部52は、中心軸CA0方向に挿通孔510と連通する流路520を有している。流路520の内径は、挿通孔510の内径より大きい。また、アウタ中径部52は、流路520とアウタニードル50の外側とを連通する522を有している。
【0034】
アウタ大径部53は、アウタ中径部52の固定コア30側に設けられている。アウタ大径部53の外径は、アウタ中径部52の外径より大きい。アウタ大径部53は、流路520と連通する流路530を有する。流路530の内径は、流路520の内径より大きい。
アウタ大径部53の径方向外側の外壁531は、第一筒部材21の第二筒部材22側の端部が有する内壁211及び第二筒部材22の第一筒部材21側の端部が有する内壁222に摺動可能に形成されている。
【0035】
アウタコア55は、アウタニードル50の噴射ノズル27側に設けられている筒状の部材である。アウタコア55は、中心軸CA0方向にアウタニードル50が挿通される貫通孔550を有する。
【0036】
アウタコア55の噴射ノズル27側の端部は、径内方向に突出するよう形成されている円環部551を有する。円環部551の固定コア30側の端面552は、アウタ中径部52の噴射ノズル27側の端面521に当接可能に形成されている。また、アウタコア55の固定コア30側の端面553は、アウタ大径部53の噴射ノズル27側の「アウタ鍔部の第二弁座側の端面」としての端面532に当接可能に形成されている。端面552と端面521とが当接するとき、端面553と端面532とが当接する。これにより、アウタコア55が開弁方向を移動するとき、アウタニードル50は、アウタコア55と一体となって開弁方向に移動可能である。
アウタコア55の径方向外側の外壁554は、第一筒部材21の内壁に摺動可能に形成されている。これにより、アウタコア55の往復移動が案内される。
【0037】
固定コア30は、第五筒部材25と溶接され、ハウジング20の内側であってコイル35が形成する磁界内に固定されている。固定コア30は、磁性材料から形成され、表面に例えばクロムめっきを施し、インナニードル40との当接に耐えるための必要な硬度を確保している。固定コア30は、磁気安定化処理が施されている。
【0038】
コイル35は、略筒状に形成され、第一筒部材21の第二筒部材22側の端部から第五筒部材25の第四筒部材24側の端部までの間の径方向外側に位置している。
コイル35は、電力が供給されると周囲に磁界を形成する。コイル35によって形成される磁界は、図4、5に示すように、固定コア30、第五筒部材25、後述する第一ホルダ15、第二ホルダ18、第一筒部材21、アウタコア55、アウタニードル50、区画部材60、第三筒部材23、インナコア45、インナニードル40を通り、これらの内部に磁気回路が形成される。
【0039】
第一スプリング31は、インナニードル40の内側に収容されている。第一スプリング31の一端は、固定コア30の噴射ノズル27側の端面301に当接している。第一スプリング31の他端は、流路420を形成する内壁と流路430を形成する内壁とを接続するインナニードル40の段差面401に当接している。第一スプリング31は、インナニードル40が内壁274に当接するよう付勢する。
【0040】
第二スプリング32は、アウタニードル50の内側に収容されている。第二スプリング32の一端は、区画部材鍔部62の噴射ノズル27側の端面622に当接している。第二スプリング32の他端は、流路520を形成する内壁と挿通孔510を形成する内壁とを接続するアウタニードル50の段差面501に当接している。第二スプリング32は、アウタニードル50が内壁275に当接するよう付勢する。
一実施形態による燃料噴射弁1では、第一スプリング31の付勢力Fsp1は、第二スプリング32の付勢力Fsp2より小さい。
【0041】
固定コア30の噴射ノズル27とは反対側には、筒状の燃料導入パイプ12が設けられている。燃料導入パイプ12の内側には、フィルタ13が設けられている。フィルタ13は、燃料導入パイプ12の導入口14から流入した燃料に含まれる異物を捕集する。
【0042】
燃料導入パイプ12、第五筒部材25及びコイル35の径方向外側には、樹脂製の第一ホルダ15が形成されている。第一ホルダ15は、径方向外側に延びるよう形成されるコネクタ16を有している。コネクタ16には、コイル35へ電力を供給するための端子17がインサート成形されている。第一ホルダ15及び第一筒部材21の径方向外側には、金属製の第二ホルダ18が形成されている。
【0043】
燃料導入パイプ12の導入口14からハウジング20の内側に流入する燃料は、固定コア30の内側、流路430、420、孔421、第一区画室601に導かれる。第一区画室601に導かれた燃料の一部は、流路610であるインナ小径部41と区画部材60の内壁との間を通ってインナサック280の近傍に導かれる。また、インナサック280の近傍に導かれる燃料を除く第一区画室601の残りの燃料は、連通路603、流路530、520、522、第二区画室502であるアウタニードル50の外壁と第一筒部材21の内壁との間を通ってアウタサック290の近傍に導かれる。
【0044】
次に、燃料噴射弁1の作用について説明する。
コイル35に電力が供給されていないとき、インナニードル40及びインナコア45には、導入口14から導入される燃料の圧力、及び、第一スプリング31の付勢力Fsp1が閉弁方向に作用している。具体的には、図2に示すように、インナ小径部41の外壁412と噴射ノズル27の内壁274とのシート径をシート径S28とし、導入口14から導入される燃料の圧力を圧力Pf0とすると、インナニードル40及びインナコア45には式(1)によって算出される閉弁方向の力が作用している。
Fsp1+Pf0×{π/4×(S28)2} ・・・(1)
燃料噴射弁1では、コイル35に電力が供給されていないとき、式(1)で算出される閉弁方向の力によって外壁412と内壁274とは当接し、中心噴孔28は閉じられている。
【0045】
また、アウタニードル50及びアウタコア55には、導入口14から導入される燃料の圧力、及び、第二スプリング32の付勢力Fsp2が閉弁方向に作用している。具体的には、図2に示すように、アウタ小径部51の外壁512と噴射ノズル27の内壁275とのシート径をシート径S291、及び、アウタニードル50の内径を内径S292とすると、アウタニードル50及びアウタコア55には式(2)によって算出される閉弁方向の力が作用している。
Fsp2+Pf0×[π/4×{(S291)2−(S292)2}] ・・・(2)
燃料噴射弁1では、コイル35に電力が供給されていないとき、式(2)で算出される閉弁方向の力によって外壁512と内壁275とは当接し、外側噴孔29は閉じられている。
【0046】
また、一実施形態による燃料噴射弁1では、付勢力Fsp1、Fsp2、燃料の圧力Pf0、シート径S28、S291、及び、内径S292には、式(3)の関係がある。
Fsp2+Pf0×[π/4×{(S291)2−(S292)2}]>Fsp1+Pf0×{π/4×(S28)2} ・・・(3)
【0047】
コイル35に電力が供給されると、コイル35の周囲に磁界が形成される。コイル35の周囲に磁界が形成されると、図4に示すように、固定コア30、第五筒部材25、後述する第一ホルダ15、第二ホルダ18、第一筒部材21、アウタコア55、アウタニードル50、区画部材60、第三筒部材23、インナコア45、インナニードル40に磁気回路(図4の二点鎖線矢印MC4)が形成される。磁気回路が形成されると、固定コア30とインナコア45との間に磁気吸引力Fmg1が発生する。磁気吸引力Fmg1が式(1)の値より大きくなると、図4に示すように、インナニードル40及びインナコア45が開弁方向に移動し、外壁412が内壁274から離間する。外壁412が内壁274から離間すると、インナ小径部41と区画部材60の内壁との間の燃料が中心噴孔28を通って外部に噴射される。
【0048】
磁気吸引力Fmg1が式(1)の値より大きいとき、上述した磁気回路(図4の二点鎖線矢印MC4)によって区画部材60とアウタコア55との間にも磁気吸引力Fmg2が発生している。しかしながら、一実施形態では、磁気吸引力Fmg1が式(1)の値より大きいとき磁気吸引力Fmg2は、式(2)の値より小さいため、アウタコア55は開弁方向に移動しない。このため、外側噴孔29は閉じられたままである。
【0049】
中心噴孔28が開いた後、コイル35にさらに電力が供給されると、開弁方向に移動しているインナニードル40は、固定コア30に当接する。
さらに、コイル35への電力の供給が比較的長い時間になると、固定コア30、第五筒部材25、後述する第一ホルダ15、第二ホルダ18、第一筒部材21、アウタコア55、アウタニードル50、区画部材60、第三筒部材23、インナコア45、インナニードル40を通る磁気回路(図5の二点鎖線矢印MC5)によって区画部材60とアウタコア55との間に発生する磁気吸引力Fmg2は、式(2)の値より大きくなる。磁気吸引力Fmg2が式(2)の値より大きくなると、図5に示すように、アウタニードル50及びアウタコア55が開弁方向に移動し、外壁512が内壁275から離間する。外壁512が内壁275から離間すると、アウタニードル50の外壁と第一筒部材21の内壁との間の燃料が外側噴孔29を通って外部に噴射される。
【0050】
コイル35への電力の供給が停止すると、インナコア45及びアウタコア55に作用する磁気吸引力が徐々に小さくなる。磁気吸引力Fmg2が付勢力Fsp2より小さくなると、アウタニードル50及びアウタコア55が閉弁方向に移動し、外壁512と内壁275とが当接する。これにより、外側噴孔29は閉じられる。
また、磁気吸引力Fmg1が付勢力Fsp1より小さくなると、インナニードル40及びインナコア45が閉弁方向に移動し、外壁412と内壁274とが当接する。これにより、中心噴孔28は閉じられる。
【0051】
一実施形態による燃料噴射弁1では、コイル35が磁界を形成すると、固定コア30とインナコア45、及び、区画部材60とアウタコア55との間に磁気吸引力が発生する。
固定コア30とインナコア45との間に磁気吸引力が発生すると、インナコア45と一体に移動可能なインナニードル40は開弁方向に移動する。インナニードル40が開弁方向に移動すると、中心噴孔28の弁座である内壁274からインナニードル40の外壁412が離間し、中心噴孔28が開く。
また、区画部材60とアウタコア55との間に磁気吸引力が発生すると、アウタコア55と一体に移動可能なアウタニードル50は開弁方向に移動する。アウタニードル50が開弁方向に移動すると、外側噴孔29の弁座である内壁275からアウタニードル50の外壁512が離間し、外側噴孔29が開く。
このように、燃料噴射弁1では、一つのコイル35への電力の供給を制御することによってインナニードル40及びアウタニードル50を別々に駆動し,複数の噴孔の開閉を個別に制御することができる。
【0052】
また、区画部材60の外壁612と噴射ノズル27のシール面270とは当接している。シール面270は、縁部282と縁部292との間に環状に形成されている。区画部材60は、ハウジング20に対して固定されており、一方の端部611は、インナサック280とアウタサック290との液密を維持する。これにより、中心噴孔28のみから燃料が噴射されているとき、中心噴孔28を流れる燃料がアウタサック290を介して外側噴孔29から外部に噴射されることを防止できる。
このように、燃料噴射弁1では、インナサック280とアウタサック290との液密を維持しつつ中心噴孔28及び外側噴孔29を別々に開閉し、複数の噴孔から噴射される燃料の量を高精度に制御することができる。
【0053】
また、燃料噴射弁1では、インナニードル40を閉弁方向に付勢する第一スプリング31の付勢力Fsp1は、アウタニードル50を閉弁方向に付勢する第二スプリング32の付勢力Fsp2より小さい。固定コア30とインナコア45、及び、区画部材60とアウタコア55との間に磁気吸引力が発生すると、最初にインナニードル40が噴射ノズル27から離間し中心噴孔28を開く。これにより、少量の燃料噴射が可能となる。その後、コイル35に供給される電力が大きくなると、アウタニードル50が噴射ノズル27から離間し外側噴孔29を開く。これにより、中心噴孔28からの燃料噴射量と外側噴孔29からの燃料噴射量とを足し合わせた多量の燃料噴射が可能となる。したがって、燃料噴射弁1から噴射される燃料の量を広範囲にすることができる。
【0054】
区画部材60は、第一区画室601と第二区画室602とを連通する連通路603を有する。導入口14から流入した燃料は、第一区画室601に流入した後、連通路603を通って第二区画室602に流入する。これにより、外側噴孔29から十分な量の燃料を噴射することができる。
【0055】
(その他の実施形態)
(ア)上述の実施形態では、式(3)の関係を有することから、最初に中心噴孔が開き、その後、外側噴孔が開くとした。しかしながら、噴孔が開く順番はこれに限定されない。以下に示す式(4)の関係を有するとき、最初に外側噴孔を開き、その後、中心噴孔を開くことができる。
Fsp2+Pf0×[π/4×{(S291)2−(S292)2}]<Fsp1+Pf0×{π/4×(S28)2} ・・・(4)
【0056】
(イ)上述の実施形態では、区画部材は、第一区画室と第二区画室とを連通する連通路を有するとした。しかしながら、連通路はなくてもよい。
【0057】
(ウ)上述の実施形態では、区画部材は、シール面に当接する区画部材筒部とハウジングの内壁に固定される区画部材固定部とから形成されるとした。しかしながら、区画部材の構成はこれに限定されない。ハウジングの内側をインナニードルが往復移動可能に収容される第一区画室とアウタニードルが往復移動可能に収容される第二区画室とに区画し、シール面に当接する「当接面」を有すればよい。
【0058】
(エ)上述の実施形態では、外側噴孔の「第二弁座」は、図2に示すように、内側開口の径方向外側にのみ形成されるとした。しかしながら、「第二弁座」が形成される位置はこれに限定されない。アウタ小径部の噴射ノズルの内壁と当接可能に形成されている外壁の形状が凹状に形成され、「第二弁座」が内側開口の径方向外側と径方向内側との両方に形成されてもよい。「第二弁座」が内側開口の径方向外側と径方向内側との両方に形成される場合、シール面は、中心軸CA0からみて中心噴孔の内側開口を形成する縁部の径方向外側かつ「第一弁座」より径方向外側であって、外側噴孔の内側開口を形成する縁部の径方向内側かつ外側噴孔の内側開口の径方向内側に形成されている「第二弁座」の径方向内側に位置する。これによっても、中心噴孔または外側噴孔のいずれか一方のみが開いているとき、中心噴孔または外側噴孔のいずれか一方を流れる燃料が中心噴孔または外側噴孔のいずれか他方から外部に噴射されることを防止することができる。
【0059】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ・・・燃料噴射弁、
20 ・・・ハウジング、
28 ・・・中心噴孔(第一噴孔)、
29 ・・・外側噴孔(第二噴孔)、
30 ・・・固定コア、
31 ・・・第一スプリング(第一付勢部材)、
32 ・・・第二スプリング(第二付勢部材)、
35 ・・・コイル、
40 ・・・インナニードル、
45 ・・・インナコア、
50 ・・・アウタニードル、
55 ・・・アウタコア、
60 ・・・区画部材、
601 ・・・第一区画室、
602 ・・・第二区画室。
図1
図2
図3
図4
図5