【文献】
D.Fattal et al.,A Silicon Lens for Integrated Free-Space Optics,Integrated Photonics Research, Silicon and Nanophotonics 2011, Tronto Canada,Optical Society of America,2011年,ITuD2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記共鳴幅を前記占有率で表わすとき、現実の前記擬似周期構造層において前記占有率を変化させるステップ幅は、前記共鳴幅に存在する前記占有率の変化点数が、前記擬似周期構造層における前記占有率の全変化点数の0.1倍以下を満たす幅である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレンズ。
前記共鳴幅を前記占有率で表わすとき、現実の前記擬似周期構造層において前記占有率を変化させるステップ幅は、前記共鳴幅よりも大きい幅である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のレンズ。
前記占有率の前記変化範囲の中央値の0.8倍以上、1.1倍以下の範囲に、前記最低次共鳴モードの共鳴幅が重なるように、前記占有率の前記変化範囲が設定されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレンズ。
前記周期長は、前記所定波長をλとして、λ/n1の1/2倍以上λ/n1の5/4倍以下であることを特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載のレンズ。
前記擬似周期構造層は、各単位セルの前記占有率が、前記基板中心部から離れるにつれて、ノコギリ歯状に増減を繰り返す構造である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載のレンズ。
前記単位セルの平面視の形状は、正三角形、正方形、または正六角形であり、前記第1領域の平面視の形状は、前記単位セルの平面視の形状の整数倍の回転対称性を有する形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載のレンズ。
前記単位セルの平面視における形状は正方形であって、前記単位セルによって正方格子状に充填される構造であり、前記周期長をa、前記所定波長をλ、前記擬似周期構造層の厚さをhとして、
a>λ2 /(n2×h)
であることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載のレンズ。
前記基板の前記擬似周期構造層側とは反対側の面に、または、前記擬似周期構造層上に、撮像素子アレイを有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項21のいずれか1項に記載のレンズ。
前記基板と前記第1領域との間に、前記第1領域のエッチングに対して耐性を有するエッチングストッパ層を有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項22のいずれか1項に記載のレンズ。
前記第1領域は、その前記基板に平行な断面積が、前記基板から離れるに従って減少するような形状である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項23のいずれか1項に記載のレンズ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1や非特許文献1のレンズは、発明者らの検討により、本質的にストライプ方向に直交もしくは平行方向の一方の偏光しか集光させることができず、それに直交する方向の偏光は集光させることができないことがわかった。また、特許文献1、非特許文献1、2に示されたレンズのリッジ構造の周期は300nm程度で短く、作製が難しいため、低コスト化が困難である点も問題である。また、フレネルレンズも同様に作製が容易でなく、低コスト化に難がある。
【0008】
そこで本発明は、薄型で安価なレンズ、およびそのレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、所定波長の光を反射または透過させて集光あるいは発散させるレンズにおいて、基板と、基板上に位置する擬似周期構造層と、を有し、擬似周期構造層は、その平面を2次元周期的に充填する単位セルによって区分した際に、その単位セル内に第1領域と第2領域とを有した構造であって、基板の屈折率n1、第1領域の屈折率n2、第2領域の屈折率n3として、n2≧n1>n3またはn2>n1≧n3であり、単位セルの面積に対する第1領域の面積の割合を占有率として、各単位セルの占有率が基板中心部から離れるにつれて、第1領域の平面視における形状が相似形を保ったまま、変化する構造であり、平面上に、占有率と周期長が一定の単位セルを2次元周期的に充填した仮想配列において、占有率および周期長を変化させたときに、仮想配列の透過率が0.1以下となる占有率と周期長の関係を共鳴モードとし、その共鳴モードのうち占有率が最も小さくなる場合の共鳴モードを最低次共鳴モードとするとき、現実の擬似周期構造層における単位セルの周期長は、最低次共鳴モードの共鳴幅が最も狭くなる最適値を含む所定範囲内のある値に設定され、かつ、各単位セルの占有率の変化範囲は、最低次共鳴モードをまたいで変化する範囲である、ことを特徴とするレンズである。
【0010】
また、本発明の第2の態様は、所定波長の光を反射または透過させて集光あるいは発散させるレンズにおいて、基板と、基板上に位置する擬似周期構造層と、を有し、所定波長は2μm以上であり、擬似周期構造層は、その平面を2次元周期的に充填する単位セルによって区分した際に、その単位セル内に基板と同一材料からなる第1領域と、第2領域と、を有した構造であって、基板の屈折率n1、第1領域の屈折率n2、第2領域の屈折率n3として、n1=n2>n3、かつn1が3以上であり、単位セルの面積に対する第1領域の面積の割合の平方根を占有率として、各単位セルの占有率が基板中心部から離れるにつれて、第1領域の平面視における形状が相似形を保ったまま、変化する構造であり、平面上に、占有率と周期長が一定の単位セルを2次元周期的に充填した仮想配列において、所望の値の周期長において占有率を変化させたときに、仮想配列の透過率が極小値をとるときの占有率のうち最小のものを極小占有率とするとき、現実の擬似周期構造層における各単位セルの占有率の変化範囲は、極小占有率をまたいで変化する範囲である、ことを特徴とするレンズである。
【0011】
本発明における屈折率は、レンズを透過、反射させる光の波長(本発明における所定波長)での値であって、複素屈折率の実部の値を意味する。本発明の第1の態様においては、基板と第1領域、または基板と第2領域は、屈折率が等しくてもよい。
【0012】
単位セルの平面視における形状は、平面充填可能な任意の形状でよく、たとえば2軸の周期が等しい正三角形、正方形、正六角形である。このような高い回転対称性を有した形状の場合、本発明のレンズは偏光方向によらずに光を集光あるいは発散させることができる。第1領域の平面視における形状は、これらの形状の整数倍の回転対称性を有する形状であることが望ましい。単位セルが正三角形であれば、第1領域は3の整数倍の回転対称性、単位セルが正方形であれば、第1領域は4の整数倍の回転対称性、単位セルが正六角形であれば、第1領域は6の整数倍の回転対称性である。円は無限大の回転対称性を有するので、いずれの場合にも第1領域として採用できる。なお、単位セルが正方形の場合、平面を充填する方法は正方格子状とする方法とその格子を互い違いにずらして埋める方法の2通りが考えられるが、いずれの場合であってもよい。単位セルが正三角形の場合も同様に2通りあるが、いずれであってもよい。
【0013】
単位セルの平面視における形状を正方形とし、正方格子状に充填する構造とする場合、周期長をa、所定波長をλ、擬似周期構造層の厚さをhとして、a>λ
2 /(n2×h)を満たすようにするとよい。擬似周期構造層の構造が微細すぎず、製造が容易となる。
【0014】
また、長方形や平行四辺形などの2軸の周期が異なる形状を単位セルの平面視における形状として採用することもできる。この場合、本発明のレンズは光の集光あるいは発散に偏光依存性を生じる。その偏光依存性は、単位セルの2軸の周期によって制御可能である。同様に、第1領域の平面視における形状を長方形や平行四辺形などとしても、偏光特性を有したレンズを実現することができる。
【0015】
単位セルの平面視における形状をいずれにするにしても、第1領域を単位セルの縮小相似形とするのが簡便で望ましい。
【0016】
なお、第1領域の平面視における形状は、厳密に回転対称性を有する形状でなくてもよい。たとえば、角のいくつかを丸めた正三角形、正方形、正六角形や、それらの図形の辺のいくつかがゆるく湾曲したものもまた、本発明の回転対称性を有する形状に含めるものとする。
【0017】
本発明の第1の態様において、基板、第1領域、第2領域は、n2≧n1>n3またはn2>n1≧n3を満たす任意の材料であってよく、第2領域は空気が満たされた空間領域であってもよい。基板、第1領域、第2領域には、誘電体のほか、半導体や導電性酸化物などを用いることができる。たとえば、基板としてSiO
2 、第1領域としてSi、第2領域として空間領域とすることができる。この場合、Si半導体の製造プロセスをそのまま流用して本発明のレンズを作製することができ、製造コストを低減することができる。
【0018】
また、本発明の第2の態様において、基板および第1領域は、屈折率が3以上であって第2領域よりも屈折率が高い材料であれば任意の材料であってよく、第2領域は空気が満たされた空間領域であってもよい。基板および第1領域は、Si、Ge、SiGe、GaAs、GaNなどを用いることができる。特に基板および第1領域としてSi、第2領域として空間領域とするのが好適であり、Si半導体の製造プロセスをそのまま流用して本発明のレンズを作製することができ、製造コストを低減することができる。
【0019】
第1領域および第2領域の具体的な構造としては、第1領域を孤立部または島部であるリッジ(凸部)とし、その回りを第2領域が囲む構造や、第1領域の中央部分に、第2領域であり、孤立部または島部であるホールが存在する構造が挙げられる。もちろん、それらの構造に限定されるわけではない。特に第1領域は、その基板に平行な断面積が、基板から離れるに従って減少するような形状であるとよい。レンズの透過率を向上させることができるからである。たとえば角錐台、円錐台、角錐、円錐などの形状である。それら形状の側面の傾斜角度は5°以下とするのがよい。
【0020】
共鳴モードは次のように定義される。平面上に、占有率rと周期長aが一定の単位セルを2次元周期的に充填した仮想配列において、仮想配列の透過率Tは、rとaの関数であり、T=f(r、a)と表わされる。この透過率Tが0.1以下となる曲線、あるいは帯状の領域f(r、a)≦0.1が共鳴モードである。共鳴モードは回折の影響によって通常、複数存在する。そこで、それら複数の共鳴モードのうち、占有率が最も小さい曲線を最低次共鳴モードとする。
【0021】
最低次共鳴モードの共鳴幅は、透過率Tが減少するピークの半値幅で定義する。Tは占有率rと周期長aの関数であるので、占有率r方向の半値幅で定義してもよいし、周期長a方向の半値幅で定義してもよい。
【0022】
最低次共鳴モードの共鳴幅が最も狭くなる値(最適値)を含む所定範囲は、レンズの透過率または反射率、および、集光あるいは発散、が所望の特性となる範囲で任意に設定することができる。ただし、所定範囲は最適値の0.9〜1.1倍の範囲とすることが望ましい。この範囲であれば、レンズの透過率を大きく損なうことがない。より望ましくは最適値の0.95〜1.05倍の範囲である。
【0023】
共鳴幅を占有率で表わすとき、現実の擬似周期構造層において占有率を変化させるステップ幅は、共鳴幅に存在する占有率の変化点数が、擬似周期構造層における占有率の全変化点数の0.1倍以下を満たす幅に設定することが望ましい。透過率が0となる単位セルが少なく、レンズ全体としての透過率に与える影響が少なくなるためである。望ましくは全変化点数の0.01倍以下である。
【0024】
また、共鳴幅を占有率で表わすとき、現実の擬似周期構造層において占有率を変化させるステップ幅は、共鳴幅よりも大きい幅に設定することが望ましい。このように設定すると、共鳴幅に存在する占有率の変化点数は多くとも1であり、レンズ全体の透過率に与える影響がより少なくなる。
【0025】
占有率の変化範囲の中央値の0.8
倍以上、1.1
倍以下の範囲に、最低次共鳴モードの共鳴幅が重なるように、占有率の変化範囲が設定されていることが望ましい。この範囲であれば、透過位相の変化幅を容易に大きくすることができる。また、占有率の変化範囲は、透過位相が−πからπまで変化する範囲とするのがよい。
【0026】
各単位セルの占有率は、基板中心部から離れるにつれて、ノコギリ歯状に増減を繰り返すように構成してもよい。このように構成すれば、フレネルレンズと同様の効果を得ることができ、本発明のレンズの焦点距離を短くすることができる。
【0027】
擬似周期構造層の外周領域は、占有率が一定の周期構造としてもよい。このような周期構造により光を反射させることができるため、擬似周期構造層の外周領域をアパーチャとして機能させることができる。アパーチャは、光を透過する領域を制限する絞りである。特に、この周期構造と単位セルの周期長を等しくすれば、本発明のレンズの作製がより容易となる。
【0028】
基板の擬似周期構造層側とは反対側の面に、占有率が一定の周期構造層を設けてもよい。また、基板と周期構造層との間に、基板よりも屈折率の低い低屈折率層を設けてもよい。所望の波長の光を反射させて透過させないようにするためである。さらには、周期構造層に替えて、所望の波長を吸収する吸収層を設けてもよい。同様に所望の波長の光を透過させないようにすることができる。
【0029】
基板の擬似周期構造層側とは反対側の面に、または、擬似周期構造層上に、撮像素子アレイを設け、本発明のレンズと一体化してもよい。撮像素子アレイと基板の間、あるいは撮像素子アレイと擬似周期構造層の間には、空気層や誘電体層を設けてもよい。
【0030】
また、第1領域上に、第1領域よりも屈折率の低い低屈折率層を設けてよい。レンズの透過率を向上させることができる。
【0031】
また、基板と第1領域との間に、第1領域のエッチングに対して耐性を有するエッチングストッパ層を設けてもよい。第1領域をエッチングによって形成する際に、第1領域の高さを揃えることが容易となる。
【0032】
本発明の第1の態様のレンズは、可視光または近赤外線を集光・発散させるのに特に適している。所定波長を、0.4μm以上、12μm以下、周期長を、所定波長の1/3〜2/3、占有率の変化範囲の下限は0.2以上、上限は0.8以下とすれば、特性の優れた本発明のレンズを容易に実現することができる。
【0033】
本発明の第2の態様のレンズにおいては、周期長は、所定波長をλとして、λ/n1の1/2倍以上λ/n1の5/4倍以下とするのがよい。レンズの透過率を向上させることができるためである。
【0034】
また、本発明の第2の態様のレンズは、所定波長2μm以上の光の集光、発散に用いるものであるが、特に所定波長を5〜15μmとする場合に好適である。
【0035】
本発明の他の1つは、基板上に擬似周期構造層を形成する工程を有し、擬似周期構造層の形成は、その平面を2次元周期的に充填する単位セルによって区分した際に、その単位セル内に第1領域と第2領域とを有した構造であって、基板の屈折率n1、第1領域の屈折率n2、第2領域の屈折率n3として、n2≧n1>n3またはn2>n1≧n3であり、単位セルの面積に対する第1領域の面積の割合の平方根を占有率として、各単位セルの占有率が基板中心部から離れるにつれて、第1領域の平面視における形状が、相似形を保ったまま変化する構造に形成し、平面上に、占有率と周期長が一定の単位セルを2次元周期的に充填した仮想配列において、占有率および周期長を変化させたときに、仮想配列の透過率が0とある占有率と周期長の関係を共鳴モードとし、その共鳴モードのうち占有率が最も小さくなる場合の共鳴モードを最低次共鳴モードとするとき、現実の擬似周期構造層における単位セルの周期長は、最低次共鳴モードの共鳴幅が最も狭くなる最適値を含む所定範囲内のある値に設定され、かつ、各単位セルの占有率の変化範囲は、最低次共鳴モードをまたいで変化する範囲である、ことを特徴とするレンズの製造方法である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、擬似周期構造層の単位セルの周期を、透過率を下げることなく長くすることができ、薄型のレンズを低コストで容易に作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
図1は、実施例1のレンズを上方から見た平面図であり、
図2はその断面図である。この実施例1のレンズは、所定波長(1.55μm)の光を、偏光方向に依存することなく、透過させて集光するものである。
【0040】
図2のように、実施例1のレンズは、SiO
2 からなる基板1と、基板10上に位置する擬似周期構造層2と、によって構成されている。
【0041】
基板1は、厚さ0.625mmのSiO
2 (溶融石英)からなり、平面視で正方形である。基板1は、アモルファスに限らず、結晶、多結晶であってもよい。また、平面視の形状は正方形に限らず、円、楕円、長方形などの任意の形状であってもよい。ただし、対称性の高い形状が好ましい。
【0042】
擬似周期構造層2は、
図1、2のように、擬似周期構造層2を平面視において正方格子状に区分した際に、各々の面積が等しい正方形である単位セル22内に、Siからなるリッジ(本発明の第1領域に相当する)20と、空気で満たされたリッジ20間の領域である空間領域(本発明の第2領域に相当する)21とを有した構造(
図3参照)である。リッジ20は、結晶、多結晶、アモルファスのいずれの状態であってもよい。単位セル22の一辺の長さ(すなわち単位セル22の周期長a)は780nmである。
【0043】
基板1の屈折率をn1、リッジの屈折率をn2、空間領域21の屈折率をn3として、n1=1.45、n2=3.45、n3はおよそ1であるから、n2≧n1>n3を満たしている。ただし、屈折率は実施例1のレンズにおいて集光する光の波長(1.55μm)における値であって、複素屈折率の実部である。
【0044】
リッジ20の高さh、すなわち擬似周期構造層2の厚さは1100nmであり、どの領域においても一定である。また、リッジ20の形状は、直方体であり、平面視においては正方形である。リッジ20の中心と単位セル22の中心は一致していて、リッジ20の各辺20aと単位セルの各辺22aは平行である。
【0045】
周期長a(単位セル22の一辺の長さ)、リッジ20の高さh、リッジ20の屈折率n2、設計波長λ(実施例1のレンズによって集光する光の波長)は、上記値に限るものではないが、a>λ
2 /(n2×h)を満たす範囲であることが望ましい。実施例1のレンズでは、λ=1500nm、n2=3.45、a=780nm、h=1100nmとして上記式を満たすようにしている。この式を満たすように各数値を設計すれば、擬似周期構造層2の構造がさほど微細とならず、実施例1のレンズの作製がより容易となる。
【0046】
単位セル22の辺22aの長さをaとして、リッジ20の辺20aの長さは、r×aであるとする。ここで、rは、単位セル22の面積に対するリッジ20の面積の割合の平方根である。rを占有率と呼ぶこととする。rは無次元量であり、0から1までの値をとる。単位セル22およびリッジ20はそれぞれ正方形であるから、rは、単位セルの辺22aの長さに対するリッジ20の辺20aの長さの割合でもある。
【0047】
占有率rは、
図1、2のように、基板1の中心部から端部側へ離れるにつれて、0.3から0.6の間で変化している。その変化は、中心部から端部側へ向かうにつれて、次第に占有率rが増減していくものである。そして、占有率rは、ゆるやかな減少と急激な増加とを繰り返すノコギリ歯状の増減となっている。このようにノコギリ歯状の増減とすることで、フレネルレンズと同様に、焦点距離の短縮を図っている。また、占有率rの変化の平面パターンは、同心正方形状となっている。
【0048】
なお、占有率rの変化の平面パターンは、単位セル22の形状に合わせた同心正方形状としているが、同心正方形状の変化に限らず、同心円状や同心正六角形状などの同心正多角形状であってもよい。特に対称性の点から同心円状とすることが望ましい。また、実施例1のレンズでは、占有率rを中心部から端部側へ向かってノコギリ歯状に増減させているが、必ずしもそのようにする必要はなく、占有率rを単調減少させてもよい。
【0049】
周期長aおよび占有率rは、さらに次の範囲を満たすよう設計されている。
【0050】
周期長aは、最低次共鳴モードの共鳴幅が、最も狭くなる値(最適値)を含む所定範囲とする。共鳴モードは以下のように定義する。平面上に、占有率rと周期長aが一定の単位セル20を、現実の疑似周期構造層2と同様の2次元周期的に充填した配列を仮想した場合において、その仮想配列の透過率Tは、rとaの関数fであり、T=f(r、a)と表わされる。この仮想配列の透過率Tを、現実の疑似周期構造層2の単位セル22の透過率と見なす。この透過率Tが0.1以下となる曲線ないし帯状の領域f(r、a)≦0.1が共鳴モードである。共鳴モードは回折の影響によって通常、複数存在する。そこで、それら複数の共鳴モードのうち、占有率rが最も小さい曲線ないし帯状の領域を最低次共鳴モードとする。
【0051】
また、共鳴幅は、透過率Tの減少ピークの半値幅で定義する。Tは占有率rと周期長aの関数であるので、占有率r方向の半値幅で定義してもよいし、周期長a方向の半値幅で定義してもよい。
【0052】
最適値を含む所定範囲は、レンズが所望の特性となる範囲で任意の範囲とすることができる。ただし、最適値の0.9〜1.1倍の範囲とすることが望ましい。この範囲であれば、レンズの透過率を大きく損なうことがない。より望ましくは0.95〜1.05
倍である。
【0053】
共鳴幅を占有率rで表わすとき、現実の擬似周期構造層2において占有率rを変化させるステップ幅は、共鳴幅に存在する占有率rの変化点数が、擬似周期構造層2における占有率rの全変化点数の0.1倍以下を満たす幅に設定することが望ましい。透過率が0となる単位セル22が少なく、レンズ全体としての透過率に与える影響が少なくなるためである。望ましくは全変化点数の0.01倍以下である。
【0054】
また、共鳴幅を占有率rで表わすとき、現実の擬似周期構造層2において占有率rを変化させるステップ幅は、共鳴幅よりも大きい幅に設定することが望ましい。このように設定すると、共鳴幅に存在する占有率rの変化点数は多くとも1であり、レンズ全体の透過率に与える影響がより少なくなる。
【0055】
占有率rは、最低次共鳴モードをまたぐ範囲で変化するように設計する。またぐとは、占有率rの変化範囲内に最低次共鳴モードの領域が含まれるようにすることである。最低次共鳴モードのみをまたぎ、他の共鳴モードはまたがないようにするのが望ましい。
【0056】
また、占有率rの変化範囲の中央値の0.8
倍以上、1.1
倍以下の範囲に、最低次共鳴モードの共鳴幅が重なるように、占有率rの変化範囲が設定されていることが望ましい。この範囲であれば、透過位相の変化幅を容易に大きくすることができる。また、占有率rの変化範囲は、透過位相が−πからπまで変化する範囲とするのがよい。
【0057】
実施例1のレンズは、以下のようにして作製することができる。まず、基板1上に、蒸着、CVD、スパッタなどの方法によってSiからなる層を形成する。次に、Siからなる層上に、フォトリソグラフィ、電子線リソグラフィ、ナノインプリントなどによって第2領域21と同様のパターンのマスクを形成する。次に、Siからなる層のうちマスクに覆われていない領域を基板1が露出するまでエッチングする。エッチングはドライエッチングとウェットエッチングのどちらでもよい。これによって、
図1、2に示したパターンのリッジ20および空間領域21を有した擬似周期構造層2を形成する。次に擬似周期構造層2上に残存したマスクを除去する。以上によって実施例1のレンズを作製することができる。
【0058】
なお、基板1上に、選択成長方法やリフトオフ法によって上記パターンのSiからなるリッジ20を形成することで、擬似周期構造層2を形成してもよい。
【0059】
このように、実施例1のレンズは、Si半導体の製造プロセスをそのまま流用して作製することができるので、容易かつ低コストに製造することができる。
【0060】
次に、実施例1のレンズの動作およびその原理について説明する。
【0061】
実施例1のレンズは、擬似周期構造層2の表面2a側または基板1の裏面1a側から入射する光を透過し集光するものである。すなわち、実施例1のレンズは、双方向の凸レンズとして動作する。
【0062】
実施例1のレンズは、擬似周期構造層2がリッジ20と空間領域21とにより
図1、2に示す構造を有していることから、その透過位置によって光の位相変化量が異なる。つまり、透過位置によって単位セル22の占有率rが異なり、それにより単位セル65を透過する光の位相変化量が異なっている。その位相変化量の違いによって、レンズを透過する光の集光を実現している。
【0063】
位相変化量は、占有率rと単位セル22の一辺の長さ(周期長)aに依存しており、占有率rを変化させることによって疑似周期構造層2を透過する光の位相変化量を制御している。位置xにおける透過位相量φ(x)は、次の式を満たすように設計されている。その際、仮想配列における透過率Tを、単位セル22の透過率と見なして設計する。ただし、基板1の中心を原点に取り、その原点を通って一辺に平行な直線をx軸とする。
φ(x)=(2π/λ)×(f+φ
max λ/2π−(f
2 +x
2 )
1/2 )
ここで、λは実施例1の設計波長(レンズによって集光する光の波長)、fは焦点距離、φ
max は原点における位相変化量の値である。
【0064】
図23(a)は、φ
max を2πとしたときのφ(x)のグラフである。なお、φ(x)は0〜2πの範囲として折り返している。レンズの中心からの位置に応じて、この式で与えられる透過位相量となるように、
図23(b)のようにして占有率rを変化させることによって、設計波長の光を集光することができる。
【0065】
ここで、実施例1のレンズでは、周期長aは最低次共鳴モードの共鳴幅が最も狭くなる最適値を含む所定範囲の値とし、占有率rは最低次共鳴モードをまたぐように変化している。そのため、占有率rの変化により透過位相を容易に大きく変化させることができ、なおかつ透過率が90%以上と高い。また、周期長aの値を比較的大きな値とすることができるので、実施例1のレンズの作製が容易となる。なお、共鳴モードをまたいで占有率rを変化させるため、場合によっては共鳴が生じて透過率がゼロとなる単位セル22が生じる。しかし、仮に生じたとしても高々数個であり、多数の単位セル22が存在する擬似周期構造層2において極小さな割合であり、レンズ全体の透過率に与える影響はほとんどない。
【0066】
次に、各種数値シミュレーションの結果について説明する。
【0067】
図4、5は、単位セル22の透過率、透過位相を示したグラフである。
図4は、横軸を単位セル22の周期長a、縦軸を占有率とし、濃淡によって透過率を示したグラフである。透過率は0から1の値で示している。また、
図5は、横軸、縦軸は
図4と同様で、濃淡によって透過位相を示したグラフである。透過位相はπで規格化して−1から1の値で示している。また、
図4、5は、リッジ20の高さhを1100nmとし、周期長aと占有率rを一定として単位セル22を正方格子状に充填した仮想配列の透過率と透過位相を厳密結合波解析(Rigorous Coupled-Wave Analysis: RCWA)法によって数値計算し、そのときの透過率と透過位相を周期長a、占有率rの単位セル22の透過率、透過位相とみなしてプロットしたものである。パラメータの変化幅は、周期長aが5nm、占有率が0.01とした。
【0068】
図4の透過率のグラフを見ると、共鳴モードが同心円状の曲線として複数本現れていることがわかる。また、
図5のように、共鳴モードの付近では透過位相に飛びが生じている。共鳴モードが複数本現れるのは、周期的なリッジ20の配列による回折効果によるものである。この複数本の共鳴モードのうち、占有率rが最も低い値となっている共鳴モードが最低次共鳴モードである。
【0069】
図4において、周期長700〜800nm、占有率0.4付近の線で四角く囲った領域Aにおいて、最低次共鳴モードが消えているように見える。これは、最低次共鳴モードの幅が、シミュレーション時の占有率の変化幅である0.01よりもごく狭い範囲であるために、
図4、5の計算パラメータの変化幅では共鳴を捕捉できなかったためである。
【0070】
そこで、パラメータの変化幅を、周期長aについては2nm、占有率については0.001として、領域Aをより細かく計算した。その結果が
図6、7であり、
図6は透過率、
図7は透過位相である。それでもなお、
図6のように、周期長780nm付近では共鳴を捕捉できなかった。すなわち、共鳴幅は、周期長にして2nm未満、占有率にして0.001未満である。
【0071】
そのため、周期長780nmに固定し、占有率の変化幅を0.00001として再度計算した。
図8、9がその結果である。
図8において、横軸は占有率、縦軸は透過率であり、
図9において、横軸は占有率、縦軸は透過位相である。
図8のように、透過率が急激に減少・増大する極狭いピークが存在していることがわかる。ピークの半値幅は、占有率で0.000025である。この結果から、周期長780nmでは非常に狭い範囲で共鳴が生じていることがわかった。なお、
図8において透過率ピークが0となっていないが、占有率rの変化幅をより小さく取れば透過率が0のピークとなっているものと考えられる。
【0072】
以上のように、最低次共鳴モードでは、パラメータの変化幅をごく小さくしなければ捕捉できないほど共鳴幅の狭い領域がある。そこで実施例1のレンズでは、この領域に着目して活用している。占有率を変化させて透過位相を−πからπまで大きく変化させる場合に、共鳴モードを含まないようにしてレンズの透過率を上げるためには、周期長の小さな領域を利用しなければならない。たとえば、
図5のように、周期長300〜400nmの領域である。これに対して実施例1のレンズでは、最低次共鳴モードの共鳴幅が非常に狭い周期長が760〜810nmの領域を使う。周期長がおよそ2倍大きいため、擬似周期構造層2を作製するのがより容易である。また、この周期長が760〜810nmの領域で、透過位相を−πからπまで変化させるために、占有率を最低次共鳴モードをまたいで変化させても、共鳴幅が非常に狭いために共鳴する単位セル22はないか、あっても数個であり、レンズ全体としては透過率をほとんど損なわずに済む。つまり、透過率の高いレンズを実現することができる。
【0073】
これまでは、周期長と占有率をパラメータとしてRCWA法によって単位セル22を解析した際に、透過率が0となる領域として共鳴を説明したが、共鳴はRCWA法のモード結合によっても説明することができる。単位セル22の電磁波特性が複数のモードの線形結合で表現される場合、有効屈折率の高いほうから2つのモードは、それぞれ縮退しており、その縮退を含めると計4つのモードがある。この4つのモードを足し合わせた際に、透過率が0となる場合が共鳴として説明できる。
【0074】
図10は、周期長698nm、占有率0.5とする単位セル22を正方格子状に充填した場合において、有効屈折率の高いほうから縮退を含め4つのモードを示したものであり、各モードについての電界強度を示している。
図10のグラフにおいて、擬似周期構造層2の表面にxy平面をとり、単位セル22の辺に平行にx、y軸をとった。また、リッジ20の中心を原点にとった。それぞれの有効屈折率について2重に縮退しているのは、xy平面に垂直な方向について正負の2方向に伝搬する波があるからである。
【0075】
図11は、複素振幅の複素平面図であり、
図10で示した4つのモードのそれぞれの複素振幅と、その4つのモードの合成振幅をプロットして示している。4つのモードが正方形のマーク、合成振幅が三角形のマークである。
【0076】
図11のように、4つのモードの合成振幅である三角形のマーク位置は、ほぼ0である。このように、共鳴は縮退を含む4つのモードの足し合わせにより打ち消される場合として説明することができる。
【0077】
図12は、擬似周期構造層2の単位セル22の数を5×5とした場合に、波長1.55μmの光が集光される様子をシミュレーションしたものである。この
図12において、中央付近のドット状の部分が、光強度の強い領域である。このように、擬似周期構造層2を透過した光が集光されていることがわかる。
【0078】
以上のように、実施例1のレンズは薄型であり、Si半導体の製造プロセスをそのまま流用できるので容易に製造することができ、低コストで製造することができる。
【実施例2】
【0079】
実施例2のレンズは、実施例1のレンズにおける擬似周期構造層2の単位セル22を、
図13に示す単位セル122に置き替えたものである。それ以外の構成については実施例1のレンズと同様である。
【0080】
単位セル122は、
図13のように、一辺の長さがaの正方形の領域内の中心に、長方形のリッジ120を有している。リッジ120の各辺は単位セル122の辺に平行に揃えてある。そのリッジ120以外の領域は空気で満たされた空間領域121である。リッジ120の短辺の長さはr×aであり、長辺の長さはy×r×aである。ここでrは単位セル122の辺の長さに対する短辺の長さの比であり占有率である。また、yは短辺に対する長辺の長さの倍率を示している。リッジ120の高さは実施例1のリッジ20と同様に1100nmである。
なお、占有率rの定義が実施例1と異なっているが、定数倍の違いに過ぎず、実施例1と同様に、単位セル122の面積に対するリッジ120の面積の割合の平方根としても以下と同様の結論が得られる。
【0081】
この単位セル122について、yを0.6とし、周期長a、占有率rをパラメータとして
図4、5と同様にして解析を行い、透過率、透過位相を求めた。リッジ120の長辺方向をTE、短辺方向をTMとして、
図14(a)はTEの透過率、
図14(b)は透過位相を示し、
図15(a)はTMの透過率、
図15(b)は透過位相を示している。
【0082】
図14、15のように、TEとTMとでは、透過率および透過位相の周期長a、占有率r依存性に違いが生じていることがわかる。
【0083】
この結果から、yの値を変えることによって、すなわち、リッジ120の縦横比を変えることによって、偏光特性を有するレンズを実現できることがわかった。たとえば、
図14、15において菱形のプロットで結んだ直線付近の領域(周期長925nm、占有率0.4〜0.7の付近)を用いれば、TEについては集光することができるが、TMについてはそれほど集光できないレンズを実現することができる。
【0084】
なお、実施例2では、リッジの平面視形状を長方形としてレンズが偏光特性を有するようにしているが、単位セル122の方を長方形としてもレンズに偏光特性を持たせることができる。
【実施例3】
【0085】
図16は、実施例3のレンズを上方から見た平面図である。実施例3のレンズは、実施例1の擬似周期構造層2を、以下に説明する擬似周期構造層30に置き替えたものであり、他の構成については実施例1のレンズと同様である。
【0086】
擬似周期構造層30は、擬似周期構造層2の外周領域に周期構造31を設けたものである。周期構造31は、擬似周期構造層2における周期長をそのままに、リッジ20の占有率rを一定とすることで実現している。つまり、擬似周期構造層30は、実施例1の擬似周期構造層2と同様にリッジ20の占有率rの変化する構造であって、光を集光するレンズとして機能する領域32を囲むように、リッジ20の占有率rが一定の領域(周期構造31)が存在する構造である。
【0087】
周期構造31は、周期長が780nmで占有率rを0.675としている。この周期構造31は、レンズの設計波長1.55μmの光を反射する特性を有している。したがって、波長1.55μmの光は、実施例3のレンズの周期構造31の領域を透過せず、周期構造31に囲まれた、レンズとして機能する領域32のみを透過する。すなわち、周期構造31はレンズのアパーチャ(絞り)として機能している。
【0088】
なお、周期構造31の周期長は領域32の周期長と同一としているが、必ずしも同一の周期長とする必要はなく、設計波長を反射する周期構造であれば任意の構造であってよい。ただし、レンズの設計、作製の容易さからは、周期構造31と領域32の周期長を同一とすることが望ましい。
【実施例4】
【0089】
図17は、実施例4のレンズの断面図である。実施例4のレンズは、実施例1のレンズの基板1裏面に周期構造層40をさらに設けたものであり、他の構成は実施例1のレンズと同様である。
【0090】
周期構造層40は、同一形状のリッジを2次元周期的に配列し、リッジ間を空気で満たされた空間領域とした構造である。その周期構造により、周期構造層40は、設計波長の光は透過し、設計波長とは異なる波長の光を反射させる特性を有している。実施例4のレンズに擬似周期構造層2側から入射する光は、設計波長である1.55μmの波長成分については擬似周期構造層2によって集光され、基板1、周期構造層40を透過して出射される。一方、1.55μm以外の波長成分については、周期構造層40によって反射されて透過しない。
【0091】
このように、実施例4のレンズでは、設計波長以外の光が透過してしまうのを抑制することができる。
【0092】
周期構造層40に替えて、
図18に示すように、吸収層41を設けてもよい。吸収層41は、特定の波長の光を吸収する層である。吸収層41には、たとえば、有機色素、金属酸化物などの材料を用いることができる。これにより、周期構造層40を設けた場合と同様の効果を得ることができる。
【0093】
また、
図19のように、基板1裏面と周期構造層40との間に、前記基板よりも屈折率の低い材料からなる低屈折率層42を設けてもよい。低屈折率層42を設けることにより、設計波長以外の波長の透過をより抑制することができる。基板1裏面と周期構造層40との間に、吸収層41を設けてもよい。
【実施例5】
【0094】
図20は、実施例5のレンズの断面図である。実施例5のレンズは、
図20のように、実施例1のレンズの基板1裏面に、撮像素子アレイ50を設けたものである。撮像素子アレイ50はCMOSやCCDなどである。このように実施例5のレンズは撮像素子アレイ50と一体化・集積化されており、装置の小型化、薄型化に有効である。
【0095】
なお、
図21のように、スペーサ51を設けて基板1裏面と撮像素子アレイ50との間に空気層52を設けてもよい。また、
図22のように、擬似周期構造層2上に撮像素子アレイ50を設けてもよい。
図22では、
図21と同様に、スペーサ53を設けて擬似周期構造層2と撮像素子アレイ50との間に空気層54を設けているが、直接擬似周期構造層2上に接して撮像素子アレイ50を設けてもよい。また、空気層52、54に替えて誘電体材料を充填してもよい。
【実施例6】
【0096】
図29は、実施例6のレンズを上方から見た平面図であり、
図30はその断面図である。この実施例6のレンズは、所定波長λ(=10μm)の光を、偏光方向に依存することなく、透過させて集光するものである。
【0097】
図29、30のように、実施例6のレンズは、Siからなる基板61の表面に、擬似周期構造層60を設けたものである。
【0098】
基板61は、単結晶のSiからなり、厚さ625μmであり、平面視で正方形である。基板61は単結晶に限らず、アモルファスや多結晶であってもよい。また、平面視の形状は正方形に限らず、円、楕円、長方形などの任意の形状であってもよい。ただし、対称性の高い形状が好ましい。
【0099】
疑似周期構造層60は、基板61の表面を所定のパターンに所定の深さエッチングして形成された構造である。
図29のように、基板61上の直径1mmの円の領域に形成されている。また、
図30のように、疑似周期構造層60は、単結晶のSiからなるリッジ62と、空間領域63とで構成されている。エッチングされずに残された領域がリッジ62であり、エッチングされた領域が空間領域63である。
【0100】
また、擬似周期構造層60は、擬似周期構造層60を平面視において正方格子状に区分した際に、各々の面積が等しい正方形である単位セル65内に、リッジ62と、空気で満たされたリッジ62間の領域である空間領域63とを有した構造である。単位セル65の一辺の長さ(すなわち単位セル65の周期長a)は2.8μmである。
【0101】
基板61の屈折率をn1、リッジ62の屈折率をn2、空間領域63の屈折率をn3として、n1=n2=3.45、n3はおよそ1であるから、n1=n2>n3を満たしている。ただし、屈折率は実施例6のレンズにおいて集光する光の波長(10μm)における値であって、複素屈折率の実部である。
【0102】
なお、基板61およびリッジ62の材料は、屈折率3以上で所定波長λに対して透過するものであればSi以外を用いてもよい。たとえばGe、SiGe、GaAs、GaNなどを用いることができる。また、空間領域63は、n1=n2>n3を満たす屈折率n3の材料で埋められていてもよい。ただし、基板61およびリッジ62と、空間領域63を埋める材料との屈折率差はなるべく大きいことが好ましく、屈折率差を1以上とすることが望ましい。
【0103】
リッジ62の高さh、すなわち擬似周期構造層60の厚さは10μmであり、どの領域においても一定である。また、リッジ62の形状は、
図3に示す実施例1のレンズのリッジ20と同様に直方体であり、平面視においては正方形である。その正方形の一辺の長さはraである。ここでrは実施例1において定義した占有率である。リッジ62の中心と単位セル65の中心は一致していて、平面視においてリッジ62の各辺と単位セル65の各辺は平行である。なお、疑似周期構造層60の厚さは10μmに限らず、実施例6のレンズの作製が容易で透過率に大きな影響を与えない厚さとすればよい。
【0104】
各単位セル65の占有率rは、
図29のように、基板61の中心部から端部側へと離れるにつれて減少していく構造となっている。なお、占有率rを基板61の中心部から端部側へと離れるにつれてノコギリ歯状に増減させることで、フレネルレンズと同様に、焦点距離の短縮を図ることも可能である。また、占有率rの変化の平面パターンは、
図29のように同心円状に段階的に占有率rが減少していくパターンとなっていて、全体としては直径1mmの円の範囲内に疑似周期構造層60のパターンが形成されている。
【0105】
占有率rは、さらに次の範囲を満たすよう設計されている。
【0106】
まず、平面上に、占有率rと周期長aが一定の単位セル65を、現実の疑似周期構造層60と同様に2次元周期的に充填した配列を仮想する。その仮想配列の所望の周期長aにおける透過率Tは、占有率rの関数gであり、T=g(r)である。このときの透過率Tを、現実の周期長a、占有率rの単位セル65の透過率と見なす。この透過率Tは極小値を有する。その透過率Tが極小値をとるときのrの値を極小占有率r0と定義する。透過率Tの極小値が複数存在する場合には、それら極小値をとる占有率rのうち、最も占有率rが小さいものをr0と定義する。そして、現実の疑似周期構造層60における単位セル65の占有率rは、極小占有率r0をまたぐ範囲で変化するものとする。またぐとは、占有率rの変化範囲内にr0が含まれるようにすることである。
【0107】
実施例6のレンズは、次のようにして作製することができる。まず、Siからなる基板60上に、フォトリソグラフィ、電子線リソグラフィ、ナノインプリントなどによって空間領域63と同様のパターンのマスクを形成する。次に、マスクに覆われていない領域を所定の深さまでエッチングする。エッチングはドライエッチングとウェットエッチングのどちらでもよい。これによって、
図29、30に示したパターンの擬似周期構造層61を形成する。次に擬似周期構造層61上に残存したマスクを除去する。以上によって実施例6のレンズを作製することができる。
【0108】
実施例6のレンズは、実施例1のレンズと同様の動作原理である。つまり、上記疑似周期構造層60とすることにより、透過位置によって単位セル65の占有率rが異なり、それにより単位セル65を透過する光の位相変化量が異なっている。その位相変化量の違いによって、レンズを透過する光の集光を実現している。
【0109】
なお、単位セル65を透過する光の位相変化量を設計する際、周期長a、占有率rの仮想配列における透過率Tを、周期長a、占有率rの単位セル65の透過率と見なして設計する。
【0110】
ここで、実施例6のレンズでは、占有率rの変化範囲を透過率Tが極小値を取るときの占有率r0をまたぐような範囲としている。単位セル65の透過位相量は、r0付近で大きく変化するため、r0をまたぐ範囲とすることで単位セル65の透過位相を大きく変化させることができ、実施例6のレンズの設計、作製を容易に行うことができ、低コスト化を図ることができる。なお、占有率rの変化範囲は、単位セル65の透過位相が−πからπまで変化する範囲とするのが好適である。また、実施例6のレンズは実施例1のレンズに比べて透過率が低減する場合があるが、その分設計、製造がより簡易となっている。
【0111】
次に、実施例6のレンズについての各種シミュレーション結果を説明する。
【0112】
図31は、単位セル65の周期長aおよび占有率rと透過率との関係を示したグラフである。また、
図32は、単位セル65の周期長aおよび占有率rと透過位相の関係を示したグラフである。これら透過率、透過位相は実施例1の
図4、5と同様の手法により算出したものである。ただし、パラメータの変化範囲は、周期長aが2000〜6000nm、占有率が0.2〜0.8とした。また、
図33は、単位セル65の周期長aを2.8μmとした場合の占有率rと透過率との関係を示したグラフであり、
図34は透過位相との関係を示したグラフである。
【0113】
図32を見ると、透過位相が大きく変化している領域が帯状に存在していることがわかる。また、
図33のように、透過率は占有率rが変化すると波状に変化しており、占有率rが0.2から0.8の範囲において透過率は少なくとも70%以上であり、平均的にはおよそ80%である。また、占有率rが0.2から0.8の範囲において、極小値が2つ存在していることがわかる。極小値をとる2つの占有率rのうち、占有率rが最も小さい方が極小占有率r0である。
図33からr0はおよそ0.55である。また、
図34のように、占有率rが0.2から増加するに従って透過位相は徐々に大きくなるが、r0付近で位相がπに達した後、急激に位相−π付近まで減少し、その後再び大きく増加に転じている。したがって、r0をまたぐようにして占有率rを変化させれば、単位セル65を透過する光の位相変化量を大きく変化させることが可能であることがわかる。たとえば、単位セル65の占有率rを0.5から0.8まで変化させれば、透過位相を−πからπまで変化させることができる。
【0114】
なお、周期長aは実施例6のように2.8μmに限るものでなく、任意の値とすることができるが、λ/n1の3/2倍(実施例6においてはλ=10μm、n1=3.45であるから4.35μm)以下とすることが望ましい。λ/n1の3/2倍より大きいと、
図31に示すように占有率rを変化させたときに透過率が低くなる領域と重なることが多く望ましくない。また、作製の容易さなどの観点から周期長aはλ/n1の1/2倍以上が望ましい。より望ましくはλ/n1の1/2倍以上λ/n1の5/4倍以下である。さらに望ましくはλ/n1の3/4倍以上λ/n1以下である。
【0115】
[実施例6の変形例1]
実施例6の変形例1は、実施例6における単位セル65を、
図35に示す単位セル75に置き換えたものであり、他の構成は実施例6と同様である。
【0116】
図35のように、単位セル75は、実施例6の単位セル65のリッジ62上に、低屈折率層70を接して設けたものである。低屈折率層70は、屈折率1.4のBaF
2 (フッ化バリウム)からなり、厚さは2.4μmである。
【0117】
低屈折率層70の材料はフッ化バリウムに限るものではなく、設定波長λにおいて透明であってリッジ62よりも屈折率の低い材料であれば任意の材料を用いることができる。たとえば、CaF
2 、MgF
2 、LiF、SiO
2 、ZnSe、KBr、KCl、Al
2 O
3 、NaCl、ZnS、などの赤外線に対して透過率の高い材料を用いることができる。また、低屈折率層70の厚さは、設定波長λの光に対して干渉を生じない厚さであれば任意であるが、低屈折率層70自身による光の吸収を低減するため薄い方がよい。たとえば、リッジ62の高さhの1/2以下とする。
【0118】
このように低屈折率層70を設けることにより、低屈折率層70側から光を入射させる場合の光反射が低減されるため、単位セル75の透過率を向上させることができる。
【0119】
図36は、単位セル75の周期長aを2.8μmとした場合の占有率rと透過率との関係を示したグラフであり、
図37は透過位相との関係を示したグラフである。透過率、透過位相は、
図33、34と同様にして算出した。
【0120】
図36のように、
図33の場合に比べて全体的に透過率が向上していることがわかる。また、
図36よりr0はおよそ0.47であり、
図37からr0をまたぐ範囲で占有率rを変化させれば、単位セル75の透過位相を大きく変化させることが可能であることがわかる。
【0121】
[実施例6の変形例2]
実施例6の変形例2は、実施例6における単位セル65を、
図38に示す単位セル85に置き換えたものであり、他の構成は実施例6と同様である。
【0122】
図38のように、単位セル75は、単位セル65におけるリッジ62を、リッジ82に置き換えたものである。リッジ82は、平面視において正方形である直方体の4つの側面を、基板61に垂直な方向から3°傾斜させた四角錐台状である。傾斜方向は、リッジ82の基板61に平行な断面が、基板61から離れるに従って減少するような方向である。リッジ82の下面(基板61と接する面)は、リッジ62と同様であり、一辺の長さがraの正方形である。つまり、占有率rは、単位セル75の面積に対する、基板61と接する面でのリッジ82の面積の割合である。
【0123】
リッジ82側面の傾斜角度は3°に限らず、0°より大きければよいが、傾斜角度が大きすぎるとリッジ82が四角錐となり高さがhよりも小さくなってしまうため、そのようにならない範囲の傾斜角度とする。たとえば5°以下とする。また、傾斜させるのは4つの側面すべてでなくともよく、少なくとも1つの側面を傾斜させればよい。さらに言えば、リッジ82の基板61に平行な断面積が、基板61から離れるに従って減少するような形状であればよい。ただし、対称性の点からはすべての側面を傾斜させることが望ましい。
【0124】
リッジ82をこのような形状とすることで、リッジ82側面での光の反射が低減されるため、単位セル85の透過率を向上させることができる。
【0125】
図39は、単位セル85の周期長aを2.8μmとした場合の占有率rと透過率との関係を示したグラフであり、
図40は、透過位相との関係を示したグラフである。透過率、透過位相は、
図33、34と同様にして算出した。また、リッジ82の側面の傾斜角度は、0°から5°まで1°刻みで変化させてそれぞれの角度で透過率と透過位相を算出した。
【0126】
図39のように、リッジ82の側面の傾斜角度を0°とした場合(つまりリッジ62と同等)よりも、傾斜角度を1〜5°とした方が全体的に透過率が向上していることがわかる。また、傾斜角度が大きいほど透過率が向上する傾向にあることがわかる。また、
図40のように、いずれの傾斜角度においても占有率rを変化させることで単位セル85の透過位相を大きく変化させることが可能であることがわかる。
【0127】
なお、リッジ82側面の傾斜角度は、リッジを形成する時のエッチング条件によって制御することが可能である。
【実施例7】
【0128】
実施例7のレンズは、実施例6における単位セル65を、
図41に示す単位セル175に置き換えたものであり、他の構成は実施例6と同様である。
【0129】
図41のように、実施例7のレンズにおける単位セル175は、基板60とリッジ62との間に、SiO
2 からなるエッチングストッパ層170を設けたものである。それ以外については単位セル65と同様の構成である。
【0130】
エッチングストッパ層170は、リッジ62をエッチングによって形成する際のエッチングストッパとして機能する層である。エッチングに耐性を有した材料であれば、SiO
2 以外の材料を用いることもできる。ただし、SiO
2 を用いることで、後述のようにSOI基板を用いて容易に実施例7のレンズを作製可能となる。
【0131】
エッチングストッパ層170の厚さは、形成可能な範囲でなるべく薄い方が望ましい。たとえば1μm以下とすることが望ましい。エッチングストッパ層170を薄くすることで、エッチングストッパ層170における光の吸収を低減することができる。また、リッジ62の強度を向上させることもできる。これは、後述の実施例7のレンズの製造工程において、エッチングストッパ層170がサイドエッチングされる量を低減することができるためである。
【0132】
次に、実施例7のレンズの製造工程について、
図42を参照に説明する。
【0133】
まず、Si基板61上にSiO
2 からなるエッチングストッパ層170、SiからなるSi層172が順に形成されたSOI基板を用意する。
【0134】
次に、SOI基板のSi層172側表面に、リッジ62とは逆のパターン(つまり空間領域63と同一のパターン)のマスク173を形成する(
図42(a))。マスク173は次工程のドライエッチングに対して耐性を有した任意の材料を用いることができる。
【0135】
次に、ドライエッチングによってマスク173に覆われていない領域のSi層172を除去し、マスク173に覆われた領域のSi層172を残すことによりリッジ62を形成する(
図42(b))。このとき、エッチングストッパ層170がエッチングストッパとして機能するため、エッチングはどの領域においてもエッチングストッパ層170が露出した段階で停止する。したがって、リッジ62の高さを均一とすることができる。そしてドライエッチング後、マスク173を除去する。
【0136】
仮にエッチングストッパとして機能するエッチングストッパ層170がないとすると、単位セル175の占有率rが領域によって異なるために、エッチング深さが領域により異なってしまうおそれがあり、リッジ62の高さの制御が精度よくできないおそれがある。これは、エッチングパターンの微細さの違いによってエッチング速度に差異が生じるマイクロローディング効果と呼ばれる現象によるものである。
【0137】
次に、リッジ62間の領域に露出したエッチングストッパ層170をウェットエッチングによって除去する(
図42(c))。このエッチングストッパ層170の一部除去は必ずしも必要としないが、透過率などレンズの特性に影響を与えるため、除去することが望ましい。このウェットエッチングの際、基板61とリッジ62との間に挟まれた領域のエッチングストッパ層170も、サイドエッチング(側面から水平方向に進行するエッチング)によって多少除去されるが、エッチングストッパ層170を薄くしておけばサイドエッチングの量を低減することができ、リッジ62の強度を向上できる。
【0138】
以上のように、実施例7のレンズは、SOI基板を用いることにより容易かつ低コストに製造することができる。また、リッジ62の高さを均一とすることができるので、製造誤差や性能ばらつきなども少なく、設計通りに製造することができる。
【0139】
図43は、単位セル175の周期長aを2.8μmとした場合の占有率rと透過率との関係を示したグラフであり、
図44は、透過位相との関係を示したグラフである。透過率、透過位相は、
図33、34と同様にして算出した。
【0140】
図43のように、占有率rが0.2〜0.8の範囲において透過率は50%以上であり、平均的にはおよそ70%である。また、透過率は0.2から0.8の範囲において3つの極小値を有し、その極小値をとる占有率rのうち最小の占有率rである極小占有率r0はおよそ0.5である。
図44より、r0付近で透過位相は大きく変化しており、r0をまたぐようにして占有率rを変化させれば、透過位相を大きく変化させることが可能であることがわかる。
【0141】
なお、実施例6、7では所定波長λは10μmとしているが、これに限るものではない。実施例6、7は波長2μm以上の中赤外線、遠赤外線である場合に効果的である。特に波長2〜20μmに対して実施例6、7のレンズは好適である。より好適なのは5〜15μmである。
【0142】
[各種変形例]
単位セルの平面視の形状、および平面充填方法は、実施例1〜7に示したものに限るものではなく、単一の形状によって平面を充填可能な任意の形状であってよい。ただし、偏光特性を有しないレンズとする場合には、正三角形、正方形、正六角形が望ましい。正三角形および正方形の場合、平面充填方法はそれぞれ2通りあるが、そのいずれであってもよい。偏光特性を有するレンズとする場合には、長方形、平行四辺形、菱形などの形状を単位セルの平面視の形状として用いることができる。
【0143】
また、実施例1、3〜7では、リッジの平面視の形状を正方形としているが、単位セルの平面視形状の回転対称の数の整数倍の回転対称性を有する形状が望ましい。たとえば、正方形以外に正八角形、正十二角形、円などとしてもよい。レンズの偏光特性を軽減することができるからである。単位セルの平面視形状を正三角形とする場合には、リッジの平面視の形状は、正三角形、正六角形、円などである。単位セルの平面視の形状を正六角形とする場合には、正十二角形や円などである。
【0144】
単位セルの平面視の形状を正方形以外の形状とする場合にも、実施例1、3〜7のように、リッジの平面視の形状は、単位セルの平面視の形状の縮小相似形とするのが望ましい。
【0145】
なお、上に示したリッジの各平面視形状においては、いくつかの角が丸められたものや、いくつかの辺が湾曲したものも含むものとする。たとえば正方形のうち、1つの角が丸められた形状である。本発明のレンズの製造においてリッジ部分を加工するに際し、そのような角部の丸まりが生じる可能性があるためである。
【0146】
図24〜26に、単位セルの構造の変形例を示す。もちろん、これらは単に例示であり、これらに限定されるものではない。
図24は、単位セル222の平面視形状を正三角形とした場合であり、リッジ220の形状を(a)が正三角形、(b)が正六角形、(c)が円とした場合である。
図25は、単位セル322の平面形状を正六角形とし、リッジ320の形状を(a)が正六角形、(b)が円とした場合である。
図26は、単位セル422の平面視形状を長方形とし、リッジ420の平面視形状を(a)が長方形、(b)が菱形とした場合である。
【0147】
また、リッジは円柱、角柱などの形状に限るものではなく、円錐、角錐、円錐台、角錐台などの形状であってもよい。実施例6の変形例2で説明したように、リッジの形状を側面が傾斜した形状とすると、レンズの透過率の向上を図ることができる。
【0148】
基板1主面に水平方向のリッジの断面積が、基板1主面に垂直方向において変化する形状(円錐、角錐、円錐台、角錐台などの形状)である場合には、最も基板に近い位置での水平方向のリッジの断面積を用いて占有率を定義するものとする。
【0149】
図27は、擬似周期構造層502中のリッジ520の形状を円錐あるいは角錐とした場合の、レンズの断面図を示している。リッジ520の水平方向における断面積が、基板1側とは反対側に向かうにつれて次第に減少していくような形状とすると、擬似周期構造層502の平均的な屈折率は基板1側に向かうほど大きくなる構造となる。そのため、擬似周期構造層502表面側から光を入射させた場合に、擬似周期構造層502表面での光の反射が低減されるので、レンズの透過率を向上させることができる。
【0150】
また、実施例1〜7では、本発明の第1領域をリッジ、すなわち凸部としているが、これに限るものではない。第1領域は凸状以外にも凹部などであってよい。また、複数の凸部や複数の凹部で第1領域を構成してもよい。
【0151】
実施例1〜5では、基板1としてSiO
2 (溶融石英)、擬似周期構造層2の第1領域にリッジ20であるSi、擬似周期構造層2の第2領域を空間領域21としているが、それらの材料以外にも、n2≧n1>n3またはn2>n1≧n3を満たす任意の材料を用いることができる。たとえば、リッジ20にGe、GaAs、GaNなどの半導体を用いてもよいし、空間領域21に替えて真空領域としてもよいし、金属酸化物、導電性酸化物、樹脂、アルコール、などの各種誘電体で空間領域21を埋めてもよい。また、基板1とリッジ21、あるいは基板1と空間領域21とを同一材料としてもよい。
【0152】
図28は、本発明の他のレンズの断面図である。SiO
2 からなる基板601の表面に、実施例1のリッジ20と同一形状の凹部603を設け、その凹部603をSiで埋めてリッジ620としたものである。つまり、空間領域21を基板1と同一材料のSiO
2 とした場合であり、基板601のうちリッジ620間の領域601aと、リッジ620とによって擬似周期構造層602が構成される。
【0153】
実施例1〜5のレンズは、集光する光の波長を1.55μmとしているが、もちろん、本発明はこれに限るものではなく、任意の波長の光を集光、発散させるレンズとすることができる。本発明のレンズは、特に、可視光から近赤外線の光を集光、発散させるのに適している。所定波長を、0.4μm以上、12μm以下、周期長を、所定波長の1/3〜2/3、占有率の変化範囲の下限を0.2以上、上限を0.8以下とすれば、特性の優れた本発明のレンズを容易に実現することができる。
【0154】
また、実施例1〜7のレンズは、そのレンズを透過する光を集光する透過型レンズであったが、反射光を集光する反射型レンズとすることもできる。また、集光ではなく、透過光または反射光を発散させるレンズとすることもできる。それらは基板1と擬似周期構造層2の材料、および占有率rの変化を適宜設計することで可能となる。
【0155】
また、実施例1〜7では、擬似周期構造層は基板の表面側にのみ形成しているが、表面側と裏面側の両方に形成するようにしてもよい。
【0156】
また、実施例1〜7のレンズにおいても、従来のレンズにおいて採用されている種々の技術を用いることが可能である。たとえば、光を入射させる側の面にARコートやモスアイフィルムを設け、レンズ表面での反射を防止するようにしてもよい。また、基板と擬似周期構造層との間に誘電体多層膜などの層を挿入してもよい。また、光学フィルタなどをレンズ表面に設けてもよい。また、擬似周期構造層の物理的、化学的なダメージなどを防止して耐環境性を高めたり経時劣化を抑制するなどの目的で、擬似周期構造層を覆うようにしてSiO
2 などからなるキャップ層を設けてもよい。
【0157】
また、いうまでもなく、各実施例に示した構造は単独で用いるのみならず複数組み合わせて用いることが可能である。たとえば、実施例6の変形例1として示した、リッジ上に低屈折率層を設ける構造は、実施例1〜7に示した構造に付加することができる。