(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
与えられる渦電流探傷条件と被検査体の表面形状を計測する形状計測手段が取得した表面形状データとから渦電流探傷プローブが前記被検査体の表面を渦電流探傷する複数の探傷点の座標と前記複数の探傷点の各々について当該探傷点の法線ベクトルとを計算する探傷軌道データ計算手段と、
前記探傷軌道データ計算手段により得られる探傷点の法線ベクトルと、与えられる前記渦電流探傷プローブの形状データから計算される、走査時に前記被検査体側を向く前記渦電流探傷プローブの平面に対する法線ベクトルとが一致する位置であって前記被検査体の表面と接触する位置に配置される前記渦電流探傷プローブと前記被検査体の表面との隙間を、前記複数の探傷点の各々について評価して評価結果を得る隙間評価手段と、
前記渦電流探傷プローブから前記複数の探傷点の各々で前記被検査体の探傷データを得る渦電流探傷データ収集手段と、
前記複数の探傷点の各々で得られる前記被検査体の探傷データと、前記隙間の前記複数の探傷点の各々に対する前記評価結果とに基づいて、前記被検査体の表面の欠陥有無を評価する渦電流探傷データ解析手段と、を具備することを特徴とする渦電流探傷装置。
前記隙間評価手段は、前記複数の探傷点の各々について、前記隙間がゼロであるか否かを判定する隙間有無判定部を備え、前記隙間有無判定部が判定する判定結果を前記評価結果として得ることを特徴とする請求項1記載の渦電流探傷装置。
前記隙間評価手段は、前記複数の探傷点の各々について、前記隙間に対して、二つの一致する前記法線ベクトルと渦電流探傷プローブの前記平面との交点および二つの一致する前記法線ベクトルと前記被検査体の表面との交点の二点間の距離を計算する距離計算部を備え、前記距離計算部が得る計算結果を前記評価結果として得ることを特徴とする請求項1または2記載の渦電流探傷装置。
前記隙間評価手段は、前記複数の探傷点の各々について、前記隙間に対して、二つの一致する前記法線ベクトルと平行な直線を含む所望の平面で切断した場合に現れる前記隙間の切断部の断面積を計算する断面積計算部を備え、前記断面積計算部が得る計算結果を前記評価結果として得ることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の渦電流探傷装置。
前記隙間評価手段は、前記複数の探傷点の各々について、前記隙間の体積を計算する体積計算部を備え、前記体積計算部が得る計算結果を前記評価結果として得ることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の渦電流探傷装置。
前記隙間評価ステップは、前記複数の探傷点の各々について、前記隙間がゼロであるか否かを判定する隙間有無判定ステップ、前記隙間に対して二つの一致する前記法線ベクトルと渦電流探傷プローブの前記平面との交点および二つの一致する前記法線ベクトルと前記被検査体の表面との交点の二点間の距離を計算する距離計算ステップ、前記隙間に対して、二つの一致する前記法線ベクトルと平行な直線を含む所望の平面で切断した場合に現れる前記隙間の切断部の断面積を計算する断面積計算ステップ、および前記隙間の体積を計算する体積計算ステップの少なくとも何れかのステップを備え、
前記隙間評価ステップが前記隙間有無判定ステップを備えている場合には、前記隙間がゼロであるか否かの判定結果を前記評価結果として取得し、
前記隙間評価ステップが前記距離計算ステップを備えている場合には、前記二点間の距離計算結果を前記評価結果として取得し、
前記隙間評価ステップが前記断面積計算ステップを備えている場合には、前記隙間の断面積の計算結果を前記評価結果として取得し、
前記隙間評価ステップが前記体積計算ステップを備えている場合には、前記隙間の体積の計算結果を前記評価結果として取得することを特徴とする請求項8記載の渦電流探傷方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る渦電流探傷装置および渦電流探傷方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明においては、上、下、左、右等の方向を示す言葉は、図示した状態または通常の使用状態を基準とする。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る渦電流探傷装置の一例である渦電流探傷装置10の構成を示す機能ブロック図である。
【0015】
図1に例示される渦電流探傷装置10の被検査体1は、炉内計装筒3が原子炉圧力容器の底部である炉底部4に溶接により固定されている溶接部5を有する構造体である。炉内計装筒3は円筒形状、炉底部4は球面形状をしており三次元的に曲面形状が変化している。特に、溶接部5は、曲面形状が複雑に変化すると共に狭隘部6を有するため、一般に渦電流探傷検査が困難な箇所である。
【0016】
渦電流探傷装置10は、与えられる被検査体1の渦電流探傷条件と形状計測センサ11から出力される信号に基づいて計測される被検査体1の表面形状を示すデータ(表面形状データ)とから渦電流探傷プローブ12の軌道を示す探傷軌道データを作成し、作成された探傷軌道データに基づき渦電流探傷プローブ12を駆動させて、渦電流探傷プローブ12から被検査体1の探傷データを収集し、収集した探傷データと、探傷軌道データから計算される渦電流探傷プローブ12と被検査体1の表面との隙間の評価結果とに基づいて被検査体1の表面の欠陥有無を評価する装置である。
【0017】
渦電流探傷装置10は、例えば、形状計測手段13と、探傷軌道データ計算手段14と、駆動手段15と、制御手段16と、隙間評価手段17と、渦電流探傷データ収集手段18と、渦電流探傷データ解析手段19と、表示手段21とを具備して構成される。
【0018】
形状計測手段13は、例えば、3次元測定器等の形状計測装置で構成され、形状計測センサ11のセンサ出力に基づいて形状データを得る機能を有する。形状計測手段13は、任意の形状計測方法を採用することができ、例えば、レーザを用いた光切断法や2台のカメラを用いたステレオカメラ法等の一般的な形状計測方法を採用する。
【0019】
形状計測手段13は、形状計測センサ11のセンサ出力に基づいて被検査体1の表面形状データを取得し、取得した被検査体1の表面形状データを探傷軌道データ計算手段14へ与える。なお、被検査体1の表面形状データが既に作成されている場合には、新たに被検査体1の表面形状データを作成する必要はなく、既存の表面形状データを活用することができる。
【0020】
探傷軌道データ計算手段14は、与えられる渦電流探傷条件と被検査体1の表面形状を表すデータ(表面形状データ)とから、渦電流探傷プローブ12が被検査体1の表面を渦電流探傷する複数の計測点(探傷点)の座標と、これら複数の計測点(探傷点)に対し各計測点(探傷点)での法線ベクトルとを計算する機能と、渦電流探傷プローブ12の形状データから渦電流探傷プローブ12の(中心点P0における)法線ベクトルを計算する機能と、渦電流探傷プローブ12が被検査体1に干渉(衝突)することなく探傷点に最も近接させることができる位置および姿勢を各探傷点に対して計算する機能とを有する。
【0021】
探傷軌道データ計算手段14は、まず、各探傷点の座標および法線ベクトルを計算する。各探傷点の座標および法線ベクトルを計算するために与えられる渦電流探傷条件としては、例えば、被検査体1の表面上の探傷範囲、被検査体表面で被検査体1の探傷データを取得する計測点(探傷点)の間隔、および被検査体表面の基準点(原点)座標等がある。ここで、座標とは空間内の位置の情報を与えることができる空間座標を意味し、例えば、X軸、Y軸、Z軸の三軸が直交する三次元直交座標系、またはこの三次元直交座標系に変換可能な他の座標系などの空間位置を表現可能な任意の座標系で表される。
【0022】
このように、探傷範囲と探傷点の間隔が指定されることで、探傷範囲内の所定の探傷点から当該探傷範囲内を指定された間隔で座標軸方向に移動させて全ての探傷点を計算により特定することができる。また、探傷点が特定されれば、被検査体1の表面形状データから当該探傷点での法線ベクトルを計算することができる。
【0023】
探傷軌道データ計算手段14は、続いて、算出された被検査体1の各探傷点での法線ベクトルと、与えられる渦電流探傷プローブ12の形状データとを用いて、各探傷点に対して渦電流探傷プローブ12を探傷点に最も近接させることができる位置(最近接位置)および姿勢を計算し、探傷軌道データを作成する。ここで、探傷軌道データ計算手段14が作成する探傷軌道データには、少なくとも、各探傷点の位置(座標)情報、各探傷点での法線ベクトルの情報、および各探傷点に対して渦電流探傷プローブ12の最近接位置(例えば、渦電流探傷プローブ12の底面の中心点の座標)の情報が含まれる。
【0024】
探傷軌道データ計算手段14は、探傷軌道データを作成すると、制御手段16および隙間評価手段17へ与える。また、探傷軌道データ計算手段14は、渦電流探傷プローブ12の形状データおよび被検査体1の表面形状データを与える。渦電流探傷プローブ12の形状データおよび被検査体1の表面形状データは、隙間評価手段17が渦電流探傷プローブ12と被検査体1の表面との隙間の断面積または体積を計算する場合に使用される。
【0025】
なお、渦電流探傷プローブ12の姿勢については、必ずしも探傷軌道データに含まれていなくてもよい。渦電流探傷プローブ12の姿勢については、渦電流探傷プローブ12を被検査体表面の探傷点に最も近接させる場合、渦電流探傷プローブ12の法線方向と最も近接させる探傷点での法線ベクトルとが一致することになるので、探傷点での法線ベクトルが特定されれば、渦電流探傷プローブ12の姿勢についても特定することができるためである。
【0026】
駆動手段15は、例えば、複数の直交駆動軸と回転駆動軸とを有する多軸構成の駆動装置で構成され、先端近傍に形状計測センサ11と渦電流探傷プローブ12とを付け替え可能な取付部を有する。形状計測センサ11と渦電流探傷プローブ12とを付け替えずに、同時に両者を搭載しても良い。駆動手段15は、駆動軸を駆動させることで取付部151の位置および姿勢を所望の状態に動かすことができ、取付部151に取り付けられる形状計測センサ11または渦電流探傷プローブ12の位置および姿勢を自在に変更する。
【0027】
駆動手段15は、制御手段16から駆動制御データを受け取り、受け取る駆動制御データに基づいて、各軸の駆動を制御する。駆動手段15は、各軸の駆動が制御されることにより、取付部151に取り付けられているデバイス(形状計測センサ11または渦電流探傷プローブ12)の位置および姿勢を変更する。駆動手段15は、被検査体1の表面形状データを取得する場合、形状計測センサ11の位置および姿勢を変更し、被検査体1の渦電流探傷検査を行う場合、渦電流探傷プローブ12の位置および姿勢を変更する。
【0028】
制御手段16は、駆動手段15を制御する機能を有する。制御手段16は、取付部151の位置および姿勢を制御する制御信号を生成し、生成した制御信号を駆動手段15へ与えることで、取付部151の位置および姿勢を制御する。
【0029】
制御手段16は、探傷軌道データ計算手段14から得られる探傷軌道データと、取付部151に取り付けられているデバイスが形状計測センサ11か渦電流探傷プローブ12かを識別する識別情報とに基づいて駆動手段15(取付部151の位置および姿勢)を制御する駆動制御データを作成する。駆動制御データには、少なくとも、駆動手段15が有する複数の軸毎に動作データ(各軸動作データ)が含まれている。制御手段16は、作成した駆動制御データを駆動手段15および渦電流探傷データ収集手段18へ与える。
【0030】
駆動制御データは、駆動手段15において、取付部151の位置および姿勢を制御するために使用され、取付部151に取り付けられた渦電流探傷プローブ12の位置および姿勢が制御され、各探傷点に対して短いリフトオフを維持しつつ渦電流探傷を順次行うことができる。また、駆動制御データは、渦電流探傷データ収集手段18において、渦電流探傷データと探傷点との関連付けに使用される。
【0031】
隙間評価手段17は、探傷軌道データ計算手段14が作成する探傷軌道データに基づき、各探傷点に対して、与えられる少なくとも一つの渦電流探傷プローブ12の底面(接触面)と被検査体1の表面との間(隙間)に関する評価指標で隙間を評価する機能を有する。なお、隙間評価手段17は、探傷軌道データの他、必要時には渦電流探傷プローブ12の形状データおよび被検査体1の表面形状データも用いて隙間を評価する。隙間(渦電流探傷プローブ底面と被検査体表面間)に関する評価指標としては、例えば、隙間の有無、隙間の距離、隙間の(法線ベクトル方向で切断した場合に現れる)断面(縦断面)の面積(以下、単に「隙間の断面積」と称する。)、および隙間の体積等がある。
【0032】
隙間評価手段17は、例えば、隙間の有無を判定する機能を有する隙間有無判定部171と、隙間の距離(リフトオフ量)を計算する機能を有する距離計算部172と、隙間の断面積を計算する機能を有する断面積計算部173と、隙間の体積を計算する機能を有する体積計算部174とを備えて構成される。
【0033】
隙間評価手段17は、各探傷点に対して、隙間の有無、並びに隙間の距離、断面積、および体積の計算結果を隙間の評価結果として得ることで隙間を評価し、得られる評価結果を、渦電流探傷データ収集手段18および渦電流探傷データ解析手段19のうち、少なくとも渦電流探傷データ解析手段19へ与える。
【0034】
なお、隙間評価手段17の各処理部(隙間有無判定部171、距離計算部172、断面積計算部173、および体積計算部174)の隙間の評価方法については、後述する(
図3)。
【0035】
渦電流探傷データ収集手段18は、渦電流探傷プローブ12から被検査体1に磁場を印加し、設定される複数の探傷点の各々で被検査体1からの反作用磁場を検出する。渦電流探傷データ収集手段18は、各探傷点で被検査体1からの反作用磁場を検出することで、各探傷点に対して被検査体1の探傷データを得る。すなわち、渦電流探傷データ収集手段18は、駆動制御データを用いて、渦電流探傷プローブ12が検出した検出信号と各探傷点とを関連付け、被検査体1の探傷データとして収集する。
【0036】
なお、渦電流探傷データ収集手段18は、隙間評価手段17から各探傷点における隙間の評価結果を受け取る場合、渦電流探傷プローブ12が検出した検出信号と、各探傷点と、各探傷点における隙間の評価結果とを関連付けた情報を被検査体1の探傷データとして作成してもよい。この場合、渦電流探傷データ解析手段19による詳細な渦電流探傷データの解析前に、被検査体1の探傷データに含まれる検出信号の波形と探傷点での隙間の評価結果とを表示手段21に表示させることができる。
【0037】
渦電流探傷データ解析手段19は、渦電流探傷データ収集手段18が得る被検査体1の探傷データと隙間評価手段17から与えられる評価結果とに基づいて、検出した欠陥信号が真の欠陥信号である可能性(確からしさ:確度)の大小、すなわち、欠陥信号の信憑性を判定し、この判定結果を考慮して被検査体1の表面の欠陥有無を評価する。
【0038】
渦電流探傷データ解析手段19は、例えば、渦電流探傷データ収集手段18が得る被検査体1の探傷データから欠陥の存在を示す欠陥信号を検出する欠陥信号検出部191と、欠陥信号検出部191が検出した欠陥信号の信憑性を判定する判定部192とを備える。
【0039】
欠陥信号検出部191は、被検査体1の探傷データから欠陥の存在を示す欠陥信号(欠陥疑似信号を含む)を検出する機能を有する。
【0040】
ここで、欠陥信号検出部191が検出する欠陥信号には、被検査体1の表面に実在する欠陥に起因する真の欠陥信号と、被検査体1の表面に欠陥は存在しないにも関わらず被検査体1の表面に欠陥が存在するとして検出される欠陥疑似信号(偽の欠陥信号)との両方が含まれる。すなわち、欠陥信号検出部191は、真の欠陥信号を検出する場合以外にも、欠陥疑似信号を欠陥信号として誤検出する場合がある。
【0041】
判定部192は、隙間評価手段17から与えられる隙間の評価結果に基づいて、欠陥信号検出部191が検出した欠陥信号が真の欠陥信号である可能性の大小、すなわち、欠陥信号の信憑性を判定する機能を有する。
【0042】
判定部192は、例えば、隙間の評価結果からリフトオフ量の大小等が判断できるため、リフトオフ量がゼロの場合、欠陥疑似信号の発生はないため、欠陥信号検出部191が検出した欠陥信号は真の欠陥信号である可能性は極めて高いといえる。判定部192は、被検査体1の表面の欠陥有無の評価に、当該探傷点で検出された欠陥信号は真の欠陥信号である可能性が極めて高い旨の情報を付加して表示手段21へ提供する。
【0043】
一方、リフトオフ量(断面積、または体積)が正である場合、リフトオフに伴う欠陥疑似信号が発生するため、欠陥信号検出部191が検出した欠陥信号はリフトオフに伴う欠陥疑似信号である可能性が比較的高くなる。判定部192は、被検査体1の表面の欠陥有無の評価に、当該探傷点で検出された欠陥信号は欠陥疑似信号である可能性が比較的高い旨の情報を付加して表示手段21へ提供する。
【0044】
また、判定部192は、同じ材料の試験片で事前に欠陥信号や欠陥疑似信号を得ている場合、これらを基準として欠陥信号の信憑性を判定することもできる。例えば、事前に隙間が生じる様々な条件下で欠陥疑似信号を得ている場合、判定部192は、隙間の評価結果と同じ条件(同じ条件の欠陥疑似信号が存在しない場合には可能な限り近い条件)で得られている欠陥疑似信号を基準として、欠陥信号検出部191が検出した欠陥信号と位相等を比べることで、欠陥信号検出部191が検出した欠陥信号が単なる欠陥疑似信号であるか、欠陥疑似信号に真の欠陥信号が重畳した信号であるかの判定精度を高めることができる。
【0045】
このように、同じ材料の試験片で事前に欠陥信号や欠陥疑似信号を基準として欠陥信号の信憑性を判定し判定結果を得る場合、判定部192は、この判定結果もさらに考慮して欠陥信号である可能性が高いか低いかを判定することができる。なお、同じ材料の試験片で事前に欠陥信号や欠陥疑似信号を得る代わりに、同じ被検査体1に磁場を印加した場合の三次元磁場解析を行い、得られた結果等から計算上の探傷データを算出し、当該算出結果を欠陥信号の信憑性を判定する基準として用いることもできる。
【0046】
ここで、判定部192が、例えば5段階(レベル1〜レベル5)等の複数段階で、欠陥信号の信憑性の高低を判定するものとし、事前に基準となる欠陥疑似信号と当該欠陥疑似信号を得た隙間の指標(距離、断面積、または体積)とが得られている場合を例に、判定部192が欠陥信号の信憑性(欠陥信号であることの確度)を判定する判定手法の一例を説明する。
【0047】
なお、欠陥信号の信憑性の高低はレベル数が低いほど低いものとする。すなわち、欠陥信号の信憑性が最も低いレベルがレベル1であり、最も高いレベルがレベル5となる。
【0048】
判定部192は、欠陥信号が検出された探傷データの探傷点から当該探傷点の隙間の評価結果を確認する。確認の結果、リフトオフ量がゼロの場合、レベル4(欠陥信号である可能性は高い)と判定する。一方、リフトオフ量(断面積、または体積)が正である場合、レベル2(欠陥信号である可能性は低い)と判定する。
【0049】
さらに、判定部192は、隙間の評価結果と同じ条件(同じ条件の欠陥疑似信号が存在しない場合には可能な限り近い条件)で得られている欠陥疑似信号を基準信号として選定し、この基準信号と位相や振幅を比べる。比べた結果、欠陥疑似信号との相関が高い場合にはレベルを1下げ、低い場合にはレベルを1上げる。
【0050】
この結果、欠陥信号が検出された探傷点では隙間が生じており、同じ隙間条件の欠陥疑似信号との相関が高いと判定されたものはレベル1となり、欠陥信号が検出された探傷点では隙間が生じておらず(距離、断面積、または体積がゼロ)、同じ条件の欠陥疑似信号(欠陥無しの試験片で信号を収集したもの)との相関が低いと判定されたものはレベル5となる。
【0051】
なお、上述した欠陥信号の信憑性の判定手法は、あくまでも一例であり、上述の例に限定されない。例えば、最も単純な例として、隙間が存在する場合(隙間有と判定されている場合、または距離、断面積、若しくは体積が正数となる場合)と隙間が存在しない場合(隙間無と判定されている場合、または距離、断面積、若しくは体積がゼロとなる場合)との二段階で判定してもよい。
【0052】
このようにして、渦電流探傷データ解析手段19が被検査体1の表面の欠陥有無を評価した結果は、表示手段21に表示される。このとき、被検査体1の表面の欠陥が存在すると判定した探傷点については、判定部192が判断した欠陥信号の信憑性の高低に応じて複数にレベル分けした情報を含めることができ、例えば、レベル毎に色分けする等、欠陥信号の信憑性の程度を識別可能な手法を採用して、表示手段21に欠陥が存在し得る探傷点を欠陥信号の信憑性の高低とともに表示させることができる。
【0053】
表示手段21は、例えば、表示機能を有するディスプレイ等で構成され、渦電流探傷データ収集手段18が収集した被検査体1の探傷データを表示したり、渦電流探傷データ解析手段19が被検査体1の表面の欠陥有無を評価した結果等を表示したりする。
【0054】
なお、上述した渦電流探傷装置10は、形状計測手段13、探傷軌道データ計算手段14、駆動手段15、制御手段16、隙間評価手段17、渦電流探傷データ収集手段18、渦電流探傷データ解析手段19、および表示手段21を具備して構成される例であるが、渦電流探傷装置10は、必ずしも、形状計測手段13、駆動手段15、制御手段16、および表示手段21を具備している必要はなく、これらの一部または全部を省略して構成することもできる。
【0055】
また、上述した渦電流探傷装置10は、隙間有無判定部171と、距離計算部172と、断面積計算部173と、体積計算部174とを備える隙間評価手段17を具備しているが、隙間評価手段17は、隙間有無判定部171、距離計算部172、断面積計算部173、および体積計算部174の少なくとも一つを備えていればよく、必ずしも隙間有無判定部171、距離計算部172、断面積計算部173、および体積計算部174の全てを備えている必要はない。すなわち、隙間評価手段17は、少なくとも一つの評価指標に対して評価結果を得られればよい。
【0056】
続いて、探傷軌道データ計算手段14が行う探傷軌道データの作成に関し、渦電流探傷プローブ12を被検査体1に干渉(衝突)することなく探傷点に最も近接させることができる位置の計算について、もう少し詳細に説明する。
【0057】
図2は、例えば円柱形状の渦電流探傷プローブ12を被検査体1の探傷点P1に最も近接させる場合の配置例を説明する説明図であり、
図2(A)は被検査体表面Sが平面の場合の説明図、
図2(B)は被検査体表面Sが曲面の説明図である。
【0058】
探傷軌道データ計算手段14は、渦電流探傷プローブ12の底面、すなわち、走査時に被検査体側を向く渦電流探傷プローブ12の平面(接触面)と垂直であり、当該平面(接触面)の中心点P0を通る法線ベクトルV0と、被検査体1の探傷点P1における法線ベクトルV1とを一致させ、法線ベクトルV0と法線ベクトルV1とが一致している状態を維持したまま渦電流探傷プローブ12が被検査体1の表面と接触するまで中心点P0を探傷点P1へ(上側から下側へ)近づけていく。
【0059】
探傷点P1における被検査体1の表面(被検査体表面)Sが平面の場合(
図2(A))、渦電流探傷プローブ12は底面(接触面)が全て被検査体1(被検査体表面S)と接することになり、中心点P0と探傷点P1とを一致させることができる。従って、渦電流探傷プローブ12を被検査体1に干渉(衝突)することなく探傷点P1に最も近接させることができる最近接位置は探傷点P1となり、中心点P0と探傷点P1との距離を0(ゼロ)とすることができる。
【0060】
一方、探傷点P1における被検査体表面Sが曲面の場合(
図2(B))、渦電流探傷プローブ12を矢印A1の方向に被検査体1へ近づけて行くと、渦電流探傷プローブ底面の外縁部が被検査体1(被検査体表面S)と接する箇所まで近づけることができるが、それ以上中心点P0と探傷点P1とを近づけようとすると、渦電流探傷プローブ12は被検査体1に干渉(衝突)することなる。
【0061】
従って、探傷点P1における被検査体表面Sが曲面の場合、渦電流探傷プローブ底面の外縁部が被検査体1(被検査体表面S)と接する箇所が渦電流探傷プローブ12の最近接位置となる。この場合、渦電流探傷プローブ12の最近接位置は、探傷点P1とならないため、探傷点P1から幾らかの距離を隔てた地点となる。すなわち、被検査体表面Sと渦電流探傷プローブ12の底面との間に隙間25が生じることになる。
【0062】
続いて、渦電流探傷装置10における隙間評価手段17が行う隙間25の評価について説明する。
【0063】
図3は、隙間評価手段17が行う隙間25の評価を説明する説明図であり、
図3(A)は距離計算部172が計算する二点(渦電流探傷プローブ底面の中心点P0および探傷点P1)間の距離dを説明する説明図であり、
図3(B)は断面積計算部173が計算する隙間25の断面積S
Gと体積計算部174が計算する隙間25の体積V
Gとを説明する説明図である。
【0064】
図1に例示される、隙間有無判定部171と、距離計算部172と、断面積計算部173と、体積計算部174とを備える隙間評価手段17は、隙間有無判定部171が隙間25の有無判定結果を、距離計算部172が距離dの計算結果を、断面積計算部173が隙間25の断面積S
Gの計算結果を、体積計算部174が隙間25の体積V
Gの計算結果を、隙間25の評価結果として取得する。
【0065】
隙間有無判定部171は、例えば、渦電流探傷プローブ12の底面(接触面)の中心点P0と探傷点P1とが一致しているか否か、または最近接位置に配置される渦電流探傷プローブ12の底面と被検査体表面Sとの距離d(
図3(A))を計算し、距離dが0(ゼロ)となるか否かによって、渦電流探傷プローブ12と被検査体1との隙間25の有無を判定する。隙間25の有無判定結果は、隙間25の評価結果の一つとなる。
【0066】
距離計算部172は、例えば、被検査体1の表面上に位置する探傷点P1の座標と渦電流探傷プローブ12の最近接位置に配置される渦電流探傷プローブ12の底面の中心点P0の座標とから渦電流探傷プローブ12の底面から被検査体表面Sまでの距離d(
図3(A))を計算する。距離dの計算結果は、隙間25の評価結果の一つとなる。
【0067】
断面積計算部173は、探傷軌道データ、渦電流探傷プローブ12の形状データ、および被検査体1の表面形状データを用いて、渦電流探傷プローブ12の底面(接触面)または被検査体1の探傷点における表面に対して垂直な平面(法線ベクトルV0,V1の方向)で切断した場合に現れる断面(縦断面)の面積を、隙間25の断面積S
Gとして計算する。隙間25の断面積S
Gの計算結果は、隙間25の評価結果の一つとなる。
【0068】
なお、隙間25の断面積S
Gは、隙間25を切断する位置および方向が異なることによって、面積値が異なる場合がある。そこで、断面積計算部173では、電流探傷プローブ12の底面上の一点を基準点として、この基準点の位置および底面上の当該基準点を通る基準線(方位角が0度の直線)との切断する平面上の当該基準点を通る直線との成す角(方位角)を指定することで、隙間25を切断する平面の位置および方向(方位角)を指定することができる。
【0069】
断面積計算部173は、例えば、渦電流探傷プローブ底面上の位置および方位角を変えて最も断面積S
Gが大きくなる位置および方位角での面積値を計算して結果を得るように設定したり、予め指定した位置(例えば、渦電流探傷プローブ底面の中心点)および方向(例えば、方位角0度)で切断される場合の断面積S
Gを計算して結果を得るように設定したりすることができる。
【0070】
体積計算部174は、探傷軌道データ、渦電流探傷プローブ12の形状データ、および被検査体1の表面形状データを用いて、隙間25の体積V
Gを計算する。隙間25は、図面上に表現されていないが奥行き(紙面を直交する方向の寸法)が存在し、奥行きの方向では空間が閉じていない場合もあり得るため、ここでは、隙間25を、渦電流探傷プローブ12の側面を被検査体1の表面(被検査体表面)Sへ延ばした面と被検査体表面Sと渦電流探傷プローブ12の底面を含む平面とで閉じられた空間(閉空間)として取り扱い、当該閉空間の体積を計算する。隙間25の体積V
Gの計算結果は、隙間25の評価結果の一つとなる。
【0071】
次に、本発明の実施形態に係る渦電流探傷方法について説明する。
【0072】
本発明の実施形態に係る渦電流探傷方法は、与えられる被検査体1の渦電流探傷条件と形状計測センサ11から出力される信号に基づいて計測される被検査体1の表面形状データとから探傷軌道データを作成し、作成された探傷軌道データに基づき渦電流探傷プローブ12を駆動させて収集した探傷データと、隙間25(
図2(B))の評価結果とに基づいて被検査体1の表面の欠陥有無を評価する方法である。本発明の実施形態に係る渦電流探傷方法は、例えば、渦電流探傷装置10を用いて行うことができる。
【0073】
図4は、渦電流探傷装置10(
図1)が実行する渦電流探傷手順(ステップS1〜ステップS9)の処理フローを示す処理フロー図である。
【0074】
渦電流探傷手順(ステップS1〜ステップS9)は、主に、渦電流探傷検査の準備工程(ステップS1〜ステップS4)と、被検査体1(
図1)の渦電流探傷検査を行う検査工程(ステップS5〜ステップS9)とを具備する。
【0075】
渦電流探傷手順は、例えば、表面形状計測ステップ(ステップS1)と、探傷軌道データ作成ステップ(ステップS2)と、隙間評価ステップ(ステップS3)と、駆動制御データ作成ステップ(ステップS4)と、磁場印加ステップ(ステップS5)と、探傷データ収集(ステップS6)と、欠陥信号検出ステップ(ステップS7)と、欠陥信号信憑性判定ステップ(ステップS8)と、欠陥評価ステップ(ステップS9)とを具備する。
【0076】
渦電流探傷手順は、渦電流探傷装置10が実行要求を受け付けることで開始される(START)。渦電流探傷手順が開始されると、まず、準備工程(ステップS1〜ステップS4)の表面形状計測ステップ(ステップS1)が行われる。
【0077】
表面形状計測ステップ(ステップS1)では、形状計測手段13が、形状計測センサ11のセンサ出力に基づいて被検査体1の表面形状データを取得する。形状計測手段13が、被検査体1の表面形状データを取得し終えると、表面形状計測ステップは完了する。表面形状計測ステップ(ステップS1)が完了すると、続いて、探傷軌道データ作成ステップ(ステップS2)が行われる。
【0078】
探傷軌道データ作成ステップ(ステップS2)では、探傷軌道データ計算手段14が、与えられる渦電流探傷条件と被検査体1の表面形状データとから、探傷軌道データを作成する。探傷軌道データ計算手段14が探傷軌道データを作成し終えると、探傷軌道データ作成ステップは完了する。探傷軌道データ作成ステップ(ステップS2)が完了すると、続いて、隙間評価ステップ(ステップS3)が行われる。
【0079】
隙間評価ステップ(ステップS3)では、隙間評価手段17が、渦電流探傷プローブ底面(接触面)と被検査体表面との隙間に関する評価指標で隙間を評価する。隙間評価手段17が隙間の評価を完了すると、隙間評価ステップは完了する。隙間評価ステップ(ステップS3)が完了すると、続いて、駆動制御データ作成ステップ(ステップS4)が行われる。
【0080】
駆動制御データ作成ステップ(ステップS4)では、制御手段16が、探傷軌道データと、取付部151に取り付けられているデバイス(形状計測センサ11または渦電流探傷プローブ12)の識別情報に基づいて駆動制御データを作成する。駆動制御データの作成が完了すると、駆動制御データ作成ステップは完了する。なお、本ステップにおいて、デバイスの識別情報は、渦電流探傷プローブ12であることを示す情報である。これは、以降の処理ステップで渦電流探傷検査を行うためである。
【0081】
駆動制御データ作成ステップ(ステップS4)が完了すると、渦電流探傷検査の準備工程は完了する。渦電流探傷検査の準備工程が完了した後は、被検査体1の渦電流探傷検査、すなわち、検査工程(ステップS5〜ステップS9)が開始される。検査工程(ステップS5〜ステップS9)が開始されると、ます、磁場印加ステップ(ステップS5)が行われる。
【0082】
磁場印加ステップ(ステップS5)では、渦電流探傷データ収集手段18が、渦電流探傷プローブ12から被検査体1に磁場を印加する。渦電流探傷データ収集手段18が、被検査体1に磁場を印加すると、磁場印加ステップを完了し、続いて、探傷データ収集ステップ(ステップS6)が行われる。
【0083】
探傷データ収集ステップ(ステップS6)では、渦電流探傷データ収集手段18が、設定される複数の探傷点の各々に対して被検査体1の探傷データを得る。渦電流探傷データ収集手段18が設定される全ての探傷点に対して被検査体1の探傷データ取得が完了すると、探傷データ収集ステップは完了する。探傷データ収集ステップ(ステップS6)が完了すると、続いて、欠陥信号検出ステップ(ステップS7)が行われる。
【0084】
欠陥信号検出ステップ(ステップS7)では、渦電流探傷データ解析手段19の欠陥信号検出部191が、探傷データ収集ステップで収集された被検査体1の探傷データの全てから欠陥の存在を示す欠陥信号の有無を判断し、有る場合には当該欠陥信号を検出する。欠陥信号検出部191が、被検査体1の探傷データの全てから欠陥信号の有無を判断し終えると、欠陥信号検出ステップは完了する。欠陥信号検出ステップ(ステップS7)が完了すると、続いて、欠陥信号信憑性判定ステップ(ステップS8)が行われる。
【0085】
欠陥信号信憑性判定ステップ(ステップS8)では、渦電流探傷データ解析手段19の判定部192が、隙間評価ステップ(ステップS3)で得られる隙間の評価結果に基づいて、欠陥信号検出ステップ(ステップS7)で検出された欠陥信号の信憑性を判定する。判定部192が、欠陥信号の信憑性の判定が完了すると、欠陥信号信憑性判定ステップは完了する。欠陥信号信憑性判定ステップ(ステップS8)が完了すると、続いて、欠陥評価ステップ(ステップS9)が行われる。
【0086】
欠陥評価ステップ(ステップS9)では、渦電流探傷データ解析手段19における判定部192が、欠陥信号検出ステップ(ステップS7)で検出された欠陥信号と、欠陥信号信憑性判定ステップ(ステップS8)で判定された欠陥信号の信憑性の判定結果も考慮して、被検査体1(
図1)の表面の欠陥有無を評価する。欠陥有無の評価が完了すると、欠陥評価ステップは完了する。
【0087】
欠陥評価ステップ(ステップS9)が完了すると、渦電流探傷手順(ステップS1〜ステップS9)は、全処理ステップを終了する(END)。
【0088】
なお、上述した渦電流探傷手順は、駆動制御データ作成ステップ(ステップS4)が行われる前に隙間評価ステップ(ステップS3)が行われる例であるが、隙間評価ステップと駆動制御データ作成ステップとは、必ずしも逐次的に行われる必要はなく、探傷軌道データ作成(ステップS2)が完了した後に、隙間評価ステップと駆動制御データ作成ステップとが並列的に行われてもよい。
【0089】
以上、渦電流探傷装置10および渦電流探傷装置10を用いて行う被検査体1の渦電流探傷方法によれば、複雑な形状、かつ狭隘な被検査体表面Sを有する被検査体1に対しても、表面形状データから計算した探傷軌道データに基づいて駆動手段13の各軸動作データを作成するため、個々の探傷点に対してプローブと被検査面との密着条件を選定するティーチング作業をすることなく、渦電流探傷プローブ12を被検査体表面Sに最近接させることができる。従って、渦電流探傷装置10および渦電流探傷装置10を用いて行う被検査体1の渦電流探傷方法によれば、短いリフトオフを維持しつつ、従来よりも短時間で探傷することができる。
【0090】
また、渦電流探傷装置10および渦電流探傷装置10を用いて行う被検査体1の渦電流探傷方法によれば、複雑形状、かつ狭隘な被検査体表面Sに対して、渦電流探傷プローブ12と被検査体表面Sとの間の隙間25の評価結果を考慮して欠陥検出信号が真か偽かを精度良く判定することができるので、複雑形状、かつ狭隘な被検査体表面Sを有する被検査体1に対しても、欠陥有無を精度良く判定することができる。
【0091】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施例以外にも様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。