(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
以下においては、本発明の一実施の形態として、本発明に係る二次電池システムが電気自動車に搭載される構成について説明する。しかし、本発明に係る二次電池システムは、電気自動車に限らず、ハイブリッド車および燃料電池車など、二次電池を搭載する任意の電動車両に適用することが可能である。また、本発明に係る二次電池システムの用途は車両用に限定されるものではない。
【0016】
[実施の形態]
<車両構成>
図1は、本実施の形態に係る二次電池システム10が搭載される車両1の構成を概略的に示すブロック図である。
図1には、車両1内の電気系統の充放電制御に関連するシステム構成が示されている。
【0017】
図1を参照して、車両1は、二次電池システム10と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)20と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)30と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)40と、駆動輪50とを備える。二次電池システム10は、バッテリ100と、監視ユニット200と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)300とを備える。
【0018】
バッテリ100は、互いに直列に接続された複数のセル110(
図2参照)を含む。各セルには、代表的にはリチウムイオン電池またはニッケル水素電池などの非水電解質二次電池が適用される。本実施の形態ではリチウムイオン二次電池が適用される構成を例に説明する。
【0019】
監視ユニット200は、電圧センサ210と、電流センサ220と、温度センサ230とを含む。電圧センサ210は、バッテリ100内の各セルの電圧(電池電圧)VBを検出する。電流センサ220は、二次電池システム10に入出力される電流(入出力電流)IBを検出する。温度センサ230は、各セルの温度(電池温度)TBを検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU300に出力する。ECU300は、各センサからの信号に基づいて、各セルのSOC(State Of Charge)を算出する。
【0020】
SMR20は、バッテリ100とPCU30との間に電気的に接続されている。SMR20は、ECU300からの制御信号に応答してオンオフされる。これにより、バッテリ100とPCU30との間の導通および遮断が切り替えられる。
【0021】
PCU30は、たとえばコンバータと、インバータ(いずれも図示せず)とを含む。PCU30は、ECU300からのスイッチング指令に従って、バッテリ100とMG40との間で双方向に電力変換が可能に構成されている。コンバータは、バッテリ100とインバータとの間で双方向の直流電圧変換を実行するように構成されている。インバータは、直流電力とMG40に入出力される交流電力との間の双方向の電力変換を実行するように構成されている。
【0022】
より具体的には、インバータは、バッテリ100からコンバータを経由して供給される直流電力を交流電力に変換してMG40に供給する。これにより、MG40は駆動輪50の駆動力を発生する。一方、車両1の回生制動時には、インバータは、MG40が発生する交流電力(回生電力)を直流電力に変換してコンバータに供給する。これにより、バッテリ100が充電される。
【0023】
ECU300は、CPU(Central Processing Unit)(図示せず)と、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などのメモリ310と、入出力インターフェイス(図示せず)とを含んで構成される。ECU300は、各センサからの信号に基づき、予めROMなどに格納されたプログラムをCPUがRAMに読み出して実行することによって、車両走行および充放電に係る制御を実行する。なお、ECU300の少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより構成されてもよい。
【0024】
<バッテリ構成>
図2は、バッテリ100の構成をより詳細に示す図である。
図1および
図2を参照して、バッテリ100は、複数のセル110と、一対のエンドプレート112と、拘束バンド114と、複数のバスバー116とを含む。セル数は特に限定されない。x軸、y軸およびz軸は互いに直交する。鉛直方向上方をz軸の正方向とする。
【0025】
複数のセル110の各々は、たとえば扁平角型の形状の電池ケース111を有する。複数のセル110は、最も面積が大きい側面が互いに距離を隔てて対向するように、y方向に積層されている。
図2では、複数のセル110を積層して構成される積層体のうち、積層方向の一方端が部分的に示されている。この積層方向(y方向)における一方端および他方端にそれぞれ対向するように、一対のエンドプレート112(
図2では一方のみを示す)が配置されている。一対のエンドプレート112は、全てのセル110を挟み込んだ状態で拘束バンド114によって拘束されている。
【0026】
各セル110は、正極端子および負極端子を有する。あるセルの正極端子は、隣接するセルの負極端子と対向するように配置されている。あるセルの正極端子と隣接するセルの負極端子とは、ボルトおよびナット(いずれも図示せず)を用いてバスバー116によって締結されている。これにより、複数のセル110は互いに直列に接続されている。複数のセル110の電池ケース111の各々の内部には電極体120(
図3および
図4参照)が収容されている。
【0027】
図3は、電極体120の展開図である。
図4は、電極体120の外観図である。
図3および
図4を参照して、電極体120は、正極板130と、負極板140と、セパレータ150とを含む。
【0028】
図3に示すように、正極板130と負極板140とセパレータ150とが積層されて積層体が形成されている。さらに、
図4の矢印ARに示すように、積層体をx軸周りに巻くことによって巻回体が形成されている。x方向は各層の面内方向であり、y方向は各層の積層方向である。なお、電極体120を巻回体として形成することは必須ではない。
【0029】
正極板130は、集電箔132と、集電箔132の表面に形成された正極活物質層134とを含む。正極活物質層134は、正極活物質と、導電材と、バインダ(いずれも図示せず)とを含む。同様に、負極板140は、集電箔142と、集電箔142の表面に形成された負極活物質層144とを含む。負極活物質層144は、負極活物質と、導電材と、バインダ(いずれも図示せず)とを含む。本実施の形態では、黒鉛質炭素(グラファイト)が負極板140の材料として用いられる例について説明する。セパレータ150は、正極板130と負極板140との間に設けられている。正極活物質層134と負極活物質層144とがセパレータ150を介して互いに向かい合う領域をAで示す。
【0030】
<塩濃度分布>
正極活物質層134、負極活物質層144、およびセパレータ150の各々は多孔質物質であるため、その内部には電解液が含浸されている。セル110の温度変化またはSOC変化が生じると、電解液の体積変化および電極体120の体積変化が起こり得る。このような体積変化に起因して、正極活物質層134、負極活物質層144、およびセパレータ150の各々の内部において電解液の流れ(以下、「液流れ」とも称する)が発生し得る。液流れが発生すると、電解液中の塩(本実施の形態ではリチウム塩)の濃度分布が初期状態から変化することになるので、塩濃度に偏りが生じる可能性がある。
【0031】
図5は、電極体120の積層方向(y方向)における塩濃度分布の一例を説明するための概念図である。
図5において、横軸は、電極体120の積層方向の位置yを表す。正極板130の位置をy
pで表し、負極板140の位置をy
nで表し、セパレータ150の位置をy
sで表す。縦軸は塩濃度を表す。
【0032】
図5を参照して、セル110が充電されている場合には、曲線CHGに示すように、負極板140付近の塩濃度が正極板130付近の塩濃度よりも高くなる。反対に、セル110が放電されている場合には、曲線DCHに示すように、正極板130付近の塩濃度が負極板140付近の塩濃度よりも高くなる。
【0033】
図6は、電極体120の面内方向(x方向)における塩濃度分布の一例を説明するための概念図である。
図6において、横軸は電極体120の面内方向の位置xを表し、縦軸は塩濃度を表す。
【0034】
図6を参照して、セル110が充電されている場合(たとえば充電途中あるいは充電終了直後)には、曲線CHGに示すように、領域Aの中心付近の塩濃度が領域Aの両端の塩濃度よりも高くなる。反対に、セル110が放電されている場合(たとえば放電途中あるいは放電終了直後)には、曲線DCHに示すように、領域Aの中心付近の塩濃度が領域Aの両端の塩濃度よりも低くなる。
【0035】
このような塩濃度分布は、セル110の電池モデルを構築した上で、流体力学に基づいて電解液の流れを記述する液流れ方程式を解くことにより算出される。より具体的には、正極板130、負極板140、およびセパレータ150の各々について、液流れ方程式を用いて電解液の流速が算出される。さらに、算出された流速に基づいて、塩濃度分布が算出される。
【0036】
<電池モデル>
図7は、電池モデルを説明するための図である。
図7を参照して、正極板130、負極板140、およびセパレータ150の各々は、面内方向に沿って複数の微小領域Sに仮想的に分割される。各微小領域Sについて、下記式(1),(2)に基づき流速が算出される。
【0038】
式(1)は、時刻tにおける液流れを記述する方程式であり、ナヴィエ−ストークス(Navier−Stokes)方程式として知られている。式(2)は、電解液の質量保存則に関する連続方程式である。式(1),(2)において、電解液の流速をu
jで表し、電解液の密度をρで表し、電解液の粘度をμで表し、透過係数をK
jで表し、電解液の体積分率をε
e,jで表し、電解液の圧力(内圧)をpで表す。未知数は流速u
jおよび圧力pである。
【0039】
流速u
j、透過係数K
j、および体積分率ε
e,jの各パラメータに付された添字jは、正極板130、負極板140、およびセパレータ150を区別するために用いられる。すなわち、j=pの場合、そのパラメータが正極板130に関するものであることを示す。j=nの場合、そのパラメータが負極板140に関するものであることを示す。j=sの場合、そのパラメータがセパレータ150に関するものであることを示す。添字jは、後述するパラメータ(塩濃度c
e,j等)にも用いられるが、その意味は同等である。なお、体積分率ε
e,jは、成分j(たとえば負極板140の場合、負極活物質層144)の体積全体に対する成分j中の電解液の体積の割合を意味する。
【0040】
電極体120の体積は、電池温度TBの変化またはSOCの変化に応じて変化し得る。負極板140について説明すると、電極体120が膨張した場合、負極板140(より特定的には負極活物質層144)の中心Cから両端に向かって電解液が流れる(流速u
jを付した矢印で示す)。反対に、電極体120が収縮した場合、負極活物質層144の両端から中心Cに向かって電解液が流れる。正極活物質層134およびセパレータ150についても同様である。
【0041】
電極体120の体積変化について、より詳細に説明する。電極体120では、電池温度TBまたはSOCに応じて正極活物質および負極活物質(以下、「活物質」と総称する場合がある)の体積が変化するのに伴い、活物質層の体積が変化し得る。そうすると、活物質層に含浸された電解液の体積分率ε
e,jが変化することになる。体積分率ε
e,jの変化量Δε
e,jは、成分jの体積膨張率β
jを用いて下記式(3)のように表される。
【0043】
体積膨張率β
jと電池温度TBとSOCとの対応関係を予め準備しておけば、式(3)を用いることにより、電池温度TBおよびSOCに応じた体積分率ε
e,jを算出することができる。さらに、算出された体積分率ε
e,jを上記式(1)および式(2)に代入することにより、流速u
jを算出することができる。
【0044】
流速u
jが算出されれば、下記式(4)に基づいて電解液中の塩濃度c
e,jを算出することができる。式(4)は移流拡散方程式として知られている。式(4)において、左辺第1項は、所定時刻における塩濃度の変化を規定する。左辺第2項は、電解液の流速u
jに依存する塩濃度の変化を規定する。右辺第1項は、電解液中の塩の拡散状態を規定する。電解液の実効拡散係数をD
e,jeffで表す。右辺第2項は、電解液中の塩の生成量を規定する。電解液中の塩の輸率をt
+0で表す。Fはファラデー定数である。
【0046】
式(4)に基づき、複数の微小領域Sの各々について塩濃度c
e,jを算出することにより、塩濃度分布(塩濃度c
e,jの偏り)を求めることができる。
【0047】
ここで、上記式(1)および式(3)から分かるように、負極板140に関する液流れ方程式は、負極板140の体積膨張率β
nをパラメータとして含む。負極板140の体積膨張率β
nは、たとえばバッテリ100のSOCと体積膨張率β
nとの関係を示すマップに基づいて、SOCから算出することができる。
【0048】
本実施の形態において、本発明者らは、バッテリ100の充電時と放電時とでは、SOCが同じであっても負極板140の体積膨張率β
nが異なり得る点に着目した。
【0049】
図8は、負極板140の体積膨張率β
nの変化を、バッテリ100の充電時と放電時とで比較して示す図である。
図8および後述する
図9において、横軸はセル110のSOCを表し、縦軸は負極板140の体積膨張率β
nを表す。曲線Cは、バッテリ100の充電時におけるセル110のSOCと負極板140の体積膨張率β
nとの関係を示す。曲線Dは、バッテリ100の放電時におけるセル110のSOCと負極板140の体積膨張率β
nとの関係を示す。
【0050】
図8に示すように、セル110の充電時と放電時とでは、負極板140の体積膨張率β
nの変化の仕方が異なり得る。言い換えると、体積膨張率β
nには、バッテリ100の充放電に関し、ヒステリシスが存在し得る。
【0051】
一般的なマップでは、このようなヒステリシスの影響は考慮されていない。そのため、セル110のSOCと負極板140の体積膨張率β
nとの間には1対1の対応関係が存在するので、SOCが定まれば体積膨張率β
nも一意に定まる。
【0052】
しかしながら、たとえば本実施の形態のようにリチウムイオン二次電池においてグラファイトが負極材料として用いられる場合、ヒステリシスの影響を考慮しないと、負極板140の体積膨張率β
nを高精度に算出できない可能性がある。そうすると、負極板140の体積膨張率β
nを用いて算出される流速u
nの算出精度にも限界が生じ得る。その結果として、塩濃度分布の算出精度においても向上の余地が存在することになる。
【0053】
そこで、本実施の形態によれば、バッテリ100の充電時と放電時とで異なるマップM1,M2を用いる構成を採用する。
【0054】
図9は、本実施の形態にて用いられるマップM1,M2の一例を示す図である。
図9(A)は、バッテリ100の充電時におけるセル110のSOCと負極板140の体積膨張率β
nとの対応関係を示すマップM1を示す。
図9(B)は、バッテリ100の放電時におけるセル110のSOCと負極板140の体積膨張率β
nとの対応関係を示すマップM2を示す。
【0055】
図9(A)および
図9(B)を参照して、バッテリ100の充電時にはマップM1が選択される一方で、バッテリ100の放電時にはマップM2が選択される。そして、選択したマップに基づいて、SOCから体積膨張率β
nが算出される。なお、マップM1,M2は、電池温度TBをパラメータとしてさらに含んでもよい。すなわち、バッテリ100の充電時および放電時の各々において、SOCと電池温度TBと体積膨張率β
nとの対応関係を示すマップを用いてもよい。
【0056】
次に、バッテリ100の充電時と放電時とでは体積膨張率β
nの変化の仕方が異なる理由について簡単に説明する。
【0057】
図10は、負極板140の容量と電位との関係を示す図である。
図10において、横軸は、負極板140の単位重量当たりの容量(単位:mAh/g)を表す。縦軸は、リチウム金属に対する負極板140の電位を表す。
【0058】
図10を参照して、グラファイトが負極材料として用いられる場合、リチウムは、グラファイトの層状構造の層間に吸蔵される。グラファイトは、特定の層ごとにリチウムを規則的に吸蔵するステージ構造をとることが知られている。ステージ構造は4種類に分類することができる。ステージ1では、各層にリチウムが吸蔵される。一方、ステージ4では、リチウムが吸蔵された2層間にリチウムが吸蔵されていない層が3層存在する。このように、ステージn(n=1,2,3,4)とは、リチウムが吸蔵された層間にリチウムが吸蔵されていない層が(n−1)層存在する状態をいう。
【0059】
負極容量を3つの領域R12,R23,R34に分けると、領域R12において、グラファイトは、主にステージ1とステージ2とが共存した状態をとる。領域R23において、グラファイトは、主にステージ2とステージ3とが共存した状態をとる。領域R34において、グラファイトは、主にステージ3とステージ4とが共存した状態をとる。これはグラファイトが二相共存反応を起こす活物質であるためである。
【0060】
図11は、ステージ変化に伴う体積膨張率β
nの変化を説明するための図である。
図11において、横軸は、負極板140の単位重量当たりの容量を表す。縦軸は、負極板140の体積膨張率β
nを表す。
【0061】
図11では、バッテリ100の充電時にグラファイトがステージ4からステージ3を経てステージ2へと至る例を示す。各ステージ間では負極板140の体積変動率β
nが非線形的に変化し得る。そのため、充放電に伴いステージが切り替わる際には、体積膨張率β
nの変化が急激になる可能性がある。
【0062】
図10にて説明したように、グラファイトがどのステージ構造をとるかは、負極板140の負極容量によって決まる。しかし、活物質内のリチウム濃度に偏りが存在すると、たとえ負極容量が等しい場合であってもステージ構造(より具体的には、ステージ構造の共存状態の比率)は異なり得る。そのため、活物質内のリチウム濃度の偏り方によって負極板140の体積膨張率β
nが異なることになる。一般に、バッテリ100の充電によりSOCが増加してある値S1に到達した場合と、バッテリ100の放電によりSOCが減少して同一の値S1に到達した場合とでは、活物質内のリチウム濃度分布は異なる。したがって、バッテリ100が充電状態か放電状態かによって、SOCが同じであっても体積膨張率β
nが異なることになる。
【0063】
本実施の形態によれば、2種類のマップM1,M2が準備される。バッテリ100の充電時にはマップM1が選択される一方で、バッテリ100の放電時にはマップM2が選択される。これにより、バッテリ100の充電時と放電時とで共通のマップを用いる構成と比べて、体積膨張率β
nの算出精度を向上させることができる。その結果、負極板140内の流速u
nの算出精度が向上するので、塩濃度分布の算出精度を向上させることが可能になる。
【0064】
図12は、本実施の形態における電池劣化度の算出処理を説明するためのフローチャートである。
図12に示すフローチャートによる制御は、所定の条件成立時(たとえば充放電開始時)あるいは所定の演算周期毎にECU300によってメインルーチンから呼び出されて実行される。なお、各ステップ(以下、Sと略す)は、基本的にはECU300によるソフトウェア処理によって実現されるが、ハードウェア処理によって実現されてもよい。以下では、負極板140に関する算出処理について説明する。
【0065】
図1〜
図4、
図7および
図12を参照して、S10において、ECU300は、電極体120および電解液の各パラメータを決定する。より具体的には、ECU300は、透過係数K
n、電解液の密度ρおよび粘度μをメモリ310から読み込む。
【0066】
各パラメータとしては、予め定められた固定値を用いてもよいし、たとえば電池温度TBまたはSOCに応じた可変値を用いてもよい。たとえば、電解液の密度ρは、電池温度TBに応じて変化する。したがって、密度ρと電池温度TBとの対応関係を示すマップを予め準備しておけば、電池温度TBに応じた密度ρを算出することができる。透過係数K
nおよび電解液の粘度μについても同様である。
【0067】
S20において、ECU300は、バッテリ100のSOCを算出するとともに、前回の演算にて算出された値からのSOCの変化量ΔSOCを算出する。
【0068】
S30において、ECU300は、バッテリ100が充電状態か放電状態かを判定する。バッテリ100が充電状態の場合、すなわちΔSOC≧0の場合(S30においてYES)、ECU300は処理をS40に進め、マップM1(
図9(A)参照)を選択する。
【0069】
一方、バッテリ100が放電状態の場合、すなわちΔSOC<0の場合(S30においてNO)、ECUは処理をS50に進め、マップM2(
図9(B)参照)を選択する。
【0070】
S60において、ECU300は、選択されたマップを参照することにより、バッテリ100のSOCから負極板140の体積膨張率β
nを算出する。
【0071】
S70において、ECU300は、上記式(3)に基づいて、体積膨張率βnを負極板140の体積分率ε
e,nに変換する。今回の演算における体積分率ε
e,nは、前回の演算にて算出された体積分率ε
e,nと、S60にて求めた体積膨張率β
nとから算出することができる。
【0072】
S80において、ECU300は、S10にて読み込んだ各パラメータおよびS70にて算出した体積膨張率β
nを上記式(1),(2)に適用することにより、電解液の流速u
nを算出する。
【0073】
S90において、ECU300は、S80にて算出された流速u
nを上記式(4)に代入することにより、塩濃度c
e,nを算出する。さらに、ECU300は、各微小領域Sの塩濃度c
e,nに基づいて塩濃度分布を算出する。
【0074】
S100において、ECU300は、塩濃度分布に基づいて、バッテリ100の内部抵抗Rの増加量ΔRを算出する。内部抵抗Rの増加量ΔRは、バッテリ100の劣化度(ハイレート劣化の進行度)を示す指標値であるため、この処理はバッテリ100の劣化度を推定する処理に対応する。内部抵抗Rの増加量ΔRは、たとえば以下のようにして算出することができる。
【0075】
図13は、塩濃度c
e,jの偏りと内部抵抗Rの増加量ΔRとの対応関係の一例を示す図である。
図13において、横軸は、塩濃度c
e,jの偏りを示す一指標値として、複数の微小領域S間における塩濃度c
e,jの最大値と最小値との差を表す。縦軸は、内部抵抗Rの増加量ΔRを表す。
【0076】
図13を参照して、塩濃度c
e,jの差が大きくなるに従って内部抵抗Rの増加量ΔRは大きくなる。このような対応関係を予めマップ(または演算式)としてECU300のメモリ310に記憶させておくことにより、塩濃度c
e,jの差に応じて内部抵抗Rの増加量ΔRを算出することができる。これにより、大電流での充放電による劣化(ハイレート劣化)に起因する内部抵抗Rの増加を検出することが可能になる。
【0077】
図12に戻り、S110において、ECU300は、内部抵抗Rの増加量ΔRが所定のしきい値Rc以上であるか否かを判定する。内部抵抗Rの増加量ΔRがしきい値Rc以上の場合(S110においてYES)、ECU300は、ハイレート劣化がある程度進行しているとして処理をS120に進める。S120において、ECU300は、バッテリ100のさらなるハイレート劣化を抑制する観点から、バッテリ100の充放電を制限する。具体的には、ECU300は、内部抵抗Rの増加合と比べて、充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを低下させる。その後、処理はメインルーチンへと戻される。
【0078】
一方、内部抵抗Rの増加量ΔRがしきい値Rc(S110においてNO)、ECU300は、ハイレート劣化はあまり進行していないとして、S120をスキップして処理をメインルーチンへと戻す。
【0079】
なお、ここでは負極板140に関する算出処理について説明したが、正極板130およびセパレータ150に関する算出処理についても同様である。ただし、正極板130およびセパレータ150の場合には1種類のマップを用いればよいので、S20〜S40の処理をスキップすることができる。
【0080】
以上のように、本実施の形態によれば、負極板140の体積膨張率β
nのヒステリシス影響を考慮して流速u
nを算出することにより、流速u
nの算出精度を向上させることができる。その結果、塩濃度分布の算出精度を向上することができる。これにより、内部抵抗Rの増加量ΔRを算出精度が向上するので、ハイレート劣化からバッテリ100を適切に保護することが可能になる。
【0081】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。