(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザなどのレーザ装置においては、光ファイバ同士の融着接続部における光軸のずれや光ファイバの微小な曲げなどによって、光ファイバのコアを伝搬する光の一部がクラッドに漏れ出し、クラッド内をクラッドモード光として伝搬することがある。このようなクラッドモード光は、レーザ装置から出力されるレーザ光の品質を悪化させる原因となるため、レーザ装置からレーザ光が出力されるまでにクラッドモード光を除去することが望ましい。ファイバレーザなどのレーザ装置の高出力化に伴って、このようなクラッドモード光のパワーも大きくなり、クラッドモード光の除去に対する要望がより一層高まっている。
【0003】
このようなクラッドモード光を除去するために、光ファイバの被覆の一部を除去してクラッドを露出させ、この露出したクラッドをこのクラッドよりも屈折率の高い樹脂で覆うことも考えられている(例えば、特許文献1参照)。
図1は、このような従来のクラッドモード光除去構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、このクラッドモード光除去構造501では、光ファイバ510の被覆520の一部を除去してクラッド530を露出させ、このクラッド530が露出した部分をクラッド530よりも屈折率の高い樹脂540で覆っている。
【0004】
このような構造によれば、クラッド530を覆う樹脂540の屈折率がクラッド530の屈折率よりも高いため、クラッド530を伝搬するクラッドモード光L
Cが樹脂540に漏れ出して、その一部が樹脂540に吸収されて熱に変換される。この熱は、筐体550から筐体550に接続されたヒートシンク(図示せず)を介して外部に放出される。このようにして、クラッドモード光L
Cを熱に変換して外部に放出することで、不要なクラッドモード光L
Cを除去することができる。
【0005】
ここで、樹脂540に漏れ出たクラッドモード光L
Rは、上述したように、その一部が熱に変換されながら樹脂540内を伝搬していくが、
図1に示す構造では、クラッド530を被覆する樹脂540が下流側の被覆520Aに接しているため、樹脂540に漏れ出たクラッドモード光L
Rの一部が下流側の被覆520Aに入射することが考えられる。このような場合には、クラッドモード光L
Rが被覆520Aに吸収され、被覆520Aが発熱して高温になってしまう。また、クラッドモード光L
Rが被覆520Aに直接入射しなくても、樹脂540がクラッドモード光L
Rを吸収することにより生じた熱が樹脂540を介して被覆520Aに伝わり、被覆520Aが高温になってしまうことも考えられる。このように被覆520Aが高温になると、被覆520Aの発火や光ファイバ510の光学特性の悪化のおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、光ファイバの被覆における発熱を抑制しつつクラッドモード光を効果的に除去することができるクラッドモード光除去構造及びそのようなクラッドモード光除去構造を含むレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、光ファイバの被覆における発熱を抑制しつつクラッドモード光を効果的に除去することができるクラッドモード光除去構造が提供される。このクラッドモード光除去構造は、光ファイバのクラッド内を伝搬するクラッドモード光を除去するために使用される。上記クラッドモード光除去構造は、入力側光ファイバの端部において被覆が除去されて上記入力側光ファイバの入力側クラッドが露出された入力側クラッド露出部と、出力側光ファイバの端部において被覆が除去されて上記出力側光ファイバの出力側クラッドが露出された出力側クラッド露出部と、上記入力側クラッド露出部と上記出力側クラッド露出部とが互いに融着接続される融着接続部と、上記入力側クラッド露出部と、上記出力側クラッド露出部と、上記融着接続部とを収容する収容空間が形成されたファイバ収容部とを備える。さらに、上記クラッドモード光除去構造は、上記入力側クラッド露出部で露出する上記入力側クラッドの屈折率以上の屈折率を有する高屈折率樹脂を備える。この高屈折率樹脂は、
上記入力側光ファイバの上記被覆の下流側端部と、上記入力側クラッド露出部で露出する上記入力側クラッドの
全体と、上記融着接続部と、上記出力側クラッド露出部で露出する上記出力側クラッドの一部とを覆うように上記ファイバ収容部の上記収容空間内に設けられる。さらに、上記クラッドモード光除去構造は、上記出力側クラッド露出部の上記出力側クラッドの屈折率よりも低い屈折率を有する媒質からなる低屈折率部を備える。上記低屈折率部は、上記出力側光ファイバの軸方向において上記高屈折率樹脂と上記出力側光ファイバの上記被覆との間かつ上記出力側クラッド露出部の周囲に位置する。
【0009】
本発明における「クラッド」は、光ファイバが複数のクラッドを有する場合には、最外層のクラッドを意味する。すなわち、「入力側クラッド」は、入力側光ファイバが複数層のクラッドを有する場合には、入力側光ファイバの最外層のクラッドを意味し、「出力側クラッド」は、出力側光ファイバが複数層のクラッドを有する場合には、出力側光ファイバの最外層のクラッドを意味する。
【0010】
このような構成により、入力側光ファイバの入力側クラッドを伝搬してきたクラッドモード光が入力側クラッド露出部に至ると、入力側クラッドの
全体が高屈折率樹脂で覆われているため、その部分からクラッドモード光が高屈折率樹脂に漏れ出して、その一部が高屈折率樹脂に吸収されて熱に変換される。したがって、ファイバ収容部を介してこの熱を外部に放出することができ、クラッドモード光を効果的に除去することができる。このとき、出力側光ファイバの軸方向において、高屈折率樹脂と出力側光ファイバの被覆との間には低屈折率部が介在しているため、高屈折率樹脂で発生した熱が直接出力側光ファイバの被覆に伝わることがない。
【0011】
また、入力側光ファイバのクラッドを伝搬するクラッドモード光が、高屈折率樹脂に漏れきらずに出力側光ファイバのクラッドに入射したとしても、出力側クラッド露出部の周囲には、出力側クラッドの屈折率よりも低い屈折率を有する媒質からなる低屈折率部が位置しているため、そのようなクラッドモード光を出力側光ファイバのクラッド内に閉じ込めることができる。したがって、出力側光ファイバの被覆の近傍で漏れるクラッドモード光を抑制できるため、漏れたクラッドモード光が被覆に直接入射して吸収されることを抑制することができる。
【0012】
上記出力側光ファイバの軸方向に沿った上記低屈折率部の長さxは、上記出力側光ファイバの上記被覆の径をD
1、上記出力側光ファイバの上記出力側クラッドの径をD
2とすると、上記高屈折率樹脂の屈折率をn
H、上記低屈折率部を構成する媒質の屈折率をn
L、上記高屈折率樹脂中のクラッドモード光の開口数をNAとすると、
【数1】
を満たすことが好ましい。この条件を満たす場合には、高屈折率樹脂から低屈折率部に入射したクラッドモード光が出力側光ファイバの被覆に直接入射することが防止されるので、出力側光ファイバの被覆の発熱をより効果的に抑制することができる。
【0013】
また、上記入力側クラッドの径は上記出力側クラッドの径よりも大きいことが好ましい。このように、入力側クラッドの径が出力側クラッドの径よりも大きい場合には、融着接続部において入力側光ファイバのクラッドを伝搬するクラッドモード光が高屈折率樹脂に漏れやすくなるので、より効果的にクラッドモード光を除去することが可能となる。また、入力側クラッドと出力側クラッドとが同径の場合と比べて、クラッドから漏れ出るクラッドモード光のパワー密度を下げることができるので、高屈折率樹脂の局所的な温度上昇を抑制することができる。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、光ファイバの被覆における発熱を抑制しつつクラッドモード光を効果的に除去することができるレーザ装置が提供される。このレーザ装置は、励起光を出力する励起光源と、上記励起光源からの励起光により励起される希土類元素が添加されたコアを有する増幅用光ファイバとを含む光ファイバ増幅器と、上述したクラッドモード光除去構造とを備えている。このクラッドモード光除去構造においては、上記光ファイバ増幅器の上記増幅用光ファイバ又はその下流側に位置する光ファイバが上記入力側光ファイバとされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、入力側光ファイバの入力側クラッドを伝搬してきたクラッドモード光が入力側クラッド露出部に至ると、入力側クラッドの
全体が高屈折率樹脂で覆われているため、その部分からクラッドモード光が高屈折率樹脂に漏れ出して、その一部が高屈折率樹脂に吸収されて熱に変換される。したがって、ファイバ収容部を介してこの熱を外部に放出することができる。このとき、出力側光ファイバの軸方向において、高屈折率樹脂と出力側光ファイバの被覆との間には低屈折率部が介在しているため、高屈折率樹脂で発生した熱が直接出力側光ファイバの被覆に伝わることがない。
【0016】
また、入力側光ファイバのクラッドを伝搬するクラッドモード光が、高屈折率樹脂に漏れきらずに出力側光ファイバのクラッドに入射したとしても、出力側クラッド露出部の周囲には、出力側クラッドの屈折率よりも低い屈折率を有する媒質からなる低屈折率部が位置しているため、そのようなクラッドモード光を出力側光ファイバのクラッド内に閉じ込めることができる。したがって、出力側光ファイバの被覆の近傍で漏れるクラッドモード光を抑制できるため、漏れたクラッドモード光が被覆に直接入射して吸収されることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るクラッドモード光除去構造及びこれを備えたレーザ装置の実施形態について
図2から
図7を参照して詳細に説明する。なお、
図2から
図7において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、
図2から
図7においては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態におけるクラッドモード光除去構造1を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、クラッドモード光除去構造1は、例えば熱伝導性の良い窒化アルミニウムなどの材料からなる略直方体状のファイバ収容部10を備えている。このファイバ収容部10はヒートシンク(図示)に接続されている。ファイバ収容部10の内部に形成された収容空間Rには、入力側光ファイバ20とその下流側に位置する出力側光ファイバ30とが互いに融着接続された融着接続部40が収容されている。
【0020】
本実施形態における入力側光ファイバ20は、コア22と、コア22の周囲を覆うクラッド24と、クラッド24の周囲を覆う被覆26とを含んでいる。クラッド24はコア22の屈折率よりも低い屈折率の材料(例えばSiO
2)から構成され、被覆26はクラッド24の屈折率よりも低い屈折率の樹脂(例えば低屈折率ポリマー)から構成される。同様に、出力側光ファイバ30は、コア32と、コア32の周囲を覆うクラッド34と、クラッド34の周囲を覆う被覆36とを含んでいる。クラッド34はコア32の屈折率よりも低い屈折率の材料(例えばSiO
2)から構成され、被覆36はクラッド34の屈折率よりも低い屈折率の樹脂(例えば低屈折率ポリマー)から構成される。
【0021】
入力側光ファイバ20の被覆26は下流側端部から所定の長さだけ全周にわたって除去されており、これにより入力側光ファイバ20のクラッド(入力側クラッド)24が露出された入力側クラッド露出部28が形成されている。また、出力側光ファイバ30の被覆36は上流側端部から所定の長さだけ全周にわたって除去されており、これにより出力側光ファイバ30のクラッド(出力側クラッド)34が露出された出力側クラッド露出部38が形成されている。これらの入力側クラッド露出部28の下流端部と出力側クラッド露出部38の上流端部とがファイバ収容部10の収容空間R内で突き合わされ、融着接続部40で互いに融着接続されている。このように、ファイバ収容部10の収容空間Rには、入力側クラッド露出部28と出力側クラッド露出部38と融着接続部40とが収容されており、ファイバ収容部10は収容空間Rに収容されたこれらの要素を保護する役割を有している。
【0022】
図2に示すように、ファイバ収容部10の収容空間Rには、入力側光ファイバ20のクラッド24の屈折率以上の屈折率を有する材料からなる高屈折率樹脂50が収容されている。この高屈折率樹脂50は、入力側光ファイバ20の被覆26の下流側端部と、被覆26から融着接続部40に至る入力側クラッド露出部28の全体と、融着接続部40と、融着接続部40から出力側クラッド露出部38の途中までを覆っており、その外周面はファイバ収容部10に接触している。この高屈折率樹脂50は、入力側光ファイバ20のクラッド24の内部を伝搬するクラッドモード光L
Cを除去する役割と、入力側光ファイバ20をファイバ収容部10に固定する役割を有する。
【0023】
また、ファイバ収容部10の収容空間Rには、出力側光ファイバ30をファイバ収容部10に固定する固定樹脂60が収容されている。この固定樹脂60は、出力側光ファイバ30の被覆36の上流側端部を覆っており、その外周面はファイバ収容部10に接触している。この固定樹脂60として上述した高屈折率樹脂50と同一の樹脂を用いることとしてもよい。
【0024】
図2に示すように、出力側光ファイバ30の軸方向において、高屈折率樹脂50と出力側光ファイバ30の被覆36との間には空間Sが形成されており、出力側クラッド露出部38の一部がこの空間S内に露出している。すなわち、高屈折率樹脂50と出力側光ファイバ30の被覆36との間に位置する出力側クラッド露出部38の周囲は、出力側光ファイバ30のクラッド34の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質としての空気で覆われており、空間Sが出力側光ファイバ30のクラッド34の屈折率よりも低い屈折率を有する低屈折率部となっている。なお、この低屈折率部Sの屈折率は、高屈折率樹脂50の屈折率よりも低いことが好ましい。
【0025】
上述のような構成によって、入力側光ファイバ20のクラッド24を伝搬してきたクラッドモード光L
Cが入力側クラッド露出部28に至ると、クラッド24が高屈折率樹脂50で覆われているため、このクラッドモード光L
Cが高屈折率樹脂50に漏れ出して、その一部が高屈折率樹脂50に吸収されて熱に変換される。この熱は、ファイバ収容部10に伝わり、ファイバ収容部10からヒートシンクを介して外部に放出される。
【0026】
このとき、高屈折率樹脂50に漏れ出たクラッドモード光L
Rは、その一部が熱に変換されながら高屈折率樹脂50内を伝搬していくが、出力側光ファイバ30の軸方向において、高屈折率樹脂50と出力側光ファイバ30の被覆36との間には、上述したように空間Sが介在しているので、高屈折率樹脂50で発生した熱が直接出力側光ファイバ30の被覆36に伝わることが抑制される。
【0027】
また、入力側光ファイバ20のクラッド24を伝搬するクラッドモード光L
Cが、高屈折率樹脂50に漏れきらずに出力側光ファイバ30のクラッド34に入射したとしても、出力側クラッド露出部38の周囲には、出力側クラッド34の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質からなる低屈折率部Sが位置しているため、そのようなクラッドモード光を出力側光ファイバ30のクラッド34内に閉じ込めることができる。したがって、出力側光ファイバ30の被覆36の近傍で漏れるクラッドモード光を抑制できるため、漏れたクラッドモード光が被覆に直接入射して吸収されることを抑制することができる。
【0028】
また、2つの光ファイバ20,30が融着接続されている融着接続部40においては、入力側光ファイバ20のコア22を伝搬する光が漏れてクラッドモード光が生じやすいが、上述のように、融着接続部40とこれより下流側の出力側クラッド露出部38の一部も高屈折率樹脂50で覆われているため、融着接続部40で生じたクラッドモード光の多くを高屈折率樹脂50に漏らして熱に変換することができる。
【0029】
ここで、高屈折率樹脂50を伝搬してきたクラッドモード光L
Rが低屈折率部Sに入射することが考えられるが、出力側光ファイバ30の被覆36の発熱をより効果的に抑制するためには、このように低屈折率部Sに入射したクラッドモード光が被覆36に直接到達することを防止すればよい。この問題を考えるために、
図3に示すように、高屈折率樹脂50の下流端の径方向の最も内側から低屈折率部Sに入射したクラッドモード光L
0が出力側光ファイバ30の被覆36の径方向の最も外側に至る場合を考える。
【0030】
このときの低屈折率部Sの出力側クラッド露出部38の軸方向に沿った長さをx
0、低屈折率部Sにおけるクラッドモード光の出射角をθ
0、被覆36の径をD
1、出力側クラッド34の径をD
2とすると以下の式(1)が成り立つ。
【数2】
【0031】
この式を変形すると、以下の式(2)となる。
【数3】
【0032】
ここで、高屈折率樹脂50の屈折率をn
H、低屈折率部Sを構成する媒質(本実施形態では空気)の屈折率をn
L、高屈折率樹脂50におけるクラッドモード光の入射角をθ
1とすると、スネルの法則より以下の式(3)が成立する。
【数4】
【0033】
高屈折率樹脂50中のクラッドモード光の開口数NAは、NA=sinθ
1で表されるから、上記式(3)は以下の式(4)及び式(5)のように変形できる。
【数5】
【0034】
上記式(2)と式(5)から以下の式(6)が導き出せる。
【数6】
【0035】
ここで、出力側光ファイバ30の軸方向において、出力側光ファイバ30の被覆36から高屈折率樹脂50の下流端までの距離x(
図2)が上記式(5)で表されるx
0よりも長ければ、低屈折率部Sに入射したクラッドモード光が被覆36に直接到達しないこととなる。すなわち、以下の関係が満たされれば、クラッドモード光が被覆36に直接到達しないこととなる。
【数7】
【0036】
高屈折率樹脂50として屈折率1.54の樹脂を用い、空気の屈折率を1.00とした場合に、高屈折率樹脂50中のクラッドモード光の開口数NAを変化させたときのx
0(単位:μm)を以下の3つの出力側光ファイバ30について算出したところ、表1のようになった。
(1)被覆36の径D
1=250μm、クラッド34の径D
2=125μm
(2)被覆36の径D
1=200μm、クラッド34の径D
2=90μm
(3)被覆36の径D
1=320μm、クラッド34の径D
2=280μm
【0038】
上述した実施形態では、入力側光ファイバ20のクラッド24の径と出力側光ファイバ30のクラッド34の径とが同一である例を説明したが、入力側光ファイバ20のクラッド24の径と出力側光ファイバ30のクラッド34の径とが異なっていてもよい。特に、
図4に示すように、出力側光ファイバ30のクラッド34の径が入力側光ファイバ20のクラッド24の径より小さい場合には、融着接続部40において入力側光ファイバ20のクラッド24を伝搬するクラッドモード光が高屈折率樹脂50に漏れやすくなるので、より効果的にクラッドモード光を除去することが可能となる。また、入力側光ファイバ20クラッド24と出力側光ファイバ30のクラッド34とが同径の場合と比べて、クラッド24から漏れ出るクラッドモード光のパワー密度を下げることができるので、高屈折率樹脂50の局所的な温度上昇を抑制することができる。
【0039】
上述した実施形態では、低屈折率部Sが空気により構成されていたが、低屈折率部Sは、出力側光ファイバ30のクラッド34の屈折率よりも低い屈折率を有する任意の媒質により構成することができる。例えば、出力側光ファイバ30のクラッド34の屈折率よりも低い屈折率を有する樹脂により低屈折率部Sを構成してもよい。この場合において、高屈折率樹脂50で発生した熱が出力側光ファイバ30の被覆36に伝わることを抑制するために、低屈折率部Sを構成する樹脂の熱伝導率は高屈折率樹脂50の熱伝導率よりも低いことが好ましい。
【0040】
また、上述の実施形態においては、入力側クラッド露出部28の全体が高屈折率樹脂50で覆われている例を説明したが、入力側クラッド露出部28の一部のみが高屈折率樹脂50で覆われていてもよい。その場合には、入力側クラッド露出部28の一部と融着接続部40と出力側クラッド露出部38の一部とが高屈折率樹脂50で覆われることになる。
【0041】
また、上述した実施形態では、入力側光ファイバ20及び出力側光ファイバ30のいずれもシングルクラッドファイバにより構成されていたが、入力側光ファイバ20又は出力側光ファイバ30が2層以上のクラッドを有するファイバである場合にも、本発明を適用できることは言うまでもない。入力側光ファイバ20が複数層のクラッドを有するファイバである場合には、高屈折率樹脂50として、入力側光ファイバ20の最外層のクラッドの屈折率以上の屈折率を有する材料を用いる。また、出力側光ファイバ30が複数層のクラッドを有するファイバである場合には、出力側光ファイバ30の最外層のクラッドの屈折率よりも低い屈折率を有する媒質により低屈折率部Sを構成する。
【0042】
上述したクラッドモード光除去構造は、ファイバレーザなどのレーザ装置においてクラッドモード光を除去したい箇所に適用することができる。
図5は、本発明に係るクラッドモード光除去構造を適用可能なファイバレーザの一例を示す模式図である。
【0043】
図5に示すファイバレーザ101は、光共振器110と、光共振器110の前方から光共振器110に励起光を導入する複数の前方励起光源120Aと、これらの前方励起光源120Aが接続された前方インラインコンバイナ122Aと、光共振器110の後方から光共振器110に励起光を導入する複数の後方励起光源120Bと、これらの後方励起光源120Bが接続された後方インラインコンバイナ122Bとを備えている。光共振器110は、イットリウム(Yb)やエルビウム(Er)などの希土類イオンが添加されたコアを有する増幅用光ファイバ112と、増幅用光ファイバ112及び前方インラインコンバイナ122Aと接続される高反射ファイバブラッググレーディング(High Reflectivity Fiber Bragg Grating(HR−FBG))114と、増幅用光ファイバ112及び後方インラインコンバイナ122Bと接続される低反射ファイバブラッググレーディング(Output Coupler Fiber Bragg Grating(OC−FBG))116とから構成されている。例えば、増幅用光ファイバ112は、コアの周囲に形成された内側クラッドと、内側クラッドの周囲に形成された外側クラッドとを有するダブルクラッドファイバによって構成される。
【0044】
また、
図5に示すように、ファイバレーザ101は、後方インラインコンバイナ122Bから延びる第1のデリバリファイバ130と、この第1のデリバリファイバ130と融着接続部140で融着接続される第2のデリバリファイバ150とを有している。この第2のデリバリファイバ150の下流側の端部には増幅用光ファイバ112からのレーザ発振光を例えば被処理物に向けて出射するレーザ出射部160が設けられている。
【0045】
前方励起光源120A及び後方励起光源120Bとしては、例えば、波長915nmの高出力マルチモード半導体レーザ(LD)を用いることができる。前方インラインコンバイナ122A及び後方インラインコンバイナ122Bは、それぞれ前方励起光源120A及び後方励起光源120Bから出力される励起光を結合して上述した増幅用光ファイバ112の内側クラッドに導入するものである。これにより、増幅用光ファイバ112の内側クラッドの内部を励起光が伝搬する。
【0046】
HR−FBG114は、周期的に光ファイバの屈折率を変化させて形成されるもので、所定の波長帯の光を100%に近い反射率で反射するものである。OC−FBG116は、HR−FBG114と同様に、周期的に光ファイバの屈折率を変化させて形成されるもので、HR−FBG114で反射される波長帯の光の一部(例えば10%)を通過させ、残りを反射するものである。このように、HR−FBG114と増幅用光ファイバ112とOC−FBG116とによって、HR−FBG114とOC−FBG116との間で特定の波長帯の光を再帰的に増幅してレーザ発振を生じさせる光共振器110が構成される。
【0047】
このような構成のファイバレーザ101において、上述したクラッドモード光除去構造1を例えば第1のデリバリファイバ130と第2のデリバリファイバ150とを融着接続する融着接続部140に適用することができる。このように、融着接続部140にクラッドモード光除去構造1を適用することで、増幅用光ファイバ112にて吸収されなかった励起光や増幅用光ファイバ112のコアから漏れ出たレーザ光などのクラッドモード光を効果的に除去することができる。なお、クラッドモード光除去構造1は、融着接続部140に限られず、クラッドモード光を除去したい任意の箇所に設けることができることは言うまでもない。
【0048】
また、
図5に示す例では、HR−FBG114側とOC−FBG116側の双方に励起光源120A,120Bとコンバイナ122A,122Bが設けられており、双方向励起型のファイバレーザ装置となっているが、HR−FBG114側とOC−FBG116側のいずれか一方にのみ励起光源とコンバイナを設置することとしてもよい。また、光共振器110内でレーザ発振させるための反射手段としてFBGに代えてミラーを用いることもできる。
【0049】
図6は、本発明に係るクラッドモード光除去構造を適用可能なファイバレーザの他の例を示す模式図である。
図6に示すファイバレーザ201は、信号光を発生させる信号光発生器210と、励起光を発生させる複数の励起光源220と、信号光発生器210からの信号光と励起光源220からの励起光とを結合して出力する光カプラ222と、光カプラ222の出力端224に端部が接続された増幅用光ファイバ212と、増幅用光ファイバ212と融着接続部240で融着接続されるデリバリファイバ250を備えている。デリバリファイバ250の下流側の端部には増幅用光ファイバ212からのレーザ発振光を例えば被処理物に向けて出射するレーザ出射部(アイソレータ)260が設けられている。
【0050】
図7は、増幅用光ファイバ212を模式的に示す断面図である。
図7に示すように、増幅用光ファイバ212は、信号光発生器210により生成された信号光を伝搬するコア214と、コア214の周囲に形成された内側クラッド216と、内側クラッド216の周囲に形成された外側クラッド218とを有するダブルクラッドファイバによって構成される。コア214は、例えばYbなどの希土類元素が添加されたSiO
2からなり、信号光を伝搬する信号光導波路となっている。内側クラッド216は、コア214の屈折率よりも低い屈折率の材料(例えばSiO
2)からなる。外側クラッド218は、内側クラッド216の屈折率よりも低い屈折率の樹脂(例えば低屈折率ポリマー)からなる。これにより、内側クラッド216は励起光を伝搬する励起光導波路となる。
【0051】
信号光発生器210からの信号光は、増幅用光ファイバ212のコア214の内部を伝搬し、励起光源220からの励起光は増幅用光ファイバ212の内側クラッド216及びコア214の内部を伝搬する。励起光がコア214を伝搬する際に、コア214に添加された希土類元素イオンが励起光を吸収して励起され、誘導放出によってコア214中を伝搬する信号光が増幅される。
【0052】
このような構成のファイバレーザ201において、上述したクラッドモード光除去構造1を例えば増幅用光ファイバ212とデリバリファイバ250とを融着接続する融着接続部240に適用することができる。このように、融着接続部240にクラッドモード光除去構造1を適用することで、増幅用光ファイバ212にて吸収されなかった励起光や増幅用光ファイバ212のコアから漏れ出たレーザ光などのクラッドモード光を効果的に除去することができる。なお、クラッドモード光除去構造1は、融着接続部240に限られず、クラッドモード光を除去したい任意の箇所に設けることができることは言うまでもない。
【0053】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【解決手段】クラッドモード光除去構造1は、入力側光ファイバ20のクラッド24が露出されたクラッド露出部28と、出力側光ファイバ30のクラッド34が露出されたクラッド露出部38と、クラッド露出部28,38が融着接続される融着接続部40と、クラッド24の屈折率以上の屈折率を有する高屈折率樹脂50と、クラッド34の屈折率よりも低い屈折率を有する媒質からなる低屈折率部Sとを備える。高屈折率樹脂50は、クラッド24の少なくとも一部と、融着接続部40と、クラッド34の一部とを覆うようにファイバ収容部10の収容空間R内に設けられる。低屈折率部Sは、高屈折率樹脂50と出力側光ファイバ30の被覆36との間かつ出力側クラッド露出部38の周囲に位置する。