特許第6356886号(P6356886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6356886水酸化酸化アルミニウムへ吸着可能な少なくとも2種類の抗原を含有するワクチンの調製方法
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  • 特許6356886-水酸化酸化アルミニウムへ吸着可能な少なくとも2種類の抗原を含有するワクチンの調製方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356886
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】水酸化酸化アルミニウムへ吸着可能な少なくとも2種類の抗原を含有するワクチンの調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/295 20060101AFI20180702BHJP
   A61K 39/29 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 39/05 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 39/08 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 39/10 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 39/102 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 39/13 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20180702BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20180702BHJP
【FI】
   A61K39/295
   A61K39/29
   A61K39/05
   A61K39/08
   A61K39/10
   A61K39/102
   A61K39/13
   A61K39/39
   A61P31/14
   A61P31/04
   A61K47/04
   A61K47/18
   A61K47/64
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-160109(P2017-160109)
(22)【出願日】2017年8月23日
(62)【分割の表示】特願2014-552680(P2014-552680)の分割
【原出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2017-203043(P2017-203043A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年9月1日
(31)【優先権主張番号】1250464
(32)【優先日】2012年1月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】592055820
【氏名又は名称】サノフィ・パスツール
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ランドリー・ベルトー
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・シャコルナク
(72)【発明者】
【氏名】アラン・フランソン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−フランソワ・オー
(72)【発明者】
【氏名】サンドリーヌ・ランチ・グラフ
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/13906(WO,A1)
【文献】 特表2009−537623(JP,A)
【文献】 特表平7−508267(JP,A)
【文献】 特表2004−538291(JP,A)
【文献】 特表2002−515056(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/046935(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/295
A61K 39/05
A61K 39/08
A61K 39/10
A61K 39/102
A61K 39/13
A61K 39/29
A61K 39/39
A61K 47/04
A61K 47/18
A61K 47/64
A61P 31/04
A61P 31/14
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
− B型肝炎表面抗原、HBsAg、
− ジフテリア毒素Dの形態のジフテリア抗原、
− 破傷風毒素Tの形態の破傷風抗原、
− 精製毒素(PTxd)の形態の百日咳抗原および糸状ヘマグルチニン(FHA)の形態の百日咳抗原、
− 破傷風タンパク質とコンジュゲートしたポリリボシルリビトールリン酸の形態のヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)抗原(PRP−T)、
− 1型、2型および3型から選択される不活化ウイルスの形態のポリオ抗原、
− リン酸イオン 35〜45mMol/L、
− 陽イオンアミノ酸 100〜1000mg/L
を含むことを特徴とするワクチン組成物であって、該B型肝炎表面抗原は水酸化酸化アルミニウムに吸着されており、該Hib抗原は吸着されないままである、ワクチン組成物。
【請求項2】
リン酸イオン 38〜42mMol/Lを含む、請求項1記載のワクチン組成物。
【請求項3】
陽イオンアミノ酸 400〜800mg/Lを含む、請求項1記載のワクチン組成物。
【請求項4】
HBsAg 10〜30μg/mL、
ジフテリア毒素Dの形態のジフテリア抗原 40〜80Lf/mL、
破傷風毒素Tの形態の破傷風抗原 10〜50Lf/mL、
FHA 40〜60μg/mL、
PTxd 40〜60μg/mL、
PRP−Tコンジュゲート形態で、PRP 2〜60μg/mL、
不活化形態の1型、2型および3型ポリオウイルス
を含む、請求項1記載のワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)からなるB型肝炎抗体価(valence)および2歳未満の小児において有効となるようにキャリアータンパク質(例えば破傷風タンパク質)とコンジュゲートしたポリリボシルリビトールリン酸(PRP)と称される莢膜多糖類からなるヘモフィルスインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型抗体価の両方を含むワクチンの分野に関する。
【0002】
幼児への投与を対象としているこのような合剤は、一般的に、いくつかの疾患に対する予防接種を可能にする他の抗原、およびアルミニウムベースのアジュバントを含む。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、第13頁に記載されているように、ジフテリア、破傷風、ポリオ、百日咳、B型肝炎およびヘモフィルスインフルエンザ菌b型の感染に対する抗原を含むワクチン組成物が開示されている。これらの抗原のいくつかは、それらに免疫原性を持たせるために、アルミニウム塩に吸着させる必要がある。これは、特に、B型肝炎表面抗原またはHBsAgの場合である。
【0004】
しかしながら、特許文献1の第12頁に記載されているように、破傷風タンパク質とコンジュゲートした莢膜多糖類からなるHib抗体価は、アルミニウム塩に吸着した場合、その免疫原性を経時的に喪失していく傾向がある。この欠点を回避するためにこの先行技術が提案している解決法は、先行出願である特許文献2において既に推奨されていたように、陰イオン、特にリン酸イオン、炭酸イオンまたはクエン酸イオンを加えることである。
【0005】
しかしながら、本発明の発明者らは、イオンの添加、特にリン酸イオンまたは炭酸イオンの添加によって、実際に、PRP−Tが水酸化酸化アルミニウム(AlOOH)へ吸着するのを防ぐことができ、その結果、その免疫原性を経時的に維持することができるが、この添加は、B型肝炎表面抗原自体も水酸化酸化アルミニウムに吸着している場合にはB型肝炎表面抗原を脱着させるという欠点を有することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO99/13906号
【特許文献2】国際特許出願第PCT/FR96/00791号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、B型肝炎表面抗原はAlOOHに吸着されたままであるが、Hib抗原は吸着されないままである、水酸化酸化アルミニウムを含む混合ワクチンの調製方法を見出すことが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明の対象は、少なくとも、
− 1つのB型肝炎表面抗原(HBsAg)、
− キャリアータンパク質とコンジュゲートした莢膜多糖類からなる、1つのヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)抗原、
− 水酸化酸化アルミニウム(AlOOH)
を含む液体混合ワクチンであって、該B型肝炎表面抗原はAlOOHに吸着されたままであるが、該Hib抗原は吸着されないままである、液体混合ワクチンの調製方法であって、
− 該B型肝炎表面抗原をAlOOHに吸着させて、AlOOH/HBsAg複合体を得ること、
− 少なくとも100mg/Lの濃度の陽イオンアミノ酸および35〜45mMol/Lの濃度のリン酸イオンの存在下で、該AlOOH/HBsAg複合体をHib抗原と混合すること
を含む、方法である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法によって、B型肝炎表面抗原の水酸化酸化アルミニウムへの吸着の保持とHib抗原の非吸着の保持との所望のバランスを達成することができる。
【0010】
本発明の特定の一実施態様によると、AlOOHの懸濁液とHBsAgの懸濁液を撹拌しながら少なくとも4時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは20〜24時間混合することによって、HBsAg抗原を該アルミニウムに吸着させる。
【0011】
本発明の特定の一実施態様によると、Hib抗原との混合の前にAlOOH/HBsAg複合体に陽イオンアミノ酸を添加する。
【0012】
本発明の別の実施態様によると、AlOOH/HBsAg複合体との混合の前にHib抗原に陽イオンアミノ酸を添加する。
【0013】
本発明の一実施態様によると、Hib抗原との混合の前にAlOOH/HBsAg複合体にリン酸イオンを添加する。
【0014】
本発明の一実施態様によると、Hib抗原との混合の前に、AlOOH/HBsAg複合体を含む調製物のpHを7.1±0.1に調整する。
【0015】
本発明の態様は、また、特許請求の範囲に記載の方法に従って得られる、少なくとも、
− B型肝炎表面抗原、
− ジフテリア毒素Dの形態のジフテリア抗原、
− 破傷風毒素Tの形態の破傷風抗原、
− 精製毒素(PTxd)の形態の百日咳抗原および糸状ヘマグルチニン(FHA)の形態の百日咳抗原、
− 破傷風タンパク質とコンジュゲートしたポリリボシルリビトールリン酸の形態のヘモフィルスインフルエンザ菌b型抗原(PRP−T)、
− 1型、2型および3型の不活化ウイルスの形態のポリオ抗原
を含む混合ワクチンである。
【0016】
このようなワクチン組成物は、液体の形態であり、それによって、凍結乾燥品を溶解する操作を回避するという利点を有している;使用する日まで、製造日から36か月後であっても、免疫原性を維持するのに十分なほど安定であることが立証された。
【0017】
本発明によると、当該ワクチン組成物は、B型肝炎表面抗原(HBsAg)を含んでいる。この抗原は、特に、Recombivax HBTMワクチンまたは他の何れかのB型肝炎ワクチン中に含まれているようなB型肝炎表面抗原であり得る。特に、それは、Hepavax−GeneTMワクチン中に含まれているような、Crucellによって開発された技術に従って修飾されたハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)酵母の醗酵によって得られる組換え抗原であり得る。本発明の目的のために、0.5mL用量中に含まれるHBsAgの量は、有利には、5〜15μg、特に10μgである。
【0018】
本発明によると、当該ワクチン組成物は、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)抗原を含む。この抗原は、キャリアータンパク質とコンジュゲートしている、該細菌の莢膜多糖類またはポリリボシルリビトールリン酸(PRP)からなる。該キャリアータンパク質は、ワクチンの分野でこの点において使用されているいずれかのタンパク質であり得る。例えば、ジフテリア毒素D、破傷風毒素T、インフルエンザ菌リポタンパク質D、CRM197または髄膜炎菌(N. meningitidis)外膜タンパク質(OMP)であり得る。PRP−Tコンジュゲートを得るためには好ましくは破傷風タンパク質が使用される。本発明のために、PRP−Tコンジュゲートは、破傷風タンパク質22〜36μgとコンジュゲートした、用量0.5mLあたりPRP 1〜30μgの割合で、有利には、用量あたりPRP 5〜25μgの割合で、好ましくは用量あたりPRP 10〜15μgの割合で、好ましくは用量あたりPRP 10〜12μgの割合で、特にPRP 12μgの割合で存在し得る。
【0019】
本発明によると、当該ワクチン組成物は、水酸化酸化アルミニウムAlOOHを含む。このアルミニウム塩は、ごく一般的に、間違って水酸化アルミニウムと称されている。本発明に使用することができるAlOOHは、例えばBrenntag AGが販売しているAlOOH塩、またはReheis Corp.(Berkeley Heights、NJ)が提供しているRehydragel HPAであり得るが、この2種類のアジュバントのそれぞれの製造方法は異なる。使用されるAlOOHの量は、満足のいく免疫応答が達成されるように算出される;組成物中に含まれる抗原の数および性質に特に依存し、これらの抗原のそれぞれの量にも依存する。
【0020】
単なる情報として記載するが、HBsAgのAlOOHへの最大吸着量は、アルミニウム1mg(慣例的には、AlOOHの量は、アルミニウムAl3+の量として表される)あたりタンパク質約780μgである。かくして、HBsAg 10μgを含有し、さらなる他の抗原を含有しないワクチンについて、アルミニウムは13μgで十分であるが、これは、他の抗原が添加される場合に所望の効力を得るのには不十分な量である。かくして、1種以上のさらなる抗原の添加に応じて、HBsAg 10μgを、欧州薬局方が推奨する最大量である0.01mg〜1.25mgのアルミニウムと接触させることができる。
【0021】
例えば、ジフテリア、破傷風、百日咳およびB型肝炎抗原を含む0.5mL用量の小児用ワクチンは、慣例的に、アルミニウム0.5〜0.7mg、好ましくはアルミニウム約0.6mgを含有することができる。
【0022】
本発明によると、B型肝炎表面抗原は、AlOOHに吸着されたままであり、これは、当該組成物中に含まれるこの抗原の総量の少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましく少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%が吸着形態で存在することを意味している。
【0023】
本発明によると、Hib抗原は、AlOOHに吸着されないままであり、これは、当該組成物中に含まれるこの抗原の総量の少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%が非吸着形態で存在することを意味している。
【0024】
本発明によると、B型肝炎表面抗原がAlOOHに吸着されたままであり、かつ、Hib抗原が吸着されないままである期間は、貯蔵温度が5±3℃である場合、該組成物を製造した日から少なくとも3か月間、好ましくは少なくとも6か月間、好ましくは少なくとも12か月間、好ましくは少なくとも18か月間、好ましくは少なくとも24か月間、より好ましくは少なくとも36か月間である。好ましくは、吸着された抗原の量または吸着されていない抗原の量は、経時的に安定しているが、許容できる範囲内にとどまるならば、変化してもよい。かくして、組成物中に含まれるHBsAgの総量の少なくとも85%が、5±3℃の温度で貯蔵された組成物の製造日から3か月間、AlOOHに吸着されている場合、同条件下で1年後に、組成物中に含まれるHBsAgの総量の80%が吸着されたままであることは全く可能である。
【0025】
吸着された抗原の量を評価するためには、当業者であればいずれかの公知方法を使用することができる。
【0026】
HBsAgの吸着の割合の決定に関して、欧州薬局方2.7.1によって定められた規則に従ってサンドイッチELISA法を使用することができる。すなわち、HBsAgを96ウェルプレート中にてIgM型の抗HBsAg一次モノクローナル抗体によって捕捉する。このようにして結合したHBsAgに、自身がペルオキシダーゼ結合抗IgGポリクローナル抗体によって検出されるIgG型の抗HBsAg二次モノクローナル抗体を塗布する。ペルオキシダーゼに対する発色基質であるテトラメチルベンジジン(TMB)は、現像主薬として作用する。それが添加されると、発色し、その強度は、ウェル中で捕捉されたHBsAgの量に比例する。結果を、欧州薬局方5.3.3に記載されている平行線法に従って解析する。吸着の割合は、総HBsAg含有量および非吸着HBsAg含有量の測定から得られる。
【0027】
非吸着PRP−Tの量に関して、評価は、HPAEC−PAD(高速イオン交換クロマトグラフィー−パルスアンペロメトリック検出)によって行うことができる。
【0028】
本発明の方法によると、B型肝炎表面抗原は、AlOOHに吸着される。この工程は、AlOOH/HBsAg複合体を含有する調製物を得るために、B型肝炎表面抗原およびAlOOHを他の抗原の不在下で接触させ、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは20〜24時間、B型肝炎表面抗原をAlOOHに吸着させることによって行うことができる。この吸着は、本発明に従って、リン酸イオンの不在下で行うことができる。B型肝炎表面抗原とAlOOHとの長時間の接触は、静電相互作用の最大化および安定な相互作用の促進を目的としており、かくして、リガンド交換によって吸着をもたらすことができる。この接触は、有利には、撹拌しながら続けられる。
【0029】
本発明の方法によると、AlOOH/HBsAg複合体は、陽イオンアミノ酸およびリン酸イオンの存在下にてHib抗原と混合される。
【0030】
本発明の目的として、「陽イオンアミノ酸」とは、ワクチン組成物のpHよりも高いpHiを有しており、したがって、ワクチンのpHでは陽イオン形態で存在するであろう、アミノ酸を意味するものである;特に、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)またはヒスチジン(His)である;これらのアミノ酸は、各々、単独で、または二つ一組の混合物(Lys+Arg;Lys+His;Arg+His)もしくは3つ全部を一緒にした混合物(Lys+Arg+His)として使用することができる。特定の一実施態様によると、陽イオンアミノ酸は、ジペプチド形態で会合され得る。特に、下記のジペプチドが挙げられる:Lys−Lys、Lys−Arg、Lys−His、Arg−Arg、Arg−Lys、Arg−His、His−His、His−LysおよびHis−Arg。別法として、本発明の目的に用いられるジペプチドは、陽イオンアミノ酸と、Ala、Val、Leu、Iso、Pro、Met、Phe、Trp、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、AspおよびGlnから選択される非荷電アミノ酸で構成され得る。かくして、実際には、遊離形態および/またはジペプチド形態の陽イオンアミノ酸を1つ以上含有する調製物を使用することができる。所望の量の陽イオンアミノ酸を他のアミノ酸との混合物として含むアミノ酸調製物を使用することもできる。アミノ酸添加中にpHをあまり低下させないために、AlOOH/HBsAg複合体に添加する前に、塩基、特に水酸化ナトリウムによって、該アミノ酸を含む調製物のpHを上昇させることを考えることができる。
【0031】
本発明によると、ワクチン組成物に最終的に含まれる陽イオンアミノ酸の量は、少なくとも100mg/L、有利には少なくとも300mg/L、有利には少なくとも400mg/L、好ましくは少なくとも500mg/Lである。臨界的な最大投与量はない。しかしながら、最大量は、好ましくは最大で2mg/mL、より好ましくは最大で1mg/mL、より好ましくは最大で800μg/mL、好ましくは最大で700μg/mLである。添加されるべき陽イオンアミノ酸の量を算出する場合、HBsAgおよびHib抗原以外の抗原が含まれる媒体によって導入され得る陽イオンアミノ酸を考慮すべきである。
【0032】
当該方法の一代替法によると、Hib莢膜多糖類の重量に対する陽イオンアミノ酸の量を決定することができ、また、1:4〜1:100、有利には1:10〜1:80、好ましくは1:15〜1:60、または特に好ましくは1:20〜1:30もしくは40のHib多糖類/陽イオンアミノ酸重量比を提供することができる。
【0033】
本発明の方法によると、AlOOH/HBsAg複合体は、陽イオンアミノ酸の存在下であるがリン酸イオンの存在下でも、Hib抗原と混合される。本発明の一実施態様によると、リン酸イオンは、AlOOH/HBsAg複合体をHib抗原と接触させる前に該複合体に添加される。リン酸イオンは、例えば、リン酸水素ナトリウムもしくはリン酸水素カリウムまたはこれらの混合物を添加することによって導入され得る。リン酸イオンの量は、B型肝炎表面抗原の最大量がAlOOHに吸着されたままであるが同時にHib抗原の吸着を回避するように算出される。この量は、含まれる抗原の性質および数に応じて、また、特にHBsAgおよびHib抗原以外の抗原に応じて、変わる。
【0034】
かくして、小児用ワクチンにおいて通常使用される抗原、すなわち、HBsAgおよびHib抗原に加えてジフテリア抗原、破傷風抗原および百日咳抗原を含む混合ワクチンについて、最終的に得られるワクチン組成物中のリン酸イオン濃度が少なくとも35mMol/L、より詳しくは35〜45mMol/L(境界を含む)、好ましくは38〜44mMol/L(境界を含む)、好ましくは38〜42mMol/L(境界を含む)となるようにリン酸イオンを添加するのが有利である。好ましい一実施態様によると、最終的に得られるワクチン組成物中のリン酸イオン濃度は、40mMol/Lである。
【0035】
別の実施態様によると、リン酸イオンは、35〜38mMol/L(境界を含む)の最終濃度でワクチン組成物中に含まれるような量で添加される。これは、炭酸イオンの添加によっても達成されるが、実際、過剰量の炭酸イオンが望ましくないことが分かっているので、その量は限定される。別法として、それらは、10mMol/L以下の最終濃度でワクチン組成物中に含まれるような量で添加され得る。
【0036】
HBsAgの安定性を損ない、その脱着を促進する可能性がある過剰なイオン衝撃を回避するために、いくつか(例えば、2つ)の異なる操作(工程)でリン酸イオンを添加することが推奨される。かくして、リン酸イオンは、第1の操作で20〜30mMol/L(境界を含む)の最終濃度を達成することができる量を添加し;次いで、第2の操作で、上記で特定したような最終濃度を達成することができる量を添加することができる。
【0037】
本発明の方法の好ましい一実施態様によると、得られた調製物のpHは、Hib抗原をAlOOH/HBsAg複合体と混合する前に、さらに7.1±0.1に調整される。実際、このようなpH値は、Hib抗原を非吸着状態に保持することに対してプラスの効果を及ぼす。
【0038】
特定の一実施態様によると、該pHは、混合フェーズの後に、さらに7.1±0.1に調整される。
【0039】
かくして、本発明の方法によって、
(i)当該組成物中に含まれるB型肝炎表面抗原の総量の少なくとも60%または80%、好ましくは少なくとも85%が、5±3℃の温度で貯蔵された当該組成物の製造日から少なくとも3か月間、AlOOHに吸着されており;
(ii)該組成物中に含まれるHib抗原の総量の少なくとも65%、70%または75%が、AlOOHに吸着されていない、
ワクチン組成物を得ることができる。
【0040】
「AlOOH/HBsAg複合体」という表現は、複合体が、少なくとも、AlOOHに吸着されたHBsAg抗原を含むことを意味すると解釈される。該複合体は、特定されているか否かにかかわらず他の抗原を含み得る。
【0041】
1つ以上のさらなる抗原が、さらに、該複合体を形成するようになり得る。それらは、特に、ジフテリアトキソイド(D)抗原、破傷風トキソイド(T)抗原、無菌性百日咳抗原、例えば、百日咳菌(Bordetella pertussis)解毒トキシン(PTxd)、同細菌の糸状ヘマグルチニン(FHA)、パータクチン(69kDa抗原)および凝集原(線毛)であり得る。特に有利な一実施態様によると、当該複合体を形成するために、D、T、PTxdおよびFHA抗原を添加することができる。
【0042】
これらのさらなる抗原は、種々の方法で添加することができる。それらは、(i)ワクチン組成物に含まれる必要がある総量のAlOOH;または(ii)総量に達するように続いて添加される部分量のAlOOHのいずれかに予め吸着しているB型肝炎表面抗原に続いて逐次的に添加され得る。別法として、これらのさらなる抗原は、それぞれ別々に、HBsAgと同様に、部分量のAlOOHに吸着され得る。いくつかの抗原が別々に吸着され、残りが逐次的に吸着される混合吸着法も提供され得る。
【0043】
本発明の方法の特定の一実施態様によると、得られる組成物は、各抗原の添加の後に撹拌される。
【0044】
有利な一実施態様によると、一例に過ぎないが、HBsAgは、最終組成物中に含まれるAlOOHの総量の約30%(三分の一)に相当する部分量のAlOOHに別々に吸着される。並行して、D抗原およびT抗原は、さらなるAlOOHに逐次的に吸着される。次いで、PTxd百日咳抗原およびFHA百日咳抗原は、自体、AlOOHに個別に予備吸着されており、AlOOH−D−T複合体を含有する調製物に添加される。最後に、2つの調製物(AlOOH−HBsAg複合体とAlOOH−D−T−PTxd−FHA複合体)を合わせて、慣例的に、
− 1用量あたり5〜15μgのHBsAg;好ましくは1用量あたり10μgのHBsAg、
− 1用量あたり20〜40LfのD;好ましくは1用量あたり25〜35LfのD;好ましくは1用量あたり30LfのD(Lf=フロキュレーションの限界)(別の方法で表現すると、Dの量は、1用量あたり20IU以上である)、
− 1用量あたり5〜25LfのT;好ましくは1用量あたり10〜15LfのT;好ましくは1用量あたり10LfのT(別の方法で表現すると、Tの量は、1用量あたり40IU以上である)、
− 1用量あたり20〜30μgのFHA;好ましくは1用量あたり25μgのFHA、
− 1用量あたり20〜30μgのPTxd;好ましくは1用量あたり25μgのPTxd
を含むワクチン用量0.5mLを得るように各成分の量が選択された、AlOOH−HBsAg−D−T−PTxd−FHAを含む調製物を形成する。
【0045】
本発明の特定の一実施態様によると、慣例的には不活化ウイルスからなるポリオ抗原も、添加される。小児用ワクチン中に通常含まれる3種類の、すなわち、1型、2型もしくは3型のポリオウイルスを添加すること、または、これら3種類に対してワクチン接種する必要がない場合には保護を求める種類だけを導入することを考えることができる。1用量あたりのポリオウイルスの量は、特に、
− 1型については、20〜43DU(D抗原単位)、特に40DU、
− 2型については、5〜9DU、特に8DU、
− 3型については、17〜36DU、特に32DU
であり得る。
【0046】
これらの抗原は、必ずしも、ワクチン調製物に加えられる前にアルミニウム塩に予め吸着しているわけではない。
【0047】
特定の一実施態様によると、本発明の方法は、
(i)(a)HBsAgとAlOOHを他の抗原の不在下で接触させ、HBsAgを少なくとも4時間、好ましくは少なくとも12時間、好ましくは約24時間AlOOHに吸着させ、その結果、AlOOH/HBsAg複合体を含有する調製物を得ること;
(i)(b)上記(i)(a)で得られる調製物に、AlOOHに予め吸着している、D抗原、T抗原、PTxd抗原およびFHA抗原を含んでおり、さらにパータクチンおよび凝集原のような百日咳菌抗原を含んでいてもよい、調製物を加えること;
(ii)上記(i)(b)で得られる調製物にリン酸イオンを加えて、40mMol/Lのワクチン中最終濃度を得ること;
(iii)上記(ii)で得られる調製物に、ポリオ抗原を加えてもよいこと;
(iv)上記(ii)または(iii)で得られる調製物に、Hib抗原を含有する調製物を加えること;
(v)pHを7.1±0.1に調整すること;および
(vi)(a)Hib抗原の添加前に、少なくとも1種類の陽イオンアミノ酸を加えて、上記(ii)または(iii)で得られる調製物を完成すること、または
(b)Hib抗原に少なくとも1種類の陽イオンアミノ酸を加えること
を含む方法であって、該陽イオンアミノ酸が、少なくとも100mg/Lのワクチン中最終濃度を得るのに十分な量で添加される、方法である。
【0048】
特定の一実施態様によると、本発明のワクチン組成物は、AlOOHに予め吸着している、HBsAg、ジフテリア毒素D、破傷風毒素T、PTxdおよびFHA百日咳抗原、ならびにHib抗原を含んでおり、さらにポリオ抗体価を含んでいてもよい、組成物であり、
(i)当該組成物中に含まれるHBsAgの総量の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%が、5±3℃の温度で貯蔵された当該組成物の製造日から少なくとも3か月間、AlOOHに吸着されたままであり;
(ii)当該組成物中に含まれるHib抗原の総量の少なくとも65%、70%または好ましくは75%が、AlOOHに吸着されておらず、この量は経時的に相対的に安定なままである、
組成物である。
【0049】
さらに、本発明の方法により、免疫原性となるように水酸化酸化アルミニウムに吸着されるのが有利であることが示されたHBsAg以外の抗原もまた吸着されたままである。
【0050】
かくして、例えば、本発明の組成物は、
− HBsAg 10〜30μg/mL;好ましくは、20μg/mL;
− D 40〜80Lf/mL、好ましくは50〜70Lf/mL;
− T 10〜50Lf/mL、好ましくは10〜30Lf/mL;
− FHA 40〜60μg/mL;好ましくは50μg/mL;
− PTxd 40〜60μg/mL;好ましくは50μg/mL;
− PRP 2〜60μg/mL;好ましくは20〜24μg/mL;
− AlOOH 1〜2mg/mL;好ましくはAlOOH 1.2mg/mL;
− 35〜45mMol/Lの濃度のリン酸イオン、好ましくは38〜42mMol/Lのリン酸イオン;
− 100〜1000μg/mLの陽イオンアミノ酸、好ましくは400〜800μg/mL;および任意に
− それぞれ80、16および64DU/mLの1型、2型および3型の不活化ウイルスの形態のポリオウイルス
を含むことができる。
【0051】
上記したように、本発明の組成物は、パータクチン(69kDa)または凝集原のようなさらなる百日咳菌抗原を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、各成分の添加後に混合が行われる従来技術の方法のスキームである。
【実施例】
【0053】
実施例 − HepB−Dt−Tt−百日咳−ポリオ−HiB六価ワクチンのバルク(250L)の工業規模製造
この製造は、滅菌条件下で連続的に撹拌しながら行われる。
【0054】
A − AlOOHに吸着されたHBsAgの調製
Brenntag AGによって販売されている水酸化酸化アルミニウム(AlOOH)ゲルの均質懸濁液(アルミニウム8g/L)を50Lタンクに無菌的に導入する。
最終ワクチン中20μg/mLの濃度を得るために必要な量のHBsAgを、0.22μmフィルターで濾過した後、すでにAlOOHを含有している上記タンクに加える。
混合物を周囲温度で20〜24時間撹拌して、均質懸濁液を得る。
【0055】
B − アルミニウムゲルに吸着されたD+T+PTxd+FHAの調製
並行して、アルミニウムゲル、ジフテリアトキソイド(D)、破傷風トキソイド(T)、百日咳菌トキソイド(PTxd)および百日咳菌糸状ヘマグルチニン(FHA)の混合物を下記の方法で調製する:
Brenntag AGによって販売されているAlOOHゲルの均質懸濁液(アルミニウム8g/L)を250Lタンクに無菌的に導入する。
Dの溶液、次いで、均質化後にTの溶液を、0.22μmフィルターで濾過した後、すでにAlOOHを入れた上記250Lタンクに連続的に加えて、それぞれ最終ワクチン中60Lf(フロキュレーションの限界)/mLおよび20Lf/mLのD濃度およびT濃度を得る。
均質混合物が得られたらすぐに、このタンクに、AlOOHに予め吸着されたPTxdの懸濁液、次いで、AlOOHに予め吸着されたFHAの懸濁液を連続して無菌的に添加して、最終ワクチン中25μg/mLのPTxd濃度およびFHA濃度を得る。
最後に、20〜30mMol/Lのリン酸イオン濃度を得るために必要な量の500mMリン酸緩衝液を、0.22μmフィルターで濾過した後に加える。
得られたD−T−PTxd−FHA−AlOOH懸濁液を5±3℃の温度で少なくとも14時間撹拌する。
【0056】
C − アルミニウムゲルに吸着されたHBsAg+D+T+PTxd+FHA混合物の調製
上記Aで得られた調製物を上記Bで得られた調製物に無菌的に加える。
この混合物を撹拌して、均質懸濁液を得る。
次いで、最終組成物中40mMol/Lのリン酸イオン濃度を得るために必要な量の500mMリン酸緩衝液を、0.22μmフィルターで濾過した後に加える。
【0057】
D − アルミニウムゲル/HBsAg+D+T+PTxd+FHA複合体の静電的部位のアミノ酸の溶液による飽和
下記の組成を有する、12種類の必須アミノ酸を含有するアミノ酸溶液を調製する:
【表1】
すなわち、陽イオンアミノ酸(His−Arg−Lys)5.44g/Lを含むアミノ酸21.2g/Lである。
2.5N水酸化ナトリウム(NaOH)450mlを添加する(0.5L/分)。10分間撹拌しながら均質化を続ける。
このアミノ酸溶液を0.22μmフィルターで濾過し、これを上記Cで得られた混合物に引き続き加えて、最終組成物中572μg/mLの濃度の陽イオンアミノ酸を得る。
【0058】
E − pH調整
上記Dで得られた懸濁液のpHを、2.5Nの水酸化ナトリウム濾過貯蔵溶液を使用してpH7.1(7.0〜7.2)に調整する。
【0059】
F − ポリオ抗原の添加
不活化形態のポリオウイルス血清型1、2および3を含有する調製物(それぞれMahoney株、MEF−1株およびSaukett株)を0.22μmフィルターで濾過し、これを、次いで、上記Eで得られた懸濁液を入れたタンク中に導入する。
【0060】
G − PRP−Tの添加
まず、PRP−Tの中間溶液を以下の方法で調製する: 予め0.22μmフィルターで濾過したトリス−シュークロース緩衝液を、0.22μmフィルターで濾過したPRP−T調製物に添加して、中間混合物を調製する。
この混合物を、上記Fで得られた混合物に無菌的に導入する。
【0061】
H − 最終調整相
上記Gで得られた懸濁液を均質化した後、目標体積250Lに達するために十分な量の予め濾過した注射用水を添加する。次いで、必要に応じて、予め濾過した2.5N水酸化ナトリウムまたは10%酢酸溶液を添加して該混合物のpHをpH7.1±0.1に調整する。
該混合物を5±3℃で貯蔵し、次いで1用量あたり0.5mlの割合で注射器またはビンに分注する。
かくして、1用量0.5mlは、Al3+ 600μg、HBsAg 10μg、D 20IU以上、T 40IU以上、Pt 25μg、FHA 25μg、1型ポリオ20〜43DU(D抗原単位)、2型ポリオ5〜9DU、3型ポリオ17〜36DU、PRP(PRP−Tの形態)12μg、40mMol/Lの濃度のリン酸イオン、トリスの濃度2.5mMol/Lおよびシュークロースの濃度2.125%のトリス−シュークロース緩衝液、ならびに陽イオンアミノ酸(His−Arg−Lys)286μgを含有する。
【0062】
臨床試験
上記実施例に従って調製されたワクチン組成物を、Infanrix HexaTMと称されているすでに市販されている六価ワクチンと比較して、臨床試験した。この市販の六価ワクチンは、本発明に従って調製されたワクチンと同一の疾患(ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、Hib感染およびB型肝炎)に対して小児にワクチン接種することができるが、その一部が凍結乾燥されているので投与前に凍結乾燥品を溶解する操作を要するという欠点を有する。
臨床試験の間、2か月目、4か月目および6か月目に投与する3回投与からなるワクチン計画で、2種類のワクチン組成物を小児に投与した。本発明の方法に従って調製された液体ワクチンは、非常に十分な忍容性を示し、かつ、市販のワクチンと同程度の免疫原性を示すことが判明した。
【0063】
実験データ
HBsAgの吸着率/吸着していないPRP−Tの量
最終バルク生成物の3つのバッチ(PFV39−41−42)およびビンに分注した3つのバッチ(S12−13−14)[これらのバッチは全て上記実施例に従って得られた]を+5℃で貯蔵し、それぞれ、9か月間および22か月間にわたって様々な時点で分析した。分析は、HBsAgの吸着率および吸着していないPRP−Tの量に関するものであった。
HBsAgの吸着率は、上記のように、HBsAgの総含有量および吸着していないHBsAgの含有量から決定され、HBsAgの決定は、欧州薬局方2.7.1によって定められた規則に従って、サンドイッチELISA法を用いて行われた。すなわち、96ウェルプレート中にてHBsAgをIgM型の抗HBsAg一次モノクローナル抗体によって捕捉した。このようにして結合したHBsAgを、自身がペルオキシダーゼ結合抗IgGポリクローナル抗体によって検出されるIgG型の抗HBsAg二次モノクローナル抗体でコーティングした。ペルオキシダーゼに対する発色基質であるテトラメチルベンジジン(TMB)を現像主薬として用いた。この現像主薬を添加すると発色し、その強度は、ウェル中で捕捉されているHBsAgの量に比例した。この結果を、欧州薬局方5.3.3に記載の平行線法に従って分析した。
HBsAgの吸着率を決定するために、該ワクチンを遠心分離し(8800g;5分;20℃)、吸着していないHBsAgを含有する上清を回収することができた。試験しようとする上清のサンプルを、脱着緩衝液を含むELISA緩衝液で、2倍段階希釈法で、例えば1/400〜1/12800の範囲で、希釈した。
全ワクチンおよび標準レンジサンプルを、脱着緩衝液を含むELISA緩衝液で、2倍段階希釈法で、1/8〜1/25600の範囲で、希釈した。
一次モノクローナル抗体でコーティングした96ウェルプレートを5℃で12時間インキュベートし、次いで、PBS−Tween20溶液で洗浄した。全ワクチンおよび標準レンジの上清の希釈液をウェルに分配した。次いで、二次抗体を添加し、ペルオキシダーゼ結合抗体およびTMB(テトラメチルベンジジン)で現像を行った。1N HClの添加によって、この反応を停止した。各工程の後に、プレートを25℃で30分間インキュベートし、次いで、PBS−Tween20溶液で洗浄した。利用可能なウェルにブランク(希釈緩衝液)を添加し、同じ処理を行った。プレートをOD 450nmおよび630nmで読み取った。
吸着していないPRP−Tの量は、下記の方法で、HPAEC−PAD(高速アニオン交換クロマトグラフィー−アンペロメトリック電気化学検出法)によって評価した:
まず、0.5〜12.5μg/mLの標準レンジの参照PRP−Tを調製した。
試験しようとしているサンプルおよび標準レンジサンプルを周囲温度にて5000gで5分間遠心分離した。上清を回収し、次いで、内部標準としてグルコサミン−1−リン酸を含有する1.5N NaCl溶液で加水分解した。ブランク(0.9%NaCl;1.5N NaOH+内部標準)を添加した。
35mM NaOHおよび114mM酢酸ナトリウムからなる移動相をカラムに1.2ml/分の速度で注入して用いてクロマトグラフィー処理を行った。
吸着していないPRPの濃度(μg/mL)を下記の式を用いて算出した:
(PRPピークの表面積/内部標準ピークの表面積)=a×[PRP濃度]+b
式中、「a」は傾きであり、「b」はy軸の切片であり、aおよびbは回帰線から決定される。
【0064】
結果を下記の4つの表に示す:
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
比較のために、同一抗原からなる液体製剤であるが、図1に記載の一次的処方方法に従って得られていて、上記の実施例に記載のものとは異なる製剤の最終バルク生成物の3つのバッチ(FDN5−6−7)およびビンに分注した3つのバッチ(S44−45−46)に含まれるHBsAgの経時的吸着を試験した。この調製物は、0.5ml中にHBsAg 10μg、Dt 30Lf、Tt 10Lf、Pt 25μg、FHA 25μg、1型ポリオウイルス40DU、2型ポリオウイルス8DU、3型ポリオウイルス32DU、PRP(PRP−Tの形態)12μg、Al 0.6mg、55mMol/Lの濃度のリン酸イオン、20mMol/Lの濃度の炭酸イオン、トリスの濃度2.5mMol/Lおよびシュークロースの濃度2.125%のトリス−シュークロース緩衝液、ならびにM199培地(ポリオ抗体価)由来の陽イオンアミノ酸(His−Arg−Lys)14μgを含むものであった(pH 6.8〜7.2)。
【0070】
得られた結果は、下記のとおりであった:
【0071】
【表6】
【0072】
【表7】
【0073】
同一の期間にわたって測定した吸着していないPRP−Tの量は、0時と比べてあまり変化がないことを示したので、十分なものであった。しかしながら、これらの結果は、本発明の方法によって得られた処方物に相当しないこのケースにおいて、B型肝炎表面抗原が水酸化酸化アルミニウムに吸着されたままではなかったことを示している。
【0074】
陽イオンアミノ酸に関する実験データ
最後に、上記の実施例で行われた実験プロトコールから直接得られた本発明の組成物と、3種類の陽イオンアミノ酸(Arg−Lys−His)だけを含有する組成物の代わりに12種類の必須アミノ酸の組成物を用いる点で変更されたプロトコールによって得られた組成物を、吸着していないPRP−Tの量に関して比較した。吸着していないPRP−Tの量に違いは見られず、それによって、陽イオンアミノ酸だけが重要であることが示された。
図1