【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、
−ディテクタサークルにさらに結合される補償モータであって、ゴニオメータ軸に関するトルクをディテクタサークルに及ぼす補償モータと、
−前記補償モータの制御デバイスであって、補償モータによって及ぼされるトルクが、ディテクタ構成を含むディテクタサークルの重量によって生じる、ゴニオメータ軸に関するトルクに少なくとも実質的に等しく且つ逆向きであるように、ディテクタ構成の現在の位置に応じて補償モータを動作させるように具体化される制御デバイスと
を補償装置が備えることを特徴とする、上記で説明されているタイプのX線装置によって驚くほど単純に効果的な手法で実現される。
【0011】
本発明は、ディテクタサークルにおいて2つのモータ、すなわち、アクチュエータ及び補償モータを関与させることを提案する。アクチュエータを用いて、ディテクタサークルを所望の各回転位置に配置してその位置で維持する。重量によって生じるディテクタ構成のトルク(可能であれば、ディテクタサークルに取り付けられた別の部品のトルクも)を補償するために、カウンタウエイトのような他の手段によって未だ補償されていない場合に、補償モータを用いて追加トルクをディテクタサークルに及ぼす。
【0012】
したがって、アクチュエータがX線測定(典型的には回折測定)の範囲に接近しようとするか、X線測定の範囲にディテクタサークルの回転位置を維持しようとする場合に、補償モータにより確実にディテクタサークルのトルクがほぼなくなる。この結果、アクチュエータの疲労が低減される。さらに、弾性そりが低減されるので、アクチュエータの調節正確度が改善される。
【0013】
制御デバイスは、制御デバイスに認識されているディテクタ構成の現在の位置から、補償モータに適するトルク(又は、たとえば動作電流などの補償モータの被制御変数の関連値)を決定する。
【0014】
ディテクタ構成の位置は1つ以上の位置変数によって記述される。適切なトルクを決定する場合、1つ以上の位置変数によって計算を実行することが可能であり、可能でない場合は、あらかじめ記憶した値テーブル(値マトリックスでもよい)又は特性(特性領域でもよい)を読み出すか、適用することができる。また、通常、制御デバイスが、ディテクタ構成用のその専用の制御コマンドからディテクタ構成の位置を少なくとも部分的に認識するように、制御デバイスはX線測定のためにアクチュエータを動作させる(さらに1つ以上のさらなるアクチュエータも動作させてもよい)。必要であれば、ディテクタ構成の位置又は位置変数を決定する1つ以上のセンサを設けることもできる。適切なトルクを決定する場合に判断に入れられるディテクタ構成の典型的位置変数は、角度Θ(シータ。ゴニオメータ軸に対する回転位置)、角度Γ(ガンマ。同一平面軸に対する回転位置。)及び/又はサンプル位置に対する距離ABである。ディテクタ構成の位置変数は典型的には、放射X線の検出位置、たとえばX線ディテクタの入射開口に関するものである。これの代わりに、たとえば、ディテクタ構成の重心に関するものとすることもできる。ディテクタ構成の位置に関する情報は、ディテクタ構成又はX線ディテクタを整列させる(align)補助機構のセッティングに関する情報も含んでもよい。
【0015】
原則として、適切なトルクは、ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品、特に、ディテクタ構成及び任意のカウンタウエイトを含む)の重心のゴニオメータ軸からの水平距離、ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品を含む)の質量及び重力加速度から導かれる。ディテクタサークル(の全体)の重心の位置はディテクタ構成の現在の位置の関数であり、したがって、(ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品を含む)が別段知られる構造を持つ場合)決定可能なものでもあり、制御のための判断に入れることができる。しかし、実験によってディテクタ構成の夫々の位置に属する適切なトルクを確認してこれらを記憶することもできる。
【0016】
本発明の範囲においては、ディテクタサークル(の全体)の重心の位置を厳密に決定せずに、補償モータを近似値によって制御することができ、これにより、制御が単純化され、十分に、非常に優れたトルク補正が容易に行なわれる。例えば、有用な近似は、ディテクタ構成の重心が検出位置(X線ディテクタの入射開口)にあるとの仮定に基づく。したがって、X線測定に用いられて検出位置の位置を表す変数(たとえばΘ、Γ及びAB)は、重量に起因するトルクに実際に関係するディテクタ構成の重心の位置を表すものであるかのように用いられる。
【0017】
本発明を用いれば、概して、ディテクタサークル(の全体)の重量に起因するゴニオメータ軸に関するトルクの大きさを少なくとも80%減少させることができ、通常少なくとも95%も減少させることができる。典型的には、補償は、残留トルクの意図した間隔内でアクチュエータが動作することができるようなものである。その間隔内では、アクチュエータに無視できない調節誤差がある状態には至っていない(「プラトー領域」)。原則として、補償モータはX線装置又はゴニオメータの使用中に継続的に動作する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態
X線装置の有効な実施形態では、ディテクタ構成が同一平面軸周りに回転可能にディテクタサークルに取り付けられ、同一平面軸がゴニオメータ軸に直交して延び、サンプル位置でゴニオメータ軸と交差することが実現される。立体角範囲を増やすために、サンプルのX線回折測定で同一平面軸周りのX線ディテクタの回動(角度Γ)が多くの場合用いられる。これはディテクタサークルへのトルクの顕著な変化をともなうので、本発明の範囲内において、この回動を判断に入れることによって、確実にゴニオメータ及びアクチュエータの荷重が特に極めて小さくなる。本発明の範囲内において、ディテクタ構成の他の自由度又はさらなる自由度(調節可能性)、たとえば、ビーム軸周りのX線ディテクタの回転を判断に入れることも可能である。好ましくは、本発明の範囲内において、ディテクタ構成の少なくとも2つの自由度が判断に入れられる。
【0019】
この実施形態の好ましい発展例では、ディテクタサークルに固定される前部片持ち梁部、同一平面軸周りに回転可能に前部片持ち梁部にマウントされる後部片持ち梁部、後部片持ち梁部に取り付けられるディテクタ構成、並びに、後部片持ち梁部のモータ駆動回転のための第1のさらなるアクチュエータを備えることが実現される。同一平面軸周りにディテクタ構成を回動させるこの構造は特に単純である。
【0020】
さらに、有効な実施形態は、ガイドシステムを通じてディテクタサークルに取り付けられるディテクタ構成を有し、これにより、サンプル位置に向かって又はサンプル位置から離れるように、ガイドシステムによってディテクタ構成を変位させることができ、特に、ゴニオメータ軸に直交するように、サンプル位置と交差する変位軸に沿ってディテクタ構成を変位させることができ、また、様々な変位位置で前記ディテクタ構成をロックすることができる。変位軸(距離AB)に沿ってディテクタ構成を変位させることによって、X線測定(同じX線ディテクタによるX線測定)の空間分解能を修正することができる。ディテクタ構成を変位させる工程もディテクタサークルへのトルクの顕著な変化をともなうので、本発明の範囲内において、この回動を判断に入れることで、確実にゴニオメータ及びアクチュエータの荷重が特に極めて小さくなる。必要に応じて、ディテクタ構成をガイドシステムにおいて変位させることができるさらなるアクチュエータを設けることができる。変位位置を決定するセンサを設けることもできる。
【0021】
有効な実施形態では、ゴニオメータの線源サークルに取り付けられる線源構成を備え、線源サークルもゴニオメータ軸周りに回転可能であり、線源サークルのモータ駆動回転のために線源サークルに結合されるアクチュエータ又は第2のさらなるアクチュエータを備える。線源サークルが回転可能であるので、測定値中に線源構成及びディテクタ構成の相対的なアライメントを修正することができ、サンプルを回転させる必要がない。これはたとえば液体試料に有用である。線源サークルへのトルクを補償するために、実質的にゴニオメータ軸に対して線源構成の反対側にある1つ以上のカウンタウエイトを線源サークルに通常取り付ける。これの代わりに、又は、これに加えて、ディテクタサークルと同様に、さらなる補償モータを線源サークルに結合することもできる。
【0022】
好ましい実施形態では、補償装置は、ディテクタサークルに取り付けられ、且つ実質的にゴニオメータ軸に対してディテクタ構成の反対側にある1つ以上のカウンタウエイトをさらに備える。この結果、補償モータの荷重を小さくすることが実現できる。補償モータの適切なトルクを決定するために(特に、ディテクタサークルの重心及び全質量を決定するために)、1つ以上のカウンタウエイトを判断に入れることが必要である。カウンタウエイトについては、トルクの一部が補償されると仮定することができる。このトルクの一部はゴニオメータ軸周りの回転のみによって変化する部分である。残りの部分は別の方法で(別の方法でも)変化し得る部分であり、補償モータで補償される。
【0023】
これの代わりに、一実施形態では、カウンタウエイトを用いずに具体化される補償装置を備えることを実現することができる。この結果、X線装置全体が軽量になる。困難性や危険性があるカウンタウエイトの取り扱いが完全になくなり得る。
【0024】
好ましい実施形態では、歯付きベルトを介してシャフトを駆動する補償モータ、ピニオンを用いて検出サークルの内側歯において噛み合うシャフトを備える。この構造は特に単純であり、信頼性が高い。これの代わりに、他のタイプの結合、特に、歯付きベルトのないタイプの結合も可能である(たとえば直結駆動)。
【0025】
別の有効な実施形態では、補償モータは、減速伝動部、特に40:1以上の減速比を持つ減速伝動部を介して検出サークルに結合される。減速の結果、小型モータを用いて高い正確度で比較的大きい力をディテクタサークルに及ぼすこともできる。通常、50:1以上、特に約100:1の減速が実際には選択される。
【0026】
好ましい実施形態は、DCモータ、特にブラシレスDCモータとして具体化される補償モータを有する。被制御変数(又は測定変数)として動作電流を用いることで、生じることになるトルク(又は生じたトルク)を直接簡単にセット(又は測定)することができる。これの代わりに、たとえば、液圧又は空気圧モータシステムが考えられる。
【0027】
本発明の範囲はまた、X線装置、特に、上記の本発明に係るX線装置を動作させる方法も含み、
X線装置は以下を備える:
−ゴニオメータ軸周りに回転可能であるディテクタサークルを有するゴニオメータであって、特に、ゴニオメータ軸が水平方向に延びる、ゴニオメータと、
−ディテクタサークルに結合される、ディテクタサークルのモータ駆動回転のためのアクチュエータと、
−X線源を備える線源構成と、
−ディテクタサークルに取り付けられ、X線ディテクタを備えるディテクタ構成と、
−検査されるサンプルのサンプル位置であって、線源構成及びディテクタ構成はサンプル位置に向かって方向づけられ、特に、ゴニオメータ軸上にあるサンプル位置と、
−ディテクタサークルにさらに結合される補償モータであって、ゴニオメータ軸に関するトルクをディテクタサークルに及ぼす補償モータと、
−補償モータの制御デバイスであって、
補償モータによって及ぼされるトルクが、ディテクタ構成を含むディテクタサークルの重量によって生じる、ゴニオメータ軸に関するトルクに少なくとも実質的に等しく且つ逆向きであるように、ディテクタ構成の現在の位置に応じて補償モータを動作させる制御デバイス。
【0028】
ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品、特にディテクタ構成及び任意に選択できるカウンタウエイトを含む)の重量によって生じるトルクは、アクチュエータ用の検出サークルのトルクが常に実質的になくなるように、補償モータによって補償される。ディテクタ構成の変化し得る位置から導かれる、補償されるトルクの変化は、制御デバイスによって取得され、取得に応じて補償モータの動作中に判断に入れられる。この結果、ゴニオメータ及びアクチュエータの荷重が減少し、これによってセッティング精度が改善し且つ疲労が低減する。
【0029】
本発明に係る方法の好ましい変形例では、制御デバイスは、補償モータを制御するためにディテクタ構成の位置変数Θを判断に入れ、ここで、Θは、ゴニオメータ軸を含む第1の基準平面に対して測定される、ゴニオメータ軸に対するディテクタ構成の角度位置であって、特に、第1の基準平面は水平である。角度Θ(シータ)は多くのX線回折実験のために修正されるか、取得される。角度Θはディテクタサークルへのトルクに大きな影響を及ぼす。なお、通常ディテクタ構成はX線ビーム入射方向に対して2Θだけ傾けられる。
【0030】
この変形例の有効な発展例では、水平である第1の基準平面と、cosΘにほぼ比例する寄与分B1を持つトルクM
KMを補償モータが発生するように制御される補償モータを備える。この結果、ゴニオメータ軸周りの回動中にディテクタ構成のレバーアームを短くすることで、(通常、少なくとも20%以下の正確度、好ましくは少なくとも5%以下の正確度で)これがほぼ実現される。一般的に、M
KMは(たとえば、カウンタウエイト又は摩擦を判断に入れるために)一定のオフセットトルクC
0も持つ。
【0031】
別の好ましい変形では、制御デバイスは、補償モータを制御するためにディテクタ構成の位置変数Γを判断に入れ、ここで、Γは、同一平面軸を含む第2の基準平面に対して測定される、同一平面軸に対するディテクタ構成の角度位置であって、ここでは特に、第2の基準平面がゴニオメータ軸に直交して広がり、同一平面軸がゴニオメータ軸に直交して延び且つサンプル位置でゴニオメータ軸と交差する。角度Γ(ガンマ)も多くのX線回折実験のために修正されるか、取得される。角度Γはディテクタサークルへのトルクに大きな影響を及ぼす。
【0032】
この変形例の有効な発展例では、cosΓにほぼ比例する寄与分B2を持つトルクM
KMを補償モータが発生するように制御される補償モータを備える。この結果、同一平面軸周りの回動中にディテクタ構成のレバーアームを短くすることで、(通常、少なくとも20%以下の正確度、好ましくは少なくとも5%以下の正確度で)これがほぼ実現される。典型的には、寄与分B2は、同時にcosΘにほぼ比例する。すなわちB2〜cosΓ×cosΘである。
【0033】
さらに好ましい変形例では、制御デバイスは、補償モータを制御するためにディテクタ構成の位置変数ABを判断に入れる。ここで、ABは、サンプル位置からのディテクタ構成の距離である。距離ABは多くの場合、X線装置の空間分解能をセットするために修正される。距離ABはディテクタサークルへのトルクに大きな影響を及ぼす。
【0034】
この実施形態の有効な発展例では、ABにほぼ比例する寄与分B3を持つトルクM
KMを補償モータが発生するように制御される補償モータを備える。この結果、たとえば上記のガイドシステムによって、サンプル位置に向かって、又はサンプル位置から離れるようにディテクタ構成を変位させる際にディテクタ構成のレバーアームを短くする、又は長くすることで、(通常、少なくとも20%以下の正確度、好ましくは少なくとも5%以下の正確度で)これがほぼ実現される。典型的には、寄与分B3は、同時にcosΘに比例する。すなわちB3〜AB×cosΘであり、このようにならない場合はB3〜AB×cosΘ×cosΓである。
【0035】
さらにまた、好ましい変形例では、補償モータによってセットされるトルクM
KM又は補償モータに適用される被制御変数の値のための、値テーブル、値マトリックス、特性又は特性領域が、ディテクタ構成の1つ以上の位置変数に応じて制御デバイスに記憶され、
制御デバイスが、セットされるトルクM
KM又は被制御変数の値を決定するために、X線装置の動作中に、値テーブル、値マトリックス、特性又は特性領域を適用するか、もしくは、読み出すことが実現される。セットされるトルク又は適用される被制御変数の値は、値テーブル、値マトリックス、特性又は特性領域を用いて1つ以上の位置変数から単純且つ迅速な手法で決定することができる。ディテクタサークルの重心の位置に関してその場で検討する必要がないので、これにより、決定が単純化され、迅速化される。必要であれば、複数の値入力/複数の特性位置間において補間(特に線形補間)を行なうことができる。
【0036】
本発明のさらなる利点が記載と図面とから導かれる。さらに、本発明に係る上記の特徴と以下で説明される特徴とを、夫々これら単体で用いてもよいし、ともに任意に組み合せて用いてもよい。示され記載されている実施形態が包括的な列挙物を形成すると解するべきではなく、本発明の説明のために典型的な性質を持つと解するべきである。
【0037】
本発明は図面に図示され、典型的な実施形態に基づいてより詳細に説明される。以下図面の説明である。