特許第6356898号(P6356898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6356898ゴニオメータのディテクタサークルにおいてモータ駆動トルク補償を行なうX線装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6356898
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】ゴニオメータのディテクタサークルにおいてモータ駆動トルク補償を行なうX線装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20016 20180101AFI20180702BHJP
【FI】
   G01N23/20016
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-237978(P2017-237978)
(22)【出願日】2017年12月12日
【審査請求日】2018年4月19日
(31)【優先権主張番号】10 2016 224 940.1
(32)【優先日】2016年12月14日
(33)【優先権主張国】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513307690
【氏名又は名称】ブルーカー アーイクスエス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Bruker AXS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】トシュテン グラウ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ギアライン
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−294136(JP,A)
【文献】 特開2001−221752(JP,A)
【文献】 特開平5−223991(JP,A)
【文献】 特表平8−506899(JP,A)
【文献】 特表2000−505957(JP,A)
【文献】 欧州特許第1621873(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
−ゴニオメータ軸(8)周りに回転可能であるディテクタサークル(16)を有するゴニオメータ(7)であって、特に、前記ゴニオメータ軸(8)が水平方向に延びるゴニオメータ(7)と、
−前記ディテクタサークル(16)に結合される、前記ディテクタサークル(16)のモータ駆動回転のためのアクチュエータ(18)と、
−X線源(3)を備える線源構成(2)と、
−前記ディテクタサークル(16)に取り付けられ、X線ディテクタ(10)を備えるディテクタ構成(9)と、
−検査されるサンプルのサンプル位置(17)であって、前記線源構成(2)及び前記ディテクタ構成(9)は前記サンプル位置(17)に向かって方向づけられ、特に、前記ゴニオメータ軸(8)上にあるサンプル位置(17)と、
−前記ディテクタ構成(9)の重量によって生じるトルクを、前記ディテクタサークル(16)において、前記ゴニオメータ軸(8)に関して少なくとも実質的に補償する補償装置(19)とを備えるX線装置(1)であって、
前記補償装置(19)は、
−前記ディテクタサークル(16)に結合される補償モータ(20)であって、前記ゴニオメータ軸(8)に関するトルクを前記ディテクタサークル(16)に及ぼす補償モータ(20)と、
−前記補償モータ(20)の制御デバイス(28)であって、前記補償モータ(20)によって及ぼされる前記トルクが、前記ディテクタ構成(9)を含む前記ディテクタサークル(16)の前記重量によって生じる、前記ゴニオメータ軸(8)に関するトルクに少なくとも実質的に等しく且つ逆向きであるように、前記ディテクタ構成(9)の現在の位置に応じて前記補償モータ(20)を動作させるように具体化される制御デバイス(28)と
を備えることを特徴とするX線装置(1)。
【請求項2】
前記ディテクタ構成(9)は、同一平面軸(53)周りに回転可能に前記ディテクタサークル(16)に取り付けられ、前記同一平面軸(53)は、前記ゴニオメータ軸(8)に直交して延び、前記サンプル位置(17)で前記ゴニオメータ軸(8)と交差することを特徴とする請求項1に記載のX線装置(1)。
【請求項3】
前部片持ち梁部(51)が前記ディテクタサークル(16)に固定され、後部片持ち梁部(52)が、前記同一平面軸(53)周りに回転可能に前記前部片持ち梁部(51)にマウントされ、前記ディテクタ構成(9)は前記後部片持ち梁部(52)に取り付けられ、並びに、前記後部片持ち梁部(52)のモータ駆動回転のための第1のさらなるアクチュエータ(54)が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のX線装置(1)。
【請求項4】
前記ディテクタ構成(9)はガイドシステム(12)を介して前記ディテクタサークル(16)に取り付けられ、これにより、前記サンプル位置(17)に向かって又は前記サンプル位置(17)から離れるように、前記ガイドシステム(12)によって前記ディテクタ構成(9)を変位させることができ、特に、前記ゴニオメータ軸(8)に直交するように、前記サンプル位置(17)と交差する変位軸(13)に沿って前記ディテクタ構成(9)を変位させることができ、また、様々な変位位置で前記ディテクタ構成をロックすることができることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線装置(1)。
【請求項5】
前記線源構成(2)は前記ゴニオメータ(7)の線源サークル(6)に取り付けられ、前記線源サークルは前記ゴニオメータ軸(8)周りに回転可能であり、前記アクチュエータ(18)又は第2のさらなるアクチュエータは、前記線源サークル(6)のモータ駆動回転のために前記線源サークル(6)に結合されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のX線装置(1)。
【請求項6】
前記補償装置(19)はカウンタウエイト(21)を用いずに具体化されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のX線装置(1)。
【請求項7】
前記補償モータ(20)はDCモータ、特にブラシレスDCモータとして具体化されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のX線装置(1)。
【請求項8】
X線装置(1)、特に請求項1から7のいずれか1項に記載のX線装置(1)を操作するための方法であって、前記X線装置(1)は、
−ゴニオメータ軸(8)周りに回転可能であるディテクタサークル(16)を有するゴニオメータ(7)であって、特に、前記ゴニオメータ軸(8)が水平方向に延びるゴニオメータ(7)と、
−前記ディテクタサークル(16)に結合される、前記ディテクタサークル(16)のモータ駆動回転のためのアクチュエータ(18)と、
−X線源(3)を備える線源構成(2)と、
−前記ディテクタサークル(16)に取り付けられ、X線ディテクタ(10)を備えるディテクタ構成(9)と、
−検査されるサンプルのサンプル位置(17)であって、前記線源構成(2)及び前記ディテクタ構成(9)は前記サンプル位置(17)と整列させられており、特に、前記ゴニオメータ軸(8)上にあるサンプル位置(17)と、
−前記ディテクタサークル(16)に結合される補償モータ(20)であって、前記ゴニオメータ軸(8)に関するトルクを前記ディテクタサークル(16)に及ぼす補償モータ(20)と、
−前記補償モータ(20)の制御デバイス(28)であって、前記補償モータ(20)によって及ぼされる前記トルクが、前記ディテクタ構成(9)を含む前記ディテクタサークル(16)の前記重量によって生じる、前記ゴニオメータ軸(8)に関するトルクに少なくとも実質的に等しく且つ逆向きであるように、前記ディテクタ構成(9)の現在の位置に応じて前記補償モータ(20)を動作させる制御デバイス(28)と
を備えることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記制御デバイス(28)は、前記補償モータ(20)を制御するために前記ディテクタ構成(9)の位置変数Θを判断に入れ、ここで、Θは、前記ゴニオメータ軸(8)を含む前記第1の基準平面(RE1)に対して測定される、前記ゴニオメータ軸(8)に対する前記ディテクタ構成(9)の角度位置であって、特に、第1の基準平面(RE1)は水平であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の基準平面(RE1)は水平であり、前記補償モータ(20)は、cosΘにほぼ比例する寄与分B1を持つトルクMKMを前記補償モータ(20)が発生するように制御されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記制御デバイス(28)は、前記補償モータ(20)を制御するために前記ディテクタ構成(9)の位置変数Γを判断に入れ、ここで、Γは、前記同一平面軸(53)を含む前記第2の基準平面(RE2)に対して測定される、同一平面軸(53)に対する前記ディテクタ構成(9)の角度位置であって、ここでは特に、第2の基準平面(RE2)は前記ゴニオメータ軸(8)に直交して広がり、前記同一平面軸(53)は前記ゴニオメータ軸(8)に直交して延び且つ前記サンプル位置(17)で前記ゴニオメータ軸(8)と交差することを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記補償モータ(20)は、cosΓにほぼ比例する寄与分B2を持つトルクMKMを前記補償モータ(20)が発生するように制御されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記制御デバイス(28)は、前記補償モータ(20)を制御するために前記ディテクタ構成(9)の位置変数ABを判断に入れ、ここで、ABは、前記サンプル位置(17)からの前記ディテクタ構成(9)の距離であることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記補償モータ(20)は、ABにほぼ比例する寄与分B3を持つトルクMKMを前記補償モータ(20)が発生するように制御されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記補償モータ(20)によってセットされるトルクMKM又は前記補償モータ(20)に適用される被制御変数の値のための、値テーブル、値マトリックス、特性又は特性領域(60)は、前記ディテクタ構成(9)の1つ以上の位置変数に応じて前記制御デバイス(28)に記憶され、
前記制御デバイス(28)は、セットされる前記トルクMKM又は前記被制御変数の前記値を決定するために、前記X線装置(1)の前記動作中に、前記値テーブル、前記値マトリックス、前記特性又は前記特性領域(60)を適用するか、もしくは、読み出すことを特徴とする請求項8乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下を備えるX線装置に関する:
−ゴニオメータ軸周りに回転可能であるディテクタサークルを有するゴニオメータであって、特に、ゴニオメータ軸が水平方向に延びるゴニオメータと、
−ディテクタサークルに結合される、ディテクタサークルのモータ駆動回転のためのアクチュエータと、
−X線源を備える線源構成と、
−ディテクタサークルに取り付けられ、X線ディテクタを備えるディテクタ構成と、
−検査されるサンプルのサンプル位置であって、線源構成及びディテクタ構成はサンプル位置に向かって方向づけられ、特に、ゴニオメータ軸上にあるサンプル位置と、
−ディテクタ構成の重量によって生じるトルクを、ディテクタサークルにおいて、ゴニオメータ軸に関して少なくとも実質的に補償する補償装置。
【背景技術】
【0002】
放射X線は、サンプル、特に結晶サンプルの構造解析に多面的に用いられる。これを行なう際、特にX線回折については、多くの測定装置にゴニオメータを利用する。ゴニオメータを用いることで、特に、サンプルからの回析放射X線を様々な角度で測定するために、X線源、サンプル及びX線ディテクタのアライメントを互いに対して修正することができる。通常、ゴニオメータは、X線ディテクタが取り付けられるディテクタサークルを有し、通常、X線源が取り付けられる線源サークルも有する。ディテクタサークル及び線源サークルはゴニオメータ軸周りにモータ駆動方式で回転可能であり、さらにゴニオメータ軸上には通常サンプルが配置されている。ゴニオメータ軸は多くの場合、水平に位置合わせされている。
【0003】
X線ディテクタは極めて大きい質量を持つため、ゴニオメータ軸に対して無視できないトルクを及ぼす。ディテクタサークルの回転位置がX線測定中にアクチュエータを介してセットされる場合、ディテクタサークルの回転位置を維持するために、アクチュエータはこのトルクを補償する必要がある。このために必要とされる力により、ゴニオメータ及びアクチュエータの疲労が増大し、所望の回転位置をセットする場合の精度も低下する。対応する説明が線源サークルにあてはまる。
【0004】
特許文献1には、ディテクタサークル上のX線ディテクタに対してカウンタウエイトを配置し、線源サークル上のX線源及び線源側オプティクスに対してカウンタウエイトを配置する、XRD装置のゴニオメータの場合の実施形態が開示されている。これらカウンタウエイトは、ゴニオメータの回転構成要素に及ぶ力を最小にすることを意図するが、この力によっても回転精度が低下し、過度の疲労を招く。
【0005】
ゴニオメータの機械的負荷はカウンタウエイトを用いて低減することができるが、カウンタウエイトの調整位置は常にX線ディテクタ又はX線源の特定の位置としか適合しない。例えば、X線回折測定の分解能を修正するためにX線ディテクタの位置をゴニオメータ軸に対して修正する場合、原則として、カウンタウエイトの再調節も必要である。カウンタウエイトの調整は困難であり且つ時間を要し、さらに、調整を実行する調整者に対して負傷させる危険性をある程度はらんでいる。
【0006】
特許文献2には、2つの角度(ガンマ及びシータ)についてのX線ディテクタの調整が可能であるように、回転可能であるディテクタアームがゴニオメータのディテクタサークルに取り付けられているX線回折計が開示されている。
【0007】
特許文献3には、角度シータについて再位置決め可能であるディテクタアームを有するX線蛍光装置が記載されている。ディテクタアームの回転位置はメインモータを用いてセットされ、補助モータは回転位置の遊びを取り除く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許第1621873号明細書
【特許文献2】欧州特許第1462795号明細書
【特許文献3】特開2001−221752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に、トルクの補償がX線測定中に様々な位置にある場合においても可能であるように、ディテクタ構成の位置が変更され得る場合のゴニオメータのディテクタサークルに及ぶトルクの補償を単純化するX線装置を提供する目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、
−ディテクタサークルにさらに結合される補償モータであって、ゴニオメータ軸に関するトルクをディテクタサークルに及ぼす補償モータと、
−前記補償モータの制御デバイスであって、補償モータによって及ぼされるトルクが、ディテクタ構成を含むディテクタサークルの重量によって生じる、ゴニオメータ軸に関するトルクに少なくとも実質的に等しく且つ逆向きであるように、ディテクタ構成の現在の位置に応じて補償モータを動作させるように具体化される制御デバイスと
を補償装置が備えることを特徴とする、上記で説明されているタイプのX線装置によって驚くほど単純に効果的な手法で実現される。
【0011】
本発明は、ディテクタサークルにおいて2つのモータ、すなわち、アクチュエータ及び補償モータを関与させることを提案する。アクチュエータを用いて、ディテクタサークルを所望の各回転位置に配置してその位置で維持する。重量によって生じるディテクタ構成のトルク(可能であれば、ディテクタサークルに取り付けられた別の部品のトルクも)を補償するために、カウンタウエイトのような他の手段によって未だ補償されていない場合に、補償モータを用いて追加トルクをディテクタサークルに及ぼす。
【0012】
したがって、アクチュエータがX線測定(典型的には回折測定)の範囲に接近しようとするか、X線測定の範囲にディテクタサークルの回転位置を維持しようとする場合に、補償モータにより確実にディテクタサークルのトルクがほぼなくなる。この結果、アクチュエータの疲労が低減される。さらに、弾性そりが低減されるので、アクチュエータの調節正確度が改善される。
【0013】
制御デバイスは、制御デバイスに認識されているディテクタ構成の現在の位置から、補償モータに適するトルク(又は、たとえば動作電流などの補償モータの被制御変数の関連値)を決定する。
【0014】
ディテクタ構成の位置は1つ以上の位置変数によって記述される。適切なトルクを決定する場合、1つ以上の位置変数によって計算を実行することが可能であり、可能でない場合は、あらかじめ記憶した値テーブル(値マトリックスでもよい)又は特性(特性領域でもよい)を読み出すか、適用することができる。また、通常、制御デバイスが、ディテクタ構成用のその専用の制御コマンドからディテクタ構成の位置を少なくとも部分的に認識するように、制御デバイスはX線測定のためにアクチュエータを動作させる(さらに1つ以上のさらなるアクチュエータも動作させてもよい)。必要であれば、ディテクタ構成の位置又は位置変数を決定する1つ以上のセンサを設けることもできる。適切なトルクを決定する場合に判断に入れられるディテクタ構成の典型的位置変数は、角度Θ(シータ。ゴニオメータ軸に対する回転位置)、角度Γ(ガンマ。同一平面軸に対する回転位置。)及び/又はサンプル位置に対する距離ABである。ディテクタ構成の位置変数は典型的には、放射X線の検出位置、たとえばX線ディテクタの入射開口に関するものである。これの代わりに、たとえば、ディテクタ構成の重心に関するものとすることもできる。ディテクタ構成の位置に関する情報は、ディテクタ構成又はX線ディテクタを整列させる(align)補助機構のセッティングに関する情報も含んでもよい。
【0015】
原則として、適切なトルクは、ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品、特に、ディテクタ構成及び任意のカウンタウエイトを含む)の重心のゴニオメータ軸からの水平距離、ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品を含む)の質量及び重力加速度から導かれる。ディテクタサークル(の全体)の重心の位置はディテクタ構成の現在の位置の関数であり、したがって、(ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品を含む)が別段知られる構造を持つ場合)決定可能なものでもあり、制御のための判断に入れることができる。しかし、実験によってディテクタ構成の夫々の位置に属する適切なトルクを確認してこれらを記憶することもできる。
【0016】
本発明の範囲においては、ディテクタサークル(の全体)の重心の位置を厳密に決定せずに、補償モータを近似値によって制御することができ、これにより、制御が単純化され、十分に、非常に優れたトルク補正が容易に行なわれる。例えば、有用な近似は、ディテクタ構成の重心が検出位置(X線ディテクタの入射開口)にあるとの仮定に基づく。したがって、X線測定に用いられて検出位置の位置を表す変数(たとえばΘ、Γ及びAB)は、重量に起因するトルクに実際に関係するディテクタ構成の重心の位置を表すものであるかのように用いられる。
【0017】
本発明を用いれば、概して、ディテクタサークル(の全体)の重量に起因するゴニオメータ軸に関するトルクの大きさを少なくとも80%減少させることができ、通常少なくとも95%も減少させることができる。典型的には、補償は、残留トルクの意図した間隔内でアクチュエータが動作することができるようなものである。その間隔内では、アクチュエータに無視できない調節誤差がある状態には至っていない(「プラトー領域」)。原則として、補償モータはX線装置又はゴニオメータの使用中に継続的に動作する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態
X線装置の有効な実施形態では、ディテクタ構成が同一平面軸周りに回転可能にディテクタサークルに取り付けられ、同一平面軸がゴニオメータ軸に直交して延び、サンプル位置でゴニオメータ軸と交差することが実現される。立体角範囲を増やすために、サンプルのX線回折測定で同一平面軸周りのX線ディテクタの回動(角度Γ)が多くの場合用いられる。これはディテクタサークルへのトルクの顕著な変化をともなうので、本発明の範囲内において、この回動を判断に入れることによって、確実にゴニオメータ及びアクチュエータの荷重が特に極めて小さくなる。本発明の範囲内において、ディテクタ構成の他の自由度又はさらなる自由度(調節可能性)、たとえば、ビーム軸周りのX線ディテクタの回転を判断に入れることも可能である。好ましくは、本発明の範囲内において、ディテクタ構成の少なくとも2つの自由度が判断に入れられる。
【0019】
この実施形態の好ましい発展例では、ディテクタサークルに固定される前部片持ち梁部、同一平面軸周りに回転可能に前部片持ち梁部にマウントされる後部片持ち梁部、後部片持ち梁部に取り付けられるディテクタ構成、並びに、後部片持ち梁部のモータ駆動回転のための第1のさらなるアクチュエータを備えることが実現される。同一平面軸周りにディテクタ構成を回動させるこの構造は特に単純である。
【0020】
さらに、有効な実施形態は、ガイドシステムを通じてディテクタサークルに取り付けられるディテクタ構成を有し、これにより、サンプル位置に向かって又はサンプル位置から離れるように、ガイドシステムによってディテクタ構成を変位させることができ、特に、ゴニオメータ軸に直交するように、サンプル位置と交差する変位軸に沿ってディテクタ構成を変位させることができ、また、様々な変位位置で前記ディテクタ構成をロックすることができる。変位軸(距離AB)に沿ってディテクタ構成を変位させることによって、X線測定(同じX線ディテクタによるX線測定)の空間分解能を修正することができる。ディテクタ構成を変位させる工程もディテクタサークルへのトルクの顕著な変化をともなうので、本発明の範囲内において、この回動を判断に入れることで、確実にゴニオメータ及びアクチュエータの荷重が特に極めて小さくなる。必要に応じて、ディテクタ構成をガイドシステムにおいて変位させることができるさらなるアクチュエータを設けることができる。変位位置を決定するセンサを設けることもできる。
【0021】
有効な実施形態では、ゴニオメータの線源サークルに取り付けられる線源構成を備え、線源サークルもゴニオメータ軸周りに回転可能であり、線源サークルのモータ駆動回転のために線源サークルに結合されるアクチュエータ又は第2のさらなるアクチュエータを備える。線源サークルが回転可能であるので、測定値中に線源構成及びディテクタ構成の相対的なアライメントを修正することができ、サンプルを回転させる必要がない。これはたとえば液体試料に有用である。線源サークルへのトルクを補償するために、実質的にゴニオメータ軸に対して線源構成の反対側にある1つ以上のカウンタウエイトを線源サークルに通常取り付ける。これの代わりに、又は、これに加えて、ディテクタサークルと同様に、さらなる補償モータを線源サークルに結合することもできる。
【0022】
好ましい実施形態では、補償装置は、ディテクタサークルに取り付けられ、且つ実質的にゴニオメータ軸に対してディテクタ構成の反対側にある1つ以上のカウンタウエイトをさらに備える。この結果、補償モータの荷重を小さくすることが実現できる。補償モータの適切なトルクを決定するために(特に、ディテクタサークルの重心及び全質量を決定するために)、1つ以上のカウンタウエイトを判断に入れることが必要である。カウンタウエイトについては、トルクの一部が補償されると仮定することができる。このトルクの一部はゴニオメータ軸周りの回転のみによって変化する部分である。残りの部分は別の方法で(別の方法でも)変化し得る部分であり、補償モータで補償される。
【0023】
これの代わりに、一実施形態では、カウンタウエイトを用いずに具体化される補償装置を備えることを実現することができる。この結果、X線装置全体が軽量になる。困難性や危険性があるカウンタウエイトの取り扱いが完全になくなり得る。
【0024】
好ましい実施形態では、歯付きベルトを介してシャフトを駆動する補償モータ、ピニオンを用いて検出サークルの内側歯において噛み合うシャフトを備える。この構造は特に単純であり、信頼性が高い。これの代わりに、他のタイプの結合、特に、歯付きベルトのないタイプの結合も可能である(たとえば直結駆動)。
【0025】
別の有効な実施形態では、補償モータは、減速伝動部、特に40:1以上の減速比を持つ減速伝動部を介して検出サークルに結合される。減速の結果、小型モータを用いて高い正確度で比較的大きい力をディテクタサークルに及ぼすこともできる。通常、50:1以上、特に約100:1の減速が実際には選択される。
【0026】
好ましい実施形態は、DCモータ、特にブラシレスDCモータとして具体化される補償モータを有する。被制御変数(又は測定変数)として動作電流を用いることで、生じることになるトルク(又は生じたトルク)を直接簡単にセット(又は測定)することができる。これの代わりに、たとえば、液圧又は空気圧モータシステムが考えられる。
【0027】
本発明の範囲はまた、X線装置、特に、上記の本発明に係るX線装置を動作させる方法も含み、
X線装置は以下を備える:
−ゴニオメータ軸周りに回転可能であるディテクタサークルを有するゴニオメータであって、特に、ゴニオメータ軸が水平方向に延びる、ゴニオメータと、
−ディテクタサークルに結合される、ディテクタサークルのモータ駆動回転のためのアクチュエータと、
−X線源を備える線源構成と、
−ディテクタサークルに取り付けられ、X線ディテクタを備えるディテクタ構成と、
−検査されるサンプルのサンプル位置であって、線源構成及びディテクタ構成はサンプル位置に向かって方向づけられ、特に、ゴニオメータ軸上にあるサンプル位置と、
−ディテクタサークルにさらに結合される補償モータであって、ゴニオメータ軸に関するトルクをディテクタサークルに及ぼす補償モータと、
−補償モータの制御デバイスであって、
補償モータによって及ぼされるトルクが、ディテクタ構成を含むディテクタサークルの重量によって生じる、ゴニオメータ軸に関するトルクに少なくとも実質的に等しく且つ逆向きであるように、ディテクタ構成の現在の位置に応じて補償モータを動作させる制御デバイス。
【0028】
ディテクタサークル(ディテクタサークルに取り付けられる部品、特にディテクタ構成及び任意に選択できるカウンタウエイトを含む)の重量によって生じるトルクは、アクチュエータ用の検出サークルのトルクが常に実質的になくなるように、補償モータによって補償される。ディテクタ構成の変化し得る位置から導かれる、補償されるトルクの変化は、制御デバイスによって取得され、取得に応じて補償モータの動作中に判断に入れられる。この結果、ゴニオメータ及びアクチュエータの荷重が減少し、これによってセッティング精度が改善し且つ疲労が低減する。
【0029】
本発明に係る方法の好ましい変形例では、制御デバイスは、補償モータを制御するためにディテクタ構成の位置変数Θを判断に入れ、ここで、Θは、ゴニオメータ軸を含む第1の基準平面に対して測定される、ゴニオメータ軸に対するディテクタ構成の角度位置であって、特に、第1の基準平面は水平である。角度Θ(シータ)は多くのX線回折実験のために修正されるか、取得される。角度Θはディテクタサークルへのトルクに大きな影響を及ぼす。なお、通常ディテクタ構成はX線ビーム入射方向に対して2Θだけ傾けられる。
【0030】
この変形例の有効な発展例では、水平である第1の基準平面と、cosΘにほぼ比例する寄与分B1を持つトルクMKMを補償モータが発生するように制御される補償モータを備える。この結果、ゴニオメータ軸周りの回動中にディテクタ構成のレバーアームを短くすることで、(通常、少なくとも20%以下の正確度、好ましくは少なくとも5%以下の正確度で)これがほぼ実現される。一般的に、MKMは(たとえば、カウンタウエイト又は摩擦を判断に入れるために)一定のオフセットトルクCも持つ。
【0031】
別の好ましい変形では、制御デバイスは、補償モータを制御するためにディテクタ構成の位置変数Γを判断に入れ、ここで、Γは、同一平面軸を含む第2の基準平面に対して測定される、同一平面軸に対するディテクタ構成の角度位置であって、ここでは特に、第2の基準平面がゴニオメータ軸に直交して広がり、同一平面軸がゴニオメータ軸に直交して延び且つサンプル位置でゴニオメータ軸と交差する。角度Γ(ガンマ)も多くのX線回折実験のために修正されるか、取得される。角度Γはディテクタサークルへのトルクに大きな影響を及ぼす。
【0032】
この変形例の有効な発展例では、cosΓにほぼ比例する寄与分B2を持つトルクMKMを補償モータが発生するように制御される補償モータを備える。この結果、同一平面軸周りの回動中にディテクタ構成のレバーアームを短くすることで、(通常、少なくとも20%以下の正確度、好ましくは少なくとも5%以下の正確度で)これがほぼ実現される。典型的には、寄与分B2は、同時にcosΘにほぼ比例する。すなわちB2〜cosΓ×cosΘである。
【0033】
さらに好ましい変形例では、制御デバイスは、補償モータを制御するためにディテクタ構成の位置変数ABを判断に入れる。ここで、ABは、サンプル位置からのディテクタ構成の距離である。距離ABは多くの場合、X線装置の空間分解能をセットするために修正される。距離ABはディテクタサークルへのトルクに大きな影響を及ぼす。
【0034】
この実施形態の有効な発展例では、ABにほぼ比例する寄与分B3を持つトルクMKMを補償モータが発生するように制御される補償モータを備える。この結果、たとえば上記のガイドシステムによって、サンプル位置に向かって、又はサンプル位置から離れるようにディテクタ構成を変位させる際にディテクタ構成のレバーアームを短くする、又は長くすることで、(通常、少なくとも20%以下の正確度、好ましくは少なくとも5%以下の正確度で)これがほぼ実現される。典型的には、寄与分B3は、同時にcosΘに比例する。すなわちB3〜AB×cosΘであり、このようにならない場合はB3〜AB×cosΘ×cosΓである。
【0035】
さらにまた、好ましい変形例では、補償モータによってセットされるトルクMKM又は補償モータに適用される被制御変数の値のための、値テーブル、値マトリックス、特性又は特性領域が、ディテクタ構成の1つ以上の位置変数に応じて制御デバイスに記憶され、
制御デバイスが、セットされるトルクMKM又は被制御変数の値を決定するために、X線装置の動作中に、値テーブル、値マトリックス、特性又は特性領域を適用するか、もしくは、読み出すことが実現される。セットされるトルク又は適用される被制御変数の値は、値テーブル、値マトリックス、特性又は特性領域を用いて1つ以上の位置変数から単純且つ迅速な手法で決定することができる。ディテクタサークルの重心の位置に関してその場で検討する必要がないので、これにより、決定が単純化され、迅速化される。必要であれば、複数の値入力/複数の特性位置間において補間(特に線形補間)を行なうことができる。
【0036】
本発明のさらなる利点が記載と図面とから導かれる。さらに、本発明に係る上記の特徴と以下で説明される特徴とを、夫々これら単体で用いてもよいし、ともに任意に組み合せて用いてもよい。示され記載されている実施形態が包括的な列挙物を形成すると解するべきではなく、本発明の説明のために典型的な性質を持つと解するべきである。
【0037】
本発明は図面に図示され、典型的な実施形態に基づいてより詳細に説明される。以下図面の説明である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】ディテクタサークル上にある一体型の片持ち梁を有する、本発明に係るX線装置の第1の実施形態の概略斜視図を示す。
図2図1のX線装置の補償モータ、変換伝動部及びディテクタサークルの概略抽出図を示す。
図3図1のX線装置のゴニオメータの概略抽出図を示す。
図4】ディテクタサークル上にある2部品片持ち梁を有する、本発明に係るX線装置の第2の実施形態の概略斜視図を示す。
図5図4のX線装置を動作させるための特性領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明に係る方法を実施するための、本発明に係る第1の実施形態におけるX線装置1を示す。
【0040】
X線装置1はX線源3(このケースではX線管)を有する線源構成2を備え、X線源3の前には様々なX線光学要素4(ここでは、X線ミラー、絞り(stop)、コリメータの組み合せ)が配置されている。また、線源構成2はホルダ機構5を有する。線源構成2はゴニオメータ7の線源サークル6に配置され、これによって、線源サークル6をゴニオメータ軸8周りにモータ駆動方式で回転させることができ、したがって、線源構成2もゴニオメータ軸8周りにモータ駆動方式で回転させることができる。ゴニオメータ軸8はこのケースでは水平である。
【0041】
X線装置1はX線ディテクタ10を有するディテクタ構成9をさらに備える。X線ディテクタ10の前には様々なX線光学要素11(ここでは、複数の絞りの組み合せ)が配置されている。ディテクタ構成9は、ガイドシステム12(「トラック」)において変位可能である。これにより、ディテクタ構成9(又は関連するディテクタウインドウ。このケースではカバーされている。)は変位軸13に沿って変位可能である。このケースでは、ディテクタ構成9の変位位置は手動で調節可能であり、止めねじ14によって任意の位置にロックすることができる。ここで、ガイドシステム12は、一体型の片持ち梁15に形成され、片持ち梁15はゴニオメータ7のディテクタサークル16に取り付けられている。ゴニオメータ7によって、ディテクタサークル16をゴニオメータ軸8周りにモータ駆動方式で回転させることができ、したがって、ディテクタサークル16に配置されたディテクタ構成9もゴニオメータ軸8周りにモータ駆動方式で回転させることができる。
【0042】
線源構成2、すなわち、これによって生成されるX線ビーム(図示せず)と、ディテクタ構成9とは、サンプル位置17に向かって方向づけられている。サンプル位置17はこのケースではゴニオメータ軸8上にある。なお、変位軸13がサンプル位置17に交差する。X線回折によるサンプル位置17のサンプルの検査について、線源構成2及びディテクタ構成9は、ゴニオメータ7によってゴニオメータ軸8周りに回動し、したがって、サンプル位置17の周囲で回動する。
【0043】
ディテクタサークル16に取り付けられたディテクタ構成9及びさらなる部品は、極めて大きい質量を持つので、結果として生じる重量(weight)によってトルクがディテクタサークル16に及ぼされる。言い換えれば、ディテクタサークル16全体(すなわち、これに取り付けられる片持ち梁15やディテクタ構成9などの部品を含む)は、ゴニオメータ軸8から水平に離れた重心を持ち、その結果、ディテクタサークル16を回転させようとする。
【0044】
図3に示されているように、ゴニオメータ7は、ディテクタサークル16を所望の回転位置に回転させて、その位置に維持するアクチュエータ18を有する。
【0045】
アクチュエータ18がディテクタ構成(及び他の偏心部品)の重量に抗して継続的に動作する必要がないように、X線装置は補償装置19を有する。本発明に係れば、補償装置19はディテクタサークル16に結合されている補償モータ20を備える。ここでは、補償モータ20はブラシレスDCモータとして具体化されている。
【0046】
図1から明らかなように、補償装置19はこのケースではカウンタウエイト21をさらに有し、このカウンタウエイトは(ゴニオメータ軸8に対して)ディテクタ構成9の反対側でディテクタサークル16に取り付けられている。なお、図1ではゴニオメータカバーの上部によって補償モータ20がカバーされている。
【0047】
図2から明らかなように、このケースの補償モータ20は外側歯22aを有するモータシャフト22を有する。歯付きベルト23(これの歯は図2に部分的にしか示されていない)により、モータシャフト22がシャフト24に結合され、シャフト24上にはピニオン25が形成されている。ピニオン25はディテクタサークル16にある内側歯26(図2には部分しか示されていない)に入れられて噛み合っている。特に、外側歯22aを有するモータシャフト22と、ピニオン25を有するシャフト24と、内側歯26とによって形成されている伝動部27は、モータシャフト22の回転を、大きく減速されるような方法で、ここでは約50:1の減速比で(すなわち、モータシャフト22の回転はディテクタサークル16の1/50回転に対応する)ディテクタサークル16に伝達する。
【0048】
なお、補償モータ20がアクチュエータから独立している。補償モータ20は、ディテクタサークル16を、実質的にアクチュエータへのトルクのない状態にするのに有用である。
【0049】
図1を参照して、カウンタウエイト21により、片持ち梁15(及びディテクタサークル16の変位しない他の部品)のトルク寄与に関して良好な補償が提供される。ゴニオメータ軸8周りのディテクタサークル16の回転(角度Θ(シータ)を参照)により、ゴニオメータ軸8からのカウンタウエイト21及び片持ち梁15の水平距離が同程度まで変化する。また、対照的に、ディテクタ構成9によるトルク寄与は、変位軸13に沿った変位位置(サンプル位置17からの距離ABを参照)に依存する。したがって、固定設置されるカウンタウエイト21によってディテクタ構成9のトルク寄与を補償することはできない。ディテクタ構成9のトルク寄与は補償モータによって補償され、また、ディテクタサークル16に設置されたさらなる部品の未補償のさらなるトルク寄与も補償モータによって補償してもよい。
【0050】
図3に概略的に示されているように、X線装置はゴニオメータ7に接続されている電子制御デバイス28を有する。例えば、制御デバイス28はデスクトップコンピュータによって実現することができる。まず、制御デバイス28は、ディテクタサークル16の回転位置を(さらに線源サークル6の回転位置も)セットするために、プログラムされたX線測定の範囲で制御コマンドをアクチュエータ18に提供する。したがって、制御デバイス28は、ディテクタサークル16又はディテクタ構成9の現在の回転位置(ここでは、ゴニオメータ軸8を含む第1の水平基準平面RE1に対して測定される角度位置Θ(シータ))を認識している。Θ(シータ)は、ここで示されている位置では約0°である。さらにまた、ディテクタ構成9の変位位置(サンプル位置17/ゴニオメータ軸8とディテクタ構成9のディテクタウインドウとの距離AB)が制御デバイス28に認識される(たとえば、肉眼を用いて位置を手動で読み出した後に手動入力によって行なう。あるいは、位置センサを読むことによって行なう。これ以上詳細には説明しない)。これらの位置変数を用い、また、X線装置の別段与えられた構造を用いて、制御デバイス28は補償モータ20の適切な補償トルク又は対応する制御電流を確認することができ、対応する制御電流を補償モータ20に印加することができる。
【0051】
示されている実施形態では、図1を参照して、線源サークル6も線源構成2の(ゴニオメータ軸8に対して)反対側にあるカウンタウエイト29を有する。線源構成2は概して、カウンタウエイト29とともにゴニオメータ軸8周りに回転し、そうでない場合には調節されないので、線源サークル6に固定設置されたカウンタウエイト29によって良好なトルク補償をこの場合に実現することができる。
【0052】
図4は、本発明に係る方法で用いる本発明に係るX線装置1の第2の実施形態を示す。X線装置は図1のX線装置と同様である。したがって、第2の実施形態は、主に、説明された図1の実施形態との本質的な差である。
【0053】
本実施形態では、ディテクタサークル16に前部の第1の片持ち梁部51が取り付けられ、第1の片持ち梁部51には、同一平面軸53周りに回転可能であるように、後部の第2の片持ち梁部52がヒンジ接続されている。同一平面軸53に対する回転位置(角度Γ(ガンマ)を参照)を第1のさらなるアクチュエータ54によってセットすることができる。電子制御デバイス(図示せず)によって第1のさらなるアクチュエータ54を作動させる。同一平面軸53はゴニオメータ軸8と直交して延び、サンプル位置17でゴニオメータ軸8と交差する。ディテクタ構成9を変位軸13に沿って変位させることができるガイドシステム12が、第2の片持ち梁部52に配置されている。
【0054】
同一平面軸53周り(角度Γ(ガンマ))のディテクタ構成9の回動の追加を任意に選択できる結果、X線回折測定中に別の立体角領域にアクセス可能になる。角度Γ(ガンマ)のディテクタ構成9の回転によるトルクの変化は、このケースではカウンタウエイト21によって完全には相殺することができない。回動しない第1の片持ち梁部51しかカウンタウエイト21によって補償することができない。したがって、この実施形態でもディテクタサークル16に結合されている補償モータを有する(繰り返すが、図4ではゴニオメータカバーの上部によってカバーされているが、たとえば図3を参照)。
【0055】
補償モータに適する反トルクは、位置変数Θ(シータ。ゴニオメータ軸8周りのディテクタ構成9の回動であり、第1の水平基準平面RE1に対して測定される)、Γ(ガンマ。同一平面軸53周りのディテクタ構成9の回動であり、第2の基準平面RE2に対して測定される。第2の基準平面RE2は、このケースではゴニオメータ軸8と直交し、同一平面軸53を含む)、及びAB(ディテクタ構成9のディテクタウインドウとサンプル位置17との距離)によって決定することができる。Γ(ガンマ)(ここで示されているのは約20°)に対する現在の回転位置は、制御デバイスによってセットされるので、このケースでは制御デバイスにすでに認識されている。対応する説明は、Θ(シータ)(ここで示されているのは約10°)に対する現在の回転位置にあてはまる。
【0056】
なお、90°を超える大きい角度Γ(ガンマ)の場合、ディテクタ構成9によって引き起こされるディテクタサークル16へのトルクの正負の変化がある。したがって、補償モータは力の両方向の負荷に対して具体化される。
【0057】
図5は、本発明の範囲内において、図4のX線装置の実施形態に係る制御デバイスによって用いられる典型的な特性領域60を示す。
【0058】
示されている2次元特性領域60は、位置変数角度Γ(ガンマ。右に向かってプロットされている。)と、位置変数角度Θ(シータ。奥に向かってプロットされている。)とに依存する、補償モータによって補正されなければならないトルク(ゴニオメータ軸周りに結果として生じるトルク(結果トルク)。上に向かってプロットされている。)を示している。この結果トルクを補償するために、補償モータは、セットされるトルクMKMとしてディテクタサークルに(−1×前記トルク)を及ぼさなければならない。補償モータの力特性が既知である場合、特性領域から読み出されたトルクを用いて補償モータの制御電流を決定して印加することができる。示されている特性領域60は本実施形態ではディテクタ構成とサンプル位置との特定の距離ABに適用される。他の距離ABについてのさらなる特性領域を記憶させて用いたり、3次元特性領域を記憶させて用いたりすることができる(これ以上詳細には説明しない)。
【0059】
最も単純なケースでは、予想されるX線測定の範囲で可能であるディテクタ構成の様々な位置に対する、あらかじめ測定したゴニオメータ軸(補償モータがない場合の)に作用するトルクに基づいて特性領域60を実験的に測定する。あるいは、たとえば重心の位置と、ゴニオメータ軸からの重心の水平距離とによって、作用トルクを計算することもできる。一般的には、おおよそ、作用トルク及び位置変数に関する以下の依存関係が見られる。
【0060】
a)たとえば摩擦に起因する定数成分(位置変数とは独立している)。
b)cosΘに比例する成分。これらは、ゴニオメータ軸周りに回転する、ディテクタサークルに取り付けられる全ての部品に起因する。
c)cosΓに比例する成分。これらは、同一平面軸周りに回転する、ディテクタサークルに取り付けられる全ての部品に起因する。
d)ABに比例する成分。これらは、変位軸に沿って変位可能であってディテクタサークルに取り付けられる全ての部品に起因する。
【0061】
なお、ディテクタサークルに取り付けられるいくつかの部品が上記のカテゴリの1つ以上に寄与し得る。したがって、図4においては、第1の片持ち梁部51によりcosΘに比例する(だけの)寄与分が生じ、第2の片持ち梁部52によりcosΘ×cosΓに比例する寄与分が生じ、ディテクタ構成9によりAB×cosΘ×cosΓに比例する寄与分が生じる。この場合、寄与分の絶対値は夫々の部品の質量にさらに依存する。
【0062】
図1の実施形態については、片持ち梁15によりcosΘに比例する(だけの)寄与分が生じ、ディテクタ構成9によりAB×cosΘに比例する寄与分が生じる。
【0063】
図4の実施形態については、以下の通りに表わすことができるトルクMKMが、位置変数の関数として補償モータに近似的にあらわれる。
【0064】
KM=A0+A1×cosΘ+A2×cosΘ×cosΓ+A3×AB×cosΘ×cosΓ (式1)。
ここで、A0,A1,A2,A3はX線装置に起因する定数である。書き直すことによって、特に、式1から以下が導かれる。
KM=A0+B1 (式2)
且つB1=[A1+A2×cosΓ+A3×AB×cosΓ]×cosΘ (式3)
ここで、B1はcosΘに比例する寄与分である。
【0065】
式1を以下の通りに書き直すこともできる。
KM=A0+A1×cosΘ+B2 (式4)
且つB2=[A2×cosΘ+A3×AB×cosΘ]×cosΓ (式5)
ここで、B2はcosΓに比例する寄与分である。
【0066】
さらにまた、式1を以下の通りに書き直すことができる。
KM=A0+A1×cosΘ+A2×cosΘ×cosΓ+B3 (式6)
且つB3=[A3×cosΘ×cosΓ]×AB (式7)
ここで、B3はABに比例する寄与分である。特性領域60に格納されているデータはこれらの依存関係におおよそ準ずる。なお、X線装置の構造に応じて、式1においてMKMについて記載されている項よりも小さい項、大きい項又は当該記載されている項以外の項が生じてもよく、結果として、寄与分B1,B2,B3の項も変化してもよい。
【0067】
特性領域を用いてMKMを決定することに代わるものとして、たとえば、モデル中のトルク(上記の例の式1を参照)によって生じる定数(上記の例のA0,A1,A2,A3)を決定し、これらを制御デバイスに記憶し、モデルと夫々の時点の位置パラメータとを用いて補償モータのトルクMKMを計算することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 X線装置
2 線源構成
3 X線源
4 X線光学要素(線源構成)
5 ホルダ機構(線源構成)
6 線源サークル
7 ゴニオメータ
8 ゴニオメータ軸
9 ディテクタ構成
10 X線ディテクタ
11 X線光学要素(ディテクタ構成)
12 ガイドシステム
13 変位軸
14 止めねじ
15 片持ち梁
16 ディテクタサークル
17 サンプル位置
18 アクチュエータ
19 補償装置
20 補償モータ
21 カウンタウエイト(ディテクタサークル)
22 モータシャフト
22a 外側歯(モータシャフト)
23 歯付きベルト
24 シャフト
25 ピニオン
26 内側歯(ディテクタサークル)
27 伝動部
28 制御デバイス
29 カウンタウエイト(線源サークル)
51 前部の(第1の)片持ち梁部
52 後部の(第2の)片持ち梁部
53 同一平面軸
54 第1のさらなるアクチュエータ
AB サンプル位置とディテクタ構成との距離
RE1 第1の基準平面
RE2 第2の基準平面
Γ ガンマ、同一平面軸周りの回動角度
Θ シータ、ゴニオメータ軸周りの回動角度
【要約】
【課題】本発明は、ディテクタ構成の位置が変更され得る場合のゴニオメータのディテクタサークルに及ぶトルクの補償を単純化する。
【解決手段】−ゴニオメータ軸(8)周りに回転可能であるディテクタサークル(16)を有するゴニオメータ(7)と、
−ディテクタサークル(16)に結合される、ディテクタサークル(16)のモータ駆動回転のためのアクチュエータ(18)と、
−X線源(3)を備える線源構成(2)と、
−ディテクタサークル(16)に取り付けられ、X線ディテクタ(10)を備えるディテクタ構成(9)と、
−検査されるサンプルのサンプル位置(17)であって、線源構成(2)及びディテクタ構成(9)がサンプル位置(17)に向かって方向づけられるサンプル位置(17)と、
−ディテクタ構成(9)の重量によって生じるトルクを、ディテクタサークル(16)上において、ゴニオメータ軸(8)に関して少なくとも実質的に補償する補償装置(19)と
を備えるX線装置(1)において、補償装置(19)は、
−ディテクタサークル(16)に結合される補償モータ(20)であって、ゴニオメータ軸(8)に関するトルクをディテクタサークル(16)に及ぼす補償モータ(20)と、
−補償モータ(20)の制御デバイス(28)であって、補償モータ(20)によって及ぼされるトルクが、ディテクタ構成(9)を含むディテクタサークル(16)の重量によって生じる、ゴニオメータ軸(8)に関するトルクに少なくとも実質的に等しく且つ逆向きであるように、ディテクタ構成(9)の現在の位置に応じて補償モータ(20)を動作させるように具体化される制御デバイス(28)と
を備えることを特徴とするX線装置(1)。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5