特許第6356922号(P6356922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6356922低い中和度を有する水溶性エステル化セルロースエーテル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356922
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】低い中和度を有する水溶性エステル化セルロースエーテル
(51)【国際特許分類】
   C08B 13/00 20060101AFI20180702BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 9/62 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C08B13/00
   A61K9/08
   A61K47/38
   A61K9/20
   A61K9/14
   A61K9/36
   A61K9/62
   A61K9/48
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-545912(P2017-545912)
(86)(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公表番号】特表2018-507306(P2018-507306A)
(43)【公表日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】US2016021330
(87)【国際公開番号】WO2016148977
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2017年8月31日
(31)【優先権主張番号】62/133,514
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・ピーターマン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・クナール
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ビー・アッペル
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/031447(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031446(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031418(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/137789(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031448(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031419(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/031422(WO,A1)
【文献】 特表2013−532151(JP,A)
【文献】 特開昭62−081402(JP,A)
【文献】 特開昭57−002218(JP,A)
【文献】 特開昭57−063301(JP,A)
【文献】 特公昭48−019552(JP,B1)
【文献】 国際公開第2014/137777(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/154607(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/137779(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/137778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOH(Rは二価の炭化水素基である)の基を含む、エステル化セルロースエーテルであって、
i)前記基−C(O)−R−COOHの中和度が0.4以下であり、
ii)総エステル置換度が0.10〜0.70であり、
iii)前記エステル化セルロースエーテルが、2℃において少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する、エステル化セルロースエーテル。
【請求項2】
0.25〜0.69の脂肪族一価アシル基の置換度または0.05〜0.45の式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する、請求項1に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項3】
前記脂肪族一価アシル基がアセチル、プロピオニル、またはブチリル基であり、前記式−C(O)−R−COOHの前記基が−C(O)−CH−CH−COOHである、請求項1または2に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項4】
前記エステル化セルロースエーテルの少なくとも85重量%が、2℃において2.5重量部のエステル化セルロースエーテルと97.5重量部の水との混合物に可溶性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテル。
【請求項5】
水性液体に溶解した請求項1〜4のいずれか1項に記載のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物。
【請求項6】
前記水性組成物の総重量を基準として、少なくとも10重量パーセントの溶解したエステル化セルロースエーテルを含む、請求項5に記載の水性組成物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルと、有機希釈剤とを含む、液体組成物。
【請求項8】
コーティングされた剤形であって、前記コーティングが、請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、コーティングされた剤形。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテルを含む、ポリマーのカプセルシェル。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種の活性成分の固体分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエステル化セルロースエーテル、及びカプセルシェルを生成するためまたは剤形をコーティングするためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエーテルのエステル、それらの使用、及びそれらを調製するためのプロセスが、当該技術分野において一般的に知られている。エステル化セルロースエーテルが、カルボキシル基を有するエステル基を含む場合、水性液体中のエステル化セルロースエーテルの溶解性は、典型的にはpHに依存する。例えば、水性液体中でのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の溶解性は、スクシニル基またはスクシノイル基とも呼ばれるスクシネート基の存在によりpH依存性である。HPMCASは、薬学的剤形用の腸溶性ポリマーとして知られている。胃の酸性環境では、HPMCASはプロトン化され、それ故、不溶性である。HPMCASは脱プロトン化を受け、より高いpHの環境である小腸内で可溶性になる。pH依存性溶解性は酸性官能基の置換度に依存する。pH及びHPMCASの中和度に依存する様々な種類のHPMCASの溶解時間が、McGinity、James W.Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms、New York、M.Dekker、1989、105−113頁において詳細に論じられている。この刊行物は、112頁の図16において、スクシノイル、アセチル、及びメトキシル基での異なる置換度を有するHPMCASのいくつかの等級の、HPMCASの中和度に依存した純水中及び0.1NaCl中での溶解時間を説明している。HPMCAS、及びNaClの存在または非存在に依存して、HPMCASは、約0.55〜1の間の中和度を有する場合に可溶性である。約0.55の中和度より低い場合、全てのHPMCASの等級は純水及び0.1NaClに不溶性である。
【0003】
HPMCASなどのエステル化セルロースエーテルでコーティングされた剤形は、胃の酸性環境における不活性化もしくは分解から薬物を保護するか、または薬物による胃の刺激を防止するが、小腸において薬物を放出する。米国特許第4,365,060号は腸溶性カプセルを開示している。米国特許第4,226,981号は、HPMCASなどのセルロースエーテルの混合エステルの調製プロセスを開示している。
【0004】
国際特許出願WO2013/164121には、カプセルを調製するための多くの技術が、腸溶性(酸不溶性)ポリマーと従来の非腸溶性ポリマーとの組み合わせを依然として要すること、得られるカプセルシェルの水感受性もしくは脆性をもたらす塩もしくはpH調節剤を要すること、複数の処理工程を要すること、及び/または非水性媒体中で処理する必要があることが教示されている。これらの問題を解決するために、WO2013/164121は、水に分散したHPMCASポリマーを含む水性組成物を開示しており、そのポリマーは、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、カチオン性ポリマー、及びこれらの混合物などの少なくとも1種のアルカリ性材料で部分的に中和されている。残念ながら、部分的中和は、カプセルの腸溶性性質に影響を及ぼし得る。例えば、カプセルが部分的に中和されたHPMCASを含む場合、摂取の際に胃液がカプセル内に拡散し得る。
【0005】
したがって、剤形をコーティングするため、または腸溶性性質を示すポリマーのカプセルシェル、特に硬質カプセルシェルを調製するために有用な、新規なエステル化セルロースエーテルを提供することが依然として至急に必要とされている。エステル化セルロースエーテルの水溶液から生成することができるが、pH調節剤の存在を要しない、剤形またはポリマーのカプセルシェルのためのコーティングを提供することが特に必要とされている。
【0006】
驚くべきことに、水に可溶性であるが、胃の酸性環境での溶解に対して抵抗性である新規なエステル化セルロースエーテルが見出された。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様は、脂肪族一価アシル基及び式−C(O)−R−COOH(Rは二価の炭化水素基である)の基を含む、エステル化セルロースエーテルであって、
i)基−C(O)−R−COOHの中和度が0.4以下であり、
ii)総エステル置換度が0.10〜0.70であり、
iii)エステル化セルロースエーテルが、2℃において少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する、エステル化セルロースエーテルである。
【0008】
本発明の別の態様は、水性希釈剤に溶解した上述のエステル化セルロースエーテルを含む水性組成物である。
【0009】
本発明の更に別の態様は、上述のエステル化セルロースエーテル及び有機希釈剤を含む液体組成物である。
【0010】
本発明の更に別の態様は、上述の組成物を剤形と接触させる工程を含む、剤形をコーティングするプロセスである。
【0011】
本発明の更に別の態様は、上記の組成物を浸漬ピンと接触させる工程を含む、カプセルシェルの製造プロセスである。
【0012】
本発明の更に別の態様は、コーティングが少なくとも1種の上述のエステル化セルロースエーテルを含む、コーティングされた剤形である。
【0013】
本発明の更に別の態様は、少なくとも1種の上述のエステル化セルロースエーテルを含む、ポリマーのカプセルシェルである。
【0014】
本発明の更に別の態様は、上記のカプセルシェルを含み、薬物もしくは栄養補助剤もしくは食品補助剤、またはそれらの組み合わせを更に含む、カプセルである。
【0015】
本発明の更に別の態様は、少なくとも1種の上述のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種の活性成分の固体分散体である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例7〜11のエステル化セルロースエーテルの水溶液の写真描写である。
図2】実施例23のエステル化セルロースエーテルの水溶液が40℃でゲル化しているプロセスの間のその溶液の写真描写である。
図3】実施例18のエステル化セルロースエーテルの水溶液が40℃でゲル化した後の写真描写である。
図4A】21℃の温度を有する金属ピン上のカプセルシェルの写真描写である。
図4B】カプセルシェルを浸漬ピンから取り除いた後の21℃の温度を有する金属ピン上に形成されたカプセルシェル断片の写真描写である。
図4C】0.1NのHCl中のカプセルシェルの非溶解断片の写真描写である。カプセルシェルの断片は図4Bに示されたカプセルシェルの小断片である。
図4D図4Cに示されたカプセルシェルの非溶解断片が入れられたpH6.8の水性緩衝溶液の写真描写であり、カプセルシェルの全ての断片がpH6.8の水性緩衝溶液に溶解している。
図5A】30℃の温度を有する金属ピン上のカプセルシェルの写真描写である。
図5B】カプセルシェルを浸漬ピンから取り除いた後の30℃の温度を有する金属ピン上に形成されたカプセルシェル断片の写真描写である。
図5C】0.1NのHCl中のカプセルシェルの非溶解断片の写真描写である。カプセルシェルの断片は図5Bに示されたカプセルシェルの小断片である。
図5D図5Cに示されたカプセルシェルの非溶解断片が入れられたpH6.8の水性緩衝溶液の写真描写であり、カプセルシェルの全ての断片がpH6.8の水性緩衝溶液に溶解している。
図6A】55℃の温度を有する金属ピン上のカプセルシェルの写真描写である。
図6B】カプセルシェルを浸漬ピンから取り除いた後の55℃の温度を有する金属ピン上に形成されたカプセルシェル断片の写真描写である。
図6C】0.1NのHCl中のカプセルシェルの非溶解断片の写真描写である。カプセルシェルの断片は図6Bに示されたカプセルシェルの小断片である。
図6D図6Cに示されたカプセルシェルの非溶解断片が入れられたpH6.8の水性緩衝溶液の写真描写であり、カプセルシェルの全ての断片がpH6.8の水性緩衝溶液に溶解している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
驚くべきことに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、2℃において少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有することが見出された。ごく一部の沈殿物しか有しない、または好ましい実施形態では沈殿物を有することさえない透明または不透明の溶液が2℃以下の温度において得られる。調製した溶液の温度を20℃に上げると、沈殿は生じない。その上、本発明のエステル化セルロースエーテルの大部分の水溶液は、わずかに上昇した温度でゲル化する。これにより、本発明のエステル化セルロースエーテルが、様々な用途において、例えば、カプセルを生成するためまたは剤形をコーティングするために極めて有用となる。本発明のエステル化セルロースエーテルの利点を以下により詳細に記載する。
【0018】
エステル化セルロースエーテルは、本発明の文脈において無水グルコース単位として表される、β−1,4グリコシド結合したD−グルコピラノース繰り返し単位を有するセルロース骨格を有する。エステル化セルロースエーテルは、好ましくは、エステル化アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、またはヒドロキシアルキルアルキルセルロースである。これは、本発明のエステル化セルロースエーテルにおいて、無水グルコース単位のヒドロキシル基の少なくとも一部が、アルコキシル基もしくはヒドロキシアルコキシル基、またはアルコキシル基とヒドロキシアルコキシル基との組み合わせにより置換されていることを意味する。ヒドロキシアルコキシル基は、典型的には、ヒドロキシメトキシル、ヒドロキシエトキシル、及び/またはヒドロキシプロポキシル基である。ヒドロキシエトキシル及び/またはヒドロキシプロポキシル基が好ましい。典型的には、ヒドロキシアルコキシル基の1種または2種がエステル化セルロースエーテルに存在する。好ましくは、単一種のヒドロキシアルコキシル基、より好ましくはヒドロキシプロポキシルが存在する。アルコキシル基は、典型的には、メトキシル、エトキシル、及び/またはプロポキシル基である。メトキシル基が好ましい。上記で定義されたエステル化セルロースエーテルの例は、エステル化メチルセルロース、エチルセルロース、及びプロピルセルロースなどのエステル化アルキルセルロース、エステル化ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシブチルセルロースなどのエステル化ヒドロキシアルキルセルロース、エステル化ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、及びヒドロキシブチルエチルセルロースなどのエステル化ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ならびにエステル化ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの2つ以上のヒドロキシアルキル基を有するものが挙げられる。最も好ましくは、エステル化セルロースエーテルは、エステル化ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのエステル化ヒドロキシアルキルメチルセルロースである。
【0019】
ヒドロキシアルコキシル基による無水グルコース単位のヒドロキシル基の置換度は、ヒドロキシアルコキシル基のモル置換、すなわちMS(ヒドロキシアルコキシル)によって表示される。MS(ヒドロキシアルコキシル)は、エステル化セルロースエーテルにおける無水グルコース単位当たりのヒドロキシアルコキシル基の平均モル数である。ヒドロキシアルキル化反応の間に、セルロース骨格に結合したヒドロキシアルコキシル基のヒドロキシル基は、アルキル化剤、例えば、メチル化剤、及び/またはヒドロキシアルキル化剤によって更にエーテル化され得ることを理解されたい。無水グルコース単位の同じ炭素原子位置に対する複数のその後のヒドロキシアルキル化エーテル化反応は側鎖を生み出し、その場合、複数のヒドロキシアルコキシル基がエーテル結合によって互いに共有結合しており、各側鎖は全体としてセルロース骨格にヒドロキシアルコキシル置換基を形成している。
【0020】
故に、「ヒドロキシアルコキシル基」という用語は、ヒドロキシアルコキシル置換基の構成単位としてのヒドロキシアルコキシル基を指すものとして、MS(ヒドロキシアルコキシル)の文脈において解釈されるべきであり、上に概説されるように、単一のヒドロキシアルコキシル基または側鎖を含み、2つ以上のヒドロキシアルコキシ単位は、エーテル結合によって互いに共有結合している。この定義内で、ヒドロキシアルコキシル置換基の末端ヒドロキシル基が更にアルキル化、例えばメチル化されるかどうかは重要ではなく、アルキル化及び非アルキル化両方のヒドロキシアルコキシル置換基が、MS(ヒドロキシアルコキシル)の決定に対して含まれる。本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、0.05〜1.00、好ましくは0.08〜0.70、より好ましくは0.15〜0.60、最も好ましくは0.15〜0.40、特に0.20〜0.40の範囲のヒドロキシアルコキシル基のモル置換を有する。
【0021】
無水グルコース1単位当たりメトキシル基等のアルコキシル基によって置換されたヒドロキシル基の平均数は、アルコキシル基の置換度、すなわち、DS(アルコキシル)と称される。上記のDSの定義において、「アルコキシル基によって置換されたヒドロキシル基」という用語は、本発明内では、セルロース骨格の炭素原子に直接的に結合したアルキル化ヒドロキシル基だけでなく、セルロース骨格に結合したヒドロキシアルコキシル置換基のアルキル化ヒドロキシル基も包含するものとして解釈されるべきである。本発明によるエステル化セルロースエーテルは、一般に、1.0〜2.5、好ましくは1.2〜2.2、より好ましくは1.6〜2.05、最も好ましくは1.7〜2.05の範囲のDS(アルコキシル)を有する。
【0022】
最も好ましくは、エステル化セルロースエーテルは、DS(アルコキシル)について上に示した範囲内のDS(メトキシル)及びMS(ヒドロキシアルコキシル)について上に示した範囲内のMS(ヒドロキシプロポキシル)を有するエステル化ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0023】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、エステル基として、式−C(O)−R−COOHの基(式中、Rは、−C(O)−CH−CH−COOHなどの二価炭化水素基である)、及びアセチル、プロピオニル、またはn−ブチリルもしくはi−ブチリルなどのブチリルなどの脂肪族一価アシル基を含む。エステル化セルロースエーテルの具体的な例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートスクシネート(HPCAS)、ヒドロキシブチルメチルセルロースプロピオネートスクシネート(HBMCPrS)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースプロピオネートスクシネート(HEHPCPrS)、またはメチルセルロースアセテートスクシネート(MCAS)である。ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)が最も好ましいエステル化セルロースエーテルである。
【0024】
本発明のエステル化セルロースエーテルの本質的な特徴は、それらの総エステル置換度、具体的には、i)脂肪族一価アシル基の置換度及びii)式−C(O)−R−COOHの基の置換度の合計である。総エステル置換度は、少なくとも0.10、好ましくは少なくとも0.15、より好ましくは少なくとも0.20、最も好ましくは少なくとも0.25である。総エステル置換度は、0.70以下、一般に0.67以下、好ましくは最大で0.65、より好ましくは最大で0.60、最も好ましくは最大で0.55、または最大で0.50である。本発明の一態様では、0.10〜0.65、特に0.20〜0.60の総エステル置換度を有するエステル化セルロースエーテルが好ましい。それらは、以下に更に記載するように、わずかに上昇した温度でゲル化することが見出された。本発明の別の態様では、0.20〜0.50、特に0.25〜0.44の総エステル置換度を有するエステル化セルロースエーテルが好ましい。0.25〜0.44の総エステル置換度を有するエステル化セルロースエーテルは、2重量%の濃度で透明な水溶液を形成することが見出された。
【0025】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも0.05、好ましくは少なくとも0.10、より好ましくは少なくとも0.15、最も好ましくは少なくとも0.20、特に少なくとも0.25または少なくとも0.30の、アセチル、プロピオニル、またはブチリル基などの脂肪族一価アシル基の置換度を有する。エステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で0.69、好ましくは最大で0.60、より好ましくは最大で0.55、最も好ましくは最大で0.50、特に最大で0.45または更に最大で0.40だけの脂肪族一価アシル基の置換度を有する。本発明の一実施形態では、エステル化セルロースエーテルは、0.25〜0.69または0.25〜0.65の脂肪族一価アシル基の置換度を有する。本発明の別の実施形態では、エステル化セルロースエーテルは、0.10〜0.38の脂肪族一価アシル基の置換度を有する。
【0026】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも0.01、好ましくは少なくとも0.02、より好ましくは少なくとも0.05、最も好ましくは少なくとも0.10のスクシノイルなどの式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する。エステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で0.65、好ましくは最大で0.60、より好ましくは最大で0.55、最も好ましくは最大で0.50または最大で0.45の式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する。本発明の一態様では、エステル化セルロースエーテルは、0.05〜0.45の式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する。本発明の別の実施形態では、エステル化セルロースエーテルは、0.02〜0.14の式−C(O)−R−COOHの基の置換度を有する。
【0027】
その上、i)脂肪族一価アシル基の置換度及びii)式−C(O)−R−COOHの基の置換度及びiii)アルコキシル基の置換度、すなわち、DS(アルコキシル)の合計は、一般に、2.60以下、好ましくは2.55以下、より好ましくは2.50以下、最も好ましくは2.45以下である。本発明の一態様では、i)脂肪族一価アシル基の置換度及びii)式−C(O)−R−COOHの基の置換度及びiii)DS(アルコキシル)の合計は、2.40以下である。このような置換度の合計を有するエステル化セルロースエーテルは、一般に、2重量%の濃度で透明な水溶液を形成する。エステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも1.7、好ましくは少なくとも1.9、最も好ましくは少なくとも2.1の、i)脂肪族一価アシル基及びii)式−C(O)−R−COOHの基及びiii)アルコキシル基の置換度の合計を有する。
【0028】
アセテート及びスクシネートエステル基の含有量は、「Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopia and National Formulary、NF29、1548−1550頁」に従って決定される。報告された値は揮発性物質について補正される(上記のHPMCASモノグラフのセクション「loss on drying」に記載されているように決定される)。その方法は、プロピオニル、ブチリル、及び他のエステル基の含有量を決定するために類似の手法で使用してよい。
【0029】
エステル化セルロースエーテルにおけるエーテル基の含有量は、「Hypromellose」、United States Pharmacopeia and National Formulary、USP35、3467−3469頁に記載されているものと同じ手法で決定される。
【0030】
上記の分析によって得られたエーテル及びエステル基の含有量は、以下の式に従って個々の置換基のDS及びMS値に変換される。その式は、他のセルロースエーテルエステルの置換基のDS及びMSを決定するために類似の手法で使用してよい。
【0031】
【数1】
【0032】
慣例により、重量パーセントは、全ての置換基を含むセルロース繰り返し単位の総重量を基準とする平均重量百分率である。メトキシル基の含有量は、メトキシル基の質量(すなわち、−OCH)の質量を基準として報告される。ヒドロキシアルコキシル基の含有量は、ヒドロキシプロポキシル(すなわち、−O−CHCH(CH)−OH)などのヒドロキシアルコキシル基(すなわち、−O−アルキレン−OH)の質量を基準として報告される。脂肪族一価アシル基の含有量は、−C(O)−R(式中、Rは、アセチル(−C(O)−CH)などの一価脂肪族基である)の質量を基準として報告される。式−C(O)−R−COOHの基の含有量は、この基の質量、例えばスクシノイル基(すなわち、−C(O)−CH−CH−COOH)の質量を基準として報告される。
【0033】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で500,000ダルトン、好ましくは最大で250,000ダルトン、より好ましくは最大で200,000ダルトン、最も好ましくは最大で150,000ダルトン、特に最大で100,000ダルトンの重量平均分子量Mを有する。一般に、それらは、少なくとも10,000ダルトン、好ましくは少なくとも12,000ダルトン、より好ましくは少なくとも15,000ダルトン、最も好ましくは少なくとも20,000ダルトン、特に少なくとも30,000ダルトンの重量平均分子量Mを有する。
【0034】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、少なくとも1.5、典型的には少なくとも2.1、しばしば少なくとも2.9の多分散度M/M、すなわち、重量平均分子量Mの数平均分子量Mに対する比を有する。その上、本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、最大で4.1、好ましくは最大で3.9、最も好ましくは最大で3.7の多分散度を有する。
【0035】
及びMは、アセトニトリル40体積部と、50mMのNaHPO及び0.1MのNaNOを含有する水性緩衝液60体積部との混合物を移動相として使用して、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis56(2011)743に従って測定される。移動相は8.0のpHに調整される。M及びMの測定は、実施例においてより詳細に記載されている。
【0036】
本発明のエステル化セルロースエーテルにおいて、基−C(O)−R−COOHの中和度は、0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、最も好ましくは0.1以下、特に0.05以下または更に0.01以下である。中和度は、本質的にゼロであってもよく、それよりわずかに上、例えば、最大で10−3または更に最大で10−4だけであってもよい。本明細書で使用される場合、「中和度」という用語は、脱プロトン化カルボキシル基及びプロトン化カルボキシル基の合計に対する脱プロトン化カルボキシル基の比、すなわち、中和度=[−C(O)−R−COO]/[−C(O)−R−COO+−C(O)−R−COOH]を定義する。
【0037】
本発明のエステル化セルロースエーテルの別の本質的な性質は、その水溶解性である。驚くべきことに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、2℃において少なくとも2.0重量パーセントの、水への溶解性を有する。すなわち、それは、2℃において、少なくとも2.0重量パーセントの水溶液、好ましくは少なくとも3.0重量パーセントの水溶液、より好ましくは少なくとも5.0重量パーセントの水溶液、または更に少なくとも10.0重量の水溶液として溶解され得る。一般に、本発明のエステル化セルロースエーテルは、2℃の温度において、最大で20重量パーセントの水溶液として、または最も好ましい実施形態では最大で30重量パーセントの水溶液としてさえ溶解され得る。本明細書で使用される場合、「2℃においてx重量パーセントの水溶液」という用語は、エステル化セルロースエーテルが2℃において(100−x)gの水に可溶性であることを意味する。
【0038】
実施例のセクションに記載されているように、水溶解性を決定する場合、本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、エステル化セルロースエーテルの少なくとも80重量%、典型的には少なくとも85重量%、より典型的には少なくとも90重量%、ほとんどの場合には少なくとも95重量%が、2℃において2.5重量部のエステル化セルロースエーテルと97.5重量部との混合物に溶解性である溶解性質を有する。典型的には、この溶解度は、2℃において5または10重量部のエステル化セルロースエーテルと95または90重量部の水との混合物、または更に、2℃において20重量部のエステル化セルロースエーテルと80重量部の水との混合物にも観察される。
【0039】
より一般的な用語では、驚くべきことに、本発明のエステル化セルロースエーテルは、基−C(O)−R−COOHのその低い中和度にもかかわらず、エステル化セルロースエーテルの中和度が0.4を超えるかまたは上で列挙された好ましい範囲に上げない水性液体とエステル化セルロースエーテルをブレンドした場合であっても、例えば、エステル化セルロースエーテルを脱イオン化または蒸留水などの水のみとブレンドした場合であっても、10℃未満、より好ましくは8℃未満、更により好ましくは5℃以下、最も好ましくは最大で3℃の温度において水性液体に可溶性であることが見出された。ごく一部の沈殿物しか有しない、または好ましい実施形態では沈殿物を有することさえない透明または不透明の溶液が2℃において得られる。調製された溶液の温度を20℃に上げた場合は、沈殿は生じない。
【0040】
その上、0.10〜0.65、特に0.20〜0.65の総エステル置換度を有する本発明のエステル化セルロースエーテルの水溶液は、わずかに上昇した温度、典型的には30〜55℃でゲル化することが見出された。これにより、様々な用途において、例えば、カプセルを生成するため及び剤形をコーティングするためにそれらは非常に有用となる。非常に驚くべきことに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)が本発明により提供されるが、これは水に溶解した場合にはわずかに上昇した温度でゲル化するが、HPMCASを生成させるヒドロキシプロピルメチルセルロースの水性溶液はゲル化しない。本発明のエステル化セルロースエーテルの一部、具体的には本発明のHPMCAS材料の一部は、上述のようにわずかに上昇した温度においてしっかりした弾性ゲルに変換さえする。ゲル化は可逆的である、すなわち、HPMCASの濃度に依存して、室温(20℃)以下に冷却すると、ゲルは液体の水性溶液に変換される。
【0041】
本発明のエステル化セルロースエーテルが可溶性である水性液体は、少量の有機液体希釈剤を追加的に含んでいてよい。しかしながら、水性液体は、一般に、水性液体の総重量を基準として、少なくとも80、好ましくは少なくとも85、より好ましくは少なくとも少なくとも90、特に少なくとも95重量パーセントの水を含むべきである。本明細書で使用される場合、「有機液体希釈剤」という用語は、1種の有機溶媒または2種以上の有機溶媒の混合物を意味する。好ましい有機液体希釈剤は、酸素、窒素、または塩素のようなハロゲンなどの1つ以上のヘテロ原子を有する極性有機溶媒である。より好ましい有機液体希釈剤は、アルコール、例えばグリセロールなどの多官能性アルコール、または好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、またはn−プロパノールなどの単官能性アルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、またはメチルイソブチルケトンなどのケトン、エチルアセテートなどのアセテート、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、またはアセトニトリルなどのニトリルである。より好ましくは、有機液体希釈剤は、1〜6個、最も好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。水性液体は、塩基性化合物を含んでいてよいが、得られるエステル化セルロースエーテルと水性液体とのブレンドにおけるエステル化セルロースエーテルの基C(O)−R−COOHの中和度は、0.4を超えるべきでなく、好ましくは0.3以下または0.2以下または0.1以下、より好ましくは0.05以下または0.01以下、最も好ましくは10−3以下または更に10−4以下である。好ましくは、水性液体は、実質的な量の塩基性化合物を含まない。より好ましくは、水性希釈剤は、塩基性化合物を含有しない。更により好ましくは、水性液体は、水性液体の総重量を基準として、80〜100パーセント、好ましくは85〜100パーセント、より好ましくは90〜100パーセント、最も好ましくは95〜100パーセントの水、及び0〜20パーセント、好ましくは0〜15パーセント、より好ましくは0〜10パーセント、最も好ましくは0〜5パーセントの有機液体希釈剤を含む。最も好ましくは、水性液体は、水、例えば、脱イオン水または蒸留水からなる。
【0042】
本発明のエステル化セルロースエーテルは、一般に、20℃において0.43重量%の水性NaOH中2.0重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液として測定して、最大で200mPa・s、好ましくは最大で100mPa・s、より好ましくは最大で50mPa・s、最も好ましくは最大で5.0mPa・sの粘度を有する。一般に、粘度は、20℃において0.43重量%の水性NaOH中2.0重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液として測定して、少なくとも1.2mPa・s、より典型的には少なくとも1.8mPa・s、更により典型的には少なくとも2.4mPa・s、最も典型的には少なくとも2.8mPa・sである。2.0重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液は、「Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopeia and National Formulary、NF29、1548−1550頁」に記載されているように調製し、これにDIN51562−1:1999−01(1999年1月)に従うウベローデ粘度測定が続く。
【0043】
その上、本発明のエステル化セルロースエーテルはアセトンに可溶性であり、ほどよく低い粘度を有する。一般に、本発明のエステル化セルロースエーテルは、20℃においてアセトン中10重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液として測定して、最大で500mPa・s、好ましくは最大で200mPa・s、より好ましくは最大で100mPa・s、最も好ましくは最大で50mPa・sの粘度を有する。本発明のエステル化セルロースエーテルは、20℃においてアセトン中10重量%のエステル化セルロースエーテルの溶液として測定して、典型的には10mPa・s以上の粘度を有する。本発明のエステル化セルロースエーテルの生成の詳細は実施例に記載されている。生成プロセスのいくつかの態様を以下に記載する。本発明のエステル化セルロースエーテルは、上記で更に記載されているアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、またはヒドロキシアルキルアルキルセルロースなどのセルロースエーテルをエステル化することによって生成することができる。セルロースエーテルは、好ましくは、上記で更に記載されているように、DS(アルコキシル)及び/またはMS(ヒドロキシアルコキシル)を有する。本発明のプロセスにおいて出発材料として使用されるセルロースエーテルは、ASTM D2363−79(再承認2006)に従って20℃において2重量%の水溶液として測定して、一般に、1.2〜200mPa・s、好ましくは1.8〜100mPa・s、より好ましくは2.4〜50mPa・s、特に2.8〜5.0mPa・sの粘度を有する。このような粘度のセルロースエーテルは、より高い粘度のセルロースエーテルを部分的解重合プロセスに付すことによって得ることができる。部分的解重合プロセスは、当該技術分野において周知であり、例えば、欧州特許出願EP1,141,029、EP210,917、EP1,423,433、及び米国特許第4,316,982号に記載されている。あるいは、部分的解重合は、セルロースエーテルの生成の間に、例えば酸素または酸化剤の存在によって達成することができる。
【0044】
セルロースエーテルを、酢酸無水物、酪酸無水物、及びプロピオン酸無水物などの脂肪族モノカルボン酸無水物と、及びコハク酸無水物などのジカルボン酸無水物と反応させる。脂肪族モノカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位とのモル比は、一般に、0.1/1〜7/1、好ましくは0.3/1〜3.5/1、より好ましくは0.5/1〜2.5/1である。ジカルボン酸の無水物とセルロースエーテルの無水グルコース単位とのモル比は、好ましくは、0.1/1〜2.2/1、好ましくは0.2/1〜1.2/1、より好ましくは0.3/1〜0.8である。
【0045】
そのプロセスで利用されるセルロースエーテルの無水グルコース単位のモル数は、DS(アルコキシル)及びMS(ヒドロキシアルコキシル)からの置換無水グルコース単位の平均分子量を計算することにより、出発材料として使用されるセルロースエーテルの重量から決定することができる。
【0046】
セルロースエーテルのエステル化は、酢酸、プロピオン酸、または酪酸などの反応希釈剤としての脂肪族カルボン酸中で実行される。反応希釈剤は、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、またはテトラヒドロフランのような芳香族または脂肪族溶媒、またはジクロロメタンまたはジクロロメチルエーテルのようなハロゲン化C−C誘導体などの、室温で液体でありかつセルロースエーテルと反応しない他の溶媒または希釈剤を少量含むことができるが、脂肪族カルボン酸の量は、反応希釈剤の総重量を基準として、一般に、50パーセントを超え、好ましくは少なくとも75パーセント、より好ましくは少なくとも90パーセントであるべきである。最も好ましくは、反応希釈剤は脂肪族カルボン酸からなる。モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、通常、少なくとも0.7/1、好ましくは少なくとも1.2/1、より好ましくは少なくとも1.5/1である。モル比[脂肪族カルボン酸/セルロースエーテルの無水グルコース単位]は、一般に、最大で10/1、好ましくは最大で9/1である。最大で7/1、または更に最大で4/1だけ、及び最適化された条件下では更に最大で2/1だけなどのより低い比を使用することもでき、これにより必要とされる反応希釈剤の量の使用が最適となる。
【0047】
知られているエステル化プロセスでは、エステル化触媒として、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムなどのアルカリ金属カルボキシレートの存在下で、セルロースエーテルを脂肪族モノカルボン酸無水物及びジカルボン酸無水物と反応させる。知られているプロセスとは対照的に、本発明のエステル化セルロースエーテルは、エステル化触媒の非存在下、特にアルカリ金属カルボキシレートの非存在下で生成される。
【0048】
エステル化の反応温度は、一般に60℃〜110℃、好ましくは70℃〜100℃である。エステル化反応は、典型的には2〜8時間以内、より典型的には3〜6時間以内で完了する。エステル化反応の完了後、エステル化セルロースエーテルは、例えば、米国特許第4,226,981号、国際特許出願WO2005/115330、欧州特許出願EP0219426、または国際特許出願WO2013/148154に記載され、知られている手法で反応混合物から沈殿させることができる。その後、沈殿したエステル化セルロースエーテルを水性液体で、好ましくは70〜100℃の温度で洗浄する。好適な水性液体は上記に更に記載されている。
【0049】
本発明の別の態様は、水性液体に溶解した本発明の上述したエステル化セルロースエーテルの1種以上を含む水性組成物である。その水性液体は上記に更に記載されている。本発明のエステル化セルロースエーテルは、水性組成物を−2℃から10℃未満、好ましくは0℃から8℃未満、より好ましくは0.5℃から5℃未満、最も好ましくは0.5℃〜3℃の温度に冷却することによって水溶液にすることができる。水性組成物は、好ましくは、水性組成物の総重量を基準として、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは最大で30重量%、より好ましくは最大で20重量%の本発明のエステル化セルロースエーテルを含む。
【0050】
水性液体に溶解した本発明の上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1種以上を含む水性組成物は、液体組成物を浸漬ピンと接触させる工程を含むカプセルの製造において特に有用である。エステル化セルロースエーテルの腸溶性性質に影響を及ぼし得るエステル化セルロースエーテルの部分的中和は必要ではない。更に、カプセルは約室温でさえも調製することができ、エネルギーの節約をもたらす。典型的には、23℃未満、より典型的には15℃未満、またはいくつかの実施形態では10℃未満の温度を有する水性組成物を、水性組成物よりも高い温度を有しかつ少なくとも21℃、典型的には少なくとも30℃、より典型的には少なくとも50℃、一般に最大で95℃、好ましくは最大で75℃の温度を有する浸漬ピンと接触させる。カプセルは腸溶性性質を有する。水性液体に溶解した上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1種以上を含む水性組成物はまた、錠剤、顆粒、ペレット、カプレット、薬用飴、坐剤、ペッサリー、または埋め込み可能な剤形などの剤形をコーティングするのに有用である。
【0051】
本発明の別の態様は、有機希釈剤及び本発明の上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1種以上を含む液体組成物である。有機希釈剤は、液体組成物に単独で存在していてよく、または水と混合されていてよい。好ましい有機希釈剤は上記に更に記載されている。液体組成物は、液体組成物の総重量を基準として、好ましくは、少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは最大で30重量%、より好ましくは最大で20重量%の本発明のエステル化セルロースエーテルを含む。
【0052】
上述した水性液体または有機希釈剤及び上述のエステル化セルロースエーテルのうちの1つ以上を含む本発明の組成物はまた、活性成分用の賦形剤系として有用であり、特に、肥料、除草剤、または殺虫剤などの活性成分、またはビタミン、ハーブ及びミネラル補助剤、及び薬物などの生物学的活性成分のための賦形剤系を調製するための中間体として有用である。したがって、本発明の組成物は、好ましくは、1種以上の活性成分、最も好ましくは1種以上の薬物を含む。「薬物」という用語は、慣用的であり、動物、特にヒトに投与した場合に有益な予防的及び/または治療的性質を有する化合物を意味する。本発明の別の態様では、本発明の組成物は、薬物、上述の少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル、及び任意に1種以上のアジュバントなどの少なくとも1種の活性成分を含む固体分散体を生成するために使用される。固体分散体の好ましい生成方法は噴霧乾燥による。噴霧乾燥プロセス及び噴霧乾燥機器は、Perry’s Chemical Engineers’ Handbook、20−54〜20−57頁(6版1984)に一般に記載されている。あるいは、本発明の固体分散体は、i)a)上記で定義された少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル、b)1種以上の活性成分、及びc)1種以上の任意の添加剤をブレンドし、ii)そのブレンドを押出加工に付すことにより調製することができる。本明細書で使用される場合、「押出加工」という用語は、射出成形、溶融鋳造(melt casting)、及び圧縮成形として知られているプロセスを包含する。薬物などの活性成分を含む組成物を押出加工する、好ましくは溶融押出加工するための技術が知られており、Joerg Breitenbach、Melt extrusion:プロセスから薬物送達技術まで、European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 54(2002)107−117により、または欧州特許出願EP0872233に記載されている。本発明の固体分散体は、好ましくは、エステル化セルロースエーテルa)及び活性成分b)の総重量を基準として、a)20〜99.9パーセント、より好ましくは30〜98パーセント、最も好ましくは60〜95パーセントの上述のエステル化セルロースエーテルa)、及びb)好ましくは0.1〜80パーセント、より好ましくは2〜70パーセント、最も好ましくは5〜40パーセントの活性成分b)を含む。エステル化セルロースエーテルa)及び活性成分b)を組み合わせた量は、固体分散体の総重量を基準として、好ましくは少なくとも70パーセント、より好ましくは少なくとも80パーセント、最も好ましくは少なくとも90パーセントである。残りの量は、もしあれば、以下に記載する1種以上のアジュバントc)からなる。少なくとも1種のエステル化セルロースエーテル中に少なくとも1種の活性成分を含む固体分散体が形成されると、乾燥、顆粒化、及び挽き(milling)などのいくつかの処理操作を使用して、ストランド、ペレット、顆粒、丸薬、錠剤、カプレット、微粒子、カプセルまたは射出成形カプセルの中身などの剤形、または粉末、フィルム、ペースト、クリーム、懸濁液、またはスラリーの形態へのその分散体の組み込みを促進することができる。
【0053】
水性組成物、有機希釈剤を含む液体組成物、及び本発明の固体分散体は、着色剤、顔料、乳白剤、風味改善剤、酸化防止剤、及びそれらの任意の組み合わせなどの任意の補助剤を更に含んでよい。
【0054】
これより本発明のいくつかの実施形態を以下の実施例において詳細に記載する。
【実施例】
【0055】
特に明記しない限り、全ての部及び百分率は重量による。実施例では、以下の試験手順が使用される。
【0056】
エーテル基及びエステル基の含有量
エステル化セルロースエーテルにおけるエーテル基の含有量は、「Hypromellose」、United States Pharmacopeia and National Formulary、USP35、3467−3469頁に記載されているものと同じ手法で決定される。
【0057】
アセチル基(−CO−CH)でのエステル置換及びスクシノイル基(−CO−CH−CH−COOH)でのエステル置換は、Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopia and National Formulary、NF29、1548−1550頁」に従って決定される。エステル置換について報告された値は揮発性物質について補正される(上記のHPMCASモノグラフのセクション「loss on drying」に記載されているように決定される)。
【0058】
及びMの決定
特に明記しない限り、M及びMは、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743に従って測定される。移動相は、アセトニトリル40体積部と、50mMのNaHPO及び0.1MのNaNOを含有する水性緩衝液60体積部との混合物であった。移動相を8.0のpHに調整した。セルロースエーテルエステルの溶液を、0.45μmの孔径のシリンジフィルターを通してHPLCバイアルに濾過した。M及びMの測定の正確な詳細は、国際特許出願第WO2014/137777号でセクション「Examples」において「Determination of M,M and M」の表題で開示されている。本発明の全ての実施例において、回収率は少なくとも96%であった。比較例では、回収率は少なくとも89%であった。
【0059】
水溶解性
定性的決定:その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と激しい攪拌下で0.5℃において16時間混合することによって2重量パーセントのHPMCASと水との混合物を調製した。次いで、HPMCASと水との混合物の温度を5℃に上げた。エステル化セルロースエーテルの水溶解性を視覚的検査により決定した。HPMCASが5℃において2%で水溶性であるかどうかの決定を以下のように行った。「2%で水溶性−有」は、沈殿物のない溶液が上記の手順に従って得られたことを意味する。「2%で水溶性−無」は、その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と上記の手順に従って混合したときに、HPMCASの少なくともかなりの部分が溶解しないままであり沈殿物を形成したことを意味する。「2%で水溶性−部分的」は、その乾燥重量を基準として2.0gのHPMCASを98.0gの水と上記の手順に従って混合したときに、HPMCASのごく一部だけが溶解しないままであり沈殿物を形成したことを意味する。
【0060】
定量的決定:その乾燥重量を基準として2.5重量部のHPMCASを2℃の温度を有する97.5重量部の脱イオン水に添加した後、2℃において6時間攪拌し、2℃において16時間保存した。計量した量のこの混合物を、計量した遠心分離バイアルに移した。混合物の移した重量をM1(g)として書き留めた。HPMCAS[M2]の移した重量は、(混合物の移した重量(g)/100g2.5g)として計算した。混合物を2℃において5000rpmで(2823xg、Biofuge Stratos遠心分離機、Thermo Scientific製)60分間遠心分離した。遠心分離後、アリコートを液相から取り除き、乾燥した計量したバイアルに移した。移したアリコートの重量をM3(g)として記録した。アリコートを105℃で12時間乾燥させた。HPMCASの残りのgを乾燥後に計量し、M4(g)として記録した。
【0061】
以下の表2の「2.5%で%水溶性」という用語は、2.5重量部のHPMCASと97.5重量部の脱イオン水との混合物に実際に溶解したHPMCASの百分率を表示している。それは(M4/M2)(M1/M3)100)として計算され、これは(液体アリコート中のHPMCASのg/遠心分離バイアルに移されたHPMCASのg)(遠心分離バイアルに移された混合物g/遠心分離後の液体アリコートg)に相当する。
【0062】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)の粘度
0.43重量%の水性NaOH中2.0重量%のHPMCASの溶液を「Hypromellose Acetate Succinate、United States Pharmacopia and National Formulary、NF29、1548−1550頁」に記載されているように調製した。DIN51562−1:1999−01(1999年1月)に従ったウベローデ粘度測定を実施した。測定は20℃で行った。0.43重量%の水性NaOH中2.0重量%のHPMCASの溶液を、この性質が測定されたそれらの実施例及び比較例について、以下の表2に「NaOH中2.0%粘度」として列挙する。
【0063】
その乾燥重量を基準として10.0gのHPMCASを90.0gのアセトンと激しいい攪拌下で室温において混合することによりアセトン中10重量%のHPMCASの溶液を調製した。混合物をローラーミキサーで約24時間圧延した(rolled)。Heraeus Holding GmbH、Germanyから商業的に入手可能なMegafuge 1.0遠心分離機を使用して、その溶液を2000rpmで3分間遠心分離した。DIN51562−1:1999−01(1999年1月)に従ったウベローデ粘度測定を実施した。測定は20℃で行った。
【0064】
HPMCASの水溶液のゲル化温度及びゲル強度
挽き(milled)、粉末にし(ground)、乾燥した3gのHPMCAS(HPMCASの水含有量を考慮)を、3翼(翼=2cm)ブレードスターラーを用いて750rpmでオーバーヘッドラボスターラーを用いて攪拌しながら室温で147gの水(温度20〜25℃)に添加することによりHPMCASの2%水溶液を生成した。次いで、溶液を約1.5℃に冷却した。1.5℃の温度に達した後、溶液を500rpmで120分間攪拌した。各溶液を特性評価の前に冷蔵庫内に保存した。
【0065】
本発明のHPMCASの2重量%水溶液のレオロジー測定は、カップ及びボブ固定具(CC−25)を有するHaake RS600(Thermo Fisher Scientific)レオメーターを用いて実行した。サンプルを、2%の一定歪み(変形)及び2Hzの一定角振動数で、5〜85℃の温度範囲にわたって1分当たり1℃の速度で加熱した。測定収集速度は4データ点/分となるように選択した。レオロジー測定から得られた貯蔵弾性率G’は、溶液の弾性性質を表し、貯蔵弾性率G’が損失弾性率G’’より高い場合には高温領域におけるゲル強度を表す。
【0066】
振動測定から得られた貯蔵弾性率G’の得られたデータを、まず、G’(最小)を0及びG′(最大)を100に対数化及び正規化した。線形回帰曲線を、これらの貯蔵弾性率データ(5データ点の増加)の部分集合に適合させた。接線を回帰曲線の最も急な傾斜に適合させた。この接線とx軸の交点をゲル化温度として報告する。ゲル化温度の決定の仕方の詳細は、国際特許出願WO2015/009796の18及び19頁においてパラグラフ「Determination of the gelation temperature of aqueous compositions comprising methyl cellulose」及びWO2015/009796の図1に記載されている。
【0067】
55℃での貯蔵弾性率G’によるゲル強度もこのレオロジー測定により得られた。
【0068】
実施例1〜27のHPMCASの生成
コハク酸無水物及び酢酸無水物を70℃で氷酢酸に溶解した。次いで、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、水を含まない)を攪拌しながら添加した。その量は以下の表1に列挙されている。HPMCの量は乾燥ベースで計算される。いかなる量の酢酸ナトリウムも添加しなかった。
【0069】
HPMCは、以下の表2に列挙されているように、メトキシル置換(DS)及びヒドロキシプロポキシル置換(MSHP)を有し、ASTM D2363−79(再承認2006)による20℃において2%の水溶液として測定して3.0mPa・sの粘度を有していた。HPMCの重量平均分子量は約20,000ダルトンであった。HPMCは、The Dow Chemical CompanyからMethocel E3 LV Premiumセルロースエーテルとして商業的に入手可能である。
【0070】
次いで、反応混合物を以下の表1に列挙された反応温度まで加熱した。混合物を反応させた反応時間も以下の表1に列挙されている。次いで、21℃の温度を有する1〜2Lの水を添加することにより粗生成物を沈殿させた。その後、沈殿した生成物を濾過により混合物から分離し、以下の表1に列挙された温度を有する水で数回洗浄した。次いで、生成物を濾過により単離し、55℃で一晩乾燥させた。
【0071】
実施例23については、沈殿した反応塊を二等分した。第1の半分を21℃の温度を有する水で洗浄した(実施例23)。第2の半分を95℃の温度を有する水で洗浄した(実施例23A)。
【0072】
比較例のHPMCASの生成
酢酸ナトリウムを他の反応物と以下の表1に列挙された量で混合したことを除いて、比較例A〜Eを実施例1〜27について記載したように生成した。比較例A〜Eは比較目的のものであるが、先行技術に記載されていない。
【0073】
比較例CE−11〜CE−16ならびに比較例CE−D及びCE−Eは、国際特許出願第WO2014/137777号の実施例11〜16ならびに比較例D及びEに相当する。それらの生成は、国際特許出願WO2014/137777において22及び23頁に詳細に記載されている。
【0074】
比較例CE−Cは、国際特許出願WO2014/031422の比較例Cに相当する。その生成は、国際特許出願WO2014/031422において25頁に詳細に記載されている。
【0075】
比較例CE−H〜CE−J
比較例CE−H〜CE−Jは、国際特許出願第WO2014/137777号の比較例H〜Jに相当する。WO2014/137777の24頁及び国際特許出願第WO2011/159626号の1及び2頁に開示されているように、HPMCASは現在、Shin−Etsu Chemical Co.,Ltd.(Tokyo、Japan)から商業的に入手可能であり、商品名「AQOAT」で知られている。Shin−Etsuは、種々のpHレベルの腸溶性保護を提供するために、置換基レベルの異なる組み合わせを有する、3つの等級のAQOATポリマー、典型的には、AS−LFまたはAS−LGなど、良好(fine)に対して記号表示「F」または「G」が後に続く、AS−L、AS−M、及びAS−Hを製造している。それらの販売仕様は、WO2011/159626の2頁の表1及びWO2014/137777の24頁に列挙されている。Shin−Etsuの技術パンフレット「Shin−Etsu AQOAT Enteric Coating Agent」の04.9 05.2/500版によれば、AQOATポリマーの全ての等級は10%NaOHに可溶性であるが、精製水には不溶性である。WO2011/159626の13頁の表2に開示されているAQOATポリマーの全ての等級の分析されたサンプルのデータを以下に列挙する。
【0076】
[表]
【0077】
実施例1〜27、比較例A〜E、比較例CE−11〜CE−16、ならびに比較例CE−C、CE−D、CE−E、及びCE−H〜CE−JのHPMCASの性質を以下の表2に列挙する。表2において、略語は以下の意味を有する。
DS=DS(メトキシル):メトキシル基での置換度、
MSHP=MS(ヒドロキシプロポキシル):ヒドロキシプロポキシル基でのモル置換、
DSAc:アセチル基の置換度、
DS:スクシノイル基の置換度。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
実施例1〜27のエステル化セルロースエーテルを、5℃の温度で(水溶解性の定性的決定のため)または2℃の温度において(水溶解性の定量的決定のため)それぞれ、2重量%の濃度で水に溶解させた。調製したHPMCAS水溶液の温度を20℃(室温)に上げた場合、沈殿は生じなかった。図1は、溶液の温度を20℃に上げた後の実施例7〜11のHPMCASの2重量%水溶液の写真を表している。
【0081】
ゲル化
0.10〜0.65、特に0.20〜0.65の総エステル置換度を有するHPMCASの水溶液は、わずかに上昇した温度、典型的には30〜55℃でゲル化する。図2は、実施例23の2重量%のHPMCASの水溶液が40℃においてゲル化しているプロセスにある間のその溶液の写真描写である。図3は、実施例18の5.45重量%のHPMCASの溶液が40℃においてゲル化した後のその溶液の写真描写である。ゲル化したHPMCASを含有するガラスボトルは、ゲル化したHPMCASを流動させることなく、逆さにすることができる。その5.45重量%の溶液は、5℃において低い粘度(233mPa・s、カップ及びボブジオメトリ(CC−25)において10秒−1でHaake RS600レオメーターを使用して測定)を有し、これで都合の良い処理が可能である。レオロジー測定を実施して、上記に更に記載されているように実施例1及び3〜27の2重量%のHPMCASの水溶液の55℃における貯蔵弾性率G’によるゲル化温度及びゲル強度を測定した。結果を以下の表3に列挙する。
【0082】
【表3】
【0083】
比較目的のために、商業的に入手可能なHPMCASをNHHCOで中和してそのpHを6.3に調整した。HPMCASは、23.5%のメトキシル基(DSメトキシル=1.93)、7.3%のヒドロキシプロポキシル基(MSヒドロキシプロポキシル=0.25)、9.8%のアセチル基(DSアセチル=0.58)、10.5%のスクシノイル基(DSスクシノイル=0.26)、及び0.43重量%の水性NaOH中2.0重量%のHPMCASの溶液として測定して2.9mPa・sの粘度を有していた。2重量%及び5重量%のHPMCASの水溶液を調製した。2重量%のHPMCASの水溶液100gを調整したとき、0.19gのNHHCOを中和に使用した。得られたHPMCASの中和度は96%であった。5重量%のHPMCASの水溶液100gを調整したとき、0.43gのNHHCOを中和に使用した。得られたHPMCASの中和度は87%であった。レオロジー測定を実施して、更に記載されているように55℃での貯蔵弾性率G’によるゲル化温度及びゲル強度を更に測定した。ゲル化は生じなかった。
【0084】
実施例15の水溶性HPMCASからのカプセルの調製
HPMCASを2℃の温度において脱イオン水に溶解させることによって実施例15の水溶性HPMCASの9.0重量%の水溶液を調製した。クエン酸トリエチルを可塑剤としてHPMCASの重量を基準として33重量%の量で添加した。21℃、30℃、及び55℃の温度をそれぞれ有する金属ピンを8℃の温度を有するHPMCAS溶液に浸漬することによってカプセルシェルを生成した。次いで、ピンをHPMCAS水溶液から引き抜き、フィルムを成形ピン上に形成させた。良好な品質のカプセルシェルがこれらの温度のそれぞれでピン上に形成した。図4A、5A、及び6Aは、21℃、30℃、及び55℃の温度をそれぞれ有する金属ピン上のカプセルシェルの写真描写である。室温(21℃)を有するピン上に形成されたカプセルシェルを室温で乾燥させ、30℃の温度を有するピン上に形成されたカプセルシェルを30℃で乾燥させ、55℃の温度を有するピン上に形成されたカプセルシェルを55℃で乾燥させた。図4B図5B、及び図6Bは、カプセルシェルが浸漬ピンから取り除かれた後、21℃、30℃、及び55℃の温度をそれぞれ有する金属ピン上に形成されたカプセルシェルの断片の写真描写である。
【0085】
胃の酸性環境におけるカプセルシェルの溶解性を試験するために、カプセルシェルを破砕して断片とし、0.1NのHClに浸した。カプセル断片を21℃の温度で12時間そこで放置した。この12時間の間、カプセル断片は0.1NのHClに溶解しなかった。この12時間全体の間、0.1NのHCl中の保護されていない目によってカプセル断片が見えた。図4C、5C、及び6Cは、0.1NのHCl中のカプセルシェルの非溶解断片の写真描写である。カプセルシェルの断片及びカプセルシェルの小断片が図4B、5B、及び6Bにおいてそれぞれ表されている。
【0086】
中性環境におけるカプセルシェルの溶解性を試験するために、0.1NのHClをカプセル断片から注ぎ、カプセル断片を6.8のpHを有するMcIlvaine緩衝溶液(一リン酸二ナトリウム及びクエン酸を含有する)に入れた。約60分後、カプセルシェルの全ての断片がpH6.8の緩衝液に完全に溶解し、透明な溶液が残った。図4D、5D、及び6Dは、図4C、5C、及び6Cにおいて示されたカプセルシェルの非溶解断片が入れられたpH6.8の水性緩衝溶液の写真描写である。カプセルシェルの全ての断片がpH6.8の水性緩衝溶液に溶解する。
【0087】
実施例23の水溶性HPMCASからのカプセルの調製
HPMCASを2℃の温度において脱イオン水に溶解させることによって実施例23の水溶性HPMCASの7.5重量%の水溶液を調製した。クエン酸トリエチルを可塑剤としてHPMCASの重量を基準として20重量%の量で添加した。80℃の温度を有する金属ピンを10℃の温度を有するHPMCAS溶液に浸漬することによってカプセルシェルを生成した。ピン上に形成したカプセルを80℃で乾燥させた。調製したカプセルシェルは、実施例15のHPMCASから調製されたカプセルと同じ外観を有しており、0.1NのHCL及びpH6.8の水性緩衝溶液において同じ溶解性質を示した。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D