(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6356939
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】半地下式シェルター築造工法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-511172(P2018-511172)
(86)(22)【出願日】2017年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2017031177
【審査請求日】2018年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2016-173305(P2016-173305)
(32)【優先日】2016年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357826
【氏名又は名称】株式会社シェルタージャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭彦
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−111873(JP,A)
【文献】
特開昭53−097297(JP,A)
【文献】
特開2005−232845(JP,A)
【文献】
特開2007−297898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04B 2/86
E02D 29/00−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体を組み立てるステップと、
中空管の内部空間に充填材を充填するステップと、
穴を形成するステップと、
前記穴の底部に基礎を構築するステップと
前記本体を前記基礎に据え付けるステップと、
前記本体の側板の周囲に型枠を築造するステップと、
前記型枠と、前記本体の間に形成された空間にコンクリートを打設し養生するステップと、
前記型枠を撤去し、コンクリート層と前記穴の間に形成された空間を土又はコンクリートで埋めるステップと、
を備え、
前記中空管が、前記本体の側板の外表面に設けられ、前記コンクリート層に埋設されることを特徴とする半地下式シェルター築造工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波等の災害想定地域でのシェルターに関する。
【背景技術】
【0002】
平成23年3月11日に発生した東日本大震災と、それに伴って発生した大津波により亡くなった死者と行方不明者の合計は2万人以上にも及んでおり、今後も、南海トラフ大地震等の発生が予想されている。一例を挙げると、内閣府の発表では、津波による愛知県内の死亡予想者約6,400人、火災による死亡者約1,800人となっており、近隣の静岡県においては95,000人を上回る死亡予想者数である。地震・津波対策に対する意識は近年益々高まっている。
【0003】
今後発生が予想されている南海トラフ大地震に備えるため、自ら救命するための対策として、個人の家でもシェルターの需要が高まってきている。地震及び津波発生時に避難するためのシェルターとして、基礎に固定する方式や浮遊式のものなど様々な発明が提案されてきている。
【0004】
基礎に固定するシェルターとして、鉄板とコンクリートで構成される複合構造体をシェルター本体に用いるものが知られている。
【0005】
特許文献1では、耐震性及び防水性に優れた地下シェルターを提供するため、 地中に打ち込んだ複数の杭に支持された耐圧盤上に、高強度コンクリートよりなるボックス状のシェルター本体を一体に設け、このシェルター本体の外表面を鉄板で覆ったものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-240452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されている地下シェルターは、コンクリートの外表面を覆っている鉄板が水分と酸素を多量に含む土と常に接する状態であり、腐食が促進されやすい環境に常にさらされている。鉄板の腐食を抑制するためには、鉄板の外表面に防水塗装等を施す必要があり、コスト高の要因となる。また、天井を構成する鉄板と型枠との隙間にコンクリートを打設するとき、コンクリートの重量を直接受ける型枠を支持するために、支保工を床から立ち上げる必要があることから、施工期間が長くなり、工程が複雑となるとともに、施工コストが高くなる。このような施工期間が長くコストが高いシェルターでは、一般家庭への普及は困難である。
【0008】
本発明の課題は、施工が簡単でコストが低減された高強度なシェルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1に係る発明は、半地下式シェルター築造工法において、本体を組み立てるステップと、中空管の内部空間に充填材を充填するステップと、穴を形成するステップと、穴の底部に基礎を構築するステップと、本体を基礎に据え付けるステップと、本体の側板の周囲に型枠を築造するステップと、型枠と、本体の隙間に形成された空間にコンクリートを打設し養生するステップと、型枠を撤去し、コンクリート層と穴の間に形成された空間を土又はコンクリートで埋めるステップを備え
、中空管が、本体の側板の外表面に設けられ、コンクリート層に埋設されることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、穴を形成するステップと、本体を組み立てるステップと、中空管の内部空間に充填材を充填するステップと、穴の底部に基礎を構築するステップと、本体を基礎に据え付けるステップと、本体の側板の周囲に型枠を築造するステップと、型枠と、本体の隙間に形成された空間にコンクリートを打設し養生するステップと、型枠を撤去し、コンクリート層と穴の間に形成された空間を土又はコンクリートで埋めるステップを備えているので、現場施工が容易であり、工期を短縮することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明実施形態のシェルターの断面図である。
【
図2】本発明実施形態のシェルターの扉の固定構造を示す平面説明図である。
【
図3】本発明実施形態のシェルターの最上部の中空管と、最下部の中空管の側面図及び断面図である。
【
図4】本発明実施形態の型枠が設けられた状態を示す本体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明実施形態のシェルター1を説明する。このシェルター1は、基礎10と、基礎10に据え付けられた本体100と、本体100の外周部に設けられたコンクリート層4を備えている。以下、詳細に説明する。
【0025】
図1に示す通り、基礎10は、地中に設けられ、基礎10に据え付けられた本体100は地上部Fと地下部Sで構成されている。地面を所定の深さまで掘削し、穴Hを形成し、その穴Hの底面にコンクリートを打設することによって基礎10を地中に設けることが出来る。基礎10は、平坦かつ水平に仕上げることが好ましい。これにより、本体100の据え付け作業が容易となる。
【0026】
本体100は、地震力、津波による波力、津波の漂流物の衝突による衝撃力等に対して耐え得る強度を兼ね備えるものであり、鉄製の筐体2と、地上部Fに設けられた扉5と、側板21の外表面に円周方向に設けられた複数の円環形状の中空管3を有している。
【0027】
筐体2は、底板23、天井板22、及び円筒形の側板21で構成されている。筐体2の内径Aは1.4m〜3mであることが好ましい。また、地上部Fの高さ140cm、地下部Sの高さ140cmが例示される。小規模のシェルターとすることによって、小型建設機械のみを用いて短期間で狭小な敷地内に設置することが可能となる。その結果、一般家庭への普及を促進することが出来る。
【0028】
筐体2の板厚は2.0mm〜6.0mmが好ましく、例えば2.7mm、3mm、4mmが例示される。後述するように中空管3及び支持材6U、6Lを適切に配設することで板厚9mm相当の強度を得ることが出来る。
【0029】
複数の中空管3が、側板21の外表面の円周方向に、円環形状に嵌合した状態で設けられている。また、側板21と中空管3は、適宜間隔で溶接されることによって固定されている。これにより、側板21と、中空管3は協働し強度及び剛性を高めることが出来る。中空管3の直径Bは、精度よく円環形状に曲げ加工可能で、かつ筐体2の外表面に嵌合することが可能な寸法、すなわち、筐体2の内径Aの1000分の16から1000分の35までの範囲であることが好ましい。
図2に示す通り、筐体2の内径Aは、中空管3を曲げ加工した円環の内径Cよりも筐体2の厚み分だけ小さくなっている。
【0030】
中空管3は一般構造用炭素鋼鋼管であり、例えば、JIS G3444 STK500、直径48.6mm、厚さ2.40mm、先メッキ仕様溶融亜鉛メッキ仕様(JIS H−8641,JIS H−9124)であることが好ましい。また、断面は、円形に限らず角形であってもよい。
【0031】
地上部Fの中空管3の間隔は、地下部Sの中空管3の間隔より狭く設定されている。シェルター1に作用する荷重として、地震力、津波による波力、津波の漂流物の衝突による衝撃力が考えられる。地震力は、地中では小さく地表面に近づくに従い増大する。津波による波力を直接受けるのは地上部Fのみであり、地中部に作用するものではない。津波の漂流物の衝突による衝撃力についても同様である。すなわち、地上部Fは地下部Sに比べて大きな荷重が作用する。地下部Sに比べて大きな荷重が作用する地上部Fの中空管3の間隔を、地下部Sの中空管3の間隔より狭くすることで側板21の厚さを薄く保つことが出来る。このように中空管3の間隔を適切に設定することで、より一層のコストダウンを図ることが出来る。
【0032】
中空管3の内部空間3aにはモルタル3b(充填材)が充填され、内部空間3aの空気が排出された状態となっている。中空管3の内部空間3aに空気が充満している場合、火炎熱等により充填している空気がコンクリート層4に向かって噴出する可能性がある。この場合、コンクリート層4はこの噴出した空気により破損する。また、内部空間3aに充填している空気が外気温度の変化により圧縮、膨張を繰り返すと、中空管3も同時に圧縮、膨張を繰り返す。この繰り返しによりコンクリート層4が劣化する。従って、コンクリート層4は中空管3の内部空間3aにモルタル3bが充填されることによって噴出した空気による損傷を防止出来るとともに、劣化を抑制することが出来る。また、中空管3とモルタル3bが協働することで中空管3の強度及び剛性が増大する。なお、本発明実施形態では充填材はモルタルとしているが、セメントミルクであってもよい。
【0033】
支持材6Uは、天井板22を補強するものであり、
図3に示す通り、6本の支持材6Uが最上部の中空管3Uの周方向に均等に配設され固定されるとともに、径中心方向に水平に延び中空管3Uの中心部で相互に固定している。また、天井板22と適宜間隔で溶接することによって固定している。すなわち、天井板22は支持材6Uと協働することにより、所定の強度及び剛性を獲得している。これにより、コンクリート打設時の天井板22の変形を抑制することが可能となり、特別な補強を施すことなく天井板22の上面にコンクリートを直接打設することが出来る。
【0034】
支持材6Lは、本体100の変形を抑制するためのものである。これにより、基礎10への据え付けが容易になる。支持材6Uとほぼ同様の構造であるため説明は省略する。
【0035】
支持材6U、6Lは汎用の形鋼であることが好ましい。
【0036】
コンクリート層4は、火炎熱、腐食環境、及び津波の漂流物による衝突等から本体100を保護するためのものであり、本体100の外周部に設けられている。コンクリート層4の厚さは15cm〜30cmであることが好ましい。
【0037】
本体100の外周部にコンクリート層4が設けられていない状態では、火炎熱により本体100が所定の温度以上となったとき、本体100を構成する鉄板等の剛性が低下し大きく変形する。コンクリート層4を設けると、筐体2の温度上昇を抑制出来るとともに、コンクリート層4で本体100を拘束する。その結果、本体100の変形を抑制することが出来る。
【0038】
地中は土粒子の表面及び空隙部に水分及び酸素を含んでおり、鉄板の腐食が極めて促進しやすい環境下となっている。また、海岸に近い場所にシェルター1を設置する場合、海水の飛沫の影響を受け、鉄板の腐食は促進される。しかし、外周部にコンクリート層4が設けられていると、コンクリート層4のアルカリにより鉄板の表面に不働態被膜が形成され、水分、酸素、及び塩素が存在する環境下でも鉄板の腐食を抑制することが出来る。
【0039】
また、コンクリート層4は津波の漂流物を直接コンクリート層4が受けることにより、コンクリート層4の内部側に設けられている本体100は、その衝撃の影響が緩和される。
【0040】
コンクリート層4は無筋コンクリートであることが好ましい。これにより、現場施工における配筋作業を省略することが可能となり、工期の短縮を図ることが出来る。
【0041】
扉5は、地上部Fに設けられ、
図2に示す通り、筐体2及び中空管3の開口8に溶接されている。扉5は1重又は2重の扉構造であり、水密性と耐衝撃性能を兼ね備えたものである。
【0042】
シェルター1の築造方法について説明する。
【0043】
本体100は、設備の整った工場で作成する。製作工程を以下に示す。
【0044】
側板21に複数の中空管3を外篏し所定の位置に配設した後、側板21に溶接することで位置を固定する。なお、最上部及び最下部の中空管3U、3Lに設けられた支持材6U、6Lは、側板21の上端部及び下端部に形成された凹部(図示略)に挿入する。
【0045】
底板23及び天井板22を側板21の上端部及び下端部に取り付け、側板21並びに支持材6U、及び6Lに溶接することで位置を固定する。
【0046】
なお、本発明実施形態では中空管3U、3Lの外側に天井板22、底板23を設けているが、天井板22、底板23の外側に中空管3U、3Lを設けてもよい。また、底板23は省略してもよい。
【0047】
筐体2と中空管3に開口8を設け、
図2に示す通り、開口8に扉5を溶接することで固定する。なお、開口8はあらかじめ成形しておいてもよい。
【0048】
中空管3にモルタル3bを注入する注入孔(図示略)と、内部空間3aに充填している空気を抜くとともにモルタル3bの充填状況を確認するための確認孔(図示略)を形成する。確認孔は所定の間隔で複数設ける。注入孔からモルタル3bを注入し、確認孔からモルタル3bが排出されることで、モルタル3bの充填を確認する。なお、モルタル3bの充填は施工現場で行ってもよい。
【0050】
人力掘削及び小型の掘削機を使用して所定の深さまで掘削し、穴Hを形成する(
図4参照)。のり面の安定を確認しながら慎重に掘削作業を進める。掘削完了後、底部の転圧を行い底面の不陸を整正し、平坦化を図る。なお、湧水等が認められる場合は、底部に砕石を敷き均し転圧する作業を追加してもよい。
【0051】
底部にコンクリートを打設・養生することによって基礎10を構築する。基礎10は後工程を容易にすることを考慮して上面の水平を極力確保して仕上げることがよい。
【0052】
工場で製作した本体100を据え付け現場へ搬入し、小型クレーンによって吊り下げ、基礎10に仮固定することで据え付ける。
【0053】
セパレータ(図示略)を用い側板21と所定の間隔を確保した状態で、側板21の周囲のみに型枠Tを築造する。側板21及び天井板22は、コンクリート打設のときの内側の型枠として機能するため、型枠Tの内側に新たに型枠を設ける必要はない。また、天井板22は支持材6Uで補強されているため打設時のコンクリートの重量を直接受けても変形は抑制され、所定の強度を確保することが出来る。すなわち、コンクリート打設時において、型枠として機能する天井板22を支持するために、本体100の内部に新たに支保工を設ける必要はない。このように、内側の型枠及び本体100の内部に設ける天井板22を補強するための支保工は不要となることから、コストの削減及び現場工期の短縮を図ることが出来る。
【0054】
型枠Tと本体100の間に形成された空間にコンクリートを打設する。なお、天井板22から所定の高さまでコンクリートを打設する。コンクリートの打設後、天井板22上のコンクリート打設面を養生シートで覆い養生する。
【0055】
型枠Tを撤去し、コンクリート層4と穴Hの間に形成された空間を土又はコンクリートで埋める。埋め戻しに使用する土は、施工現場で発生したものを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、シェルター等の避難施設に適用可能であり、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0057】
1 :シェルター
100 :本体
2 :筐体
3、3L、3U :中空管
3a :内部空間
3b :モルタル(充填材)
4 :コンクリート層
5 :扉
6L、6U :支持材
8 :開口
10 :基礎
21 :側板
22 :天井板
23 :底板
A :筐体の内径
C :中空管の内径
F :地上部
S :地下部
T :型枠
H :穴
【要約】
施工が簡単でコストが削減された高強度なシェルターを提供する。
シェルター1は、基礎10に据え付けられた本体100と、本体100の外周部に設けられたコンクリート層4を備え、本体100は、天井板22、および円筒形の側板21を含む鉄製の筐体2と、筐体2の地上部Fに設けられた扉5と、筐体2の内径に対し直径が所定範囲に設定され、側板21の外表面に円周方向に設けられた複数の円環形状の中空管3を有し、シェルター築造工法は、本体100を工場で製作し、穴Hを形成し、穴Hの底部に基礎10を構築し、基礎10に本体100を据え付け、側板21の周囲に型枠Tを築造し、コンクリートを打設・養生し、型枠Tを撤去し、隙間を土又はコンクリートで埋める。