特許第6356944号(P6356944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6356944クローディン産生促進剤、オクルディン産生促進剤、タイトジャンクション機能強化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356944
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】クローディン産生促進剤、オクルディン産生促進剤、タイトジャンクション機能強化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9711 20170101AFI20180702BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180702BHJP
   A61K 36/03 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   A61K8/9711
   A61Q19/00
   A61K36/03
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-251060(P2012-251060)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-97959(P2014-97959A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年10月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 文弘
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 要
(72)【発明者】
【氏名】阪井田 和則
(72)【発明者】
【氏名】濱口 雅則
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−210948(JP,A)
【文献】 特開平11−180813(JP,A)
【文献】 特開2000−236846(JP,A)
【文献】 特開2009−256244(JP,A)
【文献】 特開平07−278003(JP,A)
【文献】 特開平04−095012(JP,A)
【文献】 特開2010−065007(JP,A)
【文献】 特開2009−269900(JP,A)
【文献】 Takashi Nakamura,High Tocopherol Content in a Brown Alga Ishige okamurae,Fisheries Science,1994年,Vol. 60, No. 6,p. 793-794
【文献】 Laura Arreola-Mendoza,The protective effect of alpha-tocopherol against dichromate-induced renal tight junction damage is mediated via ERK1/2,Toxicology Letters,2009年,Vol. 191,p. 279-288
【文献】 大森 敬之 Yoshiyuki Ohmori,特集 香粧品の新原料・新技術, FRAGRANCE JOURNAL Vol.34, No.10,津野田 勲 ▲C▼フレグランス ジャーナル社,第34巻,第30-34頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イシゲから水で抽出後、その抽出液に等量〜5倍量のエタノールを加えて抽出した抽出物を有効成分とするクローディン産生促進剤(但し、抗菌・防腐剤及び乾燥気味の肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎の皮膚疾患の改善剤としての用途を除く)。
【請求項2】
イシゲから水で抽出後、その抽出液に等量〜5倍量のエタノールを加えて抽出した抽出物を有効成分とするオクルディン産生促進剤(但し、抗菌・防腐剤及び乾燥気味の肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎の皮膚疾患の改善剤としての用途を除く)。
【請求項3】
イシゲから水で抽出後、その抽出液に等量〜5倍量のエタノールを加えて抽出した抽出物を有効成分とするタイトジャンクション機能強化剤(但し、抗菌・防腐剤及び乾燥気味の肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎の皮膚疾患の改善剤としての用途を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローディン、オクルディンの産生を促進し、タイトジャンクション機能強化する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は体の最も外側に存在しており、細菌などの外界からの刺激に対するバリアとしての役割を有している。皮膚においては、表皮細胞が基底細胞から有棘細胞、顆粒細胞、さらには角層細胞へと約4週間かけて角化し、これらの細胞中で細胞間脂質やNMF(天然保湿因子)、さらにはコーニファイドエンベローブを形成することによってバリア機能を成し遂げている。
しかし、研究が進み、皮膚のバリア機能は角層のみが担っていると考えられていたのが、表皮顆粒層に存在するタイトジャンクションの構成タンパク質を遺伝子レベルで欠損させると皮膚のバリア機能が崩壊することから、近年、タイトジャンクションも皮膚のバリア機能に重要な役割を担うと考えられてきている(非特許文献1参照)。
【0003】
タイトジャンクションは、細胞間結合のひとつで、密着結合あるいはタイト結合とも呼ばれ、隣り合う上皮細胞をつなぎ、細胞と細胞の隙間をシールすることで物質の透過を制御する結合装置である。したがって、クローディンやオクルディンなどのタイトジャンクション構成タンパク質が何らかの原因で減少した場合、タイトジャンクションの構造的な破壊が起こり、物質の透過バリアとして機能が低下し、乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎や各種感染症などの皮膚症状が引き起こされる。
クローディンやオクルディンの産生を促進することにより、タイトジャンクション機能強化し、皮膚のバリア機能及び水分保持機能を高め、乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎や各種感染症などの皮膚症状を予防する。
これらの用途でいくつかの物質が知られている。(特許文献1〜4参照)
【0004】
また、イシゲは、褐藻植物門、褐藻網、ナガマツモ目、イシゲ科、イシゲ属の海藻で、学名Ishige okamurai Yendoといい、茨城以南の沿岸で広く分布する褐藻類である。食用には硬いので適さない。
すでに、美白、育毛、痩身或いは抗菌・防腐等の目的で皮膚外用剤や食品に利用されている。(特許文献5〜8)
【0005】
【特許文献1】特開2007−210948号公報
【特許文献2】特開2009−256244号公報
【特許文献3】特開2009−269900号公報
【特許文献4】特開2010−065007号公報
【特許文献5】特開平04−95012号公報
【特許文献6】特開平07−278003号公報
【特許文献7】特開平11−180813号公報
【特許文献8】特開2000−236846号公報
【非特許文献1】The Journal of Cell Biology 156:1099−1111(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はクローディン、オクルディンの産生を促進し、タイトジャンクション機能強化し、乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎や各種感染症などの皮膚症状に有効な皮膚外用剤を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、イシゲの抽出物が上記目的を達することがわかった。
イシゲは、必要に応じて乾燥した後、抽出効率を考えると、細切、粉砕等の処理を行った後に抽出する。
乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。
前記抽出に用いる溶媒としては、水若しくは親水性有機溶媒又はこれらの混合液を用いる。
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
前記親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
なお、前記水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1〜20質量部、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1〜15質量部添加することが好ましい。多価アルコールの場合は水10質量部に対して1〜20質量部添加することが好ましい。
【0008】
抽出に使用する有機溶媒の量は、原料となる植物に対して望ましくは5〜100倍量程度、さらに望ましくは10〜50倍量程度が良い。さらに抽出効率を上げるため、抽出溶媒中で撹拌やホモジナイズしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間〜14日間程度とするのが適切である。
尚、抽出操作は1回のみの操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶媒を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶媒を複数回抽出原料に接触させることも可能である。
本発明者らが検討した結果、本発明の効果を発揮する物質は、水にも、80%のエタノール抽出されるので、ある程度精製する場合は、水で抽出したのち、不溶物を取り除き、等量〜5倍量のエタノールを加えてさらに抽出するとよいこともわかった。
必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色等の精製処理を加えても良く、エバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより、濃縮することができる。
また、この抽出物を合成吸着剤(ダイアイオンHP20やセファビースSP825、アンバーライトXAD4、MCIgelCHP20P等)やデキストラン樹脂(セファデックスLH−20など)、限外濾過等を用いてさらに精製することも可能である。
【0009】
本発明の製剤は、経口、注射、外用のいずれでも薬効を発現するが、皮膚外用剤として用いるのが好ましい。皮膚外用剤には、皮膚化粧料、外用医薬部外品、医療用皮膚外用剤が含まれる。
【0010】
また、本発明の製剤には、上記成分の他に医薬品や化粧品の各種製剤において使用されている界面活性剤、油性成分、保湿剤、高分子化合物、紫外線吸収剤、抗炎症剤、殺菌剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、防腐剤、ビタミン類、色素、香料、水等を配合することができる。
【0011】
上記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性、天然、合成のいずれの界面活性剤も使用できるが、皮膚に対する刺激性を考慮すると非イオン性のものを使用することが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグリコシド等が挙げられる。
【0012】
油性成分としては、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、精油類、シリコーン油類などを挙げることができる。油脂類としては、例えば大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド等の合成トリグリセリド等が;ロウ類としては、例えばカルナバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等が;炭化水素類としては、例えば流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、ブリスタン等が;高級脂肪酸類としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等が;高級アルコール類としては、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等が;エステル類としては、例えばオクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル等が;精油類としては、例えばハッカ油、ジャスミン油、ショウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リュウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモット油、ミカン油、ショウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、タイム油、ペパーミント油、ローズ油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラニオール、カンファー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テルペン系化合物等が;シリコーン油類としては、例えばジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これら上述の油性成分は一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、このうち特にミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸トリグリセリド、ラノリン、流動パラフィン、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、オクタン酸セチル、オクタン酸トリグリセライド、ミリスチレン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸コレステロール、POEソルビット脂肪酸エステル、ハッカ油、トウヒ油、ケイ皮油、ローズ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ゲラニオール、ピネン、リモネン、ジメチルポリシロキサンを使用することが好ましい。
【0013】
本発明の製剤には、さらに下記のような成分を配合することができるが、その成分もこれらに限定されるものではない。
色素類;黄色4号、青色1号、黄色202号等の厚生省令に定められたタール色素別表I及びIIの色素、クロロフィル、リボフラビン、クロシン、紅花、アントラキノン等の食品添加物として認められている天然色素等。
ビタミン類;ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等。
その他;殺菌剤、防腐剤、その他製剤上必要な成分等。
【0014】
本発明の製剤は、前記必須成分に必要に応じて前記任意成分を加え、常法に従って製造することができ、クリーム、乳液、化粧水等の形態とすることができる。
【実施例】
【0015】
次に実施例(製造例)を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0016】
製造例
イシゲ50g(湿重量)に精製水500gを加え、ミキサーを用いてホモジナイズした。これを遠心分離し濾液を得た。この濾液に4倍量のエタノール2Lを加え、ときどき撹拌しながら、24時間後に濾過(No5C)し、これを凍結乾燥した。
【0017】
確認試験
2継代目のヒト包皮由来ケラチノサイト(クラボウ)を70−80%コンフルエントとなるようHuMedia−KG2培地で培養後、試験品を加えた培地に交換し、37℃、5%CO2インキュベータ中で24時間培養した。
【0018】
<RNAの抽出>
細胞からの Total RNAの抽出は、RNeasy mini kit(QIAGEN)を用い、添付マニュアルに従い調製した。RNA濃度は、NanoDrop1000(Thermo SCIENTIFIC)を用い算出した。
【0019】
<RT反応およびリアルタイムPCR>
1.0μgのTotal RNAを使い、ReverTra Ace qPCR RT Kit(東洋紡社)を用い、添付マニュアルに従いRT反応を行った。
リアルタイムPCRは、StepOneplus リアルタイムPCR System(AppliedBiosystems)を用い、以下のように実施した。Taqman Fast Advanced Master Mix(AppliedBiosystems)およびクローディン1またはオクルディンのTaqmanプライマー(AppliedBiosystems)を用い、Comparative CT(△△CT)法(n=8)により遺伝子発現比較を実施した。内部標準としてβ−Actin(AppliedBiosystems)を使用した。
【0020】
確認試験は、クローディン1とオクルディンに関しては製造例0.01%と0.02%作用させて実験し、その結果を図1及び図2に示す。
結果を見ると、製造例はクローディン1の遺伝子発現量を、0.01%で約3.5倍に、0.02%で約12倍に増加させることがわかり、オクルディンの遺伝子発現量を、0.01%で約3.5倍に、0.02%で約8倍に増加させることがわかった。
【0021】
また、製造例を配合した外用剤を作成し、実際に使用してみた結果、乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎に改善がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】製造例の終濃度0.01%と0.02%での確認試験結果でクローディン1の遺伝子発現量変化を示す図である。 縦軸は製造例を添加していない場合の遺伝子発現量を1としてときの遺伝子発現量である。
図2】製造例の終濃度0.01%と0.02%での確認試験結果でオクルディンの遺伝子発現量変化を示す図である。 縦軸は製造例を添加していない場合の遺伝子発現量を1としてときの遺伝子発現量である。
図1
図2