特許第6356995号(P6356995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6356995
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】フロントフォーク
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/48 20060101AFI20180702BHJP
   F16F 9/34 20060101ALI20180702BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   F16F9/48
   F16F9/34
   B62K25/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-74086(P2014-74086)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-197127(P2015-197127A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−096442(JP,U)
【文献】 特開2006−329370(JP,A)
【文献】 特開2003−172395(JP,A)
【文献】 特開2013−181544(JP,A)
【文献】 実開昭61−049148(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00− 9/58
B60R 21/00−21/13
B60R 21/34−21/38
B62K 25/00−27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン及びこのピストンを支持するロッドと、
上記ピストンよりも上側、かつ上記ロッドの外周に配設されるロッドガイドと、
上記ピストンが摺動自在に収容され、かつ上記ピストンで第1油貯留室と第2油貯留室とに区画された長手状のシリンダ空間と、
このシリンダ空間の外周に形成された油流路室と、
シリンダ上部に設けられ、かつ上記第1油貯留室と油流路室とを連通する連通孔と、
上記シリンダ空間と油流路室との下部を封止固定するホルダ部材と、
上記ロッドを支持するキャップ部材と、
上記第2油貯留室の第1下部開口と上記油流路室の第2下部開口に両側が接続された減衰力発生手段とを備え、
圧縮時に上記ピストンの押圧力で第1下部開口より押し出される作動油を上記減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから第2下部開口、油流路室から上記連通孔を介して第1油貯留室に循環させ、
伸長時に上記ピストンの押圧力で上記第1油貯留室内の作動油を上記連通孔を介して油流路室から第2下部開口より押し出される作動油を減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから上記第1下部開口より第2油貯留室に循環させ、
上記油流路室の外周側にリング状の外緩衝室を形成するとともに、この外緩衝室の内外周に気密を保って摺動する筒状のリング体よりなるリングピストン部材を収容し、かつ、上記キャップ部材側より上記外緩衝室方向に延長するとともに先端側で、上記リング体を保持するようにして、上記リング体により上記外緩衝室に圧縮力を付与するように構成したフロントフォークにおいて、
上記リング体により区画された上部空間と下部空間とを連通する空気流路を上記リング体に設けるとともに、上記下部空間内の内周及び外周に密接されるリング状の摺動部材を設け、この摺動部材の上記ロッドガイドまでの距離を一定位置に規制する規制手段を設け、
さらに、上記下部空間内の上記摺動部材より上部のばね室に上記リング体と摺動部材との間に介在されるスプリングを設けたことを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記空気流路は、リング体の内周に形成され、かつ上記上部空間及び下部空間に延長する凹溝よりなることを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記摺動部材は、内外周に設けた凹溝に嵌合されるシール材を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記規制手段は、一端がロッドガイドに取り付けられ、先端側がリング体を超えて摺動部材まで延長する筒体よりなることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載のフロントフォーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフォークに関し、特に、ブレーキングの安定性及び乗り心地性を向上させるフロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車のフロントフォークには、特許文献1で開示されるものが知られている。これは、車体側チューブと車輪側チューブとを摺動自在に嵌合したフロントフォーク本体内
に懸架スプリングを内蔵し、この懸架スプリングのばね荷重をアジャスタ部材で調整可能としたものである。
しかしながら、特許文献1の懸架スプリングによれば、圧側行程、伸側工程でのストローク変化に対し所期の反力特性を得るのにスプリングレートを調整する機構を採用しているが、各ストローク長での反力特性を適確に得るのが困難であり、特にストローク奥でのばね荷重及びフロントフォーク内の圧縮された空気のエアばね効果により反力が大きくなり路面からの衝撃吸収性が悪化し、ストローク奥での乗り心地に硬さ感を与えてしまう欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−177937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、こうした問題を鑑みてなされたものであり、ストローク変化に対応する反力特性を得て、特にストローク奥での反力特性を適確な状態に設定可能として走行状態に関わらず好適な減衰力が得られるフロントフォークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明に係るフロントフォークの構成として、ピストン及びこのピストンを支持するロッドと、上記ピストンよりも上側、かつ上記ロッドの外周に配設されるロッドガイドと、上記ピストンが摺動自在に収容され、かつ上記ピストンで第1油貯留室と第2油貯留室とに区画された長手状のシリンダ空間と、このシリンダ空間の外周に形成された油流路室と、シリンダ上部に設けられ、かつ上記第1油貯留室と油流路室とを連通する連通孔と、上記シリンダ空間と油流路室との下部を封止固定するホルダ部材と、上記ロッドを支持するキャップ部材と、上記第2油貯留室の第1下部開口と上記油流路室の第2下部開口に両側が接続された減衰力発生手段とを備え、圧縮時に上記ピストンの押圧力で第1下部開口より押し出される作動油を上記減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから第2下部開口、油流路室から上記連通孔を介して第1油貯留室に循環させ、伸長時に上記ピストンの押圧力で上記第1油貯留室内の作動油を上記連通孔を介して油流路室から第2下部開口より押し出される作動油を減衰力発生手段を経由させ、減衰力を付与してから上記第1下部開口より第2油貯留室に循環させ、上記油流路室の外周側にリング状の外緩衝室を形成するとともに、この外緩衝室の内外周に気密を保って摺動する筒状のリング体よりなるリングピストン部材を収容し、かつ、上記キャップ部材側より上記外緩衝室方向に延長するとともに先端側で、上記リング体を保持するようにして、上記リング体により上記外緩衝室に圧縮力を付与するように構成したフロントフォークにおいて、上記リング体により区画された上部空間と下部空間とを連通する空気流路を上記リング体に設けるとともに、上記下部空間内の内周及び外周に密接されるリング状の摺動部材を設け、この摺動部材の上記ロッドガイドまでの距離を一定位置に規制する規制手段を設け、さらに、上記下部空間内の上記摺動部材より上部のばね室に上記リング体と摺動部材との間に介在されるスプリングを設けたので、減衰力発生手段により十分な減衰力を得ることができる。圧側行程ではスプリングの圧縮で反力を受け、スプリング及び圧力室の圧縮力による反力をリング体に伝えることができることから圧側行程でのストローク奥でクッションの硬さが生じることがなく、安定したブレーキングを提供することができる。また、伸側行程では、空気が空気流路を経由して上部空間側に抜けるのでリング体及びピストンが直ちに復旧し、応答性が良好となる。
【0006】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記空気流路は、リング体の内周に形成され、かつ上記上部空間及び下部空間に延長する凹溝よりなるので、上部空間や下部空間の圧力に応じて空気流路を流れる空気の流れを規制しつつリング体に所期の圧力を付与することにより所望の緩衝性能を得ることができる。
【0007】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記摺動部材は、内外周に設けた凹溝に嵌合されるシール材を有するので、ホルダ部材と摺動部材との間で空気ばねとして作用する圧力室を形成し、スプリングとの間で好適な緩衝性能を構成することができる。
【0008】
また、本発明に係るフロントフォークの他の構成として、上記規制手段は、一端がロッドガイドに取り付けられ、先端側がリング体を超えて摺動部材まで延長する筒体よりなるので、圧側行程において圧力室が動作するときの初期の緩衝性能を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フロントフォークの断面図である。
図2】フロントフォークの拡大断面図である。
図3】フロントフォークの要部斜視図である。
図4】フロントフォークの要部拡大断面図である。
図5】減衰力発生機構及び温度補償機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明に係るフロントフォークの一実施形態を示す断面図であり、図2はその要部拡大断面図、図3はその要部斜視図、図4はその要部拡大断面図である。各図において、1は車軸側に取付けられるホルダ部材であり、このホルダ部材1は、車軸取付孔1aに貫通される車軸を締め付ける締付けボルト1bを有し、このホルダ部材1の側部側に、後述の減衰力発生機構70及び温度補償機構130を有する。なお、1iはブレーキキャリパ取付部、1tは車速センサ取付部、1yは割部である。車軸取付孔1aに図示しない車軸を挿入してボルト1bを締め付けることで割部1yを狭くして車軸をホルダ部材1に固定する。このホルダ部材1と車体側のキャップ部材12との間で伸縮自在な長手状のフロントフォーク本体Sが保持される。ホルダ部材1には作動油注入用の栓部53が設けられ、作動油がこの栓部53を介して後述の上部油室F1、下部油室F2、間隙5、減衰力発生機構70、温度補償機構130等にあらかじめ注入される。なお、27は、ホルダ部材1の側部において突出するように上下一対に形成され、車輪外周の一部を被い保護するフェンダーを固定するためのフェンダー取付部である。
【0011】
上記フロントフォーク本体Sの内部中央には、中心軸に沿って細筒体よりなるロッド2が位置される。このロッド2の先端側にピストン3が取り付けられ、このロッド2はシリンダ4の上側の開口より挿通される。このロッド2の下部先端は、ピストン3の上部穴3aにねじ止めして固定される。ピストン3の下端外周には、スライド封止部材3gが取り付けられるので、ピストン3は内シリンダとしてのシリンダ4の内周4bとで封止状態を保ちつつ上下にスライド自在となっている。なお、ピストン3によりシリンダ4の内部空間(シリンダ空間)Fが、第1油貯留室としての上部油室F1と第2油貯留室としての下部油室F2とに区画される。
【0012】
20はガイド筒であり、このガイド筒20は、下端がホルダ部材1の穴1nに封止状態で嵌合されて上方に突出し、その上端外周に筒状のガイド21がねじ部22により螺着して被せられ、このガイド21の上部内周の溝23にシール部材24が取り付けられ、ガイド21によりロッド2と別体のガイドロッド25がガイド筒20の内部方向に進退可能となっている。ガイドロッド25は、ガイド21によりガイドされてガイド筒20内を上下方向に移動することで、ロッド2とともにピストン3を中心軸に沿って直線状に導く。ガイド21の外周には、作動油流通路30が形成されるので、下部油室F2内の作動油は、ピストン3より下部側で、かつガイドロッド25の外周及びガイド筒20の外周とで圧力に変化はない。
【0013】
シリンダ4は、上記ガイド21より大径となっており、その下端側は、ホルダ部材1の穴1xに封止状態で螺合され、その上端側に連通孔Jを有する。上記ホルダ部材1より突出する保持筒40mの内周には、外シリンダ7の下端側が封止状態で嵌合される。なお、内シリンダとしてのシリンダ4の外周4aと、外シリンダ7の内周7bとの間には間隙5が形成される。この間隙5は、連通孔Jを介して上部油室F1の作動油を後述の減衰力発生機構70に流通させるための油流路室Rとして機能する。また、ピストン3より下部側の下部油室F2の底部側には第1下部開口42が形成され、また間隙5の底部側には第2下部開口43が形成される。
第1下部開口42は、ホルダ部材1の内周においてシリンダ4の下端よりも下側にリング状に形成されたリング溝42aの一部より延長する孔44を介して減衰力発生機構70の一端45側に接続され、第2下部開口43はリング溝43aから孔47を介して減衰力発生機構70の他端48側に接続される。
【0014】
上記外シリンダ7の上端内周7b側には、ロッドガイド6の下部外周が螺合して固着される。このロッドガイド6の内周側にはスライドシール6aが設けられ、このスライドシール6aによりロッド2の外周が摺動状態で封止される。6bは、ロッドガイド6の外周と外シリンダ7の内周7bとを封止するためのシールである。ロッドガイド6の下部側内周には、ロッド2の外周との摺動を支持するリング状のスライドスリーブ6dが圧入して取り付けられる。ロッドガイド6の下面には、リング材6cが位置される。このリング材6cの下端には、ばね座6fが設けられる。ばね座6fの内周にはスライドスリーブ6eが圧入して取り付けられ、ばね座6fがロッド2の外周を摺動可能となるように構成される。
【0015】
ロッド2の所定位置の外周には、ストッパ2gが位置される。このストッパ2gは、ロッド2の外周に図外の固定手段で固定されたストッパホルダ2nに螺合する止め具2mと一体化される。上記ストッパ2gはロッド2が下方に摺動する場合に、ピストン3が一定位置まで移動したときにロッドガイド6の上端に当接してピストン3及びロッド2の下方向への移動を規制する。
【0016】
ロッドガイド6のやや下部側に位置するピストン3の上部側外周は、テーパー状となって、この部分がばね座3bとなっている。ばね座6fとばね座3bとの間にばね50が装着される。この場合、ばね50の下部がばね座3bの外周に取り付けられ、ピストン3とロッドガイド6との衝突を緩衝する。なお、ピストン3の下部側の穴3dにガイドロッド25の上端外周がねじ止めにより嵌合されて、ガイドロッド25はピストン3を介してロッド2と同軸で一体となる。
【0017】
また、保持筒40mの外周には外シリンダ7の外周7aとで一定間隔のスペース8を形成するように、最外シリンダ9の根元側内周9bが封止、嵌着される。スペース8は、外緩衝室Mを形成するもので、後述のリングピストン部材14により上部空間16と下部空間17とに区画される。なお、1qは最外シリンダ9の内周9bと保持筒40mとの外周とを封止するOリングである。この場合、外シリンダ7はシリンダ4より上方が僅かだけ延長しているが、最外シリンダ9はシリンダ4及び外シリンダ7よりも相当程度長く上方に延長するように寸法設定されている。
【0018】
11は、大径の筒状の摺動筒であり、最外シリンダ9の外周9aを囲むように最外シリンダ9の上端側からホルダ部材1方向にかけて延長して、先端内周9b側に、最外シリンダ9の外周9aとで気密を保持する封止部材10を有している。摺動筒11の内周には、最外シリンダ9との摺動を可能に互いを支持する軸受11a;11bが上部側及び下部側のそれぞれに設けられる。これによりホルダ部材1に取り付けられる車軸側チューブとしての最外シリンダ9、車体側に取り付けられる車体側チューブとしての摺動筒11とが互いに摺動自在に構成される。
【0019】
摺動筒11の上端内周は、キャップ部材12の基部12nより突出する筒部12fの外周にねじ止めされる。基部12nの穴12aに空転状態で調整ボルト(支持体)12bが取り付けられる。12mは調整ボルト位置決めリングであって、ばね12oの付勢力により、調整ボルト12bを上向きに付勢して調整ボルト12bの位置決めをする。
調整ボルト12bの筒体12cの上部外周には、調整ボルト12bの回転とともに回転する円筒状の筒体12sが取り付けられる。筒体12sの外周には、筒体12sの軸線方向に沿って延長する図示しない溝が形成される。また、筒体12sの外周には、前述の溝の延長方向に沿って移動可能に形成された凸部を内周側に有する円環状のリング体12tが設けられる。リング体12tの外周には、筒部12fの内周に形成されたねじ溝と螺合するねじ溝が形成されている。
また、この調整ボルト12bの筒体12cの下部外周の螺合部には、仕切り片12dを有する吊り筒体12eの上部内周が螺着される。吊り筒体12eの仕切り片12dより下部筒体12gの内周にロッド2の上端外周がねじ部12kを介して螺着される。吊り筒体12eの外周には、この吊り筒体12eの外周を軸線方向に沿って移動するリング状の鍔部12iを備える。この鍔部12iの下面側には、ハット状の保持体12jが設けられ、この保持体12jの外周に保持筒13の上端内周が螺着される。保持筒13はスペース8方向に延長し、その先端側にリングピストン部材14が設けられる。なお、13mは保持筒13に形成された軽量化及び空気の流通を図る長孔である。
【0020】
上述のリング体12tと鍔部12iとの間には、保持筒13の上下方向の移動を可能にするための筒状の保持筒押圧体12pと、筒状の押圧体支持リング12qとが設けられる。保持筒押圧体12pは、押圧体支持リング12qの内周側に設けられ、押圧体支持リング12qと一体となるように、押圧体支持リング12qの内周と押圧体支持リング12qの外周との間に設けられた保持手段により円周方向に沿って互いに回転可能であるが軸線方向には移動不能に保持される。一体となった保持筒押圧体12p及び押圧体支持リング12qは、押圧体支持リング12qの開放端面がリング体12tの下面と当接し、保持筒押圧体12pの開放端面が鍔部12iの上面と当接する。
これにより、調整ボルト12bを回転することで、リング体12tが筒部12f内周のねじに沿って回転して上下方向に移動し、保持筒押圧体12p及び押圧体支持リング12qを上下動させることにより鍔部12i及び保持体12jの上下位置を変位させて保持筒13の上下位置が調整される。
【0021】
図2図3において、リングピストン部材14は、ピストン3の位置よりもやや下方に位置するように、保持筒13の下端側に設けられる。上記リングピストン部材14は、上記外シリンダ7の外周7aと、最外シリンダ9の内周9bとの間のスペース8を上部空間16と、下部空間17とに区画するリング体15を備える。
リング体15は、基部15cを保持筒13の先端側15w内周のねじ部15xを介して螺入されて取り付けられ、基部15cより下端側が上記保持筒13の先端より突出し、その外周側に最外シリンダ9の内周9bに摺接する外シール15eを備えている。これにより保持筒13の上下動にともなって、リング体15はピストン3と同じ位置関係を保って最外シリンダ9の内周9bを上下に摺動する。
【0022】
上記リングピストン部材14のリング体15には、上記上部空間16と下部空間17とを連通する空気流路40が設けられる。この空気流路40は、例えば、リング体15の内周に、上部空間16,下部空間17方向に延長する凹溝40aを形成してなる。
【0023】
また、リング体15より下側の下部空間17内には、下部空間17の内周、外周に密接されるリング状の摺動部材41が設けられる。この摺動部材41は、内、外周に設けた凹溝41a,41bに嵌合されるシール材41cを有する。この摺動部材41は、規制手段49の先端に当接することでロッドガイド6の先端まで一定距離となる位置が規制される。上記規制手段49は、一端がロッドガイド6に取り付けられ、他端側が、例えばリング体15の下端から所定長さ分突き出るように延長する筒体よりなる。
【0024】
上記下部空間17は、摺動部材41により上部のばね室17Bと、下部の圧力室17Aとに区画される。この圧力室17Aには、ホルダ部材1側に設けた空気バルブ1Aからの空気が連通路1Nを介して送られて、あらかじめ内圧が所定の大きさに設定される。また、上記ばね室17Bには、摺動部材41の上部側にスプリング60が設けられる。
【0025】
このスプリング60は、キャップ部材12に設けられた調整ボルト12bを回動することにより、保持筒13を上下動させ、リングピストン部材14のリング体15に対する上下位置が調整される。例えば、スプリング60の上端がリング体15の下面に当接している場合には、リングピストン部材14の位置を調整することにより、スプリング60の初期のばね力を設定できる。
また、フォーク本体Sの緩衝動作において上記リング体15がホルダ部材1方向に移動するときに、上記調整ボルト12bにより調整された一定位置でリング体15の下端がスプリング60の上端に接し、これによりスプリング60が圧縮される。このスプリング60が所定長さ分圧縮された後に、摺動部材41がスプリング60を介してホルダ部材1方向に押圧される。すなわち、圧力室17Aの空気の圧力は、スプリング60に所定の荷重が負荷されたときに、下方向に移動するように設定される。
【0026】
以上の構成により、ピストン3を収容するシリンダ4の内部空間により緩衝室Bが形成され、外シリンダ7と最外シリンダ9との間のスペース8によりリング状となった外緩衝室Mが形成される。
【0027】
次に、減衰力発生機構70及び温度補償機構130の構成を説明する。図5は減衰力発生機構70及び温度補償機構130を示す要部拡大断面図である。
上記減衰力発生機構70は、圧側行程では一端45側からの作動油に減衰力を与えて他端48側から流出させ、伸側行程で他端48側からの作動油に減衰力を与えて一端45側より流出させることで圧側及び伸側行程におけるフォーク本体Sの動作に減衰力を付与する。
【0028】
減衰力発生機構70は中心筒体70aと、この中心筒体70aの両側外周に固着された円板状の仕切板70b,70cと、一端45側の仕切板70bに形成された貫通孔70dを塞ぐように仕切板70bの他端48側に取り付けられた圧側減衰バルブ70eと、他端48側の仕切板70cに形成された貫通孔70gを塞ぐように仕切板70cの一端45側に取り付けられた伸側減衰バルブ70hと、圧側減衰バルブ70eと伸側減衰バルブ70hとの間の空間よりなる中間室70iと、中心筒体70aの中心に位置される針弁70jとを備える。
【0029】
圧側減衰バルブ70eと伸側減衰バルブ70hとの間には、円板状のリング体80aが設けられる。リング体80aには、厚さ方向中央部分に、内周から外周にかけて径方向に貫通する複数の貫通孔80bが放射状に形成される。また、この貫通孔80bに対応するように中心筒体70aには、この中心筒体70aを径方向に貫通する貫通孔80cが設けられている。中心筒体70aの中央孔80dは一端45側が小径孔80eとなり、反対側が大径孔80fとなり、小径孔80eの他端48側で針弁70jの先端のテーパ80gとで間隙90aを形成する角部90bが形成される。また、針弁70jの根元側にテーパ部材90fが設けられ、このテーパ部材90fのテーパとで間隙90cを形成する角部90dが形成される。
【0030】
針弁70jは、調整機構90eにより進退自在に微調整される。なお、91aは貫通孔70mを一端45側から塞ぐチェック弁、91bは貫通孔70nを他端48側から塞ぐチェック弁である。圧側減衰バルブ70e、伸側減衰バルブ70h、チェック弁91a,91bはいずれも弾性薄板を複数重ねて層状化して構成される。このような減衰力発生機構70は、ホルダ部材1の側部にフロントフォーク本体Sに対して傾斜して設けられる。
【0031】
以上の構成によれば、圧側行程では、一端45側からの作動油L1が、貫通孔70dから流入し圧側減衰バルブ70eを押し開いて中間室70iに供給されるとともに小径孔80eにも先端側から流入し、間隙90aを介して中央孔80dの貫通孔80cからリング体80aの貫通孔80bを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70nを介してチェック弁91bを押し開いて、他端48方向に供給され、孔47、間隙5から連通孔Jを経由して上部油室F1に導かれて循環する。
また、伸側行程時では、他端48側からの作動油L2は、貫通孔70gから流入し、伸側減衰バルブ70hを押し開いて中間室70iに供給されるとともに大径孔80fに連通する孔93から中央孔80dの貫通孔80cを介して中間室70iに供給される。中間室70iの作動油は、貫通孔70mからチェック弁91aを押し開いて一端45方向に供給され、下部油室F2に導かれて循環する。
【0032】
上述の減衰力発生機構70による減衰力の発生動作において、作動油の温度変化による作動油の体積変化は、中間室70iに開口する通路115を介して温度補償機構130に導かれることで、温度補償がなされる。温度補償機構130は、通路115が開口する油溜室132と、位置が変位自在に設けられたフリーピストン133により区画される加圧室134を反対側に備え、加圧室134内に封入されたガスの圧力と減衰力発生機構70側の作動油の圧力とのバランスをフリーピストン133を変位させることにより、油溜室132に作動油を流入出させて、減衰力発生機構70側の作動油の容積を一定に維持して、外気温度や、フロントフォーク本体Sの動作による作動油の温度上昇などに依存しない安定した減衰力が得られるように構成されている。
【0033】
以上の構成においてこのフロントフォーク本体Sの動作を以下説明する。この場合上部油室F1、下部油室F2、間隙5、減衰力発生機構70、油溜室132からなる緩衝室Bには作動油が充填され、外緩衝室Mを構成する上部空間16、下部空間17のみが空洞となっているものとする。また、空気バルブ1Aにより、下部空間17の圧力室17Aの空気圧は、所定の圧力レベルに設定されているものとする。
【0034】
[圧側行程]
車体側と車軸側に取り付けられたフロントフォーク本体Sが収縮する圧側行程では、前述の如く減衰力発生機構70の作動油の減衰力制御により油圧による緩衝動作が行なわれる。一方、キャップ部材12が相対的にホルダ部材1方向に移動することで保持筒13が下降し、リング体15が下降し、ばね室17B内のスプリング60が圧縮される。さらに、リング体15がスプリング60を圧縮させつつ一定距離まで下降する。リング体15の下降が継続され、リング体15からスプリング60に圧力室17A内の空気圧縮が開始される荷重が負荷されると、スプリング60はさらに圧縮されながら摺動部材41を押圧して圧力室17Aの空気を圧縮し始める。この場合、リング体15の下降時、ばね室17Bにもキャップ部材12側の上部から圧縮された空気が空気流路40を介して送られるので、ばね室17B内の空気圧によっても、摺動部材41を可能に押圧することに寄与する。
【0035】
すなわち、リング体15は、最外シリンダ9の内周9bを摺動しながら下降すると、まずスプリング60を圧縮し、さらにこのスプリング60に圧力室17Aの空気を圧縮する荷重が負荷されると、このスプリング60はさらに圧縮されつつ摺動部材41を下方に押圧することで圧力室17Aを圧縮する。このように、本実施形態では、スプリング60の圧縮による反力と、スプリング60の圧縮による反力及び圧力室17Aの圧縮による反力を組み合わせた組み合わせ反力との二段階の反力が加えられるので、スプリング60のばね力の調整及び圧力室17Aの空気ばね力の調整にもとづき、各ストローク長での所望の反力特性を得ることができる。しかも、摺動部材41は、規制手段49の先端で停止しており、この先端の位置を起点として押圧されて圧力室17Aを圧縮するので、規制手段49の長さをあらかじめ設定しておくことにより、圧力室17Aの圧縮比を変更することが可能となり、摺動部材41が摺動するストローク奥でのばね特性を変更でき、ストローク奥で通常生じる硬くなるような乗り心地を改善できる。
【0036】
[伸側行程]
この場合も、減衰力発生機構70の減衰力制御により油圧による緩衝動作が行なわれる。一方、ロッド2の上昇にともなって、スプリング60に圧側行程で内在した反力及び圧力室17Aに内在した反力を摺動部材41が受圧したまま上昇し、規制手段49の先端と当接して停止する。この後、リング体15にはスプリング60による反力と、この反力とは逆向きの上部空間16の空気が空気流路40を介してばね室17B側に流れるときに作用する抵抗力とにより伸側行程が行なわれるので、フロントフォーク本体Sの伸長動作の応答性を担保しつつ減衰力をさせることができる。
【0037】
以上説明したように、本発明にかかるフロントフォーク本体Sは、空気ばね室として形成された外緩衝室Mに、緩衝機能を果たすスプリング60と、このスプリング60を一端側から押圧するリングピストン部材14と、リングピストン部材14から押圧されたスプリング60を他端側から支持するように所定の空気圧が付与された圧力室17Aを区画するとともに規制手段49により移動範囲が規制された摺動部材41とを設けて、スプリング60に作用する荷重が設定された荷重以上となったときに、摺動部材41が移動するように圧力室17Aの内圧を印加しておくことにより、圧側行程における初期の段階ではスプリング60によって所定の緩衝特性を得て、スプリング60に設定された荷重以上の負荷が作用したときにはスプリング60と圧力室17Aの空気ばねによる合成ばね特性が得られるため、ストローク奥での衝撃吸収の性能を向上させることができる。すなわち、小さな路面からの衝撃を吸収するときには、スプリング60のみにより緩衝を吸収させ、大きなストローク量を必要とするギャップ通過時には、スプリング60と圧力室17Aの空気ばねによる合成ばね特性により衝撃を吸収させることができるので、乗り心地とストローク奥での衝撃の吸収性能を向上させることができる。
【0038】
また、本発明の構成によれば、圧力室17A以外の外緩衝室Mの容積を大きくできるので、フロントフォーク本体Sの動作においてこの圧力室17A以外の外緩衝室M内の空気の圧力変動が小さくできるため、緩衝動作の応答性も向上させることができる。特に、圧側行程におけるストローク奥での圧力室17A以外の外緩衝室Mで圧縮された空気のエアばね効果による反力が大きくならないため、路面からの衝撃の吸収性が良好となり、ストローク奥での乗り心地を良くすることができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、リング体15に形成される上部空間16と下部空間17とに連通する空気流路40を上部空間16から下部空間17方向に延長する凹溝40aとして説明したが、これに限定されず凹溝40aをリング体15の外周に形成しても、あるいはリング体15を貫通する貫通孔により形成してもよい。空気流路40としての凹溝40aをリング体15の外周に形成する場合には、規制手段49の外周にリング体15の内周がシール部材を介して摺接するように構成すれば良い。また、空気流路40を貫通孔によって形成する場合には、リング体15の内周及び外周がそれぞれ後述の規制手段49の外周及び最外シリンダ9の内周9bとシール部材を介して摺接するように構成すれば良い。また、空気流路40は、凹溝や貫通孔に限定されず、リング体15がスペース8内を上下に移動するときに、所定の抵抗が得られるような環状の隙間を規制手段49の外周や最外シリンダ9の内周9bとで形成するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 ホルダ部材、2 ロッド、3 ピストン、4 シリンダ、7 外シリンダ、
9 最外シリンダ、11 摺動筒、12 キャップ部材、13 保持筒、
14 リングピストン部材14 リング体、16 上部空間、17 下部空間、
17A 圧力室、17B ばね室、40 空気流路、41 摺動部材、
49 規制手段、60 スプリング、70 減衰力発生機構、130 温度補償機構、
F シリンダ空間、F1 第1油貯留室、F2 第2油貯留室、J 連通孔、
M 外緩衝室、R 油流路室、S フロントフォーク本体。
図1
図2
図3
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図5