(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357008
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】泡破壊翼付きミキサー
(51)【国際特許分類】
B01D 19/02 20060101AFI20180702BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20180702BHJP
B01F 7/16 20060101ALI20180702BHJP
B01F 7/18 20060101ALI20180702BHJP
B01F 13/06 20060101ALI20180702BHJP
B01F 15/00 20060101ALI20180702BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20180702BHJP
【FI】
B01D19/02
B01D19/00 B
B01F7/16 H
B01F7/18 B
B01F7/18 C
B01F13/06
B01F15/00 B
H01M4/139
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-98327(P2014-98327)
(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-213877(P2015-213877A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000139883
【氏名又は名称】株式会社井上製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】310010081
【氏名又は名称】NECエナジーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081547
【弁理士】
【氏名又は名称】亀川 義示
(72)【発明者】
【氏名】井上 政憲
(72)【発明者】
【氏名】河原 友春
(72)【発明者】
【氏名】河野 安孝
【審査官】
菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−283616(JP,A)
【文献】
特開昭50−093863(JP,A)
【文献】
実開昭56−002931(JP,U)
【文献】
特開平09−141004(JP,A)
【文献】
特開平01−254236(JP,A)
【文献】
特開2010−099553(JP,A)
【文献】
実開昭56−141709(JP,U)
【文献】
特開昭63−062507(JP,A)
【文献】
特開2008−016456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00
B01F 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の電極層の製造に好適に使用される泡破壊翼付きミキサーであって、タンク内で自転、公転する複数の撹拌翼と、下方に向かう掻き下げ軸方向流を発生させる傾斜パドル翼と、タンク内を真空引きする真空装置を具備し、上記傾斜パドル翼は、液面上で自転、公転するよう上記撹拌翼の上方に同芯的に設けられ、タンク内に上部から下部に向かう軸方向流を生じさせるとともに浮上してくる泡を液面で連続的に破壊することを特徴とする泡破壊翼付きミキサー。
【請求項2】
上記傾斜パドル翼の板面の傾斜角度は、30°〜60°である請求項1に記載の泡破壊翼付きミキサー。
【請求項3】
上記傾斜パドル翼は、撹拌翼の上部に180度開いて2枚設けられている請求項1に記載の泡破壊翼付きミキサー。
【請求項4】
上記傾斜パドル翼は、撹拌翼の上部に90度開いて4枚設けられている請求項1に記載の泡破壊翼付きミキサー。
【請求項5】
上記傾斜パドル翼は、撹拌翼と同芯に設けられ、設置高さ(液面からの高さ)を上下に変化させ、高さの異なる傾斜パドル翼を有する複数の撹拌翼を組み合わせた請求項1に記載の泡破壊翼付きミキサー。
【請求項6】
上記傾斜パドル翼の泡に接する接触面側を粗面に形成した請求項1に記載の泡破壊翼付きミキサー。
【請求項7】
上記傾斜パドル翼を有する撹拌翼は、自転の回転方向と、公転の回転方向が逆回転で遊星運動する請求項1に記載の泡破壊翼付きミキサー。
【請求項8】
上記泡破壊翼付きミキサーは、リチウムイオン二次電池の電極層に使用される水系負極ペーストの製造に使用されものである請求項1に記載の泡破壊翼付きミキサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固/液系ペーストやスラリー状の処理材料を、タンク(撹拌槽)内を真空下にした状態で遊星運動する撹拌翼(撹拌ブレード)により、連続的に脱泡し、撹拌、混練、分散等できるようにした泡破壊翼付きミキサー関するものである。
【背景技術】
【0002】
固/液系の中、高粘度 (〜100Pa・s) の製品は、2軸以上の多軸の撹拌翼をタンク内で自転、公転、すなわち遊星運動させて撹拌、混練、分散等するプラネタリーミキサーを用いて硬練りし、その後に所望の粘度に希釈して製品化されることが多い。しかし、多くの場合、そのような処理材料はエアー(空気、泡等)を含んでおり、処理中に気泡が発生することがある。気泡が処理材料中に多く含まれていると、処理中の粘度が上昇して取り扱いにくくなり、さらに気泡がクッションとなって撹拌、混練、分散作用が十分に行うことができず、撹拌、混練、分散不足を招来することになる。特に、リチウムイオン二次電池の電極層を製造する場合は、活物質、導電助材、分散助剤、結着剤(バインダー)、溶媒等を撹拌、混練、分散して電極ペーストを作り、これを集電体に塗布して電極層を構成するが、電極ペースト中に気泡が含まれていると、活物質同志の結着や集電体に対する接着性が不足して剥離強度が減少する。活物質と集電体を強固に結着することができないと、性能が不安定になり、電池としての品質機能上好ましくない。そのため、希釈時に真空脱泡し、気泡の含まない状態にしてペースト化、スラリー化するのが通例である。
【0003】
上記電極ペーストを構成する結着剤(バインダー)としては、有機溶媒を含む溶媒系バインダーや、水分散型バインダーが知られており、水系負極ペーストの水分散型バインダーとしては、例えばスチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)等を含むバインダーが知られている。この水分散型バインダーは、エラストマー微粉体が水に分散している状態であるため、熱に対して準安定状態であり、高剪断力を与えると大きな発熱を生じやすく、発熱を生じると変質するおそれがある。そのため、活物質等を混練してペースト化する際や真空脱泡のために撹拌する際には、低剪断力で処理しなければならない。
【0004】
水分散型バインダーを使用する水系電極ペーストの製造に際しては、最初に活物質、導電助材、分散助剤等の電極材料をタンク内
に投入し、遊星運動する撹拌翼により混練してある程度混練された活物質ペーストを作り、その後に水分散型バインダーをタンクに投入している。しかし、低剪断力で処理するために、上記撹拌翼を低速で回転させているときには、タンク内の中心部には下向きの大きな軸方向流が発生しないので、タンク内の上部、下部での処理材料の流動が不均一で全体流が生じにくく、さらに、活物質ペーストと水分散型バインダーは、大きな比重差、粘度差があるため、活物質ペースト中に水分散型バインダーが混合しにくい。そして、タンク内にバインダーを投入すると、バインダーは活物質ペーストの表面に浮遊しているだけで簡単に内部に巻き込まれず、「うず潮状」のうず巻きとなって表面に漂う傾向がある。そのような状態で気泡を除去するためタンク内を真空引きすると、気泡を含んだ液面が上昇し、風船状の泡になり、まだ十分に混合されていない未混合物が、タンク上面や撹拌ブレードの上部に付着しやすくなる。その結果、撹拌、混練、分散が不足し、それが原因となって、活物質や電極ペーストと集電体の接着性が悪くなり、剥離強度が不十分な電極層となって電池の品質、機能が劣化する原因となる。なお、撹拌翼を高速回転させれば、大きな全体流を発生させることができるが、高剪断力により同時に大きな発熱も生じるから、上述したように熱に対して準安定状態の水分散型バインダーを変質させてしまう。
【0005】
さらに、電極材料を構成する活物質等の粉体は、一般的に疎水性であり、濡れが非常に悪いので、水性化するため親水性にするには界面活性剤をタンク内に投入する必要があるが、界面活性剤を多量に使用すると、気泡の発生も多くなる。そのため、リチウムイオン二次電池の水系電極層を製造する際には、処理中に発生する気泡を脱泡することが一層重要である。
【0006】
従来、スラリーからの気泡を脱泡する方法としては、タンク内に連通する真空ポンプを設け、該真空ポンプでタンク内を真空引きながらスラリーを撹拌して気泡を除去することが知られているが、脱泡撹拌時に発生した気泡とともに気泡を含んだ液面も上昇するので、連続的に真空引きを続けていると、この気泡を含んだ液体が真空ポンプに吸引され、ポンプ故障の原因になっていた。そのため、通常は、タンク内を監視する人を用意し、液面が規定の位置まで上昇したら真空ポンプのバルブを閉じて真空引きを停止し、タンク内を真空状態に保持し、時間が経過して液面が低下したら、バルブを開けて再度真空ポンプによる真空引きを開始し、このような操作を繰り返し行っていた。しかし、このような操作は熟練した作業者が必要であり、真空脱泡時間も長く必要となる欠点があった。
【0007】
タンク内で発生した気泡を自動的に脱泡するようにした自動真空脱泡装置も提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の脱泡装置は、脱泡槽内で回転可能な消泡用およびスラリー撹拌用の少なくとも2枚の撹拌翼を有する攪拌機と、脱気により生じる泡の位置を検出するための泡センサーと、脱泡槽内を脱気するための真空脱気装置を具備している。そして、下方の撹拌翼をスラリー中に位置し、上方の撹拌翼を液面上に位置させ、下方
の撹拌翼を回転させてスラリーの下降を防止するとともに上方の撹拌翼により液面に上昇してくる泡を破壊することにより消泡している。しかし、この撹拌翼は、180度開いた2本の棒状の部材で構成され、この部材を脱泡槽の中央部分で回転させているだけなので、液面に浮かんでくる泡の破壊は、撹拌翼が1回転するとき180度毎であり、次に撹拌翼が到来するまでの間に大量に泡が発生すると、泡のレベルは次第に上昇する。そのため、特許文献1に記載の装置では、上記泡センサーを設け、該泡センサーの先端に泡が達したときバルブを閉じて脱気作業を中止し、予め設定した時間経過後、再度脱気を開始し、以下同様の作業を繰り返して脱気を行うように構成してある。したがって、この装置では脱気作業に時間がかかり、装置の構成も面倒である。
【0008】
また、特許文献1に記載の装置は、脱気槽内に撹拌翼を設けて脱気処理しているだけであり、リチウムイオン二次電池の水系電極層の製造、特に負極の電極ペーストとして、水分散型バインダーを用いる場合の撹拌、混練、分散装置として使用することはむずかしい。上述したように、水分散型バインダーと活物質ペーストは比重差、粘度差があるため、活物質ペーストを混練している槽内に水分散型バインダーを投入しても、特許文献1に記載の装置では、タンク内で全体流を発生させることができないから、バインダーを活物質ペースト中に均一に混練させることができない。また、真空吸引しながら混練すると、気泡を含んだ液面が上昇し、この状態でタンクに投入
した水分散型バインダーは、上述したように活物質ペーストと比重差、粘度差があるために液面上に浮遊してうず潮状に旋回し、液面周辺に付着し、所定量を活物質ペースト中に混合させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平2−38242公報(4欄15〜28行、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決課題は、上記のようにタンク内で撹拌翼を自転、公転させて処理材料を撹拌、混練、分散処理する際、発生した気泡を含む液面がタンク内で上昇しても真空ポンプに吸引されることなく確実に短時間で脱泡できる泡破壊翼付きミキサーを提供することである。さらに、リチウムイオン二次電池の電極層の製造に際し、特に熱に対して準安定な水分散型バインダーを用いて水系負極ペーストを製造するとき、水分散型バインダーを変質させることがなく、低剪断力で均質かつソフトに撹拌、混練、分散でき、かつ水分散型バインダーの添加量を少なくできるようにした泡破壊翼付きミキサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
真空引きにより液面に浮上してくる気泡を確実に破壊するためは、液面を絶えず更新できるよう全面的に回転する撹拌翼を設ければよく、熱に準安定でかつ活物質ペーストと比重差、粘度差のある水分散型バインダーを活物質ペーストに添加して均質に撹拌、混練、分散するには、タンク内で軸下方向流を生じさせてタンク内の上部、下部を流動する全体流を発生させれば、気泡が除去されかつ均一に混練された電極ペーストを得ることができる。
【0012】
本発明は上記のような解決手段に基づき、リチウムイオン二次電池の電極層の製造に好適に使用される泡破壊翼付きミキサーであって、タンク内で自転、公転する複数の撹拌翼と、下方に向かう掻き下げ軸方向流を発生させる傾斜パドル翼と、タンク内を真空引きする真空装置を具備し、上記傾斜パドル翼は、液面上で自転、公転するよう上記撹拌翼の上方に同芯的に設けられ、タンク内に上部から下部に向かう軸方向流を生じさせるとともに浮上してくる泡を液面で連続的に破壊することを特徴とする泡破壊翼付きミキサーが提供され、上記課題が解決される。
【0013】
本発明において、上記傾斜パドル翼は、傾斜角度が約30°〜60°の
傾斜パドル翼が好ましい。また、該傾斜パドル翼は、撹拌翼の上部に180度開いて2枚設けたり、若しくは90度開いて4枚設けることができる。各撹拌翼と同芯的に設けられている上記傾斜パドル翼としては、撹拌翼に設けた高さ(液面からの高さ)が上下に相違する複数の傾斜パドル翼を用意し、高さの異なる傾斜パドル翼を有する複数の撹拌翼を組み合わせて用いることができる。さらに、傾斜パドル翼の泡に接する接触面側を刻み目等の粗面に形成した上記泡破壊翼付きミキサーが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のように構成され、タンク内で自転、公転する複数の撹拌翼と、下方に向かう掻き下げ軸方向流を発生させる傾斜パドル翼と、タンク内を真空引きする真空装置を具備し、上記傾斜パドル翼を、液面上で自転、公転するよう上記撹拌翼の上方に同芯的に設け、タンク内に上部から下部に向かう軸方向流を生じさせるとともに浮上してくる泡を液面で連続的に破壊するようにしたから、固/液系の処理材料を真空装置で真空引きしながら撹拌、混練、分散処理する際、ペースト化、スラリー化した処理材料から発生する気泡は、液面に浮上し、気泡を含んだ液面は次第に上昇するが、液面上で全面的に自転、公転している傾斜パドル翼により液面が絶えず更新され、連続的に傾斜パドル翼が気泡に当たることにより泡は破壊され、短時間で脱泡作業が終了し、真空装置(真空ポンプ)に液体が吸引されることはない。さらに、該傾斜パドル翼により吐出される材料は、傾斜パドル翼の半径方向へ向かう放射流(半径方向流)と円周方向への旋回流(円周方向流)が合成された下方に向かう軸方向流を主流とする斜流となり、半径方向に流動しつつ掻き下げられて下方の撹拌翼方向に向かい、該撹拌翼により撹拌されている処理材料中に容易に巻き込まれる。この際、上記撹拌翼を低速で自転、公転させることにより、低剪断力でタンク内に全体流を発生させることができるから、大きな発熱を生じることがない。したがって、リチウムイオン二次電池の水系電極層を製造する際、水分散型バインダーのように熱に準安定状態なものを用いても、変質することなく混練することができる。また、水分散型バインダーと活物質ペーストに大きな比重差があっても、水分散型バインダーは上記傾斜パドル翼により掻き下げられて下方の撹拌翼方向に向かうから、液面でうず潮状に漂ったり、液面周辺に付着することもなく、スムーズに活物質ペースト中に混合され、全体流により均質に混練することができる。
【0015】
さらに、上記のようにして大きな発熱を生じることなく全体流を生じさせて混練できるので、水分散型バインダーの量は少量で済み、相対的に活物質の量が多くできるから、蓄電効果の優れたリチウムイオン二次電池が得られる。また複数の傾斜パドル翼は、自転、公転することにより液面上を全面的に万遍なく移動するので、液面は絶えず更新され、気泡を確実に破壊できるから、水性化のためにタンクに界面活性剤を多く投入することにより気泡の発生が増加するようなことがあっても、真空装置に液体が吸い込まれることはなく、故障の発生を少なくすることができる。
【0016】
上記傾斜パドル翼の傾斜角度を、約30°〜60°にすると、確実に軸下方向流を生じさせて水分散型バインダーを活物質ペースト中に的確に巻き込んでタンク内の上部、下部を均一に混練することができる。また、該傾斜パドル翼は、撹拌翼の上部に180度開いて2枚設けたり、若しくは90度開いて4枚設けたり、液面からの高さが異なる傾斜パドル翼を用いることができ、高さの異なる傾斜パドル翼を組み合わせることにより、下方の傾斜パドル翼で最初に泡を破壊し、この傾斜パドル翼から逃れた気泡は上方の傾斜パドル翼で破壊することができ、一層確実に気泡を破壊することができる。さらに、傾斜パドル翼の泡に接する接触面側を、刻み目等の粗面に形成すると、該接触面に当たった気泡を簡単に破壊することができ、一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例を示し、タンク部分を断面した説明図。
【
図2】3本の撹拌翼を組み合わせた一実施例を示す斜視図。
【
図4】
図2に示す撹拌翼とタンクの関係を示す平面図。
【
図5】傾斜パドル翼を設置した高さが低い撹拌翼と、それより高い位置に傾斜パドル翼を設けた撹拌翼の説明図。
【
図6】
図5に示す関係の撹拌翼を3本組み合わせた状態の正面図。
【
図7】
図6に示す撹拌翼とタンクの関係を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による泡破壊翼付きミキサーは、上記のようにリチウムイオン二次電池の電極層の製造、特に水系電極ペーストの製造に好適に使用されるが、低剪断作用で撹拌、混練、分散等することが要求される化学、医薬、電子、セラミックス、食品、飼料その他の分野の処理材料の処理に使用することもできる。
図1は、本発明の一実施例を示し、プラネタリーミキサーの本体1は昇降シリンダー2により上下動する撹拌ヘッド3、または撹拌ヘッドを固定して他の昇降シリンダー(図示略)により上下動するタンク(容器、撹拌槽)4有し、該撹拌ヘッド上に設けた駆動モーター等の駆動手段5を介してローター6が公転し、このローターに設けた複数本の撹拌軸には撹拌翼(撹拌ブレード)7が取り付けられて自転し、それにより撹拌翼7は上記タンク4内で自転、公転して全体的に遊星運動する。上記タンク4の上部にはフード8が設けられており、該フードにはタンク内を真空引きするための真空装置(真空ポンプ)9が連結されている。
【0019】
上記撹拌翼7は、図に示す実施例では枠型ブレードで構成され、
図2に示すように撹拌軸に取り付けられる軸部10には側方に延びる上辺部11の一端が連接され、該上辺部の他端は下方に延びる縦辺部12に連絡し、該縦辺部の下端は水平方向に延びる底辺部13で連絡され、略矩形の枠型に形成されている。
図1に示す実施例では、上辺部11と底辺部13の方向が所定角度、例えば45°、90°相違する方向に延びている枠型捩れブレードが用いられているが、上辺部と底辺部が同一方向を向く捩れのない枠型ブレードを用いることもできる。
【0020】
図3、
図4を参照し、実施例においては3本の枠型ブレード7が用いられ、各枠型ブレードはタンク4の内面に沿って自転しながら公転し、各枠型ブレード間及び枠型ブレードとタンクの内面間で処理材料に剪断力を与え、固/液系の処理材料を磨砕混練してペースト化、スラリー化することができる。上記ローター6が回転する公転方向と、枠型ブレード7の自転方向は同方向にすることもできるが、好ましくは実施例に示すようにローター6を時計方向に公転させ、枠型ブレード7を反時計方向に自転させるとよい。公転、自転の回転方向を逆方向にすることにより、液面の効率よく更新され、一層効果的である。
【0021】
上記枠型ブレード7の上方には、下方に向かう掻き下げ軸方向流を発生させる傾斜パドル翼14が同芯的に設けられている。この傾斜パドル翼14は、枠型ブレードの軸部10に設けられており、枠型ブレード7の直径以下の長さであり、翼上部から液体を吸い込んで軸下方向に吐出させることができるように板面を適宜角度に傾斜させ、軸流を発生できる形状に形成してある。この傾斜パドル翼14によれば、すべて軸流になりきらずに半径方向の放射流(半径方向流)と円周方向の旋回流(円周方向流)が合成された軸下方向の斜流となり、斜流の方向は板面の傾斜角度により変化する。傾斜角度の設定は、上記枠型ブレードが回転した際、確実に気泡を破壊させることができるとともに軸下方向流を発生させることができる適宜の角度にすることが必要であり、好ましくは約30〜60°に形成してある。傾斜角度が30°未満の傾斜パドル翼は、泡を破壊する効果(破泡効果)は大きいが、掻き下げ作用が少なく、水分散型バインダーを少量添加するような場合には枠型ブレードで撹拌、混練、分散されている活物質ペースト中に均質に混合させることがむずかしい。また、60°を超える角度に傾斜させた傾斜パドル翼は、円周方向の流れが主体となり、軸下方に向かう流れが少なくなり、破泡効果も小さくなる。
【0022】
上記傾斜パドル翼14は、撹拌翼7の軸部10に180度開いて2枚設けたり、90度開いて4枚設けることができる。また、
図3に示すように傾斜パドル翼14の液面からの高さが同じ高さになるよう傾斜パドル翼を設けた撹拌翼7を組み合わせることもできるし、
図5に示すように傾斜パドル翼14の設置位置の高さ(液面からの高さ)が低い撹拌翼7aと、それよりも高い位置に傾斜パドル翼14を設けた撹拌翼7bを複数本組み合わせてもよい。例えば、このように傾斜パドル翼14の高さを変え、低い位置に傾斜パドル翼14を有する撹拌翼7a1本と、それより高い位置に傾斜パドル翼14を有する2本の撹拌翼7bを
図6示すように組み合わせると、撹拌翼7a、7bが、
図7に示すように自転、公転した際、気泡を含んだ液面が上昇したとき、2段階で液面を更新することができる。すなわち、タンク内で撹拌翼7a、7bが遊星運動すると、最初に下方の傾斜パドル翼14に液面が接し、早い段階で気泡を破壊し、この破泡作用を逃れて上昇した泡も上方で遊星運動する傾斜パドル翼14にとらえられて確実に破壊され、一層効果的に破壊することができる。同時に、傾斜パドル翼14による軸方向下方に向かう掻き下げ効果も2段階で行うことにより大きくでき、かつ万遍なく掻き下げできるので、タンク内での全体流の発生を確かなものにすることができる。なお、上、中、下というようにさらに複数の段階で高さを変化させた複数の傾斜パドル翼を組み合わせることもできる(図示略)。
【0023】
上記傾斜パドル翼の泡に接する接触面15側(下面側)には、泡に接触したとき、泡を容易に破壊できるよう粗面16を形成することができる。この粗面16は、ヤスリ状の粗面や鋭角な微小突起、ローレット加工による刻み目等により形成することができる。ローレット加工により刻み目を形成する場合、その形状は、
図8に示すような平目状ローレット17や、
図9、
図10に示すような四角目、クロス目、ダイヤ目等の綾目状ローレット18に形成することができる。また、刻み目により形成される微小突起は、高さ約1.0〜0.1mm、好ましくは約0.6〜0.3mmに形成されている。微小突起19の形状も種々の形状に形成することができるが、例えば
図11に示すような四角目の微小突起19の場合、微小突起による凹み部の斜面の角度αが約90度、突起の頂点間の間隔dが約1mm、高さhを約0.5mm程度に形成し、突起19の先端が鋭角になるように形成することが好ましい。
【0024】
上記の構成により、真空引きしていないときには、撹拌翼7により撹拌、混練、分散されている処理材料の上方の空間で傾斜パドル翼14は遊星運動回転し、タンク内全周に360度隈なく回転している。そして、タンク4内を真空引きすると、液面に泡の山が形成され、それが次第に大きくなろうとするが、全面的に回転している上記傾斜パドル翼14により液面が絶えず更新され、次々と当たることにより泡は早期に破壊される。したがって、大きな山になることがなく、泡が真空装置に吸引されることを防ぐことができる。同時に液面に存する処理材料には、軸下方向流が与えられるので、水分散型バインダーを投入したとき、液面に発生しやすいドーナツ状の「うず潮」もなくなり、均質な混合作用をえることができる。そのため、リチウム二次電池の水系電極層の製造において、水分散型バインダーを少量、例えば負極活物質100重量部に対し、3重量部以下を添加する際にも、タンク内で均質化を図ることができ、集電体に対する密着性のよい電極ペーストを得ることができる。
【実施例】
【0025】
図1〜
図4に示すように、傾斜パドル翼14を上部に取り付け自転、公転の回転方向を逆回転にした撹拌翼7を3本有するプラネタリーミキサーを用い、リチウムイオン二次電池の水系負極ペーストの製造を行った。最初は、上記ミキサーにより水系負極活物質等を混練し、その次にこの混練物に、熱に準安定な水分散型バインダーを添加し、水系負極ペーストを製造し、電池の特性評価を行った。このとき、傾斜パドル翼14としては180度開いて2枚有する傾斜角度は45度のものを使用した。そして水分散型バインダーを添加して真空下で混練したところ、発生した泡は次々と破壊され、真空装置に吸引されることがなく、従来の脱泡時間に比べて脱泡時間を20%短縮することができた。また、水分散型バインダーは負
極活物質の混練物中に均質に混合され、得られた負極電極ペーストを集電体に塗布したところ、良好な剥離強度が得られた。
【0026】
上記実施例と同様に、自転、公転の回転方向を逆回転にした
図1に示すミキサーを使用し、撹拌翼は、
図5〜
図7に示すように、傾斜パドル翼の設置高さ(液面からの高さ)が低い拌翼1本と、それより傾斜パドル翼の設置高さが高い撹拌翼2本を有するプラネタリーミキサーを用い、負
極活物質100重量部に対し、3重量部の水分散型バインダーを添加して真空引きしながら撹拌処理したところ、さらに破泡効果が大きくなり、脱泡時間を23%短縮することができた。 また、水分散型バインダーがうず潮状に旋回することなく、確実に活物質混練物中に混入され、均質な負
極電極ペーストが得られた。得られた負極電極ペーストを集電体に塗布したところ、良好な剥離強度が得られた。
【符号の説明】
【0027】
4 タンク
7 撹拌翼
14 傾斜パドル翼