(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357009
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】有価金属精錬用原料及び有価金属精錬用原料回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/02 20060101AFI20180702BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20180702BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20180702BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20180702BHJP
C22B 30/06 20060101ALI20180702BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20180702BHJP
B03D 1/02 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
C22B7/02 BZAB
C22B7/02 A
C22B3/04
C22B3/44
C22B11/00 101
C22B30/06
B09B3/00 304G
B03D1/02
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-104235(P2014-104235)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-218370(P2015-218370A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年3月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−167332(JP,A)
【文献】
特開2008−231549(JP,A)
【文献】
特開2011−057495(JP,A)
【文献】
特開2007−246352(JP,A)
【文献】
特開2012−192389(JP,A)
【文献】
特開平11−100243(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/020691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00− 7/02
C22B 3/00− 3/44
C22B 11/00
C22B 30/00−30/06
B09B 3/00
B03D 1/00− 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスを固気分離して固体として得られ、
金又は/及びビスマスを含むことを特徴とする有価金属精錬用原料。
【請求項2】
前記抽気ガスを粗粉と、10μm通過分が80質量%以上の微粉を含むガスとに分離し、該微粉を含むガスを固気分離して固体として得られることを特徴とする請求項1に記載の有価金属精錬用原料。
【請求項3】
前記得られた固体を水洗し、該水洗後のスラリーを固液分離して固体として得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の有価金属精錬用原料。
【請求項4】
前記水洗用液に塩酸又は硝酸を添加して前記水洗を行うことを特徴とする請求項3に記載の有価金属精錬用原料。
【請求項5】
前記有価金属精錬用原料を水洗し、
該スラリーを酸浸出し、
該酸浸出によって得られた浸出残渣をアルカリ浸出し、
該アルカリ浸出によって得られた浸出残渣を回収して得られることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有価金属精錬用原料。
【請求項6】
前記有価金属精錬用原料に水及び硫化剤を添加し、
該水及び硫化剤を添加して生じたスラリーに捕集剤を添加し、
該捕集剤を添加したスラリーを浮遊選鉱し、
該浮遊選鉱によって得られたフロスを固液分離し、
該固液分離によって固体として得られることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有価金属精錬用原料。
【請求項7】
前記浸出残渣を回収して得られた有価金属精錬用原料に水及び硫化剤を添加し、
該水及び硫化剤を添加して生じたスラリーに捕集剤を添加し、
該捕集剤を添加したスラリーを浮遊選鉱し、
該浮遊選鉱によって得られたフロスを固液分離し、
該固液分離によって固体として得られることを特徴とする請求項5に記載の有価金属精錬用原料。
【請求項8】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスを固気分離して金又は/及びビスマスを含む固体を回収することを特徴とする有価金属精錬用原料回収方法。
【請求項9】
前記セメントキルンで焼成するセメント原料の一部として都市ごみ焼却灰を用いることを特徴とする請求項8に記載の有価金属精錬用原料回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属精錬用原料及び有価金属精錬用原料回収方法に関し、特に、都市ごみ焼却灰、汚泥等の廃棄物に含まれる有価金属を回収して得られた有価金属精錬用原料等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電に使用される電子基板類をリサイクルし、金、銀、銅、錫、ニッケル等の有価金属を回収している。また、水銀灯や蛍光灯のリサイクルを通じて水銀の回収も行われている。
【0003】
さらに、特許文献1には、都市ごみ等の廃棄物を破砕機で破砕し、必要に応じて乾燥機で水分除去し、熱分解炉で熱分解して熱分解残渣を生成し、該熱分解残渣からチャーを選別装置で選別した後微粉化装置で微粉化し、微粉化したチャーを移送手段で移送し、別設備で燃料として燃焼させることで、良質な有価金属やガラス類を回収し得る廃棄物の燃料利用方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、飛灰を脱塩素洗浄し、該脱塩素洗浄した飛灰、亜鉛含有原料、フラックス及び石炭を混合し、乾燥させて粉砕した後、団鉱とし、該団鉱を溶融還元することで有価金属を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−283430号公報
【特許文献2】特開2007−186761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術では、廃棄物等の乾燥粉砕や熱処理等に大量のエネルギーを消費するため運転コストが高騰する。一方、小規模のバッチ式等の回収装置を用いた場合には、採算面から実現が困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、都市ごみ焼却灰、汚泥等の廃棄物をセメント原料として有効活用しつつ、これらの廃棄物に含まれる有価金属を低コストで回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、有価金属精錬用原料であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスを固気分離して固体として得られ、金
又は/及びビスマ
スを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、セメントキルンの排ガス処理の過程で回収コストを掛けずに、都市ごみ焼却灰等の廃棄物から有価金属精錬用原料を得ることができる。また、廃棄物を有効利用することができると共に、希少価値の高い資源の節約に繋がる。
【0010】
前記抽気ガスを粗粉と、10μm通過分が80質量%以上の微粉を含むガスとに分離し、該微粉を含むガスを固気分離して固体として有価金属精錬用原料を得ることができる。カルシウムやケイ素は粗粉に多く含まれているため、カルシウムやケイ素の濃度が低く有価金属の濃度が高い微粉から有価金属精錬用原料を得ることで、一般的にセメント原料に用いられる都市ごみ焼却灰よりも有価金属濃度が数倍高い有価金属精錬用原料を得ることができる。また、微粉の10μm通過分の濃度と有価金属の濃度とは相関があり、微粉の10μm通過分の濃度を調整することで、鉱山で採掘することができる有価金属よりも品位の高い有価金属を得ることができる。
【0011】
また、前記得られた固体を水洗し、該水洗後のスラリーを固液分離して固体として有価金属精錬用原料を得ることができ、前記水洗用液に塩酸又は硝酸を添加して前記水洗を行うことができる。これにより、カルシウムやアルカリ塩の濃度の低い、より品位の高い有価金属精錬用原料を低コストで得ることができる。
【0012】
さらに、前記有価金属精錬用原料を水洗し、該スラリーを酸浸出し、該酸浸出によって得られた浸出残渣をアルカリ浸出し、該アルカリ浸出によって得られた浸出残渣を回収して有価金属精錬用原料を得ることができる。これにより、アルカリ塩や銅、鉛、亜鉛等が除去された、より品位の高い有価金属精錬用原料を低コストで得ることができる。
【0013】
前記有価金属精錬用原料に水及び硫化剤を添加し、該水及び硫化剤を添加して生じたスラリーに捕集剤を添加し、該捕集剤を添加したスラリーを浮遊選鉱し、該浮遊選鉱によって得られたフロスを固液分離し、該固液分離によって固体として有価金属精錬用原料を得ることができる。これにより、特に銀やビスマスの濃度が高い有価金属精錬用原料を得ることができる。
【0014】
前記浸出残渣を回収して得られた有価金属精錬用原料に水及び硫化剤を添加し、該水及び硫化剤を添加して生じたスラリーに捕集剤を添加し、該捕集剤を添加したスラリーを浮遊選鉱し、該浮遊選鉱によって得られたフロスを固液分離し、該固液分離によって固体として有価金属精錬用原料を得ることができる。
【0015】
また、本発明は、有価金属精錬用原料回収方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、該抽気ガスを固気分離して金
又は/及びビスマ
スを含む固体を回収することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、セメントキルンの排ガス処理の過程で回収コストを掛けずに、都市ごみ焼却灰等の廃棄物から有価金属精錬用原料を得ることができる。また、廃棄物を有効利用することができると共に、希少価値の高い資源を節約することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、回収コストを掛けずに、又は低コストで有価金属精錬用原料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る有価金属精錬用原料回収方法を適用したセメントキルン抽気ダストの処理装置の一実施の形態を示す全体構成図である。
【
図2】
図1のセメントキルン抽気ダストの処理装置におけるHMX処理工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る有価金属精錬用原料回収方法を適用したセメントキルン抽気ダストの処理装置を示し、この処理装置1は、大別して、ガス抽気部2と、ガス処理部3と、微粉末処理部4とで構成される。
【0021】
ガス抽気部2は、セメントキルン5の窯尻から最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気するための設備である。このガス抽気部2は、燃焼ガスを抽気するプローブ6と、プローブ6内に冷風を供給して抽気した燃焼ガスを急冷する冷却ファン7と、プローブ6から排出された抽気ガスG1に含まれるダスト中の粗粉D1を分離する分級機としてのサイクロン10等で構成される。
【0022】
ガス処理部3は、サイクロン10から排出された排ガスG2に含まれる微粉D2を捕集するための設備である。このガス処理部3は、サイクロン10から排出された微粉D2を含む排ガスG2を冷却する冷却器11と、冷却器11に冷風を供給する冷却ファン12と、冷却器11で冷却された排ガスG3中のダストD4を集塵するバグフィルタ13と、冷却器11及びバグフィルタ13から排出されたダストD3、D4を回収するダストタンク14とを備える。
【0023】
微粉末処理部4は、ダストタンク14に貯留された塩素バイパスダストD5を水洗し、HMX処理及び浮遊選鉱するための設備である。
【0024】
この微粉末処理部4は、ダストタンク14に貯留した塩素バイパスダストD5を酸性下で水洗する溶解槽20と、溶解槽20で水洗されて生成したスラリーS1を固液分離する第1の固液分離機21と、第1の固液分離機21で得られたケーキC1をHMX処理するHMX処理工程22と、HMX処理工程22から排出されたケーキC2に硫化剤及び水を添加してスラリー化するスラリータンク23と、スラリータンク23で生成したスラリーS2に硫酸等のpH調整剤を添加する調整槽24と、pH調整後のスラリーS3に捕集剤としての疎水化剤を添加する調整槽25とを備える。
【0025】
また、微粉末処理部4は、スラリーS4中の硫化物を気泡に付着させ、浮上させて分離する浮選機26と、浮選機26からのフロスFを固液分離する第2の固液分離機27と、浮選機26からのテールTにアルカリ剤を添加してpH調整する調整槽28と、調整槽28からのスラリーS5を固液分離する第3の固液分離機29等で構成される。
【0026】
HMX処理工程22は、第1の固液分離機21で得られたケーキC1から、さらに品位の高い有価金属精錬用原料を回収するために備えられ、
図2に示すように、ケーキC1に水を添加して水洗する水洗工程と、水洗後のスラリーS6を水と硫酸とを用いて酸浸出させる酸浸出工程と、酸浸出後のスラリーS7に苛性ソーダを添加してアルカリ性の状態とするアルカリ浸出工程とで構成される。
【0027】
次に、本発明に係る有価金属精錬用原料回収方法について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0028】
図1において、セメントキルン5に付設されたプレヒーター(不図示)に供給されたセメント原料は、プレヒーターで予熱され、仮焼炉(不図示)で仮焼された後、セメントキルン5で焼成される。
【0029】
セメント原料には、汎用の原料(石灰石、粘土、鉄滓等)に加え、焼却主灰、焼却飛灰、汚泥、シュレッダーダスト等の各種廃棄物が用いられる。例えば、焼却主灰や焼却飛灰には、金が0.1〜4ppm、銀が5〜50ppm、ビスマスが1〜50ppm含まれている事例が確認されている。焼却主灰や焼却飛灰の使用量は、クリンカ1トンあたり10kg以上、より好ましくは20kg以上とすることが好ましい。10kg以上使用することで、塩素バイパスダストの金、銀、ビスマスの濃度が高くなり、精錬用原料としてより有用なものとなる。
【0030】
セメントキルン5の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部をプローブ6によって抽気すると、燃焼ガス中の揮発成分の微結晶が生成され、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に有価金属が偏在しているため、サイクロン10で分級した粗粉D1をセメントキルン系に戻す。一方、サイクロン10によって分離された微粉D2を含む抽気ガスG2は、熱交換器11に導入されて抽気ガスG2と媒体との熱交換が行われる。熱交換によって冷却された抽気ガスG3は、バグフィルタ13に導入され、バグフィルタ13において抽気ガスG3に含まれるダストD4が回収される。バグフィルタ13で回収されたダストD4は、熱交換器11から排出されたダストD3と共にダストタンク14に一旦貯留される。
【0031】
ダストタンク14に貯留された塩素バイパスダストD5(D3+D4)は、塩素と共に、焼却主灰等の各種廃棄物等に由来する金や銀の貴金属を含む。塩素バイパスダストD5は、塩素濃度を目安として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15%以上とすることで有価金属濃度を高めることができる。
【0032】
塩素バイパスダストD5は、10μm通過分が多くなるほど、カルシウムやケイ素を含む粗粉D1が除去されて有価金属濃度が高くなるので、サイクロン23の分級点を調整してダストD5の10μm通過分を80質量%以上とすることが好ましい。
【0033】
また、塩素バイパス設備1における抽気ガスG1の量(抽気量)は、上記キルン排ガス流路を流れる燃焼ガスの0.1〜20%とすることが好ましい。抽気量の上限値を20%とするのは、熱損失が大きく、経済的なキルンの安定運転が確保できなくなると共に、有価金属濃度が低下するためである。一方、抽気量の下限値を0.1%とするのは、有価金属がセメントクリンカに排出されることなく、より多く回収するためである。
【0034】
カルシウムやケイ素は粗粉D1に多く含まれているため、カルシウムやケイ素の濃度が低く有価金属の濃度が高い塩素バイパスダストD5を有価金属精錬用原料とすることで、一般的にセメント原料に用いられる都市ごみ焼却灰よりも有価金属濃度が数倍高い有価金属精錬用原料を得ることができる。
【0035】
次に、溶解槽20において、ダストタンク14からの塩素バイパスダストD5を水洗することができる。溶解槽20には、塩素バイパスダストD5、水洗用のろ液W2及び酸を供給し、塩素バイパスダストD5を酸性下で水洗することもできる。塩酸又は硝酸を添加することで、有価金属濃度の低下原因となる石膏が生成するのを防ぐことができる。また、銀の溶出を防ぐために塩酸を添加することが好ましい。
【0036】
次いで、溶解槽20で生成されたスラリーS1を第1の固液分離機21により固液分離し、スラリーS1をろ液W1とケーキC1とに分離し、分離したケーキC1をそのまま有価金属精錬用原料とすることもできる。ろ液W1は最終排水処理工程に送る。
【0037】
図2に示すように、ケーキC1を水で水洗し、水洗によって発生したアルカリ塩を含む廃液W4を最終排水処理工程に導入し、水洗後のスラリーS6を水と硫酸とを用いて酸浸出し、酸浸出によって得られたスラリーS7に苛性ソーダを添加してアルカリ性の状態とし、スラリーS7を固液分離して得られたケーキC2をスラリータンク23に供給する。最終排水処理工程で生じたケーキは、セメント原料として使用するか廃棄処分する。尚、水洗を省略し、ケーキC1の代わりに塩素バイパスダストD5を供給することもできる。
【0038】
また、ケーキC2は、HMX処理によってアルカリ塩や銅、鉛、亜鉛等が除去されているため、ケーキC2を有価金属精錬用原料とすることで、より品位の高い有価金属精錬用原料を得ることができる。
【0039】
次に、ケーキC2を供給したスラリータンク23に水及び硫化剤を添加してスラリーS2を生成し、スラリーS2を調整槽24に供給する。また、調整槽24において、スラリーS2にpH調整剤として硫酸又は塩酸を添加してスラリーS2のpH値を2〜4に調整した後、pH値が調整されたスラリーS3を調整槽25に供給する。さらに、調整槽25において捕集剤としての疎水化剤を添加する。尚、水洗やHMX処理を省略し、ケーキC2の代わりに塩素バイパスダストD5、又はケーキC1を供給することもできる。
【0040】
次に、疎水化剤が添加されたスラリーS4と空気とを浮選機26に供給し、浮選機26において気泡を発生させて気泡に硫化物を付着させ、銀やビスマス等の硫化物が付着して浮上した気泡、すなわちフロスFを回収する。このとき、スラリーS4に含まれる石膏は、浮選機26からテールTとして排出される。
【0041】
次に、第2の固液分離機27において、浮選機26からのフロスFを固液分離し、ケーキC3を生成して有価金属精錬用原料を回収する。これにより、特に銀やビスマスの濃度が高い有価金属精錬用原料を回収することができる。この際に発生するろ液W2を、最終排水処理工程に送るか、又は溶解槽20に供給して、溶解槽20内のスラリーの固液比の調整に使用する。
【0042】
それと併行して、調整槽28に浮選機26のテールTを供給し、アルカリ剤を添加してテールTのpHを調整し、残留するカドミウムなどの重金属類を沈殿化する。アルカリ剤として、消石灰、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム等を使用することができる。さらに、アルカリ剤として消石灰を使用する場合については、フッ素、硫酸根を沈殿化し、液中から除去することができる。この場合、硫酸根の系内循環によるトラブルを回避することができる。特に、硫酸根を除去することで、セメント製造工程におけるコーチング成長や、排ガス中のSOx濃度上昇のトラブルを回避することができる。
【0043】
調整槽28で生成したスラリーS5を第3の固液分離機29に供給し、沈殿化した重金属類及び石膏SをケーキC4側に回収することができる。この石膏Sには重金属類が含まれるが、極微量であるため問題にならない。また、ろ液W3を最終排水処理工程で処理する。最終排水処理工程で生じたケーキは、セメント原料として使用するか廃棄処分する。
【0044】
以上のように、本実施の形態によれば、セメントキルンの排ガス処理の過程で回収コストを掛けずに、又は低コストで、都市ごみ焼却灰等の廃棄物から有価金属精錬用原料を得ることができる。また、塩素バイパスダストを有効利用することができるのでより多くの廃棄物をセメント原料として使用できるようになると共に、希少価値の高い金、銀、ビスマスの資源を節約することができる。
【0045】
尚、上記実施の形態においては、サイクロン10で粗粉D1を分級した後に、微粉D2を含む排ガスG2を冷却器11を介してバグフィルタ13に導入したが、サイクロン10を設けることなく、プローブ6で抽気した抽気ガスG1を直接冷却器11を介してバグフィルタ13に導入してもよい。また、バグフィルタ13に高温ガスを処理可能なものを使用し、冷却器11を設置しない構成とすることもできる。さらに、溶解槽20にろ液W2を供給する代わりに新たに工業用水を供給することもできる。
【0046】
また、上記実施の形態においては、バグフィルタ13を用いて微粉D2を乾式集塵したが、微粉D2をスクラバ等の湿式集塵機を介して水と硫化剤を添加しながらスラリー化してもよい。
【実施例1】
【0047】
Aセメント工場にて、都市ごみ焼却灰をクリンカ1トンあたり20kg使用し、その他廃棄物、石灰石も使用して普通ポルトランドセメントを製造した。その結果、
図1に示す塩素バイパス設備1において、Au:2mg/kg、Ag:150mg/kg、Bi:160mg/kg、CaO:41質量%、Cl:18質量%の塩素バイパスダストD5を得た。
【実施例2】
【0048】
Bセメント工場にて、都市ごみ焼却灰をクリンカ1トンあたり40kg使用し、その他廃棄物、石灰石も使用して普通ポルトランドセメントを製造した。その結果、
図1に示す塩素バイパス設備1において、Au:6mg/kg、Ag:380mg/kg、Bi:170mg/kg、CaO:14質量%、Cl:30質量%の塩素バイパスダストD5を得た。
【0049】
このように、得られる塩素バイパスダストD5は、金、銀、ビスマスの濃度が焼却灰の数倍以上になり、一般的な天然の鉱石に比べても数倍以上となった。
【実施例3】
【0050】
実施例2(Bセメント工場)で得られた塩素バイパスダスト1質量部に対して水3質量部を混合し、30分間撹拌後、脱水乾燥した。その結果、Au:10mg/kg、Ag:940mg/kg、Bi:350mg/kgの水洗ダストを得た。
【実施例4】
【0051】
実施例2(Bセメント工場)で得られた塩素バイパスダスト1質量部に対して水3質量部を混合し、塩酸を添加してpH8を維持しながら30分間撹拌後、脱水乾燥した。その結果、Au:14mg/kg、Ag:1200mg/kg、Bi:440mg/kgの塩酸処理ダストを得た。
【実施例5】
【0052】
実施例2(Bセメント工場)で得られた塩素バイパスダスト1質量部に対して水3質量部を混合し、硝酸を添加してpH3を維持しながら30分間撹拌後、脱水乾燥した。その結果、Au:16mg/kg、Ag:910mg/kg、Bi:240mg/kgの硝酸処理ダストを得た。
【実施例6】
【0053】
実施例1(Aセメント工場)で得られた塩素バイパスダスト130g及び蒸留水1300ミリリットルを混合槽に投入し、撹拌して均一なスラリーを得た。当該塩素バイパスダストには鉛が1.7質量%と多く含まれるため、水硫化ソーダ/鉛のモル比が1.0となるよう、硫化剤として水硫化ソーダ水溶液(濃度:10%)をスラリーに加えて撹拌し、硫化物を含むスラリーを得た。次いで、このスラリーに塩酸(濃度:36%)を加えて撹拌し、液性をpH2.0に調整した。このスラリーに疎水化剤としてザンセート水溶液(濃度:5%)を加えて15分間撹拌した。ザンセートの添加量は、ザンセート/鉛のモル比が0.04となる量であった。次に、このスラリーを1段目の浮遊選鉱機に導き、20分間、浮遊選鉱処理を行なった。処理後、浮遊選鉱機から、浮鉱を含むスラリー部分、及び、沈鉱を含むスラリー部分を回収した。
【0054】
一方、1段目の浮遊選鉱機から回収した沈鉱を含むスラリー部分に、ザンセート水溶液(濃度:5%)を加えて15分間撹拌した。ザンセートの添加量は、ザンセート/鉛のモル比が0.04となる量であった。次に、このスラリー部分を2段目の浮遊選鉱機に導き、10分間、浮遊選鉱処理を行なった。処理後、浮遊選鉱機から、浮鉱を含むスラリー部分、及び、沈鉱を含むスラリー部分を回収した。
【0055】
一方、2段目の浮遊選鉱機から回収した沈鉱を含むスラリー部分に、ザンセート水溶液(濃度:5%)を加えて15分間撹拌した。ザンセートの添加量は、ザンセート/鉛のモル比が0.04となる量であった。次に、このスラリー部分を3段目の浮遊選鉱機に導き、10分間、浮遊選鉱処理を行なった。処理後、浮遊選鉱機から、浮鉱を含むスラリー部分、及び、沈鉱を含むスラリー部分を回収した。
【0056】
3段分の浮鉱を回収、脱水乾燥した。その結果、Ag:550mg/kg、Bi:820mg/kgの浮遊選鉱処理ダストを得た。
【実施例7】
【0057】
塩酸(濃度:36%)を加えて液性をpH4.0に調整した以外は、実施例6と同様の方法にて、実施例2(Bセメント工場)で得られた塩素バイパスダスト(鉛含有量0.4質量%)の浮遊選鉱処理を行った。その結果、Ag:1900mg/kg、Bi:900mg/kgの浮遊選鉱処理ダストを得た。
【符号の説明】
【0058】
1 処理装置
2 ガス抽気部
3 ガス処理部
4 微粉末処理部
5 セメントキルン
6 プローブ
7 冷却ファン
10 サイクロン
11 冷却器
12 冷却ファン
13 バグフィルタ
14 ダストタンク
20 溶解槽
21 第1の固液分離機
22 HMX処理工程
23 スラリータンク
24、25 調整槽
26 浮選機
27 第2の固液分離機
28 調整槽
29 第3の固液分離機
C1〜C4 ケーキ
D1 粗粉
D2 微粉
D3、D4 ダスト
D5 塩素バイパスダスト
F フロス
G1 抽気ガス
G2、G3 排ガス
S1〜S7 スラリー
T テール
W1〜W3 ろ液
W4 廃液