特許第6357048号(P6357048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6357048インクジェットヘッドの製造装置およびインクジェットヘッドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357048
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドの製造装置およびインクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20180702BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20180702BHJP
   H01L 41/337 20130101ALI20180702BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20180702BHJP
   B24B 1/04 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B41J2/16 511
   B41J2/16 303
   B41J2/16 501
   B41J2/14 303
   H01L41/337
   H01L41/09
   B24B1/04 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-161440(P2014-161440)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-36970(P2016-36970A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下里 正志
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−001126(JP,A)
【文献】 特開平08−279631(JP,A)
【文献】 特開平08−229781(JP,A)
【文献】 特開昭53−135095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
H01L 41/00 − 41/47
B24B 1/00 − 1/04
B24B 9/00 − 19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク孔の配列方向に沿う複数の溝が加工される被加工面を有する圧電部材を固定する基台と、
前記圧電部材の前記複数の溝の溝形状に対応する凹凸形状をそれぞれ有する複数の刃を一方向に有する加工工具と、
この加工工具の前記圧電部材に対する位置決め、前記加工工具に対する前記刃から前記被加工面への押圧力の付与、および超音波振動を前記刃に加える超音波加工部と、
この超音波加工部の前記押圧力による前記刃および前記被加工面間の接触面積上の荷重の大きさを検知する荷重センサと、
前記加工工具の前記圧電部材に対する相対的な速度を検知し、この荷重センサからの前記荷重の大きさを一定に制御する前記超音波加工部のコントローラと、を備え
前記コントローラは、前記速度が第1の速度値から減少してこの第1の速度値よりも小さい一定の第2の速度値であり前記第2の速度値が一定時間継続することを検出し、この検出により前記荷重の大きさを第1の荷重値からこの第1の荷重値よりも大きい第2の荷重値にするインクジェットヘッドの製造装置。
【請求項2】
前記コントローラは前記第2の速度値の継続時間が予め保持する閾値を超えることにより前記一定時間の継続を検出する請求項1記載のインクジェットヘッドの製造装置。
【請求項3】
インク孔の配列方向に沿う複数の溝が加工される被加工面を有する圧電部材に対して、前記複数の溝の溝形状に対応する凹凸形状をそれぞれ有する複数の刃を一方向に有する加工工具を位置決めし、
前記刃に超音波振動を加えて前記刃から前記被加工面への押圧力の付与を開始し、
前記加工工具の前記圧電部材に対する相対的な速度の検知を開始し、
前記押圧力による前記刃および前記被加工面間の接触面積上の荷重の大きさを荷重センサからの検知出力によって第1の荷重値に一定に制御し、
前記速度が第1の速度値から減少してこの第1の速度値よりも小さい一定の第2の速度値であり前記第2の速度値が一定時間継続することの検出により、前記荷重の大きさを前記第1の荷重値からこの第1の荷重値よりも大きい第2の荷重値にするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記荷重の大きさを前記第1の荷重値から前記第2の荷重値にする際、
前記第2の速度値の継続時間が予め保持する閾値を超えることにより前記一定時間の継続を検出する請求項3記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態はインクジェットヘッドの製造装置およびインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電部材に微細溝を形成したインクジェットヘッドが知られており、微細溝を圧力室とし、その側壁を動かして加圧する所謂シェアウォール方式のインクジェットヘッドや、微細溝間の圧電部材柱の伸縮を利用したインクジェットヘッドなどが代表的である。このような圧電部材に微細溝を形成する方法としては、ダイヤモンドカッタによる加工が一般的である。数百本もの微細溝を一本ずつ圧電部材に加工する方法では時間がかかり過ぎるため、超音波振動により加工する超音波加工技術が知られている(例えば特許文献1参照)。超音波加工は、型材を超音波振動させつつ被加工材であるワークに押し付け、型材とワークとの間の砥粒を介して被加工材を溝状に加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−211703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、超音波加工では、インクジェットヘッドにインクの流路や圧力室となる微細溝の溝幅は数十〜数百μmと非常に小さく、溝幅よりも薄い刃を持つツール刃が必要となる。加工によってツール刃が容易に折れてしまい、あるいはツール刃が折れ曲がって溝形状に歪みが生じるといった欠点が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するため、一実施形態によれば、インク孔の配列方向に沿う複数の溝が加工される被加工面を有する圧電部材を固定する基台と、前記圧電部材の前記複数の溝の溝形状に対応する凹凸形状をそれぞれ有する複数の刃を一方向に有する加工工具と、この加工工具の前記圧電部材に対する位置決め、前記加工工具に対する前記刃から前記被加工面への押圧力の付与、および超音波振動を前記刃に加える超音波加工部と、この超音波加工部の前記押圧力による前記刃および前記被加工面間の接触面積上の荷重の大きさを検知する荷重センサと、前記加工工具の前記圧電部材に対する相対的な速度を検知し、この荷重センサからの前記荷重の大きさを一定に制御する前記超音波加工部のコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記速度が第1の速度値から減少してこの第1の速度値よりも小さい一定の第2の速度値であり前記第2の速度値が一定時間継続することを検出し、この検出により前記荷重の大きさを第1の荷重値からこの第1の荷重値よりも大きい第2の荷重値にするインクジェットヘッドの製造装置が提供される。
【0006】
また、別の一実施形態によれば、インク孔の配列方向に沿う複数の溝が加工される被加工面を有する圧電部材に対して、前記複数の溝の溝形状に対応する凹凸形状をそれぞれ有する複数の刃を一方向に有する加工工具を位置決めし、前記刃に超音波振動を加えて前記刃から前記被加工面への押圧力の付与を開始し、前記加工工具の前記圧電部材に対する相対的な速度の検知を開始し、前記押圧力による前記刃および前記被加工面間の接触面積上の荷重の大きさを荷重センサからの検知出力によって第1の荷重値に一定に制御し、前記速度が第1の速度値から減少してこの第1の速度値よりも小さい一定の第2の速度値であり前記第2の速度値が一定時間継続することの検出により、前記荷重の大きさを前記第1の荷重値からこの第1の荷重値よりも大きい第2の荷重値にするインクジェットヘッドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置の構成例を示す図である。
図2】(a)、(b)はそれぞれ一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置に用いられる加工工具および圧電部材の縦断面図である。
図3】(a)は一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置により製造されるヘッド部分の斜視図であり、(b)は図3(a)のインクジェットヘッドの縦断面図である。
図4】一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置による加工制御を説明するためのフローチャートである。
図5】(a)は一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置の速度制御例を示すタイムチャートであり、(b)はこのインクジェットヘッドの製造装置に用いられる圧電部材にかかる荷重値の推移例を示すタイムチャートである。
図6】(a)、(b)は一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置に用いられる加工工具と圧電部材との接触関係を示す図である。
図7】一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置の加工中の溝の縦断面図を示す図である。
図8】(a)〜(c)は一実施形態に係るインクジェットヘッドの製造方法で製造されたインクジェットヘッドの圧電アクチュエータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造装置およびインクジェットヘッドの製造方法について、図1乃至図8を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0009】
図1は本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置の構成例を示す図である。本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置は超音波加工装置であり、ダイヤモンド焼結体(PCD:Polycrystalline diamond)からなる加工工具を圧電部材に押し当てて超音波振動により微細溝を加工するものである。このインクジェットヘッドの製造装置は、インクを吐出するインク孔の配列方向に沿って複数の溝が加工される被加工面9を有する圧電部材10を固定し、被加工面9へ供給される砥粒を含むスラリ19(液体)を溜めた容器状の基台18と、この圧電部材10の被加工面9上の複数の溝の溝形状に対応する凹凸形状をそれぞれ有する複数の刃17を一方向に配列して有する加工工具11とを備えている。更にこのインクジェットヘッドの製造装置は、この加工工具11の圧電部材10に対する位置決め、加工工具11に対する刃17から被加工面9への押圧力の付与、および超音波振動を刃17に加える超音波加工部7と、超音波加工部7の押圧力による刃17および被加工面9間の接触面積上の荷重の大きさを検知する荷重センサ45と、この荷重センサ45からの荷重の大きさを一定に制御する超音波加工部7のコントローラ20とを備えている。
【0010】
圧電部材10は被加工物であり、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製の2枚の圧電板10a、10bを上下に積層させて形成されており、これらの圧電板10a、10bは互いの分極方向が対向するようにして貼り合わせられている。基台18はスラリ19を溜めており、加工工具11が押し当てられてときに圧電部材10の位置がずれないように圧電部材10を固定している。
【0011】
図2(a)、図2(b)はそれぞれ加工工具11および圧電部材10の図1のAA´に沿う縦断面図であり、図2(a)には加工前の圧電部材10が示されている。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。加工工具11は、ダイヤモンド焼結体チップによる刃17と、この刃17を固定する保持部40とを有する。ダイヤモンド焼結体はダイヤモンドの微粒子をコバルトやニッケルなどの結合助剤によって焼き固めた多結晶ダイヤモンドである。刃17は窪み部分41と突条部42とからなる凹凸が数百回繰返す断面形状を有する。図2(b)には溝加工後の圧電部材10が示されており、この凹凸の繰返し方向に沿って圧電部材10には溝39と隔壁37とが形成されるようになっている。
【0012】
図1の超音波加工部7は、高周波波形を持つ信号を発生させる超音波発信機15と、配線14からの信号により超音波振動を発生させる超音波発振子13と、この超音波発振子13による超音波を増幅するホーン12と、このホーン12の上下動により加工形状を有する加工工具11を被加工面9に接触させ、被加工面9上で前後動および左右動をさせる移動機構16とを備えている。検知部45には例えば荷重セルを用いることができる。検知部45はコントローラ20に電気的に接続される。
【0013】
コントローラ20は加工工具11の被加工面9に対する相対的な速度を検出し、速度の一定時間の継続により、荷重の大きさを第1の荷重値からこの第1の荷重値よりも大きい第2の荷重値にする定荷重制御を行う。このコントローラ20は超音波加工部7を上下、前後および左右の各方向へ変位させる駆動を行う。コントローラ20は移動機構16内の例えば駆動モータの回転数や回転径の監視により加工工具11の下降速度を検知する。コントローラ20はプロセッサ、ROM、RAMを有し、ROMには荷重値に対応する押圧力の対応関係や関係関数などが記憶されており、インクジェットヘッドの製造装置として超音波加工部7を機能させるためのプログラムが記憶されている。
【0014】
図3(a)は本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置により製造されるヘッド部分の斜視図である。図3(b)は図3(a)のBB´に沿うインクジェットヘッド8の縦断面図であり、ノズル孔52の配列方向と直交する短手方向の縦断面構造が示されている。インクジェットヘッド8は分極方向が相反する2枚の圧電体の積層板(圧電板10a、10b)に圧力室となる微細溝を形成したシェアモードシェアウォール方式のインクジェットプリンタヘッドである。インクジェットヘッド8は圧電部材10からなる基板21、枠部材22、蓋部材23およびノズルプレート24を備えている。基板21は主面25、端面126、溝38および隔壁面(同図では表示されていない)を有する。複数の溝38が同図において手前および奥行きに亘ってノズル孔52の配列方向に等ピッチで形成されている。各溝38は傾斜する溝底49を有し、各溝底49は基板21側の主面25に連続し、枠部材22に近づくに従って深さ寸法が減少する溝形状を有する。
【0015】
枠部材22(同図左右一対に表示されている)は基板21の主面25上に固定されており、左方の枠部材22はこの枠部材22の底面によって溝38の開口端を閉塞している。蓋部材23は枠部材22上に重ねられてこの枠部材22上に固定されている。ノズルプレート24は例えばポリイミドフィルムであり、溝38の開口端を閉塞している。蓋部材23、枠部材22、および基板21の主面25で囲まれた空間が共通圧力室50を構成する。蓋部材23はこの共通圧力室50へ上方からインクLを供給する複数のインク供給口26を有する。複数の圧力室48が手前及び奥行きに亘ってノズル孔52の配列方向に亘って等間隔で一列に形成され、共通圧力室50に連通している。ノズルプレート24は複数のノズル孔52を有し、各ノズル孔52は個々に圧力室48に連通している。各溝38にはこれらの溝38の内側面に被膜された導電性の配線層を介して駆動電極51が電気的に接続されている。
【0016】
また、実施の形態に係るインクジェットヘッドの製造方法は加工工具11を圧電部材10に押し当てて超音波振動により溝38を加工する方法であり、圧電部材10に対して加工工具11を位置決めし、刃17に超音波振動を加えて刃17から被加工面9への押圧力の付与を開始し、刃17および被加工面9間の接触面積上の荷重の大きさを検知部45の検知出力によって一定に定荷重制御するものである。
【0017】
また、加工工具11は、予めワイヤ放電加工により加工されたものが用いられる。圧力室48の溝幅が40μm程度を要求される場合、ツール幅(刃先の幅)が30μm程度を持つ加工工具11が用いられる。溝38の溝ピッチが80μmを要求されるのであれば、ワイヤ放電加工装置にはワイヤ径30μm程度のワイヤ電極60を用いることで、圧電部材10側に50μmの溝38及び30μmの隔壁柱がピッチ80μmで形成できる。ツール幅(突条部42の幅)と圧電部材10の溝幅との関係や、ワイヤ径と圧電部材10の溝幅との関係は加工条件により異なるので、適宜最適なワイヤ径を選択することが望ましい。
【0018】
次に上述の構成を有する本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置(図1)の動作について説明する。加工開始に先立ちインクジェットヘッドの製造装置は、刃17の磨耗を最小限に抑えるべく、先端の保持部40にダイヤモンド焼結体の加工工具11を装着する。圧電部材10がSiC等の砥粒が分散されたスラリ19に浸漬される。圧電部材10を加工する場合、超音波加工部7が出力する超音波の周波数は20kHz〜50kHzが好適である。周波数は振動振幅が大きい超音波振動を得るために選択される。
【0019】
図4は本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置による加工制御を説明するためのフローチャートである。
【0020】
アクトA1において、コントローラ20は押圧力を相対的に小さい押圧力Pに設定し、加工開始によってコントローラ20は検知部45の検知出力をモニタしながら加工工具11を下降させる。加工工具11がスラリ19に浸された状態では、超音波振動によりスラリ19中で砥粒による圧電部材10への衝撃が繰返される。
【0021】
図7は加工中の溝38の縦断面図を示す図である。刃17の刃先の幅は溝38の溝形状の溝幅よりも狭い。刃17の刃体と両側の溝壁との間の隙間に砥粒が入り込んだ状態で超音波振動が加わる。加工工具11が圧電部材10の硬度に比して超硬であり砥粒が用いられるため、加工工具11が型となり、この型と相反する形状の溝38が形成される。
【0022】
アクトA2(図4)において、コントローラ20が加工工具11の下降によって圧電部材10へかかる荷重が増加する。
【0023】
図5(a)はコントローラ20による速度制御例を示すタイムチャートであり、図5(b)は圧電部材10にかかる荷重値の推移例を示すタイムチャートである。同図は検知部45からの出力による。時刻tで加工が開始後、押圧力Pに対応して検知部45は荷重値Fを出力する。時刻tから荷重値が徐々に増加する。開始初期(速度立上りは図示しない)の速度は速度値Vであるとする。
【0024】
アクトA3(図4)では、コントローラ20は速度値が一定になったかどうかを判断している。加工工具11の下降によって刃17が被加工面9に接触し始めると速度が図5(a)のように減少し始める。この間、コントローラ20はアクトA3のNOルートを通り、速度が速度値Vで一定値になったかどうかの判断を続ける。
【0025】
図6(a)、図6(b)は加工工具11と圧電部材10との接触関係を示す図である。図6(a)は圧電部材10が下に凸の反り方を示す例であり、図6(b)は圧電部材10が上に凸の反り方を示す例である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。時刻tの加工開始時においては、圧電部材10の若干の反り等により、刃17のすべてが均一に被加工面9に接触するわけではない。圧電部材10の反りや、複数の刃17間の摩耗量の差異によって圧電部材10と加工工具11とは必ずしも均一に接触しないからである。図6(a)の例では加工工具11の左右両側の一部にしか圧電部材10が接触しない。図6(b)の例では加工工具11の左右間の中央の一部でしか、圧電部材10と加工工具11とが接触しない。図6(a)、図6(b)のように圧電部材10の被加工面9の反り方向の違いにより、圧電部材10および加工工具11間の接触箇所や接触面積が異なる。
【0026】
刃17が被加工面9の全面に接触すると、複数の刃17は全て被加工面9に接触し、圧電部材10から刃17に対する負荷が反作用により増大し始める。図5(a)に示すように速度はVからVになった後、Vで一定になり始める。アクトA3においてYESルートを通り、コントローラ20はアクトA4において移動機構16の一定速度Vが一定時間に亘り継続しているかどうかを判断する。アクトA4においてコントローラ20は監視により図5のように時刻tにおいて一定速度Vの継続時間が予め保持する閾値を超えると、アクトA4においてYESルートを通り、コントローラ20は、アクトA5において押圧力Pから押圧力Pに上げる。検知部45の検知出力のモニタによりコントローラ20は荷重の大きさを第1の荷重値Fからこの第1の荷重値Fよりも大きい第2の荷重値Fに変更する。図5(b)のように時刻tから時刻tにかけて荷重値がFにまで上昇する。速度が速度値Vで下止まりした状態では加工工具11の刃17が被加工面9の全面に接触しているが、時刻t以降、加工工具11は溝38の溝深さ方向に進むため、図5(a)のように速度が上昇する。
【0027】
仮に図6のような接触状態でコントローラ20が荷重制御をせずに大きな荷重値で切削を始めると、圧電部材10の被加工面9の一部に過大な圧力が加わり、溝壁が垂直に形成されず、垂直面から傾斜するなど溝形状に歪みが生じる。一つの溝38の両側溝壁のうちの一方の上部が欠けてしまい、互いに平行な溝壁が得られない。また、加工工具11の刃17が折れ曲がり、あるいは折損してしまうという問題が生じる。一方、小さな荷重値による制御だけでコントローラ20が加工を続けると、溝38が得られるまでの時間を要し、加工完了までの加工速度が遅くなり、生産性を向上させることが出来ない。つまり加工工具11を圧電部材10に接触させたまま何ら荷重を変更する制御を行わないと加工速度が遅くなって生産性を向上出来ない。
【0028】
本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置は、多数の刃17が全て被加工面9に接触した後に、コントローラ20が加工開始時の荷重値Fに比べて大きな荷重値Fにすることによりこの生産性を確保することができる。本実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置によれば、超音波加工を実施することにより、安価に圧電部材10に微細なインク流路および圧力室を形成することができる。溝幅が数十〜数百μmと非常に小さい微細溝を加工することができる。溝幅よりも薄い刃体を持つ加工工具11により圧力制御を行うため、薄い加工工具11であっても加工工具11を折損又は折れ曲がることなく互いに平行な600本程度の溝38が得られる。
【0029】
次にこのように製造されたインクジェットヘッド8(図3)の動作について述べると、インクジェットヘッド8は何れか一又は複数の駆動電極51がパルス電圧信号によって駆動される。
【0030】
図8(a)〜図8(c)はインクジェットヘッド8の圧電アクチュエータの縦断面図であり、それぞれ図3のCC´に沿う断面が示されている。駆動電極51に対応する圧力室48に電界が発生し、この圧力室48が変形し、電界の消滅によってこの変形が元に戻ることが一点について繰返される。側壁が日本語の「く」の字に変形するため、インクジェットヘッド8は圧力室を加圧および減圧することが可能である。圧力室48の容積を拡張又は縮小することにより、インクの液圧が加圧され、インクジェットヘッド8はノズル孔52から記録媒体に向かって液滴を噴射する。
【0031】
上記実施形態では、コントローラ20は移動機構16内の駆動モータ等の動作状態によって速度検知を行っていたが、速度検知は、別途速度を検知する速度センサを設けて加工工具11の下降速度を検知してもよく、種々変形可能である。
【0032】
上記実施形態では、インクジェットヘッドの製造装置は圧力値、荷重値や速度値は、圧電部材の物性、ツールの物性、ツール形状、砥粒等により異なるので、実験的に最適値を求める。圧電部材10がスラリ19に浸けられていたが、圧電部材10がスラリ19に浸けられていない状態で被加工面9にスラリ供給具からのスラリ19が供給されてもよい。図1のワイヤ放電加工の構成は種々の変形可能であり、この構成に限定されるものではない。
【0033】
加工工具にはダイヤモンドチップが用いられていたが、圧電部材の硬度よりも大きい硬度を持つ材質の硬質刃を用いることができる。フローチャートは一例であり。その変更をして実施をしたに過ぎない実施品に対して実施形態に係るインクジェットヘッドの製造装置の優位性は何ら損なわれるものではない。
【0034】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
7…超音波加工部、8…インクジェットヘッド、9…被加工面、10…圧電部材、11…加工工具、17…刃、18…基台、19…スラリ、20…コントローラ、38…溝。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8