(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車又は三輪車等の鞍乗型車両の前輪を懸架するフロントフォークの中には、車輪側のアウターチューブと、このアウターチューブに出入りする車体側のインナーチューブと、アウターチューブの内側に軸心に沿って設けられるシリンダと、インナーチューブの下端部内周に設けられてシリンダの外周面に摺接するピストンと、シリンダの上端部外周に設けられてインナーチューブの内周面に摺接するガイドと、シリンダの上側開口部に設けられる隔壁部材とを備えているフロントフォークがある(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
このようなフロントフォークの内部において、アウターチューブとシリンダとの間に形成されてピストンで区画される伸側室及び圧側室と、シリンダの内側に形成される内側室には油が充填されている。また、隔壁部材の上側に形成されるリザーバには、油が貯留されるとともに、その油面の上方に気体が封入されている。そして、前記リザーバは、ガイドで伸側室と区画されるとともに、隔壁部材で内側室と区画されている。
【0004】
前記ピストンには、圧側室から伸側室に向かう油の流れを許容するピストン通路が形成されている。また、シリンダには、伸側室と内側室とを連通する上側の絞り孔と、圧側室と内側室とを連通する下側の通孔が形成されている。また、隔壁部材には、内側室からリザーバに向かう油の流れを許容するとともに、この流れに抵抗を与える減衰通路と、リザーバから内側室に向かう油の流れを許容する吸込通路が形成されている。
【0005】
前記構成によれば、伸長作動時において、縮小される伸側室の油が絞り孔を通過して内側室に移動するので、フロントフォークは、絞り孔の抵抗に起因する伸側減衰力を発生する。また、伸長作動時において拡大する圧側室には、内側室の油が通孔を介して流入するとともに、アウターチューブから退出したインナーチューブ体積分の油が隔壁部材の吸込通路を通過してリザーバから内側室に移動し、この内側室から通孔を介して内側室に流入する。
【0006】
反対に、圧縮作動時においては、縮小される圧側室の油がピストン通路を通って伸側室に移動するとともに、通孔を通って内側室に移動する。また、圧縮作動時において、アウターチューブに進入したインナーチューブ体積分の油が隔壁部材の減衰通路を通過して内側室から液溜室に移動するので、フロントフォークは、減衰通路の抵抗に起因する圧側減衰力を発生する。
【0007】
このように、前記フロントフォークは、シリンダの内側に形成される内側室からシリンダの上側に形成されるリザーバに向かう油の流れを絞る。このため、圧縮作動時に内側室と圧側室を速やかに昇圧させて、伸側室が負圧となるのを抑制するとともに、圧側減衰力を速やかに発生できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0018】
図1,2に示すように、本発明の一実施の形態に係るフロントフォークFは、車輪W側のアウターチューブ1と、前記アウターチューブ1に出入りする車体B側のインナーチューブ2と、前記インナーチューブ2の内側に設けられて車体Bを弾性支持する懸架ばね(ばね要素)3と、前記アウターチューブ1の内側に軸方向に沿って設けられるシリンダ4と、前記インナーチューブ2の車輪側に設けられて前記アウターチューブ1と前記シリンダ4との間に形成される外周室R1を伸側室r10と圧側室r11とに区画するピストン5と、前記シリンダ4の車体側に設けられて前記シリンダ4から突出するインナーチューブ2の内側に形成されるリザーバR2と前記伸側室r10とを区画するガイド6とを備えている。加えて、前記シリンダ4には、前記シリンダ4の内側に形成される内側室R3と前記外周室R1とを連通する軸方向車体側の絞り孔4aと、軸方向車輪側の通孔4bとが形成されている。
【0019】
さらに、フロントフォークFは、前記シリンダ4の車体側開口を開閉し、前記懸架ばね(ばね要素)3で閉じ方向に附勢される弁部材7と、前記リザーバR2から前記内側室R3への作動油(流体)の流れを許容する吸込通路8pとを備えている。
【0020】
以下、詳細に説明すると、本実施の形態に係るフロントフォークFは、二輪車又は三輪車等の鞍乗型車両の前輪である車輪Wを懸架する。以下の説明において、車両に取り付けられた状態におけるフロントフォークFの上を「上」、下を「下」とする。
【0021】
図2に示すように、前記フロントフォークFは、車輪Wを両側から支える一対の脚部f1,f1(
図1,2中片方の脚部のみを図示する)を備える。こられ脚部f1,f1は、共に、アウターチューブ1と、このアウターチューブ1に出入りするインナーチューブ2とを含むテレスコピック型の筒部材Tを備えている。本実施の形態において、アウターチューブ1が下側となる車輪W側に配置され、インナーチューブ2が上側となる車体B側に配置されており、フロントフォークFが正立型に設定されている。
【0022】
一対の脚部f1,f1におけるアウターチューブ1の下端部には、それぞれ、車輪Wの車軸に連結される車輪側ブラケット10が設けられる。また、一対の脚部f1,f1におけるインナーチューブ2の上端部は、車体側ブラケット20で連結されており、この車体側ブラケット20が車体Bの骨格となる車体フレームb1に連結される。このため、路面凹凸による衝撃が車輪Wに入力されると、アウターチューブ1にインナーチューブ2が出入りしてフロントフォークFが伸縮作動する。
【0023】
このように、本実施の形態のフロントフォークFは、二本で一対の脚部f1,f1で車輪Wを両側から支えるが、本発明が適用されるフロントフォークFの構成は前記の限りではない。例えば、フロントフォークFが一本の脚部f1で車輪Wを支える方持ち型に設定されてもよい。また、本実施の形態において、一対の脚部f1,f1が共通の構成を備えており、各脚部f1,f1に本発明が適用されている。しかし、片方の脚部f1にのみ本発明を適用してもよい。
【0024】
一対の脚部f1,f1は、共に、
図1に示すように、前記した下側のアウターチューブ1と上側のインナーチューブ2とを含む筒部材Tと、この筒部材Tの上側開口部に取り付けられるキャップ部材21と、アウターチューブ1の内側に軸方向に沿って設けられるシリンダ4と、インナーチューブ2の下部内周に設けられてシリンダ4の外周面に摺接するピストン5と、シリンダ4の上部外周に設けられてインナーチューブ2の内周面に摺接するガイド6と、シリンダ4に積層されてシリンダ4の上側開口を開閉する弁部材7と、この弁部材7とキャップ部材21との間に介装される懸架ばね3とを備えている。
【0025】
本実施の形態において筒部材Tの内部は、アウターチューブ1とシリンダ4との間に形成される環状の外周室R1と、シリンダ4から上側に突出するインナーチューブ2の内側に形成されるリザーバR2と、シリンダ4の内側に形成される内側室R3とに分かれている。さらに、外周室R1は、ピストン5で上側の伸側室r10と下側の圧側室r11とに区画されている。また、リザーバR2は、ガイド6で伸側室r10と区画されるとともに、弁部材7で内側室R3と区画される。
【0026】
また、筒部材Tの内部には、作動油と気体が封入されている。作動油は筒部材Tの内部における下側に貯留される一方、気体は作動油の油面(図示せず)に接し、筒部材Tの内部における上側に封入されている。油面は、弁部材7よりも常に高い位置にあり、伸側室r10、圧側室r11及び内側室R3が作動油で満たされる。そして、リザーバR2が作動油を貯留する油溜室r20と、気体を封入する気室r21からなる。本実施の形態において、減衰力を発生するための流体として作動油を利用しているが、作動油以外の液体又は、気体を利用してもよい。
【0027】
筒部材Tを構成するアウターチューブ1は、有底筒状に形成されている。アウターチューブ1の底部には、アウターチューブ1にシリンダ4を固定するボルト11が螺合されている。このボルト11の頭部とアウターチューブ1の底部との間には環状のシール12が介装されている。また、アウターチューブ1の上側開口部内周には、インナーチューブ2の外周面に摺接する環状のオイルシール13とダストシール14が設けられている。また、インナーチューブ2の上側開口部に取り付けられるキャップ部材21の外周には、インナーチューブ2の内周面に密着する環状のOリング22が設けられている。そして、前記したシール12、オイルシール13、ダストシール14及びOリング22は、筒部材T内に収容される作動油と気体の外気側への流出を防いでいる。
【0028】
前記アウターチューブ1とともに筒部材Tを構成するインナーチューブ2は、筒状に形成されており、アウターチューブ1の内側に上側から摺動可能に挿入されている。
図3に示すように、インナーチューブ2の下端部には、他の部分よりも内径が大きく形成されるピストン保持部2aが設けられており、このピストン保持部2aと他の部分との境界が段差2bとなっている。また、ピストン保持部2aの下端は、内側に折り曲げられており、この曲げ部2cと段差2bとの間にピストン5が保持される。
【0029】
ピストン5は、上下の環状のストッパ50,51と、これらストッパ50,51の間に介装される環状のスペーサ52と、このスペーサ52の内側に設けられる弁体53とを備えている。上下のストッパ50,51は、共に、シリンダ4の外径よりもやや大きい内径を有し、外周側を段差2bと曲げ部2cの間に挟まれて固定されている。スペーサ52は、上下のストッパ50,51よりも大きい内径を有し、外周側をストッパ50,51と同じく段差2bと曲げ部2cの間に挟まれて固定されている。弁体53は、スペーサ52の内径よりも小さく、ストッパ50,51の内径よりも大きい外径を有するとともに、スペーサ52よりも軸方向長さが短くなるように設定されている。また、弁体53は、シリンダ4の外周面に摺接可能な内径に設定される。加えて、弁体53の上部には、弁体53の内周端から外周端にかけて径方向に延びる切欠53aが形成されている。
【0030】
前記構成によれば、弁体53は、上下のストッパ50,51の間を軸方向に移動できる。また、弁体53が上側のストッパ50に当接したとき、切欠53aにより弁体53とストッパ50との間にできる隙間を作動油が通れるようになっている。このため、伸側室r10と圧側室r11は、上下のストッパ50,51とシリンダ4との間にできる環状の隙間と、弁体53とスペーサ52との間にできる環状の隙間と、切欠53aにより弁体53と上側のストッパ50との間にできる直線状の隙間を介して連通できる。反対に、弁体53が下側のストッパ51に当接したとき、弁体53とストッパ51との間が塞がれるので、伸側室r10と圧側室r11の連通が遮断される。
【0031】
つまり、本実施の形態において、ピストン5部分に形成されて、伸側室r10と圧側室r11とを連通する通路をピストン通路5pとすると、当該ピストン通路5pは、上下のストッパ50,51の内周側、弁体53の外周側及び切欠53aを通る。そして、弁体53は、伸側室r10が加圧される伸長作動時に、下方に移動して下側のストッパ51に当接し、ピストン通路5pの連通を遮断する。反対に、弁体53は、圧側室r11が加圧される圧縮作動時に、上方に移動して下側のストッパ51から離れるので、ピストン通路5pの連通を許容する。また、弁体53は切欠53aを有しているので、上側のストッパ50に当接してもピストン通路5pの連通を許容した状態に保つ。
【0032】
なお、ピストン5に設けられるピストン通路5p及び弁体53の構成は、前記の限りではなく、ピストン通路5pが弁体53で開閉され、弁体53が伸長作動時にピストン通路5pを閉じ、圧縮作動時にピストン通路5pを開くようになっていればよい。
【0033】
つづいて、
図1に示すように、アウターチューブ1の内側に軸方向に沿って設けられるシリンダ4は、筒状に形成されている。当該シリンダ4は、外周面に前記ピストン5の弁体53が摺接する筒状の本体部4cと、この本体部4cの上側に連なり外径が本体部4cの外径よりも大きく形成される拡径部4dと、本体部4cの下側に連なりボルト11の螺子部外周に螺合する連結部4eとを有する。
【0034】
そして、シリンダ4の本体部4cの外周に、伸側室r10と圧側室r11とからなる外周室R1が形成されている。また、本体部4cの上部には、外周室R1と内側室R3とを連通し、外周室R1と内側室R3を行き交う作動油の流れに抵抗を与える絞り孔4aが形成されている。他方、本体部4cの下部には、外周室R1と内側室R3とを連通する通孔4bが形成されている。この通孔4bは、外周室R1と内側室R3を行き交う作動油の流れを絞らないように配慮されている。
【0035】
図4に示すように、シリンダ4の拡径部4dには、周方向に沿う環状の溝4fが形成されている。この溝4fには、環状の弁体60が挿入されている。本実施の形態において、伸側室r10とリザーバR2とを区画するガイド6は、拡径部4dと弁体60とを備えて構成される。前記溝4fの壁面は、シリンダ4の軸に対して略垂直に設けられて拡径部4dの外周端から軸心に向けて延びる上下の環状のストッパ面61,62と、これらストッパ面61,62の内周端をつなぎ、シリンダ4の軸に対して略平行な起立面63とを含む。弁体60は、起立面63の径よりも大きく、ストッパ面61,62の外径よりも小さい内径を有するとともに、起立面63よりも軸方向長さが短くなるように設定される。また、弁体60は、インナーチューブ2の内周面に摺接可能な外径に設定される。加えて、弁体60の下部には、弁体60の内周端から外周端にかけて径方向に延びる切欠60aが形成されている。
【0036】
前記構成によれば、弁体60は、溝4f内を軸方向に移動できる。また、弁体60が下側のストッパ面62に当接したとき、切欠60aにより弁体60とストッパ面62との間にできる隙間を作動油が通れるようになっている。このため、伸側室r10とリザーバR2は、拡径部4dにおける溝4fの上下の部分とインナーチューブ2との間にできる環状の隙間と、弁体60と起立面63との間にできる環状の隙間と、切欠60aにより弁体60と下側のストッパ面62との間にできる直線状の隙間を介して連通できる。反対に、弁体60が上側のストッパ面61に当接したとき、弁体60とストッパ面61との間が塞がれるので、伸側室r10とリザーバR2の連通が遮断される。
【0037】
つまり、本実施の形態において、ガイド6部分に形成されて、伸側室r10とリザーバR2とを連通する通路をガイド通路6pとすると、当該ガイド通路6pは、拡径部4dにおける溝4fの上下の部分の外周側、弁体60の内周側及び切欠60aを通る。そして、弁体60は、伸側室r10が加圧される伸長作動時に、上方に移動して上側のストッパ面61に当接し、ガイド通路6pの連通を遮断する。反対に、弁体60は、インナーチューブ2がアウターチューブ1に進入する圧縮作動時に、インナーチューブ2とともに下方に移動して上側のストッパ面61から離れるので、ガイド通路6pの連通を許容する。また、弁体60は切欠60aを有しているので、下側のストッパ面62に当接しても、ガイド通路6pの連通を許容した状態に保つ。
【0038】
なお、ガイド6に設けられるガイド通路6p及び弁体60の構成は、前記の限りではなく、ガイド通路6pが弁体60で開閉され、弁体60が伸長作動時にガイド通路6pを閉じ、圧縮作動時にガイド通路6pを開くようになっていればよい。また、本実施の形態においては、伸側室r10が拡大する圧縮作動時に、伸側室r10に作動油を供給する圧側の吸込通路として、ピストン通路5pとガイド通路6pの両方を備えているので、伸側室r10で作動油が不足するのを確実に防止できる。しかし、圧側の吸込通路は、ピストン通路5pとガイド通路6pの片方のみでもよい。
【0039】
また、ガイド6とピストン5との間には、コイルばねからなる伸切ばね9が設けられている。当該伸切ばね9は、伸長作動時にピストン5がインナーチューブ2とともに上方に移動してガイド6に近づくと、上側のストッパ50と拡径部4dとで挟まれて圧縮され、反力を発生する。つまり、伸切ばね9が圧縮されると、フロントフォークFを伸長方向に附勢してフロントフォークFの伸長運動を抑制するので、フロントフォークFの最伸長時の衝撃を伸切ばね9で緩和できる。
【0040】
加えて、フロントフォークFが伸長してピストン5の弁体53が絞り孔4aよりも上側に移動すると、伸側室r10がオイルロックされる。このため、当該オイルロック効果によってもフロントフォークFの最伸長時の衝撃を緩和できる。なお、フロントフォークFが圧縮作動に転じた場合には、ピストン通路5pとガイド通路6pが共に連通するので、速やかに伸側室r10のオイルロックが解除される。つまり、シリンダ4の上側に形成される絞り孔4aは、伸び切り時を除く通常のストローク範囲において、伸側室r10と内側室R3とを連通するようになっている。
【0041】
つづいて、シリンダ4の上側の端面が環状のシート4gとされており、当該シート4gに弁部材7が積層される。そして、この弁部材7とキャップ部材21(
図1)との間にばね要素としての懸架ばね3が介装されている。当該懸架ばね3は、圧縮量に応じた反力を発生するコイルばねからなり、車体を弾性支持する。このような車体を弾性支持するばね要素は、懸架ばね、メインスプリング等と称される。そして、フロントフォークFは、車体を弾性支持する前記ばね要素(懸架ばね3)で路面凹凸による衝撃を吸収し、減衰力を発生するための減衰力発生要素(絞り孔4a、弁部材7)で前記衝撃吸収に伴うばね要素の伸縮運動を減衰できる。このため、車両の乗り心地を良好にできる。
【0042】
弁部材7は、環状に形成されており、弁部材7の内側に挿通されるガイドロッド70と、弁部材7の下側に積層されてガイドロッド70に沿って移動可能な弁体71とともに、バルブ組立体Vを構成する。
【0043】
弁部材7は、インナーチューブ2内に軸方向に移動自在に挿入されるとともに、懸架ばね3の附勢力で下向きに附勢されている。弁部材7の外周縁には、軸方向に沿う複数の凹み7aが周方向に並んで設けられており、弁部材7の外周を通る作動油の抵抗を小さくしている。また、弁部材7は、懸架ばね3の下端を支える環状のばね受け部7bと、このばね受け部7bの内周に設けられるとともにばね受け部7bよりも上側に突出し、外周に懸架ばね3が嵌合する環状のガイド部7cと、ばね受け部7bから下側に突出し、シート4gに離着座する環状の弁体部7dとを備えている。さらに、弁部材7には、上下に貫通する吸込通路8pが形成されている。この吸込通路8pの下端は、弁体部7dの内周側に開口しており、弁体部7dにかからないようになっている。
【0044】
弁部材7の内側に挿通されるガイドロッド70は、弁部材7が外周に取り付けられる軸部70aと、軸部70aに連なり弁部材7の上方に突出するとともに外側に折り曲げられる曲げ部70bと、軸部70aに連なり弁部材7の下方に突出するとともに外径が弁部材7の内径よりも大きく形成されるガイド部70cと、このガイド部70cの下側に連なり外径がガイド部70cの外径よりも大きく形成されるストッパ部70dとを備えている。そして、ガイド部70cと軸部70aの境界にできる段差と曲げ部70bとの間に弁部材7が挟まれて固定される。
【0045】
ガイドロッド70に沿って移動可能な弁体71は、薄い環状板であり、ガイド部70cの外周に取り付けられている。また、弁体71の外径は、弁体部7dの内径よりも小さく設定されている。そして、弁体71の上方への移動は、弁部材7における弁体部7dよりも内周側で規制され、弁体71の下方への移動は、ガイドロッド70におけるストッパ部70dで規制される。また、弁体71は、弁部材7に当接(着座)したとき、吸込通路8pの下側開口を塞ぐようになっている。
【0046】
前記構成によれば、アウターチューブ1から退出するインナーチューブ2体積分の作動油が外周室R1及び内側室R3で不足する伸長作動時において、懸架ばね3の附勢力で弁部材7がシート4gに押し付けられた状態に維持される。他方、弁部材7に積層される弁体71は、弁部材7から離れて吸込通路8pを開く。このため、前記不足分の作動油が、リザーバR2の液溜室r20から吸込通路8pを通って内側室R3に供給される。つまり、弁部材7に形成される吸込通路8pは、伸長作動時に開かれる伸側の吸込通路である。反対に、アウターチューブ1に進入するインナーチューブ2体積分の作動油が外周室R1及び内側室R3で余剰となる圧縮作動時において、懸架ばね3の附勢力に抗して弁部材7がシート4gから離れてシリンダ4の上側開口を開く。他方、弁部材7に積層される弁体71は、内側室R3の圧力を受けて弁部材7に当接した状態に維持され、伸側の吸込通路8pを閉じた状態に維持される。このため、前記余剰分の作動油が、弁部材7とシート4gとの間を通ってリザーバR2に移動する。
【0047】
さらに、シリンダ4に対するピストン位置が下方に移動してフロントフォークFのストローク量が増えると懸架ばね3の圧縮量が大きくなり、懸架ばね3が弁部材7を閉じ方向に附勢する力が強くなる。このため、弁部材7がシート4gから離れ、シリンダ4の上側開口を開くときの開弁圧は、ピストン位置が下がる程大きくなる。したがって、フロントフォークFの減衰力は、ピストン速度に依存して変化するとともに、ピストン位置に依存しても変化する。つまり、本実施の形態に係るフロントフォークFは、部品数を増やしたり、構造を複雑化させたりせずに、位置依存の減衰力を発生できる。
【0048】
また、本実施の形態において、圧縮作動時に懸架ばね3を支える弁部材7がシリンダ4から浮き上がる。このため、懸架ばね3の圧縮により弁部材7を捻じる回転方向の力が作用したとき、当該力を受けて弁部材7が容易に回転できる。例えば、特開2003−232395号公報に開示のフロントフォークのように、シリンダの上側開口を塞ぐ隔壁部材がコイルばねで常にシリンダに押し付けられる場合、前記回転方向の力が入力されると、隔壁部材がシリンダに押し付けられながら回転する。このため、隔壁部材が回転する際の抵抗が大きく、回転と停止を繰り返すような挙動となって、車両の乗り心地を悪化させたり、搭乗者が違和感を覚えたりする不具合を生じる可能性がある。しかしながら、本実施の形態においては、弁部材7が滑らかに回転できるので、前記不具合の発生はない。
【0049】
また、本実施の形態において、伸側の吸込通路8pを開閉する弁体71が環状板である。このため、弁部材7、ガイドロッド70及び弁体71を備えて構成されるバルブ組立体Vの軸方向長さを短くできる。
【0050】
次に、本実施の形態に係るフロントフォークFの作動について
図5を参照して説明する。
図5(a)は、伸長作動時における作動油の流れを二点鎖線で示し、
図5(b)は、圧縮作動時における作動油の流れを二点鎖線で示している。
【0051】
アウターチューブ1からインナーチューブ2が退出するフロントフォークFの伸長作動時には、ピストン5がシリンダ4に対して上方に移動して伸側室r10が圧縮される。当該伸長作動時には、ピストン5及びガイド6の弁体53,60が圧側の吸込通路となるピストン通路5p及びガイド通路6pを閉じる。このため、伸側室r10の作動油が絞り孔4aを通って内側室R3に移動して、フロントフォークFが前記絞り孔4aの抵抗に起因する伸側減衰力を発生する。また、拡大する圧側室r11には、内側室R3の作動油が通孔4bを介して流入する。
【0052】
また、伸長作動時では、アウターチューブ1から退出したインナーチューブ2の体積分外周室R1の容積が増えるので、通孔4bを介して連通する外周室R1と内側室R3で作動油が不足する。このとき、弁部材7はシリンダ4のシート4gに着座した状態に維持されるが、弁部材7に積層される弁体71は伸側の吸込通路8pを開く。したがって、前記不足分の作動油が伸側の吸込通路8pを通ってリザーバR2の油溜室r20から内側室R3に移動する。
【0053】
反対に、アウターチューブ1にインナーチューブ2が進入するフロントフォークFの圧縮作動時には、ピストン5がシリンダ4に対して下方に移動して圧側室r11が圧縮される。当該圧縮作動時には、ピストン5の弁体53が圧側の吸込通路となるピストン通路5pを開く。このため、圧側室r11の作動油がピストン通路5pを通って伸側室r10に移動するとともに、通孔4bを通って内側室R3に移動する。また、圧縮作動時には、ガイド6の弁体60も圧側の吸込通路となるガイド通路6pを開くので、拡大する伸側室r10には、リザーバR2の液溜室r20からも作動油が供給される。
【0054】
また、圧縮作動時では、アウターチューブ1に進入したインナーチューブ2の体積分外周室R1の容積が減るので、通孔4bを介して連通する外周室R1と内側室R3で作動油が余剰となる。このとき、弁部材7に積層される弁体71は伸側の吸込通路8aを閉じた状態に維持されるが、弁部材7は懸架ばね3の附勢力に抗して上方に浮き上がり、弁体部7dがシート4gから離れてシリンダ4の上側開口を開く。このため、前記余剰分の作動油が内側室R3からリザーバR2に流出し、フロントフォークFが弁部材7の抵抗に起因する圧側減衰力を発生する。
【0055】
なお、本実施の形態において、ピストン速度が低速領域にある場合、圧縮作動時に部品間に存在する微小隙間を作動油が通るので、圧側低速減衰力発生用のオリフィスを設けていない。しかし、弁体部7d又はシート4gに切欠を設けたり、弁体71又はガイドロッド70に絞り孔を設けたりして、前記圧側低速減衰力発生用のオリフィスを形成してもよい。
【0056】
このように、本実施の形態に係るフロントフォークFは、弁部材7を備えており、当該弁部材7で内側室R3からリザーバR2に向かう作動油の流れに抵抗を与えられる。このため、圧縮作動時に、内側室R3と圧側室r11を速やかに昇圧させて、伸側室r10が負圧となるのを抑制するとともに、圧側減衰力を速やかに発生できる。
【0057】
さらに、フロントフォークFのストローク量(圧縮量)が小さく、シリンダ4に対するピストン位置が上方にある場合には、懸架ばね3の反力が比較的小さく、弁部材7を閉じ方向に附勢する力が小さくなる。反対に、フロントフォークFのストローク量が大きく、シリンダ4に対するピストン位置が下方にある場合には、懸架ばね3の反力が比較的大きく、弁部材7を閉じ方向に附勢する力が大きくなる。このため、本実施の形態においては、ピストン位置に応じて弁部材7の開弁圧を変えられ、フロントフォークFがピストン位置に依存した位置依存の圧側減衰力を発生できる。
【0058】
また、フロントフォークFが伸長してピストン5の弁体53が絞り孔4aよりも上側に移動すると、伸側室r10がオイルロックされるので、ピストン5とガイド6との衝突を抑制できる。このとき、ピストン5とガイド6との間で伸切ばね9が圧縮されて反力を発生し、フロントフォークFの最伸長時の衝撃を緩和できる。
【0059】
なお、本実施の形態において、フロントフォークFの圧縮量の増加に伴い懸架ばね3の反力が大きくなるので、圧側減衰力が大きくなる。つまり、ピストン5がアウターチューブ1の底部に接近した時には、大きい圧側減衰力でフロントフォークFの圧縮作動を抑制し、ピストン5と前記底部との衝突を防止できるようになっている。このため、最圧縮時にオイルロック効果を発揮するオイルロックピース及びオイルロックケースを廃して、部品数を削減し、フロントフォークFのコストを低減できる。
【0060】
また、本実施の形態のように、弁部材7の外周部に凹み7aを設けて、弁部材7の上下に移動する作動油の流れを妨げないようになっている。この場合、弁部材7をインナーチューブ2の内周面に摺接させるとしてもよい。また、このように、弁部材7がインナーチューブ2に摺接する場合には、弁部材7をインナーチューブ2で支えながら上下に移動させられるので、弁体部7dがシート4gからずれて着座したり、シート4gに対して傾いたりするのを確実に防止できる。
【0061】
以下、本実施の形態に係るフロントフォークFの作用効果について説明する。
【0062】
本実施の形態において、伸側の吸込通路8pの下端(一端)は、弁体部7dの内周側に開口し、当該弁体部7dの内周側に挿入される弁体71で開閉される。
【0063】
弁部材7が離着座するシート4gの径は弁体部7dの径に合わせて設定されるので、前記構成によれば、弁体71とシート4gの干渉を容易に防止できる。加えて、前記構成によれば、弁体部7d及びシート4gの径を大きくして、内側室R3の圧力を受ける受圧面積を大きくできる。このため、弁部材7が懸架ばね3による強い力で閉じ方向に附勢される場合であっても、弁部材7の開弁圧が高くなり過ぎるのを抑制できる。なお、伸側の吸込通路8pを設ける位置は、前記の限りではなく、任意に変更できる。
【0064】
また、本実施の形態において、弁部材7は、懸架ばね(ばね要素)3の下端(一端)を支える環状のばね受け部7bと、前記ばね受け部7bから下側(シリンダ4側)に突出し、シート4gに離着座する環状の弁体部7dとを備えている。
【0065】
前記構成によれば、懸架ばね3の附勢力を受けて閉じ方向に附勢される弁部材7を容易に実現できる。また、ばね受け部7b、弁体部7d、シリンダ4のシート4gが同一直線上に並ぶ。このため、弁体部7dがシート4gに着座したとき、懸架ばね3の荷重で弁体部7dが撓むのを抑制し、弁体部7dをシート4gにしっかりと着座させられる。なお、弁部材7の構成は、前記の限りではなく、任意に変更できる。
【0066】
また、本実施の形態において、伸側の吸込通路8pが弁部材7に形成されている。
【0067】
前記構成によれば、伸側の吸込通路8pを形成し易く、当該吸込通路8pを開閉する弁体71を取り付けやすい。なお、伸側の吸込通路8pを形成する場所は、前記の限りではなく、任意に変更できる。例えば、シリンダ4の拡径部4d等に形成されてもよい。また、本実施の形態において、伸側の吸込通路8pを開閉する弁体71が環状板からなるので、弁部材7、ガイドロッド70及び弁体71を備えて構成されるバルブ組立体Vが軸方向に嵩張るのを防いでいる。しかし、伸側の吸込通路8pを開閉する弁体71の構成も任意である。
【0068】
また、本実施の形態において、シリンダ4の上端(車体側端部)に、環状のシート4gが設けられており、弁部材7が前記シート4gに離着座する。
【0069】
このように、本実施の形態においては、シリンダ4に弁部材7が直接離着座する構造となっている。このため、弁部材7が離着座するシート4gを有する部材がシリンダ4と別に構成される場合(例えば、特開昭60−157496号公報、特開2003−232395号公報)と比較して、前記構成によれば、部品数を減らしてフロントフォークFのコストを低減できる。しかし、シリンダ4と弁部材7との間に、別の部材を介装させるとしてもよい。
【0070】
また、本実施の形態において、フロントフォークFは、下側(車輪側)のアウターチューブ1と、前記アウターチューブ1に出入りする上側(車体側)のインナーチューブ2と、前記インナーチューブ2の内側に設けられて車体Bを弾性支持する懸架ばね(ばね要素)3と、前記アウターチューブ1の内側に軸方向に沿って設けられるシリンダ4と、前記インナーチューブ2の下部(車輪側)に設けられて前記アウターチューブ1と前記シリンダ4との間に形成される外周室R1を伸側室r10と圧側室r11とに区画するピストン5と、前記シリンダ4の上部(車体側)に設けられて前記シリンダ4から突出するインナーチューブ2の内側に形成されるリザーバR2と前記伸側室r10とを区画するガイド6とを備えている。加えて、前記シリンダ4には、前記シリンダ4の内側に形成される内側室R3と前記外周室R1とを連通する上側(軸方向車体側)の絞り孔4aと、下側(軸方向車輪側)の通孔4bとが形成されている。
【0071】
さらに、フロントフォークFは、前記シリンダ4の上側(車体側)開口を開閉し、前記懸架ばね(ばね要素)3で閉じ方向に附勢される弁部材7と、前記リザーバR2から前記内側室R3への作動油(流体)の流れを許容する吸込通路8pとを備えている。
【0072】
前記構成によれば、ピストン位置に依存して、弁部材7に閉じ方向に作用する懸架ばね3の附勢力が変化する。このため、部品数を増やしたり、構造を複雑化させたりせずに、弁部材7の開弁圧をピストン位置に依存して変化させられ、フロントフォークFが位置依存の減衰力を容易に発生できる。
【0073】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形及び変更が可能である。