【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成26年5月27日 一般社団法人 プラスチック成形加工学会発行の「成形加工’14」第377〜378頁に発表 2.平成26年6月4日 プラスチック成形加工学会 第25回年次大会 タワーホール船堀において文書(ポスター)をもって発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の修飾セルロース(又は修飾セルロース繊維)は、セルロース(又はセルロース繊維)と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(フルオレン化合物)とが結合しており、粉体状の形態を有している。
【0023】
[セルロース]
セルロースとしては、リグニン、ヘミセルロースなどの非セルロース成分の含有量が少ないパルプ、例えば、植物由来のセルロース原料{例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビなど}、動物由来のセルロース原料(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース原料(ナタデココに含まれるセルロースなど)などから製造されたパルプなどが例示できる。これらのセルロースは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロースのうち、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維由来のパルプ(例えば、コットンリンターパルプ)由来のセルロースなどが好ましい。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。また、セルロースは、前記例示のパルプ(例えば、化学パルプ)などを微細化(ミクロフィブリル化)したセルロース繊維、特に、セルロースナノファイバーが好ましい。
【0024】
セルロース(又はセルロース繊維)と非セルロース成分との総量に対するセルロースの割合(含有量)は、例えば、70重量%以上(例えば、75〜100重量%)、好ましくは80重量%以上(例えば、85〜100重量%)、さらに好ましくは90重量%以上(例えば、95〜100重量%)程度であってもよい。
【0025】
セルロース(又はセルロース繊維)の平均繊維径は、マイクロメーターサイズ(例えば、1〜20μm)であってもよいが、樹脂の補強性の観点から、ナノメーターサイズ、例えば、2〜1000nm(例えば、4〜700nm)、好ましくは5〜500nm(例えば、7〜250nm)、さらに好ましくは10〜100nm(例えば、20〜50nm)程度であってもよい。
【0026】
セルロース(又はセルロース繊維)の平均繊維長は、例えば、0.01〜500μm(例えば、0.05〜400μm)程度の範囲から選択でき、通常、0.1〜300μm(例えば、0.1〜200μm)、好ましくは0.2〜100μm(例えば、0.3〜80μm)、さらに好ましくは0.5〜30μm(例えば、0.5〜10μm)程度であってもよい。
【0027】
さらに、セルロース(又はセルロース繊維)の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、例えば、5以上(例えば、5〜10000程度)、好ましくは10以上(例えば、10〜5000程度)、さらに好ましくは20以上(例えば、20〜3000程度)、特に50以上(例えば、50〜2000程度)であってもよく、100以上(例えば、100〜1000程度)、さらには200以上(例えば、200〜800程度)であってもよい。アスペクト比が小さすぎると、樹脂の補強効果が低下し、アスペクト比が大きすぎても、繊維が分解(又は損傷)しやすくなる虞がある。
【0028】
セルロース(又はセルロース繊維)は、結晶性の高いセルロース(又はセルロース繊維)であってもよく、セルロースの結晶化度は、例えば、40〜100%(例えば、50〜100%)、好ましくは60〜95%、さらに好ましくは70〜90%(例えば、75〜90%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上であってもよい。本発明の製造方法では、セルロースの結晶性を維持できることから、結晶化度の高いセルロースを使用すれば、高結晶性の修飾セルロースを得ることができる。そのため、結晶性セルロースを好適に使用してもよい。なお、セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、低線膨張特性及び弾性率などが高いI型結晶構造が好ましい。
【0029】
(フルオレン骨格を有する化合物)
前記修飾セルロースにおいて、フルオレン化合物は、下記式(1)で表される。
【0031】
(式中、環Zはアレーン環、R
1はアルキレン基、R
2及びR
3は置換基を示し、pは0又は1以上の整数、kは0〜4の整数、mは0又は1以上の整数、nは1以上の整数である。)
【0032】
前記式(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
【0033】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン(例えば、ナフタレンなどの縮合二環式C
10−16アレーン)環、縮合三環式アレーン(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよい。
【0034】
環集合アレーン環としては、ビアレーン環、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1−フェニルナフタレン環、2−フェニルナフタレン環など)などのビC
6−12アレーン環、テルアレーン環、例えば、テルフェニレン環などのテルC
6−12アレーン環などが例示できる。好ましい環集合アレーン環としては、ビC
6−10アレーン環、特にビフェニル環などが挙げられる。
【0035】
前記式(1)において、アルキレン基R
1には、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が含まれ、直鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC
2−6アルキレン基(好ましくは直鎖状C
2−4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状C
2−3アルキレン基、特にエチレン基)が例示でき、分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、1,2−ブタンジイル基、1,3−ブタンジイル基などの分岐鎖状C
3−6アルキレン基(好ましくは分岐鎖状C
3−4アルキレン基、特にプロピレン基)などが挙げられる。なお、mが2以上の整数である場合、アルキレン基R
1の種類は、同一又は異なっていてもよい。また、アルキレン基R
1の種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0036】
オキシアルキレン基(OR
1)の数mは、0〜15の整数(例えば、0〜10の整数)程度の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば、1〜8)の整数、好ましくは0〜5(例えば、1〜5)の整数、さらに好ましくは0〜4(例えば、1〜4)の整数、特に0〜3(例えば、1〜3)程度の整数であってもよく、通常、0〜2の整数(例えば、0又は1)であってもよい。
【0037】
前記式(1)において、基[HO−(R
1O)
m−]の置換数nは、環Zの種類に応じて、1以上の整数であればよく、例えば、1〜4の整数、好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは1〜2の整数、特に1であってもよい。なお、置換数nは、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0038】
なお、基[HO−(R
1O)
m−]は、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2−,3−,4−位(特に、3−位及び/又は4−位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5〜8−位である場合が多く、例えば、フルオレンの9−位に対してナフタレン環の1−位又は2−位が置換し(1−ナフチル又は2−ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5−位、2,6−位などの関係(特にnが1である場合、2,6−位の関係)で基[HO−(R
1O)
m−]が置換している場合が多い。また、nが2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環Zにおいて、基[HO−(R
1O)
m−]の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9−位に結合したアレーン環及び/又はこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3−位又は4−位がフルオレンの9−位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの4−位がフルオレンの9−位に結合しているとき、基[HO−(R
1O)
m−]の置換位置は、2−,3−,2’−,3’−,4’−位のいずれであってもよく、通常、2−,3’−,4’−位、好ましくは2−,4’−位(特に、2−位)に置換していてもよい。
【0039】
前記式(1)において、置換基R
2としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C
1−10アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
1−6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
1−4アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC
5−10シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル(トリル)基、ジメチルフェニル(キシリル)基など)、ビフェニル基、ナフチル基などのC
6−12アリール基]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC
6−10アリール−C
1−4アルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C
1−10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC
5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC
6−10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC
6−10アリール−C
1−4アルキルオキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC
1−10アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロへキシルチオ基などのC
5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC
6−10アリールチオ基など)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC
6−10アリール−C
1−4アルキルチオ基など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC
1−6アシル基など)、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC
1−4アルコキシ−カルボニル基など)、ニトロ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC
1−4アルキルアミノ基など)、ジアルキルカルボニルアミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのジC
1−4アルキル−カルボニルアミノ基など)などが例示できる。
【0040】
これらの置換基R
2のうち、代表的には、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アシル基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましい置換基R
2としては、アルコキシ基、アルキル基など、特にメチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C
1−4アルキル基が挙げられる。なお、置換基R
2がアリール基であるとき、置換基R
2は、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基R
2の種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0041】
置換数pの数は、環Zの種類やpの数などに応じて適宜選択でき、例えば、0〜8程度の整数であってもよく、0〜4の整数、好ましくは0〜3(例えば、0〜2)の整数、特に0又は1であってもよい。特に、pが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環、置換基R
2がメチル基であってもよい。
【0042】
置換基R
3として、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC
1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC
1−6アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC
6−10アリール基)などが挙げられる。
【0043】
これらの置換基R
3のうち、代表的には、アルキル基、カルボキシ基又はC
1−2アルコキシ−カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子など、特にメチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C
1−4アルキル基が好ましい。置換数kは0〜4(例えば、0〜3)の整数、好ましくは0〜2の整数(例えば、0又は1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基R
3の種類は互いに同一又は異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基R
3の種類は同一又は異なっていてもよい。また、置換基R
3の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2−位乃至7−位(2−位、3−位及び/又は7−位など)であってもよい。
【0044】
前記式(1)において、mが0であり、nが1である化合物としては、9,9−ビス(ヒドロキシアレーン)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(5−ヒドロキシ−1−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC
6−12アリール)フルオレン、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−フェニル−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C
6−12アリール−ヒドロキシC
6−12アリール)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−メチル−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C
1−4アルキル−ヒドロキシC
6−12アリール)フルオレンなどが例示できる。
【0045】
前記式(1)において、mが0であり、nが2以上である化合物としては、9,9−ビス[(ポリ)ヒドロキシアレーン]フルオレン類{9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシC
6−12アリール)フルオレンなど}などが例示できる。
【0046】
前記式(1)において、mが1であり、nが1である化合物としては、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシアレーン)フルオレン類{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC
2−4アルコキシC
6−12アリール)フルオレン、9,9−ビス[4−フェニル−3−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−フェニル−3−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[C
6−12アリール−ヒドロキシC
2−4アルコキシC
6−12アリール]フルオレン、9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−メチル−3−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[C
1−4アルキル−ヒドロキシC
2−4アルコキシC
6−12アリール]フルオレンなど}などが例示できる。
【0047】
前記式(1)において、mが1であり、nが2以上である化合物としては、例えば、9,9−ビス[(ポリ)ヒドロキシアルコキシアレーン]フルオレン類{9,9−ビス[3,4−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシC
2−4アルコキシC
6−12アリール)フルオレンなど}などが例示できる。
【0048】
前記式(1)において、mが2以上の化合物としては、前記mが0又は1の化合物に対応し、オキシアルキレン基(特にオキシC
2−4アルキレン基)の繰り返し単位mが2〜10の化合物などが挙げられる。mが2以上の具体的な化合物を表1及び表2に示す。
【0049】
前記式(1)中、k=0、p=0、n=1である化合物を表1に例示し、前記式(1)中、R
2がメチル基、k=0、p=1、n=1である化合物を表2に例示する。なお、表1及び2中、Xの置換位置は、環Zに対する基X:[HO−(R
1O)
m−]の置換位置を示す。また、表2中、R
2の置換位置は、環Zに対する置換位置を示す。
【0052】
これらの化合物のうち、代表的には9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(4−フェニル−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレン、9,9−ビス[4−フェニル−3−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0053】
前記9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物は、市販品を使用してもよく、慣用の方法(例えば、9−フルオレノン類と、環Zに基[HO−(R
1O)
m−]が置換したヒドロキシ基含有アレーン環化合物(例えば、2−フェノキシエタノールなどのフェノキシアルカノール類など)とを酸触媒の存在下で反応させる方法、フルオレン類の9−位にヒドロキシアリール基が置換したフルオレン化合物[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]と、基OR
1に対応するアルキレンオキシド、アルキレンカーボネート及びハロアルカノールから選択された少なくとも1種とを反応させる方法)で合成してもよい。
【0054】
なお、フルオレン化合物は、様々な樹脂と相溶するため、セルロース[例えば、セルロースナノファイバー(CNF)]の疎水化修飾剤として有用である。
【0055】
(修飾セルロース)
修飾セルロース(又は変性セルロース、セルロース誘導体)の化学修飾(又は結合)の形態は、特に限定されず、通常、セルロース(又はセルロース繊維)のヒドロキシ基及び/又はパルプなどの製造過程でセルロースに形成されたカルボキシ基と、前記フルオレン骨格を有する化合物のヒドロキシ基とが結合(エーテル結合及び/又はエステル結合)している場合が多い。
【0056】
また、セルロースに結合(又は修飾)した前記フルオレン化合物の割合が、比較的少なくても修飾セルロースは、粉末状の形態を有する。すなわち、セルロースに結合した前記フルオレン化合物の割合(以下、修飾率という)は、修飾セルロースの総量に対して、0.01〜20重量%程度の範囲から選択でき、例えば、0.05〜15重量%、好ましくは0.1〜10重量%(例えば、0.3〜7重量%)、さらに好ましくは0.5〜5重量%(例えば、0.7〜3重量%)程度であってもよい。修飾率が大きすぎると、低線膨張係数などの特性が低下する虞があり、逆に小さすぎると、粉体状の形態を形成できなくなり、取り扱い性及び樹脂に対する分散性(又は混和性)が低下する虞がある。
【0057】
修飾セルロースと非セルロース成分との総量に対する修飾セルロースの割合(含有量)は前記セルロースと同様の割合(例えば、90重量%以上)であってもよい。修飾セルロースの含有量が小さすぎると、樹脂の補強性が低下する虞がある。
【0058】
粉体状の形態を有する修飾セルロースの平均粒子径は、例えば、3nm〜100μm(例えば、3nm〜30μm)程度の範囲から選択でき、通常、5nm〜10μm(例えば、7nm〜7μm)、好ましくは10nm〜5μm(例えば、20nm〜3μm)、さらに好ましくは30nm〜2μm(例えば、50nm〜1μm)程度であってもよい。平均粒子径が大きすぎると、樹脂に対する分散性が低下し、逆に小さすぎると取り扱い性が低下する虞がある。なお、平均粒子径は、乾式篩法、レーザー回折法などを利用して測定できる。
【0059】
修飾セルロースの製造工程においてセルロースの分解を抑制できるため、修飾セルロース(又は修飾セルロース繊維)の平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比の値は、前記セルロースの各特性に対応しており、前記セルロースの平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比の数値をそのまま参照できる。例えば、修飾セルロース(又は修飾セルロース繊維)の平均繊維径は、マイクロメーターサイズ(例えば、1〜10μm)であってもよいが、ナノメーターサイズの修飾セルロース(セルロースナノファイバー)が好ましい。なお、修飾セルロースの平均繊維径は、前記セルロースと同様の範囲(例えば、5〜500nm)であってもよい。また、修飾セルロース(又は修飾セルロース繊維)は、前記セルロースと同様の範囲の平均繊維長(例えば、0.1〜200μm)及びアスペクト比(例えば、20〜3000)であってもよい。アスペクト比が所定の範囲内にあると、樹脂の補強効果を向上できる。
【0060】
また、修飾セルロースは、前記フルオレン化合物の修飾により疎水性が向上するためか、水分含有量が少ない。すなわち、飽和吸水率は8重量%以下、水分含有量は、温度25℃、湿度60%の条件下、1昼夜放置したとき、0〜7重量%(例えば、0〜5重量%)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.1〜5重量%)、さらに好ましく3重量%程度以下であってもよい。なお、水分含有量は、近赤外線分析計などを用いて測定できる。
【0061】
さらに、修飾セルロースの嵩密度(見掛密度)は、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS 7365−1999に準拠して測定したとき、例えば、0.01〜0.7g/ml、好ましくは0.05〜0.5g/ml、さらに好ましくは0.1〜0.3g/ml程度であってもよい。なお、嵩密度Pは、所定重量Wの修飾セルロースをメスシリンダーに入れて体積Vを測定し、式P=W/Vで算出できる。
【0062】
修飾セルロースは、粉体状の形態を有し、(粉体)流動性が高い。すなわち、修飾セルロースの安息角は、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS R9301−2−2に準拠して測定したとき、例えば、20〜45°、好ましくは25〜40°、さらに好ましくは30〜35°程度であってもよい。流動性が大きすぎると、取り扱い性が低下し、逆に小さすぎると、樹脂に対する分散性が低下する虞がある。
【0063】
また、修飾セルロースは、粘稠な液体を形成することなく、セルロース繊維の形態を維持し、前記フルオレン骨格を有する化合物が結合している。そのため、比較的分子量(又は重合度)が大きく、樹脂の補強効果が高い。すなわち、修飾セルロースの粘度平均重合度は、例えば100〜10000、好ましくは200〜5000、より好ましくは300〜2000程度であってもよい。
【0064】
粘度平均重合度は、TAPPI T230に記載の粘度法により測定できる。すなわち、修飾セルロース0.04gを精秤し、水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとを加え、5分間程攪拌して修飾セルロースを溶解する。得られた溶液をウベローデ型粘度管に入れ、25℃下で流下速度を測定する。水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとの混合液をブランクとして測定する。これらの測定値に基づいて算出した固有粘度[η]を用い、木質科学実験マニュアルに記載の下記式に従って粘度平均重合度を算出できる。
【0065】
粘度平均重合度=175×[η]
さらに、修飾セルロースの特性(例えば、低線膨張特性、強度、耐熱性など)を樹脂に有効に発現させるためには、結晶性の高い修飾セルロースが好ましい。前記のように、本発明の修飾セルロースはセルロースの結晶性を維持できるため、修飾セルロースの結晶化度は前記セルロースの数値をそのまま参照できる。例えば、修飾セルロースの結晶化度は、40〜95%(例えば、50〜90%)、好ましくは60〜95%(例えば、65〜90%)、さらに好ましくは70〜90%(例えば、75〜85%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上(例えば、75〜90%程度)であってもよい。結晶化度が小さすぎると、低線膨張特性や強度などの特性を低下させる虞がある。なお、結晶化度は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0066】
(製造方法)
本発明の製造方法では、所定の酸の存在下、前記セルロースと前記フルオレン化合物とを反応させてもよい。
【0067】
セルロース又はセルロース繊維の割合は、フルオレン化合物100重量部に対して、0.1〜500重量部(例えば、1〜300重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、5〜100重量部(例えば、10〜50重量部)程度であってもよい。
【0068】
本発明では、所定の酸を使用するため、セルロース(又はセルロース繊維)の分解又は着色を抑制でき、セルロース(又はセルロース繊維)の構造を維持しつつ、円滑に反応できる。
【0069】
酸としては、pKa(25℃、水溶液中)が−9〜5のブレンステッド酸、固体酸、ルイス酸などが例示できる。なお、本明細書では、固体酸はブレンステッド酸に含まれない。
【0070】
ブレンステッド酸としては、例えば、無機酸{例えば、ハロゲン化水素(又はハロゲン化水素酸)[例えば、塩化水素(−8)(又は塩酸)、臭化水素(−9)(又は臭化水素酸)など]、硝酸(−1.4)、リン酸(2.15)など}、有機酸{例えば、ギ酸(3.55)、酢酸(4.56)、トリフルオロ酢酸(0.23)、トリクロロ酢酸(0.66)などのアルカンカルボン酸、酒石酸(2.82)、シュウ酸(1.04)、クエン酸(2.87)などのヒドロキシカルボン酸など}などが例示できる。前記ブレンステッド酸は硫酸を含まない。また、前記ブレンステッド酸は、スルホン酸などの硫黄原子含有ブレンステッド酸(例えば、強酸)を含まないのが好ましい。なお、括弧内の数字はpKaの値を示す。pKaの値は、2価以上の酸であるときは、第1段階の酸解離指数(pKa)を示し、化学便覧基礎編 改訂3版(日本化学会)を参照できる。また、この文献にpKaの値が未記載の酸は、有機化学反応論(発行所:三共出版(株)、著者:加納航治)などの文献を参照できる。なお、硫酸のpKaは−10である。
【0071】
固体酸としては、例えば、陽イオン交換樹脂{スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂、スルホン酸基を有する含フッ素陽イオン交換樹脂[例えば、[2−(2−スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体など]、カルボン酸基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂など}、ヘテロポリ酸(例えば、タングステン系ヘテロポリ酸、モリブデン系ヘテロポリ酸など)などが挙げられる。固体酸のpKa(25℃、水溶液中)は、−9よりも小さくてもよく、例えば、−11〜2(例えば、−10〜0)、好ましくは−9〜−2、さらに好ましくは−9〜−5程度であってもよい。
【0072】
ルイス酸としては、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛などが挙げられる。これらの酸は、単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
これらの酸のうち、ハロゲン化水素酸(又はハロゲン化水素)など、特に塩酸(又は塩化水素)が好ましい。
【0074】
酸の使用量は、セルロース100重量部に対して、例えば、0.01〜20重量部(例えば、0.1〜18重量部)、好ましくは0.5〜18重量部(例えば、1〜17重量部)、さらに好ましくは3〜15重量部(例えば、5〜15重量部)程度であってもよい。
【0075】
反応は有機溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、有機溶媒の存在下で行われる。この有機溶媒はセルロースに含浸していてもよいが、セルロース繊維を有機溶媒に分散させた分散系で反応させる場合が多い。セルロース繊維を有機溶媒に分散させた分散系で、セルロース繊維(特に、ナノファイバー)と前記フルオレン化合物とを反応させると、均一に反応させることができる。このような方法で得られた修飾セルロースは、取り扱い性及び樹脂に対する分散性が高く、樹脂の補強効果に優れている。
【0076】
なお、セルロース繊維(特に、ミクロフィブリル化した繊維、平均繊維径がナノメータサイズのナノ繊維)を乾燥すると、繊維が絡み合って再分散できなくなる場合がある。そのため、通常、セルロース繊維は水含浸又は水分散液として市販されている場合が多い。このような水分散液では、水分散液の水を有機溶媒に置換する慣用の溶媒置換法、例えば、セルロース繊維の水分散液に水溶性溶媒を添加混合し、セルロース繊維を分離し(又は溶媒を除去し)た後、さらに有機溶媒を添加混合する操作を繰り返す方法などにより、セルロース繊維が有機溶媒に分散した分散液を調製できる。なお、沸点が水よりも高い水溶性有機溶剤を用いる場合、水を蒸留(共沸蒸留を含む)により除去することにより溶媒置換できる。
【0077】
水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのC
1−4アルカノールなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(アセトンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC
2−4アルカンジオール)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ)、カルビトール類(エチルカルビトールなど)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0078】
なお、水溶性有機溶媒を用いて溶媒置換したセルロース含有分散液において、水溶性有機溶媒は、上記と同様にして、非水溶性有機溶媒に溶媒置換することもできる。非水溶性有機溶媒としては、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、セロソルブアセテート類、カルビトールアセテート類、炭化水素類(ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエチレンなど)などが例示できる。これらの非水溶性有機溶媒も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0079】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性溶媒、特に非プロトン性極性溶媒(例えば、エーテル類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類など)が好ましい。
【0080】
有機溶媒(例えば、非プロトン性極性溶媒)の溶解度パラメーター(SP値、(cal/cm)
2)は8〜15(例えば、8.5〜15)程度であってもよく、通常、9〜14.5(例えば、10〜14.5)程度であってもよい。
【0081】
分散液中のセルロース繊維の固形分濃度は、例えば、0.01〜30重量%(例えば、0.1〜20重量%)、好ましくは1〜15重量%、さらに好ましくは3〜12重量%(例えば、5〜10重量%)程度であってもよい。固形分濃度が低すぎると、反応効率が低下する虞がある。
【0082】
反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下又は常圧下で行う場合が多い。反応温度は、溶媒の沸点などにより適宜選択でき、例えば、50〜200℃(例えば、70〜170℃)、好ましくは80〜150℃(例えば、100〜130℃)程度であってもよい。なお、反応は溶媒の還流下で行ってもよい。また、反応時間は、特に限定されず、例えば、10分〜48時間(例えば、30分〜24時間)程度である。さらに、反応は、空気中又は不活性ガス(窒素、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下、攪拌しながら行うことができる。
【0083】
なお、反応は、反応系を撹拌しながら行ってもよく、セルロースに機械的剪断力を作用させ、セルロースを微細化しながら行って修飾セルロースを得てもよい。さらに、反応終了後に解繊して修飾セルロースを微細化してもよい。なお、微細化工程では、セルロースをナノファイバーに微細化しつつ反応させてもよく、反応により生成した修飾セルロースをナノファイバーに微細化してもよい。
【0084】
反応により生成した修飾セルロースは、慣用の方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、抽出など)により分離精製してもよい。例えば、少なくとも前記フルオレン化合物を溶解可能な溶媒を反応混合物に添加し、上記遠心分離、濾過、抽出などの分離法(慣用の方法)で未反応フルオレン化合物を除去し、分離精製してもよい。なお、上記分離操作は複数回(例えば、2〜5回程度)行うことができる。さらに、分離精製した修飾セルロースを加熱下又は減圧下或いは常圧下で乾燥することにより、粉末状の形態を有する修飾セルロースを得ることができる。
【0085】
なお、未反応フルオレン化合物を上記分離方法などにより繰り返し除去して精製した修飾セルロースを、ラマン分析などの方法により分析すると、セルロースに由来するピークとフルオレン化合物に由来するピークとが存在し、セルロースにフルオレン化合物が結合していることが確認できる。
【0086】
このようにして得られた修飾セルロースは、未修飾のセルロースに比べて、有機溶媒に対する分散安定性が高い。そのため、修飾セルロースが有機溶媒に分散した分散液は、コーティング剤、塗料などへ容易に添加でき、塗膜の特性を向上できる。
【0087】
[樹脂組成物]
本発明の修飾セルロース(又は修飾セルロース繊維)は、樹脂との親和性又は混和性に優れているため樹脂の複合材料(例えば、補強材)として利用できる。
【0088】
樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、非晶質ポリオレフィンなど)、ビニル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン樹脂などのスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニルなど)、ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリエステル樹脂[ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレート、ポリアリレート、液晶ポリエステル、脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなど)など]、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロンMXDなど)、ポリフェニレンエーテル樹脂(変性ポリフェニレンエーテルなど)、ポリスルホン樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、ポリフェニレンスルフィド樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂(ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミノビスマレイミドなど)、ポリエーテルケトン樹脂(ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなど)、熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、アミノ樹脂(尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂など)、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロースエーテルなどの水溶性樹脂、アクリル系樹脂エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、スチレン系樹脂エマルジョンなどの水分散性樹脂などであってもよい。
【0089】
環境負荷低減などの観点からは、バイオマス由来の脂肪族ポリエステル系樹脂、例えば、ポリ乳酸などを使用してもよい。なお、ポリ乳酸は、耐熱性が低いなどの制約があるが、本発明の修飾セルロースは、ポリ乳酸との混和性も良く、耐熱性などの欠点を補うことができる。
【0090】
修飾セルロースの割合は、樹脂100重量部に対して、例えば、0.1〜50重量(例えば、0.5〜40重量部)、好ましくは1〜30重量部(例えば、3〜20重量部)、さらに好ましくは5〜15重量部(例えば、7〜12重量部)程度であってもよい。修飾セルロースの割合が小さすぎると、樹脂に対する補強性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、混和性や成形性が低下する虞がある。
【0091】
樹脂組成物は、慣用の方法、例えば、溶融混練法などで調製できる。本発明の修飾セルロースは、分散液の形態で使用しなくても(乾燥状態であっても)樹脂と混和できるため、機械的に溶融混練(又は混合)する方法を好適に使用できる。なお、溶融混練において、修飾セルロースは溶融することなく繊維状の形態で溶融した樹脂と混合される。
【0092】
溶融混練は、慣用の方法、例えば、ミキシングローラ、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機(一軸又は二軸押出機など)などにより行うことができる。溶融混練の温度は、樹脂の溶融特性に応じて適宜選択でき、通常、分解開始温度よりも低く、溶融開始温度よりも高い温度が選択される。例えば、100〜300℃、好ましくは130〜260℃(例えば、150〜250℃)、さらに好ましくは170〜230℃程度であってもよい。
【0093】
なお、樹脂組成物は、樹脂と修飾セルロースとを所定の割合で直接的に溶融混練してもよく、修飾セルロースを含むマスターバッチと樹脂とを溶融混練して修飾セルロースの含有量を調整してもよい。
【0094】
マスターバッチは、樹脂と修飾セルロースとを高い修飾セルロース濃度で溶融混練して調製してもよく、溶媒を用いて調製してもよい。溶媒は、樹脂の種類に応じて選択でき、樹脂を可溶な溶媒であってもよい。このような溶媒は、前記例示の水溶性有機溶媒、非水溶性有機溶媒であってもよく、水溶性樹脂又は水分散性樹脂を用いる場合には、溶媒は水であってもよい。有機溶媒を用いてマスターバッチを調製する場合、樹脂と、この樹脂を可溶な溶媒と、修飾セルロースとを含む混合液を調製し、必要により分散混合機(超音波分散機、ディスパーなど)により分散混合し、溶媒を除去してもよい。なお、樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液と、修飾セルロースとを混合してもよい。より具体的には、溶媒中(特に有機溶媒中)に分散した修飾セルロースの分散液と、樹脂と、樹脂を可溶な溶媒との均一な混合物から溶媒を除去することによりマスターバッチを調製してもよい。なお、マスターバッチは、ペレット状、粉粒状などであってもよい。
【0095】
マスターバッチにおいて、修飾セルロースの割合は、樹脂100重量部に対して、例えば、1〜70重量部(例えば、5〜65重量部)、好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは20〜50重量部(例えば、30〜45重量部)程度であってもよい。
【0096】
また、前記樹脂組成物は、慣用の成形法(例えば、圧縮成形、射出成形、押出成形など)により成形できる。特に、射出成形、押出成形法を利用すると、成形品の生産性を向上できる。
【0097】
なお、前記樹脂組成物は、種々の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、耐衝撃改良剤、流動性改良剤、補強材(充填剤など)、核剤、着色剤、滑剤、可塑剤、離型剤、色相改良剤、分散剤、抗菌剤、防腐剤などを含有していてもよい。また、樹脂が熱硬化性樹脂である場合、樹脂組成物は、硬化剤、硬化促進剤などを含んでいてもよい。
【0098】
本発明の樹脂組成物(複合材料)は、修飾セルロースで補強でき、高強度、高弾性率、高耐熱性、低線膨張特性などの特性を有する。さらに、ナノメーターサイズの修飾セルロース(例えば、セルロースナノファイバー)を用いると、可視光の波長領域の光散乱性が低く、前記樹脂組成物は、透明性にも優れている。例えば、ナノメーターサイズの修飾セルロースを10重量%の割合で含み、厚み30μmのフィルムとしたとき、全光線透過率は、例えば、30%以上(例えば、40〜99%)、好ましくは50%以上(例えば、60〜98%)、さらに好ましくは60%以上(例えば、70〜95%)程度であってもよく、60〜90%(例えば、70〜85%)程度であってもよい。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0100】
実施例及び比較例で用いたセルロース原料を以下に示す。
【0101】
微結晶セルロースA:メルク社製、「Cellulose microcrystalline」
微結晶セルロースB:旭化成(株)製、「セオラスST-100」
米松:(株)ジュオン製、「米松の木粉(平均粒径0.2mm)」
セリッシュ(ダイセルファインケム(株)製、「KY110N」、セルロース:水(重量比)=15/85)。
【0102】
実施例1で調製した修飾セルロースナノファイバーのBPEF修飾率、形状、及び結晶化度は、以下のようにして測定又は評価した。
【0103】
(セルロースに結合したフルオレン化合物の割合(修飾率))
フルオレン化合物の修飾率の定量はFT−Raman分析により行った。酢酸セルロース((株)ダイセル製)と既定量の9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFという)とをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して成膜し、ラマン顕微鏡(堀場JOBIN YVON社製、「XploRA」)を使用してラマン分析を行った。芳香族環(1604cm
−1)とセルロースの環内CH(1375cm
−1)との吸収バンドの強度比(I
1604/I
1375)と、BPEFの濃度に基づき、検量線を作成した。すべてのサンプルは3回測定し、その結果を平均した。
【0104】
(セルロース繊維の形状観察)
修飾セルロースの形状はFE−SEM(日本電子(株)製、「JSM−6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。なお、平均繊維径は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出した。
【0105】
(結晶化度)
実施例1で得られた修飾セルロースナノファイバーの結晶化度は、参考文献:Textile Res. J. 29:786-794(1959)に基づき、XRD分析法(Segal法)により評価し、下式により算出した。
【0106】
結晶化度(%)=[(I
200-I
AM)/I
200]×100%
I
200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I
AMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である。
【0107】
(熱分解温度測定)
実施例1で得られた修飾セルロースナノファイバーの熱分解温度は、TG−DTA測定装置(「Rigaku Thermo Plus TG8120」、(株)リガク製、雰囲気:窒素、昇温速度:10℃/分)を用いて測定した。
【0108】
(収率)
洗浄後の修飾セルロースナノファイバーを1,4−ジオキサン(ジオキサン)で置換した後、105℃の条件下、5時間で乾燥して秤量(W2)し、下式によりセルロース繊維の収率を算出した。
【0109】
セルロース繊維の収率(重量%)=W2/W1×100
なお、W1は、溶媒分散系セルロースの固形分の重量、W2は実施例1で得られた修飾セルロースナノファイバーの重量を示す。
【0110】
(溶媒分散性)
既定量のセルロース繊維をジオキサンに分散して0.2重量%のセルロース繊維分散液を調製した後、室温で放置し、沈降時間に基づいて分散性を評価した。なお、沈降時間が5時間以上の場合、分散性が良い(○)、沈降時間が2時間以下の場合は、分散性が悪い(×)と評価した。
【0111】
(樹脂中のセルロース繊維の分散性)
実施例2又は比較例4で得られた複合体を熱プレス後、急冷することで30μmのシートを調製し、偏光顕微鏡によりセルロース繊維の分散性を評価した。なお、評価は、大きな凝集塊があるものを分散性が悪い(×)とし、大きな凝集塊が見られないものを分散性が良い(○)とした。
【0112】
(荷重たわみ温度測定)
実施例2又は比較例4で得られた複合体を厚み1mmのシート状に熱プレス成形した後、110℃で30分間アニール処理したシートを5mm×30mmの短冊状にカットして測定用サンプルに用いた。なお、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製、「Q−800」)を用い、荷重たわみ温度を測定した。
【0113】
(引張特性)
引張測定用のサンプルは、荷重たわみ温度測定で用いた測定用サンプルと同様に熱プレス及びアニール処理して厚み0.6mmのシートを調製し、ダンベルカッターによりIEC540規格のサイズにカットして使用した。また、引張特性[引張強度及び弾性率]は、引張試験機(ミネベア(株)製、「LTS−1kNB」)を用い、チャック間距離30mm、引張速度5mm/分の条件で測定した。
【0114】
実施例1
(1)セルロース含有溶媒分散系の調製
上記セリッシュ100g(固形分15g)をN,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)500gに分散して遠心分離した後、沈降した固形分をさらにDMAc500gに分散して再び遠心分離することによりセルロースとN,N-ジメチルアセトアミドとの混合物(セルロース含量約10重量%)を得た。
【0115】
(2)セルロースとフルオレン化合物との反応
1000mlの三口フラスコに、セルロース含有溶媒分散系150g(固形分15g)、ジメチルスルホキシド250g、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、BPEFという)350g及び35%塩酸5.5gを加え、撹拌機を用いて170℃で30分間撹拌した。得られた混合液を遠心分離機(日立工機(株)製、「CR22GIII」、回転速度:8000rpm(4530g))で25分間処理した後、固形分を回収し、更に、N,N-ジメチルアセトアミド1200mlに分散した後、再度遠心分離を行った。このような操作を3回繰り返すことにより、ジメチルスルホキシド、過剰のBPEF及び他の溶解成分を除去し、修飾セルロースとN,N-ジメチルアセトアミドとの混合物を得た。得られた混合物を乾燥することにより、粉体状の形態を有する修飾セルロースナノファイバーを得た。
【0116】
修飾セルロースナノファイバーの収率は89%であり、高い収率で得られた。また、ラマンスペクトルの結果からBPEF修飾率を求めたところ、BPEF修飾率は0.7重量%であった。さらに、X線回折吸収スペクトルから結晶化度を求めたところ、結晶化度は76%であり、セルロース原料とほぼ同等であった。
【0117】
図1に修飾セルロースナノファイバーのSEM写真を示す。このSEM写真から、修飾セルロースナノファイバー(CNF)の繊維径(又は直径)は、10〜500nm程度であり、平均繊維径は30nmであった。また、修飾セルロースナノファイバー(CNF)の5%重量減少温度(熱分解温度)は320℃であり、高い耐熱性を有していることがわかった。さらに、ジオキサン、アセトン及びテトラヒドロフランへの分散性をそれぞれ、評価した結果、沈降時間は24時間以上で、評価は○であった。
【0118】
比較例1
特許文献1の実施例1に従って、米松とBPEFとを反応させた。すなわち、100メッシュに破砕した5gおよびBPEF50gを100mlのオートクレーブに入れ、220℃の油浴中で60分加熱した。そして、加熱後の混合物に、1,4−ジオキサンと水との混合溶媒(前者/後者(重量比)=90/10)100mlを加え、均一に分散するまで攪拌し、濾過、洗浄により残留BPEFを除去した。
【0119】
洗浄後の濾物を蒸留水に再分散し、ペイントシェーカーで30分間処理し、繊維分散液を得た。なお、繊維分散液を遠心分離した後、乾燥(60℃の真空乾燥機で3時間乾燥)した繊維の収量は1.9g(収率38%)であった。
【0120】
特許文献1の実施例1と同様にして、得られた繊維分散液を用いてガラス基板上にキャストし、室温で乾燥させたところ、透明かつ均一な膜が得られた。膜のSEM写真からナノオーダーに解繊されたセルロース繊維(平均径100nm、平均繊維長1.5μm)が得られたことがわかった。
【0121】
比較例2
特許文献2の実施例1に従って、硫酸の存在下、微結晶セルロースとBPEFとを反応させた。すなわち、三口フラスコ(容量100mL)に、BPEF20g、微結晶セルロースA10g、及び濃度6Nの硫酸0.7gを加え、200℃のオイルバスを用いて加熱下で1時間撹拌し、液状の反応混合物(液化組成物)を得た。得られた液状反応混合物を、1,4−ジオキサンと水(9/1、v/v)の混合溶媒に分散させてから濾紙を用いて減圧下でろ過した。得られた残渣を105℃で3時間乾燥してから、微結晶セルロースの残渣率をセルロースの仕込量に基づいて計算した結果、残渣率は25重量%であり、75重量%もの微結晶セルロースが液化していた。また、液状反応混合物の粘度は約500mPa・sであった。
【0122】
特許文献2の実施例1と同様にして、液化組成物の組成に、1,4−ジオキサンを加え、ろ過、洗浄して得られた濾液を一定な濃度(0.5重量%)に調整し、GC−MASSにより分析したところ、セルロースの分解生成物である5−ホルミルオキシメチル−2−テトラヒドロフランカルボン酸、5−ホルミルオキシメチル−2−フランカルボン酸の生成が確認でき、セルロースがグルコースの分解物にまで分解されていた。
【0123】
比較例3
「セリッシュ」を処理せず、そのままの状態でジオキサンに分散して沈降時間を評価した結果、沈降時間は25分で、評価は×であった。
【0124】
実施例1及び比較例1、2に示されるように、比較例1では、乾燥させると再分散が困難であり、ペイントシェーカーなどの分散機による分散処理により水分散系のセルロース繊維が得られた。また、比較例2ではセルロースが分解された液化組成物して得られた。これに対して、実施例1では、結晶性が高く、粉体状の形態を有するとともに、有機溶媒に対して分散性の高い修飾セルロースナノファイバーを得ることができた。
【0125】
実施例2(セルロース繊維とポリ乳酸との複合化)
(1)修飾セルロースナノファイバーとポリ乳酸とのマスターバッチの調製
実施例1で得られた修飾セルロースナノファイバー(以下、修飾繊維)/ポリ乳酸(以下、PLA)[(重量比)=30/70のマスターバッチ]を下記手順により調製した。
【0126】
(a)PLA7gをジオキサン93gに溶解して7重量%のPLA溶液を調製した。
【0127】
(b)修飾繊維のジオキサン分散液250g(修飾繊維固形分3g)を調製した。
【0128】
(c)上記(a)で調製した樹脂溶液と(b)の分散液とをホモジナイザーで混合した。
【0129】
(d)上記(c)で調製した混合液をメタノールに加え、析出した固体を遠心分離により回収した。
【0130】
(e)(d)で調製した固形物を更に95℃の送風乾燥機で5時間乾燥した。
【0131】
(2)樹脂組成物の調製
ラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて修飾セルロース繊維を30重量%含有するPLAのマスターバッチをPLAと混練することにより、修飾繊維を10重量%含有するPLA/修飾繊維複合体を調製した。得られた複合体を成形して得られたシートのSEM写真を
図2に示し、このシートの外観の写真を
図3に示す。シートのSEM写真から修飾セルロースナノファイバーの分散性を評価した。さらに、引張試験、弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。結果を表3に示す。なお、
図3から明らかなように、修飾セルロースナノファイバーは光透過性を有し、樹脂に対して高い分散性を有することがわかった。
【0132】
比較例4
未修飾の微結晶セルロースBを用い、実施例2と同様の方法にて、微結晶セルロースBを10重量%含有するPLA/微結晶セルロース複合体を調製した。得られた複合体を成形して得られたシートのSEM写真を
図4に示した。このSEM写真からセルロース繊維の分散性を評価した。また、引張り試験、弾性率及び荷重たわみ温度を測定した。結果を表3に示す。
【0133】
【表3】
【0134】
図2、
図4に示されるように、比較例4と比べると、実施例2では、修飾セルロースナノファイバーが樹脂に均一に分散され、樹脂に対する分散性が高い。さらに、表3に示されるように、実施例2では、比較例4に比べ、弾性率及び荷重たわみ温度(又は熱特性、耐熱性)が向上する。