特許第6357083号(P6357083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357083
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】水性白色印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/037 20140101AFI20180702BHJP
【FI】
   C09D11/037
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-234014(P2014-234014)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-98262(P2016-98262A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−192970(JP,A)
【文献】 特開2004−339388(JP,A)
【文献】 特開2013−082885(JP,A)
【文献】 特開2011−225867(JP,A)
【文献】 特開2010−180402(JP,A)
【文献】 特開2003−213189(JP,A)
【文献】 特開2007−030946(JP,A)
【文献】 特開平08−231916(JP,A)
【文献】 特開2002−201419(JP,A)
【文献】 特開2002−373412(JP,A)
【文献】 特開2014−227455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
B41J 2/00−2/515
B41J 3/00−3/60
B41M 1/00−3/18
B41M 7/00−9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色顔料、バインダー樹脂、水性媒体を含有し、前記白色顔料の一部又は全部が、酸化チタン粒子の表面にシリカ層及びアルミナ層を順に形成してなる、メディアン粒子径が0.50〜0.56μm、吸油量が36.5〜37.5ml/m2の被覆処理酸化チタン粒子であることを特徴とする水性白色印刷インキ組成物。
【請求項2】
上記被覆処理酸化チタン粒子中の酸化チタンの含有量が80〜84質量%であることを特徴とする請求項1記載の水性白色印刷インキ組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水性白色印刷インキ組成物を用い、かつプレプリント方式で印刷することを特徴とする段ボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性白色印刷インキ組成物に関する。さらに詳しくは、紙などの基材に印刷されたときの、白色度や隠蔽性に優れる水性白色印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、段ボールを中心とした包装容器の分野では、内容物に対して高級なイメージなどを持たせるために、鮮明な印刷物が求められるようになっている。この一例として特許文献1及び2に示す段ボールがある。
そして、段ボール印刷の分野ではフレキソ印刷方式が主流であるが、鮮明な印刷物を得るためには、より鮮やかな発色や高い光沢を有する印刷をすることが必要となり、最近では、グラビア印刷方式やオフセット印刷方式と競合できるように、特に細線再現性に優れ、印刷むらの少ないプレプリント印刷方式がより注目されるようになっている。
プレプリント印刷方式とは、ジュート紙、クラフト紙等の表ライナーへ印刷インキを印刷した後、高温の熱板の間を通して中芯および裏紙を貼り合わせるもので、一般的な段ボールの凹凸のある表面に印刷するよりも、高い印刷再現性を得ることができるものである。
【0003】
しかしながら、プレプリント印刷方式でも印刷版としては柔軟なフレキソ凸版を利用することから、印刷中に圧力がかかると印刷版の表面がつぶれ、図柄が太るという問題が懸念される。この問題はインキを印刷版に多く転移させればさせるほど顕著となるため、印刷版への転移量を極力少なくして印刷することが必要となる。そして、このような少ない印刷版へのインキ転移量で印刷すると、紙面に転移する量も少なくなるため、プレプリント印刷方式では、より薄膜の印刷皮膜で良好な印刷物を得ることが最近の要求になっている。
ところが、段ボール印刷では、下地となる紙の色が印刷品質の低下の原因となりやすく、特に淡色の印刷部分で下地の紙の色が出ると、くすんで見え、印刷物の見栄えを著しく損なう結果となる。そして、前述のプレプリント印刷方式における印刷皮膜の薄膜化は、この問題をますます助長させることになる。
そこで、プレプリント印刷用途で利用されるインキにおいては、まず、高い色濃度と隠蔽性を基本性能として持ち合わせていなければならない。とりわけ、白色インキは本来の白い色の印刷部分の印刷以外にも、下地の色を隠蔽して上刷り印刷の図柄を引き立たせる役割を果たす場合が多いため、白色度と隠蔽性は非常に重要な性能である。
白インキの顔料として使用されている従来の酸化チタンは、白色顔料の中でも白色度、隠蔽力などに優れた理想的な顔料であるが、より薄膜の印刷皮膜での白色度、隠蔽力が要求されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−30946号公報
【特許文献2】特開2003−213189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決し、通常の段ボール印刷だけでなく、プレプリント印刷においても高い白色度や隠蔽性を有する水性白色印刷インキ組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、白色顔料の一部又は全部に、酸化チタン粒子の表面をシリカ及びアルミナで順に被覆処理した、メディアン粒子径が0.50〜0.56μm、吸油量が36.5〜37.5ml/m2の酸化チタン粒子を使用することにより、通常の段ボール印刷だけでなく、プレプリント印刷においても高い白色度や隠蔽性が得られることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
1.白色顔料、バインダー樹脂、水性媒体を含有し、前記白色顔料の一部又は全部が、酸化チタン粒子の表面にシリカ層及びアルミナ層を順に形成してなるメディアン粒子径が0.50〜0.56μm、吸油量が36.5〜37.5ml/m2の被覆処理酸化チタン粒子であることを特徴とする水性白色印刷インキ組成物。
2.上記被覆処理酸化チタン粒子中の酸化チタンの含有量が80〜84質量%であることを特徴とする1記載の水性白色印刷インキ組成物。
3.1又は2に記載の水性白色印刷インキ組成物を用い、かつプレプリント方式で印刷することを特徴とする段ボールの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性白色印刷インキ組成物を用いて、段ボール等に印刷することにより、印刷部が白色度や隠蔽性に優れた水性白色印刷インキ組成物による印刷物を得ることができる。
特に段ボールを製造する際に、表ライナー表面に印刷した後段ボールを製造するプレプリント印刷方式を採用する際には、フレキソ凸版印刷をした場合であっても、白色インキを多量に印刷面に転移させることによって印刷部がつぶれることがないように、少量の白色インキの転移でも、十分な隠蔽性及び白色度を得ることができるという効果を奏する。
また、このような、先にフィルム状物に対して印刷を行い、その後に該フィルム状物を別の基体に積層等させるようなプレプリント方式は、上記の段ボール用表ライナーのみではなく、樹脂フィルム等の各種材料に対して採用できる。このときにも、上記の段ボールの場合と同様に、印刷物は良好な重ね塗り適性、高い白色度及び隠蔽性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、バインダー樹脂、水性媒体、特定の酸化チタン粒子を含有する白色顔料を含有する水性白色印刷インキ組成物である。
以下、本発明の水性白色印刷インキ組成物について、具体的に説明する。
【0009】
(白色顔料)
白色顔料としては、酸化チタン粒子の表面にシリカ層及びアルミナ層を順に形成してなるメディアン粒子径が0.50〜0.56μm、吸油量が36.5〜37.5ml/m2の被覆処理酸化チタン粒子を使用する。より好ましくは、被覆処理酸化チタン中の酸化チタンの含有量が80〜84質量%であるもので、このような被覆処理酸化チタン粒子として、例えば、TS−6300(デュポン社製)を例示できる。
尚、吸油量は、JIS K5101に規定されている吸油量である。
また、白色顔料の合計含有量は、インキ組成物中20.0〜70.0重量%であるのが好ましく、より好ましくは20.0〜65.0重量%であり、その内、メディアン粒子径が0.50〜0.56μm、吸油量が36.5〜37.5ml/m2の被覆処理酸化チタン粒子の白色顔料中の含有割合は、15〜100質量%であるのが好ましく、より好ましくは白色度及び水性白色印刷インキ組成物の流動性の点から40〜70質量%であるのが好ましい。
白色顔料中の被覆処理酸化チタン粒子の使用割合を15〜100質量%とすることにより、本発明の水性白色印刷インキ組成物を用いて段ボール用表ライナー等の紙、樹脂フィルムに印刷した場合に、十分な隠蔽性と白色度を備えることができる。
そしてこの被覆処理酸化チタン粒子の他に、従来から水性白色印刷インキ組成物に使用されている酸化チタン、酸化アルミニウム等の白色顔料を併用することが好ましく、酸化チタン粒子の表面にシリカ層及びアルミナ層を順に形成してなるメディアン粒子径が0.2〜0.3μmの被覆処理酸化チタン粒子を併用することがより好ましい。
【0010】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、通常の水性印刷インキ組成物で使用される不飽和二重結合を有するモノマーを重合させて得られる樹脂や、官能基同士の反応によって得られる樹脂などであれば、とくに制限なく使用できる。具体的には、アクリル酸あるいはメタクリル酸とそのアルキルエステル、あるいはスチレン等を主なモノマー成分として共重合した水溶性アクリル系樹脂、水溶性スチレン−アクリル樹脂、水溶性スチレン−マレイン酸樹脂、水溶性スチレン−アクリル−マレイン酸樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂などの各種バインダー樹脂が好適な例として例示できる。バインダー樹脂の含有量は水性白色印刷インキ組成物中1〜20重量%が好ましい。
【0011】
(水性媒体)
水性媒体としては、水または水と水混和性溶剤との混合物があげられる。水混和性溶剤としては、例えば、低級アルコール類、多価アルコール類、およびそれらのアルキルエーテルまたはアルキルエステル類等があげられ、具体的には、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等があげられる。
【0012】
(添加剤)
水性白色印刷インキ組成物には、上記に示した成分以外に、必要に応じて造膜剤、顔料分散剤または顔料分散樹脂、ブロッキング防止剤、湿潤剤、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤、一般の界面活性剤等種々の添加剤を適宜選択して使用することができる。
【0013】
これら各種材料を使用して、本発明の水性白色印刷インキ組成物を製造する方法としては、白色顔料、バインダー樹脂、水、必要に応じて水混和性溶剤、および必要に応じて顔料分散剤または顔料分散樹脂を混合して混練し、さらに添加剤、水、必要に応じて水混和性溶剤、および所定の材料の残りを添加、混合する方法が一般的である。
なお、本発明の水性白色印刷インキ組成物は、上記の各成分を必要量混合し、ホモミキサー、ラボミキサーなどの高速攪拌機や、3本ロールミルやビーズミルなどの分散機にて混合、分散することにより容易に得ることができる。
【0014】
<印刷方法>
本発明の水性白色印刷インキ組成物を用いた印刷方法について説明する。
本発明の水性白色印刷インキ組成物は、紙や樹脂フィルム等に対して使用することができ、そのときの印刷方法としては特に限定されないが、段ボールの表ライナーに対して、段ボールへの接着前に予め印刷をしておくプレプリント印刷方式を採用することができ、そのときの印刷方法としては、凸版によるフレキソ印刷を採用することができる。
また、紙や樹脂フィルム等に対して、ドクターブレードを採用してグラビア印刷によって印刷を行うこともできる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって、本発明の水性白色印刷インキ組成物ならびにその製造方法をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨と適用範囲に逸脱しない限りこれらに限定されるものではない。なお、以下の記述において「部」は「質量部」を示す。
【0016】
<水性白色印刷インキの製造方法>
顔料およびバインダー樹脂を撹拌混合し、ビーズミルを使用して常法に従い混練後、表1のインキ組成(部数で示す)に従って各種インキ材料を添加し、実施例1〜6および比較例1の水性白色印刷インキ組成物を得た。使用した顔料およびその他の材料は以下の通りである。なおメディアン粒子径は「堀場製作所LA3000」を用いて測定した。
酸化チタン :R−960(デュポン社製)
メディアン粒子径0.25μm、吸油量16g/100m2
酸化チタン :TS−6300(デュポン社製)(本発明中の被覆処理酸化チタン 粒子に相当)
メディアン粒子径0.53μm、吸油量37g/100m2
バインダー樹脂 :ジョンクリル682(ジョンソンポリマー製、固形分25%)
消泡剤 :アクアレン1448(サンノプコ製)
溶剤 :イソプロピルアルコ−ル
【0017】
<印刷物の性能評価>
実施例1〜6および比較例1の水性白色印刷インキ組成物を、フレキソ印刷機(東谷製作所(株)製、東谷フレキソ印刷機、印刷速度:80m/min)を用いて原紙(Kライナー、坪量140g/m2)に印刷を行い、得られた実施例1〜6および比較例1の印刷物について、以下に示す評価方法で評価した。その評価結果を表1に示す。
【0018】
〔白色度〕
実施例1〜6および比較例1の印刷物の白色度は、JIS P 8123に基づきハンター白色度で測定した。
【0019】
〔流動性〕
実施例1〜6および比較例1の流動性はB型粘度計で測定し、粘度が2〜6ポイズのものを〇、6ポイズより大きいものを×として評価した。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明に沿った例である実施例1〜6によると、白色度が高い印刷を行うことができるが、比較例1によれば白色度が55であった。特に本発明中の被覆酸化チタン顔料であるTS−630が30〜40質量%、被覆処理されていないR−960が20〜30質量%である実施例3及び4によれば、高い白色度と良好な流動性の、バランスがとれた印刷インキ組成物を得ることができた。