特許第6357109号(P6357109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6357109近赤外光吸収ガラス、近赤外光吸収素子、及び近赤外光吸収光学フィルタ
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  • 特許6357109-近赤外光吸収ガラス、近赤外光吸収素子、及び近赤外光吸収光学フィルタ 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357109
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】近赤外光吸収ガラス、近赤外光吸収素子、及び近赤外光吸収光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/247 20060101AFI20180702BHJP
   C03C 4/08 20060101ALI20180702BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C03C3/247
   C03C4/08
   G02B1/00
【請求項の数】25
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-556909(P2014-556909)
(86)(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公表番号】特表2015-512847(P2015-512847A)
(43)【公表日】2015年4月30日
(86)【国際出願番号】CN2013071338
(87)【国際公開番号】WO2013120421
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2014年8月15日
【審判番号】不服2016-7641(P2016-7641/J1)
【審判請求日】2016年5月25日
(31)【優先権主張番号】201210036873.9
(32)【優先日】2012年2月17日
(33)【優先権主張国】CN
(31)【優先権主張番号】201210036840.4
(32)【優先日】2012年2月17日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512264046
【氏名又は名称】成都光明光▲電▼股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】▲孫偉▼
(72)【発明者】
【氏名】匡波
(72)【発明者】
【氏名】▲とう▼宇
(72)【発明者】
【氏名】王▲東▼俊
【合議体】
【審判長】 豊永 茂弘
【審判官】 大橋 賢一
【審判官】 中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】 特公平6−43254(JP,B2)
【文献】 特開2008−100872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGRAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1mmにおける、波長400nmの光の透過率が80%以上であり、波長500nmの光の透過率が85%以上であり、21-25%のP5+と、11.3-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、54-59%のR2+と、50%超で60%以下のF-と、40%以上で50%未満のO2-とからなり、前記R2+はMg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる一以上の陽イオンを表し、耐水性Dは1級に達し、耐酸性Dは4級以上に達し
23-35%のSr2+と、10-30%のBa2+と、を含有し、
陽イオン成分の含有量は、当該陽イオンの質量が陽イオン全体の質量に占める質量%であり、
陰イオン成分の含有量は、当該陰イオンの質量が陰イオン全体の質量に占める質量%である、
近赤外光吸収ガラス。
【請求項2】
0.1-10%のMg2+と、1-20%のCa2+と、を含有する、
請求項1に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項3】
厚さ1mmにおける、波長400nmの光の透過率が88%以上であり、波長500nmの光の透過率が90%より大きい、請求項1に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項4】
F--O2-の含有量(F-及びO2-の含有量の差)が0.1-20%である、請求項1又は2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項5】
F--O2-の含有量(F-及びO2-の含有量の差)が0.1-10%である、請求項1又は2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項6】
F--O2-の含有量(F-及びO2-の含有量の差)が0.1-3%である、請求項1又は2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項7】
50%超で57%以下のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有する、請求項1に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項8】
51-55%のF-と、45-49%のO2-とを含有する、請求項1に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項9】
51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有する、請求項1に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項10】
21-30%のBa2+含有する、請求項2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項11】
2-8%のMg2+と、5-15%のCa2+と、23-30%のSr2+と、15-30%のBa2+と、50%超で57%以下のF-と、43%以上で50%未満のO2-を含有する、請求項2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項12】
3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-30%のBa2+と、50%超で57%以下のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有する、請求項2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項13】
3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と、51-55%のF-と、45-49%のO2-とを含有する、請求項2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項14】
3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と、51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有する、請求項2に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項15】
21-25%のP5+と、11.3-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、54-59%のR2+と、50%超で60%以下のF-と、40%以上で50%未満のO2-とからなり、前記R2+はMg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる一以上の陽イオンを表し
23-35%のSr2+と、10-30%のBa2+と、を含有し、
陽イオン成分の含有量は、前記陽イオンの質量が前記陽イオン全体の質量に占める質量%であり、
陰イオン成分の含有量は、前記陰イオンの質量が前記陰イオン全体の質量に占める質量%である、
近赤外光吸収ガラス。
【請求項16】
50%超で57%未満のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項17】
51-55%のF-と、45-49%のO2-とを含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項18】
51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項19】
0.1-10%のMg2+と、1-20%のCa2+、を含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項20】
2-8%のMg2+と、5-15%のCa2+と、23-30%のSr2+と、15-30%のBa2+と、50%超で57%未満のF-と、43%以上で50%未満のO2-を含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項21】
3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-30%のBa2+と、50%超で57%未満のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項22】
3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と51-55%のF-と、45-49%のO2-とを含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項23】
3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有する、請求項15に記載の近赤外光吸収ガラス。
【請求項24】
請求項1−23のいずれかに記載の近赤外光吸収ガラスにより形成された近赤外光吸収素子。
【請求項25】
請求項1−23のいずれかに記載の近赤外光吸収ガラスにより形成された近赤外光吸収光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光吸収ガラス、近赤外光吸収素子、及び近赤外光吸収光学フィルタに関する。具体的には、本発明は、近赤外光吸収光学フィルタ用の近赤外光吸収ガラスであって色感度の補正に適するもの、及び当該ガラスから構成される近赤外光吸収素子、及び光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ及びVTRカメラ等に用いられるCCD(Charge-coupled Device)、CMOS(complementary metal oxide semiconductor)等の半導体撮影素子のスペクトル感度は、可視域から1100nm付近の近赤外域にまで及ぶようになっている。従って、色感度補正用光学フィルタの需要はますます多くなり、これらの光学フィルタを製造する近赤外光吸収ガラスに対する要求はますます高くなっている傾向である。即ち、大量かつ低価格で、これらのガラスを供給することが要請されており、同時に、これらのガラスに対し比較的高い安定性を持たせる事が要求されている。
【0003】
従来技術において、近赤外光吸収ガラスは、リン酸塩或いはフルオロリン酸塩にCu2+を添加して製造されている。ただし、リン酸塩ガラスにおいては、フルオロリン酸塩ガラスに比べて、化学的安定性が悪い。このため、ガラスが長時間にわたって高温かつ高湿度の環境に暴露されると、ガラスの表面に亀裂及び白濁の欠陥が生じる傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、環境に対する負荷が小さく、かつ可視域において均一性及び透過特性に優れた近赤外光吸収ガラス、近赤外光吸収素子、及び近赤外光吸収光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、近赤外光吸収ガラスを提供する。かかる近赤外光吸収ガラスは、その厚さが1mmの場合、波長400nmにおいて、80%より大きい透過率を示し、かつ波長500nmにおいて、85%より大きい透過率を示す。かかる近赤外光吸収ガラスは、式P5+、Al3+、Li+、R2+及びCu2+で陽イオンとして表されるものを含有し、前記R2+はMg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる一以上の陽イオンを表す。またガラスは式O2-及びF-で陰イオンとして表される物質を含有する。前記近赤外光吸収ガラスの耐水性Dは1級に達し、かつ耐酸性Dは4級以上に達することが好ましい。
【0006】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、厚さ1mmにおける波長400nmの光の透過率が88%より大きく、波長500nmの光の透過率が90%より大きいことが好ましい。
【0007】
F-の含有量がO2-より大きいであることが好ましい。
【0008】
F--O2-の含有量(F-及びO2-の含有量の差)が0.1-20%であることが好ましい。
【0009】
F--O2-の含有量(F-及びO2-の含有量の差)が0.1-10%であることが好ましい。
【0010】
F--O2-の含有量(F-及びO2-の含有量の差)が0.1-3%であることが好ましい。
【0011】
本発明の好ましい態様として、近赤外光吸収ガラスは、15-35%のP5+と、5-20%のAl3+と、1-30%のLi+と、0-10%のNa+と、0-3%のK+と、0.1-8%のCu2+と、30-65%のR2+と(前記R2+はMg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる一以上の陽イオンからなる)、45-60%のF-と、40-55%のO2-とを含有する。
【0012】
20-30%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-15%のLi+と、0-5%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-5%のCu2+と、40-65%のR2+と、48-57%のF-と、43-52%のO2-とを含有することが好ましい。
【0013】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-10%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、50-65%のR2+と、50%超で57%以下のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有することが好ましい。
【0014】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、54-65%のR2+と、51-55%のF-と、45-49%のO2-とを含有することが好ましい。
【0015】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、54-60%のR2+と、51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有することが好ましい。
【0016】
15-35%のP5+と、5-20%のAl3+と、1-30%のLi+と、0-10%のNa+と、0-3%のK+と、0.1-8%のCu2+と、0.1-10%のMg2+と、1-20%のCa2+と、15-35%のSr2+と、10-30%のBa2+と、45-60%のF-と、40-55%のO2-とを含有することが好ましい。
【0017】
20-30%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-15%のLi+と、0-5%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-5%のCu2+と、2-8%のMg2+と、5-15%のCa2+と、21-30%のSr2+と、15-30%のBa2+と、48-57%のF-と、43-52%のO2-とを含有することが好ましい。
【0018】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-10%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-30%のBa2+と、50%超で57%以下のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有することが好ましい。
【0019】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と、51-55%のF-と、45-49%のO2-とを含有することが好ましい。
【0020】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と、51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有することが好ましい。
【0021】
本発明の好ましい態様として、近赤外光吸収ガラスは、15-35%のP5+と、5-20%のAl3+と、1-30%のLi+と、0-10%のNa+と、0-3%のK+と、0.1-8%のCu2+と、30-65%のR2+と(前記R2+はMg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる一以上の陽イオンからなる)、45-60%のF-と、40-55%のO2-とを含有する。
【0022】
20-30%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-15%のLi+と、0-5%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-5%のCu2+と、40-65%のR2+と、48-57%のF-と、43-52%のO2-とを含有することが好ましい。
【0023】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-10%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、50%超で65%以下のR2+と、50%超で57%以下のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有することが好ましい。
【0024】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、54-65%のR2+と、51-55%のF-と、45-49%のO2-とを含有することが好ましい。
【0025】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、54-60%のR2+と、51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有することが好ましい。
【0026】
15-35%のP5+と、5-20%のAl3+と、1-30%のLi+と、0-10%のNa+と、0-3%のK+と、0.1-8%のCu2+と、0.1-10%のMg2+と、1-20%のCa2+と、15-35%のSr2+と、10-30%のBa2+と、45-60%のF-と、40-55%のO2-とを含有することが好ましい。
【0027】
20-30%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-15%のLi+と、0-5%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-5%のCu2+と、2-8%のMg2+と、5-15%のCa2+と、21-30%のSr2+と、15-30%のBa2+と、48-57%のF-と、43-52%のO2-とを含有することが好ましい。
【0028】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、1-10%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-30%のBa2+と、50%超で57%以下のF-と、43%以上で50%未満のO2-とを含有することが好ましい。
【0029】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と、51-55%のF-と、45-49のO2-とを含有することが好ましい。
【0030】
21-25%のP5+と、10-15%のAl3+と、2-5%のLi+と、0.5-3%のNa+と、0-3%のK+と、1.2-3%のCu2+と、3-7%のMg2+と、7-11%のCa2+と、23-28%のSr2+と、21-25%のBa2+と、51-53%のF-と、47-49%のO2-とを含有することが好ましい。
【0031】
本発明はまた、上記の近赤外光吸収ガラスにより形成された近赤外光吸収素子を提供する。
【0032】
本発明はまた、上記の近赤外光吸収ガラスにより形成された近赤外光吸収光学フィルタを提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の近赤外光吸収ガラスでは、優れた耐候性を有する、フルオロリン酸塩ガラスをガラス母材とする特定の設計の組成により、ガラスの溶融温度を効果的に低下させることで、優れた化学的安定性が得られる。耐水性Dは1級に達する。耐酸性Dは4級以上である。本発明では、フルオロリン酸塩ガラス母材中で陰イオン成分であるF-を適切に増加させ、かつ、F-の含有量をO2-より大きくすることにより、ガラスの溶融温度を効果的に低下させることで、優れた化学的安定性が得られる。本発明では、フルオロリン酸塩ガラス母材中でR2+を増加させることで、溶融ガラス中のアルカリの含有量を多くし、Cu2+からCu+への還元を抑制して、近赤外光吸収性能の優れるガラスを得ることが目的である。本発明のガラスは、厚さ1mmにおける波長400nmの光の透過率が80%以上で、波長500nmの光の透過率が85%以上である。波長500nmから700 nmの波長範囲における、スペクトル透過率が50%となる波長(即ち、λ50に対応する)の範囲は615±10nmである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る実施例1の近赤外光吸収ガラスのスペクトル透過率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、フルオロリン酸塩ガラスを母材(マトリックスガラス)とし、近赤外光吸収作用のあるCu2+を添加して得ることができる。
【0036】
本明細書において、陽イオン成分の含有量は、当該陽イオンの質量が陽イオン全体の質量に占める質量%である。同様に、陰イオン成分の含有量は、当該陰イオンの質量が陰イオン全体の質量に占める質量%である。
【0037】
P5+はフルオロリン酸塩ガラスを母材(マトリックスガラス)の基本成分であり、赤外領域において、Cu2+による吸収を発生させる必須成分である。P5+の含有量が15%未満では、色補正機能が悪化し、且つ色は緑色となる。P5+の含有量が35%超では、耐候性、耐失透性が劣る。従って、本発明のガラスにおいて、P5+の含有量は15-35%であり、好ましくは20-30%であり、より好ましくは21-25%である。
【0038】
Al3+は本発明のフルオロリン酸塩ガラスの失透への抵抗性、耐候性、耐熱衝撃性、機械強度及び化学耐性を向上させるのに必要な成分である。但し、その含有量が5%未満では、上記の効果を達成できない。その含有量が20%超では、近赤外光吸収特性が低下する。上記効果を達成するため、Al3+の含有量は5-20%であり、好ましくは10-15%である。
【0039】
Li+、Na+及びK+は、本発明のガラスに必要な成分であり、ガラスの可溶性、ガラスの成形性及び可視光エリアの透過率を向上させることができる。Na+、K+に対して、少量のLi+の導入はガラスの化学的安定性をより効果的に向上させることができる。但し、Li+の含有量が30%超では、ガラスの耐久性と加工性能が劣る。従って、本発明のガラスにおいて、Li+の含有量は1-30%であり、好ましくは1-15%であり、より好ましくは1-10%であり、最も好ましくは2-5%である。
【0040】
本発明においては、更に好ましくは、少量のNa+とLi+とを共に混融することで、ガラスの耐候性を効果的に向上させることが出来る。本発明のガラスにおいて、Na+の含有量は0-10%であり、好ましくは0-5%であり、より好ましくは0.5-3%である。K+の含有量は0-3%であり、その含有量が3%超では、ガラスの耐久性が逆に低下する。
【0041】
R2+は本発明のガラスに必要な成分であり、ガラスの成形性、耐失透性、及び加工性を効果的に向上させることができる。ここで、R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+を示す。近赤外光吸収光学フィルタとして、可視域の光透過率は比較的高い方が好ましい。可視域の光透過率を向上させるため、導入される銅イオンはCu+ではなく、Cu2+でなければならない。これにより、波長400nm付近における透過率を低下させることができる。本発明のガラスにおいては、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+の合計量を適切に増加させることにより、溶融ガラスのアルカリの含有量を増加させることで、Cu2+からCu+への還元を抑制することができ、ガラスの近赤外光の光吸収性能は優れたものになる。Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+の合計含有量が30%未満では、耐失透性が悪化する傾向がある。但し、その合計含有量が65%超でも、同じく耐失透性悪化の傾向がある。従って、本発明のガラスにおいてMg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+の合計含有量は30-65%であり、好ましく40-65%であり、より好ましくは50%超で65%未満であり、更に好ましくは54-65%であり、特に好ましくは54-60%である。
【0042】
その内、Mg2+、Ca2+は、ガラスの耐失透性、化学的安定性、加工性を向上させる役割を担う。従って、本発明のガラスにおいてMg2+は、好ましくは0.1-10%であり、より好ましくは2-8%であり、更に好ましくは3-7%である。Ca2+は、好ましくは1-20%であり、より好ましくは5-15%であり、更に好ましくは7-11%である。
【0043】
Mg2+とCa2+に対して、本発明は主に高含有量のSr2+とBa2+とを導入することで、R2+の含有量を効果的に向上させることが出来る。従って、光の透過率を効果的に向上させると同時に、Sr2+とBa2+は、ガラスの成形性、耐失透性、溶融性を向上させる役割を有する。Sr2+の含有量は、好ましくは15-35%であり、より好ましくは21-30%であり、特に好ましくは23-28%である。同様に、Ba2+の含有量は、好ましくは10-30%であり、より好ましくは15-30%であり、特に好ましくは21-30%で、更に好ましくは21-25%である。
【0044】
ガラスにおいて、銅は近赤外光吸収特性に必要な成分であり、銅はCu2+の形で存在することが効果的である。Cu2+の含有量が0.1%未満の場合、近赤外光吸収光学フィルタは、所望の近赤外光吸収効果を充分に達成できない。但し、その含有量が8%超では、ガラスの耐失透性とガラス成形性が低下する。従って、本発明のガラスにおいて、Cu2+の含有量は0.1-8%であり、好ましくは1.2-5%であり、より好ましくは1.2-3%である。
【0045】
本発明の近赤外光吸収ガラスは、陰イオン成分のO2-とF-を含有している。溶融温度が高くなる程、Cu2+がCu+に還元されやすくなり、ガラスの色も青色から緑色に変わる傾向がある。このため半導体撮像素子の色感度の補正への応用に必要な特性を害することがあった。
【0046】
F-は、ガラスの溶融温度を下げ、化学的安定性を向上させる重要な陰イオン成分である。ただし、F-の含有量が45%未満では、化学的安定性が低下する。その含有量が60%超では、O2-の含有量が下がるため、Cu2+の減少を抑制することができない。ガラスの中のCu2+の含有量が上昇すると、短波成分の吸収が増大され、赤外吸収が減少する。従って、本発明のガラスにおいて、F-の含有量は45-60%であり、好ましくは48-57%であり、より好ましくは50%超で57%未満であり、特に好ましくは51-55%であり、最も好ましくは51-53%である。
【0047】
O2-は、本発明のガラスにとって必要な陰イオン成分である。但し、その含有量が過少では、Cu2がCu+に還元されやすくなる。かかる場合、短波長域では、特に波長が400nm近くでの吸収がもっと大きくなり、最終的には緑色に表示されることになる。その含有量が過剰では、ガラスの粘度が比較的高くなることにより、溶融温度が上昇され、透過率が低下する。従って、本発明のガラスにおいて、O2-の含有量は40-55%であり、好ましくは43-52%であり、より好ましくは43%以上で50%未満であり、特に好ましくは45-49%であり、最も好ましくは47-49%である。
【0048】
本発明においてガラスにF-を適量添加することができ、かつ、F-の含有量を、O2-の含有量より大きくすることができる。このため、ガラスの溶融温度を効果的向上させることができる。従って、本発明によってガラスにF-を適量添加することにより、優れたガラス化学的安定性が得られる。従って、F--O2-の含有量(F-及びO2-の含有量の差)は、好ましくは0.1-20%であり、より好ましくは0.1-10%であり、最も好ましくは0.1-3%である。

【0049】
本発明のガラスはその特定の組成設計により、ガラスの化学的安定性に関して以下の特性を有することができる。耐水性Dは1級まで達する。耐酸性Dは4級まで達し、好ましくは3級まで達し、より好ましくは2級まで達する。
【0050】
上記の耐水性D(粉末法)は、GB/T17129試験法に規定される方法に準拠して測定され、以下の計算式により算出される。
【0051】
=(B−C)/(B−A)×100
【0052】
式中、各符号は以下の通りである。
【0053】
:ガラスにおける浸出百分率(%)
【0054】
B:フィルタと試料との合計質量(g)
【0055】
C:フィルタと侵蝕後の試料との合計質量(g)
【0056】
A:フィルタの質量(g)
【0057】
算出された浸出百分率から、光学ガラスの耐水性Dは6つの階級に区分される。階級区分の詳細は下表の通りである。
【0058】
【表1】
【0059】
上記の耐酸性D(粉末法)は、GB/T17129試験方法に規定の方法に準拠して測定され、以下の計算式により算出される。
【0060】
=(b−c)/(b−a)×100
【0061】
式中、各符号は以下の通りである。
【0062】
:ガラス浸出百分率(%)
【0063】
B:フィルタと試料の合計質量(g)
【0064】
C:フィルタと侵蝕後の試料の合計質量(g)
【0065】
A:フィルタの質量(g)
【0066】
算出された浸出百分率から、光学ガラスの耐酸性Dは6つの階級に区分される。階級区分の詳細は下表の通りである。
【0067】
【表2】
【0068】
本発明のガラスにおける好ましい透過率特性は以下の通りである。
【0069】
ガラスの厚さが1mmの場合、400-1200nmの波長範囲内におけるスペクトル透過率は以下の通りである。
【0070】
400nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、特に好ましくは88%以上である。
【0071】
500nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0072】
600nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは58%以上であり、より好ましくは61%以上であり、特に好ましくは64%以上である。
【0073】
700nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは12%以下であり、より好ましくは10%以下であり、特に好ましくは9%以下である。
【0074】
800nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2.5%以下であり、最も好ましくは2%以下である。
【0075】
900nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2.5%以下である。
【0076】
1000nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは7%以下であり、より好ましくは6%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0077】
1100nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは15%以下であり、より好ましくは13%以下であり、特に好ましくは11%以下である。
【0078】
1200nmの波長におけるスペクトル透過率は好ましくは24%以下であり、より好ましくは22%以下であり、特に好ましくは21%以下である。
【0079】
上記から、本発明のガラスは、700-1200nmの近赤外域の波長範囲内の吸収が大きく、400-600nmの可視域の波長範囲内の吸収は小さい事が分かる。
【0080】
500-700nmの波長におけるスペクトル透過率において、透過率が50%となる波長(即ち、λ50に対応する)の範囲は615±10nmである。
【0081】
本発明のガラスの透過率は、上述の方法により分光光度計を用いて導き出される値である。
【0082】
ガラスの透過率は、以下のように定義される。
【0083】
ガラス試料が互いに平行な2つの光学研磨平面を有し、光が一方の平面から垂直に入射し、他方の平面から出射すると仮定したとき、出射光の強度を入射光の強度で割った値が透過率である。当該透過率は、外光透過率とも称される。
【0084】
本発明のガラスは上記特性を有するため、CCD或いはCMOS等の半導体撮像素子の色の補正に対する効果が大変良好である。
【0085】
本発明の近赤外光吸収素子は、上記の近赤外光吸収ガラスにより形成されたものである。
【0086】
本発明の近赤外光吸収素子は、近赤外光吸収フィルタ中の薄板状のガラス素子或いはレンズ等に用いられ、固体撮像素子の色補正の用途に適し、優れた光透過性能及び化学的安定性を有する。
【0087】
本発明の近赤外光吸収フィルタは上記の近赤外光吸収ガラスにより形成されたものである。従って、本発明の近赤外光吸収フィルタは、優れた光透過性能及び化学的安定性を有する。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明し、他の技術者が参考とすべき内容を示すが、本発明の権利範囲はこれらの実施例に限られない。
【0089】
本発明のガラスにかかる原料として、フッ化物、メタリン酸塩、酸化物、硝酸塩或いは炭酸塩が用いられる。表3-5に示すガラス組成となるように複数種類の原料を計量し、完全に混合した後、得られた混合原料をプラチナるつぼに投入し、蓋で密封したのち、700-900℃の温度で加熱溶融する。酸素を保持し、清澄化し、同時に均質化した後、溶融ガラスを、一定の速度で温度制御パイプから流出させる。成形後、本発明の光学ガラスを得ることができる。
【0090】
実施例1−20(近赤外光吸収ガラスの製造実施例)
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
表3−5において、R+は、Li+、Na+及びK+の総含有量である。
【0095】
上記のガラスを板状に加工し、且つ、相対する二面を光学研磨して透過率を測定するためのサンプルを製作した。分光計を用いてそれぞれのサンプルのスペクトル透過率を測定し、1mmの厚さの各サンプルの典型的な波長の透過率を得た。
【0096】
表5-8は厚さが1mmのガラスの透過率の値を示したもので、実施例にかかるガラスが半導体撮像素子用の色感度補正ガラスとして優れた性能を有することが示されている。
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
【表8】
【0100】
図1は、実施例1のスペクトルグラフである。図1において、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示す。ガラスの厚さが1mmにおいて、波長400nmの光の透過率は好ましくは80%である。500-700nmの波長範囲内のスペクトル透過率において、透過率50%に対応する波長の範囲は615±10nmである。400-1200nmの波長範囲内のスペクトル透過率において、800-1000nmの波長範囲内の透過率が最も小さいことが示されている。この波長域は近赤外域であるため、半導体撮像素子が当該域での感度がそれほど低くない。従って、この波長域では色補正用光学フィルタの透過率を抑制しなければならず、これによって十分に低いレベルを達成できる。一方で1000-1200nmの波長範囲域では、半導体撮像素子の感度は比較的に低下する。従って、本発明のガラスの1000-1200nmの波長範囲域での透過率は増加してもよい。
図1