【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において、NRG1−αタンパク質はNRG1−a、NRG1−β1タンパク質はNRG1−b、NRG1−β2タンパク質はNRG1−b2とも称する。
【0073】
(実施例1)
<ヒトNRG1タンパク質に結合する抗体の作製>
以下に示す方法にて、ヒトNRG1タンパク質に結合する抗体を作製した。
【0074】
1.NRG1(NRG1−a及びNRG1−b2)のcDNA取得
ヒトNRG1−a及びNRG1−bのcDNA配列(HRG−α:NM_013964、HRG−β1:NM_013956)に基づき、共通配列である5’UTRと3’UTRとに下記のプライマーを設計した。
1st PCR
NRG1_5’−1:
5’−CTTGGACCAAACTCGCCTGCG−3’(配列番号:27)
NRG1_3’−1:5’−ATAAAGTTTTACAGGTGAATCTATGTG−3’ (配列番号:28)
2nd PCR
NRG1_5’−2:
5’−GTAGAGCGCTCCGTCTCCGG−3’ (配列番号:29)
NRG1_3’−2:
5’−GGTTTTATACAGCAATAGGGTCTTG−3’ (配列番号:30)。
【0075】
ヒト膵臓癌細胞MIAPaCa−2(ATCC:CRL−1420)及びAsPC−1(ATCC:CRL−1682)から抽出したtotalRNAから、SuperScriptIII cells direct cDNA Synthesis System(Invitrogen社製:18080−200)を用いてcDNAを作製し、これを鋳型として、KOD Plus Ver.2(東洋紡社製:KOD−211)を用いたnested PCRによってNRG1のタンパク質コード領域全長を含むcDNAを増幅した。1st PCRは[98℃ 20秒、60℃ 20秒、68℃ 130秒]を35サイクル、2nd PCRは[98℃ 15秒、61℃ 20秒、68℃ 130秒]を35サイクルの条件で行った。2nd PCRの増幅産物をpT7Blue T−Vector(Novagen社製: 69820)にクローニングし、塩基配列を確認した。塩基配列の確認には、オートシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。MIAPaCa−2由来のcDNAからクローニングしたcDNAはヒトNRG1−aの配列と一致していたため、NRG1−a−pT7と名づけた。AsPC−1由来のcDNAからクローニングしたcDNAは、ヒトNRG1−bの配列と比較すると膜貫通領域より5’側に24塩基長の欠失が見られ、ヒトNRG1−b2の配列と一致していたため、NRG1−b2−pT7と名づけた。
【0076】
2.NRG1(NRG1−b)のcDNA取得
NRG1−b2のcDNAをもとに、PCRによってNRG1−bのcDNAを作製した。PCRはNRG1−b2−pT7を鋳型として用い、下記のプライマーとPfu(Promega社製:M774A)を使用して[95℃ 50秒、58℃ 30秒、72℃ 10分]を25サイクルの条件で行った。
24in F:
5’−catcttgggattgaatttatggagGCGGAGGAGCTGTACCAGAAGAGAGTG−3’ (配列番号:31)
24in R:
5’−ctccataaattcaatcccaagatgCTTGTAGAAGCTGGCCATTACGTAGTTTTGGC−3’(配列番号:32)
なお、小文字で示した部分はNRG1−b特異的配列(b2で欠失する配列)に相当する。
【0077】
増幅産物をDpnIで消化し、常法に従ってクローニングした。得た配列はヒトNRG1−bの配列と一致していたため、NRG1−b−pT7と名づけた。
【0078】
3.膜型NRG1を発現する細胞の作製
ヒトNRG1−a、NRG1−b又はNRG1−b2の全長を安定発現する動物細胞を、以下のように作製した。なおリコンビナントNRG1分子の発現を確認するために、それぞれN末端にHAタグを付加した。
【0079】
NRG1−a−pT7、NRG1−b−pT7又はNRG1−b2−pT7を鋳型として、下記のプライマーにより2段階のPCRで増幅させたDNAの末端をNotIとBamHIで切断し、動物細胞用発現ベクターのNotI−BamHIサイトに挿入した。動物細胞用の発現ベクターには、CMVプロモーターで制御され、IRES配列により目的遺伝子とPuromycin−EGFP融合タンパク質とが同時に発現されるpQCxmhIPGを用いた。pQCxmhIPGは、本発明者らが「BD Retro−X Q Vectors」(Clontech社製:631516)のpQCXIP Retroviral Vectorを改変したベクターである。作製したベクターは、NRG1−a−pQCxmhIPG、NRG1−b−pQCxmhIPG及びNRG1−b2−pQCxmhIPGと各々名付けた。
1st PCR
full_+HA−1:
5’−tatgatgtgccggattatgccTCCGAGCGCAAAGAAGGCAGAG−3’ (配列番号:33)
full_R_BamHI:
5’−CG
GGATCCTACAGCAATAGGGTCTTGGTTAG−3’ (配列番号:34、下線部はBamHI認識配列)
2nd PCR
full_+HA−2:
5’−AATA
GCGGCCGCACCATGccttatgatgtgccggattatgcc−3’ (配列番号:35、下線部はNotI認識配列)
full_R_BamHI:
5’−CG
GGATCCTACAGCAATAGGGTCTTGGTTAG−3’ (配列番号:34、下線部はBamHI認識配列)
小文字部分はHAタグをコードする配列である。
【0080】
作製したベクターを、Pantropic Retroviral Expression System(Clontech社製:K1063−1)を用いて以下のように293T細胞に導入した。Collagen−coated 100mm dishに80〜90%コンフルエント状態のGP2−293(Clontech社製:K1063−1)を準備し、Lipofectamine 2000(Invitrogen社製:11668−019)を用いて、上で構築した発現ベクター(NRG1−a−pQCxmhIPG、NRG1−b−pQCxmhIPG又はNRG1−b2−pQCxmhIPG)とpVSV−G(Clontech社製:K1063−1)を11.2ugずつ共導入した。48時間後、ウイルス粒子を含む上清を回収し、超遠心(18,000rpm、1.5時間、4℃)によってウイルス粒子を沈殿させ、その沈殿物を30uLのTNE(50mM Tris−HCl[pH=7.8]、130mM NaCl、1mM EDTA)で懸濁し、レトロウイルスベクター濃縮液を調製した。レトロウイルスベクター濃縮液5uLを、8ug/mLのHexadimethrine bromide(SIGMA社製:H−9268)を含んだ150uLのDMEM(SIGMA社製;D5796)−10%FBSで希釈し、ウイルス粒子含有培地を調製した。96穴のマイクロプレートに約40%コンフルエントの状態になるように準備した293Tの培地を、調製したウイルス粒子入りの培地に交換した。これらの細胞を5ug/mLのPuromycin(SIGMA社製:P−8833)を含むDMEM(SIGMA社製:D5796)−10%FBSで培養することによって、目的遺伝子が発現している細胞を得た。
【0081】
次に、樹立した細胞を常法に従って単クローン化し、細胞表面上に目的タンパク質が多く発現するクローンを選択した。これは、各クローンを抗HAタグ抗体(MBL社製:M132−3)及びPE標識抗マウスIgG抗体(ベックマンコールター社製:IM0855)で染色し、フローサイトメトリーでの平均蛍光強度を測定することによって行った。以上により、N末端にHAタグを付加したNRG1を安定的に高発現する細胞株(NRG1−a/st293T、NRG1−b/st293T及びbNRG1−b2/st293T)を樹立した。
【0082】
4.NRG1の部分長を分泌発現する細胞の作製
NRG1のEGFドメイン(aa181−aa222)又はEGFドメインと、切断領域(NRG1−aはaa181−aa242、NRG1−bはaa181−aa247)とを発現する動物細胞を、以下のように作製した。
【0083】
NRG1−a−pT7又はNRG1−b−pT7を鋳型として、下記のプライマーによりPCRで増幅させたNRG1部分長DNAの末端をNotI及びBamHIで切断し、動物細胞分泌発現用ベクターのNotI−BamHIサイトに挿入した。このベクターは、上に記載したpQCxmhIPGのクローニングサイト上流にIgκの分泌シグナルペプチドをコードする配列(5’−ATGGAGACAGACACACTCCTGCTATGGGTACTGCTGCTCTGGGTTCCAGGTTCCACTGGT−3’、配列番号:36)を組み込んだ、目的タンパク質を強制的に分泌発現させるためのベクターである。作製したベクターは、ag4a−pQCsxmhIPG、ag4b−pQCsxmhIPGおよびag5a−pQCsxmhIPGと名付けた。
ag4a
EGF_F_NotI:5’−AATA
GCGGCCGCAAAATGTGCGGAGAAGGAGAAAAC−3’(配列番号:37、下線部はNotI認識配列)
EGF−a_R_BamHI:5’−CG
GGATCCAGTACATCTTGCTCCAGTG−3’(配列番号:38、下線部はBamHI認識配列)
ag4b
EGF_F_NotI:5’−AATA
GCGGCCGCAAAATGTGCGGAGAAGGAGAAAAC−3’(配列番号:39、下線部はNotI認識配列)
EGF−b_R_BamHI:5’−CG
GGATCCTTGGCAGCGATCACCAGTAAACTCAT−3’(配列番号:40、下線部はBamHI認識配列)
ag5a
EGF_F_NotI:5’−AATA
GCGGCCGCAAAATGTGCGGAGAAGGAGAAAAC−3’(配列番号:37、下線部はNotI認識配列)
preTM_R_BamHI :5’−CG
GGTACCCACTCTCTTCTGGTACAGCTC−3’(配列番号:41、下線部はBamHI認識配列)。
【0084】
作製したベクターを上記と同様にPantropic Retroviral Expression System(Clontech社製:K1063−1)を用いて293T細胞に導入し、5ug/mLのPuromycin(SIGMA社製:P−8833)を含むDMEM(SIGMA社製:D5796)−10%FBSで培養することによって、目的遺伝子を安定的に発現する細胞株(ag4a/st293T、ag4b/st293T及びag5a/st293T)を樹立した。
【0085】
5.NRG1部分長精製タンパク質(動物細胞由来リコンビナントタンパク質の調製)
以上のように樹立した発現細胞株(ag4a/st293T、ag4b/st293T及びag5a/st293T)を、CD293(Invitrogen社製)それぞれ1Lで培養した。培養上清を回収し、そこからTALON Purification Kit(Clontech社製:K1253−1)を用いてリコンビナントタンパク質を精製した。精製したタンパク質(ag4a、ag4b及びag5a)は、SDS−PAGE及びウエスタンブロットにて確認した。さらにプロテインアッセイキットII(BioRad社製:500−0002JA)を用いてタンパク質濃度を決定した。
【0086】
6.NRG1の部分長を発現する大腸菌の作製
NRG1の細胞外領域全長(NRG1−aはaa1−aa242、NRG1−bはaa1−aa247)、EGFドメインと切断領域(NRG1−aはaa181−aa242、NRG1−bはaa181−aa247)、EGFドメインのN末端から切断領域のα若しくはβタイプ特異的な配列まで(NRG1−aはaa181−aa234、NRG1−bはaa181−aa239)、EGFドメインと切断領域のうちα若しくはβタイプ特異的な配列(NRG1−aはaa213−aa234、NRG1−bはaa213−aa239)、又は、EGFドメインのα若しくはβタイプ特異的な配列から切断領域(NRG1−aはaa213−aa242、NRG1−bはaa213−aa247)を発現する大腸菌を、以下のように作製した。
【0087】
NRG1−a−pT7又はNRG1−b−pT7を鋳型として、下記のプライマーによってPCRで増幅させた。
ag8a、ag8b
EC_petF_BamHI:5’−CG
GGATCCATGTCCGAGCGCAAAGAAGG−3’(配列番号:42、下線部はBamHI認識配列)
EGF_petR_SalI:5’−ACGC
GTCGACCACTCTCTTCTGGTACAGCTC−3’(配列番号:43、下線部はSalI認識配列)
ag10a、ag10b
EGF_petF_BamHI:5’−CG
GGATCCACCACTGGGACAAGCC−3’(配列番号:44、下線部はBamHI認識配列)
EGF_petR_SalI:5’−ACGC
GTCGACCACTCTCTTCTGGTACAGCTC−3’(配列番号:43、下線部はSalI認識配列)
ag11a
EGF_petF_BamHI:5’−CG
GGATCCACCACTGGGACAAGCC−3’(配列番号:44、下線部はBamHI認識配列)
a−specific_pet_R_SalI:5’−ACGC
GTCGACCGCCTTTTCTTGGTTTTGG−3’(配列番号:45、下線部はSalI認識配列)
ag11b
EGF_petF_BamHI:5’−CG
GGATCCACCACTGGGACAAGCC−3’(配列番号:44、下線部はBamHI認識配列)
b−specific_pet_R_SalI:5’−ACGC
GTCGACCGCCTCCATAAATTCAATCC−3’(配列番号:46、下線部はSalI認識配列)
ag12a
a−specific_pGEX_F_BamHI:5’−CG
GGATCCTGCCAACCTGGATTCACTGG−3’(配列番号:47、下線部はBamHI認識配列)
a−specific_pGEX_R_XhoI:5’−CCG
CTCGAGctaCGCCTTTTCTTGGTTTTGG−3’(配列番号:48、下線部はXhoI認識配列、小文字は停止コドンに相当)
ag12b
b−specific_pGEX_F_BamHI:5’−CG
GGATCCTGCCCAAATGAGTTTACTGGTG−3’(配列番号:49、下線部はBamHI認識配列)
b−specific_pGEX_R_XhoI:5’−CCG
CTCGAGctaCGCCTCCATAAATTCAATCC−3’(配列番号:50、下線部はXhoI認識配列、小文字は停止コドンに相当)
ag13a
a−specific_pGEX_F_BamHI:5’−CG
GGATCCTGCCAACCTGGATTCACTGG−3’(配列番号:47、下線部はBamHI認識配列)
preTM_pGEX_R_XhoI:5’−CCG
CTCGAGctaCACTCTCTTCTGGTACAGCTC−3’(配列番号:51、下線部はXhoI認識配列、小文字は停止コドンに相当)
ag13b
b−specific_pGEX_F_BamHI:5’−CG
GGATCCTGCCCAAATGAGTTTACTGGTG−3’(配列番号:49、下線部はBamHI認識配列)
preTM_pGEX_R_XhoI:5’−CCG
CTCGAGctaCACTCTCTTCTGGTACAGCTC−3’(配列番号:51、下線部はXhoI認識配列、小文字は停止コドンに相当)。
【0088】
ag8a、ag8b、ag10a、ag10b、ag11a及びag11bは、増幅したNRG1部分長DNAの末端をBamHIとSaIIとで切断してpET28a(Novagen社製:69864−3)のBamHI−XhoIサイトに挿入した。これらを用いてBL21を形質転換し、ag8a/BL21、ag8b/BL21、ag10a/BL21、ag10b/BL21、ag11a/BL21及びag11b/BL21と各々名付けた。
【0089】
また、ag12a、ag12b、ag13a及びag13bは、増幅したNRG1部分長DNAの末端をBamHIとXhoIとで切断してpGEX4T−1(Amersham社製:28−9545−49)のBamHI−XhoIサイトに挿入した。これらを用いてBL21を形質転換し、ag12a/BL21、ag12b/BL21、ag13a/BL21及びag13b/BL21と各々名付けた。
【0090】
7.NRG1部分長精製タンパク質(大腸菌由来リコンビナントタンパク質)の調製
以上のようにして樹立した大腸菌株のうち、ag8a/BL21、ag8b/BL21、ag10a/BL21、ag10b/BL21、ag11a/BL21及びag11b/BL21は、カナマイシン添加LB培地0.5Lでそれぞれ培養し、1mMのIPTGで発現誘導を行った。集菌したペレットをPBS中で破砕し、その不溶画分を6M ウレア/PBSで可溶化したのち、TALON Purification Kit(Clontech社製;K1253−1)を用いてリコンビナントタンパク質を精製した。
【0091】
また、ag12a/BL21、ag12b/BL21、ag13a/BL21及びag13b/BL21は、アンピシリン添加LB培地0.5Lでそれぞれ培養し1mMのIPTGで発現誘導を行った。集菌したペレットは1mM DTT/PBS(KCl free)中で破砕し、その可溶画分からGlutathione Sepharose 4B(GEヘルスケア社製:17−0756−05)を用いてリコンビナントタンパク質を精製した。
【0092】
精製したタンパク質(ag8a、ag8b、ag10a、ag10b、ag11a、ag11b、ag12a、ag12b、ag13a及びag13b)はSDS−PAGE及びウエスタンブロットにて確認した。またプロテインアッセイキットII(BioRad社製:500−0002JA)を用いてタンパク質濃度を決定した。
【0093】
8.NRG1部分長精製タンパク質(合成ペプチド)の調製
NRG1の切断領域(NRG1−aはaa223−aa242、NRG1−bはaa223−aa247)を含むペプチド(CTENVPMKVQNQEKAEELYQKRVL(配列番号:52)及びCQNYVMASFYKHLGIEFMEAEELYQKRVL(配列番号:53))は、受託サービス(MBL社)にてFmoc法で合成した。ペプチドはそれぞれ常法に従ってKLHに結合させ、agPa及びagPbを得た。
【0094】
9.抗原免疫
ag5a、ag7a、ag7b、ag8a、ag8b、ag10a、ag10b、ag13a、ag13b、agPa又はagPbは、同量のコンプリートアジュバント(SIGMA社製:F5881)と混合してエマルジョンにし、4〜5週齢のBALB/cマウス(日本エスエルシー社製)等に1匹当たり5〜20ug、3〜7日おきに6回免疫した。最終免疫の3日後にマウスからリンパ球細胞を摘出し、マウス骨髄腫細胞P3U1(P3−X63Ag8U1)と融合させた。
【0095】
10.細胞融合
細胞融合は次に示す一般的な方法を基本として行った。全ての培地中のFBSは、56℃で30分間保温する処理によって非働化したものを使用した。P3U1は、RPMI1640−10%FBS(Penicillin−Streptomycin含有)で培養して準備した。摘出したマウスリンパ球細胞とP3U1とを10:1〜2:1の割合で混合し、遠心した。沈殿した細胞に50%ポリエチレングリコール4000(Merck社製:1.09727.0100)を徐々に加えながら穏やかに混合後、遠心した。沈殿した融合細胞を、15%FBSを含むHAT培地(RPMI1640、HAT−supplement(Invitrogen社製:11067−030)、Penicillin−Streptomycin)で適宜希釈し、96穴のマイクロプレートに200uL/ウェルで播種した。融合細胞をCO
2インキュベータ(5%CO
2、37℃)中で培養し、コロニーが形成されたところで培養上清をサンプリングし、下記のようにスクリーニングを行った。
【0096】
11.抗NRG1モノクローナル抗体産生細胞の選択
抗NRG1抗体を産生するハイブリドーマは、酵素免疫測定法(ELISA)によって選定した。本アッセイにはそれぞれ免疫原として使用したリコンビナントヒトNRG1タンパク質を96ウェルのELISAプレート(nunc社製)に0.5ug/mL、50uL/ウェルで分注し、室温2時間又は4℃一晩静置して吸着させたものを用いた。溶液を除去後、1%BSA(ナカライ社製:01863−35)−5%Sucrose(WAKO社製)−PBSを150uL/ウェル加え、室温で2時間静置することによって、残存する活性基をブロックした。静置後、溶液を除去し、一次抗体としてハイブリドーマ培養上清を50uL/ウェル分注し、1時間静置した。該プレートを0.05% Tween20−PBSで洗浄後、二次抗体として10000倍希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(MBL社製:330)を50uL/ウェル加えて室温で1時間静置した。該プレートを0.05% Tween20−PBSで洗浄後、発色液(5mMクエン酸ナトリウム、0.8mM 3.3’.5.5’テトラメチルベンチジン−2HCl、10%N,N−ジメチルホルムアミド、0.625%ポリエチレングリコール4000、5mMクエン酸一水和物、5mM H2O2)を50uL/ウェル添加し室温20分静置して発色させ、1Mリン酸を50uL/ウェル添加して発色を停止させたのち、450nmの吸光度をプレートリーダー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて測定した。
【0097】
ここで選択したハイブリドーマの培養上清は、さらに、免疫原として使用したリコンビナントタンパク質と同一のタグ配列を持つ他の精製リコンビナントタンパク質に反応しないことを同様のELISAによって確認した。これにより、産生される抗体はタグ部分やリンカー部分ではなくNRG1を認識するものであることを確認した。
【0098】
そして、ここで選択したハイブリドーマを、15%FBSを含むHT培地(RPMI1640、HT−supplement(Invitrogen社製:21060−017)、Penicillin−Streptomycin)で拡大培養した後、限界希釈法によって単クローン化した。
【0099】
12.抗NRG1モノクローナル抗体の取得
単クローン化した各ハイブリドーマを無血清培地(GIBCO社製:12300−067)で培養し、その培養上清から、Protein A−Sepharoseを用いた一般的なアフィニティー精製法により抗体を精製した。これら抗体のヒトNRG1に対する反応性は、前記同様に、免疫原として使用した精製タンパク質を用いた酵素免疫測定法(ELISA)によって確認した。一次抗体として、抗NRG1抗体を5ug/mLを最大濃度としてPBSで段階希釈したものを用いた。結果、すべての抗体が濃度依存的にヒトNRG1に反応することを確認した。
【0100】
このようにして、抗NRG1抗体を産生するハイブリドーマを計80取得した(ag8aを免疫原として39クローン、ag8bを免疫原として16クローン、ag10aを免疫原として16クローン、ag10bを免疫原として2クローン、ag13aを免疫原として4クローン、agPaを免疫原として3クローン)。
【0101】
(実施例2)
<取得抗体の細胞表面NRG1に対する反応性>
取得した抗NRG1抗体のうち、細胞表面NRG1に強く反応するものを、フローサイトメトリーを用いた一般的な方法によって選定した。各抗体の、同条件下(同数のNRG1−a/st293T又はNRG1−b/st293T(5x10^4個)と、293T(1x10^4個)と、同濃度の各精製抗体(5ug/mL)と、同濃度の二次抗体(1/100希釈)(ベックマンコールター社製:IM0855)とを用いたフローサイトメトリーの平均蛍光強度を解析した。陽性対照として抗HAタグ抗体(MBL社製:M132−3)を用い、細胞表面上のNRG1の発現を確認した。また、抗体濃度依存的な平均蛍光強度についてもデータを取得し、低濃度での検出能を解析することで、相対的な親和性を評価した。得られた結果を
図2に示す。
【0102】
図2に示す通り、取得抗体のうち、8a2、8a4、10bM3及び10b2M3の4抗体が細胞表面上のNRG1に強く反応することが明らかになった。さらに、8a2はNRG1−aとNRG1−bの両方に反応し、8a4はNRG1−a特異的に、10bM3と10b2M3とはNRG1−bに特異的に反応することが明らかになった。
【0103】
(実施例3)
<取得抗体のエピトープ解析>
8a2、8a4、10bM3及び10b2M3が認識する配列を、リコンビナントNRG1タンパク質に対する反応性を評価することによって解析した。すなわち、複数のNRG1部分長タンパク質を用いて、これらに対する各抗体の反応を前記と同様の酵素免疫測定法(ELISA)で検出することによって行った。得られた結果をグラフ化したものを
図3〜6に示す。縦軸は吸光度を表す。また、NRG1−a及びNRG1−bと、各NRG1部分長タンパク質との対応関係を
図1に示す。
【0104】
また、10bM3及び10b2M3が認識する配列については、細胞表面のNRG1−b2に対する反応をフローサイトメトリーによっても解析した。前記同様の方法で、NRG1−b/st293Tに対する反応性とNRG1−b2/st293Tに対する反応性を比較した。得られた結果を
図7に示す。
【0105】
図4に示す通り、8a4については、agPa(ヒトNRG1−αタンパク質の221〜244位)及びag12a(ヒトNRG1−αタンパク質の212〜235位)に反応することが明らかになった。さらに、
図2に示す通り、8a4はヒトNRG1−β1タンパク質とは反応しないことから、8a4は、NRG1タンパク質のαタイプのアイソフォーム特異的な配列、すなわちヒトNRG1−αタンパク質における221〜234位の領域を認識することが明らかになった。
【0106】
また、
図5〜7に示す通り、10bM3及び10b2M3については、実施例2に記載の結果同様に、ヒトNRG1−αタンパク質とは反応しないことから、これら抗体は、NRG1タンパク質のβタイプのアイソフォーム特異的な配列、すなわち、ヒトNRG1−β1タンパク質における213〜239位の領域を認識することが明らかになった。
【0107】
さらに、フローサイトメトリーによる解析において評価に用いているのは、細胞に発現しているNRG1タンパク質であるため、当該解析の方が前記ELISAよりも、抗体との反応に供したNRG1タンパク質のコンフォメーション等がより正しく保たれている可能性が高いと考えられる。従って、フローサイトメトリーによる解析結果(
図7に示した結果)を重視するに、10bM3及び10b2M3は、ヒトNRG1−β2タンパク質とは反応しないことから、これら抗体は、NRG1タンパク質−β1タンパク質に特異的な配列、すなわち、ヒトNRG1−β1タンパク質における232〜239位の領域を認識している可能性も考えられる。
【0108】
なお、
図3に示す通り、8a2については、ag8a(ヒトNRG1−αタンパク質の1〜243位)及びag8b(ヒトNRG1−β1タンパク質の1〜248位)に反応し、ag10a(ヒトNRG1−αタンパク質の173〜243位)及びag10b(ヒトNRG1−β1タンパク質の173〜248位)に反応しないことから、EGFドメインよりN末端側の共通領域を認識することが明らかになった。
【0109】
(実施例4)
<EGFファミリーの他の因子に対する反応性>
NRG1タンパク質はEGFファミリーに属するタンパク質であるが、EGFドメイン以外の領域では、EGFファミリーの他のタンパク質とNRG1タンパク質とは殆ど類似していない。また、EGFドメインに関しては、EGFドメインの第1から第6のシステインの間で、NRG1タンパク質は、HB−EGF(ヘパリン結合EGF様成長因子)との相同性は45%であり、AREG(アンフィレグリン)との相同性は35%であり、TGF−α(トランスフォーミング成長因子α)との相同性は32%であり、EGFとの相同性は27%である(Holmesら、Science、1992年、256巻、1205〜1210ページ 参照)。
【0110】
このように、EGFドメインにおけるNRG1タンパク質との相同性はいずれも低いものであるが、EGFドメイン周辺を認識する8a4、10bM3及び10b2M3について、他のEGFファミリーの因子への反応性を、前記同様ELISAによって解析した。すなわち、EGF(R&D社製:236−EG−200)、HB−EGF(R&D社製:259−HE−050/CF)、TGF−alpha(R&D社製:239−A−100)、AREG(R&D製:262−AR−100/CF)、NRG1−a(R&D社製:296−HR−050/CF)又はNRG1−b(R&D社製:396−HB−050/CF)をそれぞれ96穴のELISAプレートに0.5ug/mL、50uL/ウェルで分注して固相化し、各抗体の10ug/mL及び1ug/mLでの反応を検出した。その結果、
図8に示す通り、8a4、10bM3及び10b2M3はいずれも他のEGFファミリーの因子には反応しなかった。
【0111】
(実施例5)
<取得抗体のNRG1切断阻害活性についての評価1>
取得した抗体について、ヒトNRG1−αタンパク質又はヒトNRG1−β1タンパク質が関与するシグナル伝達を特異的に抑制できるかどうかを評価した。すなわち、該シグナル伝達の発端となるこれらタンパク質の切断を特異的に取得した抗体が抑制できるかどうかを以下に示す方法にて評価した。
【0112】
前記HA−NRG1−a/st293T、HA−NRG1−b/st293T又はHA−NRG1−b2/st293Tを、96穴のマイクロプレートに1ウェルあたり20000細胞播種し、37℃で6時間培養した。細胞がプレート底面に接着したことを確認したのち、血清を含まないDMEM培地に交換して、さらに15時間培養した。
【0113】
次に、8a2、8a4、10bM3、10b2M3又はコントロール抗体(MBL社製:M075−3)を添加した培地に交換し、37℃で60分間インキュベートした。この際の抗体濃度は80、20、5、1及び0ug/mLの5段階で、1ウェルあたりの培地量は60uLである。続いて、600nMに調整したPMA添加培地を1ウェルあたり30uL添加し混合することによって、最終濃度200nMとなるようにPMAを添加した。37℃で30分間培養した後、ピペッティングによって細胞を回収した。なお、全てのサンプルは3ウェルずつ作製した。また、PMA(ホルボール−12−ミリステート−13−アセテート)はプロテインキナーゼC(PKC)を活性化することにより、NRG1にシェディングを誘導することが明らかになっている。
【0114】
一連の処理を行ったのちに、これらの細胞の表面に残存しているNRG1分子を、NRG1のN末端に付加されているHAタグをフローサイトメトリーで検出することによって解析した。一次抗体として2ug/mLに希釈したビオチン化抗HAタグ抗体(MBL社製:M132−3)、二次抗体として1/100希釈したPE標識ストレプトアビジン(インビトロジェン社製:S866)を使用し、常法に従って行った。得られた結果を
図9〜11に示す。縦軸はフローサイトメトリーでの平均蛍光強度を表す。また、各サンプルの値は、3ウェルずつ測定した結果の平均である。
【0115】
図9〜11に示す通り、HA−NRG1−a/st293Tに対しては8a4が、HA−NRG1−b/st293Tに対しては10bM3及び10b2M3が、濃度依存的に切断を阻害することが示された。すなわち、各々のアイソフォームに特異的な領域(ヒトNRG1−αタンパク質における221〜234位の領域又はヒトNRG1−β1タンパク質における213〜239位(又は232〜239位)の領域)を認識する8a4、10bM3及び10b2M3が切断阻害活性を有することが明らかになった。
【0116】
<取得抗体のNRG1切断阻害活性についての評価2>
実施例1にて取得した抗NRG1抗体(8a2、8a5、8a17、8a18、8a7、8a6、13a3、8a4及び10bM3)を用い、これら抗体のエピトープと、NRG1切断阻害活性との相関について解析した。
【0117】
8a2、8a5、8a17、8a18及び8a7は、NRG1−α及びNRG1−β1に結合する抗体である。8a2、8a5、8a17及び8a18のエピトープはいずれも、EGFドメインよりN末側の領域である。8a7のエピトープは、EGFドメインにおけるNRG1−αとNRG1−β1との共通領域である。
【0118】
8a6、13a3及び8a4は、NRG1−αに特異的に結合する抗体である。8a6及び13a3のエピトープはいずれも、EGFドメインのC末側の領域(NRG1−αとNRG1−β1とにおいて相同性の低い領域)である。8a4のエピトープは、前述の通り、ヒトNRG1−αタンパク質における221〜234位の領域である。
【0119】
10bM3は、前述の通り、NRG1−β1に特異的に結合する抗体であり、そのエピトープは、ヒトNRG1−β1タンパク質における213〜239位(又は232〜239位)の領域である。
【0120】
なお、これら抗NRG1抗体は、実施例2及び3に記載の方法にて同定した。また、これら抗NRG1抗体のNRG1切断阻害活性の評価は、前述の方法と同様の方法を用いて行った。すなわち、前記HA−NRG1−a/st293T又はHA−NRG1−b/st293Tを、48穴のマイクロプレートに1ウェルあたり200000細胞播種し、37℃で6時間培養した。細胞がプレート底面に接着したことを確認したのち、血清を含まないDMEM培地に交換して、さらに15時間培養した。
【0121】
次に、前記抗NRG1抗体又はコントロール抗体(MBL:M075−3)を添加した培地に交換し、37℃で120分間インキュベートした。この際の抗体濃度は100及び10ug/mLの2段階で、1ウェルあたりの培地量は250uLである。続いて、200nMに調整したPMA添加培地を1ウェルあたり250uL添加し混合することによって、最終濃度100nMとなるようにPMAを添加した。37℃で30分間培養した後、ピペッティングによって細胞を回収した。
【0122】
一連の処理を行ったのちに、これらの細胞の表面に残存しているNRG1分子を、NRG1のN末端に付加されているHAタグをフローサイトメトリーで検出することによって解析した。一次抗体として2ug/mLに希釈したビオチン化抗HAタグ抗体(MBL社製:M132−3)、二次抗体として1/100希釈したPE標識ストレプトアビジン(インビトロジェン社製:S866)を使用し、常法に従って行った。得られた結果を
図12及び13に示す。縦軸はフローサイトメトリーでの平均蛍光強度を表す。
【0123】
図12及び13に示す通り、前述の結果同様に、ヒトNRG1−αタンパク質に対しては8a4が、ヒトNRG1−β1に対しては10bM3が、濃度依存的に切断を阻害することが示された。一方、ヒトNRG1−αタンパク質における221〜234位の領域及びヒトNRG1−β1タンパク質における213〜239位の領域以外の領域を認識する抗体(8a2、8a5、8a17、8a18、8a7、8a6及び13a3)については、いずれもNRG1タンパク質に対する切断阻害活性が認められなかった。特に、ヒトNRG1−αタンパク質における221〜234位の領域にかなり近接している領域をエピトープとする8a6及び13a3においてでさえ、かかる活性を確認することができなかった。従って、ヒトNRG1−αタンパク質における221〜234位の領域及びヒトNRG1−β1タンパク質における213〜239位の領域は、抗体がNRG1タンパク質に対する切断を阻害する上で重要な認識部位であることが確認された。
【0124】
(実施例6)
<取得抗体のNRG1中和活性についての評価>
取得した抗体について、ヒトNRG1−αタンパク質又はヒトNRG1−β1タンパク質が関与するシグナル伝達を特異的に抑制できるかどうかを評価した。すなわち、これらタンパク質の刺激に特異的に応答して生じる、癌細胞のErbB3タンパク質のリン酸化を、取得した抗体が抑制できるかどうかを以下に示す方法にて評価した。
【0125】
ヒト乳がんの株化培養細胞であるMCF7(ATCC社製:HTB−22)を用いて、NRG1で刺激した際に誘起されるErbB3のリン酸化を、取得した抗NRG1抗体が阻害できるか、すなわち抗NRG1抗体にNRG1を中和する活性があるかどうかをウエスタンブロット法によって解析した。DMEM−10%FBS(Penicillin−Streptomycin含有)で培養したMCF7を、6穴プレートに1ウェルあたり250000細胞播種し、37℃で6時間培養した。細胞がプレート底面に接着したことを確認したのち、血清を含まないDMEM培地に交換して、さらに24時間培養した。
【0126】
そして、ここに、NRG1−a及びNRG1−bのリコンビナントタンパク質(R&D社製:296−HR/CF及び396−HB/CF)と抗NRG1抗体を37℃で60分間インキュベートしたものを1ウェルあたり500uL添加した。この際、リコンビナントタンパク質の濃度は100ng/mL(NRG1−a)又は5ng/mL(NRG1−b)であり、抗体濃度は50、10、5及び0ug/mLの4段階である。
【0127】
これを37℃で30分間培養した後、1ウェルあたり200uLのSDSサンプルバッファー(62.5mM Tris−HCL[pH=6.8]、5%Glycerol、2%SDS、0.003%BPB、5%2−mercaptoethanol)で細胞を回収した。
【0128】
回収した細胞サンプルを加熱処理したのち15uLずつをSDS−PAGEに供し、1/1000希釈した抗リン酸化ErbB3ウサギ抗体(CellSignaling社製:#4791S)又は抗ErbBウサギ抗体(CellSignaling社製:#4754)と、1/5000希釈したHRP標識抗ウサギIgG抗体(MBL社製:458)とを用いてウエスタンブロットを施行した。得られた結果を
図14及び15に示す。
【0129】
図14及び15に示す通り、8a4はNRG1−aによるErbB3のリン酸化を、10bM3及び10b2M3はNRG1−bによるErbB3のリン酸化をそれぞれ濃度依存的に阻害した。すなわち、8a4、10bM3及び10b2M3がNRG1中和活性を有することが明らかになった。
【0130】
(実施例7)
<8a4、10bM3及び10b2M3抗体の重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子の単離、並びにCDRの同定>
本発明の抗体(8a4、10bM3及び10b2M3)について、以下に示す方法にて重鎖及び軽鎖の可変領域遺伝子を単離し、さらにこれら可変領域中のCDRを同定した。
【0131】
ハイブリドーマを培養し、一般的な方法によりtotal RNAを抽出した。次に、GeneRacerキット(Invitrogen社製:L1502−01)を用いた5’−RACE法により、cDNAを取得した。このcDNAを鋳型とし、GeneRacer 5’Primer(5’−CGACTGGAGCACGAGGACACTGA−3’(配列番号:54))とCH1(mouse IgG1 constant領域1)3’Primer(5’−AATTTTCTTGTCCACCTGG−3’(配列番号:55))とを用いてPlatinum Taq DNA Polymerase High Fidelity(Invitrogen社製:11304−029)でPCR([94℃ 30秒、57℃ 30秒、72℃ 50秒]を35サイクル)を実施し、抗体重鎖可変領域の遺伝子(cDNA)を増幅した。一方、抗体軽鎖についても同様にGeneRacer 5’PrimerとCk(κconstant領域)3’Primer(5’−CTAACACTCATTCCTGTTGAAGCTCT−3’(配列番号:56))とを用いてPCRを実施して、遺伝子(cDNA)を増幅した。増幅した遺伝子断片をそれぞれpT7Blue T−Vector(Novagen社製:69820)にクローニングし、オートシークエンサー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて配列を解析した。そして。得られた塩基配列がコードするアミノ酸、及び各CDRの配列を決定した。その結果は以下の通りである。
【0132】
<8a4重鎖可変領域>
EVQLQQSGADLVRPGASVKLSCTASGFNIKDDYIHWVKQRPEQGLEWIGWIDPENGDTEYASQFQGKATITADTSSNTAYLQLRSLTSEDTAVYYCTTSDHRAWFAFWGLGTLVTVSS
(配列番号:10)
<8a4重鎖可変領域のCDR1>
DDYIH (配列番号:7)
<8a4重鎖可変領域のCDR2>
WIDPENGDTEYASQFQG (配列番号:8)
<8a4重鎖可変領域のCDR3>
SDHRAWFAF (配列番号:9)
<8a4軽鎖可変領域>
DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQTIVHRNGNTYLEWYLQKPGQSPKLLIYRVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYYCFQGSHVPLTFGAGTKL
(配列番号:6)
<8a4軽鎖可変領域のCDR1>
RSSQTIVHRNGNTYLE (配列番号:3)
<8a4軽鎖可変領域のCDR2>
RVSNRFS (配列番号:4)
<8a4軽鎖可変領域のCDR3>
FQGSHVPLT (配列番号:5)
<10bM3重鎖可変領域>
EVQLVESGGGLVKPGGSRKLSCAASGFTFSDYGIHWVRQAPEKGLEWLAYISSGSSTIYYADTVKGRFTISRDNAKNTLFLQMTSLRSEDTAMYYCARGSNYVGYYAMDYWGQGTSVTVSS
(配列番号:18)
<10bM3重鎖可変領域のCDR1>
DYGIH (配列番号:15)
<10bM3重鎖可変領域のCDR2>
YISSGSSTIYYADTVKG (配列番号:16)
<10bM3重鎖可変領域のCDR3>
GSNYVGYYAMDY (配列番号:17)
<10bM3軽鎖可変領域>
DIVMTQSPSSLAVTAGEKVTMRCKSSQSLLWSVNQKNYLSWYQQKEGQSPKLLIYGASIRESWVPDRFTGSGSGTDFTLTISNVHAEDLAVYYCQHNHGRFLPLTFGGGTKL
(配列番号:14)
<10bM3軽鎖可変領域のCDR1>
KSSQSLLWSVNQKNYLS (配列番号:11)
<10bM3軽鎖可変領域のCDR2>
GASIRES (配列番号:12)
<10bM3軽鎖可変領域のCDR3>
QHNHGRFLPLT (配列番号:13)
<10b2M3重鎖可変領域>
QVQLQQSGPELVKPGASVKISCKASGYAFSSSWMNWVKQRPGKGLEWIGRIYPGDGDIYYNGKFKGKATLTADKSSSTAYMQLNSLTSEDSAVYFCARTFNYPFFAYWGQGTLVTVSS
(配列番号:26)
<10b2M3重鎖可変領域のCDR1>
SSWMN (配列番号:23)
<10b2M3重鎖可変領域のCDR2>
RIYPGDGDIYYNGKFKG (配列番号:24)
<10b2M3重鎖可変領域のCDR3>
TFNYPFFAY (配列番号:25)
<10b2M3軽鎖可変領域>
DILMTQSPSSLTVSTGEKVTMSCKSSQSLLASANQNNYLAWHQQKPGRSPKMLIIWASTRVSGVPDRFIGSGSGTDFTLTINSVQAEDLAVYYCQQSYSAPTTFGAGTKL
(配列番号:22)
<10b2M3軽鎖可変領域のCDR1>
KSSQSLLASANQNNYLA (配列番号:19)
<10b2M3軽鎖可変領域のCDR2>
WASTRVS (配列番号:20)
<10b2M3軽鎖可変領域のCDR3>
QQSYSAPTT (配列番号:21)
(実施例8)
<8a4キメラ抗体、10bM3キメラ抗体及び10b2M3キメラ抗体の作製>
本発明のマウスモノクローナル抗体(8a4、10bM3及び10b2M3)の定常領域をヒトIgG1由来のものに置換したキメラ抗体を、以下に示す方法にて作製した。
【0133】
実施例7において決定した遺伝子配列をもとに以下のPCR増幅用プライマーを設計し、PCRによって抗体可変領域を増幅した。この際、分泌シグナル配列はロンザ社推奨の配列に変換し、また増幅断片の末端に制限酵素認識配列を付加した(重鎖可変領域はHindIII認識配列及びXhoI認識配列、軽鎖可変領域はHindIII及びBsiWI認識配列を付加)。
【0134】
<8a4重鎖>
8a4_VH_F_signal_HindIII:
5’−ATATA
AAGCTTACCATGGAATGGAGCTGGGTGTTCCTGTTCTTTCTGTCCGTGACCACAGGCGTGCATTCTGAGGTTCAGCTGCAGCAGTCTGGG−3’
(配列番号:57、下線部はHindIII認識配列)
8a4_VH_R_XhoI:
5’−ATATA
CTCGAGACAGTGACCAGAGTCCCTAGGCC−3’
(配列番号:58、下線部はXhoI認識配列)
<8a4軽鎖>
8a4_VK_F_signal_HindIII:
5’−ATATA
AAGCTTACCATGTCTGTGCCTACCCAGGTGCTGGGACTGCTGCTGCTGTGGCTGACAGACGCCCGCTGTGATGTTTTGATGACCCAAACTCCACTCTCC−3’
(配列番号:59、下線部はHindIII認識配列)
8a4/10b2M3_VK_R_BsiWI:
5’−ATATA
CGTACGTTTTATTTCCAGCTTGGTCCCAGCACCGAAC−3’(配列番号:60、下線部はBsiWI認識配列)
<10bM3重鎖>
10bM3_VH_F_signal_HindIII:
5’−ATATA
AAGCTTACCATGGAATGGAGCTGGGTGTTCCTGTTCTTTCTGTCCGTGACCACAGGCGTGCATTCTGAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGG−3’
(配列番号:61、下線部はHindIII認識配列)
10bM3_VH_R_XhoI:
5’−ATATA
CTCGAGACGGTGACTGAGGTTCCTTGACC−3’
(配列番号:62、下線部はXhoI認識配列)
<10bM3軽鎖>
10bM3_VK_F_signal_HindIII:
5’−ATATA
AAGCTTACCATGTCTGTGCCTACCCAGGTGCTGGGACTGCTGCTGCTGTGGCTGACAGACGCCCGCTGTGACATTGTGATGACCCAGTCTCC−3’
(配列番号:63、下線部はHindIII認識配列)
10bM3_VK_R_BsiWI:
5’−ATATA
CGTACGTTTTAGCTCCAACTTGGTCCCACCACC−3’
(配列番号:64、下線部はBsiWI認識配列)
<10b2M3重鎖>
10b2M3_VH_F_signal_HindIII:
5’−ATATA
AAGCTTACCATGGAATGGAGCTGGGTGTTCCTGTTCTTTCTGTCCGTGACCACAGGCGTGCATTCTCAGGTTCAGCTGCAGCAGTCTGG−3’
(配列番号:65、下線部はHindIII認識配列)
10b2M3_VH_XhoI:
5’−TAGCG
CTCGAGACAGTGACCAGAGT−3’
(配列番号:66、下線部はXhoI認識配列)
<10b2M3軽鎖>
10b2M3_VK_F_signal_HindIII:
5’−ATATA
AAGCTTACCATGTCTGTGCCTACCCAGGTGCTGGGACTGCTGCTGCTGTGGCTGACAGACGCCCGCTGTGACATTTTGATGACTCAGTCTCC−3’
(配列番号:67、下線部はHindIII認識配列)
8a4/10b2M3_VK_R_BsiWI:
5’−ATATA
CGTACGTTTTATTTCCAGCTTGGTCCCAGCACCGAAC−3’
(配列番号:60、下線部はBsiWI認識配列)。
【0135】
得られたPCR産物を上記の制限酵素で切断し、常法によって、ヒトIgG1の定常領域を組み込んだロンザ社のヒトIgG1抗体産生用ベクターに挿入した。これらのベクターを使用して、ロンザ社推奨プロトコルに基づいてキメラ抗体産生細胞株を樹立し、それらの培養上清からProteinAを用いてキメラ抗体(8a4キメラ抗体、10bM3キメラ抗体及び10b2M3キメラ抗体)を精製した。このようにして得られたキメラ抗体に関し、8a4キメラ抗体をch−8a4、10bM3キメラ抗体をch−10bM3、10b2M3キメラ抗体をch−10b2M3とも以下、称する。
【0136】
(実施例9)
<8a4キメラ抗体、10bM3キメラ抗体及び10b2M3キメラ抗体の反応性>
得られたキメラ抗体のNRG1に対する反応性を、フローサイトメトリー及び酵素免疫測定法(ELISA)によって確認した。フローサイトメトリーは前述と同様の方法で行った。なお、フローサイトメトリーにおいて、一次抗体として各キメラ抗体又はコントロール抗体を5ug/mLに希釈したものを、二次抗体として1/100希釈したPE標識抗ヒトIgG抗体(ベックマンコールター社製:IM0550)を用いた。得られた結果を
図16に示す。
【0137】
図16に示した結果から明らかなように、ch−8a4はNRG1−aに、ch−10bM3及びch−10b2M3はNRG1−bに反応し、活性を維持していることが示された。また、ch−8a4の反応性は前に前記キメラ化前(8a4)のものより向上しているように見られたため、さらに、抗体低濃度条件での平均蛍光強度についてもデータを取得した。すなわち、8a4、ch−8a4及びコントロール抗体をそれぞれ5ug/mLを最大濃度としてPBSで段階希釈し、各濃度でのフローサイトメトリーの平均蛍光強度を解析した。その結果、
図17に示す通り、8a4はキメラ化することによって予想外に反応性が向上していることが明らかになった。
【0138】
また、酵素免疫測定法(ELISA)を、一次抗体として各キメラ抗体を5ug/mLに希釈したものを、二次抗体として1/5000希釈したHRP標識抗ヒトIgG抗体(MBL社製:206)を用い、前述と同様の方法で行った。その結果、
図18〜20に示す通り、各キメラ抗体はもとのマウス抗体と同等の反応特異性を有していることが明らかになった。
【0139】
(実施例10)
<8a4キメラ抗体、10bM3キメラ抗体及び10b2M3キメラ抗体のNRG1切断阻害活性>
実施例8において作製したキメラ抗体の切断阻害活性も、前述と同様の方法で解析した。その結果、
図21及び22に示す通り、細胞膜上NRG1の切断を誘導した際のフローサイトメトリーでの蛍光強度は、前述のマウス抗体の切断阻害活性を解析した場合と同様の挙動を見せた。従って、各キメラ抗体はもとのマウス抗体と同様の切断阻害活性を有していることが明らかになった。
【0140】
(実施例11)
<ゼノグラフトマウス(初期癌モデル)を用いた抗腫瘍活性評価>
取得した抗NRG1抗体の抗腫瘍活性を判定するため、ゼノグラフトマウスを用いて評価を行った。ヒト肺癌細胞株 ACC−LC−176(名古屋大学所属の高橋隆らが樹立したものを、同大学から受領)をRPMI−10%FBS(Penicillin−Streptomycin含有)で培養し、collagenase Type I(GIBCO社製:17100−017)を2mg/mLとなるようにCell Dissociation Buffer enzyme free PBS−based(Invitrogen社製:13151−014)に添加した溶液で、剥離した。洗浄後、RPMI1640培地で1x10
7細胞数/mLとなるように縣濁した。Matrigel(BD社製:354230)を等量加えて縣濁したのち、6週齢メスのSCIDマウス(日本クレア社製:C.B17/Icr−scid Jcl)の右腹側部に200uLずつ皮下移植した。同日から、1mg/mLとなるようにPBSで希釈した抗体溶液又はPBSを300uLずつ腫瘍局所投与した。用いた抗体は、8a2、8a4、8a4キメラ抗体、10b2M3、10b2M3キメラ抗体の5種類であり、それぞれマウス6匹ずつに投与した。投与は移植当日と6日目、10日目、14日目、21日目および28日目の計6回行った。腫瘍が観察された時点からノギスで腫瘍径を測定し、腫瘍体積を以下の式により算出した。
腫瘍体積(mm
3)=長径×短径
2×0.5
得られた結果を
図23〜25に示す。
【0141】
また、前記抗体投与後のゼノグラフトマウスの生存率についても分析した。得られた結果を
図26に示す。
【0142】
図23に示した結果から明らかなように、8a2抗体については、抗腫瘍活性においてもコントロール抗体との間で有意差は見られなかった。一方、
図24及び25に示した結果から明らかなように、8a4抗体投与群、10b2M3抗体投与群、ch−8a4抗体投与群及びch−10b2M3抗体投与群の腫瘍体積は、コントロール群と比較して、移植後38日でそれぞれ7.7%、0%、0%及び16.2%であり、49日目でそれぞれ8.3%、0%、0%及び15.4%であり、最後に確認した80日目でも、19.2%、0%、0%及び26.7%であった。従って、本発明の抗NRG1抗体は、腫瘍増大を有意に阻害できることが明らかになった(P<0.05)。
【0143】
また、生存率に関しては、
図26に示した結果から明らかなように、コントロール群では、約100日後に全個体死亡したのに対し、8a4抗体投与群、10b2M3抗体投与群、ch−8a4抗体投与群及びch−10b2M3抗体投与群では、約100日を経過しても、全個体が生存しており、本発明の抗体による延命効果が示された。特に、ch−10b2M3抗体投与群、10b2M3抗体投与群及び8a4抗体投与群では300日経過後もなお、50%以上の個体が生存していた。従って、8a4、10b2M3、ch−8a4及びch−10b2M3は、抗腫瘍効果を有していることが明らかになった。