特許第6357145号(P6357145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6357145ジルコニア焼結体、並びにジルコニアの組成物及び仮焼体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357145
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体、並びにジルコニアの組成物及び仮焼体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20180702BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C04B35/486
   A61C13/083
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-505468(P2015-505468)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2014056205
(87)【国際公開番号】WO2014142080
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2016年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-48461(P2013-48461)
(32)【優先日】2013年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳久
(72)【発明者】
【氏名】松本 篤志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 承央
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−041239(JP,A)
【文献】 特開2011−073907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48−35/493
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア焼結体の断面写真において、各ジルコニア粒子の断面積を算出し、
前記断面積を基に、前記断面写真において各ジルコニア粒子の断面形状が円形であると仮定した場合の換算粒径を算出し、
前記換算粒径を基に、各ジルコニア粒子を0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けし、
各クラスにおいてジルコニア粒子の断面積の総計を算出し、
断面積を算出した全ジルコニア粒子の総断面積に対する各クラスの断面積割合を算出した場合、
前記換算粒径が0.4μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が4%以上35%以下であり、
前記換算粒径が0.4μm以上0.76μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が24%以上57%以下であり、
前記換算粒径が0.76μm以上のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が16%以上62%以下であり、
JISK7361に準拠して測定した光の透過率が27%以上かつ35%以下であることを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項2】
JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が1000MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
JISR1607に準拠して測定した破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
180℃、1MPaで5時間水熱処理試験を施した後のジルコニア焼結体のX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11−1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
Lab色空間におけるL値が55〜75であり、a値が−5〜10であり、b値が−5〜30であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項6】
1400℃〜1600℃で焼結することにより請求項1〜のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物。
【請求項7】
1400℃〜1600℃で焼結することにより請求項1〜のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための仮焼体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願についての記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2013−048461号(2013年 3月11日出願)に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は、ジルコニア焼結体に関する。また、本発明は、ジルコニア焼結体を製造するための組成物及び仮焼体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)(以下、「ジルコニア」という。)には多形が存在し、ジルコニアは多形間で相転移を起こす。例えば、正方晶系のジルコニアは、単斜晶系へ相転移する。この相転移はジルコニアの結晶構造を破壊する。このため、相転移が抑制されていない正方晶系ジルコニアの焼結体は、製品として利用できるだけの十分な強度を有していない。また、相転移が生じると体積も変化することになる。このため、相転移が抑制されていない正方晶系ジルコニアの焼結体では高い寸法精度を有する製品を得ることができない。さらに、相転移が生じるとジルコニア焼結体の耐久性も低下することになる。
【0003】
そこで、酸化イットリウム(Y)(以下、「イットリア」という。)等の酸化物が、相転移の発生を抑制するための安定化剤として使用されている。安定化剤を添加して部分的に安定化させた正方晶系ジルコニアは、部分安定化ジルコニア(PSZ;Partially Stabilized Zirconia)と呼ばれ、種々の分野で利用されている。例えば、部分安定化ジルコニアの焼結体(以下、「ジルコニア焼結体」という。)は、歯科用補綴材、工具等に適用されている。
【0004】
特許文献1〜3には特に歯科用途で使用されるジルコニア焼結体が開示されている。特許文献1〜3に記載のジルコニア焼結体は、安定化剤として2〜4mol%のイットリアを含み、相対密度が99.8%以上、かつ厚さ1.0mmでの全光線透過率が35%以上である。
【0005】
特許文献4には、安定化剤としてイットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの1種以上を含み、さらにジルコニウムイオンのイオン半径よりも小さいイオン半径を有する陽イオン及び/又は価数が4価以外の陽イオンの1種以上を含み、なおかつ140℃の熱水中に72時間浸漬させた後の単斜晶相率が1%以下であるジルコニア焼結体が開示されている。
【0006】
特許文献5には、安定化剤を含有する部分安定化ジルコニアをマトリックス相として有し、ジルコニア焼結体の試料表面において、10μm×10μmの領域を256マス×256マスの格子状に区分した各マスにおける安定化剤の濃度を質量%で表記した場合に、安定化剤の表面濃度の標準偏差が0.8以上であるジルコニア焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−269812号公報
【特許文献2】特開2010−150063号公報
【特許文献3】特開2010−150064号公報
【特許文献4】特開2007−332026号公報
【特許文献5】特開2011−178610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献の全開示内容は、本書に引用をもって繰り込み記載されているものとする。以下の分析は、本発明の観点から与えられる。
【0009】
ジルコニア焼結体を産業製品として利用するためには、相転移の進行が十分に抑制されている必要がある。しかしながら、特許文献1〜4に記載のジルコニア焼結体は、相転移の抑制が十分ではない。そこで、相転移の進行を抑制するために、安定化剤の含有率を高めることが考えられる。しかしながら、安定化剤の含有率を高めると、曲げ強度及び破壊靭性が低下してしまう。
【0010】
これに対し、安定化剤の含有率を低下させると、曲げ強度及び破壊靭性を高めることはできるが、相転移の進行の抑制が不十分となる。また、一般的に曲げ強度と破壊靭性とはトレードオフの関係にあるので、曲げ強度と破壊靭性の両方を高めることは困難である。
【0011】
産業製品には、審美性の観点から、目的に応じた適度の透明度が要求されることがある。そのような産業製品としては、例えば、歯科用材料が挙げられる。ジルコニア焼結体の透明度が低すぎる場合、歯科用材料に使用することはできない。一方、ジルコニア焼結体の透明度が高すぎる場合、透明度を調節するために、透明度を低下させる添加剤をジルコニア焼結体に含有させる。しかしながら、この添加剤は、ジルコニア焼結体の相転移を進行させる作用を有する。また、この添加剤は、ジルコニア焼結体の強度を低下させる作用も有する。特許文献1〜5に記載のジルコニア焼結体は、歯科材料に適した透明度を有していない。
【0012】
そこで、相転移が抑制され、高い曲げ強度及び破壊靭性を有し、かつ適度な透明度を有するジルコニア焼結体が所望されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1視点によれば、ジルコニア焼結体の断面写真において、各ジルコニア粒子の断面積を算出し、断面積を基に、断面写真において各ジルコニア粒子の断面形状が円形であると仮定した場合の換算粒径を算出し、換算粒径を基に、各ジルコニア粒子を0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けし、各クラスにおいてジルコニア粒子の断面積の総計を算出し、断面積を算出した全ジルコニア粒子の総断面積に対する各クラスの断面積割合を算出した場合、換算粒径が0.4μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が4%以上35%以下であり、換算粒径が0.4μm以上0.76μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が24%以上57%以下であり、換算粒径が0.76μm以上のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が16%以上62%以下であるジルコニア焼結体が提供される。
前記第1視点の変形として、ジルコニア焼結体の断面写真において、各ジルコニア粒子の断面積を算出し、前記断面積を基に、前記断面写真において各ジルコニア粒子の断面形状が円形であると仮定した場合の換算粒径を算出し、前記換算粒径を基に、各ジルコニア粒子を0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けし、各クラスにおいてジルコニア粒子の断面積の総計を算出し、断面積を算出した全ジルコニア粒子の総断面積に対する各クラスの断面積割合を算出した場合、前記換算粒径が0.4μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が4%以上35%以下であり、前記換算粒径が0.4μm以上0.76μm未満のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が24%以上57%以下であり、前記換算粒径が0.76μm以上のクラスにおけるジルコニア粒子の断面積割合が16%以上62%以下であり、JISK7361に準拠して測定した光の透過率が27%以上かつ35%以下である。
【0014】
本発明の第2視点によれば、JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が1000MPa以上であり、JISR1607に準拠して測定した破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上であり、180℃、1MPaで5時間水熱処理試験を施した後のジルコニア焼結体のX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11−1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下であり、JISK7361に準拠して測定した光の透過率が27%以上であるジルコニア焼結体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の効果のうち少なくとも1つを有する。
【0016】
本発明のジルコニア焼結体は、相転移の進行が十分に抑制され、曲げ強度及び破壊靭性が高く、かつ適度な透明度を有する。
【0017】
本発明の組成物及び仮焼体によれば、上述のようなジルコニア焼結体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1におけるジルコニア焼結体の断面のSEM写真。
図2】実施例1においてピックアップしたジルコニア結晶粒子。
図3】比較例1におけるジルコニア焼結体の断面のSEM写真。
図4】比較例1においてピックアップしたジルコニア結晶粒子。
図5】比較例2におけるジルコニア焼結体の断面のSEM写真。
図6】比較例2においてピックアップしたジルコニア結晶粒子。
図7】比較例3におけるジルコニア焼結体の断面のSEM写真。
図8】比較例3においてピックアップしたジルコニア結晶粒子。
図9】比較例4におけるジルコニア焼結体の断面のSEM写真。
図10】比較例4においてピックアップしたジルコニア結晶粒子。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が1000MPa以上である。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISR1607に準拠して測定した破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上である。
【0022】
上記第1視点の好ましい形態によれば、180℃、1MPaで5時間水熱処理試験を施した後のジルコニア焼結体のX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11−1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下である。
【0023】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISK7361に準拠して測定した光の透過率が27%以上である。
【0024】
上記第1視点の好ましい形態によれば、Lab色空間におけるL値が55〜75である。a値が−5〜10である。b値が−5〜30である。
【0025】
第3視点によれば、1400℃〜1600℃で焼結することにより第1視点及び第2視点の少なくともいずれかのジルコニア焼結体となる、ジルコニア焼結体を製造するための組成物が提供される。
【0026】
第4視点によれば、1400℃〜1600℃で焼結することにより第1視点及び第2視点の少なくともいずれかのジルコニア焼結体となる、ジルコニア焼結体を製造するための仮焼体が提供される。
【0027】
本発明のジルコニア焼結体について説明する。本発明のジルコニア焼結体は、部分安定化ジルコニア結晶粒子が主として焼結された焼結体であり、部分安定化ジルコニアをマトリックス相として有する。本発明のジルコニア焼結体において、ジルコニアの主たる結晶相は正方晶系である。(後述の水熱処理試験未処理の段階において)ジルコニア焼結体は単斜晶系を実質的に含有しないと好ましい。
【0028】
本発明のジルコニア焼結体には、成形したジルコニア粒子を常圧下ないし非加圧下において焼結させた焼結体のみならず、HIP(Hot Isostatic Pressing;熱間静水等方圧プレス)処理等の高温加圧処理によって緻密化させた焼結体も含まれる。
【0029】
本発明のジルコニア焼結体は、ジルコニア及びその安定化剤を含有する。安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア、酸化セリウム(CeO)等の酸化物が挙げられる。安定化剤は、正方晶系ジルコニア粒子が部分安定化できるような量を添加すると好ましい。例えば、安定化剤としてイットリアを使用する場合、イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対して、2.5mol%〜5mol%であると好ましく、3mol%〜4.5mol%であるとより好ましく、3.5mol%〜4.5mol%であるとより好ましい。
【0030】
本発明のジルコニア焼結体は、酸化アルミニウム(Al;アルミナ)を含有すると好ましい。酸化アルミニウムはαアルミナであると好ましい。酸化アルミニウムを含有させると強度を高めることができる。ジルコニア焼結体における酸化アルミニウムの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、0質量%(無含有)〜0.3質量%であると好ましい。酸化アルミニウムを0.3質量%より多く含有させると透明度が低下してしまう。
【0031】
本発明のジルコニア焼結体は、酸化チタン(TiO;チタニア)を含有すると好ましい。酸化チタンを含有させると粒成長を促すことができる。ジルコニア焼結体における酸化チタンの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、0質量%(無含有)〜0.6質量%であると好ましい。酸化チタンを0.6質量%より多く含有させると強度が低下してしまう。
【0032】
本発明のジルコニア焼結体において、酸化ケイ素(SiO;シリカ)の含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、0.1質量%以下であると好ましく、ジルコニア焼結体は、酸化ケイ素を実質的に含有しないと好ましい。酸化ケイ素が含有すると、ジルコニア焼結体の透明度が低下してしまうからである。ここに「実質的に含有しない」とは、本発明の性質、特性に影響を特に与えない範囲内という意義であり、好ましくは不純物レベルを超えて含有しないという趣旨であり、必ずしも検出限界未満であるということではない。
【0033】
本発明のジルコニア焼結体は、着色用の顔料をさらに含有してもよい。顔料としては、例えば酸化物が挙げられる。なお、上記含有率は、顔料の存在を加味していない数値である。
【0034】
本発明のジルコニア焼結体の光透過率は、両面を鏡面加工した厚さ0.5mmの試料を作製してJISK7361に準拠して測定した場合、27%以上であると好ましく、28%以上であるとより好ましく、29%以上であるとさらに好ましい。また、ジルコニア焼結体を歯科用材料として使用する場合には、ジルコニア焼結体の光透過率は、35%以下であると好ましい。
【0035】
ジルコニア焼結体の焼結後、劣化加速試験である水熱処理試験(後述)未処理状態のジルコニア焼結体のCuKα線で測定したX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピーク(以下「第1ピーク」という)の高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11−1]ピークが生ずる位置付近に存在するピーク(以下「第2ピーク」という)の高さの比(すなわち、「第2ピークの高さ/第1ピークの高さ」;以下「単斜晶のピーク比」という)は、0.1以下であると好ましく、0.05以下であるとより好ましい。
【0036】
本発明のジルコニア焼結体は、水熱処理試験を施しても正方晶から単斜晶への相転移の進行が抑制されている。例えば、180℃、1MPaで5時間の水熱処理を本発明のジルコニア焼結体に施した場合、水熱処理後のジルコニア焼結体の表面におけるCuKα線で測定したX線回折パターンにおいて、単斜晶のピーク比は、好ましくは1以下であり、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.7以下であり、さらに好ましくは0.6以下である。
【0037】
本書において「水熱処理試験」とは、ISO13356に準拠した試験をいう。ただし、ISO13356に規定されている条件は、「134℃、0.2MPa、5時間」であるが、本発明においては、試験条件をより過酷にするため、その条件を「180℃、1MPa」とし、試験時間は目的に応じて適宜設定する。水熱処理試験は、「低温劣化加速試験」や「水熱劣化試験」とも呼ばれる。
【0038】
本発明のジルコニア焼結体におけるJISR1607に準拠して測定した破壊靭性は3.5MPa・m1/2以上であると好ましく、3.8MPa・m1/2以上であるとより好ましく、4MPa・m1/2以上であるとさらに好ましい。なお、これらは水熱処理試験未処理の状態の数値である。
【0039】
本発明のジルコニア焼結体におけるJISR1601に準拠して測定した曲げ強度は1000MPa以上であると好ましく、1100MPa以上であるとより好ましく、1200MPa以上であるとさらに好ましい。なお、これらは水熱処理試験未処理の状態の数値である。
【0040】
本発明のジルコニア焼結体は、光の透過率、水熱処理後の単斜晶のピーク比、曲げ強度及び破壊靭性のいずれについても上記数値を満たすと好ましい。例えば、本発明のジルコニア焼結体は、透過率が27%以上であり、水熱処理後の単斜晶のピーク比が1以下であり、破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上であり、曲げ強度が1000MPa以上であると好ましい。より好ましくは、本発明のジルコニア焼結体は、透過率が28%以上であり、水熱処理後の単斜晶のピーク比が0.6以下であり、破壊靭性が4MPa・m1/2以上であり、曲げ強度が1100MPa以上である。
【0041】
本発明のジルコニア焼結体のLab色空間について、ジルコニア焼結体を歯科用材料に適用する場合、L値は55〜75であると好ましい。a値は−5〜10であると好ましい。b値は−5〜30であると好ましい。
【0042】
ジルコニア焼結体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)で観察し、その写真上において、輪郭がすべて現れている(輪郭が途切れていない)ジルコニア粒子をすべてピックアップする。ピックアップした各粒子についてSEM写真上における断面積を算出する。そのSEM写真上においてジルコニア粒子が円形であると仮定した場合の粒径(直径)を各粒子の断面積を基に算出する(以下、算出した粒径を「換算粒径」という)。例えば、ある粒子のSEM上の断面積が0.5μmである場合、当該粒子が円形であると仮定した場合の当該粒子の換算粒径は0.8μmとなる。この換算粒径を基にして、SEM写真上においてピックアップした各粒子をクラス分けする。クラス毎に、粒子の断面積の総計を算出する。そして、各クラスの粒子断面積の総計について、SEM写真においてピックアップした粒子の総断面積に対する割合を算出する。換算粒径が0.4μm未満のクラスにおける粒子の断面積割合は、4%以上35%以下であると好ましく、7%以上20%以下であるとより好ましい。換算粒径が0.4μm以上0.76μm未満のクラスにおける粒子の断面積割合は、24%以上57%以下であると好ましく、32%以上52%以下であるとより好ましい。換算粒径が0.76μm以上のクラスにおける粒子の断面積割合は、16%以上62%以下であると好ましく、37%以上57%以下であるとより好ましい。なお、これらは水熱処理試験未処理の状態の数値である。
【0043】
次に、本発明のジルコニア焼結体を製造するための組成物及び仮焼体について説明する。組成物及び仮焼体は、上述の本発明のジルコニア焼結体の前駆体(中間製品)となるものである。仮焼体は、組成物を焼結に至らない温度で焼成したものである。
【0044】
組成物及び仮焼体は、(正方晶系)ジルコニア結晶粒子と、安定化剤と、酸化チタンと、を含有する。組成物は、酸化アルミニウムを含有してもよい。酸化アルミニウムはαアルミナであると好ましい。
【0045】
組成物及び仮焼体中におけるジルコニア結晶粒子の粒径分布には少なくとも2つのピークが存在する。粒径分布において、1つめのピークは0.05μm〜0.11μmに存在すると好ましく、0.06μm〜0.10μmに存在するとより好ましい(小粒径粉末)。2つめのピークは、0.1μm〜0.7μmに存在すると好ましく、0.2μm〜0.6μmに存在するとより好ましい(大粒径粉末)。大粒径粉末と小粒径粉末の混合比は2:1〜1:2であると好ましく、1.5:1〜1:1.5であるとより好ましい。
【0046】
組成物及び仮焼体中の安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア、酸化セリウム(CeO)等の酸化物が挙げられる。安定化剤は、正方晶系ジルコニア粒子が部分安定化できるような量を添加すると好ましい。例えば、安定化剤としてイットリアを使用する場合、イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対して、2.5mol%〜4.5mol%であると好ましく、3mol%〜4.5mol%であると好ましく、3.5mol%〜4.5mol%であるとより好ましい。
【0047】
組成物及び仮焼体における酸化アルミニウムの含有率は、ジルコニア結晶粒子及び安定化剤の合計質量に対して、0質量%(無含有)〜0.3質量%であると好ましい。ジルコニア焼結体の強度を高めるためである。0.3質量%より多いとジルコニア焼結体の透明度が低下してしまう。
【0048】
組成物及び仮焼体における酸化チタンの含有率は、ジルコニア結晶粒子及び安定化剤の合計質量に対して、0質量%(無含有)〜0.6質量%であると好ましい。ジルコニア結晶を粒成長させるためである。0.6質量%より多いとジルコニア焼結体の強度が低下してしまう。
【0049】
本発明の組成物及び仮焼体において、酸化ケイ素の含有率は、ジルコニア結晶粒子及び安定化剤の合計質量に対して、0.1質量%以下であると好ましく、組成物及び仮焼体は、酸化ケイ素(SiO;シリカ)を実質的に含有しないと好ましい。酸化ケイ素が含有すると、ジルコニア焼結体の透明度が低下してしまうからである。ここに「実質的に含有しない」とは、本発明の性質、特性に影響を特に与えない範囲内という意義であり、好ましくは不純物レベルを超えて含有しないという趣旨であり、必ずしも検出限界未満であるということではない。
【0050】
本発明の組成物には、粉体、粉体を溶媒に添加した流体、及び粉体を所定の形状に成形した成形体も含まれる。すなわち、組成物は、粉末状であってもよいし、ペースト状ないしウェット組成物でもよい(すなわち、溶媒中にあってもよいし、溶媒を含んでいてもよい)。また、組成物は、バインダ、顔料等の添加物を含有するものであってもよい。なお、上記含有率の算出において、溶媒やバインダ等の添加物の質量は考慮しない。
【0051】
本発明の組成物は、成形体である場合、いずれの成形方法によって成形されたものでもよく、例えばプレス成形、射出成形、光造形法によって成形されたものとすることができ、多段階的な成形を施したものでもよい。例えば、本発明の組成物をプレス成形した後に、さらにCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を施したものでもよい。
【0052】
本発明の仮焼体は、本発明の組成物を常圧下で800℃〜1200℃で焼成することによって得ることができる。
【0053】
本発明の仮焼体は、常圧下で1350℃〜1600℃で焼成することにより、本発明のジルコニア焼結体となるものである。
【0054】
次に、本発明の組成物、仮焼体及び焼結体の製造方法の一例について説明する。
【0055】
まず、ジルコニアを粉砕して、ジルコニア粉末を作製する。粉砕する前に、ジルコニアに安定化剤を添加してもよい。このとき、平均粒子径の大きい大粒径粉末と、平均粒子径の小さい小粒径粉末と、を作製する。大粒径粉末の平均粒子径は、0.1μm〜0.7μmであると好ましく、0.2μm〜0.6μmであるとより好ましい。小粒径粉末の平均粒子径は、0.05μm〜0.11μmであると好ましく、0.06μm〜0.10μmであるとより好ましい。大粒径粉末と小粒径粉末とは、例えば粉砕時間を変えることによって作り分けることができる。ジルコニアを粉砕後、乾燥させ、例えば900℃〜1100℃で焼成する。
【0056】
次に、大粒径粉末と小粒径粉末とを混合する。大粒径粉末と小粒径粉末の混合比は例えば1:2〜2:1とすることができる。このジルコニア粉末に、酸化チタン、酸化アルミニウム、バインダ、顔料等を添加し、湿式混合する。粉砕時に安定化剤を添加しない場合にはここで添加してもよい。次に、スプレードライヤ等で乾燥して、本発明の組成物を作製する。組成物は、乾燥後、成形してもよい。
【0057】
ジルコニア粉末の平均粒子径、粒径分布及び大粒径粉末と小粒径粉末の混合比は上記例には限定されない。
【0058】
仮焼体を作製しない場合には、組成物を1400℃〜1600℃、好ましくは1450℃〜1550℃で焼成することにより、ジルコニア粉末を焼結させて、本発明のジルコニア焼結体を製造する。
【0059】
仮焼体を作製する場合には、組成物を800℃〜1200℃で焼成して、仮焼体を作製する。次に、仮焼体を1400℃〜1600℃、好ましくは1450℃〜1550℃で焼成することにより、ジルコニア粉末を焼結させて、本発明のジルコニア焼結体を製造する。仮焼体の段階で成形してもよいし、焼結後に成形してもよい。
【0060】
本発明のジルコニア焼結体は他の方法で製造してもよい。
【実施例】
【0061】
ジルコニア焼結体を作製し、曲げ強度、破壊靭性及び水熱処理後の単斜晶のピーク比を測定した。また、一部の実施例においては、ジルコニア焼結体の透過率又はLab色空間を測定した。表1に、ジルコニアに対する安定化剤としてのイットリアの添加率、酸化アルミニウムの添加率、酸化チタンの添加率及び酸化ケイ素の添加率を示す。実施例1〜27においてはノリタケカンパニーリミテド社製のジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を作製した。イットリアの添加率は、ジルコニアとイットリアの合計mol数に対する添加率である。酸化アルミニウム、酸化チタン及び酸化ケイ素は、ジルコニアとイットリアの合計質量に対する添加率である。また、大粒径粉末と小粒径粉末の平均粒子径も示す。さらに、ジルコニア焼結体製造時の焼成温度を示す。実施例14〜21においては着色のための酸化物を少量添加してある。実施例1においては、大粒径粉末と小粒径粉末の混合比は1:1とした。
【0062】
また、比較例として、市販のジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を作製し、曲げ強度、破壊靭性及び水熱処理後の単斜晶のピーク比、及び光の透過率を測定した。比較例1〜6においては、市販のジルコニア粉末をそのまま用いている。比較例1〜13において、組成物における粒子径を異ならせるような作業はしていない。比較例1〜6においては、市販品のジルコニア粉末は1次粒子が凝集した2次粒子を形成しており、平均粒子径を測定できなかった。表2に、比較例1〜6で使用したジルコニア粉末の粒径の公表値(カタログ値)を示す。比較例1において使用したジルコニア粉末は東ソー社製TZ−3YSである。比較例2において使用したジルコニア粉末は東ソー社製TZ−4YSである。比較例3において使用したジルコニア粉末は東ソー社製TZ−5YSである。比較例4において使用したジルコニア粉末は東ソー社製TZ−3YS及びTZ−5YSである。比較例5〜6において使用したジルコニア粉末は東ソー社製Zpexである。比較例7〜13において使用したジルコニア粉末はノリタケカンパニーリミテド社製である。表2に、比較例におけるジルコニアに対する安定化剤としてのイットリアの添加率、酸化アルミニウムの添加率、酸化チタンの添加率及び酸化ケイ素の添加率を示す。比較例1〜6について、比較例4のイットリアの含有率以外の数値は、いずれも市販品の公表値(カタログ値)である。また、表2に、ジルコニア焼結体製造時の焼成温度を示す。比較例4においては、イットリア含有率3mol%のジルコニア粉末とイットリア含有率5mol%のジルコニア粉末を質量比で1対1で混合することによって、イットリア含有率4mol%のジルコニア粉末を作製した。
【0063】
測定結果を表3及び4に示す。ジルコニア焼結体の曲げ強度はJISR1601に準拠して測定した。ジルコニア焼結体の破壊靭性はJISR1607に準拠して測定した。ジルコニア焼結体の光の透過率はJISK7361に準拠して測定した。透過率を測定した試料は、厚さ0.5mmであり、その両面を鏡面加工したものである。水熱処理試験は、180℃、1MPa、5時間の条件でISO13356に準拠した。水熱処理試験を施した後、CuKα線でジルコニア焼結体のX線回折パターンを測定し、単斜晶のピーク比、すなわち水熱処理試験によって単斜晶へ相転移した程度を測定した。Lab色空間は、ジルコニア焼結体を直径14mm、厚さ1.2mmの円板に加工し、その両面を研磨した後、オリンパス社製の測定装置CE100-DC/USを用いて測定した。
【0064】
まず、イットリアの含有率が3mol%である比較例1、5、6及び9を見ると、曲げ強度は1000MPa以上であり、破壊靭性は約4MPa・m1/2付近であるが、単斜晶のピークは3以上となっている。すなわち、イットリア含有率が低いと、曲げ強度及び破壊靭性を高くできるが、相転移が進行しやすいことが分かった。一方、イットリアの含有率が4mol%以上である比較例2〜4、7、8及び10〜12を見ると、単斜晶のピーク比は1以下であるが、曲げ強度1000MPa未満であり、破壊靭性も4未満となっている。すなわち、イットリア含有率が高いと、相転移の進行を抑制することはできるが、曲げ強度及び破壊靭性が低くなってしまうことが分かった。
【0065】
しかしながら、実施例1〜12によれば、曲げ強度は1000MPa以上とし、破壊靭性も4MPa・m1/2以上とし、かつ単斜晶のピーク比も1以下に抑えることができた。したがって、本発明によれば、曲げ強度、破壊靭性及び相転移抑制のいずれも高めることができている。しかも、透明度も比較例と比較しても劣らないものとすることができた。
【0066】
実施例13及び比較例13においては酸化ケイ素を添加した。酸化ケイ素の添加率が0.1質量%の実施例13では透過率が27%となったが、添加率が0.2質量%の比較例13では透過率が26%となった。これより、酸化ケイ素の添加率は0.1質量%以下が好ましいことが分かった。
【0067】
実施例1〜10及び13のジルコニア焼結体は白色であり、実施例11、12及び14〜21のジルコニア焼結体は茶色であった。本発明のジルコニア焼結体は着色されていても、曲げ強度、破壊靭性及び相転移抑制効果が低下することはないことが分かった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
実施例1、実施例22〜27、及び比較例1〜4において製造したジルコニア焼結体の断面のSEM写真を撮影し、SEM写真に映った粒子をクラス分けして、各クラスの断面積の合計を算出すると共に、その面積割合を算出した。電子顕微鏡は、(株)日立ハイテクフィールディング社製電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope;FE−SEM)(S−4700)を使用した。図1に実施例1におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。図3に比較例1におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。図5に比較例2におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。図7に比較例3におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。図9に比較例4におけるジルコニア焼結体のSEM写真を示す。倍率はいずれも20,000倍である。各SEM写真について、画像解析ソフト(MOUNTECH社製mac-view)を用いて、写真画面内に輪郭全体が映っている(輪郭が途切れていない)粒子をピックアップして、各ジルコニア結晶粒子の断面積を算出した。図2に、実施例1においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。図4に、比較例1においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。図6に、比較例2においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。図8に、比較例3においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。図10に、比較例4においてピックアップしたジルコニア結晶粒子を示す。なお、画像解析ソフトが粒子の輪郭を自動認識しない場合には、粒子の輪郭を認識するような処置を施した。算出した断面積を基に、各ジルコニア結晶粒子の断面が円形と仮定した場合の直径(換算粒径)を算出した。ピックアップした各粒子を、換算粒径を基にして0.4μm未満、0.4μm以上0.76μm未満及び0.76μm以上にクラス分けした。これは、換算粒径が可視光の波長範囲内に存在するか否かによって分類したものである。そして、各クラスにおいてジルコニア結晶粒子の断面積の総計を算出し、ピックアップした全ジルコニア結晶粒子の総断面積に対する割合を算出した。表5に、算出結果を示す。
【0073】
比較例1においては安定化剤の含有率が低いため、断面積の小さい結晶粒子の割合が多くなっている。このため、曲げ強度及び破壊靭性は高いけれども相転移しやすい焼結体になっているものと考えられる。比較例3においては安定化剤の含有率が高いため、断面積の大きい結晶粒子が多くなっている。このため、曲げ強度及び破壊靭性の低い焼結体になっているものと考えられる。比較例4においては比較例1で使用したジルコニア粒子と比較例3で使用したジルコニア粒子を混合してあるため、面積割合も比較例1と比較例3の中間の値となっている。比較例4においても、比較例3と同様にして断面積の大きい粒子が多いため、曲げ強度及び破壊靭性の低い焼結体になっていると考えられる。実施例1及び実施例22〜27と比較例2とで安定化剤の含有率は同じであるが、比較例2の方が0.4μm以上0.76μ未満の粒子の占める面積割合が高くなっているのに対し、実施例1及び実施例22〜27では粒子径の大きい原料を混ぜているため、0.76μm以上の粒子の占める面積割合が高くなっている。比較例2よりも実施例1及び実施例22〜27のほうが測定結果がよいことから、本発明における粒径の分布バランス又は面積バランスが曲げ強度、破壊靭性及び相転移抑制を高めるのに寄与しているものと考えられる。
【0074】
【表5】
【0075】
本発明のジルコニア焼結体、並びにジルコニア焼結体用の組成物及び仮焼体は、上記実施形態に基づいて説明されているが、上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができることはいうまでもない。また、本発明の全開示の枠内において、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0076】
本発明のさらなる課題、目的及び展開形態は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0077】
本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のジルコニア焼結体は、補綴材等の歯科用材料、フェルールやスリーブ等の光ファイバ用接続部品、各種工具(例えば、粉砕ボール、研削具)、各種部品(例えば、ネジ、ボルト・ナット)、各種センサ、エレクトロニクス用部品、装飾品(例えば、時計のバンド)等の種々の用途に利用することができる。ジルコニア焼結体を歯科用材料に使用する場合、例えば、コーピング、フレームワーク、クラウン、クラウンブリッジ、アバットメント、インプラント、インプラントスクリュー、インプラントフィクスチャー、インプラントブリッジ、インプラントバー、ブラケット、義歯床、インレー、アンレー、オンレー、矯正用ワイヤー、ラミネートベニア等に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10