(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357146
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】酸化物セラミック単結晶製造のための坩堝
(51)【国際特許分類】
C30B 29/20 20060101AFI20180702BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
C30B29/20
C30B15/10
【請求項の数】12
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-506042(P2015-506042)
(86)(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公表番号】特表2015-514667(P2015-514667A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】AT2013000074
(87)【国際公開番号】WO2013155540
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年2月1日
(31)【優先権主張番号】61/625,296
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ヤヌシェフスキー、ユーディト
(72)【発明者】
【氏名】ラルヒァー、ハイケ
(72)【発明者】
【氏名】スリク、マンフレッド
【審査官】
塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2001/0033950(US,A1)
【文献】
米国特許第03407057(US,A)
【文献】
米国特許第03938814(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0253033(US,A1)
【文献】
特開平06−025855(JP,A)
【文献】
英国特許出願公開第01023113(GB,A)
【文献】
特開2010−132544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン製の又は95原子%を超えるモリブデン含有量を有するモリブデン合金製の坩堝であって、その内面に、タングステン及びモリブデンから成る群から選ばれた少なくとも一種の耐熱金属と酸化アルミニウムとの複合材料から成り且つ細孔を有する層が、少なくとも部分的に、施されており、前記層における細孔率が5容積%を超え、60容積%未満であることを特徴とする坩堝。
【請求項2】
前記層がタングステンを含有することを特徴とする請求項1に記載の坩堝。
【請求項3】
酸化物セラミック単結晶を製造するための請求項1又は2に記載の坩堝。
【請求項4】
前記層が5〜400μmの層厚を有することを特徴とする請求項1〜3の少なくとも1項に記載の坩堝。
【請求項5】
前記層が0.1〜5μmの粒径を有することを特徴とする請求項1〜4の少なくとも1項に記載の坩堝。
【請求項6】
前記層が50質量%超の耐熱金属を含有することを特徴とする請求項1〜5の少なくとも1項に記載の坩堝。
【請求項7】
前記層が95質量%超の耐熱金属を含有することを特徴とする請求項1〜6の少なくとも1項に記載の坩堝。
【請求項8】
モリブデン製の又は95原子%を超えるモリブデン含有量を有するモリブデン合金製の坩堝が製造され、該坩堝の内面に、少なくとも部分的に、タングステン及びモリブデンから成る群から選ばれた少なくとも一種の耐熱金属と酸化アルミニウムとの複合材料から成り且つ5容積%を超え、60容積%未満である細孔率を有する層が、スラリー法又は溶射法により析出されることを特徴とする請求項1〜7の少なくとも1項に記載の坩堝の製造方法。
【請求項9】
タングステン、モリブデン及び酸化アルミニウムから成る群から選ばれた少なくとも一種の粉末、結合剤並びに易揮発性液体を含有するスラリーの塗布により前記層が製造されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記スラリー中の前記耐熱金属含有量が55〜85質量%であることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
坩堝を、前記スラリーの塗布後に、1,200〜2,000℃の温度で焼きなましすることを特徴とする請求項9〜10の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項12】
サファイア単結晶を製造するための方法であって、少なくとも以下の工程:
−モリブデン製の又は95原子%を超えるモリブデン含有量を有するモリブデン合金製の坩堝であって、その内面に、タングステン及びモリブデンから成る群から選ばれた少なくとも一種の耐熱金属と酸化アルミニウムとの複合材料から成り且つ細孔を有する層が、少なくとも部分的に、施されており、前記層における細孔率が5容積%を超え、60容積%未満であることを特徴とする坩堝を製造する工程;
−前記坩堝に酸化アルミニウムを導入し該酸化アルミニウムを溶融する工程;
−適切な冷却を行ない、サファイア単結晶を形成する工程;
−前記坩堝から前記サファイア単結晶を取り出す工程;及び
−少なくとも1つの別のサファイア単結晶の製造のために、坩堝を再使用する工程を備えてなることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン製の又は95原子%を超えるモリブデン含有量を有するモリブデン合金製の坩堝、その製造方法及びサファイア単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物セラミック単結晶、例えばサファイア単結晶、は、なかんずく、モリブデン製の坩堝で製造される。単結晶サファイア基板は、例えば、LED及び特定の半導体レーザーの製造用に広範に使用されている窒化ガリウムのエピタキシャル析出の際に、使用される。酸化物セラミック単結晶の引き上げには、例えば、HEM(Heat Exchange Method)(熱交換)法、キロプロス(Kyropoulos)法及びEFG(Edge defined Film−fed Growth)(縁部限定薄膜供給成長)法など、多数の方法が知られている。
【0003】
坩堝のコストは、総経費のかなりの部分を占める。というのは、凝固した単結晶をこの坩堝から取り出す際に、大抵の場合、坩堝が破壊されるからである。破壊の理由は、再結晶と粒子成長とに起因するモリブデンの高い脆性と相俟って、凝固した酸化物溶融物と坩堝との間の過大な付着力にある。
【0004】
特許文献1には、坩堝及びこの坩堝中での高融点材料の加工方法が記載されており、そこでは高融点材料の溶融物と接触する坩堝の表面の一部が、1,800℃以上の融点を示す金属から成る箔で覆われる。箔と坩堝との間が材料に適合して結合されないと、熱の移行が局所的に低下し、その結果、温度プロフィールの精密な調整に悪影響が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102008060520A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、サファイア単結晶成長に際して、坩堝に要するコストを削減することのできる、結晶成長用の坩堝、坩堝の製造方法及びこのような坩堝を用いたサファイア単結晶成長方法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、タングステン及びモリブデンから成る群から選ばれた少なくとも一種の耐熱金属を含有し且つ細孔を有する層を、その内面に少なくとも部分的に有する坩堝により、解決される。細孔率は、好ましくは5容積%超である。細孔率は、特に有利には、10容積%超、15容積%超、20容積%超及び25容積%超の群から選ばれる。更に、細孔同士が少なくとも部分的に結合されて、開放気孔と称されるようなものにすると有利である。本発明による坩堝は、酸化物セラミック単結晶、例えばサファイア単結晶、の製造に特に好適である。
【0008】
以下の記載では、タングステン、モリブデン及びタングステン/モリブデン合金が、場合によって、個別に又は一緒に、耐熱金属と称されている。それ故、耐熱金属という用語は、モリブデン、タングステン及び全混合範囲におけるモリブデン/タングステン合金を包含するものとする。
【0009】
層の多孔性は、層と坩堝内で引き上げられる単結晶との間に、極めて高い結合力を生じる。何故なら、酸化アルミニウム溶融物が細孔に侵入して、その結果、凝固後に、化学的/物理的メカニズムに加えて、機械的な微小噛み合い効果を生じるからである。これに対して、本発明による層は、モリブデン製坩堝への付着力が僅かである。坩堝と層との間の結合強度は、この場合、更に、耐熱金属層と坩堝との間の拡散現象を減少する別の層によっても、良好に、即ち減少するように、変化させることができる。単結晶を坩堝から取り出す際に、坩堝/層/酸化物から成る系の薄弱な箇所は、坩堝と層との境界面である。単結晶は、付着している層の少なくとも一部と共に比較的簡単に坩堝から取り出すことができる。坩堝は、それ故、少なくとも、もう一回は再使用できる。
【0010】
層中の耐熱金属の含有量は、有利には、50質量%超である。また、耐熱金属含有量は、有利には、75質量%超、90質量%超、95質量%超及び99質量%超の群から選ばれる。特に有利なのは、純タングステンから成る層が使用されることである。何故なら、タングステンは、酸化アルミニウム溶融物に対し最高の抵抗性を示すからである。本発明による層は、従って、大抵の酸化物セラミック溶融物、特に酸化アルミニウム溶融物、に対して高い耐性を有する。
【0011】
耐熱金属は、連続骨格構造を形成すると有利である。層の有利な細孔率の上限は、60容積%である。60容積%を超える細孔率の場合は、有利な骨格構造は、加工技術のために高い経費を掛けなければ得られない。更に、層を極めて微細な粒子で形成し、粒径を0.1〜5μmの範囲にすると、有利である。これにより、不所望な、坩堝壁の領域におけるアルミニウム溶融物の結晶種子の形成が、避けられる。
【0012】
サファイア単結晶の製造のために、層は、耐熱金属に加えて、酸化アルミニウムをも含有することができる。何故なら、これはサファイアの純度に悪影響を及ぼさないからである。酸化アルミニウムを含有する複合材料は、それ故、サファイア単結晶の製造に、取り分け好適である。何故なら、複合材料の酸化アルミニウムは、使用中に溶融し、凝固の際にサファイアの酸化アルミニウムと噛み合いネットワークを形成し、層とサファイア単結晶との間に優れた結合を生じるからである。耐熱金属が連続骨格構造を形成すると有利であり、このため、酸化アルミニウムの含有量は60容積%
以下に限定される。
【0013】
層は、それ故、有利には、以下の材料:純モリブデン、純タングステン、全組成範囲におけるモリブデン/タングステン合金、モリブデン/酸化アルミニウム複合材料、タングステン/酸化アルミニウム複合材料及びモリブデン/タングステン/酸化アルミニウム複合材料を含有してなる。
【0014】
更に、層は、好ましくは5〜400μm、特に好ましくは10〜200μm、の層厚を有する。厚い層は、モリブデン製の坩堝に対する結合が悪いので、分離工程が容易になる。
【0015】
プロセス遂行にあたっては、坩堝が99%を超える、特に99.5%を超える、相対密度を有すると更に有利である。
【0016】
本発明の課題は、更に、以下に記載する坩堝の製造方法によって解決される。
【0017】
好適には、先ず、モリブデン又は95重量%を超えるモリブデン含有量を有するモリブデン合金から成る板が製造され、この板が、圧延により、坩堝に成形される。坩堝は、従って、99.5%を超える密度を有する。層の析出には、特にスラリー法及び溶射法、例えばプラズマ溶射、が適している。この場合、スラリーとは、少なくとも粉末粒子及び液体を含有する懸濁液のことをいう。スラリーが、タングステン、モリブデン及び酸化アルミニウムから成る群から選ばれた少なくとも一種の粉末、結合剤及び易揮発性の液体を有すると、有利である。スラリー析出法が使用される場合には、スラリーが溶射、鋳込み、刷毛塗り又はローラ塗布で適用されると有利である。粉末の粒径は、フィッシャー法による測定で、0.1〜5μmであると有利である。スラリー中の耐熱金属含有量は、有利には、55〜85質量%である。
【0018】
好適な結合剤の例としてはセルロースのエステルを挙げることができ、易揮発性液体の例としてはニトロシンナーが挙げられる。スラリーを適用した後で、坩堝を1,200〜2,000℃の温度で焼きなましすると有利である。これにより、個々の粒子間の焼結及び有利な構造の形成が生じるが、坩堝と層との間に過剰の結合力が生じることはない。
【0019】
層の析出は、例えばフレーム溶射やプラズマ溶射などの、耐熱金属に対して商用的に可能なスプレー法によっても、行なうことができる。
【0020】
この方法により、本発明による層を、簡単に、経費的に良好に析出させることができる。この場合、層は、有利には、5容積%<P<60容積%の細孔率Pを有する。特に有利な細孔率Pは、10容積%<P<40容積%である。
【0021】
本発明の課題は、更に以下に記載するサファイア単結晶の製造方法により解決される。特に、この場合、HEM(熱交換法)を使用すると有利である。
【0022】
この方法は、以下の工程を有する。先ず、モリブデン又はモリブデン含有量が95原子%を超えるモリブデン合金から、坩堝を製造する。これは、例えば板の圧延により、行なうことができる。次に、坩堝の内面に、少なくとも部分的に、タングステン及びモリブデンから成る群から選ばれた少なくとも一種の耐熱金属を含有し且つ細孔を有する層が施される。細孔率は、5容積%超とすると有利である。層の形成は、有利には、先に説明した方法で行なわれ、層は、有利には、先に述べた特性の少なくとも1つを有する。
【0023】
その後に、酸化アルミニウムが坩堝に入れられ溶融される。サファイア単結晶の製造は、例えば種結晶から出発して、適切な冷却により行なわれる。坩堝から単結晶を取り出す際に、層は、少なくとも部分的に、坩堝から剥がれる。従って、脆弱なモリブデン製坩堝に対する機械的負荷が小さいので、この工程では、坩堝は破壊されない。それ故、坩堝は、少なくとももう一回は、再使用できることになる。
【0024】
以下にタングステン層を参照して、層の製造を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、層の細孔状態を示す顕微鏡図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
タングステンスプレーコーティング用の塗布材料は、セルロース硝酸エステルを含有するタングステン懸濁液をベースとする。タングステンスラリーのバッチ調製は、ディスペンサーを用いて行なわれた。この場合、フィッシャー粒径0.6μmのタングステン粉末を、セルロース硝酸エステル(15質量%)及びニトロシンナー(15質量%)に、5,000rpmの回転数で滴下混合した。塗布は、スプレーにより行なわれた。
【0027】
層の塗布後に、層は、1,450℃で2時間焼きなましを行なった。層は、35容積%の高い細孔率を有する(
図1参照)。細孔率の測定は、水銀ポロシメーター又はパラフィンを使用した浮力法により、通常の仕様により、行なうことができる。