特許第6357147号(P6357147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357147
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】保護膜形成用フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/00 20180101AFI20180702BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20180702BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20180702BHJP
   C09J 11/02 20060101ALI20180702BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20180702BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20180702BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20180702BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20180702BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20180702BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   C09J7/00
   H01L23/30 D
   C09J11/02
   C09J133/00
   C09J163/00
   C08L33/00
   C08L63/00 A
   C08J5/18CEY
   C08J5/18CFC
   B32B27/30 A
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-506804(P2015-506804)
(86)(22)【出願日】2014年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2014057355
(87)【国際公開番号】WO2014148496
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-56825(P2013-56825)
(32)【優先日】2013年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高野 健
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−214288(JP,A)
【文献】 特開2007−250970(JP,A)
【文献】 特開2009−130233(JP,A)
【文献】 特開2006−321216(JP,A)
【文献】 特開2011−151361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップを保護する保護膜を形成するための保護膜形成用フィルムであって、
前記保護膜形成用フィルムが、(A1)アクリル系重合体と(B1)エポキシ系硬化性成分とを含有する樹脂層αと、(A1)アクリル系重合体とは異なる重合体である(A2)重合体と、(B2)エポキシ系硬化性成分と、(D2)着色剤と、(E2)充填材とを含有する樹脂層βとが積層されてなり、
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、エポキシ基含有単量体を含まず、または、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A1)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
前記樹脂層βの表面の硬化後のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上であり、
(A2)重合体が、(A2-1)アクリル系重合体であり、
(A2-1)アクリル系重合体は、その重合体を構成する全単量体の8質量%より高い割合でエポキシ基含有単量体を含み、又はガラス転移温度が−3℃未満である、保護膜形成用フィルム。
【請求項2】
(E2)充填材の平均粒径が1〜5μmである請求項に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項3】
(E2)充填材の樹脂層βにおける含有率が、20質量%以上である請求項1又は2に記載の保護膜形成用フィルム。
【請求項4】
半導体チップと、前記半導体チップ上に設けられる保護膜とを備える保護膜付きチップであって、
前記保護膜が、保護膜形成用フィルムを硬化させて形成されたものであるとともに、
前記保護膜形成用フィルムが、(A1)アクリル系重合体と(B1)エポキシ系硬化性成分とを含有する樹脂層αと、(A1)アクリル系重合体とは異なる重合体である(A2)重合体と、(B2)エポキシ系硬化性成分と、(D2)着色剤と、(E2)充填材とを含有する樹脂層βとが積層されてなり、
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、エポキシ基含有単量体を含まず、または、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A1)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
前記樹脂層βの表面の硬化後のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上であり、
(A2)重合体が、(A2-1)アクリル系重合体であり、
(A2-1)アクリル系重合体は、その重合体を構成する全単量体の8質量%より高い割合でエポキシ基含有単量体を含み、又はガラス転移温度が−3℃未満である、保護膜付きチップ。
【請求項5】
半導体ウエハを複数のチップに分割する工程、請求項1〜に記載の保護膜形成用フィルムが支持シート上に剥離可能に形成された保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムを、前記半導体ウエハ又は複数のチップからなるチップ群に貼付する工程、前記保護膜形成用複合シートにおける支持シートを前記保護膜形成用フィルムから剥離する工程、および前記保護膜形成用フィルムを熱硬化する工程を含み、
保護膜形成用複合シートにおける支持シートを保護膜形成用フィルムから剥離する工程の後に、保護膜形成用フィルムを熱硬化する工程を行う保護膜付きチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体チップの裏面を保護するために使用される保護膜形成用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェースダウン方式と呼ばれる実装法を用いた半導体装置の製造が行われている。フェースダウン方式において、半導体チップは、バンプなどの電極が形成されたチップ表面が基板等に対向されて接合される一方で、チップ裏面が剥き出しとなるため保護膜によって保護されている。この保護膜で保護された半導体チップ(以下、「保護膜付きチップ」という)は、一般的に保護膜上にレーザー印字等によりマークや文字等が印字される。
上記保護膜は、例えば樹脂コーティング等によって形成されていたが、近年、例えば特許文献1に開示されるように、膜厚の均一性を確保等するために、保護膜形成用フィルムが貼付されて形成されるものが実用化されつつある。
【0003】
特許文献1に開示される保護膜形成用シートは、保護膜が単層構造となるものであるが、近年、半導体を封止するための封止シートや、保護膜形成用フィルムの保護膜等を2層構造とする試みが種々行われている。
例えば、特許文献2には、第1の高分子量成分を含有する第1の樹脂層と、熱硬化性成分、無機フィラー、及び第2の高分子量成分を含有する第2の樹脂層とからなり、第2の樹脂層の各成分の含有量が所定の範囲とされた封止用シートが開示されている。
また、特許文献3には、チップに接着される低硬度層と、この低硬度層上に設けられ、レーザーマーキングが行われる高硬度層とを有し、高硬度層がバインダーポリマー成分と、エネルギー硬化性成分と、光重合開始剤とを含有するエネルギー線硬化型樹脂層であるチップ保護用フィルムが開示されている。
さらに、特許文献4には、ウエハ接着層と、レーザーマーク層が積層されてなる半導体裏面用フィルムが開示されている。この半導体裏面用フィルムでは、レーザーマーク層の未硬化状態における弾性率を高いものとすることで、未硬化状態においてレーザーマークを行う際の印字性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−280329号公報
【特許文献2】特開2006−321216号公報
【特許文献3】特開2009−130233号公報
【特許文献4】特開2011−151361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、保護膜形成用フィルムからチップの保護膜を形成した場合、保護膜付きチップの信頼性が劣り、例えば長期使用により保護膜がチップから剥離する等の不具合が発生する場合がある。そのため、保護膜形成用フィルムを用いて得た保護膜付きチップの信頼性を更に高めることが求められている。
しかし、信頼性を高めるために、特許文献1に開示されるような単層構造の保護膜においてその組成を改良すると、熱硬化後の保護膜の表面特性が悪化して、レーザー印字をした際に、高い文字認識性を得ることができないという別の問題が発生する。すなわち、単層構造の保護膜においては、その組成を改良しただけでは、高い文字認識性と高い信頼性を両立させることが困難である。また、仮に両立できたとしても、重合体成分の選択の余地が少なく、保護膜形成フィルムの配合設計の自由度が著しく制限されることになる。
【0006】
一方で、特許文献2〜4に開示されるように保護膜形成用フィルムを2層構造からなるものとすると、設計の自由度が単層構造からなるものに比べて高くなる。しかし、特許文献2〜4では、各層に含有される重合体成分は、互いに同一の組成を有するアクリル系共重合体しか実際には実施されていない。このように2層の共重合体成分の組成が同一であると、高い文字認識性と高い信頼性の両立を図ることは難しい。例えば、特許文献2では、各層の重合体成分であるアクリルゴムのガラス転移温度が−7℃と低いため、保護膜付きチップの信頼性が不十分となるおそれがある。
【0007】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、レーザー印字の認識性を良好にしつつも、信頼性を高めることができる保護膜付きチップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、保護膜形成用フィルムを2層構造とした上で、一方の樹脂層におけるアクリル系重合体の組成を所定のものとしてガラス転移温度も所定の範囲にするとともに、他方の樹脂層における重合体成分を一方の樹脂層における重合体成分と異なるものとすることにより、上記課題が解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を提供するものである。
(1)半導体チップを保護する保護膜を形成するための保護膜形成用フィルムであって、
前記保護膜形成用フィルムが、(A1)アクリル系重合体と(B1)エポキシ系硬化性成分とを含有する樹脂層αと、(A1)アクリル系重合体とは異なる重合体である(A2)重合体と、(B2)エポキシ系硬化性成分と、(D2)着色剤と、(E2)充填材とを含有する樹脂層βとが積層されてなり、
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、エポキシ基含有単量体を含まず、または、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A1)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
前記樹脂層βの表面の硬化後のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上である保護膜形成用フィルム。
(2)(A2)重合体が、(A2-1)アクリル系重合体であって、
(A2-1)アクリル系重合体は、その重合体を構成する全単量体の8質量%より高い割合でエポキシ基含有単量体を含み、又はガラス転移温度が−3℃未満である上記(1)に記載の保護膜形成用フィルム。
(3)(E2)充填材の平均粒径が1〜5μmである上記(1)または(2)に記載の保護膜形成用フィルム。
(4)(E2)充填材の含有量が、樹脂層βの20質量%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の保護膜形成用フィルム。
(5)半導体チップと、前記半導体チップ上に設けられる保護膜とを備える保護膜付きチップであって、
前記保護膜が、保護膜形成用フィルムを硬化させて形成されたものであるとともに、
前記保護膜形成用フィルムが、(A1)アクリル系重合体と(B1)エポキシ系硬化性成分とを含有する樹脂層αと、(A1)アクリル系重合体とは異なる重合体である(A2)重合体と、(B2)エポキシ系硬化性成分と、(D2)着色剤と、(E2)充填材とを含有する樹脂層βとが積層されてなり、
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、エポキシ基含有単量体を含まず、または、全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むとともに、(A1)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃以上であり、
前記樹脂層βの表面の硬化後のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上である保護膜付きチップ。
(6)半導体ウエハを複数のチップに分割する工程、上記(1)〜(4)に記載の保護膜形成用フィルムが支持シート上に剥離可能に形成された保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムを、前記半導体ウエハ又は複数のチップからなるチップ群に貼付する工程、前記保護膜形成用複合シートにおける支持シートを前記保護膜形成用フィルムから剥離する工程、および前記保護膜形成用フィルムを熱硬化する工程を含み、
保護膜形成用複合シートにおける支持シートを保護膜形成用フィルムから剥離する工程の後に、保護膜形成用フィルムを熱硬化する工程を行う保護膜付きチップの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、レーザー印字の認識性を良好にしつつも、信頼性を高めることができる保護膜付きチップを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、その実施形態を用いて具体的に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」の一方もしくは双方を意味する用語として使用する。また、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」又は「メタクリレート」の一方もしくは双方を意味する用語として使用する。さらに、「(メタ)アクリロキシ」は、「アクリロキシ」又は「メタクリロキシ」の一方もしくは双方を意味する用語として使用し、他の類似用語についても同様である。
【0011】
[保護膜形成用フィルム]
本発明に係る保護膜形成用フィルムは、半導体チップを保護する保護膜を形成するためのフィルムであって、樹脂層αと、樹脂層βとが積層されてなるものである。保護膜形成用フィルムは、樹脂層α側が半導体チップに接着され、樹脂層βがレーザーにより印字が行われる層となる。
【0012】
[樹脂層α、β]
本発明の樹脂層αは、(A1)アクリル系重合体と(B1)エポキシ系硬化性成分とを少なくとも含有するものであり、任意成分として(C1)硬化促進剤、(D1)着色剤、(E1)充填材、(F1)カップリング剤、及びその他の添加剤から選ばれるものを適宜含有してもよい。
樹脂層βは、(A1)アクリル系重合体と異なる重合体である(A2)重合体と、(B2)エポキシ系硬化性成分と、(D2)着色剤と、(E2)充填材とを少なくとも含有するものであり、さらに、任意成分として(C2)硬化促進剤、(F2)カップリング剤、及びその他の添加剤から選ばれるものを適宜含有していてもよい。
以下、樹脂層α、樹脂層βに配合される各成分について詳細に説明する。
【0013】
<(A1)アクリル系重合体>
樹脂層αに含有される(A1)アクリル系重合体は、樹脂層αに可撓性、シート形状維持性を付与することを主目的とした成分であって、(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、エポキシ基含有単量体を含まず、または、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の8質量%以下の割合でエポキシ基含有単量体を含むものである。
エポキシ基含有単量体の割合が8質量%より多くなると、(A1)成分と(B1)成分の硬化物との相溶性が向上し、後述の相分離構造が形成されにくくなって、保護膜付きチップの信頼性が低下する。このような観点から、エポキシ基含有単量体の含有量は、(A1)アクリル系共重合体を構成する全単量体の6質量%以下であることが好ましい。
エポキシ基含有単量体を含有する場合、エポキシ基含有単量体の含有量は、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体中、通常0.1質量%以上であり、全単量体の1質量%以上であることが好ましく、樹脂層αを形成するための樹脂層α形成用組成物において、(A1)アクリル系重合体と、(B1)エポキシ系硬化性成分とが分離して塗工性が悪化するのを防止する等の観点から3質量%以上であることがより好ましい。
【0014】
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、エポキシ基含有単量体を含む場合、(A1)アクリル系重合体を構成する単量体は、具体的には、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルおよび非アクリル系エポキシ基含有単量体から選択される1種以上のエポキシ基含有単量体と、エポキシ基を有しない各種の(メタ)アクリル酸エステル及び/又は非アクリル系エポキシ基非含有単量体とからなる。この場合、エポキシ基含有単量体が非アクリル系エポキシ基含有単量体のみからなる場合は、アクリル系重合体を構成する単量体は、エポキシ基を有しない各種の(メタ)アクリル酸エステルを含む。
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、3−エポキシシクロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられ、非アクリル系エポキシ基含有単量体としては、たとえば、グリシジルクロトネート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ基含有単量体としては、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0015】
アクリル系重合体を構成する単量体がエポキシ基含有単量体を含まない場合、(A1)アクリル系重合体を構成する単量体は、具体的には、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の各種のエポキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステルと、必要に応じて併用されるスチレン、エチレン、ビニルエーテル、酢酸ビニル等の非アクリル系エポキシ基非含有単量体とからなる。
【0016】
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数の増減や、異なる炭素数の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの組み合わせにより、(A1)アクリル系重合体のガラス転移温度を調整することが容易となる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の質量に占める割合の上限については、特に制限はないが、95質量%以下であれば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の単量体を共重合し、適宜(A1)アクリル系重合体の特性を制御することが可能となるため好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等、アルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0017】
また、(A1)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有せず、又はアルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の12質量%以下の割合で含有することが好ましい。これにより、後述するガラス転移温度が容易に−3℃以上になり、信頼性を向上させやすくなる。
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む場合、その含有量は、例えば(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の1質量%以上、好ましくは5質量%以上である。
当該アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数4〜8のものが好ましく、炭素数4の(メタ)アクリル酸ブチルがより好ましい。
【0018】
また、(A1)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することにより、熱安定性等を良好にしつつも、(A1)アクリル系重合体のガラス転移温度を後述するように−3℃以上としやすくなる。これらの観点から、アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の90質量%以下であることが好ましい。また、当該アルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。
【0019】
(A1)アクリル系重合体を構成する単量体が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステル全体における、アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルキル基の炭素数が3以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの質量比率は、0/100〜15/85であることが好ましい。これにより、後述するガラス転移温度が容易に−3℃以上になり、信頼性を向上させやすくなる。
【0020】
さらに、(A1)アクリル系重合体を構成する単量体は、エポキシ基を含有しない(メタ)アクリル酸エステルとして、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを含んでもよい。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルにより、アクリル系共重合体に水酸基が導入されると、半導体チップへの密着性や粘着特性のコントロールが容易になる。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルは、(A1)アクリル系重合体を構成する全単量体の1〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
また、(A1)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記したようにスチレン、エチレン、ビニルエーテル、酢酸ビニル等の非アクリル系エポキシ基非含有単量体を含んでいてもよい。
【0022】
(A1)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、樹脂層αに可撓性、造膜性を付与できるようにするために、10,000以上であることが好ましい。また、上記重量平均分子量は、より好ましくは15,000〜1,000,000、さらに好ましくは20,000〜500,000である。なお、本発明において重量平均分子量(Mw)は、後述するように、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算で測定したものをいう。
【0023】
本発明において(A1)アクリル系重合体は、そのガラス転移温度が、−3℃以上となるものである。ガラス転移温度が−3℃未満となると、(A1)アクリル系重合体の運動性が十分に抑制されず、保護膜が熱履歴に起因して変形しやすくなり、保護膜付きチップの信頼性を十分に向上させることができない。なお、本発明において、ガラス転移温度は、Foxの式より求められる理論値である。
また、(A1)アクリル系重合体のガラス転移温度は、30℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度が30℃以下であることにより、硬化前の保護膜形成層のウエハの表面形状への追従性が維持される。その結果、チップに対する高い接着性を確保でき、信頼性を良好なものとすることができる。
【0024】
樹脂層αは、エポキシ基含有単量体由来成分を全く含まず、またその含有量が少ない量に抑えられることで、保護膜において(A1)成分に富む相と、後述する(B1)成分の硬化物に富む相が相分離しやすくなり、保護膜付きチップの信頼性が向上する。これは、チップ実装後に温度変化を経た場合であっても、温度変化に起因した変形による応力を、柔軟な(A1)に富む相が緩和するために、応力による保護膜の剥離が生じにくくなるためと推定される。また、熱硬化後の樹脂層αにおける相分離は、(A1)に富む相が連続相を形成していることが好ましい。これにより、上述した信頼性向上の効果をさらに高めることができる。なお、ここでいう(A1)成分は、(A1)成分が架橋されている場合、(A1)成分の架橋物も含めたものとする。
【0025】
(A1)に富む相と(B1)の硬化物に富む相は、たとえばラマン散乱分光測定により、ある相の測定チャートから、どのような物質がその相の主成分となっているかを観察することで判別することができる。また、相分離構造の大きさがラマン分光法の分解能以下の場合、SPM(走査型プローブ顕微鏡)のタッピングモード測定の硬さを指標に、より硬い方が(B1)成分の硬化物に富む相であり、より柔らかい方が(A1)成分に富む相であることを推定することができる。そのため、本発明では、保護膜形成用フィルムを硬化して得た保護膜を、ラマン散乱分光測定やSPM観察することにより、相分離構造が形成されているか否かを確認できる。
【0026】
なお、(A1)アクリル系重合体は、樹脂層αの全質量(固形分換算)に占める割合として、通常5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%である。
【0027】
<(A2)重合体>
樹脂層βに含有される(A2)重合体は、樹脂層βに可撓性、シート形状維持性を付与することを主目的とした成分である。(A2)重合体は、樹脂層αに含有される(A1)アクリル系重合体と異なる重合体である。ここで、(A1)アクリル系重合体と異なる重合体とは、アクリル系重合体であるが、その組成が(A1)アクリル系重合体と異なる(A2-1)アクリル系重合体であるか、或いは、重合体の種類自体が異なり、アクリル系重合体以外の重合体であるもののいずれかである。(A2)重合体として使用されるアクリル系重合体以外の重合体としては、好ましくはフェノキシ樹脂が挙げられる。
本発明において、樹脂層βは、(A1)アクリル系重合体と異なる重合体である(A2)重合体を含有することにより、樹脂層αと異なる特性を持つことができる。そのため、樹脂層βのグロス値を高いものとして、樹脂層βのレーザー印字性を良好にすることができる。
【0028】
((A2-1)アクリル系重合体)
(A2)重合体として使用される(A2-1)アクリル系重合体は、エポキシ基含有単量体と、他の単量体とを共重合して得られるアクリル系重合体であって、そのエポキシ基含有単量体が(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の8質量%より高い割合で含有されるもの、又は、ガラス転移温度が−3℃未満であるアクリル系重合体であることが好ましい。
(A2-1)アクリル系重合体は、エポキシ基含有単量体の割合が8質量%より多くなることで、後述するように(A2)成分と(B2)成分の硬化物との相溶性が向上する。その結果、樹脂層βの硬化後のグロス値が高くなることで、レーザー印字性が向上しやくなる。また、エポキシ基含有単量体を8質量%より高い割合で含まなくても、ガラス転移温度が−3℃未満であることにより、後述するグロス値を高くしやすく、印字の認識性を高くすることができる。特に、樹脂層βが含有する(E2)充填材の粒径が相対的に大きい場合、例えば1μm以上である場合において、(A2-1)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃未満であることにより、後述するグロス値を高く維持できる傾向がある。また、この場合における上記の傾向は、樹脂層βにおける(E2)充填材の含有量が多いほど顕著である。この理由は、次のとおりと考えられる。(E2)充填材の粒径が相対的に大きい場合には、熱硬化中の樹脂層βの体積収縮により(E2)充填材に起因した凹凸が樹脂層βの表面に現れ、グロス値の低下の原因となりうる。しかしながら、(A2-1)アクリル系重合体のガラス転移温度が−3℃未満であると、樹脂層βの体積収縮が緩和されやすい。したがって、樹脂層βのグロス値の低下を抑制できる。
また、(A2-1)アクリル系重合体は、エポキシ基含有単量体を8質量%より多く含み,かつガラス転移温度が−3℃未満であれば、レーザー印字性が更に向上するためより好ましい。
【0029】
上記の観点からエポキシ基含有単量体は、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の10質量%以上の割合で含有されることが特に好ましい。また、エポキシ基含有単量体は、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の30質量%以下の割合で含有されることが好ましく、25質量%以下の割合で含有されることがより好ましい。なお、エポキシ基含有単量体の、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体に占める質量割合が、かかる上限以下の範囲にあれば、(A2-1)アクリル系重合体のガラス転移温度を−3℃未満とすることがより容易となる。
また、(A2-1)アクリル系重合体のガラス転移温度は、上記の観点から−10℃以下であることがより好ましく、−15℃以下であることが特に好ましい。また、(A2-1)アクリル系重合体のガラス転移温度は、−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましい。
【0030】
(A2-1)アクリル系重合体を構成する単量体は、より具体的にはエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルおよび非アクリル系エポキシ基含有単量体から選択される1種以上のエポキシ基含有単量体と、エポキシ基を有しない各種の(メタ)アクリル酸エステル及び/又は非アクリル系エポキシ基非含有単量体とからなる。この場合、エポキシ基含有単量体が非アクリル系エポキシ基含有単量体のみからなる場合は、アクリル系重合体を構成する単量体は、エポキシ基を有しない各種の(メタ)アクリル酸エステルを含む。
エポキシ基含有単量体としては、上記(A1)アクリル系重合体に使用可能なものとして列挙したものが使用可能であり、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルが使用されることが好ましい。
【0031】
(A2-1)アクリル系重合体を構成する単量体は、エポキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステルとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの炭素数の増減や、異なる炭素数の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの組み合わせにより、(A2-1)アクリル系重合体のガラス転移温度を調整することが容易となる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の45質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の90質量%以下であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、上記で(A1)アクリル系重合体に使用可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして列挙したものが適宜使用される。
【0032】
(A2-1)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の12質量%より多い量で含有することが好ましい。これにより、ガラス転移温度が低くなってグロス値が向上して、レーザー印字の識別性を向上させることができる。このような観点から、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの上記含有量は、より好ましくは15質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。
また、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの上記含有量は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下、特に好ましくは60質量%以下である。このように、含有量を所定の上限値以下とすると、(B2)成分との相溶性が向上して、グロス値をより高い値とすることが可能になる。
当該(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が2〜6である(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等が好ましく、炭素数が4である(メタ)アクリル酸ブチルがより好ましい。
【0033】
また、(A2-1)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、アルキル基の炭素数が1である(メタ)アクリル酸メチルを含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸メチルを含有することにより、(A2-1)アクリル系重合体の極性を低下させ、(B2)成分との相溶性を良好にすることができる。その結果、樹脂層βのグロス値を向上させることができる。
これらの観点から、(メタ)アクリル酸メチルは、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の1質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸メチルは、(A2-1)アクリル系重合体を構成する全単量体の75質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
(A2−1)アクリル系重合体を構成する単量体が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステル全体における、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアルキル基の炭素数が1である(メタ)アクリル酸メチルの質量比率は、15/85〜100/0であることが好ましい。これにより、(A2-1)アクリル系重合体を構成する単量体のガラス転移温度を−3℃未満とすることが容易となる。また、この質量比率は、35/70〜90/10であることがより好ましい。
【0035】
さらに、(A2-1)アクリル系重合体を構成する単量体は、エポキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステルとして、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルにより、アクリル系共重合体に水酸基が導入されると、粘着特性等のコントロールが容易になる。水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記で(A1)アクリル系重合体に使用可能な水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとして列挙した化合物を適宜使用することができる。
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルは、(A2)アクリル系重合体を構成する全単量体の1〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
また、(A2-1)アクリル系重合体を構成する単量体は、上記したようにスチレン、エチレン、ビニルエーテル、酢酸ビニル等の非アクリル系エポキシ基非含有単量体を含んでいてもよい。
【0037】
(A2-1)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、樹脂層βに可撓性、造膜性を付与できるとともに、後述するグロス値を20以上としやすくするために、10,000以上であることが好ましい。また、上記重量平均分子量は、より好ましくは15,000〜1,000,000、さらに好ましくは20,000〜500,000である。
【0038】
樹脂層βは、熱硬化後、(A2)成分に富む相と、後述する(B2)成分の硬化物に富む相が相溶していることが好ましい。このような相溶状態となると、グロス値が上がり、樹脂層βに対するレーザー印字性が向上する。これは相溶することにより、硬化後の樹脂層表面の平滑性が向上したためだと推察する。なお、ここでいう(A2)成分は、(A2)成分が架橋されている場合、(A2)成分の架橋物も含めたものとする。
(A2)成分に富む相と、(B2)成分の硬化物に富む相の判別方法は、上記した(A1)に富む相と(B1)の硬化物に富む相の判別方法と同様である。
【0039】
(A2)重合体は、樹脂層βの全質量(固形分換算)に占める割合として、通常5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%である。
【0040】
<(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分>
樹脂層α、βそれぞれに使用される(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分は、硬化により硬質の保護膜を半導体チップ上に形成させるための成分であり、通常、エポキシ系化合物および熱硬化剤からなる。
樹脂層αにおいて、(B1)エポキシ系硬化性成分中のエポキシ系化合物に対する(A1)アクリル系重合体の質量比(以下単に“質量比X1”ともいう)は、0.25以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。また、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。質量比X1を上記範囲にすることにより、後述する剥離シートとの剥離力が適切となり、剥離シートを保護膜形成用フィルムから剥離する際の剥離不良等が防止できる。また、質量比X1を上記下限値以上に制限することで、樹脂層αにおいて(A1)成分に富む相が連続相となりやすく、半導体チップの信頼性を高めることができる。
【0041】
また、樹脂層βにおいて、(B2)エポキシ系硬化性成分中のエポキシ系化合物に対する(A2)重合体の質量比(以下単に“質量比X2”ともいう)は、0.25以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。また、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。質量比X2が上記範囲にすることにより、後述する支持シートとの剥離力が適切となり、支持シートを保護膜形成用フィルムから剥離する際の剥離不良等が防止できる。また、質量比X2を上記下限値以上の範囲に制限することで、樹脂層βにおいて(A2)成分と(B2)成分の硬化物が相溶状態となって、グロス値が高い値になりやすい。
【0042】
上記質量比X1と、質量比X2は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
これら質量比が互いに異なる場合には、質量比X1と質量比X2のうち、いずれか小さいものの、いずれか大きいものに対する割合が、0.35以上であることが好ましく、より好ましくは0.6以上であり、さらに好ましくは0.85以上である。このように、質量比X1と、質量比X2を互いに近似させ、或いは同一にすると、樹脂層α、βを加熱等した場合の寸法変化率が互いに近似したものとなり、樹脂層αと樹脂層βの間で層間剥離が生じたりすることが防止されることによって、さらに保護膜付きチップの信頼性を向上させることができる。
【0043】
(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分に使用されるエポキシ系化合物としては、従来公知のエポキシ化合物を用いることができる。具体的には、ビフェニル化合物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分に使用される熱硬化剤は、エポキシ化合物に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0045】
フェノール性水酸基を有するフェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミノ基を有するアミン系硬化剤の具体的な例としては、ジシアンジアミドが挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0046】
また、各樹脂層α、βにおける熱硬化剤の含有量は、エポキシ化合物100質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましく、0.5〜50質量部であることがより好ましく、1〜20質量部であることがさらに好ましい。熱硬化剤の含有量を上記下限値以上とすることで、(B1)(B2)成分が硬化して、樹脂層α、βの接着性を得やすくなる。また、上記上限値以下とすることで、保護膜形成用フィルムの吸湿率が抑えられ、半導体装置の信頼性を良好にしやすくなる。
【0047】
(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分それぞれは、樹脂層α、βそれぞれの全質量(固形分換算)に占める割合として、通常5〜60質量%、好ましくは10〜40質量%程度である。また、(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分に使用される成分は、互いに同一であってもよいが、異なっていてもよい。
【0048】
<(C1)(C2)硬化促進剤>
樹脂層α及び樹脂層βそれぞれには、エポキシ化合物の硬化速度を調整するために、(C1)硬化促進剤、及び(C2)硬化促進剤がそれぞれ配合されてもよい。
好ましい(C1)(C2)硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
(C1)(C2)硬化促進剤はそれぞれ、(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部の量で含まれる。(C1)(C2)硬化促進剤を上記範囲の量で配合することにより、保護膜形成用フィルムは高温度高湿度下に曝されても優れた接着特性を有し、厳しい条件に曝された場合であっても高い信頼性を達成することができる。
なお、(C1)(C2)硬化促進剤は、それぞれ(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分100質量部に対して、互いに同じ質量部配合されてもよいし、異なる質量部配合されていてもよい。また、(C1)(C2)硬化促進剤はそれぞれ、同じ種類の硬化促進剤が使用されてもよいし、異なる種類の硬化促進剤が使用されてもよい。
【0049】
<(D1)(D2)着色剤>
本発明において、樹脂層βは、(D2)着色剤を含有する。また、樹脂層αは、(D1)着色剤を含有していてもよい。樹脂層βは、(D2)着色剤を含有することで、保護膜形成用フィルムを硬化して得た保護膜に、製品番号やマーク等を印字した際の文字の識別性を向上させることができる。すなわち、半導体チップの保護膜を形成した背面には、品番等が通常レーザーマーキング法により印字されるが、樹脂層βが(D2)着色剤を含有することで、印字部分と、非印字部分のコントラスト差が大きくなり識別性が向上する。
また、樹脂層α及び樹脂層βは、(D1)(D2)着色剤を含有することで、保護膜付きチップを機器に組み込んだ際、周囲の装置から発生する赤外線等を遮蔽して、半導体チップの誤作動を防止することができる。
【0050】
(D1)(D2)着色剤としては、有機または無機の顔料又は染料が用いられる。染料としては、酸性染料、反応染料、直接染料、分散染料、カチオン染料等のいずれの染料であっても用いることが可能である。また、顔料も、特に制限されず、公知の顔料から適宜選択して用いることができる。
これらの中では、電磁波や赤外線の遮蔽性が良好で、かつレーザーマーキング法による識別性をより向上させることが可能な黒色顔料がより好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。半導体チップの信頼性を高める観点からは、カーボンブラックが特に好ましい。着色剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D1)(D2)着色剤の含有率はそれぞれ、樹脂層α、βの全質量(固形分換算)に占める割合として、好ましくは0.01〜25質量%、より好ましくは0.03〜15質量%である。
なお、(D1)(D2)着色剤の含有率は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、(D1)(D2)着色剤は同じ種類の着色剤が使用されてもよいし、異なる種類の着色剤が使用されてもよい。
【0051】
<(E1)(E2)充填材>
本発明において、樹脂層βは、(E2)充填材を含有するものである。また、樹脂層αは、(E1)充填材を含有することが好ましい。
(E1)(E2)充填材は、保護膜に耐湿性、寸法安定性などを与える成分であって、具体的には無機フィラー等が挙げられる。また、樹脂層βにおいて、レーザーマーキング(レーザー光により保護膜表面を削り取り印字を行う方法)が施されてレーザー光により削り取られた部分(印字部分)は、(E2)充填材が露出して反射光を拡散させるため、非印字部分とのコントラストが向上し認識可能になる。
好ましい無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、球形ビーズ等を破砕したもの、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。これらのなかでは、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが特に好ましい。また、樹脂層βに使用される無機フィラーは、その形状が球形であると、グロス値をより向上できるため好ましい。
無機フィラー等の充填材は、平均粒径が例えば0.3〜50μm、好ましくは0.5〜10μmであるが、樹脂層βに使用される無機フィラー等の充填材は、特に好ましくは1〜5μmである。このような範囲であれば、樹脂層βにおけるグロス値を向上させやすくなる。また、樹脂層βの表面をレーザー等で削り取った際に、その部分に無機フィラーに起因した凹凸が形成されやすい。このため、レーザー等で削り取られていない部分とのコントラストが向上し、印字の認識性が向上する効果がある。平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。具体的な粒度分布測定装置としては、日機装社製のNanotrac150等が挙げられる。
上記無機フィラーは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、樹脂層αと、樹脂層βにおいて使用される(E1)(E2)充填材それぞれは、同種のものであってもよいが、互いに異なるものが使用されてもよい。
【0052】
樹脂層αにおける(E1)充填材は、樹脂層αの全質量(固形分換算)に占める割合(含有率)として、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。また、(E1)充填材の上記含有率は、80質量%以下であることが好ましく,70質量%以下であることがより好ましく,60質量%以下であることがさらに好ましい。
一方、樹脂層βにおける(E2)充填材は、樹脂層βの全質量(固形分換算)に占める割合(含有率)として、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、(E2)充填材の上記含有率は、80質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
(E1)(E2)充填材の含有率をこれら範囲とすることで、上記した充填材の効果を発揮しやすくなる。
また、樹脂層βでは、(E2)充填材の含有率を20質量%以上とすることで、レーザーマーキングされた印字部と非印字部のコントラストがより向上し、印字の認識性を高度のものとすることができる。また、樹脂層βにおける(E2)充填材の含有率を比較的低く抑えることで、グロス値は高くしやすくなり、印字の認識性をより高度のものとすることができる。そのような観点からは(E2)充填材の含有率は、40質量%以下とすることが好ましい。
【0053】
<(F1)(F2)カップリング剤>
樹脂層α、βには、それぞれ(F1)カップリング剤及び(F2)カップリング剤それぞれが配合されていてもよい。カップリング剤は、樹脂層α、β中のポリマー成分と、被着体である半導体チップ表面や充填材表面とを結合して、接着性や凝集性を高めるための成分である。
(F1)(F2)カップリング剤としては、シランカップリング剤が好ましい。また、(F1)(F2)カップリング剤としては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基を有し、かつ、(A1)アクリル系重合体又は(A2)重合体や、(B1)(B2)エポキシ系硬化性成分などが有する官能基と反応する、アルコキシ基以外の反応性官能基を有する化合物が好ましく使用される。反応性官能基としては、グリシドキシ基、グリシドキシ基以外のエポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリロキシ基以外のビニル基、メルカプト基等が挙げられる。これらの中では、グリシドキシ基、エポキシ基が好ましい。
【0054】
シランカップリング剤としては、分子量が300未満の低分子量シランカップリング剤が使用されてもよいし、分子量が300以上のオリゴマータイプのシランカップリング剤が使用されてもよいし、それらが併用されてもよい。
低分子量シランカップリング剤としては、具体的にはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどが挙げられる。
オリゴマータイプのシランカップリング剤は、シロキサン骨格を有するオルガノポリシロキサンであるとともに、ケイ素原子に直接結合するアルコキシ基を有するものが好ましい。
(F1)(F2)カップリング剤それぞれの配合率は、樹脂層α、樹脂層βそれぞれの全質量(固形分換算)に占める配合割合として、好ましくは0.01〜10.0質量%、より好ましくは0.1〜3.0質量%である。
なお、(F1)(F2)カップリング剤の配合率は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、(F1)(F2)カップリング剤はそれぞれ、同じ種類のカップリング剤が使用されてもよいし、異なる種類のカップリング剤が使用されてもよい。
【0055】
<その他の添加剤>
樹脂層α、樹脂層βそれぞれには、上記以外の添加剤が適宜配合されていてもよい。その添加剤としては、特に限定されるわけではないが、架橋剤、相溶化剤、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱伝導剤、イオン捕捉剤、ゲッタリング剤、連鎖移動剤、エネルギー線重合性化合物、光重合開始剤等が挙げられる。樹脂層α及び/又は樹脂層βは、例えば、相溶化剤が配合されることにより、(A1)成分に富む相と、(B1)成分の硬化物に富む相の相溶性や、(A2)成分に富む相と、(B2)成分の硬化物に富む相の相溶性を適宜調整して、適切な相分離構造が設計可能となる。
【0056】
<グロス値>
樹脂層βは、上記配合を有することにより、硬化されて得られる樹脂層βの表面(樹脂層α側の面とは反対側の面)のJIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上となるものである。これにより、本発明の保護膜は、樹脂層α側がウエハに接するように貼り付けられ、その後硬化されることで、保護膜の表面であるレーザーマーキングによる被印字面がグロス値20以上になる。そのため、本発明では、印字部と非印字部のコントラストが向上し、印字部分の識別性が良好になる。
上記グロス値は、コントラストをより向上させて、文字の識別性を上げるために、27以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましい。また、グロス値は、特に限定されないが、例えば80以下となる。
なお、グロス値は、特にその調整方法が限定されるわけではないが、例えばエポキシ基含有単量体の量、各種の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量、上述の質量比X2の値、(E2)充填材の種類や含有量を調整し、または、その他の添加剤を添加することにより適宜調整可能である。
【0057】
樹脂層α及び樹脂層βの厚さはそれぞれ、特に限定されないが、好ましくは2〜250μm、より好ましくは4〜200μm、さらに好ましくは6〜150μmである。
樹脂層α及び樹脂層βの厚さは、互いに異なっていてもよいが、同一であってもよい。
【0058】
[保護膜形成用複合シート]
本発明の保護膜形成用フィルムは、通常、支持シート上に剥離可能に形成され、保護膜形成用複合シートとして使用される。本発明の保護膜形成用フィルムは、例えば、支持シート上に、樹脂層β、樹脂層αの順に積層される。また、樹脂層αの上には、支持シートよりも剥離力が小さい軽剥離性の剥離シートが設けられることが好ましい。
【0059】
保護膜形成用フィルムは、支持シートと同形状とすることができる。また、保護膜形成用複合シートは、保護膜形成用フィルムが、ウエハと略同形状又はウエハの形状をそっくり含むことのできる形状に調製され、かつ保護膜形成用フィルムよりも大きなサイズの支持シート上に積層されてなる、事前成形構成をとっていてもよい。
支持シートは、保護膜形成用フィルムを支持するものであって、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルムなどのフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらから選択された2以上の積層フィルムであってもよい。また、これらを着色したフィルムも用いることができる。
支持シートの保護膜形成用フィルムが形成される側の面は、適宜剥離処理が施されていてもよい。剥離処理に用いられる剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系などが挙げられるが、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系の剥離剤が耐熱性を有するので好ましい。
剥離シートも、支持シートと同様に、例えば上記で列挙されたフィルムから選択されるものであり、また、適宜剥離処理が施されてもよい。
【0060】
本発明の保護膜形成用複合シートは、例えば、以下のようにして製造される。
まず、樹脂層βを形成するための上記各成分を適宜の割合で、適当な溶媒中で又は無溶媒で混合してなる樹脂層β形成用組成物を支持シート上に塗布乾燥し、樹脂層βが積層された支持シートを得る。また、樹脂層αを形成するための上記各成分を適宜の割合で、適当な溶媒中で又は無溶媒で混合してなる樹脂層α形成用組成物を、剥離シート上に塗布乾燥し、樹脂層αが積層された剥離シートを得る。このとき、支持シート及び剥離シートに積層された樹脂層α、βは、さらに保護用剥離フィルムが貼り合わされ、保護用剥離フィルムにより保護されてもよい。
次に、保護用剥離フィルムで保護される場合には保護用剥離フィルムが剥離された後、樹脂層βが積層された支持シートと、樹脂層αが積層された剥離シートとを、樹脂層βと、樹脂層αとが貼り合わされるように、重ね合わせて、支持シートの上に、樹脂層β、樹脂層α、及び剥離シートが順に積層された保護膜形成用複合シートを得る。剥離シートは、必要に応じて剥離されてもよい。
また、例えば、支持シートの上に、樹脂層β形成用組成物、樹脂層α形成用組成物を順に塗布乾燥し、これにより、支持シートの上に、樹脂層β、樹脂層αが積層された保護膜形成用複合シートを得ることもできる。
ただし、保護膜形成用複合シートの製造方法は、上記方法に限定されずいかなる方法で製造されてもよい。
【0061】
また、ウェットラミネーションやドライラミネーション、熱溶融ラミネーション、溶融押出ラミネーション、共押出加工などによりフィルムの積層を行うことにより支持シートの表面張力を調整してもよい。すなわち、少なくとも一方の面の表面張力が、上述した支持シートの保護膜形成用フィルムと接する面のものとして好ましい範囲内にあるフィルムを、当該面が保護膜形成用フィルムと接する面となるように、他のフィルムと積層した積層体を製造し、支持シートとしてもよい。
【0062】
また、上記フィルム上に粘着剤層を形成した粘着シートを支持シートとして用いてもよい。この場合、保護膜形成用フィルムは、支持シートに設けられた粘着剤層上に積層される。このような構成とすることで、特に保護膜形成用複合シート上で保護膜形成用フィルムまたは保護膜ごとウエハをチップに個片化する場合に、ウエハやチップの固定性能に優れることとなるため好ましい。粘着剤層を再剥離性粘着剤層とすることで、保護膜形成用フィルムまたは保護膜を支持シートから分離することが容易となるため好ましい。再剥離性粘着剤層は、保護膜形成用フィルムを剥離できる程度の粘着力を有する弱粘着性のものを使用してもよいし、エネルギー線照射により粘着力が低下するエネルギー線硬化性のものを使用してもよい。具体的には、再剥離性粘着剤層は、従来公知の種々の粘着剤(例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系などの汎用粘着剤、表面凹凸のある粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤、熱膨張成分含有粘着剤等)により形成できる。
【0063】
エネルギー線硬化性の再剥離性粘着剤層を用いる場合において、保護膜形成用複合シートが事前成形構成をとるときは、保護膜形成用フィルムが積層される領域に予めエネルギー線照射を行い、粘着性を低減させておく一方、他の領域はエネルギー線照射を行わず、たとえば治具への接着を目的として、粘着力を高いまま維持しておいてもよい。他の領域のみにエネルギー線照射を行わないようにするには、たとえば支持シートの他の領域に対応する領域に印刷等によりエネルギー線遮蔽層を設け、支持シート側からエネルギー線照射を行えばよい。また、同様の効果を得るために、粘着シートにおける粘着剤層上の保護膜形成用フィルムが積層される領域に、保護膜形成用フィルムと略同一形状の再剥離性粘着剤層をさらに積層した構成としてもよい。再剥離性粘着剤用フィルムとしては、上記と同じものを使用することができる。
【0064】
保護膜形成用フィルムが事前成形構成をとらない場合は、保護膜形成用フィルムの表面(被着体と接する面)の外周部には、リングフレーム等の他の治具を固定するために、別途接着剤層や両面粘着テープが設けられていてもよい。保護膜形成用フィルムが事前成形構成をとる場合は、支持シートの外周部における保護膜形成用フィルムの積層されていない領域に、リングフレーム等の他の治具を固定するために、別途接着剤層や両面粘着テープが設けられていてもよい。
【0065】
[保護膜形成用フィルムの使用方法]
保護膜形成用フィルムは、半導体ウエハ、半導体チップ等の被着体に貼付され、その後熱硬化されて保護膜となる。例えば、保護膜形成用複合シートが使用される場合には、保護膜形成用複合シートは、まず、剥離シートで保護されている場合には剥離シートが剥離され、次いで、保護膜形成用フィルムと支持フィルムの積層体が、被着体に貼付された後、支持シートが保護膜形成用フィルムから剥離される。これにより、被着体の上には、被着体側から樹脂層α及び樹脂層βが設けられてなる保護膜形成用フィルムが積層されることになる。
【0066】
以下、保護膜形成用フィルムの使用方法について、保護膜形成用フィルムが、半導体チップの裏面保護用に使用され、保護膜付きチップが製造される例を用いてより詳細に説明するが、以下に示す例に限定されるわけではない。
本方法では、まず、上記保護膜形成用フィルムを半導体ウエハの裏面に積層する。例えば、保護膜形成用複合シートを使用する場合には、保護膜形成用フィルムと基材シートの積層体を半導体ウエハの裏面に貼付する。その後、支持シートを保護膜形成用フィルムから剥離した後、半導体ウエハ上に積層された保護膜形成用フィルムを熱硬化し、ウエハの全面に保護膜を形成する。
なお、半導体ウエハは、シリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。また、半導体ウエハは、その表面に回路が形成されているとともに、裏面が適宜研削等され、厚みが50〜500μm程度とされるものである。
【0067】
次いで、半導体ウエハと保護膜との積層体を、ウエハ表面に形成された回路毎にダイシングする。ダイシングは、ウエハと保護膜をともに切断するように行われ、ダイシングによって半導体ウエハと保護膜との積層体は、複数のチップに分割される。なお、ウエハのダイシングは、ダイシングシートを用いた常法により行われる。次いで、ダイシングされたチップをコレット等の汎用手段によりピックアップすることで、裏面に保護膜を有する半導体チップ(保護膜付きチップ)を得る。
【0068】
なお、半導体チップの製造方法は、以上の例に限定されず、例えば、支持シートの剥離が、保護膜の熱硬化後に行われてもよいし、ダイシングの後に行われてもよい。なお、支持シートの剥離が、ダイシングの後に行われる場合、支持シートはダイシングシートとしての役割を果たすことができる。また、保護膜形成用フィルムの熱硬化は、ダイシングの後に行われてもよい。ただし、保護膜形成用フィルムの樹脂層β側が支持シートと貼り合わされている場合において、保護膜形成用フィルムの熱硬化を支持シートの剥離前に行うと、樹脂層βの硬化後の表面の平滑性が向上する傾向がある。樹脂層βの硬化後のグロス値が高い本発明の保護膜形成用フィルムは、上記のような樹脂膜βの硬化後の表面の平滑性が向上する効果を得られない製造方法、すなわち、保護膜形成用フィルムの熱硬化を、支持シートの剥離よりも後に行う製造方法に特に適している。
また、保護膜形成用フィルムが貼付されるのは、半導体ウエハを分割して得られた複数のチップからなるチップ群であってもよい。このようなチップ群を得る方法としては、半導体ウエハの回路形成面側から、最終的に得られるチップの厚さよりも深い溝を形成し、半導体ウエハの裏面側から溝に到達するまで薄化処理を行うことによって複数のチップに分割する方法(いわゆる先ダイシング法)が挙げられる。チップ群に保護膜形成用フィルムを貼付した場合には、チップ間に存在する間隙に相当する部分の保護膜形成用フィルムをレーザー等により切断して、保護膜形成用フィルムをチップと略同形状に成形することが望ましい。
【0069】
[保護膜付きチップ]
本発明の保護膜付きチップは、例えば上記製造方法により得られ、半導体チップと、該半導体チップの裏面に積層される保護膜とを備え、該保護膜は、上述の保護膜形成用フィルムを硬化させて形成され、チップ裏面を保護するものである。保護膜は、半導体チップ側から樹脂層αと、樹脂層βとが順に積層されたものである。また、保護膜は、半導体チップ側の面とは反対の面(すなわち、樹脂層βの表面)が、JIS Z 8741により測定されるグロス値が20以上となるものである。
保護膜付きチップを、フェースダウン方式で基板等の上に実装することで半導体装置を製造することができる。また、保護膜付きチップは、ダイパッド部または別の半導体チップなどの他の部材上(チップ搭載部上)に接着することにより、半導体装置を製造することもできる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
【0071】
本発明における測定方法、評価方法は以下のとおりである。
(1)重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwを測定した。
測定装置:東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8120GPC」に、高速カラム「TSK guard column HXL−H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結して測定した。
カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分、検出器:示差屈折率計
【0072】
(2)グロス値
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径、厚さ280μm)の研磨面に、剥離シートを剥離した保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムを、テープマウンター(リンテック株式会社製、Adwill RAD-3600 F/12)を用いて70℃に加熱しながら貼付した。次いで、支持シートを剥離した後、130℃で2時間加熱を行うことにより、保護膜形成用フィルムを硬化して、シリコンウエハ上に保護膜を形成した。下記測定装置及び測定条件で、保護膜表面の60度の鏡面光沢度を測定し、グロス値とした。
測定装置:VG 2000 日本電色工業株式会社製
測定条件:JIS Z 8741に準じた
【0073】
(3)文字認識性(印字性)
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径、厚さ280μm)の研磨面に、剥離シートを剥離した保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムをテープマウンター(リンテック株式会社製, Adwill RAD-3600 F/12)を用いて70℃に加熱しながら貼付した。次いで、支持シートを剥離した後、130℃で2時間加熱を行うことにより、保護膜形成用フィルムを硬化して、シリコンウエハに保護膜を形成した。保護膜表面に、レーザー印字装置(パナソニックデバイスSUNX株式会社製 LP−V10U、レーザー波長:1056nm)を用いて、一文字の幅が300μm以下である文字を4文字印字した。得られた印字済みの保護膜面をデジタル顕微鏡で確認し、印字が読み取り可能かを画像で確認した。判断基準は、デジタル顕微鏡の観察時に、直射光で印字部を照らしているとき、十分に読取可能を“A”、読み取り可能だが不鮮明を“B”、読み取り不可能を“F”と表現した。
【0074】
(4)信頼性評価
#2000研磨したシリコンウエハ(200mm径、厚さ280μm)の研磨面に、剥離シートを剥離した保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルムをテープマウンター(リンテック株式会社製、Adwill RAD-3600 F/12)を用いて、70℃に加熱しながら貼付した。次いで、支持シートを剥離した後、130℃で2時間加熱を行うことにより、保護膜形成用フィルムを硬化して、シリコンウエハ上に保護膜を形成した。そして、保護膜側をダイシングテープ(リンテック株式会社製Adwill D-676H)に貼付し、ダイシング装置(株式会社ディスコ製、DFD651)を使用して3mm×3mmサイズにダイシングすることで信頼性評価用の保護膜付きチップを得た。
【0075】
上記信頼性評価用の保護膜付きチップは、まず、半導体チップが実際に実装されるプロセスを模倣した条件(プレコンディション)で処理した。具体的には、保護膜付きチップを125℃で20時間ベイキングし、次いで、85℃、85%RHの条件下に168時間放置して吸湿させ、その後直ちにプレヒート160℃、ピーク温度260℃、加熱時間30秒間の条件のIRリフロー炉に3回通した。これらプレコンディションで処理した保護膜付きチップ25個を、冷熱衝撃装置(ESPEC株式会社製、TSE−11−A)内に設置し、−65℃で10分間保持し、その後150℃で10分間保持するサイクルを1000回繰り返した。
その後、25個の保護膜付きチップを冷熱衝撃装置から取り出して信頼性を評価した。具体的には、チップと保護膜との接合部での浮き・剥がれや保護膜におけるクラックの有無を、走査型超音波探傷装置(日立建機ファインテック株式会社製 Hye‐Focus)および断面観察により評価し、浮き、剥がれおよびクラックのいずれかがあればNGとした。25個のチップのうちのNGの個数を表3に示す。
【0076】
実施例1
[樹脂層α]
実施例1において、樹脂層αを形成する成分は以下の通りであった。
(A1)アクリル系共重合体:メタクリル酸メチル85質量部と、アクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部とを共重合してなるアクリル共重合体
(B1)エポキシ系硬化性成分
エポキシ系化合物:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本触媒株式会社製、BPA−328)と、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、エピクロンHP−7200HH)
熱硬化剤:ジシアンジアミド(株式会社ADEKA製、アデカハードナー3636AS)
(C1)硬化促進剤:2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、キュアゾール2PHZ)
(D1)着色剤:カーボンブラック(三菱化学株式会社製、MA600、平均粒径:28nm)
(E1)充填剤:平均粒径10μmの球形シリカフィラー(株式会社龍森製、SV−10)を粉砕したもの(粉砕後の平均粒径2.0μm)
(F1)シランカップリング剤:オリゴマータイプシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 X−41−1056 メトキシ当量17.1mmol/g、分子量500〜1500)と、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBE−403 メトキシ当量8.1mmol/g、分子量278.4)と、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製 KBM−403 メトキシ当量12.7mmol/g、分子量236.3)
【0077】
[樹脂層β]
実施例1において、樹脂層βを形成する成分は、(A2)重合体として以下の(A2-1)アクリル系共重合体を使用した。その他の(B2)〜(F2)成分については、樹脂層αに使用した(B1)〜(F1)成分それぞれと同じものを使用した。
(A2-1)アクリル系共重合体:アクリル酸n−ブチル55質量部と、アクリル酸メチル10質量部と、アクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部と、メタクリル酸グリシジル20質量部とを共重合してなるアクリル系共重合体
【0078】
[保護膜形成用複合シートの作製]
上記樹脂層αを構成する各材料を表1に示す割合で配合された樹脂層α形成用組成物をメチルエチルケトンで希釈したものを、片面に剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック株式会社製、SP−PET382150、厚さ38μm)である剥離シートの剥離処理面に、乾燥後の厚さが20μmになるように、ナイフ式塗工機で塗布し、樹脂層αとなる塗布層を形成した。次いで、塗布層を110℃、2分間の乾燥処理を施した後、塗布層の露出面に対して厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製の保護用剥離フィルム(リンテック(株)製、SP−PET381031)を貼合し、剥離シートの上に、樹脂層α、保護用剥離フィルムがこの順に積層された積層シートを得た。
樹脂層βについても、同様に、支持シートとなる、片面に剥離処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック株式会社製、SP−PET382150、厚さ38μm)の剥離処理面上に、表2に示す割合で配合された樹脂層β形成用組成物を用いて樹脂層βを作製し、この樹脂層βにさらに保護用剥離フィルムを貼合して、支持シートの上に、樹脂層β、保護用剥離フィルムがこの順に積層された積層シートを得た。
次いで、これら樹脂層α、βを有する積層シートそれぞれから保護用剥離フィルムを剥離し、樹脂層α及び樹脂層βが接するようにラミネーターで積層し、40μmのチップ用保護膜形成用フィルムの両面に、支持シート、剥離シートが設けられてなる保護膜形成用複合シートを得た。
なお、樹脂層α、βに使用した(A1)、(A2‐1)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)及びガラス転移温度(Tg)は表3に示す通りであった。
【0079】
実施例2〜10
樹脂層α、樹脂層βに使用された(A1)アクリル系共重合体、(A2-1)アクリル系共重合体の組成を表3に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様に実施した。
【0080】
実施例11
樹脂層βに使用される(E2)充填材を、平均粒径3μmの球形シリカフィラー(UF−310、株式会社トクヤマ製)に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0081】
実施例12〜14
樹脂層βに使用される(E2)充填材を、平均粒径3μmの球形シリカフィラー(UF−310、株式会社トクヤマ製)に変更し、かつ樹脂層βの各成分の配合量を表2に示すように変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0082】
比較例1
樹脂層βを設けずに、保護膜形成用フィルムを表1、3に示す樹脂層αのみで形成し、樹脂層αを構成する各成分は、表1、3に示す通りとした。また、保護膜形成用複合シートは、以下のようにして形成した。
樹脂層αを形成する材料を、表1に示す割合で配合された保護膜形成用組成物をメチルエチルケトンで希釈し、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック株式会社製、SP−PET5011、厚さ50μm)からなる支持シートの剥離処理面に、乾燥除去後の厚さが25μmとなるように塗布して、100℃で3分間乾燥して、支持シート上に保護膜形成用フィルムを形成した。次いで、その保護膜形成用フィルムに別途剥離シート(リンテック株式会社製、SP−PET3811、厚さ38μm)を重ね合わせ、比較例1の保護膜形成用複合シートを得た。
【0083】
比較例2〜6
(A1)アクリル系重合体の組成を表3に示すように変更した点を除いては、比較例1と同様に実施した。
【0084】
比較例7
樹脂層βを構成するための材料を、表2、3に示すように変更し、樹脂層βに(E2)充填材を配合しなかった点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
各実施例1〜14、比較例1〜7について、グロス値を測定するとともに、文字認識性、及び信頼性を評価した。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
表3から明らかなように、実施例1〜14では、樹脂層αを構成する(A1)アクリル系重合体が、構成モノマーとしてエポキシ基含有単量体を含有せず、または8質量%以下でエポキシ基含有単量体を含有し、ガラス転移温度が−3℃以上となった。保護膜は、このような構成により、チップから剥離しにくくなり、信頼性が良好なものとなった。
また、樹脂層βを構成する(A2)重合体は、(A1)アクリル系重合体と異なる組成の(A2-1)アクリル系共重合体が使用された。そのため、樹脂層βは、設計の自由度が向上して、レーザー印字特性に優れた樹脂層にすることができ、文字認識性が優れたものとなった。
【0090】
一方で、比較例1〜6は、保護膜形成用フィルムが単層構造であるため、保護膜設計の自由度が低く、信頼性と文字認識性の両方を優れたものとすることができなかった。また、比較例7では、保護膜形成用フィルムが樹脂層α、βの2層からなるものであったが、樹脂層βが充填材を含有していなかったため、グロス値が高い値となっても、文字認識性を良好にすることができなかった。