(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で得られるポリアニオン正極活物質に用いられるポリアニオン材料は、下記式(A)、(B)又は(C):
LiFe
aMn
bM
cPO
4・・・(A)
(式(A)中、MはMg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦0.2、及び2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たし、かつa+b≠0を満たす数を示す。)
Li
2Fe
dMn
eN
fSiO
4・・・(B)
(式(B)中、NはNi、Co、Al、Zn、V又はZrを示す。d、e及びfは、0≦d≦1、0≦e≦1、0≦f<1、及び2d+2e+(Nの価数)×f=2を満たし、かつd+e≠0を満たす数を示す。)
NaFe
gMn
hQ
iPO
4・・・(C)
(式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。を示す。g、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、0≦i<1、及び2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数を示す。)
のいずれかの式で表される。
これらのポリアニオン材料は、いずれもオリビン型構造を有しており、少なくとも鉄又はマンガンを含む。上記式(A)又は式(B)で表されるポリアニオン材料からなるポリアニオン正極活物質は、いわゆるリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、上記式(C)で表されるポリアニオン材料から成るポリアニオン正極活物質は、いわゆるナトリウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0018】
上記式(A)で表されるポリアニオン材料は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型リン酸遷移金属リチウム化合物である。式(A)中、Mは、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、Zr、Mo又はCoである。aは、0≦a≦1であって、好ましくは0.01≦a≦0.99であり、より好ましくは0.1≦a≦0.9である。bは、0≦b≦1であって、好ましくは0.01≦b≦0.99であり、より好ましくは0.1≦b≦0.9である。cは、0≦c≦0.2であって、好ましくは0≦c≦0.1である。そして、これらb1及びcは、2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たし、かつa+b≠0を満たす数である。上記式(A)で表されるポリアニオン材料としては、具体的には、例えばLiFe
0.9Mn
0.1PO
4、LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、LiFe
0.15Mn
0.75Mg
0.1PO
4、LiFe
0.19Mn
0.75Zr
0.03PO
4等が挙げられ、なかでもLiFe
0.2Mn
0.8PO
4が好ましい。
【0019】
上記式(B)で表されるポリアニオン材料は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物である。式(B)中、Nは、Ni、Co、Al、Zn、V又はZrを示し、好ましくはCo、Al、Zn、V又はZrである。dは、0≦d≦1であって、好ましくは0≦d<1であり、より好ましくは0.1≦d≦0.6である。eは、0≦d≦1であって、好ましくは0≦e<1であり、より好ましくは0.1≦e≦0.6である。fは、0≦f<1であって、好ましくは0<f<1であり、より好ましくは0.05≦f≦0.4である。そして、これらd、e及びfは、2d+2e+(Nの価数)×f=2を満たし、かつd+e≠0を満たす数である。上記式(B)で表されるポリアニオン材料としては、具体的には、例えばLi
2Fe
0.45Mn
0.45Co
0.1SiO
4、Li
2Fe
0.36Mn
0.54Al
0.066SiO
4、Li
2Fe
0.45Mn
0.45Zn
0.1SiO
4、Li
2Fe
0.36Mn
0.54V
0.066SiO
4、Li
2Fe
0.282Mn
0.658Zr
0.02SiO
4等が挙げられ、なかでもLi
2Fe
0.282Mn
0.658Zr
0.02SiO
4が好ましい。
【0020】
上記式(C)で表されるポリアニオン材料は、いわゆる少なくとも遷移金属として鉄(Fe)及びマンガン(Mn)を含むオリビン型リン酸遷移金属ナトリウム化合物である。式(C)中、QはMg、Ca、Co、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示し、好ましくはMg、Zr、Mo又はCoである。gは、0≦g≦1であって、好ましくは0<g≦1である。hは、0≦h≦1であって、好ましくは0.5≦h<1である。iは、0≦i<1であって、好ましくは0≦i≦0.5であり、より好ましくは0≦i≦0.3である。そして、これらg、h及びiは、0≦g≦1、0≦h≦1、及び0≦i<1、2g+2h+(Qの価数)×i=2を満たし、かつg+h≠0を満たす数である。上記式(C)で表されるポリアニオン材料としては、具体的には、例えばNaFe
0.9Mn
0.1PO
4、NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、NaFe
0.15Mn
0.7Mg
0.15PO
4、NaFe
0.19Mn
0.75Zr
0.03PO
4、NaFe
0.19Mn
0.75Mo
0.03PO
4、NaFe
0.15Mn
0.7Co
0.15PO
4等が挙げられ、なかでもNaFe
0.2Mn
0.8PO
4が好ましい。
【0021】
本発明のポリアニオン系正極活物質は、上記式(A)、(B)又は(C)で表されるポリアニオン材料の粒子表面に、炭素と、酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムとが担持されている。すなわち、上記ポリアニオン材料の粒子表面には、これら炭素又は無機化合物の一方が存在することなくポリアニオン材料の粒子表面が露出した部位に、これを補うものとして他方が有効に担持してなる。したがって、これら炭素と特定の無機化合物とが相まって上記ポリアニオン材料の粒子表面の露出を効果的に抑制しながら、かかるポリアニオン材料の粒子全表面を包埋しつつ堅固に担持されてなるため、これから得られるポリアニオン系正極活物質を二次電池用正極として用いた際、FeやMn等の金属の電解液への溶出や、充放電時における活物質粒子の体積変化を有効に抑制し、高温環境下において優れたサイクル特性を発現することができるものと推定される。
【0022】
かかる炭素は、炭素源由来の炭素であり、かかる炭素源としては、具体的には、セルロースナノファイバー(略称:CNF)が挙げられるほか、セルロースナノファイバー以外の水不溶性導電性炭素材料、及び水溶性炭素材料が挙げられる。
セルロースナノファイバーとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、セルロースナノファイバー由来の炭素は、周期的構造を有する。かかるセルロースナノファイバーの繊維径は、1nm〜500μmであり、水への良好な分散性も有している。また、セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子鎖では、炭素による周期的構造が形成されていることから、これが炭化されつつ上記無機化合物とも相まって、ポリアニオン材料の粒子表面に堅固に担持されることにより、高温環境下におけるサイクル特性を向上させることのできる有用な正極活物質を得ることができる。
【0023】
また、上記炭素源としての水不溶性導電性炭素材料とは、セルロースナノファイバー以外の炭素源であり、25℃の水100gに対する溶解量が、水不溶性導電性炭素材料の炭素原子換算量で0.4g未満である水不溶性の炭素材料であって、焼成等せずともそのもの自体が導電性を有する炭素源である。かかる水不溶性導電性炭素材料としては、グラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、特定の無機化合物と相まって、ポリアニオン材料の粒子表面に効果的に担持させる観点から、グラファイトが好ましい。グラファイトとしては、人造グラファイト(鱗片状、塊状、土状、グラフェン)、天然グラファイトのいずれであってもよい。
【0024】
水不溶性導電性炭素材料のBET比表面積は、高温環境下におけるサイクル特性を効果的に高める観点から、好ましくは1〜750m
2/gであり、より好ましくは3〜500m
2/gである。また、かかる水不溶性導電性炭素材料の平均粒子径は、同様の観点から、好ましくは0.5〜20μmであり、より好ましくは1.0〜15μmである。
【0025】
さらに、上記炭素源としての水溶性炭素材料とは、25℃の水100gに、水溶性炭素材料の炭素原子換算量で0.4g以上、好ましくは1.0g以上溶解する炭素材料を意味し、炭化されることで炭素として上記ポリアニオン材料の粒子表面に存在する。かかる水溶性炭素材料としては、例えば、糖類、ポリオール、ポリエーテル、及び有機酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、溶媒への溶解性及び分散性を高めて炭素材料として効果的に機能させる観点から、グルコース、フルクトース、スクロース、デキストリンが好ましく、グルコースがより好ましい。
【0026】
これら炭素源のなかでも、上記特定の無機化合物と相まって、効果的に高温環境下におけるサイクル特性を高める観点から、セルロースナノファイバーが好ましい。
【0027】
本発明のポリアニオン系正極活物質における炭素の担持量は、これら炭素源の炭素原子換算量に相当し、かかる炭素源が、後述する無機化合物とともに、上記ポリアニオン材料の粒子表面に担持された炭素(炭素源由来の炭素)として本発明のポリアニオン系正極活物質中に共存することとなる。かかる炭素の担持量(炭素源由来の炭素の原子換算量)は、本発明のポリアニオン系正極活物質中に、好ましくは0.3〜10.0質量%であり、より好ましくは0.5〜8.0質量%であり、さらに好ましくは0.7〜5.0質量%である。
【0028】
具体的には、炭素源がセルロースナノファイバーである場合、かかるセルロースナノファイバー由来の炭素の原子換算量(炭素の担持量)は、本発明のポリアニオン系正極活物質中に、好ましくは0.3〜8.0質量%であり、より好ましくは0.5〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.7〜4.0質量%である。また、炭素源が上記水不溶性導電性炭素材料である場合、かかる水不溶性導電性炭素材料由来の炭素の原子換算量(炭素の担持量)は、本発明のポリアニオン系正極活物質中に、好ましくは0.5〜10.0質量%であり、より好ましくは1.0〜8.0質量%であり、さらに好ましくは1.5〜5.0質量%である。さらに、炭素源が上記水溶性炭素材料である場合、かかる水溶性炭素材料由来の炭素の原子換算量(炭素の担持量)は、本発明のポリアニオン系正極活物質中に、好ましくは0.5〜10.0質量%であり、より好ましくは0.7〜8.0質量%であり、さらに好ましくは1.0〜5.0質量%である。
なお、ポリアニオン系正極活物質中に存在する炭素源由来の炭素の原子換算量(炭素の担持量)は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した炭素量として、確認することができる。
【0029】
本発明のポリアニオン系正極活物質は、上記ポリアニオン材料の粒子表面に、炭素とともに、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムが担持されている。炭素単独では、充分にポリアニオン材料の粒子表面を覆い尽くすことが困難であるところ、これら無機化合物を用いることによって、ポリアニオン材料の粒子表面に残存する炭素が担持されていない部位に、かかる無機化合物が薄層化されながら有効に担持され、導電性を損なうことなく、高温環境下において優れたサイクル特性を発現することができるものと推定される。
【0030】
これら酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムを上記ポリアニオン材料の粒子表面に担持させるには、これら酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムを生成する亜鉛塩及び/又はアルミニウム塩を用いる。かかる亜鉛塩及び/又はアルミニウム塩は、焼成工程を経ることによって酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムを生成する塩であればよい。
【0031】
酸化亜鉛を生成する亜鉛塩としては、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、乳酸亜鉛、コハク酸亜鉛、酒石酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛アルコキシド、及びこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、不要な電池性能の低下を防止する観点、及び入手容易性の観点から、酢酸亜鉛、塩化亜鉛が好ましい。
【0032】
酸化アルミニウムを生成するアルミニウム塩としては、乳酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、グルコン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、及びこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、不要な電池性能の低下を防止する観点、及び入手容易性の観点から、乳酸アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましい。
【0033】
本発明のポリアニオン系正極活物質における酸化亜鉛及び酸化アルミニウムの担持量は、炭素と相まって、効果的に高温環境下におけるサイクル特性を高める観点、及び可能なかぎり酸化亜鉛や酸化アルミニウムを薄層化して、高い電池容量を良好に保持する観点から、本発明のポリアニオン系正極活物質中に、好ましくは0.01〜3.0質量%であり、より好ましくは0.05〜2.5質量%であり、さらに好ましくは0.1〜2.0質量%である。より具体的には、酸化亜鉛の担持量は、本発明のポリアニオン系正極活物質中に、好ましくは0.01〜2.5質量%であり、より好ましくは0.05〜2.0質量%であり、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%である。また、酸化アルミニウムの担持量は、本発明のポリアニオン系正極活物質中に、好ましくは0.05〜3.0質量%であり、より好ましくは0.1〜2.5質量%であり、さらに好ましくは0.2〜2.0質量%である。
【0034】
本発明のポリアニオン系正極活物質の製造方法は、
リチウム化合物又はナトリウム化合物を含む混合物Xに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Xを得る工程(I)、
得られた複合体Xと、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Yを水熱反応に付して複合体Yを得る工程(II)、並びに
得られた複合体Yに、酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムを生成する亜鉛塩及び/又はアルミニウム塩を添加して、焼成する工程(III)
を備え、かつ
工程(I)又は工程(III)が、炭素源を添加する工程を含む。
【0035】
工程(I)は、リチウム化合物又はナトリウム化合物を含む混合物Xに、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合して複合体Xを得る工程である。
用い得るリチウム化合物又はナトリウム化合物としては、水酸化物(例えばLiOH・H
2O、NaOH)、炭酸化物、硫酸化物、酢酸化物が挙げられる。なかでも、水酸化物が好ましい。
混合物Xにおけるリチウム化合物又はケイ酸化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部であり、より好ましくは7〜45質量部である。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、混合物Xにおけるリチウム化合物又はナトリウム化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部であり、より好ましくは10〜45質量部である。また、ケイ酸化合物を用いた場合、混合物Xにおけるケイ酸化合物の含有量は、水100質量部に対し、好ましくは5〜40質量部であり、より好ましくは7〜35質量部である。
【0036】
ここで、例えば、炭素源としてセルロースナノファイバーを用いる場合、かかる工程(I)は、セルロースナノファイバーを添加する工程を含む。この場合、具体的には、リチウム化合物又はナトリウム化合物を含む混合物Xに、セルロースナノファイバーを添加して含ませればよい。混合物Xにおけるセルロースナノファイバーの含有量は、例えば混合物X中の水100質量部に対し、好ましくは0.5〜60質量部であり、より好ましくは0.8〜40質量部である。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、混合物Xにおけるセルロースナノファイバーの含有量は、好ましくは0.5〜20質量部であり、より好ましくは0.8〜15質量部である。また、ケイ酸化合物を用いた場合、混合物Xにおけるセルロースナノファイバーの含有量は、好ましくは0.5〜60質量部であり、より好ましくは1〜40質量部である。
【0037】
混合物Xにリン酸化合物又はケイ酸化合物を混合する前に、予め混合物Xを撹拌しておくのが好ましい。かかる混合物Xの撹拌時間は、好ましくは1〜15分であり、より好ましくは3〜10分である。また、混合物Xの温度は、好ましくは20〜90℃であり、より好ましくは20〜70℃である。
【0038】
工程(I)で用いるリン酸化合物としては、オルトリン酸(H
3PO
4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでもリン酸を用いるのが好ましく、70〜90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。かかる工程(I)では、混合物Xにリン酸を混合するにあたり、混合物Xを撹拌しながらリン酸を滴下するのが好ましい。混合物Xにリン酸を滴下して少量ずつ加えることで、混合物X中において良好に反応が進行して、複合体Xがスラリー中で均一に分散しつつ生成され、かかる複合体Xが不要に凝集するのをも効果的に抑制することができる。
【0039】
リン酸の上記混合物Xへの滴下速度は、好ましくは15〜50mL/分であり、より好ましくは20〜45mL/分であり、さらに好ましくは28〜40mL/分である。また、リン酸を滴下しながらの混合物Xの撹拌時間は、好ましくは0.5〜24時間であり、より好ましくは3〜12時間である。さらに、リン酸を滴下しながらの混合物Xの撹拌速度は、好ましくは200〜700rpmであり、より好ましくは250〜600rpmであり、さらに好ましくは300〜500rpmである。
なお、混合物Xを撹拌する際、さらに混合物Xの沸点温度以下に冷却するのが好ましい。具体的には、80℃以下に冷却するのが好ましく、20〜60℃に冷却するのがより好ましい。
【0040】
工程(I)で用いるケイ酸化合物としては、反応性のあるシリカ化合物であれば特に限定されず、非晶質シリカ、Na
4SiO
4(例えばNa
4SiO
4・H
2O)等が挙げられる。
【0041】
リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物Xは、リン酸又はケイ酸1モルに対し、リチウム又はナトリウムを2.0〜4.0モル含有するのが好ましく、2.0〜3.1モル含有するのがより好ましく、このような量となるよう、上記リチウム化合物又はナトリウム化合物と、リン酸化合物又はケイ酸化合物を用いればよい。より具体的には、工程(I)においてリン酸化合物を用いた場合、リン酸化合物を混合した後の混合物Xは、リン酸1モルに対し、リチウム又はナトリウムを2.7〜3.3モル含有するのが好ましく、2.8〜3.1モル含有するのがより好ましく、工程(I)においてケイ酸化合物を用いた場合、ケイ酸化合物を混合した後の混合物Xは、ケイ酸1モルに対し、リチウムを2.0〜4.0モル含有するのが好ましく、2.0〜3.0含有するのがより好ましい。
このような量となるよう、上記リチウム化合物又はナトリウム化合物と、リン酸化合物又はケイ酸化合物を用いればよい。
【0042】
リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物Xに対して窒素をパージすることにより、かかる混合物中での反応を完了させて、上記(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料の前駆体である複合体Xを混合物中に生成させる。窒素がパージされると、混合物X中の溶存酸素濃度が低減された状態で反応を進行させることができ、また得られる複合体Xを含有する混合物中の溶存酸素濃度も効果的に低減されるため、次の工程で添加する鉄化合物やマンガン化合物等の酸化を抑制することができる。かかる複合体Xを含有する混合物中において、上記(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料の前駆体は、微細な分散粒子として存在する。かかる複合体Xは、例えば上記式(A)で表されるポリアニオン材料であり、かつ炭素源としてセルロースナノファイバーを添加した混合物Xを用いた場合、リン酸三リチウム(Li
3PO
4)とセルロースナノファイバーの複合体として得られる。
【0043】
窒素をパージする際における圧力は、好ましくは0.1〜0.2MPaであり、より好ましくは0.1〜0.15MPaである。また、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物Xの温度は、好ましくは20〜80℃であり、より好ましくは20〜60℃である。例えば上記式(A)で表されるポリアニオン材料の場合、反応時間は、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは15〜45分である。
また、窒素をパージする際、反応を良好に進行させる観点から、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物Xを撹拌するのが好ましい。このときの撹拌速度は、好ましくは200〜700rpmであり、より好ましくは250〜600rpmである。
【0044】
また、より効果的に複合体Xの分散粒子表面における酸化を抑制し、分散粒子の微細化を図る観点から、リン酸化合物又はケイ酸化合物を混合した後の混合物X中における溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とするのが好ましく、0.2mg/L以下とするのがより好ましい。
【0045】
工程(II)では、工程(I)で得られた複合体Xと、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を含有するスラリー水Yを水熱反応に付して、複合体Yを得る工程である。上記工程(I)により得られた複合体Xを、混合物のまま、上記(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料の前駆体として用い、これに少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属塩を添加して、スラリー水Yとして用いるのが好ましい。これにより、工程を簡略化させつつ、上記(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料が極めて微細な粒子になるとともに、後工程において効率的に酸化亜鉛や酸化アルミニウムを担持させることが可能となり、非常に有用な二次電池用正極活物質を得ることができる。
【0046】
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸鉄が好ましい。
【0047】
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池特性を高める観点から、硫酸マンガンが好ましい。
【0048】
金属塩として、鉄化合物とマンガン化合物の双方を用いる場合、これらマンガン化合物及び鉄化合物の使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは99:1〜1:99であり、より好ましくは90:10〜10:90である。また、これら鉄化合物及びマンガン化合物の合計添加量は、スラリー水Y中に含有されるLi
3PO
4 1モルに対し、好ましくは0.99〜1.01モルであり、より好ましくは0.995〜1.005モルである。
【0049】
さらに、必要に応じて、金属塩として、鉄化合物及びマンガン化合物以外の金属(M、N又はQ)塩を用いてもよい。金属(M、N又はQ)塩におけるM、N及びQは、上記式(A)〜(C)中のM、N及びQと同義であり、かかる金属塩として、硫酸塩、ハロゲン化合物、有機酸塩、及びこれらの水和物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸塩を用いるのがより好ましい。
これら金属(M、N又はQ)塩を用いる場合、鉄化合物、マンガン化合物、及び金属(M、N又はQ)塩の合計添加量は、上記工程(I)において得られた混合物中のリン酸又はケイ酸1モルに対し、好ましくは0.99〜1.01モルであり、より好ましくは0.995〜1.005モルである。
【0050】
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、用いる金属塩の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、スラリー水Y中に含有されるリン酸又はケイ酸イオン1モルに対し、好ましくは10〜50モルであり、より好ましくは12.5〜45モルである。より具体的には、水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、スラリー水Y中に含有されるイオンがリン酸イオンの場合、好ましくは10〜30モルであり、より好ましくは12.5〜25モルである。また、スラリー水Y中に含有されるイオンがケイ酸イオンの場合、好ましくは10〜50モルであり、より好ましくは12.5〜45モルである。
【0051】
工程(II)において、鉄化合物、マンガン化合物及び金属(M、N又はQ)塩の添加順序は特に制限されない。また、これらの金属塩を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na
2S
2O
4)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加されることで、上記式(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料の生成が抑制されるのを防止する観点から、鉄化合物、マンガン化合物及び必要に応じて用いる金属(M、N又はQ)塩の合計1モルに対し、好ましくは0.01〜1モルであり、より好ましくは0.03〜0.5モルである。
【0052】
鉄化合物、マンガン化合物及び必要に応じて用いる金属(M、N又はQ)塩や酸化防止剤を添加することにより得られるスラリーY中における複合体Yの含有量は、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは15〜45質量%であり、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0053】
工程(II)における水熱反応は、100℃以上であればよく、130〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3〜0.9MPaであるのが好ましく、140〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.1〜48時間が好ましく、さらに0.2〜24時間が好ましい。
得られた複合体Yは、上記式(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料を含み、上記工程(I)において炭素源としてセルロースナノファイバーを用いた場合には、かかるセルロースナノファイバーをも含む複合体である。これは、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することにより単離できる。なお、乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
【0054】
得られる複合体YのBET比表面積は、高温環境下におけるサイクル特性を向上させる観点、及び良好な電池容量を保持する観点から、好ましくは5〜40m
2/gであり、より好ましくは5〜20m
2/gである。
【0055】
工程(III)では、工程(II)で得られた複合体Yに、酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムを生成する亜鉛塩及び/又はアルミニウム塩を添加して、焼成する工程である。これにより、上記(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料の粒子表面が露出するのを有効に抑制しつつ、かかる粒子表面に上記炭素源由来の炭素と、焼成されることにより亜鉛塩及び/又はアルミニウム塩から生成される酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムとを、共に堅固に担持させることができる。
【0056】
亜鉛塩及び/又はアルミニウム塩の添加量は、上記のとおり、得られるポリアニオン系正極活物質中における酸化亜鉛及び/又は酸化アルミニウムの担持量が、合計で上記範囲内になるような量であればよく、例えば、炭素源由来の炭素が存在しないポリアニオン材料の粒子表面にこれらを可能な限り薄層化しつつ有効に担持させる観点から、複合体Y100質量部に対し、好ましくは0.03〜9.0質量部であり、より好ましくは0.15〜7.5質量部であり、さらに好ましくは0.3〜6.0質量部である。
【0057】
かかる工程(III)は、炭素源を添加する工程を含むことができるが、上記工程(I)が炭素源を添加する工程を含む場合は、ここで炭素源を添加する工程を含まなくともよい。すなわち、本発明のポリアニオン系正極活物質の製造方法は、工程(I)か、工程(III)のいずれかの工程で炭素源を添加する工程を含み、或いは双方の工程で炭素源を添加する工程を含む製造方法である。工程(III)において、かかる炭素源を添加する場合には、得られた複合体Yに、上記亜鉛塩及びアルミニウム塩とともに添加するのが好ましい。
【0058】
炭素源として水不溶性導電性炭素材料を添加する場合、添加後、焼成する前に上記亜鉛塩及びアルミニウム塩とともに乾式混合するのが好ましい。乾式混合としては、通常のボールミルによる混合であるのが好ましく、自公転可能な遊星ボールミルによる混合がより好ましい。さらに、上記式(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料の粒子表面上で水不溶性導電性炭素材料を緻密かつ均一に分散させ、炭化されてなる炭素として有効に担持させる観点から、圧縮力及びせん断力を付加しながら複合体Yを混合して複合体Y’とするのがさらに好ましい。圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理は、インペラを備える密閉容器で行うのが好ましい。かかるインペラの周速度は、得られる正極活物質のタップ密度を高め、またBET比表面積を減じて吸着水分量を有効に低減する観点から、好ましくは25〜40m/sであり、より好ましくは27〜40m/sである。また、混合時間は、好ましくは5〜90分であり、より好ましくは10〜80分である。
なお、インペラの周速度とは、回転式攪拌翼(インペラ)の最外端部の速度を意味し、下記式(1)により表すことができ、また圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を行う時間は、インペラの周速度が遅いほど長くなるように、インペラの周速度によっても変動し得る。
インペラの周速度(m/s)=
インペラの半径(m)×2×π×回転数(rpm)÷60・・・(1)
【0059】
工程(III)において、上記圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を行う際の処理時間及び/又はインペラの周速度は、容器に投入する複合体Yの量に応じて適宜調整する必要がある。そして、容器を稼動させることにより、インペラと容器内壁との間でこれら混合物に圧縮力及びせん断力が付加されつつ、これを混合する処理を行うことが可能となり、上記式(A)〜(C)で表されるポリアニオン材料の粒子表面上で水不溶性導電性炭素材料を緻密かつ均一に分散させ、酸化亜鉛や酸化アルミニウムとも相まって高温環境下においても高いサイクル特性を発揮するポリアニオン系正極活物質を得ることができる。
例えば、上記混合する処理を、周速度25〜40m/sで回転するインペラを備える密閉容器内で6〜90分間行う場合、容器に投入する複合体Yの量は、有効容器(インペラを備える密閉容器のうち、複合体Yを収容可能な部位に相当する容器)1cm
3当たり、好ましくは0.1〜0.7gであり、より好ましくは0.15〜0.4gである。
【0060】
このような圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を容易に行うことができる密閉容器を備える装置としては、高速せん断ミル、ブレード型混練機等が挙げられ、具体的には、例えば、微粒子複合化装置 ノビルタ(ホソカワミクロン社製)を好適に用いることができる。
上記混合の処理条件としては、処理温度が、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜50℃である。処理雰囲気としては、特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下、又は還元ガス雰囲気下が好ましい。
【0061】
炭素源として水溶性炭素材料又はセルロースナノファイバーを添加する場合、添加後、焼成する前に湿式混合するのが好ましい。この場合、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムとともにこれらの炭素源を良好に分散させ、ポリアニオン材料の粒子表面に有効に担持させる観点から、水を添加するのが好ましい。水の添加量は、複合体Y100質量部に対し、好ましくは20〜500質量部であり、より好ましくは30〜400質量部であり、さらに好ましくは40〜300質量部である。
【0062】
湿式混合手段としては、特に制限されず、常法により行うことができる。複合体Yに水溶性炭素材料を添加した後、混合する際の温度は、好ましくは5〜80℃であり、より好ましくは7〜70℃である。得られる混合物は、焼成するまでの間に乾燥するのが好ましい。乾燥手段としては、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられ、なかでも噴霧乾燥が好ましい。
【0063】
工程(III)において、上記得られた混合物を焼成する。焼成は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中で行うのが好ましい。焼成温度は、炭素源をより有効に炭化させる観点、及び亜鉛塩又はアルミニウム塩から有効に酸化亜鉛又は酸化アルミニウムを生成させる観点から、好ましくは500〜800℃であり、より好ましくは600〜770℃であり、さらに好ましくは650〜750℃である。また、焼成時間は、好ましくは10分〜3時間、より好ましくは30分〜1.5時間とするのがよい。
【0064】
本発明のポリアニオン系正極活物質のタップ密度は、高温環境下におけるサイクル特性を向上させる観点から、好ましくは0.5〜1.6g/cm
3であり、より好ましくは0.8〜1.6g/cm
3である。
【0065】
さらに、本発明のポリアニオン系正極活物質のBET比表面積は、高温環境下におけるサイクル特性を向上させる観点から、好ましくは5〜40m
2/gであり、より好ましくは7〜30m
2/gである。
【0066】
本発明のポリアニオン系正極活物質を含む二次電池用正極を適用できる、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池である二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0067】
ここで、負極については、リチウムイオン又はナトリウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、ナトリウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムイオン又はナトリウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0068】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0069】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、リチウムイオン二次電池の場合、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4及びLiAsF
6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO
3CF
3、LiC(SO
3CF
3)
2及びLiN(SO
3CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2及びLiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。また、ナトリウムイオン二次電池の場合、NaPF
6、NaBF
4、NaClO
4及びNaAsF
6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、NaSO
3CF
3、NaC(SO
3CF
3)
2及びNaN(SO
3CF
3)
2、NaN(SO
2C
2F
5)
2及びNaN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0070】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
LiOH・H
2O 12.72g、水 90mL、及びセルロースナノファイバー(セリッシュKY−100G、ダイセルファインケム製、繊維径4〜100nm)6.8gを混合してスラリー水を得た。次いで、得られたスラリー水を、25℃の温度に保持しながら5分間撹拌しつつ85%のリン酸水溶液 11.53gを35mL/分で滴下し、続いて窒素ガスパージ下で12時間、400rpmの速度で撹拌することにより、複合体Xを含有する混合物X(スラリー水X
1、溶存酸素濃度0.5mg/L)を得た。
かかるスラリー水X
1は、リン1モルに対し、2.97モルのリチウムを含有していた。
【0073】
次に、得られたスラリー水X
1 121.0gに対し、FeSO
4・7H
2O 5.56g及びMnSO
4・5H
2O 19.29gを添加し、混合してスラリー水Y
1を得た。次いで、得られたスラリー水Y
1をオートクレーブに投入し、170℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を−50℃で12時間凍結乾燥して複合体Y
1(式(A)で表される酸化物の化学組成:LiMn
0.8Fe
0.2PO
4、BET比表面積21m
2/g、平均粒径60nm)を得た。
得られた複合体Y
1 5.0gと酢酸亜鉛二水和物(日本化学産業社製、純度98%)を0.068gを混合して遊星ボールミル(P−5、フリッチュ社製)に備えられた容器に投入し、これにエタノール 90gと水 10gを混合して得た溶媒を添加した。次いで、ボール(球径:1mm)を100g用い、回転速度400rpmにて1時間混合した。得られた混合物をろ過し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した後、還元雰囲気下で700℃で1時間焼成して、リチウムイオン二次電池用正極活物質(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、ZnOの担持量=0.5質量%)を得た。
【0074】
[実施例2]
酢酸亜鉛二水和物の添加量を0.136gとした以外、実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、ZnOの担持量=1.0質量%)を得た。
【0075】
[実施例3]
酢酸亜鉛二水和物の代わりに乳酸アルミニウム(タキセラムM−160L、多木化学社製、Al
2O
3含有量8.7質量%)を0.287g用いた以外、実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、Al
2O
3の担持量=0.5質量%)を得た。
【0076】
[実施例4]
酢酸亜鉛二水和物の代わりに乳酸アルミニウムを0.575g用いた以外、実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、Al
2O
3の担持量=1.0質量%)を得た。
【0077】
[実施例5]
セルロースナノファイバーを水熱合成前に添加せず、酢酸亜鉛二水和物と同時にグルコース0.2g用いた以外、実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:グルコース、炭素の担持量=4.0質量%、ZnOの量=1.0質量%)を得た。
【0078】
[実施例6]
NaOH 5.60g(140mmol)、水 90g、及びセルロースナノファイバー3.4gを混合してスラリー水を得た。次いで、得られたスラリー水を40℃に保持しながら撹拌速度400rpmにて撹拌し、ここに85%のリン酸水溶液5.77g(50mmol)を混合して混合液X
2を得た。次に、得られた混合液X
2に対し、窒素をパージして(0.2MPa)溶存酸素濃度0.5mg/Lに調整された前駆体を含有する混合液X
2を得た。この混合液X
2にFeSO
4・7H
2O 2.78g及びMnSO
4・5H
2O 9.65gを添加して混合液X
2を得た。ここで、混合液X
2中、リン1モルに対し、Naは2.8モルであった。
次いで、混合液X
2をオートクレーブに投入し、オートクレーブ内を窒素でパージして、200℃で3時間水熱反応を行った。水熱反応を行った後、放冷して、生成した結晶をろ過し、次いで水により洗浄し、約12時間凍結乾燥して、複合体Y
1(式(C)で表される酸化物の化学組成:NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、BET比表面積16m
2/g、平均粒径100nm)を得た。得られた複合体Y
1 5gと酢酸亜鉛二水和物を0.068g(ナトリウムイオン二次電池用正極活物質中における酸化亜鉛の担持量換算で0.5質量%に相当)を混合して遊星ボールミルに備えられた容器に投入し、これにエタノール 90gと水 10gを混合して得た溶媒を添加した。次いで、ボール(球径:1mm)を100g用い、回転速度400rpmにて1時間混合した。得られた混合物をろ過し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した後、還元雰囲気下、700℃で1時間焼成して、ナトリウムイオン電池用正極活物質(NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、ZnOの担持量=0.5質量%)を得た。
【0079】
[実施例7]
酢酸亜鉛二水和物の添加量を0.136gとした以外、実施例6と同様にして、リン酸マンガン鉄ナトリウム(NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、ZnOの担持量=1.0質量%)を得た。
【0080】
[実施例8]
酢酸亜鉛二水和物の代わりに乳酸アルミニウムを0.287g用いた以外、実施例6と同様にして、リン酸マンガン鉄ナトリウム(NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、Al
2O
3の担持量=0.5質量%)を得た。
【0081】
[実施例9]
酢酸亜鉛二水和物の代わりに乳酸アルミニウムを0.575g用いた以外、実施例6と同様にして、リン酸マンガン鉄ナトリウム(NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:CNF、炭素の担持量=2.0質量%、Al
2O
3の担持量=1.0質量%)を得た。
【0082】
[実施例10]
セルロースナノファイバーを水熱合成前に添加せず、酢酸亜鉛二水和物と同時にグルコース0.2g用いた以外、実施例6と同様にして、リン酸マンガン鉄ナトリウム(NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:グルコース、炭素の担持量=4.0質量%、ZnOの担持量=1.0質量%)を得た。
【0083】
[比較例1]
酢酸亜鉛二水和物を添加しなかった以外、実施例5と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム(LiFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:グルコース、炭素の担持量=4.0質量%)を得た。
【0084】
[比較例2]
酢酸亜鉛二水和物を添加しなかった以外、実施例10と同様にして、リン酸マンガン鉄ナトリウム(NaFe
0.2Mn
0.8PO
4、炭素源:グルコース、炭素の担持量=4.0質量%)を得た。
【0085】
《高温環境下におけるサイクル特性の評価》
実施例1〜10及び比較例1〜2で得られた正極活物質を用い、リチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、得られた正極活物質、ケッチェンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比75:20:5の配合割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。
その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
次いで、上記の正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔(リチウムイオン二次電池の場合)又はナトリウム箔(ナトリウムイオン二次電池の場合)を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6(リチウムイオン二次電池の場合)又はNaPF
6(ナトリウムイオン二次電池の場合)を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型二次電池(CR−2032)を製造した。
【0086】
製造した二次電池を用い、充放電試験を行った。リチウムイオン電池の場合には、充電条件を電流1CA(170mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件を1CA(170mA/g)、終止電圧2.0Vの定電流放電として、1CAにおける放電容量を求めた。ナトリウムイオン電池の場合には、充電条件を電流1CA(154mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件を1CA(154mA/g)、終止電圧2.0Vの定電流放電として、1CAにおける放電容量を求めた。さらに、同様の充放電条件において、100サイクル繰り返し試験を行い、下記式(1)により容量保持率(%)を求めた。なお、充放電試験は全て45℃で行った。
容量保持率(%)=(100サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量)
×100 ・・・(1)
結果を表1及び表2に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
上記結果より、実施例の正極活物質は、比較例の正極活物質に比して、得られる電池において、高温環境下での優れたサイクル特性を発揮できることがわかる。