(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、次の成分(A)、(B)、(C)、(D)、並びに(E):
(A)リチウム遷移金属ケイ酸塩化合物、
(B)ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリアミド樹脂から選ばれる結着剤、
(C)ホウ酸、及びリン酸二水素アンモニウムから選ばれる無機酸(c−1)、並びに酢酸、ギ酸、及びプロピオン酸から選ばれる有機酸(c−2)を含む酸、
(D)導電助剤、並びに
(E)有機溶媒
を用いる、リチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、
成分(B)、成分(C)、及び成分(E)を含む混合物Xを調製する工程(I)、
得られた混合物Xに、成分(A)、及び成分(D)を添加して混合し、ペースト組成物Yを得る工程(II)、並びに
得られたペースト組成物Yを正極用集電体上に塗布した後、乾燥して加熱し、正極活物質層を形成する工程(III)
を備える。
【0013】
本発明では、成分(A)として、リチウム遷移金属ケイ酸塩化合物を用いる。リチウム遷移金属ケイ酸塩化合物は、高い電池物性を付与することができ、具体的には、(o)遷移金属化合物、(p)ケイ酸化合物、(q)リチウム化合物、及び(r)水、さらに必要に応じて(s)遷移金属以外の金属化合物を含有する混合物スラリーを耐圧容器内で水熱反応させる方法により製造することができる。
【0014】
成分(o)の遷移金属化合物を構成する遷移金属(M)としては、例えば、Fe、Ni、Co、Mn、V、Zr、Y、Mo、La、Ce及びNd等が挙げられ、これらを含む遷移金属化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。かかる遷移金属化合物(M)としては、例えばフッ化物、塩化物、ヨウ化物等のハロゲン化遷移金属塩、硫酸遷移金属塩の他、有機酸遷移金属塩、並びにこれらの水和物等が挙げられる。このうち、有機酸遷移金属塩を構成する有機酸としては、炭素数1〜20の有機酸、さらに炭素数2〜12の有機酸が好ましい。さらに好ましくは、シュウ酸、フマル酸等のジカルボン酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸、酢酸等の脂肪酸が挙げられる。
【0015】
成分(p)のケイ酸化合物としては、反応性のあるシリカ化合物であれば特に限定されず、非晶質シリカ、Na
4SiO
4(例えばNa
4SiO
4・H
2O)等が用いられる。
【0016】
成分(q)のリチウム化合物としては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のリチウム金属塩、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられ、安価である点で炭酸リチウムを使用するのが好ましい。
【0017】
成分(s)の遷移金属以外の金属化合物を構成する金属(R)としては、例えば、Al、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、及びBi等が挙げられ、これらを含む金属化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。かかる金属化合物(R)としては、例えばフッ化物、塩化物、ヨウ化物等のハロゲン化金属塩、硫酸金属塩の他、有機酸金属塩、並びにこれらの水和物等が挙げられる。このうち、有機酸金属塩を構成する有機酸としては、炭素数1〜20の有機酸、さらに炭素数2〜12の有機酸が好ましい。さらに好ましくは、シュウ酸、フマル酸等のジカルボン酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸、酢酸等の脂肪酸が挙げられる。
【0018】
かかる成分(A)のリチウム遷移金属ケイ酸塩化合物としては、具体的には、例えば以下のような態様が含まれる。
Li
2Fe
xMn
yZr
zSiO
4 ・・・(1)
(式中、x、y及びzは、0≦x<1、0≦y<1、0<z<0.5、2x+2y+4z=2、及びx+y≠0を満たす数を示す。)
Li
2Fe
x1Mn
y1Zr
z1M
2c2R
d2SiO
4 ・・・(2)
(式中、M
2はNi、Co、Al、Zn、V、Y、Mo、La、Ce及びNdから選ばれる1種又は2種以上を、RはMg、Ca、Sr、Ba、Pb、及びBiから選ばれる1種又は2種以上を示す。x
1、y
1、z
1、c
2、d
2は、0≦x
1<1、0≦y
1<1、0<z
1<0.5、及び0<(c
2+d
2)≦0.2を満たし、かつ2x
1+2y
1+4z
1+(M
2の価数)×c
2+(Rの価数)×d
2=2、及びx
1+y
1≠0を満たす数を示す。)
【0019】
(o)遷移金属化合物と、(p)ケイ酸化合物、(q)リチウム化合物、及び(s)遷移金属以外の金属化合物の使用量は、目的物によって異なる。例えば、目的物がケイ酸鉄リチウム(Li
2FeSiO
4)の場合には、(o)遷移金属(鉄)化合物及び(s)遷移金属以外の金属化合物の合計使用量と、(q)リチウム化合物の使用量とのモル比は、鉄イオンとリチウムイオン換算で1:2〜1:3が好ましく、1:2〜1:2.5とするのがより好ましい。また、(q)リチウム化合物の使用量と(p)ケイ酸化合物の使用量とのモル比は、リチウムイオン及びケイ酸イオン換算で2:1〜3:1が好ましい。
【0020】
成分(r)の水の使用量は、原料化合物の溶解性、撹拌の容易性、合成の効率等の点から、ケイ酸化合物のケイ酸イオン1モルに対して10〜50モルが好ましく、さらに13〜30モルが好ましい。
【0021】
これらの原料の添加順序は特に限定されない。また、混合物スラリー中には、必要により酸化防止剤を添加してもよく、酸化防止剤としては、ハイドロサルファイトナトリウム(Na
2S
2O
4)、アンモニア水、亜硫酸ナトリウム等を用いることができる。水分散液中の酸化防止剤の含有量は、多量に添加するリチウム遷移金属ケイ酸塩化合物の生成を抑制してしまうため、遷移金属に対して等モル量以下が好ましい。
【0022】
これらの成分の混合物スラリーは、塩基性とするのが副反応を防止し、ケイ酸化合物を溶解するうえで好ましい。混合物スラリーのpHは、塩基性であればよいが、12.0〜13.5であるのが副反応の防止、ケイ酸化合物の溶解性及び反応の進行の点で特に好ましい。該混合物スラリーのpHの調整は、塩基、例えば、水酸化ナトリウムを添加することにより行ってもよいが、ケイ酸化合物としてNa
4SiO
4を用いるのが特に好ましい。
【0023】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3〜0.9MPaであるのが好ましく、140〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.5〜24時間が好ましく、さらに1〜12時間が好ましい。
得られたリチウム遷移金属ケイ酸塩化合物は、ろ過後、乾燥することにより単離できる。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
【0024】
本発明では、成分(B)として、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリアミド樹脂から選ばれる結着剤を用いる。これら成分(B)の結着剤は、いずれも後述する成分(D)の導電助剤との親和性が良好であるとともに、形成される正極活物質層に剛直性を付与して高い寸法安定性をもたらすことも可能であることから、得られる正極に良好な強度や耐久性を付与することができ、充放電処理を繰り返した後に発現し得る電池物性の劣化を効果的に抑制して、優れたサイクル特性を発現するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0025】
ポリイミド樹脂は、主鎖にイミド結合を有する樹脂であり、縮合反応により得られる半芳香族ポリイミドや、付加反応により得られる全芳香族ポリイミド等が挙げられる。
ポリアミドイミド樹脂は、分子内にイミド基とアミド基を交互に共重合させたものであり、酸クロライド法やイソシアネート法、又は直接重合法により得られる樹脂である。
ポリアミド樹脂は、ナイロンとも総称されるアミド結合の繰り返し単位が主鎖を構成する樹脂であり、PA66やPA11等の脂肪族ポリアミド、アラミド等の芳香族ポリアミド等が挙げられる。
なかでも、電池物性の劣化を有効に抑制する観点から、ポリイミド樹脂が好ましい。
【0026】
本発明では、成分(C)として、ホウ酸、及びリン酸二水素アンモニウムから選ばれる無機酸(c−1)、並びに酢酸、ギ酸、及びプロピオン酸から選ばれる有機酸(c−2)からなる群より選ばれる1種以上の酸を用いる。かかる成分(C)の酸を用いることにより、後述する工程(II)において、正極活物質層を形成するためのペースト組成物を調製する際、成分(A)のリチウム遷移金属ケイ酸塩化合物の存在によって、かかるペースト組成物のpHがアルカリ領域へ偏向して成分(B)の結着剤が分解等してしまうのを有効に抑制することができる。
なかでも、成分(A)のリチウム遷移金属ケイ酸塩化合物の分解等をも有効に抑制する観点、及び適切なpH領域に調整しやすい観点から、成分(c−1)の無機酸が好ましく、ホウ酸がより好ましい。
【0027】
なお、これら成分(C)のうち、成分(c−1)は、後述する工程(III)において形成される正極活物質層中に残存する一方、成分(c−2)は加熱等の処理を経ることによって揮発してしまうため、正極活物質層中に残存しない。しかしながら、ともにペースト組成物のpHがアルカリ領域へ偏向して成分(B)の結着剤が分解等してしまうのを有効に抑制する効果を有するため、得られるリチウムイオン二次電池用正極においては、繰り返される充放電処理に対する優れた耐久性や、二次電池における良好なサイクル特性の発現効果については、同等の優れた効果を発揮することができる。
【0028】
本発明では、成分(D)として、導電助剤を用いる。かかる成分(D)を用いることによって、これを正極活物質層に含まれる成分(A)や成分(B)の粒子間間隙に介在させ、正極活物質層の導電性を高めることができる。かかる導電助剤としては、得られる電池物性を効果的に高めつつ発塵量を有効に低減する観点から、水不溶性導電性炭素材料、及び水溶性炭素材料の炭化物のほか、セルロースナノファイバーの炭化物が挙げられる。
【0029】
上記水不溶性導電性炭素材料とは、セルロースナノファイバー以外の炭素源であり、25℃の水100gに対する溶解量が、水不溶性導電性炭素材料の炭素原子換算量で0.4g未満である水不溶性の炭素材料であって、焼成等せずともそのもの自体が導電性を有する導電助剤である。かかる水不溶性導電性炭素材料としては、グラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、特定の無機化合物と相まって、ポリアニオン材料の粒子表面に効果的に担持させる観点から、グラファイトが好ましい。グラファイトとしては、人造グラファイト(鱗片状、塊状、土状、グラフェン)、天然グラファイトのいずれであってもよい。
【0030】
水不溶性導電性炭素材料のBET比表面積は、高温環境下におけるサイクル特性を効果的に高める観点から、好ましくは1〜750m
2/gであり、より好ましくは3〜500m
2/gである。また、かかる水不溶性導電性炭素材料の平均粒子径は、同様の観点から、好ましくは0.5〜20μmであり、より好ましくは1.0〜15μmである。
【0031】
上記水溶性炭素材料とは、25℃の水100gに、水溶性炭素材料の炭素原子換算量で0.4g以上、好ましくは1.0g以上溶解する炭素材料を意味し、炭化されることで炭素として上記ポリアニオン材料の粒子表面に存在する導電助剤である。かかる水溶性炭素材料としては、例えば、糖類、ポリオール、ポリエーテル、及び有機酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、溶媒への溶解性及び分散性を高めて導電助剤として効果的に機能させる観点から、グルコース、フルクトース、スクロース、デキストリンが好ましく、グルコースがより好ましい。
【0032】
上記セルロースナノファイバーとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、セルロースナノファイバーが炭化されてなる炭素(セルロースナノファイバー由来の炭素)は、周期的構造を有する。かかるセルロースナノファイバーの繊維径は、1nm〜500μmであり、水への良好な分散性も有している。また、セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子鎖では、炭素による周期的構造が形成されていることから、これが炭化されて正極活物質層中おいて上記成分(A)や成分(B)の粒子間間隙に介在し、優れた電池物性を有する正極を得ることができる。
【0033】
これら成分(D)の導電助剤のなかでも、上記成分(A)及び(B)とも相まって、良好な電池特性を確保する観点から、ケッチェンブラック、セルロースナノファイバーの炭化物が好ましい。
【0034】
本発明の製造方法が備える工程(I)は、成分(B)、成分(C)、及び有機溶媒(E)を含む混合物Xを調製する工程である。
成分(B)は、上記と同義である。混合物Xにおける成分(B)の含有量は、成分(E)の有機溶媒100質量部に対し、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0035】
成分(C)は、上記と同義であり、後述する工程(II)で得られるペースト組成物YのpHがアルカリ領域に偏向するのを有効に抑制し、成分(A)や成分(B)の分解等を効果的に抑制することができる。なかでも、ホウ酸が好ましい。混合物Xにおける成分(C)の含有量は、成分(E)の有機溶媒100質量部に対し、好ましくは0.005〜2.5質量部であり、より好ましくは0.03〜1.5質量部である。
【0036】
成分(E)の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。なかでも、後述する工程(II)で得られるペースト組成物Yに適度な粘性を付与する観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましい。
【0037】
混合物Xを調製する際、成分(B)、成分(C)、及び有機溶媒(E)を添加した後、混合するのが好ましく、混合時の温度は、好ましくは1〜45℃、より好ましくは5〜35℃であり、混合時間は、好ましくは1〜60分、より好ましくは3〜30分である。
【0038】
本発明の製造方法が備える工程(II)は、上記工程(I)で得られた混合物Xに、成分(A)、及び成分(D)を添加して混合し、ペースト組成物Yを得る工程である。
成分(A)は、上記と同義である。かかる成分(A)の添加量は、混合物X中における成分(B)100質量部に対し、好ましくは110〜19800質量部であり、より好ましくは170〜9800質量部である。また、ペースト組成物Y中における成分(A)の含有量は、ペースト組成物Y100質量%中に、好ましくは10〜30質量%であり、より好ましくは12〜28質量%である。
【0039】
成分(D)は、上記と同義であり、成分(A)とともに添加してもよく、成分(A)を添加する前、或いは成分(A)を添加した後に添加してもよい。成分(D)の添加量は、混合物X中における成分(B)100質量部に対し、好ましくは10〜900質量部であり、より好ましくは15〜700質量部である。また、ペースト組成物Y中における成分(D)の含有量は、ペースト組成物Y100質量%中に、好ましくは0.05〜27質量%であり、より好ましくは0.06〜25質量%である。
【0040】
なお、ペースト組成物Y中における成分(B)の含有量は、ペースト組成物Y100質量%中に、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは0.2〜12質量%である。またペースト組成物Y中における成分(C)の含有量は、ペースト組成物Y100質量%中に、好ましくは0.002〜1.5質量%であり、より好ましくは0.01〜1.0質量%質量%である。
【0041】
成分(A)、及び成分(D)を添加した後、混合する際の温度は、好ましくは1〜45℃、より好ましくは5〜35℃であり、混合時間は、好ましくは1〜60分、より好ましくは3〜30分である。
【0042】
工程(II)において得られるペースト組成物Yは、成分(A)や成分(B)の分解を有効に抑制する観点から、水の含有を制限するのが好ましい。具体的には、水の含有量は、ペースト組成物Y中に、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、或いはペースト組成物Yは水を含有しないのが好ましい。
【0043】
工程(II)において得られるペースト組成物Yの25℃における粘度は、好ましくは1〜5000mPa・sであり、より好ましくは100〜3000mPa・sである。なお、かかる粘度は、東機産業社製BII形粘度計を用い、25℃にて測定される値を意味する。
【0044】
本発明の製造方法が備える工程(III)は、上記工程(II)で得られたペースト組成物Yを正極用集電体上に塗布した後、乾燥し、正極活物質層を形成する工程である。
正極用集電体の材質としては、アルミニウム、ステンレス、チタン、カーボン等が挙げられる。なかでも、アルミニウムが好ましい。正極用集電体の厚みは、電池のサイズにも左右され得ることから特に制限されないが、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは10〜30μmである。
【0045】
ペースト組成物Yの正極用集電体上への塗布には、スクリーン印刷、ロールコート等の方法を用いることができる。
【0046】
ペースト組成物Yを正極用集電体上に塗布した後の乾燥には、真空乾燥、温風乾燥、凍結乾燥のいずれかの方法を用いることができる。
かかる乾燥の後、加熱処理を施すのが好ましい。これにより、成分(B)を硬化させて剛直性等が付与された正極活物質層を有効に形成することができる。かかる加熱処理には、雰囲気の制御が可能な電気炉を用いることができ、加熱処理の温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜250℃である。
【0047】
正極活物質層の厚みは、例えば電気自動車用の急速な充放電が必要な電池の場合には、好ましくは5〜200μmであり、より好ましくは7〜150μmであり、例えば定置用の緩やかな速度での充放電のみ求められる電池の場合には、好ましくは20〜400μmであり、より好ましくは30〜300μmである。
【0048】
本発明の製造方法において、成分(C)として成分(c−1)の無機酸を用いた場合、得られるリチウムイオン二次電池用正極は、正極用集電体表面に、次の成分(A)、(B)、(c−1)、並びに(D):
(A)リチウム遷移金属ケイ酸塩化合物、
(B)ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びポリアミド樹脂から選ばれる結着剤、
(c−1)ホウ酸、及びリン酸二水素アンモニウムから選ばれる無機酸、並びに
(D)導電助剤
を含む正極活物質層が形成されてなる。
【0049】
成分(A)のリチウム遷移金属ケイ酸塩化合物の含有量は、形成される正極活物質層中に、好ましくは50〜99質量%であり、より好ましくは60〜98質量%であり、さらに好ましくは70〜95質量%である。
【0050】
成分(B)の結着剤の含有量は、正極活物質層中に、好ましくは0.49〜45質量%であり、より好ましくは0.95〜35質量%であり、さらに好ましくは2.4〜25質量%である。
【0051】
成分(c−1)の酸の含有量は、正極活物質層中に、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.05〜3質量%であり、さらに好ましくは0.1〜2質量%である。
【0052】
成分(D)の導電助剤の含有量は、正極活物質層中に、炭素原子換算量で、好ましくは0.5〜45質量%であり、より好ましくは1〜35質量%であり、さらに好ましくは2.5〜25質量%である。
なお、正極活物質層中に存在する成分(D)の導電助剤の炭素原子換算量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した炭素量として、確認することができる。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極を適用できるリチウムイオン二次電池としては、かかる本発明のリチウムイオン二次電池用正極に加え、さらに負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0054】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0055】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0056】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4及びLiAsF
6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO
3CF
3、LiC(SO
3CF
3)
2及びLiN(SO
3CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2及びLiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
[製造例1:正極活物質Aの製造]
LiOH・H
2O 4.20g(100mmol)、Na
4SiO
4・nH
2O 13.98g(50mmol)に超純水30cm
3 を加えて混合した(この時のpHは約13)。この水分散液にFeSO
4・7H
2O 8.94g(32.2mol)、MnSO
4・5H
2O3.82g(15.8mol)及びZrSO
4・4H
2O0.28g(1mmol)を添加し、混合した。得られた混合液をオートクレーブに投入し、150℃で12hr水熱反応を行った。反応液をろ過後、凍結乾燥した。凍結乾燥(約12時間)して得られた粉末8.4gにグルコース(炭素濃度として10%)及び超純水10cm
3 を加え、還元雰囲気下で600℃で1hr焼成して、正極活物質Aを得た。
【0060】
[実施例1]
10wt%ホウ酸エタノール溶液100mg、ポリイミド(アイエスティ社製ドリームボンド)100mg、及びN−メチル−2−ピロリドン1.6mgを充分混練し、混合物Xを調製した。製造例1で得られた正極活物質A750mgとケッチェンブラック(導電剤)150mgを混合物Xに加えて十分混練し、ペースト組成物Yを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、N
2雰囲気下で150℃の加熱処理を行い正極とした。
形成された正極活物質層中におけるポリイミドの含有量は9.9質量%、ホウ酸の含有量は1質量%であった。
【0061】
[実施例2]
ホウ酸の代わりにギ酸5mgを用いた以外、実施例1と同様にして正極を作製した。形成された正極活物質層中におけるポリイミドの含有量は10質量%、ギ酸の含有量は0質量%(熱処理時に揮発)であった。
【0062】
[実施例3]
10wt%ホウ酸エタノール溶液の代わりにプロピオン酸5mgを用いた以外、実施例1と同様にして正極を作製した。
形成された正極活物質層中におけるポリイミドの含有量は10質量%、プロピオン酸の含有量は0質量%(熱処理時に揮発)であった。
【0063】
[実施例4]
10wt%ホウ酸エタノール溶液の代わりに酢酸10μgを用いた以外、実施例1と同様にして正極を作製した。
形成された正極活物質層中におけるポリイミドの含有量は10質量%、酢酸の含有量は0質量%(熱処理時に揮発)であった。
【0064】
[実施例5]
10wt%ホウ酸エタノール溶液の代わりに20wt%リン酸二水素アンモニウム水溶液150mgを用いた以外、実施例1と同様にして正極を作製した。
形成された正極活物質層中におけるポリイミドの含有量は9.7質量%、リン酸二水素アンモニウムの含有量は2.9質量%であった。
【0065】
[比較例1]
酸を添加しなかった以外、実施例1と同様にして正極を作製した。
【0066】
[比較例2]
ポリイミドの代わりにポリフッ化ビニリデン(PVDF、クレハ社製9305)を用いた以外、実施例1と同様にして正極を作製した。
【0067】
[試験例]
実施例1〜5及び比較例1〜2の正極を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LIPF
6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型リチウム二次電池(CR−2032)を製造した。
【0068】
製造したリチウムイオン二次電池を用いて定電流密度での充放電を行った。このときの充電条件は電流0.1CA(33mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件は電流0.1CA、終止電圧1.5Vの定電流放電とした。温度は全て30℃とした。さらに、同様の充放電条件において、100サイクル繰り返し試験を行い、下記式(1)により容量保持率(%)を求めた。
容量保持率(%)=(100サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量)
×100 ・・・(1)
容量保持率の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1から明らかなように、結着剤として成分(B)ポリイミドを用い、かつ成分(D)酸を添加して正極活物質層を形成した実施例の正極は比較例と比べて高い容量保持率を有していた。