(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記空洞部(35)に冷媒を流通させ、重ね合わせ部材(40)の全体の温度が所定温度まで低下した時に、冷媒の流通を停止し、かつ第1の金型(10)と第2の金型(20)を開放することを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、重ね合わせ部材の重ね合わせ部は、重ね合わせ部以外の部分(以下、非重ね合わせ部という)よりも大きな熱容量(単位面積当たり)を有していることから、金型による冷却速度が相対的に小さくなる。
【0006】
そのため、重ね合わせ部材の重ね合わせ部の厚さが大きい場合、この部分の焼入れが不十分になることから、熱間プレス成形そのものが不可能になるという問題があった。
【0007】
また、たとえ熱間プレス成形が可能であっても、冷却むら(重ね合わせ部と非重ね合わせ部との温度差)により、焼入れ品質の均一性が劣化し、熱間プレス成形後の重ね合わせ部材の寸法精度が悪くなるという問題もあった。
【0008】
さらに、重ね合わせ部材の全体が焼入れの目標温度(例えば、200℃)まで低下するまでに要する時間が長くなり、熱間プレス成形の生産性が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題に鑑み、本発明の熱間プレス方法は、重ね合わせ部材(40)を第1の金型(10)と第2の金型(20)の間に挟んでプレス成形及び焼入れを行う熱間プレス方法において、
第1の鋼板(30)と、第1の鋼板(30)に重ね合わせて接合された第2の鋼板(31)と、を備え、第1の鋼板(30)と第2の鋼板(31)の間に空洞部(35)が形成された重ね合わせ部材(40)を準備し、第1の金型(10)または第2の金型(20)の中に設けられた冷媒流路(12,22)と、プレス成形時に前記空洞部(35)に連通して前記空洞部(35)に冷媒を流通させるための冷媒流通手段と、を備えた熱間プレス装置を準備し、 前記冷媒流路(12,22)に冷媒を流通させている状態で第1の金型(10)の上に加熱された重ね合わせ部材(40)をセットし、重ね合わせ部材(40)を第1の金型(10)と第2の金型(20)の間に挟んでプレス成形を行うと共に、前記空洞部(35)に冷媒を流通させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、重ね合わせ部材を構成する第1の鋼板と第2の鋼板の間に空洞部を形成し、プレス成形時にこの空洞部に冷媒を流通させることにより、重ね合わせ部を直冷し、重ね合わせ部の冷却を促進することができる。
【0012】
これにより、重ね合わせ部材の重ね合わせ部の厚さが大きく、従来のような金型による間接的な冷却では熱間プレス成形が不可能である場合であっても、熱間プレス成形の実施が可能になる。また、重ね合わせ部材の冷却むらを抑制して、焼入れ品質の均一性、及び重ね合わせ部材の寸法精度を向上させることができる。
【0013】
さらに、重ね合わせ部材の冷却時間を短縮して生産性を向上させることができる。本発明は、特に自動車車体部品に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態における熱間プレス装置の上金型の平面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における熱間プレス装置の下金型の平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態における熱間プレス方法を説明する斜視図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における熱間プレス方法を説明する断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態における熱間プレス装置の上金型の平面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態における熱間プレス装置の下金型の平面図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態における重ね合わせ部材の平面図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態における熱間プレス方法を説明する断面図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態における熱間プレス方法を説明する断面図である。
【
図10】熱間プレス成形における重ね合わせ部材の温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態における熱間プレス方法を
図1乃至
図4に基づいて説明する。
図1は熱間プレス装置100の上金型20の平面図(プレス成形面側から見た平面図)である。
図2は熱間プレス装置100の下金型10の平面図(プレス成形面側から見た平面図)であって、重ね合わせ部材40がセットされた状態を示す図ある。
図3は熱間プレス装置100の上下金型が閉じた状態の斜視図である。
図4は
図1及び
図2のA−A線に対応する断面図であって、(a),(b),(c)の順に熱間プレス工程を示している。
【0016】
図示のように、熱間プレス装置100は、下金型10と、下金型10上に配置された上金型20と、を備えている。下金型10は基台(不図示)上に固定され、上金型20は下金型10上に対向して配置され、駆動装置(不図示)により上下方向に可動に構成されている。
【0017】
重ね合わせ部材40は、第1の鋼板30の上に第1の鋼板30に重ね合わせて、スポット溶接部32で接合された第2の鋼板31と、を備えている。重ね合わせ部材40が自動車車体部品である場合、第2の鋼板31は、第1の鋼板30の機械的強度を高めるための車体補強部材である。第2の鋼板31は第1の鋼板30より小型で、第2の鋼板31の全体が、第1の鋼板30の機械的強度を補強したい部分に重ね合わされている。
【0018】
以下では、第1の鋼板30と第2の鋼板31とを重ね合わせた部分を重ね合わせ部33と、それ以外の部分(第1の鋼板30または第2の鋼板31だけの単体部分)を非重ねあわせ部34と称する。
【0019】
重ね合わせ部33の第1の鋼板30と第2の鋼板31の間には、それらの重ね合わせ面に沿って、プレス成形時に冷却水等の冷媒を流通させるための空洞部35が形成されている。重ね合わせ部33の空洞部35は第1の鋼板30との接触面から第2の鋼板31を、ドーム状突起部が形成されるように部分的に持ち上げることにより形成される。
【0020】
図2に示すように、空洞部35は第2の鋼板31の一方の端から他方の端まで直線状に延びているが、曲線状に延びるか、あるいはサーペンタイン状に蛇行させることにより冷媒と重ね合わせ部33との熱交換効率を高めることができる。また、空洞部35の断面形状はこの例では半円形状であるが、楕円形状、四角形状、三角形状など任意である。
【0021】
熱間プレス装置100は、重ね合わせ部材40を下金型10と上金型20の間に挟んで押圧し、プレス成形及び焼入れを行う。この例では、下金型10のプレス成形面の凹部11が形成され、上金型20のプレス成形面に凸部21が形成され、上金型20の凸部21が下金型10の凹部11に嵌合されるが、両金型10,20のプレス成形面の形状は製品仕様に応じて任意に加工されている。
【0022】
また、重ね合わせ部材40を断面U字形に曲げ加工する場合には、下金型10は、スプリングにより上下動可能に支持されたパッド部と、パッド部に隣接して固定配置された曲げ刃とで構成され、重ね合わせ部材40を上型20とパッド部の間に挟んで押圧し、曲げ刃により曲げ加工するように構成することができる。
【0023】
下金型10及び上金型20の中には、それぞれの下金型10、上金型20を冷却するための冷媒流路12,22(例えば、金型の中に埋設された冷媒循環パイプ)が設けられている。冷媒流路12,22には冷却水等の冷媒が流通される。この例では、下金型10及び上金型20のそれぞれに冷媒流路12,22が設けられているが、どちらか一方だけが設けられていてもよい。
【0024】
上金型20のプレス成形面には、プレス成形時における上金型20と重ね合わせ部材40の第2の鋼板31の端部との干渉を防止するために、第2の鋼板31の端面31aから離れるように後退した後退部23が形成されている。また、上金型20のプレス成形面には、重ね合わせ部材40の空洞部35(第2の鋼板31の突起部)に対応させて溝部24が形成されている。
【0025】
そして、空洞部35に冷媒を流通させるための冷媒流通手段が上金型20に設けられている。冷媒流通手段は、上金型20の中に設けられ、プレス成形時に空洞部35の一端に連通して冷媒を導入する冷媒導入路25と、上金型20中に設けられ、プレス成形時に空洞部35の他方の端に連通して冷媒を排出する冷媒排出路26で構成することができる。
【0026】
図1乃至
図3において、冷媒導入路25、冷媒排出路26、及び空洞部35の位置関係を示してある。
図3は上下金型が閉じ、空洞部35に冷媒を流通させる状態を示す斜視図であるが、簡略化のため、下金型10の凹部11、上金型20の凸部21等の図示を省略してある。
【0027】
プレス成形時(上下金型が閉じ時)に冷媒導入路25の導入口は空洞部35の一方の端に配管連絡され、冷媒排出路26の排出口は空洞部35の他方の端に配管連絡される。冷媒導入路25及び冷媒排出路26は上金型20に埋設されたパイプで構成することができる。また、冷媒導入路25及び冷媒排出路26は上金型20を上下方向に貫通しているが、これに限らず、その経路は上金型20の中で任意に変更することができる。
【0028】
次に、熱間プレス方法を
図4に基づいて説明する。先ず、
図4(a)に示すように、下金型10及び上金型20を開放し、下金型10及び上金型20の冷媒流路12,22に冷媒を流通させている状態で、下金型10に変態点以上の温度(例えば、900℃)に加熱された重ね合わせ部材40をセットする。この例では、重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33が下金型10の凹部11上に位置するように位置決めされている。
【0029】
次に、
図4(b)に示すように、上金型20を下死点まで下動させると、上金型20のプレス成形面の凸部21が重ね合わせ部材40を下金型10の凹部11に押し込んで成形する。この時、上金型20の冷媒導入路25が、重ね合わせ部33の空洞部35の一端に連通し、冷媒排出路26が空洞部35の他方の端に連通する。そこで、冷媒導入路25を経由して空洞部35の一方の端から冷媒を導入し、空洞35の他方の端から冷媒排出路26を経由して冷媒を排出する。
【0030】
重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33の空洞部35に冷却水等の冷媒が流通することにより、冷媒と重ね合わせ部33との熱交換が行われ、重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33の冷却が促進される。重ね合わせ部材40の非重ね合わせ部34は、本来的に上金型20及び下金型10との接触により冷却されるが、重ね合わせ部33については、これに加えて冷媒との接触で直冷されるようになっている。
【0031】
そして、
図3(c)に示すように、空洞部35に冷媒を流通させた状態を所定時間維持して重ね合わせ部材40の全体の温度が所定温度(例えば、200℃)まで低下した時に、冷媒の流通を停止し、かつ上金型20を上死点に向けて上動させ、両金型10,20を開放する。
【0032】
図10は、熱間プレス成形における重ね合わせ部材40の温度変化を示す図である。時刻t1以前には、重ね合わせ部材40が温度T0(例えば、900℃)の加熱状態で熱間プレス装置100にセットされた状態であり、自然冷却により温度がやや低下している。
【0033】
その後、上金型20が下動して、コンマ数秒という瞬間に下死点に到達し、重ね合わせ部材40のプレス成形が行われる。この両金型10,20が閉じた時刻t1のタイミングで空洞部35に冷媒を流すことにより重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33の直冷が開始する。その後、時刻t2のプレス成形終了時、つまり両金型開放時に冷媒の流通を停止することにより直冷が終了する。
【0034】
図10に示すように、重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33の温度は、直冷により急速に低下する。そのため、時刻t2(例えば、時刻t1から5秒)においては、重ね合わせ部材40の全体(重ね合わせ部33及び非重ね合わせ部34)の温度が目標温度T2(例えば、200℃)まで低下するように設定されている。
図10においては、重ね合わせ部33の温度は、非重ね合わせ部34に比べて急速に低下しているが、その冷却速度は、冷媒の流量等を調整することによりコントロール可能である。
【0035】
また、
図10において、重ね合わせ部材40の直冷期間は、t1〜t2のプレス成形期間と一致しているが、時刻t2のプレス終了前に空洞部35への冷媒の流通を停止させることで冷却期間を短縮することもできる。この場合は、両金型10,20が閉じている状態で空洞部35への冷媒の流通を停止し、重ね合わせ部材40の全体(重ね合わせ部33及び非重ね合わせ部34)の温度が目標温度T2まで低下するのを待つ。そして、重ね合わせ部材40の全体の温度が、目標温度T2まで低下した時点で、上金型20が上動し、両金型10,20が開放される。
【0036】
これに対して、従来の場合(重ね合わせ部材40を直冷せず、金型のみにより冷却する場合)は、重ね合わせ部33の温度は比較的ゆっくりと低下し、時刻t2において、T2より高いT1(T1>T2)である。重ね合わせ部33の温度がT2まで低下するにはさらに長い時間(例えば、5秒〜10秒)を必要とするため、熱間プレス成形の終了、つまり、両金型10,20の開放がその分だけ遅れることになる。
【0037】
そのため、重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33の厚さが例えば6mm以上と大きい場合には熱間プレス成形そのものが不可能になってしまう。また、重ね合わせ部33と非重ね合わせ部34との冷却むらにより、焼入れ品質の均一性が劣化し、熱間プレス成形後の重ね合わせ部材の寸法精度が落ちてしまう。
【0038】
このように、本実施形態によれば、重ね合わせ部材40に空洞部35を設け、プレス成形時に空洞部35に冷媒を流通させることにより、重ね合わせ部33の端部を直冷しているので、重ね合わせ部33の冷却を促進することができる。
【0039】
これにより、重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33の厚さが例えば6mm以上と大きく、従来のような金型による間接的な冷却では熱間プレス成形が不可能である場合であっても、熱間プレス成形の実施が可能になる。また、重ね合わせ部33の冷却速度を非重ね合わせ部34の冷却速度に合わせるようにコントロールすることにより、重ね合わせ部材40の冷却むらを抑制して、焼入れ品質の均一性、及び重ね合わせ部材40の寸法精度を向上させることができる。さらに、重ね合わせ部材40の冷却時間を短縮して生産性を向上させることができる。
【0040】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態における熱間プレス方法を
図5、
図6に基づいて説明する。
図5は熱間プレス装置100の上金型20の平面図(プレス成形面側から見た平面図)である。
図6は熱間プレス装置100の下金型10の平面図(プレス成形面側から見た平面図)であって、重ね合わせ部材40がセットされた状態を示す図ある。
図5及び
図6のA−A線における断面図は、
図4と同じである。
【0041】
本実施形態においては、重ね合わせ部材40に冷媒を導入・排出する位置が第1の実施形態と異なっている。
図6に示すように、重ね合わせ部材40には、第1の実施形態と同様に、空洞部35が形成されているが、空洞部35に対応する第2の鋼板31の突起部の両端部に冷媒導入口36,冷媒排出口37がそれぞれ開口形成されている。
そして、上金型20の中に、プレス成形時に空洞部35の冷媒導入口36に連通して冷媒を導入する冷媒導入路25と、プレス成形時に空洞部35の冷媒排出口37に連通して冷媒を排出する冷媒排出路26が設けられている。その他の構成は、第1の実施形態と同様であり、同様の効果を得ることができる。
【0042】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態における熱間プレス方法を
図7乃至
図9に基づいて説明する。
図7は熱間プレス装置100の上金型20の平面図(プレス成形面側から見た平面図)である。
図8は熱間プレス装置100の下金型10の平面図(プレス成形面側から見た平面図)であって、重ね合わせ部材40がセットされた状態を示す図ある。
図9は熱間プレス装置100の両金型10,20が閉じ、空洞部35に冷媒を流通させる状態を示す斜視図である。
【0043】
本実施形態では、重ね合わせ部材40の空洞部35が第2の実施形態のものに比して幅広になっている。これにより、空洞部35を流れる冷媒断面積(冷媒と重ね合わせ部33との接触面積)が大きくなるので、重ね合わせ部材40の重ね合わせ部33の冷却をさらに促進することができる。
【0044】
また、空洞部35に対応する第2の鋼板31の突起部はその上面に平坦部を有しており、空洞部35に連通する冷媒導入口36,冷媒排出口37は、この平坦部に形成されることが好ましい。これは、プレス成形時に空洞部35の冷媒導入口36に連通して冷媒を導入する冷媒導入路25と、プレス成形時に空洞部35の冷媒排出口37に連通して冷媒を排出する冷媒排出路26との位置合わせを容易にし、冷媒の漏れを防止するためである。
【0045】
なお、第1乃至第3の実施形態においては、重ね合わせ部33の空洞部35は第1の鋼板30との接触面から第2の鋼板31を突起状に持ち上げることにより形成されるが、これとは逆に、空洞部35は第2の鋼板31との接触面から第1の鋼板30を突起状に持ち上げることにより形成しても良い。また、第1及び第2の鋼板30,31の両方をそれらの接触面から持ち上げることにより箱状の空洞部を形成しても良い。さらに、空洞部35を複数形成すれば、冷媒と重ね合わせ部33との接触面積を増加させることができる。
【0046】
なお、第1乃至第3の実施形態においては、重ね合わせ部材40は2枚の鋼板を重ね合わせたものであるが、本発明は、3枚以上の鋼板を重ね合わせた重ね合わせ部材40の熱間プレス成形にも適用することができる。この場合、隣接する鋼板の間に空洞部を形成する。本発明は、機械的強度と高品質が要求されるピラーレインフォースメント等の自動車車体部品の製造に好適に適用することができる。