【文献】
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【文献】
和田勝寛,繊維と工業,2009年,Vol. 65, No. 11, p. 407-411
【文献】
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【文献】
Mo Y. et al.,Biopolymers,1999年,Vol. 50, Issue 2, p. 23-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記関節機能不全が、骨関節炎、関節鏡検査後、関節形成後(post−orthoplasty)、傷害後または長期間の固定化と関係した関節痛または関節機能不全である、請求項18に記載の組成物。
前記組成物が被験体に投与された後に、該組成物が、骨関節炎の実験ラットモデルにおいて正常な運動および異常な運動によって誘導される神経インパルスの数の減少を引き起こす、請求項18に記載の組成物。
前記組成物が被験体に投与された後に、該組成物が、骨関節炎の実験ラットモデルにおいて正常な運動によって誘導される神経インパルスの数の減少を引き起こす、請求項18に記載の組成物。
前記減少が、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍または少なくとも8倍である、請求項23に記載の組成物。
前記組成物が被験体に投与された後に、該組成物が、骨関節炎の実験ラットモデルにおいて異常な運動によって誘導される神経インパルスの数の減少を引き起こす、請求項18に記載の組成物。
前記ヒアルロナンが、前記組成物中に、少なくとも40mg/mL、少なくとも50mg/mL、少なくとも60mg/mL、少なくとも70mg/mL、少なくとも80mg/mL、および少なくとも90mg/mLからなる群より選択される濃度で存在する、請求項1または10に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、高濃度のヒアルロナン(HA)を含む組成物を提供する。そのような組成物は、高い弾性、例えば0.1〜10Hzの周波数で測定されたときに高い弾性率G’を有すると決定した。高弾性を特徴とするHA組成物、例えば高濃度のHAを含む組成物は、骨関節炎によって引き起こされる関節痛などの関節痛の処置で驚くほど効果的であることが今回発見された。本発明の組成物に含まれるHAの平均分子量は、200万またはそれ未満、例えば、約100万〜200万の間であってもよい。
【0040】
以前は、関節痛の処置におけるHA組成物の有効性は、HAの濃度ではなくその平均分子量に依存すると考えられていたので上記発見は意外であった。特に、高い平均分子量のHA組成物、例えば、200万より大きい平均分子量を有するHAを含む組成物が、関節痛を処置するために最も効果的であると考えられていた。
【0041】
ヒアルロナン(ヒアルロン酸またはヒアルロナートまたはHAとも呼ばれる)は、関節液、およびそのまわりの滑膜組織中に存在するグリコサミノグリカンである。この高度に弾粘性で多分散の多糖類は、関節窩を囲む結合組織である滑膜中の細胞間隙を満たす滑液の主成分である。
【0042】
滑液の弾粘性特性はその生理学的機能に重要である。滑液は、関節内の代謝にとって重要な流体の運動に関与する粘性流動が可能でなければならない。しかし、同じ滑液は、また、組織表面、線維構造、神経終末および細胞の変形を制限する方法で、関節への機械的応力の衝撃を蓄えるために弾性特性を使用し、ショックアブソーバーとして振る舞わなければならない。
【0043】
滑液および組織中に含まれるHAの、異なった型の運動に対する関節の応答を調整する能力は、HAが粘性特性と弾性特性の両方を有するという事実によって説明される。遅い運動中には、組織を満たす滑液は、低い変形周波数にさらされ、エネルギーがヒアルロナンネットワークに伝搬する速度は、ヒアルロナン分子がその配置(configuration)を調節し流動の方向に整列する時間を与えるのに十分に低い。このようにして、遅い運動中に、滑液に加えられたエネルギーは、主に粘性流動および熱として放散される。また、ヒアルロナン分子のこの整列は、滑液の擬似塑性(ずり減粘、すなわち流速の増加に伴う粘度の減少)に関与する。しかし、滑液中のヒアルロナンネットワークがランニングまたは跳躍中などの高い変形速度にさらされる場合、応力は急速に移動し、そのため、ヒアルロナン分子はその配置を調節する十分な時間がない。代わりに、HAは、コイル状分子のショックアブソーバーとして働き、弾性変形として伝搬されるエネルギーを保存し弾性固体のように振る舞う。
【0044】
印加される機械的応力の歪み周波数は、ヒアルロナンが主に、粘性流体としてか、それとも弾性ショックアブソーバーとして働くのかを決定する。2つの値が弾粘性流体のレオロジープロファイルを記載するために使用される:弾性率(G’)は弾性の指標であるが、粘性率G”は粘性の指標である。HAが高い変形速度(例えばランニングまたは跳躍中)にさらされる場合、HA分子はコイル状分子のショックアブソーバーとして働き、弾性固体のように振る舞う。HAが低い変形速度(例えば遅い運動中)にさらされる場合、滑液に加えられたエネルギーは粘性流動および熱として放散される。
【0045】
1960年代に、ヒアルロナンが、炎症を起こした膝関節に注射されたとき、疼痛を軽減することが発見された。この発見の結果、高度に精製されたHA溶液が、ヒトおよび動物の関節痛の処置のために開発された。この新しい治療薬の使用は、粘性補充と呼ばれた。HAは弾粘性の覆いとして働くことができ、有害刺激による痛覚神経線維の活性化に関与するイオンチャネルに達する機械力を低下させ、それによって特定のチャネルの開口確率を減少させて痛覚末端の神経インパルスの数を減少させ、こうして痛覚を軽減する。痛覚受容器に対する保護の増加が関節の治癒プロセスを改善することもまた示された。
【0046】
健常な個体のヒト滑液中のヒアルロナンの平均分子量は、300万〜400万の間にあるが、病的な関節中のヒアルロナンの平均分子量は50万〜200万の間にある。関節痛、例えば骨関節炎と関係した関節痛(paint)の処置に使用されるヒアルロナンは、健常な関節中に存在するヒアルロナンと同程度か、またはさらに高い平均分子量がなければならないと考えられた。疼痛および炎症を軽減するために、関節が病的(痛みを伴う)になる前の関節中に存在するのと同じサイズかより大きなサイズである高い平均分子量のヒアルロナンが使用された。
【0047】
健常なヒト膝関節の滑液において、ヒアルロナンは、およそ321mg/100mLの平均濃度(250〜368/mg/100mLの範囲)で見出される。病的な関節において、滑液は、たいていは100mL当たり40〜188mgの間のより低濃度を有することがわかっている。また、関節痛の、例えば骨関節炎と関係した関節痛において、処置に使用されるヒアルロナンは、健常な関節中に存在するヒアルロナンと同じまたはさらに高濃度で投与されなければならないと考えられた。痛みを伴うか、そうでなければ病的な関節への注射のための市販ヒアルロナン組成物は、最大2.2%(22mg/mL)の濃度を有する。このように、関節への注射に利用可能な組成物中のヒアルロナンの濃度は、健常な関節中のヒアルロナンの濃度よりはるかに高い。
【0048】
関節機能の改善、および関節機能と関係した疼痛の処置のための世界中の市場には幾つかのヒアルロナン製品がある(例えば実施例1中の表1参照)。これらの製品は、一般に高い平均分子量かつ比較的低濃度(1〜2.2%)のヒアルロナンを有する。上記に認められるように、健常な個体のヒト滑液中のヒアルロナンは300万〜400万の平均分子量である。高い平均分子量を有するヒアルロナンは、関節痛の処置において最も効果的であると考えられた。
【0049】
超高純度のヒアルロナン製品Synvisc(登録商標)(例えばEndre A.Balazsによって米国特許第4,141,973号に記載されている)は、粘性補充に利用可能な最も高い平均分子量(500万)を有するヒアルロナン製品であり、病的な動物およびヒト関節における最も活性な「鎮痛剤(pain killer)」であることがわかった。Synvisc(登録商標)は、また20%の、架橋し高度に水和したヒアルロナンゲルを含む。Synvisc(登録商標)は、正常なおよび炎症を起こした関節の運動によって誘起される感覚線維中のインパルス活性を低下させて、それによって、関節機能と関係した疼痛を軽減する。Synvisc(登録商標)は、疼痛の処置における現在利用可能な市販HA製品のうちで最も効果的であると考えられる。しかし、高い平均分子量を有する無菌のヒアルロナンの製造は難問であり、これが、Synvisc(登録商標)以外のすべての市販のヒアルロナン製品が著しく低い平均分子量を有するという理由であると考えられる。
【0050】
現在市場に出回っている多数のヒアルロナン製品が、約0.8%(Synvisc(登録商標))、1.0%(Euflexxa(登録商標)、Supartz(登録商標)、Hyalgan(登録商標)、Gel−One(登録商標)、Synocrom(登録商標)、Synocrom(登録商標)Mini)、1.5%(Orthovisc(登録商標))、2%(Synocrom(登録商標)Forte、Synocrom(登録商標)Forte One、Synolis V−A)または2.2%(Monovisc(登録商標))のヒアルロナンの濃度を有する。これらのヒアルロナン製品は、0.8〜2.2%以下のヒアルロナンの百分率を有するが、それは、そのような濃度が健常な組織中の濃度より既にはるかに高いからである。0.8〜2.2%よりさらに高い濃度は、健常なヒト関節中のヒアルロナン濃度と比較して高すぎると当技術分野では見なされた。
【0051】
炎症を起こし痛みを伴う関節は、低弾性を有するHA組成物より、高弾性のHA組成物により応答性であることが、今回初めて認識された。したがって、本発明は、高い弾性特性を有するヒアルロナンの組成物を提供し、低弾性を有するヒアルロナンの現在利用可能な組成物と比較して、高い弾性特性を有するヒアルロナンの組成物(例えばElastovisc(商標))の関節痛の処置において優れた特性を示す。本明細書において開示される高い弾性特性を有するヒアルロナンの組成物(例えばElastovisc(商標))は、関節におけるヒアルロナンの抗疼痛効果が製品の粘性でなくその弾性に依存するという発見に基づく。したがって、本明細書において開示されるヒアルロナンの組成物の治療上の成功は、使用されるヒアルロナン組成物の弾性に依存する。特定のメカニズムに制約されないが、本明細書において提供される高弾性のヒアルロナン濃度は、長い時間(例えば、数週間またはそれより長く)関節中に存続し、痛覚受容器に作用するだけでなく、疼痛を引き起こす化学因子と相互作用し、および/またはそれを除去すると考えられる。
【0052】
本明細書において開示されるように、一実施形態において、高弾性を有するヒアルロナンの組成物は、組成物中のヒアルロナンの濃度を高めることにより作製することができる。予想外にも、高濃度のヒアルロナンを有する、さらに100万〜200万の平均分子量を有するヒアルロナンの組成物が関節痛の処置に使用することができることが本明細書において示される。本発明以前には、高い平均分子量のヒアルロナンの組成物(例えばSynvisc(登録商標))のみが強い疼痛軽減効果を有し得ると考えられたので、この結果は意外である。本発明以前には、0.8〜2.2%を超える濃度(健常な関節中に見出される濃度より既にはるかに高い)には、追加の有益な効果がないか、または、これが健常な関節中の濃度と比較して高すぎる可能性すらあると考えられたので、この結果はさらに意外である。さらに、本発明者らは、高濃度のHA分子が侵害受容器のTRPV1チャネルとの相互作用を容易にし、それによって有害刺激に対する侵害受容器の応答性を減少させることを発見した。
【0054】
本発明は、ヒアルロナン(HA)を含む医薬組成物を提供する。幾つかの実施形態において、本発明の組成物は、約30mg/mLより高い(または約3%重量/体積より高い)濃度で組成物中に存在するヒアルロナンを含み;ヒアルロナンは約100万〜約200万の間の平均分子量を有し;ヒアルロナンは架橋しておらず、および/または化学的改質を実質的に含まず;ここで、組成物は、他の薬学的に活性な物質を実質的に含まない。
【0055】
例えば、本発明の組成物中のHA濃度は、約30mg/mL(または約3%w/v)、約35mg/mL(または約3.5%w/v)、約40mg/mL(または約4%w/v)、約45mg/mL(または約4.5%w/v)、約50mg/mL(または約5%w/v)、約55mg/mL(または約5.5%w/v)、約60mg/mL(または約6%w/v)、約65mg/mL(または約6.5%w/v)、約70mg/mL(または約7%w/v)、約75mg/mL(または約7.5%w/v)、約80mg/mL(または約8%w/v)、約85mg/mL(または約8.5%w/v)、約90mg/mL(または約9%w/v)、約95mg/mL(または約9.5%w/v)、約100mg/mL(または約10%w/v)、約105mg/mL(または約10.5%w/v)、約110mg/mL(または約11%w/v)、約115mg/mL(または約11.5%w/v)、約120mg/mL(または約12%w/v)、約125mg/mL(または約12.5%w/v)、約130mg/mL(または約13%w/v)、約135mg/mL(または約13.5%w/v)、約140mg/mL(または約14%w/v)、約145mg/mL(または約14.5%w/v)、または約150mg/mL(または約15%w/v)であり得る。特定の実施形態において、HAは、約40mg/mL(または約4%w/v)の濃度で組成物中に存在する。別の特定の実施形態において、HAは、約60mg/mL(または約6%w/v)の濃度で本発明の組成物中に存在する。
【0056】
特定の実施形態において、本発明の組成物において使用されるヒアルロナンは架橋しておらず、および/または化学的改質を含まない。例えば、本発明の組成物において使用されるヒアルロナンは、例えば欧州特許第1095064B1号明細書に記載されているHAのカルボキシル基と誘導体化剤のアミン基との間の反応によって形成され得るアミド化を含まない。また、本発明の組成物において使用されるヒアルロナンは、例えば米国特許第8,323,617号に記載されている、モノカルボジイミドまたはビスカルボジイミドなどのカルボジイミドとのヒアルロナンの反応から生じ得る化学的改質および/または架橋を含まなくてもよい。
【0057】
幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は他の薬学的に活性な物質を含まない。本明細書において使用される場合、「薬学的に活性な物質」は、被験体、例えばヒト、または動物被験体に生物学的作用を及ぼすことができる物質である。この用語「薬学的に活性な物質」は、また、HA組成物が被験体に投与される場合、該組成物の生物学的作用を調整することができる、例えば、HA組成物が炎症を起こした関節において疼痛を軽減する能力を調整することができる物質を含む。特定の実施形態において、薬学的に活性な物質は、タンパク質、例えばrhGDF−5などの骨形成因子(BMP)である。特定の実施形態において、薬学的に活性な物質は、HAとは異なるグリコサミノグリカン(GAG)、例えばコンドロイチンである。幾つかの実施形態において、薬学的に活性な物質はヒドロキシプロピルメチルセルロースである。他の実施形態において、薬学的に活性な物質は、リドカインまたはブピバカインなどの表面麻酔薬(topical anesthetic)である。
【0058】
ある実施形態において、本発明のHA組成物は、ソルビトールなどのフリーラジカルを捕捉することができる分子を含まない。他の実施形態において、本発明のHA組成物は、HAの弾性を減じる分子、例えば、デキストランまたはスクロースを含まない。
【0059】
幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は、生理学的緩衝液、例えばリン酸緩衝液または重炭酸緩衝液中で約30mg/mL(約3%w/v)より高い、または約40mg/mL(約4%w/v)の濃度で存在し、約100万〜約200万の間の平均分子量を有するHAから本質的になる。特定の実施形態において、本発明のHA組成物は、約40mg/mL(または約4%w/v)の濃度で存在し、約100万〜約200万の間の平均分子量を有するHAから本質的になる。
【0060】
別の実施形態において、本発明のHA組成物は、注射デバイス(針、トロカール、カニューレまたは灌流デバイス)を使用する注射によってそれを必要とする被験体に投与されてもよい。本発明のHA組成物を注射するのに適する注射デバイスは、2.11mmまたはそれを超える公称直径(14Gの針、または14の針規格より大きい針に対応する)を有していてもよい。幾つかの実施形態において、より小さい針、例えば公称直径が2.11mm未満の針を使用する投与にとって本発明のHA組成物は高粘度過ぎる可能性がある。他の実施形態において、本発明のHA組成物は、2.11mm未満の公称直径を有するより小さい注射デバイスを使用して、投与を可能にし得る。
【0061】
例えば、注射器などの本発明のHA組成物を注射するのに適するデバイスは、それぞれ、30、29、28、27、26s、26、25.5、25s、25、24.5、24、23.5、23s、23、22.5、22s、22、21.5、21、20.5、20、19.5、19、18.5、18、17.5、17、16.5、16、15.5、15、14.5、14、13.5、13、12.5または12(または30G、29G、28G、27G、26sG、26G、25.5G、25sG、25G、24.5G、24G、23.5G、23sG、23G、22.5G、22sG、22G、21.5G、21G、20.5G、20G、19.5G、19G、18.5G、18G、17.5G、17G、16.5G、16G、15.5G、15G、14.5G、14G、13.5G、13G、12.5Gまたは12Gの針)の規格に対応する、約0.31mm、0.34mm、0.36mm、0.41mm、0.474mm、0.46mm、0.49mm、0.515mm、0.51mm、0.54mm、0.57mm、0.59mm、0.642mm、0.64mm、0.67mm、0.718mm、0.72mm、0.77mm、0.82mm、0.87mm、0.91mm、約0.99mm、約1.07mm、約1.17mm、約1.27mm、約1.42mm、約1.47mm、約1.57mm、約1.65mm、約1.73mm、約1.83mm、約1.98mm、約2.11mm、約2.26mm、約2.41mm、約2.54mmまたは約2.77mmの公称直径を有していてもよい。一実施形態において、本発明のHA組成物は、約1.27mmの公称直径を有する18Gの注射針を使用して投与されてもよい。幾つかの実施形態において、より小さい針、例えば、の公称直径を有する針、を使用する投与にとって本発明のHA組成物は高粘度過ぎる可能性がある。
【0062】
本発明の組成物中のヒアルロナンは、0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも100パスカルの弾性、または0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも400パスカルの弾性、または0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも1,000パスカルの弾性、または0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも2,000パスカルの弾性、または0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも4,000パスカルの弾性、または0.5Hzの周波数で測定したとき400〜5,000パスカルの間の弾性を有することができる。
【0063】
様々な方法がヒアルロナンなどのバイオポリマーの弾性の測定に利用可能であることが認識されるべきである。一実施形態において、本発明は、高弾性を有するヒアルロナンを含む組成物を提供し、ここで、弾性は特定の周波数(ヘルツで表される)で圧力(パスカルで表される)として測定される。幾つかの実施形態において、本明細書において使用される周波数は、特定の関節の運動に対応する。例えば、本明細書において提供されるヒアルロナン組成物の弾性を評価するために使用されてもよい周波数は、0.5Hz(歩行に対応する)、2.5Hz(ランニングに対応する)、または5.0Hz(跳躍に対応する)で測定されてもよい。これらの周波数は膝関節に適用可能であるが、同様の曝露(例えば股、くるぶし(ankle))を有する他の関節は同じ応力周波数を経験し得る。さらに、弾性は、膝機能(例えば歩行、ランニング)と関係した特定の機能での圧力として表されていてもよく、弾性はまた、非歩行運動(例えば肘もしくは肩の回転、または手首の運動)によって働かせた圧力として表されてもよい。
【0064】
さらに弾性を任意の適切な周波数で表わすことができることは認識されるべきである。このように、例えば、一実施形態において、弾性は2.5Hzの「ランニング」周波数に基づいて表され、高弾性を有するヒアルロナンを含む組成物は、2.5Hzの周波数で少なくとも200Paの弾性を有する組成物である。同様に、一実施形態において、弾性は5.0Hzの「跳躍」周波数に基づいて表され、高弾性を有するヒアルロナンを含む組成物は、5.0Hzの周波数で少なくとも400Paの弾性を有する組成物である。
【0065】
一態様において、本発明は、0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも100パスカルの弾性を有する、ヒアルロナンを含む組成物を提供する。幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも300パスカルの弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき少なくとも350パスカルの弾性を有する。
【0066】
一態様において、本発明は、0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも400パスカルの弾性を有する、ヒアルロナンを含む組成物を提供する。幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも750パスカルの弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき少なくとも900パスカルの弾性を有する。
【0067】
一態様において、本発明は、0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも1000パスカルの弾性を有する、ヒアルロナンを含む組成物を提供する。幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき、少なくとも1600パスカルの弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき少なくとも2000パスカルの弾性を有する。
【0068】
一態様において、本発明は、0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも2600パスカルの弾性を有する、ヒアルロナンを含む組成物を提供する。幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも4000パスカルの弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき少なくとも4500パスカルの弾性を有する。
【0069】
一態様において、本発明は、0.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも4000パスカルの弾性を有する、ヒアルロナンを含む組成物を提供する。幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき少なくとも5000パスカルの弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき少なくとも6000パスカルの弾性を有する。
【0070】
幾つかの実施形態において、本組成物は、0.5Hzの周波数で測定したとき100〜10,000パスカルの間の弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、0.5Hzの周波数で測定したとき400〜5,000パスカルの間の弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、0.5Hzの周波数で測定したとき1,000〜2,000パスカルの間の弾性を有する。
【0071】
幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき300〜10,000パスカルの間の弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき750〜6,000パスカルの間の弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、2.5Hzの周波数で測定したとき1,500〜4,000パスカルの間の弾性を有する。
【0072】
幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき300〜10,000パスカルの間の弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき900〜7,000パスカルの間の弾性を有する。幾つかの実施形態において、本組成物は、5.0Hzの周波数で測定したとき2,000〜5,000パスカルの間の弾性を有する。
【0073】
幾つかの実施形態において、弾性は適切なデバイス(例えばレオメータ)の使用により測定される。幾つかの実施形態において、弾性は、Stresstech High Resolution Research Rheometer(Reologica Instruments AB)の使用により測定される。幾つかの実施形態において、弾性は周囲温度および周囲圧力で決定される。しかし、弾性が非周囲温度および/または非周囲圧力で測定されてもよいことは認識されるべきである。さらに、当業者が、様々な温度および圧力で決定した弾性の大きさを周囲温度および周囲圧力での弾性の大きさに変換する方法を知っていることは認識されるべきである。
【0074】
本明細書において開示されるように、ヒアルロナンの高弾性組成物は、組成物中のヒアルロナンの濃度を高めることにより調製することができる。このようにして、一態様において、本発明は、ヒアルロナンの高い百分率を含み、高弾性を有する組成物を提供する。例えば、本発明の組成物は、少なくとも3.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも3.5%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも4.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも4.5%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも5.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも5.5%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも6.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも6.5%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも7.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも7.5%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも8.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも8.5%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも8.9%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも9.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも10.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも11.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも12.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも13.0%のヒアルロナン(重量/体積)、少なくとも14.0%のヒアルロナン(重量/体積)もしくは少なくとも15.0%、またはそれより多くのヒアルロナン(重量/体積)を含む。
【0075】
記述された値の中間の範囲もまた本発明の一部であることが意図される。例えば、本発明の組成物中のヒアルロナン含有率は、約3%〜約15%(重量/体積)の間、約3%〜約10%(重量/体積)、約3.5%〜約9%(重量/体積)、約4%〜約8%(重量/体積)または約5%〜約7%(重量/体積)の間にあってもよい。
【0076】
さらに、特定体積中のヒアルロナンの量も、代替手段(例えばグラム/リットルまたはmol/リットル)によって表されてもよいことは認識されるべきである。当業者は、特定体積中のヒアルロナンの量を表す様々な手段を変換する方法を知っている。
【0077】
上記に示されるように、予想外にも、高濃度のヒアルロナンを含むヒアルロナンの組成物、さらに100万〜200万の平均分子量を有するヒアルロナンの組成物が、関節痛の処置に特に効果的であることは本明細書において示される。このように、本明細書において提供されるヒアルロナンの組成物の幾つかの実施形態において、ヒアルロナンの平均分子量は、200万未満、190万未満、180万未満、170万未満、160万未満、150万未満、140万未満、130万未満、120万未満、110万未満、100万未満、90万未満、80万未満、70万未満、60万未満または50万未満である。
【0078】
記述された値の中間の範囲もまた本発明の一部であることが意図される。例えば、本明細書において提供されるヒアルロナンの組成物において、ヒアルロナンの平均分子量は、100万〜200万の間、100万〜150万の間、50万〜100万の間、50万〜200万の間、または90万〜140万の間である。
【0079】
本明細書において提供されるヒアルロナンの組成物の幾つかの実施形態において、組成物中に存在する大半のヒアルロナンは、本明細書において提供される平均分子量範囲内にある。このように、例えば、20万〜200万の間のヒアルロナンの平均分子量を有する組成物において、組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも95%は、20万〜200万の間の範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも50%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも60%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも70%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも80%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも90%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも95%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも98%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも99%は、平均分子量の記述された範囲内にある。幾つかの実施形態において、本明細書において提供される組成物中に存在するヒアルロナンの少なくとも99.9%は、平均分子量の記述された範囲内にある。
【0081】
本明細書において提供される組成物および方法において使用されるヒアルロナンは、任意の供給源から得ることができる。一般に、ヒアルロナンは、その起源(例えば、ニワトリまたはオンドリのとさか、ヒトまたは細菌細胞壁)に関係なく、同じ化学構造を有する。ヒアルロナンは、例えば、ニワトリまたはオンドリのとさか、細菌細胞壁およびヒト組織(眼の硝子体、関節からの滑液など)から得ることができる。幾つかの実施形態において、ヒアルロナンはニワトリのとさかから単離される。幾つかの実施形態において、ヒアルロナンは、ヒト組織、例えば臍帯、眼の硝子体、関節からの滑液から単離される。幾つかの実施形態において、ヒアルロナンは細胞培養物から単離される。幾つかの実施形態において、ヒアルロナンは細菌細胞壁から単離される。様々な供給源からのヒアルロナンの単離は、当業者に知られている。例えば、オンドリのとさかからのヒアルロナンの採取および精製は米国特許第4,141,973号に記載されているが、バクテリアの供給源からのヒアルロナンの採取および精製は、米国特許第4,517.295号に記載されている。幾つかの実施形態において、ヒアルロナンは6〜8のpHで0.15M NaClを含む溶液に精製され採取される。一般に、様々な供給源から得られたヒアルロナンは、タンパク質またはヒアルロナン以外のグリコサミノグリカンを含まない。
【0082】
幾つかの実施形態において、単離されたヒアルロナンは所望の平均分子量範囲を有するヒアルロナンを得るためにさらに精製される(例えばカラムクロマトグラフィーによって)。所望の平均分子量範囲を有するヒアルロナンを精製する方法は、当業者に知られている。
【0083】
一態様において、本明細書において開示される高弾性を有するヒアルロナンは未改質ヒアルロナンである。しかし、幾つかの実施形態において、ヒアルロナンが化学的に改質されてもよいことは認識されるべきである。例えば、ヒアルロナンはヒアルロナンの弾性を高めるために化学的に改質されてもよい。
【0084】
III. 本発明のヒアルロナン組成物の滅菌
【0085】
幾つかの実施形態において、本発明の組成物は無菌である。「無菌組成物」とは、本明細書において使用される場合、被験体、例えばヒト被験体に投与されることが安全な組成物を指す。したがって、無菌組成物は、望ましくない免疫応答、例えば炎症、または感染症などの望ましくない副作用を引き起こす恐れがある剤は極力含まない。
【0086】
ヒアルロナンの組成物を殺菌する方法は、当技術分野で知られていて、例えば、加熱または例えば、オートクレーブ処理による蒸気殺菌を含む。幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は組成物の加熱により殺菌される。幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は、注射器にHA組成物を含み、HA含有注射器を131℃で2分間または121℃で15分間オートクレーブ処理し、続いて直ちに冷却することによって殺菌される。
【0087】
IV. 本発明のヒアルロナン組成物の追加成分
【0088】
本発明のHA組成物は、ヒアルロナンを安定させ、および/または組成物を被験体への投与により適切にすることができる追加成分を含んでもよい。幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は緩衝液を含んでもよい。緩衝液は安定なpHを可能にするために加えられる。本発明で使用される適切な緩衝液はリン酸緩衝液および重炭酸緩衝液を含む。幾つかの実施形態において、緩衝液はトリスリン酸緩衝液である。幾つかの実施形態において、緩衝液は、1mM〜100mMの間、2mM〜50mMの間、または5mM〜20mMの間の濃度で存在する。幾つかの実施形態において、緩衝液濃度は1mM未満である。幾つかの実施形態において、緩衝液濃度は、100mMを超える。幾つかの実施形態において、緩衝液濃度は10mMである。緩衝液濃度が、使用される緩衝液の性質に依存することは認識されるべきである。幾つかの実施形態において、組成物のpHは、pH7〜pH9の間、またはpH7.5〜pH8.5の間にある。幾つかの実施形態において、組成物のpHは8.0である。幾つかの実施形態において、組成物のpHは7.5である。幾つかの実施形態において、組成物のpHは8.5である。必要ならば、酸(HCLなど)または塩基(NaOHなど)を、所望のpHを得るために組成物に加えることができる。
【0089】
幾つかの実施形態において、ヒアルロナン組成物は、緩衝液、例えば生理学的に適合可能な緩衝液を含むが、追加成分を含まない。
【0090】
幾つかの実施形態において、本組成物は、カルボン酸またはその塩などの安定化賦形剤を含む。幾つかの実施形態において、本組成物は、モノカルボン酸および/またはその塩を含む。幾つかの実施形態において、本組成物は、グルコン酸および/またはグルコン酸ナトリウムを含む。幾つかの実施形態において、本組成物は、ジカルボン酸および/またはその塩を含む。幾つかの実施形態において、本組成物は、クエン酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、酒石酸および/またはその塩を含む。幾つかの実施形態において、カルボン酸はクエン酸ナトリウムである。幾つかの実施形態において、本組成物はトリカルボン酸(tricarboxylic aid)および/またはその塩を含む。幾つかの実施形態において、本組成物はニトリロ三酢酸および/またはニトリロ三酢酸ナトリウムを含む。幾つかの実施形態において、本組成物は、テトラカルボン酸および/またはその塩を含む。幾つかの実施形態において、本組成物はエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetracetic acid)(EDTA)および/またはEDTAナトリウムを含む。幾つかの実施形態において、本組成物はペンタカルボン酸および/またはその塩を含む。幾つかの実施形態において、本組成物はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)および/またはDTPAナトリウムを含む。適切なカルボン酸は、クエン酸ナトリウムなどのシトラート化合物;タータラート化合物、スクシナート化合物およびEDTAを含むがこれらに限定されない。KaushilらはProtein Science 1999 8:222−233に、Busbyらはthe Journal of Biological Chemistry Volume 256,Number 23 pp 12140−1210−12147にカルボン酸およびその使用を記載している。幾つかの実施形態において、安定化賦形剤は、50〜600mMの間、250〜500mMの間、または250〜350mMの間の濃度を有する。幾つかの実施形態において、安定化賦形剤の濃度は300mMである。幾つかの実施形態において、安定化賦形剤の濃度は100mM未満である。幾つかの実施形態において、安定化賦形剤の濃度は、600mMを超える。
【0091】
幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は糖(例えば二糖類の塩)を含む。組成物に加えることができる二糖類の塩は、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、デキストロースおよびデキストランを含むがこれらに限定されない。幾つかの実施形態において、糖は0.5〜5%(重量/体積)の間で存在する。幾つかの実施形態において、糖は1〜2%(重量/体積)の間で存在する。一実施形態において、糖は1%で存在する。幾つかの実施形態において、糖は1%(重量/体積)未満で存在する。幾つかの実施形態において、糖は5%(重量/体積)を超えて存在する。一実施形態において、糖はスクロースまたはトレハロースであり、1%(重量/体積)で存在する。
【0092】
幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は塩を含む。組成物において使用することができる塩は、塩化ナトリウムおよび他の生理学的に適合可能な塩を含む。幾つかの実施形態において、塩濃度は、10mM〜250mMの間、25mM〜100mMの間にある。幾つかの実施形態において、塩濃度は50mMである。幾つかの実施形態において、塩濃度は10mM未満である。幾つかの実施形態において、塩濃度は、250mMを超える。
【0093】
幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は1種または複数の抗酸化剤を含む。抗酸化剤は溶液からフリーラジカルを除去することにより酸化を阻害することができる物質である。抗酸化剤は、当業者に周知されており、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体(例えばパルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、アスコルビン酸ナトリウムまたはアスコルビン酸カルシウム)、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化(buylated)ヒドロキシトルエン、没食子酸アルキル、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、トコフェロール、およびその誘導体、(d−アルファトコフェロール、酢酸d−アルファトコフェロール、コハク酸d−アルファトコフェロール、ベータトコフェロール、デルタトコフェロール、ガンマトコフェロール、およびd−アルファトコフェロールポリオキシエチレングリコール1000スクシナート)、モノチオグリセロールおよび亜硫酸ナトリウムなどの材料が含まれる。そのような材料は、通常0.01〜2.0%の範囲で加えられる。
【0094】
幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は1種または複数の等張剤を含む。この用語は、当技術分野で等浸透圧剤と交換可能に使用され、血漿などのヒト細胞外液と等浸透圧である、0.9%塩化ナトリウム溶液の浸透圧などの浸透圧を高めるために医薬調製物に加えることができる化合物として知られている。本発明の組成物において使用される好ましい等張剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、デキストロースおよびグリセリンを含む。
【0095】
幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は1種または複数の防腐剤を含む。適切な防腐剤は、クロロブタノール(0.3〜0.9%w/v)、パラベン(0.01〜5.0%)、チメロサール(0.004〜0.2%)、ベンジルアルコール(0.5〜5%)、フェノール(0.1〜1.0%)などを含むがこれらに限定されない。
【0096】
幾つかの実施形態において、本組成物は、組成物の注射中に望ましくない副作用を最小化する1種または複数の成分を含む(incudes)。
【0097】
V. 本発明のヒアルロナン組成物を含む製造のキットおよび物品
【0098】
また、本発明のHA組成物および使用のための指示を含むキットは本発明の範囲内である。用語「キット」は、本明細書において使用される場合、疾患または障害、例えば関節痛の処置のために本発明のHA組成物を、それでもって投与するための構成要素を含む、包装された製品を指す。キットは、好ましくはキットの構成要素を保持する箱または容器(container)を含む。箱または容器は、ラベル、または、食品医薬品局(Food and Drug Administration)承認プロトコルが添付される。箱または容器は、好ましくはプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンまたはプロピレン容器(vessel)内に含まれる、本発明の構成要素を保持する。該容器は封鎖した管または瓶であってもよい。キットは、また本発明のHA組成物(compositon)を投与するための指示を含むことができる。
【0099】
キットは、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)または栄養補給剤、例えば、グルコサミンおよび/またはコンドロイチン硫酸を含むサプリメントなどの、もう1種の追加の試薬および/または薬剤をさらに含むことができる。NSAIDSの非限定的な例には、アスピリン、ジフルニサール、サルサレート、コリンマグネシウムトリサリチラート、イブプロフェン、デキシイブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン(fenoprefen)、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、インドメタシン、トルメチン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、アセクロフェナク、ナブメトン、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メフェナム酸(melfenamic acid)、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、フォルフェナム酸、セレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、ルミラコキシブ、エトリコキシブ、フィロコキシブ、ニメスリド(nimesulfide)またはリコフェロンが含まれる。キットは、一般にキットの内容物の意図する使用を示すラベルを含む。ラベルという用語は、任意の書字、またはキット上にもしくはキットに伴って供給されるか、そうでなければキットに付随する記録した材料を含む。
【0100】
本発明は、また本発明の組成物が充填された1個または複数の容器を含む医薬品包装またはキットを提供する。一実施形態において、本発明の組成物が充填された容器はプレフィルドシリンジである。特定の実施形態において、本発明の組成物は無菌液体として単回用量バイアルに製剤化されている。場合によって、そのような容器(複数可)が関係し得るのは、医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定される形式の通知であり、その通知は、ヒト投与のための、製造、使用または販売の当局による承認を反映する。
【0101】
一実施形態において、本発明の組成物が充填された容器はプレフィルドシリンジである。当業者に知られている任意のプレフィルドシリンジは、本発明の組成物と組み合わせて使用されてもよい。使用されてもよいプレフィルドシリンジは、例えば、PCT公開WO05032627、同WO08094984、同WO9945985、同WO03077976、米国特許US6792743、同US5607400、同US5893842、同US7081107、同US7041087、同US5989227、同US6807797、同US6142976、同US5899889、US特許出願公開US20070161961A1、同US20050075611A1、同US20070092487A1、同US20040267194A1、同US20060129108A1に記載されているがこれらに限定されない。プレフィルドシリンジは様々な材料で作製されていてもよい。一実施形態において、プレフィルドシリンジはガラス注射器である。別の実施形態において、プレフィルドシリンジはプラスチック注射器である。当業者は、注射器の製造に使用される材料の性質および/または品質が、注射器に保存されるHA組成物の安定性に影響し得ることを理解している。一実施形態において、プレフィルドシリンジはシリコーン系潤滑剤を含む。一実施形態において、プレフィルドシリンジはシリコーン系を含む(comprises baked on silicone)。別の実施形態において、プレフィルドシリンジはシリコーン系潤滑剤を含まない。当業者は、注射器バレル、注射器先端の蓋、プランジャーまたはストッパーから製剤へ浸出する少量の混入元素もまた組成物の安定性に影響し得ることを理解している。例えば、製造プロセス中に導入されるタングステンが製剤の安定性に悪影響し得ることは理解される。一実施形態において、プレフィルドシリンジは500ppbを超える水準でタングステンを含んでもよい。別の実施形態において、プレフィルドシリンジは、低タングステンの注射器である。別の実施形態において、プレフィルドシリンジは、約500ppb〜約10ppbの間、約400ppb〜約10ppbの間、約300ppb〜約10ppbの間、約200ppb〜約10ppbの間、約100ppb〜約10ppbの間、約50ppb〜約10ppbの間、約25ppb〜約10ppbの間の水準でタングステンを含んでもよい。
【0102】
本発明はまた、最終包装され、ラベル付けされた医薬製品を包含する。この製造品は、ガラスバイアル、プレフィルドシリンジなどの好適な容器(vessel)もしくは容器(container)または密封した他の容器中に好適な単位剤形を含む。一実施形態において、単位剤形は、非経口投与、例えば膝または軸および付属性関節への注射に適切な無菌で微粒子を含まないHA組成物として提供される。
【0103】
どの医薬製品とも同様に、包装材料および容器は保存および輸送中に製品の安定性を保護するように設計される。さらに、本発明の製品は、問題の疾患または障害を適切に予防または処置する方法、ならびに医薬品を投与する方法および頻度について、医師、専門技術者もしくは患者に助言する使用のための指示または他の情報材料を含む。言いかえれば、本製造品は、実際の用量、モニター手順および他のモニター情報を含むがこれらに限定されない投薬レジメンを示すか示唆する指示手段を含む。
【0104】
VI. 本発明のヒアルロナン組成物を使用する処置の方法
【0105】
本発明は、また関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状を処置、軽減または予防する方法を提供する。本方法は、関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状が処置、軽減または予防されるように治療有効量の本発明の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。他の実施形態において、本発明は、また、骨関節炎が処置または予防されるように治療有効量の本発明の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む、骨関節炎を処置または予防する方法を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、また関節機能を改善する方法を提供する。
【0106】
処置または予防の効果は、疾患状態または病態、例えば骨関節炎の疼痛などの関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状の1つまたは複数のパラメータにおける統計的に有意な改善がある場合には明白である。また、処置または予防の効果は、別の方法では予想される、症状を悪化または進行させる失敗によっても明白である。例として、疾患の計測可能なパラメータの少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%またはそれを超える好都合な変化を、効果的な処置の指標とすることができる。用語「予防する」または「予防」は、本明細書において使用される場合、例えば、関節機能不全、例えば骨関節炎の疼痛と関係した少なく1つの症状の再発の予防を、以前にその少なくとも1つの症状を経験した被験体において含む。
【0107】
幾つかの実施形態において、被験体は、ヒト、哺乳動物、例えばネコ、イヌ、家畜(ウシ、ヒツジ、ウマ、ロバなど)またはげっ歯類である。特定の実施形態において、被験体はヒトである。別の特定の実施形態において、被験体は競走馬などのウマまたはイヌである。
【0108】
幾つかの実施形態において、「関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状」は、例えば、病態によって引き起こされてもよい。そのような病態の非限定的な例は、骨関節炎、関節リウマチ、線維筋痛症、関節の感染症または炎症を含む。関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状は、また関節鏡検査、関節形成などの医学的処置、傷害または長期固定化によって引き起こされ得る。幾つかの実施形態において、関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状は、関節の疼痛または可動性低下である。
【0109】
本明細書において使用される場合、用語「少なくとも1つの症状の軽減」は、疼痛または可動性低下などの関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状の縮小、寛解または排除を含む。この用語はまた、本発明のHA組成物を投与した後の無傷または炎症を起こした関節において、運動誘起神経インパルスの合計数の減少、または運動当たりのインパルスの平均数の減少を含む。この用語はまた、本発明のHA組成物の投与で、神経細胞における疼痛伝達のプロセスに関与する、TRPV1などのイオンチャネルの活性化の程度を減少させることを含む。そのようなチャネルの活性化は、本発明のHA組成物の投与で、例えば、侵害受容インパルス後の神経細胞中の細胞内Ca
2+の変化を測定することによって、または神経細胞における細胞全体の電流を測定することによって測定することができる。さらに、用語「少なくとも1つの症状の軽減」はまた、本発明のHA組成物の投与で炎症を起こした関節における神経細胞の侵害受容の発火の縮小を含む。幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は、他のHA組成物、例えばSynvisc(登録商標)などの現在市販の他のHA組成物より、関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状の軽減に効果的である。幾つかの実施形態において、本発明のHA組成物は、関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状を約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約96%、97%、98%または99%、軽減することができる。
【0110】
幾つかの実施形態において、関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状を軽減する方法は、治療有効量の本発明の組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。用語「治療有効量」は、本明細書において使用される場合、関節機能不全と関係した少なくとも1つの症状を処置、予防または軽減するのに十分である、または、骨関節炎を処置または予防するのに十分である量の本発明のHA組成物を、それを必要とする被験体に投与したときに、含むように意図される。当業者、例えば医師は、治療上有効である量のHA組成物を容易に確認することができる。一般に、組成物の治療有効量は、約0.1〜約500mg、例えば、約0.1mg、約1mg、約5mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mgまたは約500mgである。
【0111】
幾つかの実施形態において、治療有効量の本発明のHA組成物は、膝関節の内部の、または他の軸もしくは付属性関節中のHAの有効濃度を達成するのに十分である。したがって、有効量のHAは、3%を超える、例えば4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、10%または10%を超える、関節内のHA濃度を達成するのに十分である。
【0112】
今記載された方法の実行の際に、本発明の組成物は、当業者によって適切と決定される任意の投与経路によって投与されてよい。一実施形態において、本発明の組成物は非経口投与によって投与される。特定の実施形態において、本発明のHA組成物は注射によって、例えば関節内注射によって投与されてもよい。幾つかの実施形態において、処置レジメンは単一の関節内注射を含んでもよい。他の実施形態において、処置レジメンは複数の関節内注射、例えば2、3、4、5、6または10を超える注射を含んでもよい。当業者は、各被験体のための本発明のHA組成物に好適な処置レジメンおよびタイミングを決定することができる。
【0113】
本明細書において提供される方法の幾つかの実施形態において、本組成物は、単回の関節内注射として、または複数、例えば2、3、4、5、6回の注射で投与される。一般に、4%の濃度のヒアルロナン組成物2〜6mLが投与される。しかし、投与される組成物の体積がより大きな体積および/またはより高濃度であってもよいことは理解されるべきである。したがって、幾つかの実施形態において、投与されるヒアルロナンの組成物の体積は、少なくとも0.1mL、少なくとも0.5mL、少なくとも1mL、少なくとも2mL、少なくとも3mL、少なくとも4mL、少なくとも5mL、少なくとも6mL、少なくとも7mL、少なくとも8mL、少なくとも9mL、少なくとも10mL、少なくとも11mL、少なくとも12mL、少なくとも13mL、少なくとも14mL、少なくとも15mL、少なくとも16mL、少なくとも17mL、少なくとも18mL、少なくとも19mL、少なくとも20mL、少なくとも30mLまたはそれより多くである。幾つかの実施形態において、投与されるヒアルロナンの組成物は、1〜30mLの間、2〜20mLの間、2〜10mLの間、2〜8mlの間、3〜6mLの間、または4〜5mlの間である。
【0114】
幾つかの実施形態において、被験体に投与される本発明のHA組成物の体積は、被験体の関節、例えば膝、肘、股、他の付属性または軸の関節における空洞を満たすのに十分である。また、HA組成物の体積は、被験体の関節中の滑膜を被覆するのに十分である。ある実施形態において、被験体に投与される本発明のHA組成物の体積は、関節内部の流体によるHA組成物の希釈を防止するのに十分である。例えば、本発明のHA組成物の体積は、被験体の関節中で3%またはそれを超える、例えば4%のHA濃度を維持するのに十分である。
【0115】
ある実施形態において、本発明のHA組成物の、それを必要とする被験体に投与される体積は、関節機能の改善に十分であり、例えば、関節痛の軽減に十分であるが、それでもなお、十分に小さく、関節内部での正の大気圧の増大を防止する。
【0116】
一態様において、本発明は、関節機能(例えば膝、肘、股、肩関節または他の軸および付属性関節)を改善する方法を提供する。本明細書において使用される場合、関節機能の改善とは、機械的機能の改善(例えば歩行、ランニングおよび手の使用などによる関節を使用する能力など)、および関節機能と関係した望ましくない副作用(例えば疼痛)を軽減する能力の両方を指す。一態様において、本開示は、関節機能と関係した疼痛を軽減する方法を提供する。しかし、関節機能の改善が、機械的機能の改善および疼痛の軽減に限定されないことは認識されるべきである。炎症の軽減または腫脹の軽減などの関節機能のいかなる改善も本方法に包含される。
【0117】
一態様において、本発明は、骨関節炎を処置する方法を提供する。骨関節炎(OA)は、関節軟骨および肋軟骨下骨を含む関節の劣化を伴う機械的異常の群を特徴とする変形性関節疾患である。骨関節炎と関係した症状は関節痛、柔軟性、剛性、ロッキングを含む。骨関節炎は、身体のどの関節にも影響し得る。最も一般に影響を受ける関節は、手、足、背骨、股および膝である。本明細書において使用される場合、骨関節炎の処置とは、影響を受けた関節の機械的機能の改善(例えば歩行、ランニングおよび手の使用などによる関節を使用する能力など)、および影響を受けた関節の疼痛を軽減する能力の両方を指す。
【0118】
一態様において、本発明は、機械的関節機能を改善する方法を提供する。一態様において、本開示は、骨関節炎の影響を受けた関節の機能性を改善する方法を提供する。一態様において、骨関節炎の影響を受けた関節機能および関節の機能性を改善する方法は、治療有効量の本発明の組成物、例えば高弾性を特徴とするヒアルロナンを含む組成物を関節への注射によって導入することを含む。関節機能の改善および機能性の改善は、処置前の機能性に対してまたは処置を受けていない被験体と比較して評価することができる。幾つかの実施形態において、機能性の改善は、本明細書において提供される組成物で処置される前の被験体が経験する機能性のベースラインを参照することによって測定される。例えば、一実施形態において、被験体は、日常生活におけるKOOS(膝および骨関節炎アウトカムスコア)機能に基づいた機能性の改善を経験することができる(参照:例えばRoosら、J.Orthop.Sports.Phys.Ther.,(1998)28:22−96)。本明細書において提供される方法の幾つかの実施形態において、被験体は、処置を受ける前の日常生活におけるKOOS機能に基づいたベースラインから少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ポイントの変化を経験することができる。本明細書において提供される方法の幾つかの実施形態において、被験体は、処置を受けない被験体と比較して、日常生活におけるKOOS機能に基づいたベースラインから少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ポイントの変化を経験することができる。
【0119】
幾つかの実施形態において、被験体は、WOMAC(Western Ontario and MacMaster Universities Osteoarthritis Index)機能サブスケールによって測定される機能の改善を経験することができる(参照:例えばBellamyら、Ann.Rheum.Dis.,(2005),64:881−885)。本明細書において提供される方法の幾つかの実施形態において、被験体は、処置を受ける前のWOMAC機能サブスケールに基づいたベースラインから少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の機能の改善を経験することができる。本明細書において提供される方法の幾つかの実施形態において、被験体は、処置を受けない被験体と比較してWOMAC機能サブスケールに基づいたベースラインから少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の機能の改善を経験することができる。
【0120】
幾つかの実施形態において、関節機能性の改善は、5ポイントのリッカート尺度を有するアンケートを使用して評価されてもよい。
【0121】
一態様において、本発明は、関節機能と関係した疼痛を軽減する方法を提供する。別の態様において、本発明は、骨関節炎と関係した疼痛を軽減する方法を提供する。幾つかの実施形態において、疼痛の軽減は、本明細書において提供される組成物の1つで処置される前に被験体が経験する疼痛のベースラインへの参照によって測定される。例えば、幾つかの実施形態において、患者は、要因の公知範囲に基づいた疼痛に対する被験体の経験を定量する、一般に公知のKOOS(膝および骨関節炎アウトカムスコア)疼痛サブスケールスコアに基づいた疼痛の軽減を経験する(参照:例えばRoosら、J.Orthop.Sports.Phys.Ther.,(1998)28:22−96)。例えば、幾つかの実施形態において、被験体は、処置前のKOOS疼痛サブスケールに基づいたベースラインから少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ポイントの変化を経験することができる。幾つかの実施形態において、被験体は、処置を受けない被験体と比較してKOOS疼痛サブスケールに基づいたベースラインから少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45または50ポイントの変化を経験することができる。
【0122】
幾つかの実施形態において、被験体は、WOMAC(Western Ontario and MacMaster Universities Osteoarthritis Index)疼痛サブスケールによって測定される疼痛の軽減を経験することができる(参照:例えばBellamyら、Ann.Rheum.Dis.,(2005),64:881−885)。例えば、幾つかの実施形態において、被験体は、処置前のWOMAC疼痛サブスケールに基づいたベースラインから少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の疼痛の軽減を経験することができる。幾つかの実施形態において、被験体は、処置を受けない被験体と比較してWOMAC疼痛サブスケールに基づいたベースラインから少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の疼痛の軽減を経験することができる。
【0123】
幾つかの実施形態において、被験体における疼痛の軽減は、5ポイントリッカート尺度を用いるアンケートを使用して評価されてもよい。
【0124】
様々な処置方式は本明細書において開示される方法によって包含される。例えば、被験体は、本明細書において開示されるヒアルロナン組成物の第1の用量、続いて追加の用量を受けてもよい。幾つかの実施形態において、第1の用量、続いて特定の間隔で第2の用量が投与される。幾つかの実施形態において、第2の用量は、第1の用量の約30日、約60日、約90日、約120日、約150日、約180日、約210日、約240日、約270日、約300日、約330日または約360日後に投与される。用量方式が、被験体が経験する機能性の改善、および/または疼痛の軽減に基づいて調節することができることは認識されるべきである。幾つかの実施形態において、被験体は、毎月、2か月毎、3か月毎、4か月毎、5か月毎、6か月毎、7か月毎、8か月毎、9か月毎、10か月毎、11か月毎、または12か月毎に用量を受ける。幾つかの実施形態において、用量は単回または複数回の関節内注射(複数可)として投与される。
【0125】
一態様において、本明細書において開示される組成物は、病的な関節に直接投与される。例えば、本組成物は、膝関節、股関節、指もしくは親指関節、足指関節、足首関節、橈骨手根関節、肩関節、肘関節または背骨の関節に直接投与することができる。幾つかの実施形態において、本組成物は膝関節に投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は肩関節に投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は股関節に投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は脚または腕の関節に投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は、膝、肩もしくは股関節以外の脚もしくは腕の関節、または軸もしくは付属性関節に投与される。本明細書において提供される方法のいずれかの幾つかの実施形態において、関節は軸骨格の関節である。本明細書において提供される方法のいずれかの幾つかの実施形態において、関節は側頭下顎関節または頭蓋関節である。
【0126】
一態様において、本組成物は、治療有効量の組成物の関節への注射によって導入することにより投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は関節内注射によって投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は注射器および針による注射によって投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は、関節の部位で局所的に投与される。幾つかの実施形態において、本組成物は関節周囲に投与される。
【0127】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、決してさらに制限すると解釈されるべきでない。本出願の全体にわたって引用された参考文献すべての全体内容(参考文献、刊行された特許および公開された特許出願および同時係争中の特許出願を含む)は、これによって明示的に参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0128】
ほかに与えられない限り、本明細書に記載される組成物において使用されるヒアルロナンは、動物、ヒトまたはバクテリアの供給源から得られる。ほかに与えられない限り、本明細書において使用される組成物は生理学的緩衝液中にある。
【0129】
実施例1:本発明のHA組成物の弾性特性
【0130】
この実験の目的は、本発明のHA組成物の、市販ヒアルロナン(HA)製品の、弾性特性を調査することであった。その調製において使用されるHAは、細菌細胞壁供給源から得られ、100万〜200万の平均分子量を有していた。組成物は、生理的食塩水(8.47g/LのNaCl)または5.5〜7.5のpHを有するリン酸緩衝液(8.47g/LのNaCl、0.047g/LのNaH
2PO
4・H
2O、0.213g/LのNa
2PO
4)中で調製した。試料を調製後加熱殺菌した場合、使用したオートクレーブサイクルは121℃15分間または131℃2分間のいずれかであり、そのサイクルに続いて直ちに材料を瞬間冷却した。
【0131】
HA試料の弾性特性の測定は、Reologica Instruments AB,Inc.からのStresstech High Resolution Research RheometerでRheoExplorerソフトウェア5.0.40.9版を使用して行った。周波数掃引発振試験を行い、弾性率(G’)を決定した。目的の周波数は、0.1〜10ヘルツ(Hzまたはサイクル/sec)の範囲であり、これは、起立、歩行、ランニングおよび跳躍中のヒト膝関節の運動または応力の程度に対応する。
【0132】
以下の表1は、粘性補充のために選択したHA市販品のHA濃度および平均分子量を示す。
【0133】
【表1】
【0134】
粘性補充のために選択した市販HA製品の弾性特性は、0.1〜10ヘルツ(Hzまたはサイクル/sec)の範囲の周波数にわたって弾性率(G’)を測定することにより評価した。関節は、0.1〜7Hzの範囲の周波数で動作し、その周波数は、関節表面が起立、歩行、ランニングおよび跳躍する際に経験する力を決定する。この周波数範囲のHAの弾性挙動は、膝関節の両関節表面への機械力の伝達を決定する。以下の表2は、5種のHA市販品の様々な周波数でのG’(パスカル)の測定値を示し、
図1パネルAは同じデータをグラフ方式で示す。
【0135】
【表2】
【0136】
以下の表3は、幾つかの発明の組成物において様々な周波数でのG’(パスカル)の測定値を示し、
図1パネルBは、同じデータをグラフ方式で示す。
【0137】
【表3】
【0138】
以下の表4は、選択したHA市販品と選択した本発明のHA組成物のG’値の比較を示す。
【0139】
【表4】
【0140】
データからわかるように、本発明の組成物は、試験したHA市販品のいずれよりもはるかに高いG’値を特徴とする。HA組成物のG’値は、コイル状分子のショックアブソーバーとして働き弾性固体のように振る舞うHA分子の能力を反映する。
【0141】
実施例2:本発明のHA組成物のインビボ鎮痛効果
【0142】
オスの成体ウィスターラットの伏在神経からの細い神経フィラメントを切開し、銀ワイヤ電極に置き、機械刺激によって誘起された痛覚神経線維の神経インパルスを評価した。関節を、無害の運動(関節の作業範囲内で)および有害の運動(関節の作業範囲を超えて)を再現するために回転させた。無害の運動、続いて有害の運動を含んだ回転、すなわち運動サイクルを実験中5分毎に繰り返した。神経活性を、個々の運動サイクルのそれぞれの無害な成分中、および有害な成分中の神経インパルスの数を別々に数えることにより分析した。各成分(非有害および有害の)によって誘起される神経インパルスの数を合計して、各時点での運動サイクルのインパルスの合計数を得た。
【0143】
異なった平均分子量(20万〜600万)および増加する濃度(1%〜6%)のHAを含有する組成物の、無傷および炎症を起こした関節の関節痛覚受容器への鎮痛効果を試験するために実験を行った。一群の実験において、カオリン−カラギーナンを関節内に関節注射して関節炎症を誘発させた。1時間後、異なった濃度および平均分子量のHA溶液または食塩水対照を関節内に注射し、鎮痛効果の時間経過を決定した。鎮痛効果は、試験物質の関節内注射に続く8時間の間、痛みのある関節神経線維(pain joint nerve fiber)のインパルスを測定することにより評価した。
【0144】
図2はその結果を要約する。パネルAに、5分毎に反復する完全な運動サイクルによって誘起される運動当たりのインパルスの平均数を示す。右の挿入図に示すように、インパルスは、異なったHA濃度および平均分子量の組成物で24時間処置した炎症を起こした関節の正中関節神経(median articular nerve)の単線維で測定した。130万〜160万またはそれを超える平均MWおよび4%またはそれを超える濃度のHAを含有する溶液が、逐次的運動サイクルによって誘起される神経インパルスの数を減少させるのに最も効果的であることは明らかである。パネルBは、4%HA組成物についての平均分子量の関数として運動当たりのインパルスの平均数を示す。結果は、100万またはそれを超える平均分子量を有する組成物のより高い効能を実証する。パネルCは、HA濃度の関数として運動当たりのインパルスの平均数を示す。結果は、4%HA組成物を用いて得られる最大の効果を証拠づける。Synvisc(登録商標)の注射の効果は黒三角によって印する。パネルDは、異なった濃度および平均分子量のHA組成物を用いる処置の24時間後の炎症を起こした膝関節における運動誘起活性への平均効果の要約を示す。HA2は、Croma−Pharma GmbHによって提供される、130万の平均分子量のHAに対応する。HA1は、Matrix Biology Instituteによって提供されるHA組成物に対応する。
【0145】
図2に提示した結果は、100万の平均分子量を有する4%HA組成物が、炎症を起こした関節の神経インパルスの平均数を減少させるのに非常に効果的であり、したがって炎症を起こした関節における疼痛の軽減に効果的であることを示す。
【0146】
したがって、炎症を起こした関節の運動によって誘起される痛覚神経インパルス活性は高く、記録期間を通して安定なままである。130万またはそれを超える平均MWを有する4%〜6%HAの注射は、運動誘起インパルス活性に明白な阻害効果を有していた。同様の減少はMW160万の6%HAを用いても得られた。一定MWを維持しつつHA濃度を減少させるか、または、より低いMWの4%HA溶液を用いると、阻害効果が減少した。およそ600万のMWを有する0.8%HAを含む市販HA溶液Synvisc(登録商標)を用いて得られた結果も、比較のために表示した。130万を超える平均MWのHAが、運動誘起関節侵害受容器活性に強力な阻害効果を発揮すると確かに結論することができる。
【0147】
図3および4は、4%HA組成物が、運動サイクルの無害成分によっておよび有害成分によって誘起される両方の神経インパルス活性に影響することを示す。
図3は、食塩水、4%HAまたはSynvisc(登録商標)を用いて24時間前に注射した、炎症を起こした関節の運動の非有害部分の間に数えた神経インパルスの数を表す。
図4は運動サイクルの有害部分に対応するデータを示す。これらの結果は、運動誘起疼痛活性に対する関節痛覚神経線維(joint pain nerve fiber)の全体の応答性を減少させる4%HA組成物の効能を確証する。
【0148】
図5は、4%HA組成物の関節内注射の神経インパルス活性への長時間効果を示す。パネルAは、炎症の発生、続いて食塩水または4%HA組成物の関節内注射をしてから、1日、1週間、2週間、3週間後に記録した運動当たりインパルスの平均数を示す。パネルBは、パネルAと同時点で、食塩水および4%HA注射後測定したインパルス/運動の平均数のパーセント差を示す。
【0149】
運動誘起活性に対するHA 4%の阻害効果も無傷の関節で観察された。
図6パネルAに示すように、無傷の動物の運動誘起インパルスの合計数は、上の曲線(白丸)のデータによって示すようにサイクル当たりおよそ210インパルスであった。4%HAの注射24時間後に無傷の動物に同じ記録を取った場合は、同じ運動によって誘起されるインパルスの平均数がサイクル当たり50インパルス未満と、非常に低かった。これは
図6の下の曲線(黒丸)に示し、パネルBは7つの実験の平均データを示す。これは、また、関節侵害受容器へのHAの効果が非感作線維(non-sensitized fiber)中に存在することを実証する。
【0150】
HAの阻害効果が進行し始める時点を決定するために、2匹の無傷のラットの関節運動によって誘起される活性を記録した。10分間隔で6つの運動を実施した後、4%HA組成物(Elastovisc(商標))を関節内に注射した。運動は、次の8時間の間に同じ時間間隔で繰り返した。
図6パネルCに示すように、2つの個々の線維において、注射後最初の30〜60分の間に運動誘起活性は徐々に増大し、次いで、低下し始めた。対照値は注射のおよそ3時間で回復し、次の2〜3時間の間に徐々に低下し、その時点で実験を中断した。
【0151】
図7は、運動誘起活性へのHAの阻害効果が、無傷の関節に関節内注射したHAの合計体積に依存することを示す。注射体積が25μlである場合、運動誘起インパルス活性を表す曲線(黒四角)は、関節内の食塩水を用いて得られたもの(白丸)と類似している。50μl(黒三角)および75μl(白三角)を用いた場合、痛覚線維の運動誘起活性は、対照における活性より有意に低かった。
【0152】
実施例3:痛覚伝達に関与するイオンチャネルへの本発明のHA組成物のインビトロ効果
【0153】
細胞外HAのレオロジー特性は、関節の痛覚神経終末への力学的エネルギーの伝達のフィルタリングにおけるHAの有効性を決定し、局所的な炎症プロセスまたは変性プロセスによって影響される。さらに、傷害および炎症中に、種々様々の局所的に放出された化学伝達物質は、感作を引き起こす周囲の侵害受容器終末に働く。しかし、HAの疼痛を減ずる効果はまた、周囲の侵害受容器の傷害によって活性化された伝達および興奮のメカニズムの修飾によるという可能性が存在する。この修飾はHA分子の濃度およびサイズに関係する。
【0154】
一過性受容器電位カチオンチャネルサブファミリーVメンバー1(TRPV1)は、有害刺激の検出および侵害受容神経終末への炎症伝達物質の感作効果に主要な役割を果たす非選択的なカチオンチャネルである。TRPV1は、ポリモーダル侵害受容器末端における、有害な内因性および外因性の化学刺激ならびに温度刺激の積分器(integrator)として振る舞う。関節において、TRPV1は、長期的な全身性の痛みを伴う関節炎中に放出される媒介物質によって引き起こされた炎症性作用に結び付けられている。
【0155】
この実験の目的は、痛覚伝達に関与する主なイオンチャネルであるTRPV1の活性化へのHAの効果を調査することであった。以下の2種の細胞株を実験に使用した:遺伝子改変してTRPV1の発現を増やした細胞株SH−SY5Y VR1、およびTRPV1チャネル発現を誘導し、TRPV1チャネルを含む細胞を視覚的に特定するためにTRPV1+EYFP融合タンパク質をトランスフェクトしたHEK293細胞。熱およびカプサイシンは、選択的にTRPV1チャネルを開き、細胞へのカルシウム([Ca
2+])の進入を可能にし、これで光学的画像形成技法を使用して測定することができることは十分に確立されている。したがって、細胞の興奮は、登録し定量的に測定した特定の細胞蛍光の一過性の増加に対応する。天然の有害刺激に応答するTRPV1チャネルの開口によって引き起こされる細胞内カルシウム濃度の変化を個々の細胞で測定した。蛍光性カルシウムプローブ(Fura−2AM)を細胞にロードした後、細胞を短い熱パルスで4回刺激し、カルシウムイオンの変化を測定した。タキフィラキシー(すなわち反復刺激に対する応答の減少)を除く熱での反復刺激に対する信頼できる応答を定義するために、反復刺激に対するTRPV1細胞の応答特性を定義した。最高47〜48℃の細胞表面の高速熱パルスを有害刺激として使用し、30秒間加え、10分間隔で反復した(
図8パネルA1に示す例を参照)。刺激の効果を定量するために、制御した条件下に各細胞における初期の熱パルスに応答して現われる細胞内カルシウム([Ca
2+]
i)の変化を測定し、応答を多数の細胞で平均した。一定の時間間隔での反復刺激のプロトコルをその後確立した。第4のパルスが最も安定と考えられ、その振幅のパーセント減少を、第1の刺激(100%をベースラインの読み取りとして採用した)の振幅と比較して、タキフィラキシーの効果によると考えた。よって、対照溶液を用いて潅流したときの第4のパルスに対する細胞の応答を、第1の応答の大きさにおけるパーセント減少に関して表した。
【0156】
TRPV1チャネル発現を誘導するTRPV1+EYFP融合タンパク質をトランスフェクトした蛍光性の培養HEK293細胞によって、および解離した後根神経節(DRG)主要感覚神経細胞によって発現したTRPV1チャネルへのHAの効果を、HAでの灌流の前後に反復有害刺激(熱またはTRPV1アゴニストであるカプサイシンの適用)によって誘起される細胞内カルシウム[Ca
2+]
iの変化を測定することによって調査した。560万の平均MWのHA組成物をこれらの研究に使用し、調製して400μg/mlのHAを含有する最終溶液を得た。
【0157】
実験の結果を
図8に示す。パネルA1は、浴溶液を48℃に加熱し、10分間隔で反復することによりHEK−TRPV1−EYFP(+)細胞中で誘起された細胞内カルシウムの上昇を示す。細胞質ゾルのCa
2+の増加は、340および380nmでの発光蛍光強度の比(F340/380:蛍光の任意単位)として表す。パネルA2はA1と同じ実験を示すが、しかし、400μg/ml HAを用いて、灌流は第1の熱刺激の最後に始めた。パネルA3は、対照食塩溶液(CS、黒棒)中、およびHAを用いる灌流中(灰色棒)における逐次的熱パルス(横軸に示す)によって誘起される応答間の平均振幅変化の比を示す。阻害がHA灌流の始まり20分後に現われることは注目すべきである。
【0158】
パネルB1−B3は、A1−A3と同じプロトコルを利用する実験の結果を示すが、DRG成体神経細胞において実施した。HAの阻害効果は処置30分後に明白になる(第4対第1の刺激を参照)。
【0159】
パネルC1−C3は、対照食塩溶液(C1)中、および30分早く開始したHAへの曝露下(C2)での、100nMカプサイシンおよび10μMカルバコール(Cch)に応答するHEK−TRPV1−EYFP(+)細胞中の細胞内カルシウム変化を示す。パネルC3は、対照食塩溶液を用いる灌流下(黒)、およびHAの存在下(灰色)でのカプサイシン(黒棒)およびカルバコール(縞付き棒)に対する応答の平均振幅を示す。
【0160】
パネルD1−D2は、食塩水(D1)およびHA(D2)を用いる灌流中の100nMカプサイシンおよび30mM KClに対するDRG成体感覚神経細胞の細胞内カルシウム応答を示す。パネルD3は、対照食塩溶液(黒)中、およびHAの存在下(灰色)でのカプサイシン(黒棒)またはKCl(縞付き棒)に対する細胞内カルシウム応答の平均振幅を示す。
【0161】
図8の結果は、HAへの30分の曝露後、食塩水を用いて潅流した対照細胞と比較して、熱パルスに対する培養HEK−TRPV1細胞の応答は77%減少したことを明らかに示す。同一のプロトコルを利用する実験において、熱パルスに対する培養DRG神経細胞の応答は、対照と比較して24%減少した。また、有意により少ない数のHEK−TRPV1細胞(63%)が、HAの存在下100nMカプサイシンでの刺激後、細胞内カルシウムの増加とともに応答し、応答の振幅が、対照条件と比較して33%低かった。同様に、食塩水を用いて潅流したDRG神経細胞の68%は、カプサイシンに対して応答したが、HAを用いて潅流したDRG神経細胞の37%のみが応答し、応答の振幅は対照の44%に減少した。したがって、神経細胞の興奮性の減少によって、HAは効果的に疼痛を軽減することができる。
【0162】
別の細胞株、SH−SY5Y VR1を、TRPV1の熱に対する応答へのHAの濃度の効果を研究する実験に使用した。表5は、SH−SY5Y VR1細胞における熱に対する細胞内カルシウム応答への低および高MW HAの効果を示す。食塩水(対照)、ならびに200、400および800μg/mlの濃度の低MW HA(平均MW470000Da)または高MW HA(5.2×10
6Da)を用いる灌流下に第4の熱パルスに対する応答の値を第1のパルスに対する応答の%として表す(n=各濃度の種々の実験において測定した細胞の合計数;t−スチューデント統計量
*P<0.05、
**0.01<P<0.001、
***P<0.001)。表5に示すように、低い(600000)または高い(5.6M)MWのより高濃度HA溶液をSH−SY5Y VR1細胞に適用したとき、熱に対する応答は有意に減じた。
【0163】
【表5】
【0164】
実施例4:本発明のHA組成物による神経細胞の興奮性のインビトロ阻害
【0165】
HEK−TRPV1細胞のカプサイシン誘起刺激のHA媒介性阻害は、またHEK−293−TRPV1−EGFP(+)細胞における細胞全体の電流を記録することによって調査した。
図9パネルAに示すのは、食塩溶液(上の線、n=19の平均)中および400μg/ml HA溶液(下の線、n=18の平均)中の100nMカプサイシンで活性化したTRPV1のI−Vの関係である。電圧の傾斜は、0.2Hzで−120mV〜+10mVであり、0.8mV/msの勾配を持ち、mV/sは+80mVの電圧で測定した。
図9パネルBは、パネルAに示すI−V曲線から得られた+80mVでの平均電流を示す。
図9パネルCは、線形コンダクタンスにボルツマン活性化項を乗じて組み合わせる関数、I=g×(V−E
rev)/(1+exp((V
1/2−V/S))にあてはめた傾斜から測定した種々のパラメータの値を示す。
図9パネルDは、今回、対照条件(上の線)における、および30分間予めインキュベートし連続的にHAを用いて潅流した細胞(下の線)における1μMカプサイシンに応答する−60mVでの細胞全体の電流を示す。
図9パネルEは、食塩水中およびHAの存在下でのカプサイシンによって誘起される−60mVでのピーク電流の平均値を示す
【0166】
図9に提示した結果は、カプサイシンがHEK−TRPV1細胞、およびTRPV1によって媒介されるDRG神経細胞において膜電流を誘起することを実証する。カプサイシンに応答してTRPV1チャネルを通して流動しパッチクランプ技法を用いて記録した電流の最大振幅は、HAへの曝露後72%減少した。この阻害効果は、細胞の−60mVという膜電位の生理学的な値でなお存在した。コンダクタンス(g)は47%減少したが、TRPV1の電位ゲーティング機構(voltage gating mechanism)および電位依存性がHAによって影響を受けなかったこともまた確認された。
【0167】
TRPV1単一チャネル活性のHAによる調整も調査した。HEK−TRPV1細胞へのHAによって引き起こされた巨視的電流の観察された減少を、HAへの30〜60分の曝露前後に単一チャネル電流を測定することによって調査した。ピペット中に存在する0.25μMカプサイシンによって誘起される単一チャネル活性は、HEK293−TRPV1−EFYP(+)細胞の細胞付着パッチに記録した。記録は+60mVで実施した。
【0168】
図10パネルAは、食塩溶液を用いる灌流下でTRPV1の単一チャネル活性の試料記録を示すが、パネルBは、HA中でインキュベートし、HA溶液を用いる灌流下に記録した細胞からの単一チャネル活性の試料記録を示す。挿入図は、食塩水(黒)の下に、およびHAへの曝露後(灰色)記録したパッチの単一チャネル振幅確率ヒストグラムを表す。
図10パネルCは、対照条件(四角)で、およびHAへの曝露(丸)後得られたI−V曲線を示すが、パネルDは、四角(対照)および丸(HA処置)として表す、個々のパッチから得られた単一チャネル振幅を示す。より大きな記号は、パネルAおよびBに示す線において実施した測定からのデータに対応する。棒は、各条件;t−検定、P=0.73N.S.における単一チャネル振幅の平均値±平均値の標準誤差に対応する。
【0169】
図10パネルEは、種々のパッチの開口状態の確率を示す。より大きな記号は、パネルAおよびBに示す線において実施した測定からのデータを表す。棒は、単一チャネルの開口確率の平均値±平均値の標準誤差を表す;t−スチューデント、**P=0.002。特に、対照条件において非常に稀少であった長い閉鎖状態は、HAを用いる処置後、その頻度が増加した。HA処置条件と対照条件との間で、開口状態の発生率の差を観察することはできなかった。
【0170】
図10に示す結果は、HAの存在下での、カプサイシンに応答するTRPV1チャネル活性が約30%のパッチに存在しないことを実証する。さらに、開口状態の出現確率は、HAの存在下で劇的に減少する。対照条件、およびHAの存在下の単一チャネルのI−V関係および単一チャネルの電流振幅は同様であった。しかし、チャネル開閉時間の分布測定によって証拠づけられるように、HAは、閉じた時間のヒストグラムにおいて長い継続時間の事象の数の増加を引き起こした。したがって、結果は、HAがより長い時間閉じたチャネルを維持し、それにより開口の確率を減少させることを示唆する。結果は、侵害受容神経細胞が、HAの存在下でTRPV1チャネルを開く有害刺激によってそれほど興奮しなくなるということである。
【0171】
TRPV1チャネルを有する侵害受容DRG神経細胞において、カプサイシンによるこれらのチャネルの開口は、入力抵抗、脱分極および活動電位発火の減少を引き起こす。1μMカプサイシンによって誘起される活動電位の発火頻度を、TRPV1を発現する解離したDRG神経細胞においてパッチクランプを用いて測定した。具体的には、DRG神経細胞の電気生理学的記録を細胞付着配置において1μMカプサイシンの存在下で−60mV保持電位で実施した。
図11パネルAは、食塩溶液を用いて潅流した単一DRG神経細胞においてカプサイシンに対する応答の試料記録を示す。応答の平均発火頻度は16スパイク/秒であった。
図11パネルBは、HAで処置しHAの存在下で記録したDRG神経細胞におけるカプサイシン刺激の試料記録を示す。応答の平均頻度は4.6スパイク/秒であった。
図11パネルCは、HAで処置しHA中で記録したDRG神経細胞の試料記録を示し、ここでは、カプサイシンに対する応答は観察されなかったが、しかし、インパルス発射は60mM KClで誘起することができた。挿入図(inset)は、この神経細胞における熱パルスによって生じた細胞内カルシウムの上昇を示す。2つの異なった神経細胞における同じ熱パルスに対する細胞内カルシウム上昇の欠如は、下の線において明白である。
【0172】
図11パネルDは、対照条件下(左の棒、n=8)、およびHAへの曝露後(右の棒、n=9)の、DRG神経細胞の平均発火頻度(左)および個別データ(右)を示す。
【0173】
図11に提示した結果は、HAの存在下で、以前はカプサイシンに応答した10の神経細胞のうちの4つが、他の刺激への無傷の興奮性にもかかわらず、活動電位を発火しなかったことを実証する。対照DRG神経細胞におけるカプサイシンによって誘起される平均発火頻度は、HAと共にインキュベートしたDRG神経細胞において有意に減少した。最後に、炎症媒介物質であるブラジキニンによるDRG神経細胞のTRPV1チャネルの感作は、HAによって有意に減少した。すべて、これらの結果は、DRG神経細胞において、HAは選択的にカプサイシンによって誘起されるインパルス発火を阻害し、チャネルとの直接または間接的相互作用によってTRPV1の機能を調整することを示す。
【0174】
実施例5:本発明のHA組成物による神経インパルス活性の直接阻害
【0175】
実験の別の群において、第1の侵害防御機構の応答の潜伏時間を、野生型(WT)またはTRPV1−/−ノックアウト(KO)マウスで、ホットプレート試験にそれらを供した後、測定した。第1の侵害防御機構応答(なめる、噛む、身を起こす、警戒する、後足を振動するまたは跳躍する)の潜伏時間は、足に作用する有害な熱刺激によって誘起される急性疼痛の行動表現と考えられる。潜伏時間値は、対照動物(ベースライン)間、足に10μlの無菌食塩溶液、400μg/ml HAまたは痛覚神経終末のまわりの細胞外マトリックスを囲む天然のヒアルロン酸を消化する酵素であるヒアルロニダーゼの皮下注射を受けた動物の間で測定し比較した。
【0176】
図12に示すように、52℃の熱に対する侵害防御機構応答の潜伏時間は、7日後にヒアルロニダーゼ(hyluronidase)によって有意に減少したが、有害な熱への感受性の減少を反映してHAは潜伏時間を増加させた。HA注射の最大の鎮痛効果は、注射の48時間後に認められた。動物の追加群において、ヒアルロニダーゼ注射の数日後にHAを注射して、酵素によって破壊された天然のヒアルロン酸を置き換えた。これらの条件において、潜伏時間は正常値を回復した。このデータは、HAがTRPV1を阻害し、それにより、有害刺激に対する侵害受容器終末のTRPV1媒介感受性を減少させることを示唆する。実験を遺伝子改変のTRPV1
−/−マウスで繰り返したとき、野生型動物で認められる処置間のホットプレート試験応答の差は観察されなかった。
【0177】
HAによるTRPV1チャネルの阻害が、関節回転によって活性化される膝関節の痛覚線維のTRPV1チャネルでも生じたことを確証するために(
図13A)、食塩水またはHAの関節内注射の前後に、10μMカプサイシンを、カテーテルによるボーラスとして、麻酔をかけたラットに規則的な30分間隔で膝関節に近い伏在動脈へ動脈内注射した。10μMカプサイシンの接近した動脈内注射によって誘起されるインパルス活性、および膝関節の制御された回転に対する応答を測定した(
図13参照)。
【0178】
カプサイシンのボーラス注射は、調査したフィラメントの一部で神経インパルスの発射を誘発した(
図13パネルB)。第1の注射によって誘起されるインパルスの数(対照応答)を100%にとり、これは、次の注射に対する応答の振幅を表わす役目をした。インパルス発火頻度は、第2または第3の刺激後、常に減少し、全部の注射シリーズの全体にわたって持続し(タキフィラキシー)、関節内に食塩水を注射したときに、平均で180分に対照応答の88±13(n=7)まで減少した(
図13、パネルB、黒四角)。4%HAを注射したとき、発射のパーセント減少は65%の減少を表す31±7(n=6)であった。この阻害効果は、HAの関節内注射270分後、実験の最後でより高く、このとき84%の活性減少が観察された(
図13、パネルB、白四角)。まとめると、これらの知見は、HAが膝関節の痛覚神経線維においてTRPV1チャネルを直接阻害することを確認する。
【0179】
実施例6。様々な針サイズを通るHAの放出のための力の必要条件
【0180】
異なった直径(30−18G)の針を用いて3mLの注射器から4%HA組成物を放出するのに必要とする圧力を測定し、これを
図14に示す。注射器の挿入物(embolus)に垂直に作用させて、2皿天秤(two−plate balance)の一方の皿に力をかけた。反対側の皿に荷重を増やしながら加えた。
図14に示す結果によって実証されるように、本発明のHA組成物は30−18Gの直径を有する針を使用して、被験体に投与することができる。
【0181】
均等論
先に記述した詳細は、当業者が本発明を実施可能にするのに充分であると考えられる。実施例は本発明の一態様の単なる例証として意図され、他の機能的に等価な実施形態は本発明の範囲内であるので、本発明は提供された実施例による範囲に限定されない。本発明の種々の改変は、本明細書中で示され記載されたものに加えて、前述の記載から当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲の範囲内に入る。本発明の利点および対象は、必ずしも本発明の各実施形態によって包含されない。